第一章

    通し番号 1    章内番号 1        識別番号 1_1
本文
道の道(い)うべきは、常の道に非ず、名の名づくべきは、常の名に非ず、
王弼注
道(い)うべきの道、名づくべきの名は、事を指し形を造り、其常に非ざるなり、故に道(い)うべからず、名づくべからざるなり、

    通し番号 2    章内番号 2        識別番号 1_2
本文
名無きは天地の始めなり、名有るは万物の母なり、
王弼注
凡そ有は皆無に始まる、故に未だ形せずして名無きの時は則ち万物の始めと為る、其形有りて名有るの時に及べば、則ち之を長(ま)し之を育て、之を亭(ととの)え、之を毒(あつ)くし、其母と為るなり、言えらく、道は無形無名を以て始まり万物を成し、以て始まり以て成り其所以を知らず、玄は又(さら)に玄なり、

    通し番号 3    章内番号 3        識別番号 1_3
本文
故に常に無は以て其妙を観ることを欲す、
王弼注
妙は、微の極なり、万物は微に始まりて後成る、無に始まりて後生ず、故に常に無は空虛にして以て其物を始めるの妙を観るべきを欲す、

    通し番号 4    章内番号 4        識別番号 1_4
本文
常に有は以て其徼(きょう)を観ることを欲す、
王弼注
徼、帰終なり、凡そ有の利と為るは、必ず無以て用と為し、本づく所に之(ゆ)くを欲すればなり、道に適(かな)いて後に済(な)る、故に常に有は以て其物を終えるの徼(きょう)を観るべきを欲するなり、

    通し番号 5    章内番号 5        識別番号 1_5
本文
此両者は同じきに出て名を異にす、同じきは之を玄と謂う、玄は又(さら)に玄、衆妙の門なり、
王弼注
両は、始と母なり、同じく出るは、同じく玄に出るなり、名を異にするは、施す所同じくすべからざるなり、首(はじめ)に在れば則ち之を始と謂い、終に在れば則ち之を母と謂う、玄は、冥なり、黙然として有ること無きなり、始母の出る所なり、得て名づくるべからず、故に言うべからず、同じく名づけて玄と曰う、之を玄と謂うと言うは、得て之を然りと謂うべからざるに取るなり、之を然りと謂えば則ち以て一の玄を定むべからず、則ち是れ名づくれば則ち之を失うこと遠し、故に曰く、玄は又(さら)に玄なり、衆妙は皆同じき従(よ)り出ず、故に衆妙の門と曰うなり、


   第二章

    通し番号 6    章内番号 1        識別番号 2_1
本文
天下皆美の美為るを知る、斯(ここ)に悪あり(已)、皆善の善為るを知る、斯(ここ)に不善あり、故(もと)より、有無相生ず、難易相成る、長短相較す、高下相傾く、音声相和す、前後相随(したが)う、
王弼注
美は、人心の楽しみ進む所なり、悪は、人心の悪疾(おしつ)する所なり、美悪は、猶喜怒のごときなり、善不善は、猶是非のごときなり、喜怒は根を同じくし、是非は門を同じくす、故に徧挙するを得るべからざるなり、此六は皆自然にして徧挙すべかざるの明数を陳(の)べるなり、

    通し番号 7    章内番号 2        識別番号 2_2
本文
是を以て聖人は無為の事に処(お)る、
王弼注
自ずから然りて已に足る、為せば則ち敗るなり、

    通し番号 8    章内番号 3        識別番号 2_3
本文
不言の教えを行い、万物作(おこ)りて辞せず、生じて有(たも)たず、為して恃(たの)まず、
王弼注
智慧自ら備わる、為せば則ち偽なり、

    通し番号 9    章内番号 4        識別番号 2_4
本文
功成りて居らず、
王弼注
物に因りて用いる、功は彼自(よ)り成る、故に居らざるなり、

    通し番号 10    章内番号 5        識別番号 2_5
本文
夫れ唯(ただ)居らず、是を以て去らず、
王弼注
功をして己に在らしめれば、則ち功は久しくすべからざるなり、


   第三章

    通し番号 11    章内番号 1        識別番号 3_1
本文
賢を尚(たっと)ばざれば、民をして争わざらしむ、得難きの貨を貴ばざれば、民をして盜を為さざらしむ、欲すべきを見(しめ)さざれば、民の心をして乱れざらしむ、
王弼注
賢は、猶能のごときなり、尚は、嘉(か)の名なり、貴は、隆の称なり、唯(ただ)能是れ任ずれば、尚(たっと)ぶこと曷(なん)ぞ為さん、唯用是れ施(もち)いれば、之を貴ぶこと何ぞ為さん、賢を尚(たっと)び名を顕(あら)わせば、栄が其任に過ぎ、為して常に能を校(はか)り相射(い)る、貨を貴び用に過ぐれば、貪なる者競い趣(おもむ)き、穿窬(せんゆ)し篋(はこ)を探(さぐ)り、命を沒(お)えるまで盗む、故に欲すべきを見(しめ)さざれば、則ち心乱れる所無きなり、

    通し番号 12    章内番号 2        識別番号 3_2
本文
是を以て聖人の治は、其心を虚にして、其腹を実(じつ)にす、
王弼注
心は智を懐(いだ)き腹は食を懐(いだ)く、智有るを虚にして知無きを実にするなり、

    通し番号 13    章内番号 3        識別番号 3_3
本文
其志を弱くし、其骨を強くす、
王弼注
骨は知無くして以て幹たり、志は事を生じて以て乱(みだ)る、心虚なれば則ち志弱きなり、

    通し番号 14    章内番号 4        識別番号 3_4
本文
常に民をして無知無欲ならしむ、
王弼注
其真を守るなり、

    通し番号 15    章内番号 5        識別番号 3_5
本文
夫の知者をして敢えて為さざらしむなり、
王弼注
知者は為すを知るを謂うなり、

    通し番号 16    章内番号 6        識別番号 3_6
本文
無為を為せば、則ち治まざる無し、
王弼注



   第四章

    通し番号 17    章内番号 1        識別番号 4_1
本文
道は沖(ちゅう)にして之を用いて或いは盈(み)たず、淵(兮)として万物の宗に似る、其鋭を挫(くじ)き、其紛を解き、其光を和し、其塵を同じくす、湛(たん)として存する或(あ)るに似る、吾誰の子たるかを知らず、帝の先に象(のっと)る、
王弼注
夫れ一家の量を執(と)る者は、家を全くすること能わず、一国の量を執(と)る者、国を成すこと能わず、力を窮めて重きを挙ぐれば、用を為すこと能わず、故に人、万物の治を知ると雖も、治めて二儀の道以てせざれば、則ち贍(た)ること能わざるなり、地は魄(はく)を形づくると雖も、天に法(のっと)らざれば則ち其寧を全くすること能わず、天は精の象(しょう)と雖も、道に法(のっと)らざれば則ち其精を保つこと能わず、沖にして之を用いれば、用いて乃ち窮まること能わず、満つれば以て実に造(いた)る、実来たれば則ち溢(あふ)る、故に沖にして之を用い、又(さら)に盈(み)たざるに復す、其無窮為(た)るは(亦)已に極まる、形大と雖も、其体を累(るい)すること能わず、事殷(さか)んと雖も、其量を充(みた)すこと能わず、万物此を舎(す)てて主を求めれば、主其れ安(いず)くにか在らん、亦淵にして万物の宗に似たるならざるや、鋭挫(くじ)きて損すること無し、紛解けて労せず、光を和して其体を汙(けが)さず、塵を同じくして其真を渝(か)えず、亦湛(たん)として存する或(あ)るに似らざるや、地は其形を守り、徳は其載を過ぎること能わず、天は其象に慊(た)る、徳は其覆を過ぎること能わず、天地能く之に及ぶこと莫(な)し、(亦)帝の先に似らざるや、帝は、天帝なり、


   第五章

    通し番号 18    章内番号 1        識別番号 5_1
本文
天地は仁ならず、万物以て芻狗(すうく)と為す、
王弼注
天地は自然に任ず、為すことなく、造(つく)ること無し、万物自ずから相治理す、故に仁ならざるなり、仁者は必ず造立施化し、恩有り、為有り、造立施化すれば則ち物は其真を失う、恩有り為有れば、則ち物は具(まった)くは存せず、物具(まった)くは存せざれば、則ち以て備載するに足らず、地は獣の為に芻(すう)を生ぜす、而るに獣は芻を食らう、人の為に狗(く)を生ぜす、而るに人は狗を食らう、万物に於て為すこと無くして、万物各(おのおの)其用いる所に適(かな)えば、則ち贍(た)らざるなし、若し慧己に由り樹(た)てれば、未だ任ずるに足らざるなり、

    通し番号 19    章内番号 2        識別番号 5_2
本文
聖人は仁ならず、百姓(ひゃくせい)以て芻狗(すうく)と為す、
王弼注
聖人は天地と其徳を合わす、百姓以て芻狗に比するなり、

    通し番号 20    章内番号 3        識別番号 5_3
本文
天地の間、其猶橐籥(たくやく)のごときか、虚にして屈(つ)きず、動きて愈(ますます)出(い)ず、
王弼注
橐(たく)は、排の橐(たく)なり、籥(やく)は、楽の籥(やく)なり、橐籥の中は、空洞にして無情無為、故に虚にして窮屈することを得ず、動きて竭盡(けつじん)するべからざるなり、天地の中、蕩然(とうぜん)として自然に任ず、故に得て窮まるべからざるは、猶橐籥(たくやく)の若きなり、

    通し番号 21    章内番号 4        識別番号 5_4
本文
多言なれば、数(ことわ)りは窮す、中を守るに如かず、
王弼注
愈(ますます)之を為せば則ち愈(ますます)之を失う、物は其悪を樹(う)える、事は其言に錯(たが)う、不言を濟( な)さずして、理ならざるは、必ず窮す、之数なり、橐籥(たくやく)にして数の中を守れば、則ち窮まり尽きること無し、己を棄て物に任ずれば、則ち理ならざる莫し、若し橐籥(たくやく)声を為すに意有らば、則ち以て吹く者の求めに共するに足らず


   第六章

    通し番号 22    章内番号 1        識別番号 6_1
本文
谷神死せず、是れ玄牝(げんぴん)と謂う、玄牝の門、是れ天地の根と謂う、綿綿として存するが若し、之を用いて勤(つと)めず、
王弼注
谷神は、谷の中央の無の谷なり、形無く、影無く、逆(さか)らうこと無く、違うこと無し、卑(ひく)きに処(お)りて動かず、静を守りて衰えず、谷之を以て成りて其形を見(しめ)さず、此れ至物なり、卑(ひく)きに処(お)りて名を得るべからず、故に天地の根と謂う、綿綿として存するが若し、之を用いて勤(つと)めず、門は、玄牝(ぴん)の由(よ)る所なり、其由(よ)る所に本(もと)づきて、極と体を同じくす、故に之を天地の根と謂うなり、存すると言わんと欲する邪(や)、則ち其形を見ず、亡(な)きと言わんと欲する邪(や)、万物之を以て生ず、故に綿綿として存するが若きなり、物は成らざる無く、用いて労(つと)めざるなり、故に用いて勤(つと)めずと曰うなり、


   第七章

    通し番号 23    章内番号 1        識別番号 7_1
本文
天は長く地は久し、天地が能く長く且(か)つ久しき所以は、其自(みずか)ら生ぜざるを以てなり、
王弼注
自(みずか)ら生ずれば則ち物と争う、自(みずか)ら生じざれば則ち物は帰するなり、

    通し番号 24    章内番号 2        識別番号 7_2
本文
故に能く長生す、是を以て聖人は其身を後にして身先んず、其身を外にして身存す、以て其の私無きに非ざる邪(か)、故に能く其私を成す、
王弼注
私無きは、身に為すこと無きなり、身先んじ身存す、故に曰く、能く其私を成すなり、


   第八章

    通し番号 25    章内番号 1        識別番号 8_1
本文
上善は水の若し、水は善く万物を利して争わず、衆人の悪(にく)む所に処(お)る、
王弼注
人は卑(ひく)きを悪(にく)むなり、

    通し番号 26    章内番号 2        識別番号 8_2
本文
故に道に幾(ちか)し、
王弼注
道は無、水は有、故に幾(ちか)しと曰うなり、

    通し番号 27    章内番号 3        識別番号 8_3
本文
居は地を善しとす、心は淵を善しとす、与えるは仁を善しとす、言は信を善しとす、正は治を善しとす、事は能を善しとす、動は時を善しとす、夫れ唯争わず、故に尤(とが)無し、
王弼注
人皆道を治めるに応ずるを言うなり、


   第九章

    通し番号 28    章内番号 1        識別番号 9_1
本文
持して之を盈(み)たすは、其の已(や)むに如(し)かず、
王弼注
持は、徳を失わざるを謂うなり、既に其徳を失わず、又(さら)に之を盈(み)たせば、勢必ず傾危す、故に其の已(な)きに如かざるは、乃ち更(さら)に徳無く功無き者に如かざるを謂うなり、

    通し番号 29    章内番号 2        識別番号 9_2
本文
揣(と)りて之を鋭くすれば、長く保つべからず、
王弼注
既に末を揣(と)りて尖(せん)なら令(し)む、又(さら)に之を鋭くして利なら令(し)む、勢い必ず摧衂(さいじく)す、故に長く保つべからざるなり、

    通し番号 30    章内番号 3        識別番号 9_3
本文
金玉堂に満つれば、之を能く守ること莫し、
王弼注
其の已(な)きに若(し)かず、

    通し番号 31    章内番号 4        識別番号 9_4
本文
富貴にして驕れば、自ら其の咎(とが)を遺(のこ)す、
王弼注
長く保つべからざるなり、

    通し番号 32    章内番号 5        識別番号 9_5
本文
功遂(と)げ身退くは、天の道なり、
王弼注
四時は更(かわ)り運(めぐ)る、功成なれば則ち移る、


   第十章

    通し番号 33    章内番号 1        識別番号 10_1
本文
営魄(えいはく)に載(の)り一を抱く、能く離れること無からん乎(か)、
王弼注
載、猶処のごときなり、營魄(えいはく)は、人が常に居る処なり、一は人の真なり、言えらく、人能く常居の宅に処(お)り、一を抱き神を清くし、能く常に離れること無からんか、則ち万物自(みずか)ら賓(ひん)せんとす、

    通し番号 34    章内番号 2        識別番号 10_2
本文
気を専らにし柔を致す、能く嬰児たらんか、
王弼注
専は、任なり、致は、極なり、言えらく、自然の気に任じ、至柔の和を致し、能く嬰児の欲する所無きが若(ごと)きか、則ち物全くして性得る、

    通し番号 35    章内番号 3        識別番号 10_3
本文
滌除(てきじょ)して玄覽(げんらん)し、能く疵(きず)つけること無からんか、
王弼注
玄は、物の極なり、能く邪飾を滌除して、極覽に至るを言う、能く物以て其明を介(へだ)て、之を其神に疵(きず)つけざらんか、則ち終(つい)に玄と同じきなり、

    通し番号 36    章内番号 4        識別番号 10_4
本文
民を愛して国を治む、能く知ること無きか、
王弼注
術に任じて以て成るを求め、数を運(めぐ)らして以て匿を求めるは、智なり、玄覽で疵(きず)つけること無きは、猶聖を絶するがごときなり、国を治めるに智以てすること無きは、猶智を棄てるがごときなり、能く智以てすること無きか、則民辟(さ)けずして国之を治めるなり、

    通し番号 37    章内番号 5        識別番号 10_5
本文
天門開闔(こう)す、能く雌為(た)らんか、
王弼注
天門は、天下の由りて従う所なり、開闔(こう)は、治乱の際なり、或いは開き或いは闔(と)じ、経は天下に通ずる、故に曰く、天門は開闔するや、雌は、応じて倡(さき)とならず、因りて為さず、言えらく、天門開闔し能く雌為(た)らんか、則ち物は自(みずか)ら賓し、処(お)りて自(おの)ずから安し、

    通し番号 38    章内番号 6        識別番号 10_6
本文
明白にして四達し、能く為すこと無きか、
王弼注
言えらく、至明にして四達し、迷うこと無く惑うこと無し、能く以て為すこと無きか、則ち物化す、謂う所の道常に為すこと無し、侯王若し能く守れば、則ち万物自ずから化さんとす、

    通し番号 39    章内番号 7        識別番号 10_7
本文
之を生ず、
王弼注
其原(みなもと)を塞(ふさ)がざるなり、

    通し番号 40    章内番号 8        識別番号 10_8
本文
之を畜(やしな)う、
王弼注
其性を禁(と)めざるなり、

    通し番号 41    章内番号 9        識別番号 10_9
本文
生じて有(たも)たず、為して恃(たの)まず、長じて宰(さい)せず、是れ玄徳と謂う、
王弼注
其原(みなもと)を塞(ふさ)がざれば、則ち物は自(おの)ずと生ず、何ぞ功之有らん、其性を禁(と)めざれば、則ち物自(おの)ずと済(な)る、何ぞ為すこと之恃(たの)まん、物は自(おの)ずと長(そだ)ち足る、吾は宰成せず、徳有りて主(つかさ)どること無し、玄に非ざれば如何(いかん)、凡そ玄徳と言うは、皆徳有りて其主を知らず、幽冥に出ず、


   第十一章

    通し番号 42    章内番号 1        識別番号 11_1
本文
三十輻(ふく)、一轂(こく)を共にす、其無に当たりて、車の用有り、
王弼注
轂(こく)能く三十輻(ふく)を統(す)ぶる所以は、無なり、其無以て能く物を受けるの故なり、故に能く以て実(つい)に衆を統(す)ぶるなり、

    通し番号 43    章内番号 2        識別番号 11_2
本文
埴(はに)を埏(こ)ねて以て器を為(つく)る、其無に当りて、器の用有り、戸(こ)牖(ゆう)を鑿(うが)ちて以て室を為(つく)る、其無に当りて、室の用有り、故に有の以て利を為すは、無の以て用を為せばなり、
王弼注
木埴壁の以て三を成す所は、皆無以て用を為すなり、言えらく、無が有の利と為す所以は、皆無に頼り以て用を為すなり、


   第十二章

    通し番号 44    章内番号 1        識別番号 12_1
本文
五色は人の目をして盲なら令(し)む、五音(ごいん)は人の耳をして聾ならしむ、五味は人の口をして爽(たが)わしむ、馳騁(ちてい)畋猟(でんりょう)人の心をして狂を発せしむ、
王弼注
爽(そう)は、差失なり、口の用を失う、故に之を爽と謂う、夫れ耳目口心は、皆其性に順(したが)うなり、以て性命に順(したが)わざれば、反って以て自然を傷つく、故に聾、盲、爽、狂と曰うなり、

    通し番号 45    章内番号 2        識別番号 12_2
本文
得難きの貨は人の行をして妨(さまた)げしむ、
王弼注
得難きの貨、人の正路を塞ぐ、故に人の行をして妨(さまた)げしむなり、

    通し番号 46    章内番号 3        識別番号 12_3
本文
是を以て聖人は腹の為にして目の為にせず、故に彼を去り此を取る、
王弼注
腹の為にするは物以て己を養う、目の為にするは物以て己を役(つか)う、故に聖人は目の為にせざるなり、


   第十三章

    通し番号 47    章内番号 1        識別番号 13_1
本文
寵辱驚くが若し、大患を貴ぶこと身の若し、何をか寵辱驚くが若しと謂う、寵下と為す、之を得て驚くが若し、之を失いて驚くが若し、是れ寵辱驚くが若しと謂う、
王弼注
寵必ず辱有り、栄必ず患有り、驚辱は等しく、栄患は同じきなり、下と為すは、寵辱栄患を得て驚くが若ければ、則ち以て天下を乱(おさ)めるに足らざるなり、

    通し番号 48    章内番号 2        識別番号 13_2
本文
何をか大患を貴ぶこと身の若しと謂う、
王弼注
大患は、栄寵の属なり、生の厚きは、必ず死の地に入る、故に之を大患と謂うなり、人之を栄寵に迷(あやま)り、之を身に返す、故に大患身の若しと曰うなり、

    通し番号 49    章内番号 3        識別番号 13_3
本文
吾大患有る所以は、吾身を有(たも)つ為なり、
王弼注
其身を有つに由るなり、

    通し番号 50    章内番号 4        識別番号 13_4
本文
吾身無きに及(いた)れば、
王弼注
之を自然に帰するなり、

    通し番号 51    章内番号 5        識別番号 13_5
本文
吾何の患い有らん、故に貴(たっと)ぶは身以て天下と為せば、天下を寄すべきが若し、
王弼注
以て其身を易(か)えること無し、故に貴と曰うなり、此如ければ乃ち以て天下を託すべきなり、

    通し番号 52    章内番号 6        識別番号 13_6
本文
愛(おし)むこと身以て天下と為す、天下を託すべきが若し、
王弼注
物以て其身を損(そこ)なうべきこと無し、故に愛と曰うなり、此如ければ乃ち以て天下を寄すべきなり、寵辱栄患以て其身を損(そこ)ない易(か)えず、然る後乃ち天下以て之に付すべきなり、


   第十四章

    通し番号 53    章内番号 1        識別番号 14_1
本文
之を視(み)て見えず、名づけて夷(い)と曰う、之を聴きて聞こえず、名づけて希と曰う、之を搏(と)りて得ず、名づけて微と曰う、此三は、詰(と)うを致すべからず、故に混じて一と為る、
王弼注
状無く象無く、声無く響(ひび)き無し、故に能く通ぜざる所無く、往(い)かざる所無し、得て知らず、更に我が耳目体を以て、名を為すを知らず、故に詰(と)うを致すべからず、混じて一と為るなり、

    通し番号 54    章内番号 2        識別番号 14_2
本文
其上皦(あきら)かならず、其下昧(くら)からず、縄縄(じょうじょう)として名づくべからず、無物に復し帰する、是れ無状の状、無物の象と謂う、
王弼注
無と言わんと欲する邪(や)、物由りて以て成る、有と言わんと欲する邪(や)、其形を見ず、故に状無きの状、物無きの象と曰うなり、

    通し番号 55    章内番号 3        識別番号 14_3
本文
是れ惚恍(こつこう)と謂う、
王弼注
得て定むべからざるなり、

    通し番号 56    章内番号 4        識別番号 14_4
本文
之を迎えて其首を見ず、之に随(したが)いて其後(しり)を見ず、古の道を執(と)りて、以て今の有を御す、
王弼注
有は、其事を有す、

    通し番号 57    章内番号 5        識別番号 14_5
本文
能く古始を知る、是れ道の紀と謂う、
王弼注
無形無名は、万物の宗なり、今古同じからず、時移り俗易(か)わると雖も、故(もと)より此に由りて、以て其治を成さざる者莫(な)きなり、故に古の道を執(と)りて、以て今の有を御すべし、上古は遠しと雖も、其道存す、故に今に在りと雖も、以て古始を知るべきなり、


   第十五章

    通し番号 58    章内番号 1        識別番号 15_1
本文
古の善く士為(た)る者は、微、妙、玄にして通ず、深くして識るべからず、夫れ唯(ただ)識るべからず、故に強いて之が容を為す、予(兮)として冬川を涉(わた)るが若し、
王弼注
冬の川を涉(わた)り予然たる者は、度(わた)るを欲して度るを欲さざるが若し、其情得て見るべからざるの貌なり、

    通し番号 59    章内番号 2        識別番号 15_2
本文
猶(ゆう)(兮)として四鄰を畏れるが若し、
王弼注
四鄰攻を合わす、中央の主、猶然として趣向する所をを知らざるものなり、上徳の人、其端兆覩(み)るべからず、徳趣見るべかららざるは、亦猶此のごときなり、

    通し番号 60    章内番号 3        識別番号 15_3
本文
儼(げん)(兮)として其れ客の若し、渙(かん)として冰(こおり)の将に釈(と)けんとするが若し、敦(とん)として其れ樸の若し、曠(こう)として其れ谷の若し、混として其れ濁るが若し、
王弼注
凡そ此の諸(もろもろ)の若は、皆其容象を得て形名すべからざるを言うなり、

    通し番号 61    章内番号 4        識別番号 15_4
本文
孰(たれ)か能く濁にして以て之を静かにし徐(おもむろ)に清(あきら)かならん、孰か能く安にして以て久しく之を動かし徐(おもむろ)に生ぜん、
王弼注
夫れ晦(かい)にして以て物を理(おさ)むれば則ち明を得る、濁にして以て物を静めれば則ち清を得る、安にして以て物を動かせば則ち生を得る、此れ自然の道なり、孰か能くするは、其難を言うなり、徐は、詳慎なり、

    通し番号 62    章内番号 5        識別番号 15_5
本文
此道を保つ者は盈(み)つることを欲せず、
王弼注
盈(み)つれば、必ず溢(あふ)れるなり、

    通し番号 63    章内番号 6        識別番号 15_6
本文
夫れ唯盈(み)たず、故に能く蔽(おお)い新たに成さず、
王弼注
蔽、覆蓋(ふくがい)なり、


   第十六章

    通し番号 64    章内番号 1        識別番号 16_1
本文
虛を致し極まる、静を守り篤(あつ)し、
王弼注
言えらく、虚を致し、物の極篤(あつ)く、静を守り、物の真は正しきなり、

    通し番号 65    章内番号 2        識別番号 16_2
本文
万物並(なら)び作(おこ)る、
王弼注
動き作(おこ)り生じ長(そだ)つ、

    通し番号 66    章内番号 3        識別番号 16_3
本文
吾以て復するを観(み)る、
王弼注
虚静以て其反(かえ)り復するを観(み)る、凡そ有は虚に起こり、動は静に起こる、故に万物並(なら)び動き作(おこ)ると雖も、卒(つい)に虚静に復し帰する、是れ物の極が篤(あつ)きなり、

    通し番号 67    章内番号 4        識別番号 16_4
本文
夫物芸芸(うんうん)として、各(おのおの)其根に復し帰す、
王弼注
各(おのおの)其の始まる所に反(かえ)るなり、

    通し番号 68    章内番号 5        識別番号 16_5
本文
根に帰るを静と曰う、是れ命に復すと曰う、命に復すを常と曰う、
王弼注
根に帰れば則ち静かなり、故に静と曰う、静なれば則ち命に復す、故に命に復すと曰うなり、命に復せば則ち性命の常を得る、故に常と曰うなり、

    通し番号 69    章内番号 6        識別番号 16_6
本文
常を知るを明と曰う、常を知らずして妄(みだり)に作(な)せば、凶なり、
王弼注
常の物と為る、偏(かたよ)らず彰(あきら)かならず、皦昧(きょうまい)の状、温涼の象無し、故に常を知るを明と曰うと曰うなり、唯此は復すれば乃ち能く万物を包通し、容(い)れざる所無し、此を失う以往は、則ち邪が分に入れば、則ち物は其分を離る、故に曰く常を知らざれば、則ち妄(みだり)に作(な)して凶なり、

    通し番号 70    章内番号 7        識別番号 16_7
本文
常を知れば容なり、
王弼注
包通ぜざる所無きなり、

    通し番号 71    章内番号 8        識別番号 16_8
本文
容なれば乃ち公なり、
王弼注
包通せざる所無ければ、則ち乃(ここ)に蕩然(とうぜん)公平に至るなり、

    通し番号 72    章内番号 9        識別番号 16_9
本文
公なれば乃ち王なり、
王弼注
蕩然(とうぜん)公平なれば、則ち乃(ここ)に周普せざる所無きに至る、

    通し番号 73    章内番号 10        識別番号 16_10
本文
王なれば乃ち天なり、
王弼注
周普せざる所無し、則ち乃(ここ)に天と同じきに至るなり、

    通し番号 74    章内番号 11        識別番号 16_11
本文
天なれば乃ち道なり、
王弼注
天と徳を合わせ、道を体して大いに通ずれば、則ち乃(ここ)に虚無を極めるに至る、

    通し番号 75    章内番号 12        識別番号 16_12
本文
道なれば乃ち久し、
王弼注
虚無を窮極し、道の常を得れば、則ち乃(ここ)に極(きわ)まること有らざるに至るなり、

    通し番号 76    章内番号 13        識別番号 16_13
本文
身を没するまで殆(あやう)からず、
王弼注
無の物為(た)るは、水火害すること能わず、金石残(そこな)うこと能わず、之を心に用れば則ち虎兕(こじ)其歯角を投ずる所無く、兵戈(か)其鋒刃(ほうじん)を容(い)れる所無し、何の危殆之有らんや、


   第十七章

    通し番号 77    章内番号 1        識別番号 17_1
本文
大上は、下は之有ることを知る、
王弼注
大上は、大人(たいじん)を謂うなり、大人上に在り、故に大上と曰う、大人上に在れば、無為の事に居り、不言の教えを行い、万物作(おこ)りて始めるを為さず、故に下は之有ることを知るのみ、

    通し番号 78    章内番号 2        識別番号 17_2
本文
其次は親しみて之を誉める、
王弼注
無為を以て事に居り、不言にして教を為すこと能わずして、善を立て施(ほどこ)しを行い、下をして親しみ之を誉(ほ)めるを得せしむ、

    通し番号 79    章内番号 3        識別番号 17_3
本文
其次は之を畏る、
王弼注
復(また)恩仁以て物を令すること能わずして、威権に頼るなり、

    通し番号 80    章内番号 4        識別番号 17_4
本文
其次は之を侮る、
王弼注
法は以て斉民を正すこと能わずして、智以て国を治む、下は之を避けるを知り、其令従わず、故に之を侮ると曰うなり、

    通し番号 81    章内番号 5        識別番号 17_5
本文
信足らざれば、不信有り、
王弼注
上に従うを言うなり、夫れ体を御するに、性を失えば、則ち疾病生ず、物を輔(たす)けるに、真を失えば、則ち疵釁(しきん)作(おこ)る、信足らず、則ち不信有り、此は自然の道なり、已に足らざる処(ところ)は、智の斉(ととの)う所に非ざるなり、

    通し番号 82    章内番号 6        識別番号 17_6
本文
悠(ゆう)として其れ言を貴ぶ、功成り事遂(と)ぐ、百姓(ひゃくせい)皆我は自ずから然りと謂う、
王弼注
自然は、其端兆得て見るべからざるなり、其意趣得て覩(み)るべからざるなり、物は以て其言を易(やす)くすべきこと無し、言は必ず応有り、故に悠(ゆう)として其れ言を貴ぶと曰うなり、無為の事に居り、不言の教えを行い、形以て物を立てず、故に功成り事遂げて、百姓其の然る所以を知らざるなり、


   第十八章

    通し番号 83    章内番号 1        識別番号 18_1
本文
大道廃(すた)れて、仁義有り、
王弼注
無為の事を失う、更に以て慧に於て善道を立て、物を進めるなり、

    通し番号 84    章内番号 2        識別番号 18_2
本文
智慧出でて、大偽有り、
王弼注
術を行い明を用い、以て姦偽を察すれば、趣(おもむ)き形見を睹(み)て、物は之を避くるを知る、故に智慧出ずれば則ち大偽生ずるなり、

    通し番号 85    章内番号 3        識別番号 18_3
本文
六親(りくしん)和せずして、孝慈有り、国家昏乱(こんらん)して、忠臣有り、
王弼注
甚だ美の名は大悪に生ず、謂う所の美悪同門なり、六親は、父子兄弟夫婦なり、若し六親自(おの)ずと和し、国家自ずと治まれば、則ち孝慈忠臣其在る所を知らず、魚江湖の道を相(あい)忘れれば、則ち相(あい)之を濡(うるお)すの徳生ずるなり、


   第十九章

    通し番号 86    章内番号 1        識別番号 19_1
本文
聖を絶ち智を棄てれば、民利百倍す、仁を絶ち義を棄てれば、民孝慈に復す、巧を絶ち利を棄てれば、盜賊有ること無し、此三は以て文を為し、足らず、故に属(つづ)く所有らしむ、素を見て樸を抱き、私を少くし欲を寡(すくな)くす、
王弼注
聖智は、才の善なり、仁義は、人の善なり、巧利は、用の善なり、而るに直(ただ)絶と云えば、文甚だ足らず、之に属(つづ)く所有らしめざれば、以て其指を見ること無し、故に此三は以て文を為して未だ足らずと曰う、故に人をして属(つづ)く所有らしむ、之に素樸寡欲を属(つづ)ける、


   第二十章

    通し番号 87    章内番号 1        識別番号 20_1
本文
学を絶てば憂い無し、唯(い)の阿(あ)と、相去る幾何(いくばく)ぞ、善の悪と、相去る若何(いかん)、人の畏れる所、畏れざるべからず、
王弼注
下篇、学を為す者は日に益(ま)す、道を為す者は日に損(へ)らす、然らば則ち学は能くする所を益(ま)すを求め、其智を進めるものなり、若し将(はた)無欲にして足れば、何ぞ益すことを求めん、知らずして中(あた)れば、何ぞ進むことを求めん、夫れ鷙(し)雀匹(ひつ)有り、鳩(きゅう)鴿(こう)仇(きゅう)有り、寒鄉の民は、必ず旃裘(せんきゅう)を知る、自然にして已に足る、之を益(ま)せば則ち憂う、故に鳧(かも)の足を続(つな)ぐは、何ぞ鶴の脛(すね)を截(き)るに異ならん、誉を畏れて進むは、何ぞ刑を畏れるに異ならん、唯阿美悪、相去ること若何(いかん)、故(もと)より人の畏る所、吾亦畏る、未だ敢て之を恃みて以て用と為さざるなり、

    通し番号 88    章内番号 2        識別番号 20_2
本文
荒として(兮)其れ未だ央(つ)きざるかな、
王弼注
俗と相返(はん)するの遠きを歎ずるなり、

    通し番号 89    章内番号 3        識別番号 20_3
本文
衆人は熙熙(きき)として、太牢(たいろう)を享(う)けるが如し、春台に登るが如し、
王弼注
衆人は美に迷い進み、栄に惑い利(むさぼ)る、欲は進み心は競う、故に熙熙(きき)として太牢を享(う)けるが如く、春台に登るが如きなり、

    通し番号 90    章内番号 4        識別番号 20_4
本文
我独り泊(はく)として其未だ兆(きざ)さず、嬰児(えいじ)の未だ孩(がい)さざるが如し、
王弼注
言えらく、我廓然(かくぜん)として、形の名づくべきこと無し、兆の挙ぐべきこと無し、嬰児の未だ能く孩せざるが如きなり、

    通し番号 91    章内番号 5        識別番号 20_5
本文
儽儽(るいるい)(兮)として、帰する所無きが若し、
王弼注
宅(お)る所無きが若し、

    通し番号 92    章内番号 6        識別番号 20_6
本文
衆人皆余有り、我独り遺(うしな)うが若し、
王弼注
衆人は懐(おも)うこと有り、志すこと有りて胸心に盈溢(えいいつ)せざること無し、故に皆余有ると曰うなり、我独り廓然として、為すこと無く、欲すること無し、之を遺失するが若きなり、

    通し番号 93    章内番号 7        識別番号 20_7
本文
我は愚人の心なるかな、
王弼注
絶愚の人は、心別析する所無し、意は好悪する所無し、猶然(ゆうぜん)として其情睹(み)るべからず、我頹然(たいぜん)として此の若きなり、

    通し番号 94    章内番号 8        識別番号 20_8
本文
沌沌(とんとん)(兮)たり、
王弼注
別析する所無し、名を為すべからず、

    通し番号 95    章内番号 9        識別番号 20_9
本文
俗人は昭昭たり、
王弼注
其光を耀(かがや)かすなり、

    通し番号 96    章内番号 10        識別番号 20_10
本文
我独り昏(こん)の若し、俗人は察察たり、
王弼注
分別別析なり、

    通し番号 97    章内番号 11        識別番号 20_11
本文
我独り悶悶(もんもん)たり、澹(たん)として其れ海の若し、
王弼注
情は睹(み)るべからず、

    通し番号 98    章内番号 12        識別番号 20_12
本文
飂(りゅう)(兮)として止(とど)まること無きが若し、
王弼注
繫縶(けいちゅう)する所無し、

    通し番号 99    章内番号 13        識別番号 20_13
本文
衆人皆以(もち)いること有り、
王弼注
以、用なり、皆施用する所有るを欲するなり、

    通し番号 100    章内番号 14        識別番号 20_14
本文
我独り頑にして鄙に似る、
王弼注
欲為する所無し、悶悶昏昏にして、識(し)る所無きが若し、故に頑且つ鄙と曰うなり、

    通し番号 101    章内番号 15        識別番号 20_15
本文
我独り人に異なりて、食母を貴ぶ、
王弼注
食母は、生の本なり、人は皆生民の本を棄て、末飾の華を貴ぶ、故に我独り人に異ならんと欲すと曰う、


   第二十一章

    通し番号 102    章内番号 1        識別番号 21_1
本文
孔徳の容、惟(ただ)道是れ従う、
王弼注
孔、空(くう)なり、惟(ただ)空以て徳と為す、然る後乃ち能く動作し道に従う、

    通し番号 103    章内番号 2        識別番号 21_2
本文
道の物為る、惟(こ)れ恍(こう)惟(こ)れ惚(こつ)、
王弼注
恍惚は、無形不繫(けい)を之歎ずるなり、

    通し番号 104    章内番号 3        識別番号 21_3
本文
惚たり恍たり、其中象有り、恍たり惚たり、其中物有り、
王弼注
無形以て物を始め、繫(つな)がらずして物を成す、万物以て始まり以て成る、而るに其然る所以を知らず、故に恍たり惚たり、其中象有りと曰うなり、

    通し番号 105    章内番号 4        識別番号 21_4
本文
窈(よう)たり冥(めい)たり、其中精有り、
王弼注
窈、冥は、深遠之歎ずるなり、深遠は得て見るべからず、然り而して万物之に由る、其の見て以て其真を定むことを得べし、故に窈(よう)たり冥(めい)たり、其中に精有りと曰うなり、

    通し番号 106    章内番号 5        識別番号 21_5
本文
其精甚だ真、其中信有り、
王弼注
信は、信験なり、物窈冥に反れば、則ち真精の極得られ、万物の性定まる、故に其精甚だ真、其中信有りと曰うなり、

    通し番号 107    章内番号 6        識別番号 21_6
本文
今自(よ)り古に及ぶ、其名去らず、
王弼注
至真の極、得て名づくるべからず、無名は則ち是れ其名なり、古自(よ)り今に及ぶ、此に由りて成らざる無し、故に古自(よ)り今に及ぶ、其名去らずと曰うなり、

    通し番号 108    章内番号 7        識別番号 21_7
本文
以て衆甫(しゅうほ)を閱(す)ぶ、
王弼注
衆甫(ほ)は、物の始めなり、無名を以て万物の始めを説くなり、

    通し番号 109    章内番号 8        識別番号 21_8
本文
吾何を以て衆甫の状を知る哉(や)、此を以てなり、
王弼注
此は上の云う所なり、言えらく、吾何を以て万物の無に始まるを知る哉(や)、此を以て之を知るなり、


   第二十二章

    通し番号 110    章内番号 1        識別番号 22_1
本文
曲がるは則ち全(まった)し、
王弼注
自ら其明を見せざれば則ち全(まった)きなり、

    通し番号 111    章内番号 2        識別番号 22_2
本文
枉(ま)げれば則ち直し、
王弼注
自ら是(ぜ)とせざれば則ち其の是(ぜ)は彰(あきら)かなり、

    通し番号 112    章内番号 3        識別番号 22_3
本文
窪(くぼ)めば則ち盈(み)つ、
王弼注
自(みずか)ら伐(ほこ)らざれば則ち其功有るなり、

    通し番号 113    章内番号 4        識別番号 22_4
本文
弊(やぶ)れば則ち新し、
王弼注
自(みずか)ら矜(ほこ)らざれば則ち其徳長(すす)むなり、

    通し番号 114    章内番号 5        識別番号 22_5
本文
少なければ則ち得る、多ければ則ち惑う、
王弼注
自然の道は亦猶樹のごときなり、転(うた)た多ければ転(うた)た其根に遠ざかる、転(うた)た少なければ、転(うた)た其本を得る、多ければ則ち其真に遠ざかる、故に惑と曰うなり、少なければ則ち其本を得る、故に得ると曰うなり、

    通し番号 115    章内番号 6        識別番号 22_6
本文
是を以て聖人は一を抱き天下の式と為る、
王弼注
一は、少の極なり、式は、猶之に則(のっと)るがごときなり、

    通し番号 116    章内番号 7        識別番号 22_7
本文
自(みずか)ら見(あら)わさず、故に明なり、自(みずか)ら是とせず、故に彰(あらわ)る、自ら伐(と)らず、故に功有り、自ら矜(ほこ)らず、故に長(すす)む、夫れ唯(ただ)争わず、故に天下能く之と争うこと莫し、古の謂う所の曲がれば則ち全きは、豈虚言ならんや、誠に全くして之に帰す、
王弼注



   第二十三章

    通し番号 117    章内番号 1        識別番号 23_1
本文
言を希(すく)なくし、自(おの)ずから然る、
王弼注
之を聴きて聞こえず、名づけて希と曰う、下章に言う、道の言を出すや、淡として其味無きなり、之を視て見るに足らず、之を聴きて聞くに足らず、然らば則ち無味にして聴くに足らずの言、乃ち是れ自然の至言なり、

    通し番号 118    章内番号 2        識別番号 23_2
本文
故(もと)より飄風(ひょうふう)朝を終えず、驟雨(しゅうう)日を終えず、孰(だれ)か此を為す者か、天地なり、天地尚(なお)久しきこと能わず、而るに況んや人においてをや、
王弼注
言えらく、暴疾の美が興るは長からざるなり、

    通し番号 119    章内番号 3        識別番号 23_3
本文
故に道に従事するは、道は道に同じくす、
王弼注
従事は、挙動が道に従事する者を謂うなり、道は無形無為を以て万物を成済す、故に道に従事する者は、無為以て君と為し、不言を教えと為す、綿綿と存するが若くして物は其真を得る、道と体を同じくす、故に道を同じくすと曰う、

    通し番号 120    章内番号 4        識別番号 23_4
本文
徳は徳に同じくす、
王弼注
得は、少なり、少なければ則ち得る、故に得と曰うなり、得を行えば則ち得と体を同じくす、故に得に同じくすと曰うなり、

    通し番号 121    章内番号 5        識別番号 23_5
本文
失は失に同じくす、
王弼注
失は、累多きなり、累多ければ則ち失う、故に曰く失なり、失を行えば則ち失と体を同じくす、故に「失を同じくす」と曰うなり、

    通し番号 122    章内番号 6        識別番号 23_6
本文
道に同じくするは、道亦之を得るを楽しむ、徳に同じくするは、徳亦之を得るを楽しむ、失に同じくするは、失亦之を得るを楽しむ、
王弼注
言えらく、其所に随(したが)い行う、故に同じくして之に応ず、

    通し番号 123    章内番号 7        識別番号 23_7
本文
信足らざれば、不信有り、
王弼注
忠信下に足らざれば、不信有るなり、


   第二十四章

    通し番号 124    章内番号 1        識別番号 24_1
本文
企(つまだ)つ者は立たず、
王弼注
物進むことを尚(たっと)べば、則ち安を失う、故に企(つまだ)つ者は立たずと曰う、

    通し番号 125    章内番号 2        識別番号 24_2
本文
跨(また)ぐ者は行かず、自(みずか)ら見(あら)わす者は明ならず、自(みずか)ら是とする者は彰(あらわ)れず、自ら伐(と)る者は功無し、自ら矜(ほこ)る者は長(すす)まず、其道に在るや、余食贅(ぜい)行と曰う、
王弼注
其唯道に於て之を論ずれば、郤至(げきし)の行、盛饌(せいせん)の余の若きなり、本美と雖も、更(あらたま)り薉(けが)すべきなり、本功有りと雖も自(みずか)ら之を伐(ほこ)る、故に更(あらたま)り肬贅(ゆうぜい)なるものと為すなり、

    通し番号 126    章内番号 3        識別番号 24_3
本文
物之を悪(にく)むこと或(あ)り、故に有道者は処(お)らず、
王弼注



   第二十五章

    通し番号 127    章内番号 1        識別番号 25_1
本文
物有りて混成たり、天地に先だちて生ず、
王弼注
混然として得て知るべからず、而るに万物之に由りて以て成る、故に混成と曰うなり、其れ誰の子たるを知らず、故に天地に先だちて生ず、

    通し番号 128    章内番号 2        識別番号 25_2
本文
寂(せき)たり寥(りょう)たり、独(ひと)り立ちて改(か)わらず、
王弼注
寂寥(せきりょう)は、形無き体(てい)なり、物の匹(たぐい)無し、故に独(ひと)り立つと曰うなり、返り、化し、終り、始りて、其常を失わず、故に改(か)わらずと曰うなり、

    通し番号 129    章内番号 3        識別番号 25_3
本文
周行して殆(あや)うからず、以て天下の母と為るべし、
王弼注
周行して至らざる所無くて殆(あや)うきを免る、能く生じて大形を全くするなり、故に以て天下の母と為るべきなり、

    通し番号 130    章内番号 4        識別番号 25_4
本文
吾其名を知らず、
王弼注
名は以て形を定む、混成して形無し、得て定むべからず、故に其名を知らずと曰うなり、

    通し番号 131    章内番号 5        識別番号 25_5
本文
之に字(あざな)して道と曰う、
王弼注
夫れ名は以て形を定む、字(あざな)は称以て言うべし、道は物にして由らざる無きに取るなり、是れ混成の中、言うべきの称の最大なり、

    通し番号 132    章内番号 6        識別番号 25_6
本文
強いて之が名を為して、大と曰う、
王弼注
吾以て之を字(あざな)して道と曰う所は、其言うべきの称の最大を取るなり、其字(あざな)定めるの由る所を責(もと)めれば、則ち大に繫(つな)がる、大に繫がること有れば、則ち必ず分有り、分有れば則ち其極を失う、故に曰く、強いて之が名を為して大と曰う、

    通し番号 133    章内番号 7        識別番号 25_7
本文
大は曰(ここ)に逝(ゆ)く、
王弼注
逝、行なり、一の大体を守るのみならず、周行して至らざる所無し、故に逝(せい)と曰うなり、

    通し番号 134    章内番号 8        識別番号 25_8
本文
逝く曰(ここ)に遠し、遠し曰(ここ)に反(かえ)る、
王弼注
遠は、極なり、周(あまね)く、窮極せざる所無く、一に偏(かたよ)らずに逝く、故に遠と曰うなり、適(ゆ)く所に随(したが)わず、其体は独り立つ、故に反ると曰うなり、

    通し番号 135    章内番号 9        識別番号 25_9
本文
故に道は大、天は大、地は大、王は亦大なり、
王弼注
天地の性は、人を貴(たっと)しと為す、王は是れ人の主なり、大を職(はたら)きとせずと雖も亦復(ま)た大と為し三と匹(ひつ)なり、故に王亦大と曰うなり、

    通し番号 136    章内番号 10        識別番号 25_10
本文
域(くに)の中に四大有り、
王弼注
四大は、道、天、地、王なり、凡そ物は称有り、名有れば則ち其極に非ざるなり、道と言えば則ち由る所有り、由(よ)る所有りて然る後之を道と為すと謂う、然らば則ち是道は、称中の大なり、無称の大に若(し)かざるなり、無称は得るべからず、而して名づけて域と曰うなり、道天地王は皆無称の內に在り、故に域中に四大なるもの有りと曰うなり、

    通し番号 137    章内番号 11        識別番号 25_11
本文
王は其一に居る、
王弼注
人主の大に処(お)るなり、

    通し番号 138    章内番号 12        識別番号 25_12
本文
人は地に法(のっと)り地たり、天に法(のっと)り天たり、道に法(のっと)り道たり、自(おの)ずと然るに法(のっと)る、
王弼注
法は、法則を謂うなり、人は地に違わざれば、乃ち安を全くすることを得る、地に法(のっと)るなり、地は天に違わざれば、乃ち載を全くすることを得る、天に法(のっと)るなり、天は道に違わざれば、乃ち覆を全くすることを得る、道に法るなり、道は自然に違わざれば、乃ち其性を得る、自然に法るは、方に在りては方に法り、円に在りては円に法る、自然に於て違う所無し、自然は、無称の言、窮極の辞なり、智を用いるは知無きに及ばす、形魄(はく)は精象に及ばず、精象は無形に及ばず、儀有るは儀無きに及ばず、故に転(うつ)りて相法るなり、道は自然に順(したが)う、天故(もと)より焉(これ)に資(と)り、天は道に法る、地は故(もと)より焉(これ)に則り、地は天に法る、人は故(もと)より焉(これ)に象(のっと)る、主為(た)る所以は、其之を一(おな)じくする者は主なり、


   第二十六章

    通し番号 139    章内番号 1        識別番号 26_1
本文
重きは軽きの根と為る、静かなるは躁(さわが)しきの君と為る、
王弼注
凡そ物軽ければ重きを載(の)すること能わず、小は大を鎮(おさ)えること能わず、行(おこな)わざるは行うを使い、動かざるは動くを制す、是を以て重きは必ず軽きの根と為り、静かなるは必ず躁(さわが)しきの君と為るなり、

    通し番号 140    章内番号 2        識別番号 26_2
本文
是を以て聖人は終日、行うこと輜重(しちょう)を離れず、
王弼注
重以て本と為す、故に離れず、

    通し番号 141    章内番号 3        識別番号 26_3
本文
栄観有りと雖も、燕処(えんしょ)して超然たり、
王弼注
以て心に経(へ)ざるなり、

    通し番号 142    章内番号 4        識別番号 26_4
本文
奈何(いかん)ぞ万乗の主にして身以て天下に軽くせんや、軽ければ則ち本を失う、躁(さわが)しければ則ち君を失う、
王弼注
軽きは重きを鎮(おさ)えざるなり、本を失うは身を喪(うしな)うを為すなり、君を失うは君の位を失うを為すなり、


   第二十七章

    通し番号 143    章内番号 1        識別番号 27_1
本文
善行は轍迹(てっせき)無し、
王弼注
自然に順(したが)いて行う、造(な)さず始めず、故に物は至るを得て轍迹無きなり、

    通し番号 144    章内番号 2        識別番号 27_2
本文
善言は瑕讁(かたく)無し、
王弼注
物の性に順(したが)い、別(わ)けず析(さ)かず、故に瑕讁(かたく)が其門を得べきもの無きなり、

    通し番号 145    章内番号 3        識別番号 27_3
本文
善数は籌策(ちゅうさく)を用いず、
王弼注
物の数に因り形を仮(か)らざるなり、

    通し番号 146    章内番号 4        識別番号 27_4
本文
善閉は関楗(かんけん)無くして開くべからず、善結は縄約(じょうやく)無くして解くべからず、
王弼注
物に因り自(おの)ずから然り、設けず施さず、故に関楗縄約を用いずして開け解くべからざるなり、此五は皆造(な)さず施さず、物の性に因り、形以て物を制さざるを言うなり、

    通し番号 147    章内番号 5        識別番号 27_5
本文
是を以て聖人は常に善にして人を救う、故に人を棄てること無し、
王弼注
聖人は形名を立て以て物を検せず、進向を造(な)し以て不肖を殊(ころ)し棄てず、万物の自然を輔(たす)けて始めるを為さず、故に人を棄てること棄しと曰うなり、賢能を尚(たっと)ばざれば、則ち民は争わず、得難きの貨を貴(たっと)ばざれば、則ち民は盗を為さず、欲すべきを見(しめ)さざれば、則ち民の心は乱れず、常に民心をして欲無く惑(まど)うこと無からしめれば、則ち人を棄てること無し、

    通し番号 148    章内番号 6        識別番号 27_6
本文
常に善にして物を救う、故に物を棄てること無し、是れ襲明(しゅうめい)と謂う、故(もと)より善人は、不善人の師なり、
王弼注
善を挙げ以て不善に師たり、故に之を師と謂う、

    通し番号 149    章内番号 7        識別番号 27_7
本文
不善人は、善人の資なり、
王弼注
資、取なり、善人は善以て不善を斉(ととの)え、善以て不善を棄(のぞ)くなり、故に不善人は善人の取る所なり、

    通し番号 150    章内番号 8        識別番号 27_8
本文
其師を貴ばず、其資を愛(おし)まざれば、智と雖も大いに迷う、
王弼注
其智有りと雖も、自(みずか)ら其智に任じ、物に因らざれば、其道に於て必ず失う、故に智と雖も大いに迷うと曰う、

    通し番号 151    章内番号 9        識別番号 27_9
本文
是れ要妙と謂う、
王弼注



   第二十八章

    通し番号 152    章内番号 1        識別番号 28_1
本文
其雄を知り、其雌(し)を守れば、天下の谿(たに)と為る、天下の谿と為れば、常に徳にして離れず、嬰児に復し帰すればなり、
王弼注
雄は、先の属、雌(し)は、後の属なり、天下の先と為るを知るや、必ず後(おく)れるなり、是を以て聖人は其身を後にしにて身先んずるなり、谿(たに)は物を求めずして物自(おの)ずから之に帰す、嬰児は智を用いずして自然の智に合う、

    通し番号 153    章内番号 2        識別番号 28_2
本文
其白を知り、其黒を守れば、天下の式と為る、
王弼注
式は、模則なり、

    通し番号 154    章内番号 3        識別番号 28_3
本文
天下の式と為れば、常に徳は忒(たが)わず、
王弼注
忒(とく)、差なり、

    通し番号 155    章内番号 4        識別番号 28_4
本文
極まること無きに復し帰すればなり、
王弼注
窮むべからざるなり、

    通し番号 156    章内番号 5        識別番号 28_5
本文
其栄を知り、其辱を守れば、天下の谷と為る、天下の谷と為れば、常に徳にして乃ち足る、樸に復し帰すればなり、
王弼注
此三は、常に反(かえ)るを言う、終(つい)に後に乃ち徳は其処(お)る所に全きなり、下章に云う、反(かえ)るは道の動なり、功は取るべからず、常に其母に処(お)るなり、

    通し番号 157    章内番号 6        識別番号 28_6
本文
樸散すれば則ち器と為る、聖人之を用いれば、則ち官の長と為る、
王弼注
樸、真なり、真散ずれば則ち百行出で、殊類生ず、器の若(ごと)きなり、聖人は其分散に因る、故に之が為に官長を立つ、善以て師と為し、不善は資と為す、風を移し俗を易(か)え、復(ま)た一に帰らしめるなり、

    通し番号 158    章内番号 7        識別番号 28_7
本文
故に大制は割(さ)かず、
王弼注
大制は、天下の心以て心と為す、故に割(さ)くこと無きなり、


   第二十九章

    通し番号 159    章内番号 1        識別番号 29_1
本文
将に天下を取らんと欲して之を為すは、吾其得ざるを見るのみ、天下は神器なり、
王弼注
神は、形無く方(つね)無きなり、器は、合いて成るなり、形無くして以て合う、故に之を神器と謂うなり、

    通し番号 160    章内番号 2        識別番号 29_2
本文
為すべからざるなり、為す者之を敗る、執(と)る者之を失う、
王弼注
万物は自(おの)ずから然るを以て性と為す、故に因るべくして為すべからざるなり、通ずべくして執(と)るべからざるなり、物は常の性有り、而(しか)るに之を造為す、故に必ず敗るなり、物は往来すること有り、而るに之を執(と)る、故に必ず失う、

    通し番号 161    章内番号 3        識別番号 29_3
本文
故(もと)より物は或いは行い随(したが)うこと或(あ)り、或いは歔(は)いて吹くこと或(あ)り、或いは強(つと)めて羸(くる)しむこと或(あ)り、或いは挫(くじ)きて隳(やぶ)ること或(あ)り、是を以て聖人は甚(じん)を去り、奢(しゃ)を去り、泰(たい)を去る、
王弼注
凡そ此の諸(もろもろ)の或は、物事は逆順反覆して、施為執割せざるを言うなり、聖人は自然の至に達し、万物の情に暢(とお)る、故に因りて為さず、順(したが)いて施さず、其の以て迷う所を除き、其の以て惑う所を去る、故に心乱れずして物の性自(おの)ずから之を得るなり、


   第三十章

    通し番号 162    章内番号 1        識別番号 30_1
本文
道以て人主を佐(たす)くる者は、兵以て天下に強くせず、
王弼注
道以て人主を佐(たす)くるは、尚(なお)兵以て天下に強くすべからず、況んや人主道を躬(みずか)らする者においてをや、

    通し番号 163    章内番号 2        識別番号 30_2
本文
其事還(めぐ)るを好むなり、
王弼注
始めるを為す者は務めて功を立て事を生じるを欲す、道を有する者は務めて無為に還反することを欲す、故に其事還(かえ)るを好むと云うなり、

    通し番号 164    章内番号 3        識別番号 30_3
本文
師の処(お)る所、荊棘(けいきょく)生ず、大軍の後、必ず凶年有り、
王弼注
言えらく、師は凶害の物なり、済(すく)う所有ること無し、必ず傷つける所有り、人民を賊害(ぞくがい)し、田畝(ぽ)を残(そこな)い荒す、故に荊棘生ずと曰う、

    通し番号 165    章内番号 4        識別番号 30_4
本文
善なる者は果のみ、以て強を取らず、
王弼注
果、猶済のごときなり、言えらく、善く師を用いる者は、趣(おもむ)き以て難を済(すく)うのみ、兵力以て強きを天下に取らざるなり、

    通し番号 166    章内番号 5        識別番号 30_5
本文
果にして矜(ほこ)ること勿(な)し、果にして伐(と)ること勿し、果にして驕ること勿し、
王弼注
吾は師道以て尚(たっと)ぶと為さず、已(や)むを得ずして用いる、何ぞ矜(ほこ)り驕ること之有らん、

    通し番号 167    章内番号 6        識別番号 30_6
本文
果にして已(や)むを得ず、果にして強きこと勿(な)かれ、
王弼注
言えらく、兵を用いるは、功に趣(おもむ)くと雖も、難を果済し、然(しこう)して時に故(もと)より已(や)むを得ず、復(ま)た用いるに当たるは、但(ただ)当に以て暴乱を除くべし、果を用いるを遂(つく)さざれば、以て強を為すなり、

    通し番号 168    章内番号 7        識別番号 30_7
本文
物は壮(さかん)ならば則ち老(おとろ)えばなり、是れ不道と謂う、不道は早く已(や)む、
王弼注
壮は、武力暴(にわか)に興る、兵以て天下に強き者に喻(たと)えるなり、飄風(ひょうふう)朝を終えず、驟雨(しゅうう)日を終えず、故に暴(にわか)に興るは必ず不道にて早く已(や)むなり、


   第三十一章

    通し番号 169    章内番号 1        識別番号 31_1
本文
夫れ佳(よ)き兵は、不祥(ふしょう)の器なり、物之を悪(にく)むこと或(あ)り、故に有道者は処(お)らず、君子は居れば、則ち左を貴ぶ、兵を用いれば、則ち右を貴ぶ、兵は不祥の器なり、君子の器に非ず、已(や)むを得ずして之を用い、恬淡を上と為す、勝ちて美(ほ)めず、之を美(ほ)むる者は、是れ人を殺すを楽しむ、夫れ人を殺すを楽しむ者は、則ち以て志を天下に得るべからず、吉事は左を尚(たっと)ぶ、凶事は右を尚(たっと)ぶ、偏将軍は左に居る、上将軍は右に居る、喪礼以て之に処(お)るを言う、人を殺すことが衆(おお)ければ、哀悲以て之に泣く、戦い勝ちて、喪礼以て之に処(お)る、
王弼注



   第三十二章

    通し番号 170    章内番号 1        識別番号 32_1
本文
道は常に名無し、樸は小と雖も、天下能く臣とすること莫きなり、侯王若し能く之を守れば、万物は将に自(みずか)ら賓(ひん)せんとす、
王弼注
道は形無く繫(つな)がれず、常に名づくべからず、名無きを以て常と為す、故に道は常に名無しと曰うなり、樸の物為(た)るは、無以て心と為すなり、亦名無し、故に将に道を得んとするは樸を守るに若(し)くは莫し、夫れ智者は能以て臣とすべきなり、勇者は武以て使うべきなり、巧者は事以て役(つか)うべきなり、力者は重きを以て任(もち)いるべきなり、樸の物為るは、隤然(たいぜん)として偏(かたよ)らず、有ること無きに近し、故に、能く臣とすること莫しと曰うなり、樸を抱き為すこと無し、物以て其真を累せず、欲以て其神を害せず、則ち物自(おの)ずから賓して道自(おの)ずから得るなり、

    通し番号 171    章内番号 2        識別番号 32_2
本文
天地相合い、以て甘露を降(お)ろす、民は之に令すること莫くて自ずから均(ととの)う、
王弼注
言えらく、天地相合えば、則ち甘露は求めずして自ずから降りる、我が其真性を守り為すこと無ければ、則ち民は令せずして自ずから均(ととの)うなり、

    通し番号 172    章内番号 3        識別番号 32_3
本文
始めて制して名有り、名亦(ただ)既に有れば、夫れ亦(ただ)将に止(とど)まるを知らんとす、止(とど)まるを知れば以て殆(あうやう)からざる所なり、
王弼注
始めて制するは、樸散じ始めて官の長を為(つく)るの時を謂うなり、始めて官長を制すれば、名分を立て以て尊卑を定めざるべからず、故に始めて制すれば名有るなり、此を過ぎて以往は将に錐刀(すいとう)の末を争わんとす、故に名亦(ただ)既に有れば、夫れ亦(ただ)将に止(とど)まるを知らんとすと曰うなり、遂(つい)に名を任(もち)いて以て物を号(よ)べば、則ち治の母を失う、故に止(とど)まるを知れば以て殆(あやう)からざる所なり、

    通し番号 173    章内番号 4        識別番号 32_4
本文
道の天下に在るを譬(たと)えれば、猶川谷(せんこく)の江海に於るがごとし、
王弼注
川谷が以て江と海を求めるは、江海之を召すに非ず、召さず求めずして自(おの)ずから帰するものなり、世の道を天下に行う者は、令さずして自ずから均(ととの)い、求めずして自ずから得る、故に猶川谷の江海とのごときと曰うなり、


   第三十三章

    通し番号 174    章内番号 1        識別番号 33_1
本文
人を知る者は智なり、自(みずか)ら知る者は明なり、
王弼注
人を知る者は、智のみ、未だ自(みずか)ら知る者智の上に超えるに若(し)かざるなり、

    通し番号 175    章内番号 2        識別番号 33_2
本文
人に勝つ者は力有り、自(みずか)ら勝つ者は強し、
王弼注
人に勝つ者は、力有るのみ、未だ自(みずか)ら勝つ者物以て其力を損なうこと無きに若かず、其智を人に用いるは、未だ其智を己に用いるに若かざるなり、其力を人に用いるは、未だ其力を己に用いるに若かざるなり、明は己に用いれば、則ち物は避(のが)れること無し、力は己に用いれば、則ち物は改めること無し、

    通し番号 176    章内番号 3        識別番号 33_3
本文
足るを知る者は富む、
王弼注
足るを知ると自(おの)ずと失わず、故に富むなり、

    通し番号 177    章内番号 4        識別番号 33_4
本文
強(つと)めて行う者志有り、
王弼注
勤(つと)めて能く之を行う、其志を必ず獲(え)る、故に曰く強(つと)めて行う者志有り、

    通し番号 178    章内番号 5        識別番号 33_5
本文
其所を失わざる者は久し、
王弼注
明以て自ら察し、力を量(はか)りて行えば、其所を失わず、必ず久しく長きを獲(え)る、

    通し番号 179    章内番号 6        識別番号 33_6
本文
死して亡(ほろ)びざる者は寿なり、
王弼注
死すと雖も、生を為すの道は亡(ほろび)ざるを以て、乃ち其寿を全くするを得る、身没して道猶存す、況んや身存して道卒(おわ)らざるをや、


   第三十四章

    通し番号 180    章内番号 1        識別番号 34_1
本文
大道は汎(はん)(兮)として、其れ左右すべし、
王弼注
言えらく、道は氾濫して、適(ゆ)かざる所無し、左右すべしは、上下周旋し、而して用いれば、則ち至らざる所無きなり、

    通し番号 181    章内番号 2        識別番号 34_2
本文
万物は之を恃(たの)みて生じて辞せず、功成り名有らず、万物を衣養して主と為らず、常に欲無し、(於)小と名づくべし、
王弼注
万物皆道に由りて生ず、既に生じて由る所を知らず、故に天下常に無欲の時、万物各(おのおの)所を得る、道は物に施すこと無きが若し、故に小と名づく、

    通し番号 182    章内番号 3        識別番号 34_3
本文
万物帰して主と為らず、名づけて大と為すべし、
王弼注
万物皆之に帰して以て生く、而るに力(つと)めて其由る所を知らしめず、此は小と為さず、故に復た大と名づくべし、

    通し番号 183    章内番号 4        識別番号 34_4
本文
其終(つい)に自ら大と為さざるを以てす、故に能く其大を成す、
王弼注
其細に於て大を為す、其易に於て難を図る、


   第三十五章

    通し番号 184    章内番号 1        識別番号 35_1
本文
大象を執(と)りて、天下に往(ゆ)く、
王弼注
大象は、天象の母なり、寒ならず、溫ならず、涼ならず、故に能く万物を包み統(す)ぶ、犯し傷つける所無し、主若(も)し之を執(と)れば、則ち天下往(ゆ)くなり、

    通し番号 185    章内番号 2        識別番号 35_2
本文
往きて害せず、安平大なり、
王弼注
形無く識(し)ること無し、徧(かたよ)らず彰(あきら)かならず、故に万物往くを得て害妨せざるなり、

    通し番号 186    章内番号 3        識別番号 35_3
本文
楽と餌(じ)は、過客(かかく)止(とど)まる、道の口を出ずるや、淡乎(たんこ)として其れ味無し、之を視て見るに足らず、之を聴きて聞くに足らず、之を用いて既(つ)きるべからず、
王弼注
言えらく、道は深大なり、人は道の言を聞く、乃(しか)るに更(また)楽と餌が時に応じて人の心を感悦するに如かざるなり、楽と餌は則ち能く過客を止(とど)めしむ、而るに道の言を出すは、淡然として味無し、之を視て見るに足らざれば則ち以て其目を悦(よろこ)ばすに足らず、之を聴きて聞くに足らざれば則ち以て其耳を娛(たのし)ますに足らず、中(あた)る所無きが若(ごと)し(然)、乃(しか)るに之を用いれば窮極すべからざるなり、


   第三十六章

    通し番号 187    章内番号 1        識別番号 36_1
本文
将に之を歙(ちぢ)めんと欲すれば、必ず固(もと)より之を張る、将に之を弱めんと欲すれば、必ず固(もと)より之を強くす、将に之を廃せんと欲すれば、必ず固(もと)より之を興す、将に之を奪わんと欲すれば、必ず固(もと)より之に与える、是れ微明と謂う、
王弼注
将に強梁(きょうりょう)を除き、暴乱を去らんと欲すれば、当に此四なるものを以てすべし、物の性に因り、其れをして自ら戮(りく)せしむ、刑を仮(か)らざるを大と為し、以て物を除き将(たす)けるなり、故に微明と曰うなり、其張るを足し、之をして足らしめ又(さら)に其張るを求めしめれば、則ち衆が歙(ちぢ)める所なり、其張るの足らずして改めて其張るを求める者与(より)は、愈(ますます)益(ま)すのみ、反て危し、

    通し番号 188    章内番号 2        識別番号 36_2
本文
柔弱は剛強に勝つ、魚は淵を脱するべからず、国の利器以て人に示すべからず、
王弼注
利器は、国を利するの器なり、唯物の性に因りて、刑を仮(か)りて以て物を理(おさ)めず、器覩(み)るべからずして、物各(おのおの)其所を得れば、則ち国の利器なり、人に示すは、刑に任ずるなり、刑は以て国を利すれば、則ち失う、魚淵を脱すれば則ち必ず失を見る、国を利するの器にして刑を立て以て人に示せば、亦必ず失うなり、


   第三十七章

    通し番号 189    章内番号 1        識別番号 37_1
本文
道は常に為すこと無くて
王弼注
自(おの)ずから然ることに順(したが)うなり、

    通し番号 190    章内番号 2        識別番号 37_2
本文
為さざる無し、
王弼注
万物由りて為し以て治まり以て成さざる無きなり、

    通し番号 191    章内番号 3        識別番号 37_3
本文
侯王若し能く之を守れば、万物将に自ずから化さんとす、化す、而るに作(な)さんと欲す、吾将に之を鎮(しず)めるに無名の樸を以てす、
王弼注
化して作(な)さんと欲すは、作(な)して成るを欲するなり、吾将に之を無名の樸に鎮めんとするは、主と為らざるなり、

    通し番号 192    章内番号 4        識別番号 37_4
本文
無名の樸は、夫れ亦将に欲無からんとす、
王弼注
競うことを欲すること無きなり、

    通し番号 193    章内番号 5        識別番号 37_5
本文
欲せずして以て静ならば、天下将に自ずから定らんとす、
王弼注



   第三十八章

    通し番号 194    章内番号 1        識別番号 38_1
本文
上徳は徳ならず、是を以て徳有り、下徳は徳を失わず、是を以て徳無し、上徳は為すこと無く、以て為(ため)にすること無し、下徳は之を為して以て為(ため)にすること有り、上仁は之を為して以て為(ため)にすること無し、上義は之を為して以て為(ため)にすること有り、上礼は之を為して之に応ずること莫ければ、則ち臂(うで)を攘(まく)りて之に扔(つ)く、故に道を失いて後に徳なり、徳を失いて後に仁なり、仁を失いて後に義なり、義を失いて後に礼なり、夫れ礼は、忠信の薄きにして、乱の首(はじめ)なり、前(すす)んで識るは、道の華にして、愚の始めなり、是を以て大丈夫は其厚きに処(お)り、其薄きに居らず、其実に処(お)り、其華に居らず、故に彼を去り此を取る、
王弼注
徳は、得なり、常に得て喪(うしな)うこと無し、利して害すること無し、故に徳以て名と為す、何を以て徳を得る、道に由るなり、何を以て徳を尽す、無以て用と為す、無以て用と為せば則ち載せざる莫きなり、故に物は無ならば、則ち物が経(へ)ざる無し、有ならば、則ち以て其生を免かるるに足らず、是を以て天地は広しと雖も、無以て心と為す、聖王は大と雖も、虚以て主と為す、故に曰く、復以てして視れば、則ち天地の心見ゆ、至日にして之を思えば、則ち先王は覩(み)るを至すなり、故に其私を滅して其身を無にすれば、則ち四海瞻(み)ざること莫く、遠近至らざること莫し、其己を殊(こと)にして其心を有すれば、則ち一つの体自ずから全くすること能わず、肌(き)骨相容(い)れること能わず、是を以て上徳の人は、唯道是れ用う、其徳を徳とせず、執(と)ること無く用うること無し、故に能く徳有りて為さざること無く、求めずして得、為さずして成る、故に徳ありと雖も徳の名無きなり、下徳は求めて之を得、為して之を成す、則ち善を立て以て物を治む、故に徳の名有り、求めて之を得れば必ず失うこと有り、為して之を成せば必ず敗ること有り、善名生ずれば則ち不善応じること有り、故に下徳は之を為して以て為(ため)にすること有るなり、以て為(ため)にすること無きは、偏(かたよ)り為す所無きなり、凡そ為すこと無きこと能わずして之を為すは、皆下徳なり、仁義礼節は是れなり、将に徳の上下を明らかにせんとす、輒(すなわ)ち下徳を挙げ以て上徳に対す、以て為(ため)にすること無きに至りて極まる、下徳は下の量にて、上仁は是れなり、以て為(ため)にすること無きに於ては及ぶに足る、而るに猶之を為す、之を為して以て為(ため)にすること無し、故に為すことを為すの患(うれ)い有り、本は無為に在り、母は無名に在り、本を棄て母を捨てて其子に適(ゆ)く、功は大と雖も、必ず済(な)さざること有り、名は美と雖も、偽亦必ず生ず、為さずして成り、興(おこ)さずして治まること能わざれば、則ち乃(ここ)で之を為す、故に弘(ひろ)く普(あまね)く博(ひろ)く施す仁にて之を愛する者有れば、之を愛して偏私する所無し、故に上仁は之を為して以て為(ため)にすること無し、愛を兼(おな)じくすること能わざれば、則ち抑(おさ)え抗(あ)げ正真にして義にて之を理(おさ)むる者有り、枉(まが)るに忿(いか)り直(なお)きを祐(たす)く、彼を助け此を攻むに、物は事として心以て為すこと有り、故に上義は之を為して以て為(ため)にすること有るなり、直(なお)きことが篤(あつ)きこと能わざれば則ち飾に游び文を修め、礼して之を敬する者有り、好みを尚(たっと)び敬を修む、往来を校責する、則ち対(こた)えざるの間(ところ)、忿怒(ふんど)生ず、故に上礼は之を為して之に応ずること莫ければ、則ち臂(うで)を攘(まく)り之に扔(つ)く、夫れ大の極なるや、其れ唯道なる乎(かな)、此自(よ)り已往(いおう)、豈尊(たっと)ぶに足らんや、故に徳盛んして業は大にして、富みて万物を有すと雖も、猶各(おのおの)其徳を得て、未だ自ら周(あまね)きこと能わざるなり、故に天は載するを為すこと能わず、地は覆(おお)うを為すこと能わず、人は瞻(み)るを為すこと能わず、万物貴(たっと)きと雖も、無以て用と為す、無を捨て以て体と為すこと能わざるなり、能わずして、無を捨て以て体と為せば、則ち其大と為るを失う、謂う所の道を失いて後徳なり、無以て用と為せば、其母を徳とす、故に能く己労せずして物理(おさ)まらざること無し、此を下りて已往は、則ち用の母を失う、為すこと無きこと能ずして博く施すことを貴(たっと)ぶ、博く施すこと能わずして正しく直きを貴ぶ、正しく直(なお)きこと能ずして飾敬を貴ぶ、謂う所の徳を失いて後に仁、仁を失いて後に義、義を失いて後に礼なり、夫れ礼なるや、始まる所は忠信篤(あつ)からず、通簡陽(あら)われざるを首(はじめ)とす、備わるを表に責め、機微に制を争う、夫れ仁義は內に発す、之を為せば猶偽なり、況んや外飾に務めて久しかるべけんや、故に夫(か)の礼は、忠信の薄きにして乱の首(はじめ)なり、前識は、人に前(すす)みて識るなり、即ち下徳の倫(たぐい)なり、其聡明を竭(つく)し以て前識を為す、其智力を役(つか)い以て庶事を営む、其情を徳とすると雖も、姦巧は弥(ますます)密なり、其誉れを豊かにすると雖も、愈(ますます)篤実を喪(うしな)う、労して事昏(くら)く、務めて治薉(あれ)る、聖智を竭(つく)すと雖も民愈(ますます)害あり、己を舎(す)て物に任ずれば、則ち為すこと無くて泰(やすら)かなり、夫(か)の素樸を守れば、則ち典制が彼の獲(え)る所を聴き、此の守る所を棄てるに、順(したが)わず、識は道の華にして愚の首(はじめ)なり、故に茍(もし)其功を為すの母を得れば、則ち万物作(おこ)りて辞せざるなり、万事存して労せざるなり、用いるに形以てせず、御するに名以てせず、故に仁義顕(あらわ)るべく、礼敬彰(あらわ)るべきなり、夫れ之を載するに大道以てし、之を鎮(しず)めるに無名以てすれば、則ち物尚(たっと)ぶ所無く、志営む所無し、各(おのおの)其真に任せ、其誠を用いるを事とすれば、則ち仁徳は厚く、行義は正しく、礼敬は清し、其載する所を棄て、其生じる所を舎(す)て、其成形を用い、其聡明を役(つか)えば、仁は則ち偽り、義は其れ競い、礼は其れ争う、故に仁徳の厚きは、仁の能くする所を用いるに非ざるなり、行義の正しきは、義の成す所を用いるに非ざるなり、礼敬の清きは、礼の済(な)す所を用いるに非ざるなり、之を載するに道を以てし、之を統(す)ぶるに母を以てす、故に之を顕(あらわ)して尚(たっと)ぶ所無く、之を彰(あらわ)して競う所無し、夫の無名を用う、故に名以て篤(あつ)し、夫の無形を用う、故に形以て成る、母を守り以て其子を存し、本を崇(たっと)び以て其末を挙げれば、則ち形名俱(とも)に有して邪は生ぜず、大美天に配して華作(おこ)らず、故に母は遠ざかるべからず、本は失うべからず、仁義は、母の生む所にして、以て母と為すべきに非ず、形器は、匠(しょう)の成す所にして、以て匠と為すべきに非ざるなり、其母を捨てて其子を用う、其本を棄てて其末に適(ゆ)く、名づくれば則ち分かるる所有り、形すれば則ち止まる所有り、其大を極むと雖も、必ず周(あまね)からざる有り、其美を盛んにすると雖も、必ず憂患有り、功が之を為すに在れば、豈処(お)るに足らんや


   第三十九章

    通し番号 195    章内番号 1        識別番号 39_1
本文
昔の一を得るは、
王弼注
昔、始なり、一、数の始めにして物の極なり、各(おのおの)是れ一が物を之生じ、以て主と為る所なり、物は各(おのおの)此一を得て以て成る、既に成りて以て成に居るを舎(す)つ、成に居れば則ち其母を失う、故皆裂け発(も)れ歇(や)み竭(か)れ滅び蹶(つまず)くなり、

    通し番号 196    章内番号 2        識別番号 39_2
本文
天は一を得て以て清なり、地は一を得て以て寧(ねい)なり、神は一を得て以て霊なり、谷は一を得て以て盈(えい)なり、万物は一を得て以て生なり、侯王は一を得て以て天下の貞(てい)と為る、其れ之を致す、
王弼注
各(おのおの)其一以て此の清、寧、霊、盈、生、貞を致す、

    通し番号 197    章内番号 3        識別番号 39_3
本文
天以て清なること無ければ将に恐らくは裂けん、
王弼注
一を用い以て清を致すのみ、清を用い以て清なるに非ざるなり、一を守れば則ち清失わず、清を用うれば則ち恐らくは裂けるなり、故に功を為すの母は、舎(す)てるべからざるなり、是を以て皆其功を用いること無きは、其本を喪(うしな)うことを恐れるなり、

    通し番号 198    章内番号 4        識別番号 39_4
本文
地は以て寧なること無ければ将に恐らくは発(も)れん、神は以て霊なること無ければ将に恐らくは歇(や)まん、谷は以て盈なること無ければ将に恐らくは竭(か)れん、万物は以て生じること無ければ将に恐らくは滅びん、侯王は以て貴高なること無ければ将に恐らくは蹶(つまず)かん、故(もと)より貴は賎以て本と為す、高は下以て基(もと)と為す、是を以て侯王自ら孤﹑寡﹑不穀と称す、此れ賎以て本と為すに非ざる耶(か)、非か、故に数(しばしば)の誉れを致せば誉れ無し、琭琭(ろくろく)として玉の如きをを欲さず、珞珞(らくらく)として石の如し、
王弼注
清は清を為すこと能わず、盈は盈を為すこと能わず、皆其母を有(たも)ち以て其形を存す、故に清は貴とするに足らず、盈は多しとするに足らず、貴は其母に在り、而るに母は貴の形無し、貴は乃ち賎以て本と為す、高は乃ち下以て基(もと)と為す、故に數(しばしば)の誉れを致せば乃ち誉れ無きなり、玉石の琭琭(ろくろく)珞珞(らくらく)は、体は形に尽きる、故に欲さざるなり、


   第四十章

    通し番号 199    章内番号 1        識別番号 40_1
本文
反は道の動なり、
王弼注
高は下以て基(もと)と為す、貴は賎以て本と為す、有は無以て用と為す、此が其反なり、動は皆其無とする所を知れば、則ち物は通ず、故に、反は道の動と曰うなり、

    通し番号 200    章内番号 2        識別番号 40_2
本文
弱は道の用なり、
王弼注
柔弱は同じく通ず、窮極すべからず、

    通し番号 201    章内番号 3        識別番号 40_3
本文
天下の万物は有に生ず、有は無に生ず、
王弼注
天下の物は皆有以て生ずるを為す、有の始まる所は、無以て本と為す、将に有を全くせんと欲すれば、必ず無に反(かえ)るなり、


   第四十一章

    通し番号 202    章内番号 1        識別番号 41_1
本文
上士は道を聞けば、勤(つと)めて之を行う、
王弼注
志有るなり、

    通し番号 203    章内番号 2        識別番号 41_2
本文
中士は道を聞けば、存(あ)るが若(ごと)く亡(な)きが若し、下士は道を聞けば、大いに之を笑う、笑わざれば、以て道と為すに足らず、故に建言之有り、
王弼注
建、猶立のごときなり、

    通し番号 204    章内番号 3        識別番号 41_3
本文
明道は昧(くら)きが若し、
王弼注
光りて耀(かがや)かず、

    通し番号 205    章内番号 4        識別番号 41_4
本文
進む道は退くが若し、
王弼注
其身を後にして身先んず、其身を外にして身存す、

    通し番号 206    章内番号 5        識別番号 41_5
本文
夷(たいら)かな道は纇(もと)るが若し、
王弼注
纇(らい)、㘨(かい)なり、大夷の道は、物の性に因る、平を執(と)り以て物を割(さ)かず、其平は見(あらわ)れず、乃ち更に反て纇㘨(るいかい)の若きなり、

    通し番号 207    章内番号 6        識別番号 41_6
本文
上徳は谷の若し、
王弼注
其徳を徳とせず、懐(いだ)く所無きなり、

    通し番号 208    章内番号 7        識別番号 41_7
本文
太(はなは)だ白きは辱(けが)るるが若し、
王弼注
其白を知り、其黒を守る、太(はなは)だ白きは然る後乃ち得る、

    通し番号 209    章内番号 8        識別番号 41_8
本文
広き徳は足らざるが若し、
王弼注
広き徳は盈(み)たず、廓然(かくぜん)として形無し、満たすべからざるなり、

    通し番号 210    章内番号 9        識別番号 41_9
本文
徳を建てるは偷(かりそめ)なるが若し、
王弼注
偷(とう)、匹(ひつ)なり、徳を建てるは、物に因り自(おの)ずと然り、立てず施さず、故に偷匹の若し、

    通し番号 211    章内番号 10        識別番号 41_10
本文
質真は渝(かわ)るが若し、
王弼注
質真は、其真を矜(ほこ)らず、故に渝(かわ)る、

    通し番号 212    章内番号 11        識別番号 41_11
本文
大方隅(かど)無し、
王弼注
方にして割(さ)かず、故に隅(かど)無きなり、

    通し番号 213    章内番号 12        識別番号 41_12
本文
大器は晚成す、
王弼注
大器が天下を成すは、全(すべ)て別れるのを持(たす)けず、故に必ず晚(おそ)く成るなり、

    通し番号 214    章内番号 13        識別番号 41_13
本文
大きな音は希声なり、
王弼注
之を聴きて聞こえず名づけて希と曰う、得て聞くべからざるの音なり、声有れば則ち分有り、分有れば則ち宮ならずして商なり、分かるれば則ち衆を統(す)ぶること能わず、故に声有るは大音に非ざるなり、

    通し番号 215    章内番号 14        識別番号 41_14
本文
大きな象(かたち)は形無し、
王弼注
形有れば則ち分有り、分有るは温ならざれば則ち炎なり、炎ならざれば則ち寒なり、故に象にして形あるは、大象に非ず、

    通し番号 216    章内番号 15        識別番号 41_15
本文
道は隠れて名無し、夫れ唯道、善く貸(ほどこ)し且つ成す、
王弼注
凡そ此諸(もろもろ)の善は、皆是れ道の成す所なり、象に在れば則ち大象と為りて、大象は形無し、音に在りては則ち大音と為りて、大音は声希(すくな)し、物は之を以て成りて其成形を見(あら)わさず、故に隠れて名無きなり、之を貸(ほどこ)すは唯其乏に供するのみに非ず、一たび之を貸(ほどこ)せば則ち以て永く其徳を終(な)すに足る、故に善く貸(ほどこ)すと曰うなり、之を成すことは機匠の裁を加えず、物にして其形を済(な)さざる無し、故に善く成すと曰う、


   第四十二章

    通し番号 217    章内番号 1        識別番号 42_1
本文
道は一を生ず、一は二を生ず、二は三を生ず、三は万物を生ず、万物は陰を負いて陽を抱く、沖気以て和を為す、人の悪(にく)む所は、唯(ただ)孤﹑寡﹑不穀なり、而るに王公以て称と為す、故に物之を損(へ)らして益(ま)すこと或(あ)り、之を益(ま)して損(へ)らすこと或(あ)り、
王弼注
万物万形は、其帰は一なり、何に由りて一に致る、無に由るなり、無に由りて乃ち一なり、一は無と謂うべし、已に之を一と謂えば、豈言無きことを得んや、言有りて一有り、二に非ずして如何、一有りて二有り、遂に(乎)三を生ず、無従(よ)り有に之く、数は斯に尽く、此を過ぎて以往は、道の流れに非ず、故に万物が生ずるには、吾其主を知る、万の形有ると雖も、沖気は一なり、百姓は心有り、異国は風を殊(こと)にす、而るに一を得る者は、王侯の主たり、一以て主と為る、一は何ぞ舎(す)つべき、愈(ますます)多ければ愈(ますます)遠し、損(へ)らせば則ち之に近づく、之を損(へ)らして尽くるに至れば、乃ち其極を得る、既に之を一と謂えば、猶乃ち三に至る、況んや本が一ならずして道近づくべけんや、之を損(へ)らして益(ま)す、豈虚言ならんや、

    通し番号 218    章内番号 2        識別番号 42_2
本文
人の教うる所、我亦之を教う、
王弼注
我は強いて人をして之に従わしめるに非ざるなり、夫の自ずから然ることを用い、其至理を挙ぐ、之に順(したが)えば必ず吉なり、之に違えば必ず凶なり、故(もと)より人相教うるに、之に違えば自ら其凶を取るなり、(亦)如(まさ)に我が人に教えんとす、之に違うこと勿(な)きなり、

    通し番号 219    章内番号 3        識別番号 42_3
本文
強梁なる者は其死を得ず、吾将に以て教父と為らんとす、
王弼注
強梁は則ち必ず其死を得ず、人相教えるに強梁を為す、則(しか)るに必ず我の人に教えるが如く当に強梁を為すべからざるべきなり、其強梁を挙げれば其死を得ずして以て教えるか、若(かくのごと)く云わん、吾が之を教えるに順(したが)えば必ず吉なり、故に其教に違うの徒を得れば、適(まさ)に以て教父と為るべきなり、


   第四十三章

    通し番号 220    章内番号 1        識別番号 43_1
本文
天下の至柔は、天下の至堅に馳騁(ちてい)す、
王弼注
気は入らざる所無し、水は経に出でざる所無し、

    通し番号 221    章内番号 2        識別番号 43_2
本文
有ること無きは間(すき)無きに入る、吾是を以て為すこと無きの益有るを知る、
王弼注
虛無柔弱は、通ぜざる所無し、無有は窮むべからず、至柔は折るべからず、此を以て之を推す、故に無為の益有るを知るなり、

    通し番号 222    章内番号 3        識別番号 43_3
本文
不言の教え、無為の益は、天下之に及ぶこと希(まれ)なり、
王弼注



   第四十四章

    通し番号 223    章内番号 1        識別番号 44_1
本文
名と身と孰(いず)れか親(ちか)し、
王弼注
名を尚(たっと)び高きを好めば、其身必ず疏(とお)し、

    通し番号 224    章内番号 2        識別番号 44_2
本文
身と貨と孰(いず)れか多(まさ)る、
王弼注
貨を貪(むさぼ)りて厭(あ)くこと無ければ、其身必ず少し、

    通し番号 225    章内番号 3        識別番号 44_3
本文
得ると亡(うしな)うと孰か病(や)む、
王弼注
多利を得て其身を亡(うしな)う、何者(いずれ)を病と為す、

    通し番号 226    章内番号 4        識別番号 44_4
本文
是故に甚だ愛すれば必ず大いに費(つい)やす、多く蔵せば必ず厚く亡(うしな)う、
王弼注
甚だ愛(おし)めば物と通ぜず、多く蔵せば物と散ぜず、之を求める者多く、之を攻むる者衆(おお)く、物は病(や)む所と為る、故に大いに費(つい)やし厚く亡(うしな)うなり、

    通し番号 227    章内番号 5        識別番号 44_5
本文
足るを知れば辱(はずか)しめられず、止(とど)まるを知れば殆(あや)うからず、以て長久なるべし、
王弼注



   第四十五章

    通し番号 228    章内番号 1        識別番号 45_1
本文
大成は欠(か)けるが若し、其用弊(やぶ)れず、
王弼注
物に随(したが)いて成り、一象を為さず、故に欠(か)けるが若きなり、

    通し番号 229    章内番号 2        識別番号 45_2
本文
大盈(えい)は沖(ちゅう)なるが若し、其用は窮(きわ)まらず、
王弼注
大盈(えい)は充足なり、物に随(したが)いて与(くみ)す、愛し矜(ほこ)る所無し、故に沖(ちゅう)の若し、

    通し番号 230    章内番号 3        識別番号 45_3
本文
大直は屈(まが)るが若し、
王弼注
物に随(したが)いて直(なお)し、直の下(もと)は一に在り、故に屈(まが)るが若きなり、

    通し番号 231    章内番号 4        識別番号 45_4
本文
大巧は拙(つたな)きが若し、
王弼注
大巧は、自然に因りて以て器を成す、異なる端を造り為さず、故に拙(つたな)きが若きなり、

    通し番号 232    章内番号 5        識別番号 45_5
本文
大弁は訥なるが若し
王弼注
大弁は物に因りて言う、己が造る所無し、故に訥なるが若きなり、

    通し番号 233    章内番号 6        識別番号 45_6
本文
躁は寒に勝つ、静は熱に勝つ、清静は天下の正為(た)り、
王弼注
躁罷(や)み然る後寒に勝つ、静は無為にして以て熱に勝つ、此を以て之を推せば、則ち清静は天下の正為(た)るなり、静なれば則ち物の真を全くす、躁なれば則ち物の性を犯す、故に惟(ただ)清静なれば乃ち上の如き諸(もろもろ)の大を得るなり、


   第四十六章

    通し番号 234    章内番号 1        識別番号 46_1
本文
天下に道有れば、走馬を卻(しりぞ)け以て糞(つちか)う、
王弼注
天下道有れば、足るを知り止(とど)まるを知る、外に求めること無し、各(おのおの)其內を修めるのみ、故に走馬を卻(しりぞ)け以て田を治め糞(つちか)うなり、

    通し番号 235    章内番号 2        識別番号 46_2
本文
天下に道無ければ、戎馬(じゅうば)郊(ちか)くに生ず、
王弼注
貪欲は厭(あ)くこと無し、其內を修めず、各(おのおの)外に求む、故に戎馬(じゅうば)郊に生じるなり、

    通し番号 236    章内番号 3        識別番号 46_3
本文
禍(わざわい)は足るを知らざるより大なるは莫し、咎(つみ)は得るを欲するより大なるは莫し、故に足るを知るの足るは、常に足る、
王弼注



   第四十七章

    通し番号 237    章内番号 1        識別番号 47_1
本文
戸を出ずして、天下を知る、牖(まど)を窺(うかが)わずして、天道を見る、
王弼注
事は宗有りて、物は主有り、途(みち)は殊(こと)なると雖も帰を同じくするなり、慮は百と雖も其致は一なり、道に大常有り、理に大致有り、古の道を執(と)りて、以て今を御すべし、今に処(お)ると雖も、以て古始を知るべし、故に戸を出で牖(まど)を窺(うかが)わずして知るべきなり、

    通し番号 238    章内番号 2        識別番号 47_2
本文
其出ること弥(ますます)遠ければ、其知ること弥(ますます)少し、
王弼注
一に在りて之を衆(おお)きに求めること無きなり、道は之を視て見るべからず、之を聴きて聞くべからず、之を搏(と)りて得るべからず、如(も)し其れ之を知れば、戸を出るを須(ま)たず、若(も)し其れ知らざれば、出ること愈(ますます)遠くして愈(ますます)迷うなり、

    通し番号 239    章内番号 3        識別番号 47_3
本文
是を以て聖人は行かずして知る、見ずして名づく、
王弼注
物の致を得る、故に行かずと雖も慮知るべきなり、物の宗を識(し)る、故に見ずと雖も、是非の理は得て名づくべきなり、

    通し番号 240    章内番号 4        識別番号 47_4
本文
為さずして成る、
王弼注
物の性を明らかにして、之に因るのみ、故に為さずと雖も之をして成らしめる、


   第四十八章

    通し番号 241    章内番号 1        識別番号 48_1
本文
学を為すは、日に益(ま)す、
王弼注
務めて其能(よ)くする所を進め、其習う所を益(ま)さんと欲す、

    通し番号 242    章内番号 2        識別番号 48_2
本文
道を為すは日に損(へ)らす、
王弼注
務めて虛無に反(かえ)るを欲するなり、

    通し番号 243    章内番号 3        識別番号 48_3
本文
之を損(へ)らして又(さら)に損(へ)らす、以て為すこと無きに至る、為すこと無くて為さざる無し、
王弼注
為すこと有れば則ち失う所有り、故に為すこと無ければ乃ち為さざる所無きなり、

    通し番号 244    章内番号 4        識別番号 48_4
本文
天下を取るは常に事無きを以てす、
王弼注
動くは常に因るなり、

    通し番号 245    章内番号 5        識別番号 48_5
本文
其事有るに及びては、
王弼注
己自(よ)り造(な)すなり、

    通し番号 246    章内番号 6        識別番号 48_6
本文
以て天下を取るに足らず、
王弼注
本を統(す)ぶるを失うなり、


   第四十九章

    通し番号 247    章内番号 1        識別番号 49_1
本文
聖人は常の心無し、百姓の心以て心と為す、
王弼注
動くは常に因るなり、

    通し番号 248    章内番号 2        識別番号 49_2
本文
善なる者、吾之を善とす、不善なる者、吾亦之を善とす、
王弼注
各(おのおの)其用に因れば則ち善を失わざるなり、

    通し番号 249    章内番号 3        識別番号 49_3
本文
徳は善なればなり、
王弼注
人を棄てること無きなり、

    通し番号 250    章内番号 4        識別番号 49_4
本文
信なる者、吾之を信とす、信ならざる者、吾亦之を信とす、徳は信なればなり、聖人が天下に在れば、歙歙(きゅうきゅう)として天下の為に其心を渾(こん)にす、百姓は皆其耳目を注ぐ、
王弼注
各(おのおの)聡明を用う、

    通し番号 251    章内番号 5        識別番号 49_5
本文
聖人は皆之を孩(がい)にす、
王弼注
皆和して欲無く、嬰児の如くならしめるなり、夫れ天地位を設け、聖人能を成す、人謀り鬼謀り、百姓(ひゃくせい)能に与(あずか)るは、能なる者は之に与(あずか)り、資なるは之に取る、能大なれば則ち大とす、資貴(たっと)ければ則ち貴とす、物に其宗有り、事に其主有り、此如ければ則ち冕(べん)旒(りゅう)目を充(おお)いて欺くを懼(おそ)れず、黈纊(とうこう)耳を塞(ふさ)ぎて慢(おこた)るを戚(うれ)うこと無かるべし、又何為(なんすれ)ぞ一身の聡明を労して、以て百姓の情を察せんや、夫れ明以て物を察すれば、物亦競いて其明以て之に応ず、不信以て物を察すれば、物亦競いて其不信以て之に応ず、夫れ天下の心は、必ずしも同じからず、其応じる所は敢えて異ならざれば則ち肯(あ)えて其情を用いること莫し、甚だしい矣(かな)害の大なるや、其明を用いるより大なるは莫し、夫れ智に在れば則ち人之と訟す、力に在れば則ち人之と争う、智が人より出ずして訟地に立てば、則ち窮す、力が人より出ずして争地に立てば、則ち危うし、未だ能く人をして其智力を己に用いること無からしむ者有らざるなり、此如ければ則ち己は一以て人に敵(あた)る、而して人は千万以て己に敵(あた)るなり、若し乃ち其法網を多くし、其刑罰を煩(わずらわ)しくし、其径路を塞(ふさ)ぎ、其幽宅を攻めれば、則ち万物其自然を失い、百姓は其手足を喪(うしな)い、鳥は上に乱れ、魚は下に乱る、是を以て聖人の天下に於るは、歙歙焉(きゅうきゅうえん)として、心は主とする所無きなり、天下の為に心を渾にす、意は適莫(てきばく)する所無きなり、察する所無ければ、百姓何をか避けん、求める所無ければ、百姓何をか応ぜん、避くること無く応じること無ければ、則ち其情を用いざる莫し、人は其能くする所を舎(す)てて其能わざる所を為し、其長とする所を舎(す)てて其短とする所を為すを為すこと無し、此如ければ、則ち言は其知る所を言う、行は其能くする所を行う、百姓は各(おのおの)皆其耳目を注(そそ)ぐも、吾皆之を孩(がい)にするのみ、


   第五十章

    通し番号 252    章内番号 1        識別番号 50_1
本文
生を出て死に入る、
王弼注
生の地を出て、死の地に入る、

    通し番号 253    章内番号 2        識別番号 50_2
本文
生の徒は、十に三有り、死の徒は、十に三有り、人の生くるに、動きて死地に之(ゆ)く、亦十に三有り、夫れ何の故ぞ、其生を生(やしな)うの厚きを以てなり、蓋し聞く、善く生を摂する者は、陸行して兕虎(じこ)に遇(あ)わず、軍に入りて甲兵を被(こうむ)らず、兕は(じ)其角(つの)を投ずる所無し、虎は其爪を措(お)く所無し、兵は其刃(やいば)を容(い)れる所無し、夫れ何の故ぞ、其死地無きを以てなり、
王弼注
十に三有りは、猶十分に三分有りと云うがごときなり、其生道を取り、生の極を全(まった)くするは、十分に三有るのみ、死の道を取り、死の極を全くするは、亦十分に三有るのみ、民が生を生(やしな)うの厚きは、更(か)わりて生無きの地に之(ゆ)く、善く生を摂する者は生以て生と為すこと無し、故に死地無きなり、器の害は、戈兵(かへい)より甚だしきは莫し、獣の害は、兕虎(じこ)より甚だしきは莫し、而るに兵戈(か)をして其鋒刃(ほうじん)容(い)れる所無く、虎兕(こじ)をして其爪角(そうかく)を措(お)く所無からしむ、斯れ誠に欲以て其身を累さざる者なり、何ぞ死地之有らん、夫れ蚖(げん)蟺(せん)淵以て浅と為し、穴を其中に鑿(うが)つ、鷹鸇(ようせん)山以て卑(ひく)しと為して、巣を其上に増(くわ)える、矰繳(そうしゃく)及ぶこと能わず、網罟(もうこ)到ること能わず、死地無きに処(お)ると謂うべし、然り而して卒(つい)に甘餌以て、乃ち生無きの地に入る、豈生を生(やしなう)の厚きに非ざるや、故に物は苟(もし)求めることを以て其本を離れず、欲を以て其真を渝(か)えざれば、軍に入ると雖も害せられず、陸行して犯すべからざるなり、赤子は則(のっと)り貴ぶべしは信なり、


   第五十一章

    通し番号 256    章内番号 3        識別番号 51_3
本文
道の尊く、徳の貴きは、夫れ之に命ずること莫くて常に自ずから然るなり、
王弼注
命は並(みな)爵に作る、

    通し番号 257    章内番号 4        識別番号 51_4
本文
故に道之を生じ、徳之を畜(やしな)う、之を長(ま)し之を育て、之を亭(ととの)へ之を毒(あつ)くし、之を養(まも)り之を覆(おお)う、
王弼注
其実を成し、各(おのおの)其庇蔭(ひいん)を得て、其体を傷つけざるを謂う、

    通し番号 258    章内番号 5        識別番号 51_5
本文
生じて有(たも)たず、為して恃(たの)まず、
王弼注
為して有(たも)たず、

    通し番号 259    章内番号 6        識別番号 51_6
本文
長じて宰(さい)せず、是れ玄徳と謂う、
王弼注
徳有りて其主を知らざるなり、幽冥より出る、是を以て之を玄徳と謂うなり、

    通し番号 254    章内番号 1        識別番号 51_1
本文
道之を生ず、徳之を畜(やしな)う、物之を形づくる、勢之を成す、
王弼注
物が生じて後に畜(やしな)う、畜(やしな)いて後に形づくる、形づくりて後に成る、何に由りて生ず、道なり、何を得て畜(やしな)う、徳なり、何に由(よ)りて形づくる、物なり、何を使いて成る、勢なり、唯因るなり、故に能く物にして形づくらざること無し、唯勢なり、故に能く物にして成らざること無し、凡そ物が以て生ずる所、功が以て成る所は、皆由る所有り、由る所有れば、則ち道に由らざること莫きなり、故に推して之を極めれば、亦(ただ)道に至るなり、其因る所に随(したが)う、故に各(おのおの)称(かな)うこと有り、

    通し番号 255    章内番号 2        識別番号 51_2
本文
是を以て万物は道を尊(たっと)び徳を貴(たっと)ばざることなし、
王弼注
道は、物の由る所なり、徳は、物の得る所なり、之に由れば乃ち得る、故に曰く、之を尊(たっと)ぶことを失わざるを得ざれば、則ち害なり、貴(たっと)ばざるを得ざるなり、


   第五十二章

    通し番号 260    章内番号 1        識別番号 52_1
本文
天下に始め有り、以て天下の母と為す、
王弼注
善く之を始めれば則ち善く之を養畜す、故に天下に始め有れば則ち以て天下の母と為すべし、

    通し番号 261    章内番号 2        識別番号 52_2
本文
既に其母を知り、復(ま)た其子を知る、既に其子を知り、復(ま)た其母を守る、身没するまで殆(あや)うからず、
王弼注
母は、本(もと)なり、子は、末なり、本を得て以て末を知る、本を舎(す)て以て末を逐(お)わざるなり、

    通し番号 262    章内番号 3        識別番号 52_3
本文
其兌(あな)を塞(ふさ)ぎ、其門を閉ずれば、
王弼注
兌(あな)は、欲の由りて生じる所を事とし、門は、欲の由りて從う所を事とするなり、

    通し番号 263    章内番号 4        識別番号 52_4
本文
終身勤ならず、
王弼注
事無く永(なが)く逸(たの)しむ、故に終身勤ならざるなり、

    通し番号 264    章内番号 5        識別番号 52_5
本文
其兌(あな)を開き、其事を濟(な)せば、終身救われず、
王弼注
其原(みなもと)を閉ざさずして其事を濟(な)す、故に身を終うと雖も救われず、

    通し番号 265    章内番号 6        識別番号 52_6
本文
小を見るを明と曰う、柔を守るを強と曰う、
王弼注
治を為すの功は大に在らず、大を見るは明ならず、小を見るは乃ち明なり、強を守るは強ならず、柔を守るは乃ち強なり、

    通し番号 266    章内番号 7        識別番号 52_7
本文
其光を用いて、
王弼注
道を顕(あらわ)して以て民の迷いを去る、

    通し番号 267    章内番号 8        識別番号 52_8
本文
其明に復帰すれば、
王弼注
明察せざるなり、

    通し番号 268    章内番号 9        識別番号 52_9
本文
身の殃(わざわい)を遺(のこ)すこと無し、是れ習常と謂う、
王弼注
道の常なり、


   第五十三章

    通し番号 269    章内番号 1        識別番号 53_1
本文
我をして介然(かいぜん)として知有らしめば、大道を行くに、唯(ただ)施(し)是れ畏る、
王弼注
言えらく、若し我をして介然として知有りて大道を天下に行うべからしめれば、唯(ただ)之を施為する、是れ畏るなり、

    通し番号 270    章内番号 2        識別番号 53_2
本文
大道は甚だ夷(たいら)かなり、而るに民は径を好む、
王弼注
言えらく、大道は蕩然(とうぜん)として正平なり、而るに民猶尚(なお)之を舎(す)てて由らず、邪径を好み従う、況んや復た施為して以て大道の中を塞(ふさ)ぐをや、故に曰く、大道は甚だ夷(たいら)かなり、而るに民は径を好む、

    通し番号 271    章内番号 3        識別番号 53_3
本文
朝は甚だ除(きよ)む、
王弼注
朝は、宮室なり、除は、潔好なり、

    通し番号 272    章内番号 4        識別番号 53_4
本文
田は甚だ蕪(あ)れ、倉は甚だ虚(むな)し、
王弼注
朝は甚だ除(きよ)し、則(しかる)に田は甚だ蕪(あ)れ、倉は甚だ虚(むな)し、一を設けて衆害生ずるなり、

    通し番号 273    章内番号 5        識別番号 53_5
本文
文綵(さい)を服し、利剣を帯(お)び、飲食に厭(あ)く、財貨余り有り、是れ盜夸(こ)と謂う、道に非ざるかな、
王弼注
凡そ物は其道以て之を得ざれば則ち皆邪なり、邪は則ち盗なり、夸(おご)りて其道以て之を得ざるは、位を竊(ぬす)むなり、故に非道を挙げ以て非道は則ち皆盗夸(こ)なるを明らかにするなり、


   第五十四章

    通し番号 274    章内番号 1        識別番号 54_1
本文
善く建てたるは拔けず、
王弼注
其根を固くして後に其末を営む、故に拔けざるなり、

    通し番号 275    章内番号 2        識別番号 54_2
本文
善く抱くは脱せず、
王弼注
多きを貪(むさぼ)らず、其能くする所を斉(ととの)う、故に脱せざるなり、

    通し番号 276    章内番号 3        識別番号 54_3
本文
子孫は以て祭祀(さいし)して輟(や)まず、
王弼注
子孫此道を伝え以て祭祀(さいし)すれば則ち輟(や)まざるなり、

    通し番号 277    章内番号 4        識別番号 54_4
本文
之を身に於て修めれば、其徳乃ち真なり、之を家に於て修めれば、其徳乃ち余りあり、
王弼注
身を以て人に及ぼすなり、之を身に修めれば則ち真なり、之を家に修めれば則ち余り有り、之を修めて廃さざれば、施す所転(うた)た大なり、

    通し番号 278    章内番号 5        識別番号 54_5
本文
之を鄉に於て修めれば、其徳は乃ち長し、之を国に於て修めれば、其徳は乃ち豊かなり、之を天下に於て修めれば、其徳は乃ち普(あまね)し、故に身以て身を観る、家以て家を観る、鄉以て鄉を観る、国以て国を観る、
王弼注
彼皆然るなり、

    通し番号 279    章内番号 6        識別番号 54_6
本文
天下以て天下を観る、
王弼注
天下の百姓の心を以て天下の道を観るなり、天下の道は、逆順吉凶、亦皆人の道の如きなり、

    通し番号 280    章内番号 7        識別番号 54_7
本文
吾は何を以て天下の然るを知るや、此を以てなり、
王弼注
此は上の云う所なり、言えらく、吾何を以て天下を知ることを得るか、己を察し以て之を知り、外に求めざるなり、謂う所の戸を出ずして以て天下を知るものなり、


   第五十五章

    通し番号 281    章内番号 1        識別番号 55_1
本文
含徳の厚きは、赤子に比(なぞら)う、蜂(ほう)蠆(たい)虺蛇(きだ)螫(さ)さず、猛獣拠(つか)まず、攫鳥(かくちょう)搏(う)たず、
王弼注
赤子は求めること無く欲すること無し、衆物を犯さず、故に毒蟲の物は之(この)人を犯すこと無きなり、含徳の厚きは、物に犯されず、故に物が以て其全きを損(そこ)なうことは無きなり、

    通し番号 282    章内番号 2        識別番号 55_2
本文
骨弱く筋柔かにして握(にぎ)ること固し、
王弼注
柔弱の故を以てす、故に握ること能く周(あまね)く固し、

    通し番号 283    章内番号 3        識別番号 55_3
本文
未だ牝牡(ひんぼ)の合を知らずして全く作(な)す、
王弼注
作は、長なり、物は以て其身を損なうこと無し、故に能く全く長(そだ)つなり、言えらく、含徳の厚き者は、物は以て其徳を損い、其真を渝(かえ)るべきこと無し、柔弱にして争わずして摧折(さいせつ)せざるは、皆此若きなり、

    通し番号 284    章内番号 4        識別番号 55_4
本文
精の至りなり、終日號(な)いて嗄(か)れず、
王弼注
争欲の心無し、故に終日声を出して嗄(か)れざるなり、

    通し番号 285    章内番号 5        識別番号 55_5
本文
和の至りなり、和を知るを常と曰う、
王弼注
物は和以て常と為す、故に和を知れば則ち常を得るなり、

    通し番号 286    章内番号 6        識別番号 55_6
本文
常を知るを明と曰う、
王弼注
皦(あきら)かならずして昧(くら)からず、温(あたた)かからずして涼(すずし)からず、此の常や、形無し、得て見るべからず、明と曰うなり、

    通し番号 287    章内番号 7        識別番号 55_7
本文
生を益(ま)すを祥(しょう)と曰う、
王弼注
生は益(ま)すべからず、之を益せば則ち夭(よう)す、

    通し番号 288    章内番号 8        識別番号 55_8
本文
心が気を使うを強と曰う、
王弼注
心は宜しく有ること無かるべし、気を使えば則ち強なり、

    通し番号 289    章内番号 9        識別番号 55_9
本文
物は壮(さかん)なれば、則ち老(おとろ)う、之を不道と謂う、不道は早く已(や)む、
王弼注



   第五十六章

    通し番号 290    章内番号 1        識別番号 56_1
本文
知るは言わざることなり
王弼注
自ずから然るに因るなり、

    通し番号 291    章内番号 2        識別番号 56_2
本文
言うは知ることならず、
王弼注
事の端を造るなり、

    通し番号 292    章内番号 3        識別番号 56_3
本文
其兌(あな)を塞(ふさ)ぎ、其門を閉じ、其鋭を挫(くじ)く、
王弼注
質を含(いだ)き守るなり、

    通し番号 293    章内番号 4        識別番号 56_4
本文
其分を解く、
王弼注
争いの原(みなもと)を除くなり、

    通し番号 294    章内番号 5        識別番号 56_5
本文
其光を和す、
王弼注
特に顕(あら)わす所無ければ則ち物は偏(かたよ)り争う所無きなり、

    通し番号 295    章内番号 6        識別番号 56_6
本文
其塵を同じくす、
王弼注
特に賎(いや)しむ所無ければ則ち物は偏(かたよ)り恥じる所無し、

    通し番号 296    章内番号 7        識別番号 56_7
本文
是を玄同と謂う、故に得て親しむべからず、得て疏(うとん)ずるべからず、
王弼注
得て親しむべければ、則ち得て疏んずるべきなり、

    通し番号 297    章内番号 8        識別番号 56_8
本文
得て利するべからず、得て害するべからず、
王弼注
得て利するべければ、則ち得て害するべきなり、

    通し番号 298    章内番号 9        識別番号 56_9
本文
得て貴(たっと)ぶべからず、得て賎(いや)しむべからず、
王弼注
得て貴ぶべければ、則ち得て賎(いや)しむべきなり、

    通し番号 299    章内番号 10        識別番号 56_10
本文
故に天下の貴と為る、
王弼注
物の以て之に加うるべきこと無きなり、


   第五十七章

    通し番号 300    章内番号 1        識別番号 57_1
本文
正以て国を治めれば、奇以て兵を用う、無事以てすれば天下を取る、
王弼注
道以て国を治めれば則ち国は平らかなり、正以て国を治めれば則ち奇正起こるなり、無事以てすれば則ち能く天下を取るなり、上章に云う、其の天下を取るは、常に事無きを以てす、其事有るに及びては、又以て天下を取るに足らざるなり、故に正以て国を治めれば則ち以て天下を取るに足らずして、奇以て兵を用いるなり、夫れ道以て国を治めれば、本を崇(たっと)びて以て末を息(や)む、正以て国を治めれば、辟(のり)を立て以て末を攻(おさ)む、本立たずして末浅し、民に及ぶ所無し、故に必ず奇に於て兵を用いるに至るなり、

    通し番号 301    章内番号 2        識別番号 57_2
本文
吾何を以て其然るを知るや、此を以てなり、天下に忌諱(きき)多くして、民彌(いよいよ)貧し、民に利器多くして、国家滋(ますます)昏(みだ)る、
王弼注
利器は、凡そ以て己を利する所の器なり、民強ければ則ち国家は弱し 、

    通し番号 302    章内番号 3        識別番号 57_3
本文
人に伎巧多くして、奇物滋(ますます)起こる、
王弼注
民に智慧多ければ則ち巧偽生ず、巧偽生ずれば則ち邪事起る、

    通し番号 303    章内番号 4        識別番号 57_4
本文
法令滋(ますます)彰(あきら)かにして、盗賊多く有り、
王弼注
正を立て以て邪を息(や)めんと欲す、而るに奇の兵用多し、忌諱(きき)は以て貧を恥じるを欲す、而るに民弥(いよいよ)貧し、利器は以て国を強くするを欲するものなり、而るに国は愈(いよいよ)昏(みだ)れること多し、皆本を舎(す)て以て末を治む、故に以て此を致すなり、

    通し番号 304    章内番号 5        識別番号 57_5
本文
故に聖人は云う、我は為すこと無くて民は自ずから化す、我は静を好みて民は自ずから正し、我は事とすること無くて民は自ずから富む、我は欲すること無くて民は自ずから樸(ぼく)なり、
王弼注
上の欲する所、民は之に従うこと速きなり、我の欲する所、唯無欲にして民亦無欲にして自ずから樸なり、此四は、本を崇(たっと)び以て末を息(や)むるなり、


   第五十八章

    通し番号 305    章内番号 1        識別番号 58_1
本文
其政が悶悶(もんもん)たれば、其民は淳淳(じゅんじゅん)たり、
王弼注
言えらく、善治の政は、形無く、名無く、事無く、正の挙ぐべきこと無し、悶悶然(もんもんぜん)として、卒(つい)に大治に至る、故に其政は悶悶と曰うなり、其民は争競する所無く、寬大淳淳たり、故に其民は淳淳と曰うなり、

    通し番号 306    章内番号 2        識別番号 58_2
本文
其政が察察たれば、其民は欠欠たり、
王弼注
刑名を立て、賞罰を明らかにし、以て姦偽を検す、故に察察と曰うなり、類を殊(こと)にし分析すれば、民は争い競うことを懐(おも)う、故に其民は欠欠と曰うなり、

    通し番号 307    章内番号 3        識別番号 58_3
本文
禍(兮)は福の倚(よ)る所なり、福(兮)は禍の伏する所なり、孰(たれ)か其極を知らん、其れ正無し、
王弼注
言えらく、誰か善治の極を知るか、唯(ただ)正しく挙げるべきこと無く、形名すべきこと無し、悶悶然として天下大いに化す、是れ其極なり、

    通し番号 308    章内番号 4        識別番号 58_4
本文
正は復(ま)た奇と為る、
王弼注
正以て国を治めれば、則ち便(すぐ)に復(また)奇以て兵を用う、故に正は復(ま)た奇と為ると曰う、

    通し番号 309    章内番号 5        識別番号 58_5
本文
善は復(ま)た妖(よう)と為る、
王弼注
善を立て以て万物を和すれば、則ち便(すぐ)に復た妖の患有るなり、

    通し番号 310    章内番号 6        識別番号 58_6
本文
人の迷うは、其日固(もと)より久し、
王弼注
言えらく、人が迷い惑(まど)い道を失うことは、固より久し、便(すなわ)ち正(まさ)に善治は以て責(もと)むべからず、

    通し番号 311    章内番号 7        識別番号 58_7
本文
是を以て聖人は方にして割(さ)かず、
王弼注
方以て物を導き、其邪を舎(す)て去り、方以て物を割(さ)かず、謂う所の大方は隅無しなり、

    通し番号 312    章内番号 8        識別番号 58_8
本文
廉にして劌(そこな)わず、
王弼注
廉は、清廉なり、劌(けい)は、傷なり、清廉以て民を清くし、其邪を去らしめ、其汙(お)を去らしむ、清廉以て物を劌(けい)傷せざるなり、

    通し番号 313    章内番号 9        識別番号 58_9
本文
直にして肆(し)ならず、
王弼注
直以て物を導き、其僻(かたよ)りを去らしめ、直以て物に激沸せざるなり、謂う所の大直は屈(まが)るが若きなり、

    通し番号 314    章内番号 10        識別番号 58_10
本文
光ありて燿(かがや)かず、
王弼注
光以て其以て迷う所を鑑(うつ)し、光以て其隠慝するを照らし求めざるなり、謂う所の明道は昧(くら)きが若きなり、此は皆本を崇(たっと)び以て末を息(や)む、攻めずして之を復せしめるなり、


   第五十九章

    通し番号 315    章内番号 1        識別番号 59_1
本文
人を治め天に事(つか)えるは、嗇(しょく)に若(し)くは莫し、
王弼注
如(し)くは莫しは、猶過ぐること莫きがごときなり、嗇(しょく)は、農夫なり、農人の田を治むるは、務めて其殊類をを去り、斉一に帰するなり、其自然を全くして、其荒病に急がず、其荒病する所以を除く、上は天命を承け、下は百姓を綏(やす)んず、此に過ぐることは莫し、

    通し番号 316    章内番号 2        識別番号 59_2
本文
夫れ唯嗇、是れ早く服すと謂う、
王弼注
早く常に服するなり、

    通し番号 317    章内番号 3        識別番号 59_3
本文
早く服する、之を徳を重積すると謂う、
王弼注
唯徳を重積し鋭速を欲せず、然る後乃(すなわ)ち能く早く其常に服せしむ、故に早く服する之を徳を重積するものと曰うなり、

    通し番号 318    章内番号 4        識別番号 59_4
本文
徳を重積すれば則ち克(よ)くせざる無し、克(よ)くせざる無ければ則ち其極を知ること莫し、
王弼注
道は窮(きわま)ること無きなり、

    通し番号 319    章内番号 5        識別番号 59_5
本文
其極を知ること莫ければ、以て国を有(たも)つべし、
王弼注
窮まること有るを以てして国に莅(のぞ)めば、能く国を有つこと非ざるなり、

    通し番号 320    章内番号 6        識別番号 59_6
本文
国の母を有てば、以て長く久しかるべし、
王弼注
国の以て安んずる所は之を母と謂う、徳を重積する是れ唯其根を図る、然る後末を営む、乃ち其終を得るなり、

    通し番号 321    章内番号 7        識別番号 59_7
本文
是れ根を深くし柢(こん)を固くすと謂う、長生久視の道なり、
王弼注



   第六十章

    通し番号 322    章内番号 1        識別番号 60_1
本文
大国を治めるは、小鮮(せん)を烹(に)るが若し、
王弼注
擾(じょう)ならざるなり、躁なれば則ち害多し、静なれば則ち真を全くす、故に其国弥(ますます)大にして、其主弥(ますます)静なり、然る後乃ち能く広く衆の心を得る、

    通し番号 323    章内番号 2        識別番号 60_2
本文
道以て天下に莅(のぞ)めば、其鬼は神ならず、
王弼注
大国を治めるは則ち小鮮を烹るが若し、道以て天下に蒞(のぞ)めば則ち其鬼は神ならざるなり、

    通し番号 324    章内番号 3        識別番号 60_3
本文
其鬼は神ならずでは非ず、其神が人を傷つけず、
王弼注
神は自然を害さざるなり、物が自然を守れば、則ち神は加える所無し、神が加える所無ければ、則ち神の神為るを知らざるなり、

    通し番号 325    章内番号 4        識別番号 60_4
本文
其神が人を傷つけずでは非ず、聖人が(亦)人を傷つけず、
王弼注
道が洽(あまね)ければ則ち神は人を傷つけず、神が人を傷つけざれば則ち神の神為るを知らず、道が洽(あまね)ければ則ち聖人は亦人を傷つけず、聖人が人を傷つけざれば則ち聖人の聖為るを知らざるなり、猶独り神の神為るを知らずに非ず、亦聖の聖為るを知らずと云うがごときなり、夫れ威網を恃(たの)み以て物を使うは、治の衰なり、神聖の神聖為るを知らざらしむは、道の極なり、

    通し番号 326    章内番号 5        識別番号 60_5
本文
夫れ両(ふた)つは相傷つけず、故に徳は交(こもごも)帰する
王弼注
神は人を傷つけず、聖人は亦人を傷つけず、聖人は人を傷つけず、神は亦人を傷つけず、故に両(ふた)つは相傷つけずと曰うなり、神聖は道に合い、交(こもごも)之に帰するなり、


   第六十一章

    通し番号 327    章内番号 1        識別番号 61_1
本文
大国は下流なり、
王弼注
江海は大に居りて下に処(お)れば、則ち百川之に流れる、大国は大に居りて下に処(お)れば、則ち天下之に流れる、故に大国は下流なりと曰うなり、

    通し番号 328    章内番号 2        識別番号 61_2
本文
天下の交なり、
王弼注
天下の帰し会する所なり、

    通し番号 329    章内番号 3        識別番号 61_3
本文
天下の牝(ひん)なり、
王弼注
静にして求めず、物自ずから之に帰するなり、

    通し番号 330    章内番号 4        識別番号 61_4
本文
牝(ひん)は常に静以て牡(ぼ)を勝(あ)ぐ、静以て下るを為す、
王弼注
其静を以てす、故に能く下と為るなり、牝は、雌なり、雄は躁動貪欲なり、雌は常に静以てす、故に能く雄を勝(あ)ぐなり、其静以て復し能く下と為る、故に物は之に帰するなり、

    通し番号 331    章内番号 5        識別番号 61_5
本文
故に大国は以て小国に下れば、
王弼注
大国は以て下るは、猶大国以て小国に下ると云うがごとし、

    通し番号 332    章内番号 6        識別番号 61_6
本文
則ち小国を取る、
王弼注
小国は則ち之に附す、

    通し番号 333    章内番号 7        識別番号 61_7
本文
小国は以て大国に下れば、則ち大国を取る、
王弼注
大国之を納(い)れるなり、

    通し番号 334    章内番号 8        識別番号 61_8
本文
故に或いは下りて以て取り、或いは下りて取る、
王弼注
言えらく、唯(ただ)卑下を修む、然る後乃ち各(おのおの)其所を得る、

    通し番号 335    章内番号 9        識別番号 61_9
本文
大国は兼ねて人を畜(やしな)うことを欲するに過ぎず、小国は入りて人に事(つか)えることを欲するに過ぎず、夫(か)の両者各(おのおの)其欲する所を得るは、大なる者宜しく下と為るべし、
王弼注
小国は下ることを修めれば、自ら全くするのみ、天下をして之に帰せしむること能わず、大国は下ることを修めれば則ち天下之に帰す、故に各(おのおの)其欲する所を得るは、則ち大なる者は宜しく下となるべしと曰うなり、


   第六十二章

    通し番号 336    章内番号 1        識別番号 62_1
本文
道は万物の奥なり、
王弼注
奧は、猶曖(あい)のごときなり、庇蔭(ひいん)を得べきの辞なり、

    通し番号 337    章内番号 2        識別番号 62_2
本文
善き人の宝なり
王弼注
宝は以て用を為すなり、

    通し番号 338    章内番号 3        識別番号 62_3
本文
不善人の保つ所なり、
王弼注
保は以て全(まった)くするなり、

    通し番号 339    章内番号 4        識別番号 62_4
本文
美として言えば以て市(う)るべし、尊(たっと)びて行えば以て人に加えるべし、
王弼注
言えらく、道は先とせざる所無く、物は此より貴(たっと)きは有ること無きなり、珍宝璧(へき)馬有ると雖も、以て之に匹(たぐい)すること無し、美として之を言えば則ち以て衆貨の賈(か)を奪うべし、故に美として言えば以て市(う)るべしと曰うなり、尊(たっと)びて之を行えば則ち千里の外に之に応ず、故に以て人に加えるべしと曰うなり、

    通し番号 340    章内番号 5        識別番号 62_5
本文
人の不善は、何ぞ棄つること之有らん、
王弼注
不善は当に道を保ち以て放(ほしいまま)なることを免れるべし、

    通し番号 341    章内番号 6        識別番号 62_6
本文
故に天子を立て、三公を置くに、
王弼注
尊(たっと)きを以て道を行うを言うなり、

    通し番号 342    章内番号 7        識別番号 62_7
本文
拱(きょう)璧(へき)以て駟馬(しば)に先だつこと有ると雖も、坐して此道を進めるに如かず、
王弼注
此道は、上の云う所なり、故に天子を立て、三公を置くと言うは、其位を尊び、其人を重んじ、以て道を為す所なり、物は此より貴きものは有ること無し、故に拱抱の宝璧以て駟馬に先んじて之を進むこと有ると雖も、坐して此道を進めるに如かざるなり、

    通し番号 343    章内番号 8        識別番号 62_8
本文
古の此道を貴ぶ所以は何ぞ、以て求むれば得て、罪有りて以て免れると曰わざる耶(や)、故に天下の貴と為る、
王弼注
以て求むれば則ち求むるを得る、以て免かるれば則ち免かるるを得る、所として施さざるは無し、故に天下の貴と為るなり、


   第六十三章

    通し番号 344    章内番号 1        識別番号 63_1
本文
為すこと無きを為し、事無きを事とし、味無きを味とする、
王弼注
無為を以て居と為し、不言以て教えと為し、恬淡以て味と為す、治の極なり、

    通し番号 345    章内番号 2        識別番号 63_2
本文
小を大とし少を多とす、怨みに報うるに徳を以てす、
王弼注
小怨は則ち以て報うるに足らず、大怨は則ち天下の誅するを欲する所にして、天下の同じき所に順(したが)うは、徳なり、

    通し番号 346    章内番号 3        識別番号 63_3
本文
難を其易に図る、大を其細に為す、天下の難事は必ず易に作(おこ)る、天下の大事は必ず細に作(おこ)る、是を以て聖人は終(つい)に大を為さず、故に能く其大を成す、夫れ軽諾は必ず信寡(すくな)し、多易は必ず多難なり、是を以て聖人猶之を難(かた)しとす、
王弼注
聖人の才を以てして猶尚(なお)細易に於ては難し、況んや聖人の才に非ずして此に於て忽(ゆるが)せにするを欲するをや、故に猶之を難しとすると曰うなり、

    通し番号 347    章内番号 4        識別番号 63_4
本文
故に終に難無し、
王弼注



   第六十四章

    通し番号 348    章内番号 1        識別番号 64_1
本文
其安きは持し易し、其未だ兆(きざ)さざるは謀り易し、
王弼注
其安を以て危を忘れず、之を持し亡(うしな)うを忘れず、之を功無きの勢に謀る、故に易と曰うなり、

    通し番号 349    章内番号 2        識別番号 64_2
本文
其脆(もろ)きは泮(と)け易し、其微は散り易し、
王弼注
無を失い有に入ると雖も、其微脆(ぜい)の故を以て、未だ以て大功を興すに足らず、故に易なり、此四は、皆終を慎しむを説くなり、無の故を以て持さざることあるべからず、微の故を以て散らさざることあるべからざるなり、無にして持さざれば、則ち有を生ず、微にして散らさざれば、則ち大を生ず、故に終の患を慮(おもんばか)ること、始の禍の如ければ、則ち事を敗ること無し、

    通し番号 350    章内番号 3        識別番号 64_3
本文
之を未だ有らざるに於て為す、
王弼注
其の安にして未だ兆(きざ)さざるを謂うなり、

    通し番号 351    章内番号 4        識別番号 64_4
本文
之を未だ乱れざるに於て治む、
王弼注
微脆(ぜい)を謂うなり、

    通し番号 352    章内番号 5        識別番号 64_5
本文
合抱の木は、毫末に生ず、九層の台は、土を累(かさ)ねるに起こる、千里の行は、足下に始まる、為す者は之を敗る、執(と)る者は之を失う、
王弼注
当に以て終を慎み微を除き、微を慎み乱を除くべし、而るに施為以て之を治め、形名之を執れば、反って事の原(みなもと)を生ず、巧辟(へき)滋(ますます)作(おこ)る、故に敗失するなり、

    通し番号 353    章内番号 6        識別番号 64_6
本文
是を以て聖人は為すこと無し、故に敗るること無し、執(と)ること無し、故に失うこと無し、民の事に従うは、常に成るに幾(ちか)づきて之を敗る、
王弼注
終を慎まざるなり、

    通し番号 354    章内番号 7        識別番号 64_7
本文
終を慎むこと始の如ければ、則ち事を敗ること無し、是を以て聖人は欲さざるを欲し、得難きの貨を貴ばず、
王弼注
好欲は微と雖も、争いは尚(なお)之が為に興る、得難きの貨は細と雖も、貪(たん)盜は之が為に起こるなり、

    通し番号 355    章内番号 8        識別番号 64_8
本文
学ばざるを学び、衆人の過ぎる所に復す、
王弼注
学ばずして能くするは、自ずから然ることなり、学ばざるに喻(さと)すは、過(あやま)ちなり、故に学ばざるを学び、以て衆人の過(あやま)つ所を復する、

    通し番号 356    章内番号 9        識別番号 64_9
本文
以て万物の自然を輔(たす)けて、敢えて為さず、
王弼注



   第六十五章

    通し番号 357    章内番号 1        識別番号 65_1
本文
古の善く道を為す者は、以て民を明かにするに非ず、将に以て之を愚にせんとす、
王弼注
明は、多見巧詐にて、其樸を蔽(おお)うを謂うなり、愚は知ること無く真を守り自然に順うを謂うなり、

    通し番号 358    章内番号 2        識別番号 65_2
本文
民の治め難きは、其智多きを以てなり、
王弼注
多智は巧みに詐(いつわ)る、故に治め難きなり、

    通し番号 359    章内番号 3        識別番号 65_3
本文
故に智以て国を治むは、国の賊なり
王弼注
智、猶治のごときなり、智以てして国を治む、之を賊と謂う所以は、故(もと)より之を智と謂えばなり、民の治め難きは、其多智を以てなり、当に務めて兌(あな)を塞ぎ門を閉じ、無知無欲ならしむべし、而るに智術以て民を動かせば、邪心既に動く、復た巧術以て民の偽を防げば、民は其術を知り、防随(したが)いて之を避く、思惟(い)密にして巧み、奸偽益(ますます)滋(おお)し、故に智以て国を治むるは、国の賊と曰うなり、

    通し番号 360    章内番号 4        識別番号 65_4
本文
智以て国を治めざるは、国の福なり、此両者を知るは(亦)稽式(けいしき)なり、常に稽式を知る、是れ玄徳と謂う、玄徳は深し、遠し、
王弼注
稽は、同なり、古今の同じく則(のっと)りて廃すべからざる所なり、能く稽式を知る、是れ玄徳と謂う、玄徳は深し、遠し、

    通し番号 361    章内番号 5        識別番号 65_5
本文
物と反る、
王弼注
其真に反(かえ)るなり、

    通し番号 362    章内番号 6        識別番号 65_6
本文
然る後乃ち大順に至る、
王弼注



   第六十六章

    通し番号 363    章内番号 1        識別番号 66_1
本文
江海の能く百谷の王と為る所以は、其善く之に下るを以てなり、故に能く百谷の王と為る、是を以て民に上たらんと欲せば、必ず言以て之に下る、民の先たらんと欲せば、必ず身以て之に後(おく)る、是を以て聖人が上に処(お)りて民は重しとせず、前に処(お)りて民は害とせず、是を以て天下推すを楽しみて厭(いと)わず、其不争を以てす、故に天下能く之と争うこと莫し、
王弼注



   第六十七章

    通し番号 364    章内番号 1        識別番号 67_1
本文
天下皆、我道は大にして、不肖に似ると謂う、夫唯大なり、故に不肖に似る、若し肖なれば、久しい矣(かな)其れ細なる夫(かな)、
王弼注
久しいかな、其細は、猶其細は久しいかなと曰うがごとし、肖なれば則ち其の大為(た)る所以を失う、故に若し肖なれば、久しい矣(かな)其れ細なる夫(かな)と曰う、

    通し番号 365    章内番号 2        識別番号 67_2
本文
我に三宝有り、持して之を保つ、一に曰く慈、二に曰く倹、三に曰く敢えて天下の先と為らず、慈なり、故に能く勇なり、
王弼注
夫れ慈は、以て陳すれば則ち勝ち、以て守れば則ち固し、故に能く勇なり、

    通し番号 366    章内番号 3        識別番号 67_3
本文
倹なり、故に能く広し、
王弼注
節倹し費を愛(おし)めば、天下匱(とぼ)しからず、故に能く広きなり、

    通し番号 367    章内番号 4        識別番号 67_4
本文
敢えて天下の先と為らず、故に能く器の長と成る、
王弼注
唯(ただ)其身を後(あと)にし外(そと)にすれば、物の帰する所と為る、然る後乃ち能く成器を立て、天下の利を為し、物の長と為すなり、

    通し番号 368    章内番号 5        識別番号 67_5
本文
今慈を舎(す)て且(まさ)に勇ならんとす、
王弼注
且(しょ)は、猶取のごときなり、

    通し番号 369    章内番号 6        識別番号 67_6
本文
倹を舎(す)て且(まさ)に広ならんとす、後を舍(す)て且に先にならんとす、死なん、夫れ慈は以て戦えば則ち勝つ、
王弼注
慜(さと)しを相(み)て難を避けず、故に勝つなり、

    通し番号 370    章内番号 7        識別番号 67_7
本文
以て守れば則ち固し、天将に之を救わんとす、慈以て之を衛(まも)ればなり、
王弼注



   第六十八章

    通し番号 371    章内番号 1        識別番号 68_1
本文
善く士為(た)る者は武ならず、
王弼注
士は、卒の帥(すい)なり、武は、先を尚(たっと)び人を陵(しの)ぐなり、

    通し番号 372    章内番号 2        識別番号 68_2
本文
善く戦う者は怒らず、
王弼注
後にして先ならず、応じて唱(とな)えず、故に怒りに在らず、

    通し番号 373    章内番号 3        識別番号 68_3
本文
善く敵に勝つは与(くみせ)ず、
王弼注
与、争わざるなり、

    通し番号 374    章内番号 4        識別番号 68_4
本文
善く人を用いる者は之が下と為る、是れ不争の徳と謂う、是れ人の力を用いると謂う、
王弼注
人を用いて之が下と為らざれば、則ち力は用を為さざるなり、

    通し番号 375    章内番号 5        識別番号 68_5
本文
是れ天に配すと謂う、古の極なり、
王弼注



   第六十九章

    通し番号 376    章内番号 1        識別番号 69_1
本文
兵を用いるに言有り、吾敢えて主と為らずして客と為る、敢えて寸を進まずして尺を退く、是れ、行くこと無きに行くと謂う、
王弼注
彼は遂に止(とど)まらず、

    通し番号 377    章内番号 2        識別番号 69_2
本文
臂(うで)無きを攘(はら)う、敵無しに扔(つ)く、
王弼注
行は、行陳(じん)を謂うなり、言えらく、謙、退、哀、慈以て、敢えて物の先と為らず、戦を用いるは猶行くこと無きに行き、臂(うで)無きを攘(はら)い、兵無きに執り、敵無しに扔(つ)くがごときなり、之と抗すること有ること無きを言うなり、

    通し番号 378    章内番号 3        識別番号 69_3
本文
兵無きを執(と)る、と謂う、禍は敵を軽くみるより大なるは莫し、敵を軽くみれば、幾(ほとん)ど吾が宝を喪(うしな)う、
王弼注
言えらく、吾が哀、慈、謙、退は、以て強を取り、天下に敵無きを欲するに非ざるなり、已(や)むを得ずして卒(つい)に敵無しに至る、斯(これ)は乃ち吾の以て大禍と為す所なり、宝は、三宝なり、故に幾(ほとん)ど吾が宝を亡(うしな)うと曰う

    通し番号 379    章内番号 4        識別番号 69_4
本文
故に兵を抗(あ)げ相加う、哀(かな)しむ者勝つ、
王弼注
抗は、挙なり、加、当なり、哀は、必ず相惜しみて利に趣(おもむ)き害を避けることをせず、故に必ず勝つ、


   第七十章

    通し番号 380    章内番号 1        識別番号 70_1
本文
吾言甚だ知り易し、甚だ行い易し、天下能く知ること莫し、能く行うこと莫し、
王弼注
戸を出で牖(まど)を窺(うかが)わずにして知るべし、故に甚だ知り易しと曰うなり、為すこと無くして成る、故に甚だ行い易しと曰うなり、躁欲に惑う、故に之を能く知ること莫しと曰うなり、栄利に迷う、故に之を能く行うこと莫しと曰うなり、

    通し番号 381    章内番号 2        識別番号 70_2
本文
言に宗有り、事に君有り、
王弼注
宗は、万物の宗なり、君は、万物の主なり、

    通し番号 382    章内番号 3        識別番号 70_3
本文
夫れ唯知ること無し、是を以て我を知らず、
王弼注
其言に宗有り、事に君有りの故を以て、故(もと)より知有るの人は之を知らざるを得ざるなり、

    通し番号 383    章内番号 4        識別番号 70_4
本文
我を知る者希(まれ)なれば、則ち我は貴(たっと)し、
王弼注
唯(ただ)深し故に知る者希(まれ)なり、我を知ること益(ますます)希なれば、我は亦匹(ひつ)無し、故に我を知る者希なれば、則ち我は貴しと曰うなり、

    通し番号 384    章内番号 5        識別番号 70_5
本文
是を以て聖人は褐(かつ)を被(き)て玉を懐(いだ)く、
王弼注
褐(かつ)を被(き)るは、其塵を同じくし、玉を懐(いだ)くは、其真を宝とするなり、聖人の知り難き所以は、其塵を同じくして殊(こと)ならず、玉を懐(いだ)きて渝(かわ)らざるを以てなり、故に知り難くして貴(たっと)きと為すなり、


   第七十一章

    通し番号 385    章内番号 1        識別番号 71_1
本文
知りて知らずとするは上なり、知らずして知るとするは病(へい)なり、
王弼注
知の任ずるに足らざるを知らざれば則ち病なり、

    通し番号 386    章内番号 2        識別番号 71_2
本文
夫れ唯(ただ)病を病とす、是を以て病ならず、聖人が病ならざるは、其の病を病とするを以てなり、是を以て病ならず、
王弼注



   第七十二章

    通し番号 387    章内番号 1        識別番号 72_1
本文
民威を畏れざれば、則ち大威至る、其居る所を狎(せば)めること無く、其生くる所を厭(あっ)すること無し、
王弼注
清静にして為すこと無し、之を居と謂う、謙後にして盈(み)たず、之を生と謂う、其清浄を離れ、其躁欲を行い、其謙後を棄て、其威権に任ずれば、則ち物は擾(みだ)れて民は僻(よこしま)なり、威は民を復し制すること能わず、民は其威に堪(た)えること能わず、則ち上下大いに潰(つい)える、天誅将に至らんとす、故に曰く、民威を畏れざれば、則ち大威至る、其居る所を狎(せば)めること無し、其生くる所を厭(あっ)すること無しは、威力は任ずべからざるを言うなり、

    通し番号 388    章内番号 2        識別番号 72_2
本文
夫れ唯厭(あっ)さず、
王弼注
自ら厭(あっ)さざるなり、

    通し番号 389    章内番号 3        識別番号 72_3
本文
是を以て厭(あっ)されず、
王弼注
自ら厭(あっ)さず、是を以て天下之を厭(あっ)すること莫し、

    通し番号 390    章内番号 4        識別番号 72_4
本文
是を以て聖人は自ら知りて自ら見(あら)わさず、
王弼注
自ら其知る所を見(あら)わし、以て光を耀(かがや)かし威を行わざるなり、

    通し番号 391    章内番号 5        識別番号 72_5
本文
自ら愛(おし)み自ら貴しとせず、
王弼注
自ら貴(たっと)くすれば則ち物は居生を狎(せば)め厭(あっ)す、

    通し番号 392    章内番号 6        識別番号 72_6
本文
故に彼を去り此を取る、
王弼注



   第七十三章

    通し番号 393    章内番号 1        識別番号 73_1
本文
敢えてするに勇なれば則ち殺す、
王弼注
必ず其死を得ざるなり、

    通し番号 394    章内番号 2        識別番号 73_2
本文
敢えてせざるに勇なれば則ち活(い)かす、
王弼注
必ず命を斉(ととの)うなり、

    通し番号 395    章内番号 3        識別番号 73_3
本文
此両者は、或いは利なり、或いは害なり
王弼注
俱(とも)に勇にして施す所は異なる、利害は同じからず、故に或いは利なり、或いは害なりと曰うなり、

    通し番号 396    章内番号 4        識別番号 73_4
本文
天の悪(にく)む所、孰(たれ)か其故(ゆえ)を知らん、是を以て聖人猶之を難しとす、
王弼注
孰(じゅく)は、誰(すい)なり、言えらく、誰か能く天の悪む所の意故を知らんや、其れ唯聖人なり、夫れ聖人の明にして、猶敢えてするに勇なるを難しとす、況んや聖人の明無くして之を行わんと欲するをや、故に猶之を難しとすと曰うなり、

    通し番号 397    章内番号 5        識別番号 73_5
本文
天の道は、争わずして善く勝つ、
王弼注
天は唯争わず、故に天下能く之と争うこと莫し、

    通し番号 398    章内番号 6        識別番号 73_6
本文
言わずして善く応ず、
王弼注
順(したが)えば則ち吉なり、逆(さか)らえば則ち凶なり、言わずして善く応ずるなり、

    通し番号 399    章内番号 7        識別番号 73_7
本文
召(まね)かずして自ずから来る、
王弼注
下に処(お)れば則ち物は自ずから帰する、

    通し番号 400    章内番号 8        識別番号 73_8
本文
繟然(せんぜん)として善く謀る、
王弼注
象を垂(た)れて吉凶を見る、事に先んじて誠を設(もう)く、安にして危を忘れず、未だ召(まね)かずして之を謀る、故に繟然(せんぜん)として善く謀ると曰うなり、

    通し番号 401    章内番号 9        識別番号 73_9
本文
天網恢恢(かいかい)、疏にして失わず、
王弼注



   第七十四章

    通し番号 402    章内番号 1        識別番号 74_1
本文
民死を畏れざれば、奈何(いかん)ぞ死以て之を懼(おど)す、若し民をして常に死を畏(おそ)れしめば、奇を為す者は、吾が執(とら)えて之を殺すことを得る、孰か敢えてせん、
王弼注
詭異(きい)にして群を乱す、之を奇と謂うなり、

    通し番号 403    章内番号 2        識別番号 74_2
本文
常に殺を司(つかさど)る者有りて殺す、夫れ殺を司(つかさど)る者に代りて殺す、是れ大匠(たいしょう)に代りて斲(けず)ると謂う、夫れ大匠に代り斲(けず)る者は、其手を傷つけざる有ること希(まれ)なり、
王弼注
逆を為すは、順なる者の悪(にく)み忿(いか)る所なり、不仁者は人の疾(にく)む所なり、故に常に殺を司(つかさど)ること有りと曰うなり、


   第七十五章

    通し番号 404    章内番号 1        識別番号 75_1
本文
民の饑(う)えるは、其上の税を食べるの多きを以てなり、是を以て饑える、民の治め難きは、其上の為すこと有るを以てなり、是を以て治め難し、民の死を軽んじるは、其生を求めるの厚きを以てなり、是を以て死を軽んず、夫れ唯生以て為すこと無き者は、是れ生を貴(たっと)ぶより賢(まさ)る、
王弼注
言えらく、民の以て僻(よこしま)なる所、治の以て乱れる所は、皆上に由(よ)り其下に由らざるなり、民は上に従うなり、


   第七十六章

    通し番号 405    章内番号 1        識別番号 76_1
本文
人の生まれるや柔弱なり、其死するや堅強なり、万物草木の生じるや柔脆(ぜい)なり、其死するや枯槁(ここう)なり、故に堅強なる者は死の徒、柔弱なる者は生の徒なり、是を以て兵強ければ則ち勝たず、
王弼注
兵を強くして以て天下を暴(そこな)うは、物の悪(にく)む所なり、故に必ず勝つことを得ず、

    通し番号 406    章内番号 2        識別番号 76_2
本文
木強ければ則ち共す、
王弼注
物が加える所なり、

    通し番号 407    章内番号 3        識別番号 76_3
本文
強大は下に処(お)る、
王弼注
木の本なり、

    通し番号 408    章内番号 4        識別番号 76_4
本文
柔弱は上に処(お)る、
王弼注
枝條(しじょう)是れなり、


   第七十七章

    通し番号 409    章内番号 1        識別番号 77_1
本文
天の道は、其れ猶弓を張るがごときか、高きものは之を抑え、下(ひき)きものは之を挙ぐ、余り有るものは之を損し、足らざるものは之を補う、天の道は、余り有るを損して足らざるを補う、人の道は則ち然らず、
王弼注
天地と徳を合せば、乃ち能く之を包み、天の道の如し、人の量の如きは、則ち各(おのおの)其身を有(たも)ち、相均(ひと)しくするを得ず、惟身無く私無きに如(し)く乎(や)、自ずから然るなり、然る後に乃ち能く天地と徳を合す、

    通し番号 410    章内番号 2        識別番号 77_2
本文
足らざるを損(へ)らし以て余り有るに奉(たてまつ)る、孰か能く余り有りて以て天下に奉(たてまつ)る、唯道を有(たも)つ者のみ、是を以て聖人は為して恃(たの)まず、功成りて処(お)らず、其賢を見(あら)わすことを欲せず、
王弼注
言えらく、唯能く盈(えい)に処(お)りて虚を全くし、有を損(へ)らして以て無を補い、光を和して塵を同じくし、蕩(とう)として均(ひと)しきは、唯其れ道なり、是を以て聖人は其賢を示すを欲さずして以て天下を均(ひと)しくす、


   第七十八章

    通し番号 411    章内番号 1        識別番号 78_1
本文
天下に水より柔弱なるは莫し、堅強を攻むるは之に能く勝(まさ)ること莫し、其の以て之を易(か)えること無きを以てなり、
王弼注
以は、用なり、其は水を謂うなり、言えらく水の柔弱を用いるは、物は以て之に易わるべきこと無きなり、

    通し番号 412    章内番号 2        識別番号 78_2
本文
弱の強に勝ち、柔の剛に勝つは、天下知らざる莫くして能く行うこと莫し、是を以て聖人云う、国の垢(あか)を受く、是れ社稷(しょく)の主と謂う、国の不祥を受く、是れ天下の王と為す、正言は反するが若し、
王弼注



   第七十九章

    通し番号 413    章内番号 1        識別番号 79_1
本文
大怨を和するも、必ず余怨有り、
王弼注
其契を明らかに理(おさ)めず、以て大怨を致す、已に至りて徳之を和しても、其傷は復さず、故に余怨有るなり、

    通し番号 414    章内番号 2        識別番号 79_2
本文
安んぞ以て善と為すべし、是を以て聖人は左契を執(と)りて、
王弼注
左契は怨の由りて生じる所を防ぐなり、

    通し番号 415    章内番号 3        識別番号 79_3
本文
人を責めず、徳有るは契を司(つかさど)る、
王弼注
徳有るの人は其契を念思する、怨みを生ぜしめて後に人を責めざるなり、

    通し番号 416    章内番号 4        識別番号 79_4
本文
徳無きは徹(は)ぐを司(つかさど)る、
王弼注
徹は、人の過(あやまち)を司(つかさど)るなり、

    通し番号 417    章内番号 5        識別番号 79_5
本文
天道は親(あい)無きも、常に善人に与(くみ)す、
王弼注



   第八十章

    通し番号 418    章内番号 1        識別番号 80_1
本文
小国寡民、
王弼注
国既に小さく、民又寡(すくな)し、尚(なお)古に反(かえ)らしむべし、況んや国大にして民衆(おお)きをや、故に小国を挙げて言うなり、

    通し番号 419    章内番号 2        識別番号 80_2
本文
什伯(じゅうはく)の器有りて用いざらしむ、
王弼注
言えらく、民をして什伯(じゅうはく)の器有ると雖も用いる所無からしめば、何ぞ足らざるを患(うれ)えん、

    通し番号 420    章内番号 3        識別番号 80_3
本文
民をして死を重んじて遠くへ徙(うつ)らざらしむ、
王弼注
民をして用いざらしめば、惟身是れ宝として、貨賂(ろ)を貪らず、故に各(おのおの)其居に安んじ、死を重んじて遠くへ徙(うつ)らざるなり、

    通し番号 421    章内番号 4        識別番号 80_4
本文
舟(しゅう)輿(よ)有ると雖も、之に乗る所無し、甲兵有ると雖も、之を陳する所無し、人をして復(また)縄を結びて之を用い、其食を甘(うま)しとし、其服を美(よ)しとし、其居に安んじ、其俗を楽しましむ、鄰国相望み、雞犬の声相聞きて、民は老死に至るまで、相往来せず、
王弼注
欲求する所無し、


   第八十一章

    通し番号 422    章内番号 1        識別番号 81_1
本文
信言は美ならず、
王弼注
実は質に在るなり、

    通し番号 423    章内番号 2        識別番号 81_2
本文
美言は信ならず、
王弼注
本は樸に在るなり、

    通し番号 424    章内番号 3        識別番号 81_3
本文
善なるは弁ずるにあらず、弁ずるは善にあらず、知るは博(ひろ)きにあらず、
王弼注
極は一に在るなり、

    通し番号 425    章内番号 4        識別番号 81_4
本文
博(ひろ)きは知ることにあらず、聖人は積まず、
王弼注
私無く自ずから有す、唯善是れ与(くみ)す、物に任ずるのみ、

    通し番号 426    章内番号 5        識別番号 81_5
本文
既(つく)して以て人の為にし己愈(いよいよ)有(たも)つ、
王弼注
物が尊(たっと)ぶ所なり、

    通し番号 427    章内番号 6        識別番号 81_6
本文
既(つく)して以て人に与え、己愈(いよいよ)多し、
王弼注
物が帰する所なり、

    通し番号 428    章内番号 7        識別番号 81_7
本文
天の道は、利して害さず、
王弼注
動きて常に之を生成するなり、

    通し番号 429    章内番号 8        識別番号 81_8
本文
聖人の道は、為して争わず、
王弼注
天の利に順(したが)い相傷つけざるなり、