第一章
通し番号 1 章内番号 1 識別番号 1_1
本文
1道可道、2非常道、3名可名、4非常名、
道の道(い)うべきは、常の道に非ず、名の名づくべきは、常の名に非ず、
王弼注
1可道之道、2可名之名、3指事造形、4非其常也、5故不可道、6不可名也、
道(い)うべきの道、名づくべきの名は、事を指し形を造り、其常に非ざるなり、故に道(い)うべからず、名づくべからざるなり、
通し番号 2 章内番号 2 識別番号 1_2
本文
1無名天地之始、2有名萬物之母、
名無きは天地の始めなり、名有るは万物の母なり、
王弼注
1凡有皆始於無、2故未形、3無名之時則為萬物之始、4及其有形、5有名之時、6則長之育之、7亭之毒之、8為其母也、9言道以無形無名始成萬物、10以始以成而不知其所以、11玄之又玄也、
凡そ有は皆無に始まる、故に未だ形せずして名無きの時は則ち万物の始めと為る、其形有りて名有るの時に及べば、則ち之を長(ま)し之を育て、之を亭(ととの)え、之を毒(あつ)くし、其母と為るなり、言えらく、道は無形無名を以て始まり万物を成し、以て始まり以て成り其所以を知らず、玄は又(さら)に玄なり、
通し番号 3 章内番号 3 識別番号 1_3
本文
1故常無欲以觀其妙、
故に常に無は以て其妙を観ることを欲す、
王弼注
1妙者、2微之極也、3萬物始於微而後成、4始於無而後生、5故常無欲空虛、6可以觀其始物之妙、
妙は、微の極なり、万物は微に始まりて後成る、無に始まりて後生ず、故に常に無は空虛にして以て其物を始めるの妙を観るべきを欲す、
通し番号 4 章内番号 4 識別番号 1_4
本文
1常有欲以觀其徼、
常に有は以て其徼(きょう)を観ることを欲す、
王弼注
1徼、2歸終也、3凡有之為利、4必以無為用、5欲之所本、6適道而後濟、7故常有欲可以觀其終物之徼也、
徼、帰終なり、凡そ有の利と為るは、必ず無以て用と為し、本づく所に之(ゆ)くを欲すればなり、道に適(かな)いて後に済(な)る、故に常に有は以て其物を終えるの徼(きょう)を観るべきを欲するなり、
通し番号 5 章内番号 5 識別番号 1_5
本文
1此兩者同出而異名、2同謂之玄、3玄之又玄、4眾妙之門、
此両者は同じきに出て名を異にす、同じきは之を玄と謂う、玄は又(さら)に玄、衆妙の門なり、
王弼注
1兩者、2始與母也、3同出者、4同出於玄也、5異名、6所施不可同也、7在首則謂之始、8在終則謂之母、9玄者、10冥也、11默然無有也、12始母之所出也、13不可得而名、14故不可言、15同名曰玄、16而言謂之玄者、17取於不可得而謂之然也、18謂之然則不可以定乎一玄而已、19則是名則失之遠矣、20故曰、21玄之又玄也、22眾妙皆從同而出、23故曰眾妙之門也、
両は、始と母なり、同じく出るは、同じく玄に出るなり、名を異にするは、施す所同じくすべからざるなり、首(はじめ)に在れば則ち之を始と謂い、終に在れば則ち之を母と謂う、玄は、冥なり、黙然として有ること無きなり、始母の出る所なり、得て名づくるべからず、故に言うべからず、同じく名づけて玄と曰う、之を玄と謂うと言うは、得て之を然りと謂うべからざるに取るなり、之を然りと謂えば則ち以て一の玄を定むべからず、則ち是れ名づくれば則ち之を失うこと遠し、故に曰く、玄は又(さら)に玄なり、衆妙は皆同じき従(よ)り出ず、故に衆妙の門と曰うなり、
第二章
通し番号 6 章内番号 1 識別番号 2_1
本文
1天下皆知美之為美、2斯惡已、3皆知善之為善、4斯不善已、5故有無相生、6難易相成、7長短相較、8高下相傾、9音聲相和、10前後相隨、
天下皆美の美為るを知る、斯(ここ)に悪あり(已)、皆善の善為るを知る、斯(ここ)に不善あり、故(もと)より、有無相生ず、難易相成る、長短相較す、高下相傾く、音声相和す、前後相随(したが)う、
王弼注
1美者、2人心之所樂進也、3惡者、4人心之所惡疾也、5美惡、6猶喜怒也、7善不善、8猶是非也、9喜怒同根、10是非同門、11故不可得徧舉也、12此六者皆陳自然不可徧舉之明數也、
美は、人心の楽しみ進む所なり、悪は、人心の悪疾(おしつ)する所なり、美悪は、猶喜怒のごときなり、善不善は、猶是非のごときなり、喜怒は根を同じくし、是非は門を同じくす、故に徧挙するを得るべからざるなり、此六は皆自然にして徧挙すべかざるの明数を陳(の)べるなり、
通し番号 7 章内番号 2 識別番号 2_2
本文
1是以聖人處無為之事、
是を以て聖人は無為の事に処(お)る、
王弼注
1自然已足、2為則敗也、
自ずから然りて已に足る、為せば則ち敗るなり、
通し番号 8 章内番号 3 識別番号 2_3
本文
1行不言之教、2萬物作焉而不辭、3生而不有、4為而不恃、
不言の教えを行い、万物作(おこ)りて辞せず、生じて有(たも)たず、為して恃(たの)まず、
王弼注
1智慧自備、2為則偽也、
智慧自ら備わる、為せば則ち偽なり、
通し番号 9 章内番号 4 識別番号 2_4
本文
1功成而弗居、
功成りて居らず、
王弼注
1因物而用、2功自彼成、3故不居也、
物に因りて用いる、功は彼自(よ)り成る、故に居らざるなり、
通し番号 10 章内番号 5 識別番号 2_5
本文
1夫唯弗居、2是以不去、
夫れ唯(ただ)居らず、是を以て去らず、
王弼注
1使功在己、2則功不可久也、
功をして己に在らしめれば、則ち功は久しくすべからざるなり、
第三章
通し番号 11 章内番号 1 識別番号 3_1
本文
1不尚賢、2使民不爭、3不貴難得之貨、4使民不為盜、5不見可欲、6使民心不亂、
賢を尚(たっと)ばざれば、民をして争わざらしむ、得難きの貨を貴ばざれば、民をして盜を為さざらしむ、欲すべきを見(しめ)さざれば、民の心をして乱れざらしむ、
王弼注
1賢、2猶能也、3尚者、4嘉之名也、5貴者、6隆之稱也、7唯能是任、8尚也曷為、9唯用是施、10貴之何為、11尚賢顯名、12榮過其任、13為而常校能相射、14貴貨過用、15貪者競趣、16穿窬探篋、17沒命而盜、18故可欲不見、19則心無所亂也、
賢は、猶能のごときなり、尚は、嘉(か)の名なり、貴は、隆の称なり、唯(ただ)能是れ任ずれば、尚(たっと)ぶこと曷(なん)ぞ為さん、唯用是れ施(もち)いれば、之を貴ぶこと何ぞ為さん、賢を尚(たっと)び名を顕(あら)わせば、栄が其任に過ぎ、為して常に能を校(はか)り相射(い)る、貨を貴び用に過ぐれば、貪なる者競い趣(おもむ)き、穿窬(せんゆ)し篋(はこ)を探(さぐ)り、命を沒(お)えるまで盗む、故に欲すべきを見(しめ)さざれば、則ち心乱れる所無きなり、
通し番号 12 章内番号 2 識別番号 3_2
本文
1是以聖人之治、2虛其心、3實其腹、
是を以て聖人の治は、其心を虚にして、其腹を実(じつ)にす、
王弼注
1心懷智而腹懷食、2虛有智而實無知也、
心は智を懐(いだ)き腹は食を懐(いだ)く、智有るを虚にして知無きを実にするなり、
通し番号 13 章内番号 3 識別番号 3_3
本文
1弱其志、2強其骨、
其志を弱くし、其骨を強くす、
王弼注
1骨無知以幹、2志生事以亂、3心虛則志弱也、
骨は知無くして以て幹たり、志は事を生じて以て乱(みだ)る、心虚なれば則ち志弱きなり、
通し番号 14 章内番号 4 識別番号 3_4
本文
1常使民無知無欲、
常に民をして無知無欲ならしむ、
王弼注
1守其真也、
其真を守るなり、
通し番号 15 章内番号 5 識別番号 3_5
本文
1使夫知者不敢為也、
夫の知者をして敢えて為さざらしむなり、
王弼注
1知者謂知為也、
知者は為すを知るを謂うなり、
通し番号 16 章内番号 6 識別番号 3_6
本文
1為無為、2則無不治、
無為を為せば、則ち治まざる無し、
王弼注
第四章
通し番号 17 章内番号 1 識別番号 4_1
本文
1道沖而用之或不盈、2淵兮似萬物之宗、3挫其銳、4解其紛、5和其光、6同其塵、7湛兮似或存、8吾不知誰之子、9象帝之先、
道は沖(ちゅう)にして之を用いて或いは盈(み)たず、淵(兮)として万物の宗に似る、其鋭を挫(くじ)き、其紛を解き、其光を和し、其塵を同じくす、湛(たん)として存する或(あ)るに似る、吾誰の子たるかを知らず、帝の先に象(のっと)る、
王弼注
1夫執一家之量者、2不能全家、3執一國之量者、4不能成國、5窮力舉重、6不能為用、7故人雖知萬物治也、8治而不以二儀之道、9則不能贍也、10地雖形魄、11不法於天則不能全其寧、12天雖精象、13不法於道則不能保其精、14沖而用之、15用乃不能窮、16滿以造實、17實來則溢、18故沖而用之、19又復不盈、20其為無窮亦已極矣、21形雖大、22不能累其體、23事雖殷、24不能充其量、25萬物舍此而求主、26主其安在乎、27不亦淵兮似萬物之宗乎、28銳挫而無損、29紛解而不勞、30和光而不汙其體、31同塵而不渝其真、32不亦湛兮似或存乎、33地守其形、34德不能過其載、35天慊其象、36德不能過其覆、37天地莫能及之、38不亦似帝之先乎、39帝、40天帝也、
夫れ一家の量を執(と)る者は、家を全くすること能わず、一国の量を執(と)る者、国を成すこと能わず、力を窮めて重きを挙ぐれば、用を為すこと能わず、故に人、万物の治を知ると雖も、治めて二儀の道以てせざれば、則ち贍(た)ること能わざるなり、地は魄(はく)を形づくると雖も、天に法(のっと)らざれば則ち其寧を全くすること能わず、天は精の象(しょう)と雖も、道に法(のっと)らざれば則ち其精を保つこと能わず、沖にして之を用いれば、用いて乃ち窮まること能わず、満つれば以て実に造(いた)る、実来たれば則ち溢(あふ)る、故に沖にして之を用い、又(さら)に盈(み)たざるに復す、其無窮為(た)るは(亦)已に極まる、形大と雖も、其体を累(るい)すること能わず、事殷(さか)んと雖も、其量を充(みた)すこと能わず、万物此を舎(す)てて主を求めれば、主其れ安(いず)くにか在らん、亦淵にして万物の宗に似たるならざるや、鋭挫(くじ)きて損すること無し、紛解けて労せず、光を和して其体を汙(けが)さず、塵を同じくして其真を渝(か)えず、亦湛(たん)として存する或(あ)るに似らざるや、地は其形を守り、徳は其載を過ぎること能わず、天は其象に慊(た)る、徳は其覆を過ぎること能わず、天地能く之に及ぶこと莫(な)し、(亦)帝の先に似らざるや、帝は、天帝なり、
第五章
通し番号 18 章内番号 1 識別番号 5_1
本文
1天地不仁、2以萬物為芻狗、
天地は仁ならず、万物以て芻狗(すうく)と為す、
王弼注
1天地任自然、2無為無造、3萬物自相治理、4故不仁也、5仁者必造立施化、6有恩有為、7造立施化則物失其真、8有恩有為、9則物不具存、10物不具存、11則不足以備載矣、12地不為獸生芻、13而獸食芻、14不為人生狗、15而人食狗、16無為於萬物而萬物各適其所用、17則莫不贍矣、18若慧由己樹、19未足任也、
天地は自然に任ず、為すことなく、造(つく)ること無し、万物自ずから相治理す、故に仁ならざるなり、仁者は必ず造立施化し、恩有り、為有り、造立施化すれば則ち物は其真を失う、恩有り為有れば、則ち物は具(まった)くは存せず、物具(まった)くは存せざれば、則ち以て備載するに足らず、地は獣の為に芻(すう)を生ぜす、而るに獣は芻を食らう、人の為に狗(く)を生ぜす、而るに人は狗を食らう、万物に於て為すこと無くして、万物各(おのおの)其用いる所に適(かな)えば、則ち贍(た)らざるなし、若し慧己に由り樹(た)てれば、未だ任ずるに足らざるなり、
通し番号 19 章内番号 2 識別番号 5_2
本文
1聖人不仁、2以百姓為芻狗、
聖人は仁ならず、百姓(ひゃくせい)以て芻狗(すうく)と為す、
王弼注
1聖人與天地合其德、2以百姓比芻狗也、
聖人は天地と其徳を合わす、百姓以て芻狗に比するなり、
通し番号 20 章内番号 3 識別番号 5_3
本文
1天地之間、2其猶橐籥乎、3虛而不屈、4動而愈出、
天地の間、其猶橐籥(たくやく)のごときか、虚にして屈(つ)きず、動きて愈(ますます)出(い)ず、
王弼注
1橐、2排橐也、3籥、4樂籥也、5橐籥之中、6空洞無情無為、7故虛而不得窮屈、8動而不可竭盡也、9天地之中、10蕩然任自然、11故不可得而窮、12猶若橐籥也、
橐(たく)は、排の橐(たく)なり、籥(やく)は、楽の籥(やく)なり、橐籥の中は、空洞にして無情無為、故に虚にして窮屈することを得ず、動きて竭盡(けつじん)するべからざるなり、天地の中、蕩然(とうぜん)として自然に任ず、故に得て窮まるべからざるは、猶橐籥(たくやく)の若きなり、
通し番号 21 章内番号 4 識別番号 5_4
本文
1多言數窮、2不如守中、
多言なれば、数(ことわ)りは窮す、中を守るに如かず、
王弼注
1愈為之則愈失之矣、2物樹其惡、3事錯其言、4不濟不言不理、5必窮之數也、6橐籥而守數中、7則無窮盡、8棄己任物、9則莫不理、10若橐籥有意於為聲也、11則不足以共吹者之求也、
愈(ますます)之を為せば則ち愈(ますます)之を失う、物は其悪を樹(う)える、事は其言に錯(たが)う、不言を濟( な)さずして、理ならざるは、必ず窮す、之数なり、橐籥(たくやく)にして数の中を守れば、則ち窮まり尽きること無し、己を棄て物に任ずれば、則ち理ならざる莫し、若し橐籥(たくやく)声を為すに意有らば、則ち以て吹く者の求めに共するに足らず
第六章
通し番号 22 章内番号 1 識別番号 6_1
本文
1谷神不死、2是謂玄牝、3玄牝之門、4是謂天地根、5綿綿若存、6用之不勤、
谷神死せず、是れ玄牝(げんぴん)と謂う、玄牝の門、是れ天地の根と謂う、綿綿として存するが若し、之を用いて勤(つと)めず、
王弼注
1谷神、2谷中央無谷也、3無形無影、4無逆無違、5處卑不動、6守靜不衰、7谷以之成而不見其形、8此至物也、9處卑而不可得名、10故謂天地之根、11綿綿若存、12用之不勤、13門、14玄牝之所由也、15本其所由、16與極同體、17故謂之天地之根也、18欲言存邪、19則不見其形、20欲言亡邪、21萬物以之生、22故綿綿若存也、23無物不成、24用而不勞也、25故曰、26用而不勤也、
谷神は、谷の中央の無の谷なり、形無く、影無く、逆(さか)らうこと無く、違うこと無し、卑(ひく)きに処(お)りて動かず、静を守りて衰えず、谷之を以て成りて其形を見(しめ)さず、此れ至物なり、卑(ひく)きに処(お)りて名を得るべからず、故に天地の根と謂う、綿綿として存するが若し、之を用いて勤(つと)めず、門は、玄牝(ぴん)の由(よ)る所なり、其由(よ)る所に本(もと)づきて、極と体を同じくす、故に之を天地の根と謂うなり、存すると言わんと欲する邪(や)、則ち其形を見ず、亡(な)きと言わんと欲する邪(や)、万物之を以て生ず、故に綿綿として存するが若きなり、物は成らざる無く、用いて労(つと)めざるなり、故に用いて勤(つと)めずと曰うなり、
第七章
通し番号 23 章内番号 1 識別番号 7_1
本文
1天長地久、2天地所以能長且久者、3以其不自生、
天は長く地は久し、天地が能く長く且(か)つ久しき所以は、其自(みずか)ら生ぜざるを以てなり、
王弼注
1自生則與物爭、2不自生則物歸也、
自(みずか)ら生ずれば則ち物と争う、自(みずか)ら生じざれば則ち物は帰するなり、
通し番号 24 章内番号 2 識別番号 7_2
本文
1故能長生、2是以聖人後其身而身先、3外其身而身存、4非以其無私邪、5故能成其私、
故に能く長生す、是を以て聖人は其身を後にして身先んず、其身を外にして身存す、以て其の私無きに非ざる邪(か)、故に能く其私を成す、
王弼注
1無私者、2無為於身也、3身先身存、4故曰、5能成其私也、
私無きは、身に為すこと無きなり、身先んじ身存す、故に曰く、能く其私を成すなり、
第八章
通し番号 25 章内番号 1 識別番号 8_1
本文
1上善若水、2水善利萬物而不爭、3處眾人之所惡、
上善は水の若し、水は善く万物を利して争わず、衆人の悪(にく)む所に処(お)る、
王弼注
1人惡卑也、
人は卑(ひく)きを悪(にく)むなり、
通し番号 26 章内番号 2 識別番号 8_2
本文
1故幾於道、
故に道に幾(ちか)し、
王弼注
1道無水有、2故曰、3幾也、
道は無、水は有、故に幾(ちか)しと曰うなり、
通し番号 27 章内番号 3 識別番号 8_3
本文
1居善地、2心善淵、3與善仁、4言善信、5正善治、6事善能、7動善時、8夫唯不爭、9故無尤、
居は地を善しとす、心は淵を善しとす、与えるは仁を善しとす、言は信を善しとす、正は治を善しとす、事は能を善しとす、動は時を善しとす、夫れ唯争わず、故に尤(とが)無し、
王弼注
1言人皆應於治道也、
人皆道を治めるに応ずるを言うなり、
第九章
通し番号 28 章内番号 1 識別番号 9_1
本文
1持而盈之、2不如其已、
持して之を盈(み)たすは、其の已(や)むに如(し)かず、
王弼注
1持、2謂不失德也、3既不失其德又盈之、4勢必傾危、5故不如其已者、6謂乃更不如無德無功者也、
持は、徳を失わざるを謂うなり、既に其徳を失わず、又(さら)に之を盈(み)たせば、勢必ず傾危す、故に其の已(な)きに如かざるは、乃ち更(さら)に徳無く功無き者に如かざるを謂うなり、
通し番号 29 章内番号 2 識別番号 9_2
本文
1揣而銳之、2不可長保、
揣(と)りて之を鋭くすれば、長く保つべからず、
王弼注
1既揣末令尖、2又銳之令利、3勢必摧衂、4故不可長保也、
既に末を揣(と)りて尖(せん)なら令(し)む、又(さら)に之を鋭くして利なら令(し)む、勢い必ず摧衂(さいじく)す、故に長く保つべからざるなり、
通し番号 30 章内番号 3 識別番号 9_3
本文
1金玉滿堂、2莫之能守、
金玉堂に満つれば、之を能く守ること莫し、
王弼注
1不若其已、
其の已(な)きに若(し)かず、
通し番号 31 章内番号 4 識別番号 9_4
本文
1富貴而驕、2自遺其咎、
富貴にして驕れば、自ら其の咎(とが)を遺(のこ)す、
王弼注
1不可長保也、
長く保つべからざるなり、
通し番号 32 章内番号 5 識別番号 9_5
本文
1功遂身退、2天之道也、
功遂(と)げ身退くは、天の道なり、
王弼注
1四時更運、2功成則移、
四時は更(かわ)り運(めぐ)る、功成なれば則ち移る、
第十章
通し番号 33 章内番号 1 識別番号 10_1
本文
1載營魄抱一、2能無離乎、
営魄(えいはく)に載(の)り一を抱く、能く離れること無からん乎(か)、
王弼注
1載、2猶處也、3營魄、4人之常居處也、5一人之真也、6言人能處常居之宅、7抱一清神、8能常無離乎、9則萬物自賓矣、
載、猶処のごときなり、營魄(えいはく)は、人が常に居る処なり、一は人の真なり、言えらく、人能く常居の宅に処(お)り、一を抱き神を清くし、能く常に離れること無からんか、則ち万物自(みずか)ら賓(ひん)せんとす、
通し番号 34 章内番号 2 識別番号 10_2
本文
1專氣致柔、2能嬰兒乎、
気を専らにし柔を致す、能く嬰児たらんか、
王弼注
1專、2任也、3致、4極也、5言任自然之氣、6致至柔之和、7能若嬰兒之無所欲乎、8則物全而性得矣、
専は、任なり、致は、極なり、言えらく、自然の気に任じ、至柔の和を致し、能く嬰児の欲する所無きが若(ごと)きか、則ち物全くして性得る、
通し番号 35 章内番号 3 識別番号 10_3
本文
1滌除玄覽、2能無疵乎、
滌除(てきじょ)して玄覽(げんらん)し、能く疵(きず)つけること無からんか、
王弼注
1玄、2物之極也、3言能滌除邪飾、4至於極覽、5能不以物介其明、6疵之其神乎、7則終與玄同也、
玄は、物の極なり、能く邪飾を滌除して、極覽に至るを言う、能く物以て其明を介(へだ)て、之を其神に疵(きず)つけざらんか、則ち終(つい)に玄と同じきなり、
通し番号 36 章内番号 4 識別番号 10_4
本文
1愛民治國、2能無知乎、
民を愛して国を治む、能く知ること無きか、
王弼注
1任術以求成、2運數以求匿者、3智也、4玄覽無疵、5猶絕聖也、6治國無以智、7猶棄智也、8能無以智乎、9則民不辟而國治之也、
術に任じて以て成るを求め、数を運(めぐ)らして以て匿を求めるは、智なり、玄覽で疵(きず)つけること無きは、猶聖を絶するがごときなり、国を治めるに智以てすること無きは、猶智を棄てるがごときなり、能く智以てすること無きか、則民辟(さ)けずして国之を治めるなり、
通し番号 37 章内番号 5 識別番号 10_5
本文
1天門開闔、2能為雌乎、
天門開闔(こう)す、能く雌為(た)らんか、
王弼注
1天門、2天下之所由從也、3開闔、4治亂之際也、5或開或闔、6經通於天下、7故曰、8天門開闔也、9雌、10應而不倡、11因而不為、12言天門開闔能為雌乎、13則物自賓而處自安矣、
天門は、天下の由りて従う所なり、開闔(こう)は、治乱の際なり、或いは開き或いは闔(と)じ、経は天下に通ずる、故に曰く、天門は開闔するや、雌は、応じて倡(さき)とならず、因りて為さず、言えらく、天門開闔し能く雌為(た)らんか、則ち物は自(みずか)ら賓し、処(お)りて自(おの)ずから安し、
通し番号 38 章内番号 6 識別番号 10_6
本文
1明白四達、2能無為乎、
明白にして四達し、能く為すこと無きか、
王弼注
1言至明四達、2無迷無惑、3能無以為乎、4則物化矣、5所謂道常無為、6侯王若能守、7則萬物自化、
言えらく、至明にして四達し、迷うこと無く惑うこと無し、能く以て為すこと無きか、則ち物化す、謂う所の道常に為すこと無し、侯王若し能く守れば、則ち万物自ずから化さんとす、
通し番号 39 章内番号 7 識別番号 10_7
本文
1生之、
之を生ず、
王弼注
1不塞其原也、
其原(みなもと)を塞(ふさ)がざるなり、
通し番号 40 章内番号 8 識別番号 10_8
本文
1畜之、
之を畜(やしな)う、
王弼注
1不禁其性也、
其性を禁(と)めざるなり、
通し番号 41 章内番号 9 識別番号 10_9
本文
1生而不有、2為而不恃、3長而不宰、4是謂玄德、
生じて有(たも)たず、為して恃(たの)まず、長じて宰(さい)せず、是れ玄徳と謂う、
王弼注
1不塞其原、2則物自生、3何功之有、4不禁其性、5則物自濟、6何為之恃、7物自長足、8不吾宰成、9有德無主、10非玄如何、11凡言玄德、12皆有德而不知其主、13出乎幽冥、
其原(みなもと)を塞(ふさ)がざれば、則ち物は自(おの)ずと生ず、何ぞ功之有らん、其性を禁(と)めざれば、則ち物自(おの)ずと済(な)る、何ぞ為すこと之恃(たの)まん、物は自(おの)ずと長(そだ)ち足る、吾は宰成せず、徳有りて主(つかさ)どること無し、玄に非ざれば如何(いかん)、凡そ玄徳と言うは、皆徳有りて其主を知らず、幽冥に出ず、
第十一章
通し番号 42 章内番号 1 識別番号 11_1
本文
1三十輻、2共一轂、3當其無、4有車之用、
三十輻(ふく)、一轂(こく)を共にす、其無に当たりて、車の用有り、
王弼注
1轂所以能統三十輻者、2無也、3以其無能受物之故、4故能以實統眾也、
轂(こく)能く三十輻(ふく)を統(す)ぶる所以は、無なり、其無以て能く物を受けるの故なり、故に能く以て実(つい)に衆を統(す)ぶるなり、
通し番号 43 章内番号 2 識別番号 11_2
本文
1埏埴以為器、2當其無、3有器之用、4鑿戶牖以為室、5當其無、6有室之用、7故有之以為利、8無之以為用、
埴(はに)を埏(こ)ねて以て器を為(つく)る、其無に当りて、器の用有り、戸(こ)牖(ゆう)を鑿(うが)ちて以て室を為(つく)る、其無に当りて、室の用有り、故に有の以て利を為すは、無の以て用を為せばなり、
王弼注
1木埴壁之所以成三者、2而皆以無為用也、3言無者、4有之所以為利、5皆賴無以為用也、
木埴壁の以て三を成す所は、皆無以て用を為すなり、言えらく、無が有の利と為す所以は、皆無に頼り以て用を為すなり、
第十二章
通し番号 44 章内番号 1 識別番号 12_1
本文
1五色令人目盲、2五音令人耳聾、3五味令人口爽、4馳騁畋獵令人心發狂、
五色は人の目をして盲なら令(し)む、五音(ごいん)は人の耳をして聾ならしむ、五味は人の口をして爽(たが)わしむ、馳騁(ちてい)畋猟(でんりょう)人の心をして狂を発せしむ、
王弼注
1爽、2差失也、3失口之用、4故謂之爽、5夫耳目口心、6皆順其性也、7不以順性命、8反以傷自然、9故曰聾、10盲、11爽、12狂也、
爽(そう)は、差失なり、口の用を失う、故に之を爽と謂う、夫れ耳目口心は、皆其性に順(したが)うなり、以て性命に順(したが)わざれば、反って以て自然を傷つく、故に聾、盲、爽、狂と曰うなり、
通し番号 45 章内番号 2 識別番号 12_2
本文
1難得之貨令人行妨、
得難きの貨は人の行をして妨(さまた)げしむ、
王弼注
1難得之貨、2塞人正路、3故令人行妨也、
得難きの貨、人の正路を塞ぐ、故に人の行をして妨(さまた)げしむなり、
通し番号 46 章内番号 3 識別番号 12_3
本文
1是以聖人為腹不為目、2故去彼取此、
是を以て聖人は腹の為にして目の為にせず、故に彼を去り此を取る、
王弼注
1為腹者以物養己、2為目者以物役己、3故聖人不為目也、
腹の為にするは物以て己を養う、目の為にするは物以て己を役(つか)う、故に聖人は目の為にせざるなり、
第十三章
通し番号 47 章内番号 1 識別番号 13_1
本文
1寵辱若驚、2貴大患若身、3何謂寵辱若驚、4寵為下、5得之若驚、6失之若驚、7是謂寵辱若驚、
寵辱驚くが若し、大患を貴ぶこと身の若し、何をか寵辱驚くが若しと謂う、寵下と為す、之を得て驚くが若し、之を失いて驚くが若し、是れ寵辱驚くが若しと謂う、
王弼注
1寵必有辱、2榮必有患、3驚辱等、4榮患同也、5為下、6得寵辱榮患若驚、7則不足以亂天下也、
寵必ず辱有り、栄必ず患有り、驚辱は等しく、栄患は同じきなり、下と為すは、寵辱栄患を得て驚くが若ければ、則ち以て天下を乱(おさ)めるに足らざるなり、
通し番号 48 章内番号 2 識別番号 13_2
本文
1何謂貴大患若身、
何をか大患を貴ぶこと身の若しと謂う、
王弼注
1大患、2榮寵之屬也、3生之厚、4必入死之地、5故謂之大患也、6人迷之於榮寵、7返之於身、8故曰大患若身也、
大患は、栄寵の属なり、生の厚きは、必ず死の地に入る、故に之を大患と謂うなり、人之を栄寵に迷(あやま)り、之を身に返す、故に大患身の若しと曰うなり、
通し番号 49 章内番号 3 識別番号 13_3
本文
1吾所以有大患者、2為吾有身、
吾大患有る所以は、吾身を有(たも)つ為なり、
王弼注
1由有其身也、
其身を有つに由るなり、
通し番号 50 章内番号 4 識別番号 13_4
本文
1及吾無身、
吾身無きに及(いた)れば、
王弼注
1歸之自然也、
之を自然に帰するなり、
通し番号 51 章内番号 5 識別番号 13_5
本文
1吾有何患、2故貴以身為天下、3若可寄天下、
吾何の患い有らん、故に貴(たっと)ぶは身以て天下と為せば、天下を寄すべきが若し、
王弼注
1無以易其身、2故曰貴也、3如此乃可以託天下也、
以て其身を易(か)えること無し、故に貴と曰うなり、此如ければ乃ち以て天下を託すべきなり、
通し番号 52 章内番号 6 識別番号 13_6
本文
1愛以身為天下、2若可託天下、
愛(おし)むこと身以て天下と為す、天下を託すべきが若し、
王弼注
1無物可以損其身、2故曰愛也、3如此乃可以寄天下也、4不以寵辱榮患損易其身、5然後乃可以天下付之也、
物以て其身を損(そこ)なうべきこと無し、故に愛と曰うなり、此如ければ乃ち以て天下を寄すべきなり、寵辱栄患以て其身を損(そこ)ない易(か)えず、然る後乃ち天下以て之に付すべきなり、
第十四章
通し番号 53 章内番号 1 識別番号 14_1
本文
1視之不見名曰夷、2聽之不聞名曰希、3搏之不得名曰微、4此三者、5不可致詰、6故混而為一、
之を視(み)て見えず、名づけて夷(い)と曰う、之を聴きて聞こえず、名づけて希と曰う、之を搏(と)りて得ず、名づけて微と曰う、此三は、詰(と)うを致すべからず、故に混じて一と為る、
王弼注
1無狀無象、2無聲無響、3故能無所不通、4無所不往、5不得而知、6更以我耳目體、7不知為名、8故不可致詰、9混而為一也、
状無く象無く、声無く響(ひび)き無し、故に能く通ぜざる所無く、往(い)かざる所無し、得て知らず、更に我が耳目体を以て、名を為すを知らず、故に詰(と)うを致すべからず、混じて一と為るなり、
通し番号 54 章内番号 2 識別番号 14_2
本文
1其上不皦、2其下不昧、3繩繩不可名、4復歸於無物、5是謂無狀之狀、6無物之象、
其上皦(あきら)かならず、其下昧(くら)からず、縄縄(じょうじょう)として名づくべからず、無物に復し帰する、是れ無状の状、無物の象と謂う、
王弼注
1欲言無邪、2而物由以成、3欲言有邪、4而不見其形、5故曰、6無狀之狀、7無物之象也、
無と言わんと欲する邪(や)、物由りて以て成る、有と言わんと欲する邪(や)、其形を見ず、故に状無きの状、物無きの象と曰うなり、
通し番号 55 章内番号 3 識別番号 14_3
本文
1是謂惚恍、
是れ惚恍(こつこう)と謂う、
王弼注
1不可得而定也、
得て定むべからざるなり、
通し番号 56 章内番号 4 識別番号 14_4
本文
1迎之不見其首、2隨之不見其後、3執古之道、4以御今之有、
之を迎えて其首を見ず、之に随(したが)いて其後(しり)を見ず、古の道を執(と)りて、以て今の有を御す、
王弼注
1有、2有其事、
有は、其事を有す、
通し番号 57 章内番号 5 識別番号 14_5
本文
1能知古始、2是謂道紀、
能く古始を知る、是れ道の紀と謂う、
王弼注
1無形無名者、2萬物之宗也、3雖今古不同、4時移俗易、5故莫不由乎此、6以成其治者也、7故可執古之道、8以御今之有、9上古雖遠、10其道存焉、11故雖在今、12可以知古始也、
無形無名は、万物の宗なり、今古同じからず、時移り俗易(か)わると雖も、故(もと)より此に由りて、以て其治を成さざる者莫(な)きなり、故に古の道を執(と)りて、以て今の有を御すべし、上古は遠しと雖も、其道存す、故に今に在りと雖も、以て古始を知るべきなり、
第十五章
通し番号 58 章内番号 1 識別番号 15_1
本文
1古之善為士者、2微妙玄通、3深不可識、4夫唯不可識、5故強為之容、6豫兮若冬涉川、
古の善く士為(た)る者は、微、妙、玄にして通ず、深くして識るべからず、夫れ唯(ただ)識るべからず、故に強いて之が容を為す、予(兮)として冬川を涉(わた)るが若し、
王弼注
1冬之涉川豫然者、2欲度若不欲度、3其情不可得見之貌也、
冬の川を涉(わた)り予然たる者は、度(わた)るを欲して度るを欲さざるが若し、其情得て見るべからざるの貌なり、
通し番号 59 章内番号 2 識別番号 15_2
本文
1猶兮若畏四鄰、
猶(ゆう)(兮)として四鄰を畏れるが若し、
王弼注
1四鄰合攻、2中央之主、3猶然不知所趣向者也、4上德之人、5其端兆不可覩、6德趣不可見、7亦猶此也、
四鄰攻を合わす、中央の主、猶然として趣向する所をを知らざるものなり、上徳の人、其端兆覩(み)るべからず、徳趣見るべかららざるは、亦猶此のごときなり、
通し番号 60 章内番号 3 識別番号 15_3
本文
1儼兮其若客、2渙兮若冰之將釋、3敦兮其若樸、4曠兮其若谷、5混兮其若濁、
儼(げん)(兮)として其れ客の若し、渙(かん)として冰(こおり)の将に釈(と)けんとするが若し、敦(とん)として其れ樸の若し、曠(こう)として其れ谷の若し、混として其れ濁るが若し、
王弼注
1凡此諸若、2皆言其容象不可得而形名也、
凡そ此の諸(もろもろ)の若は、皆其容象を得て形名すべからざるを言うなり、
通し番号 61 章内番号 4 識別番号 15_4
本文
1孰能濁以靜之徐清、2孰能安以久動之徐生、
孰(たれ)か能く濁にして以て之を静かにし徐(おもむろ)に清(あきら)かならん、孰か能く安にして以て久しく之を動かし徐(おもむろ)に生ぜん、
王弼注
1夫晦以理物則得明、2濁以靜物則得清、3安以動物則得生、4此自然之道也、5孰能者、6言其難也、7徐者、8詳愼也、
夫れ晦(かい)にして以て物を理(おさ)むれば則ち明を得る、濁にして以て物を静めれば則ち清を得る、安にして以て物を動かせば則ち生を得る、此れ自然の道なり、孰か能くするは、其難を言うなり、徐は、詳慎なり、
通し番号 62 章内番号 5 識別番号 15_5
本文
1保此道者不欲盈、
此道を保つ者は盈(み)つることを欲せず、
王弼注
1盈必溢也、
盈(み)つれば、必ず溢(あふ)れるなり、
通し番号 63 章内番号 6 識別番号 15_6
本文
1夫唯不盈、2故能蔽不新成、
夫れ唯盈(み)たず、故に能く蔽(おお)い新たに成さず、
王弼注
1蔽、2覆蓋也、
蔽、覆蓋(ふくがい)なり、
第十六章
通し番号 64 章内番号 1 識別番号 16_1
本文
1致虛極、2守靜篤、
虛を致し極まる、静を守り篤(あつ)し、
王弼注
1言致虛、2物之極篤、3守靜、4物之真正也、
言えらく、虚を致し、物の極篤(あつ)く、静を守り、物の真は正しきなり、
通し番号 65 章内番号 2 識別番号 16_2
本文
1萬物並作、
万物並(なら)び作(おこ)る、
王弼注
1動作生長、
動き作(おこ)り生じ長(そだ)つ、
通し番号 66 章内番号 3 識別番号 16_3
本文
1吾以觀復、
吾以て復するを観(み)る、
王弼注
1以虛靜觀其反復、2凡有起於虛、3動起於靜、4故萬物雖並動作、5卒復歸於虛靜、6是物之極篤也、
虚静以て其反(かえ)り復するを観(み)る、凡そ有は虚に起こり、動は静に起こる、故に万物並(なら)び動き作(おこ)ると雖も、卒(つい)に虚静に復し帰する、是れ物の極が篤(あつ)きなり、
通し番号 67 章内番号 4 識別番号 16_4
本文
1夫物芸芸、2各復歸其根、
夫物芸芸(うんうん)として、各(おのおの)其根に復し帰す、
王弼注
1各反其所始也、
各(おのおの)其の始まる所に反(かえ)るなり、
通し番号 68 章内番号 5 識別番号 16_5
本文
1歸根曰靜、2是曰復命、3復命曰常、
根に帰るを静と曰う、是れ命に復すと曰う、命に復すを常と曰う、
王弼注
1歸根則靜、2故曰靜、3靜則復命、4故曰復命也、5復命則得性命之常、6故曰常也、
根に帰れば則ち静かなり、故に静と曰う、静なれば則ち命に復す、故に命に復すと曰うなり、命に復せば則ち性命の常を得る、故に常と曰うなり、
通し番号 69 章内番号 6 識別番号 16_6
本文
1知常曰明、2不知常妄作、3凶、
常を知るを明と曰う、常を知らずして妄(みだり)に作(な)せば、凶なり、
王弼注
1常之為物、2不偏不彰、3無皦昧之狀、4溫涼之象、5故曰知常曰明也、6唯此復乃能包通萬物、7無所不容、8失此以往、9則邪入乎分、10則物離其分、11故曰不知常、12則妄作凶也、
常の物と為る、偏(かたよ)らず彰(あきら)かならず、皦昧(きょうまい)の状、温涼の象無し、故に常を知るを明と曰うと曰うなり、唯此は復すれば乃ち能く万物を包通し、容(い)れざる所無し、此を失う以往は、則ち邪が分に入れば、則ち物は其分を離る、故に曰く常を知らざれば、則ち妄(みだり)に作(な)して凶なり、
通し番号 70 章内番号 7 識別番号 16_7
本文
1知常容、
常を知れば容なり、
王弼注
1無所不包通也、
包通ぜざる所無きなり、
通し番号 71 章内番号 8 識別番号 16_8
本文
1容乃公、
容なれば乃ち公なり、
王弼注
1無所不包通、2則乃至於蕩然公平也、
包通せざる所無ければ、則ち乃(ここ)に蕩然(とうぜん)公平に至るなり、
通し番号 72 章内番号 9 識別番号 16_9
本文
1公乃王、
公なれば乃ち王なり、
王弼注
1蕩然公平、2則乃至於無所不周普也、
蕩然(とうぜん)公平なれば、則ち乃(ここ)に周普せざる所無きに至る、
通し番号 73 章内番号 10 識別番号 16_10
本文
1王乃天、
王なれば乃ち天なり、
王弼注
1無所不周普、2則乃至於同乎天也、
周普せざる所無し、則ち乃(ここ)に天と同じきに至るなり、
通し番号 74 章内番号 11 識別番号 16_11
本文
1天乃道、
天なれば乃ち道なり、
王弼注
1與天合德、2體道大通、3則乃至於極虛無也、
天と徳を合わせ、道を体して大いに通ずれば、則ち乃(ここ)に虚無を極めるに至る、
通し番号 75 章内番号 12 識別番号 16_12
本文
1道乃久、
道なれば乃ち久し、
王弼注
1窮極虛無、2得道之常、3則乃至於不有極也、
虚無を窮極し、道の常を得れば、則ち乃(ここ)に極(きわ)まること有らざるに至るなり、
通し番号 76 章内番号 13 識別番号 16_13
本文
1沒身不殆、
身を没するまで殆(あやう)からず、
王弼注
1無之為物、2水火不能害、3金石不能殘、4用之於心則虎兕無所投其齒角、5兵戈無所容其鋒刃、6何危殆之有乎、
無の物為(た)るは、水火害すること能わず、金石残(そこな)うこと能わず、之を心に用れば則ち虎兕(こじ)其歯角を投ずる所無く、兵戈(か)其鋒刃(ほうじん)を容(い)れる所無し、何の危殆之有らんや、
第十七章
通し番号 77 章内番号 1 識別番号 17_1
本文
1大上、2下知有之、
大上は、下は之有ることを知る、
王弼注
1大上、2謂大人也、3大人在上、4故曰大上、5大人在上、6居無為之事、7行不言之教、8萬物作焉而不為始、9故下知有之而已、
大上は、大人(たいじん)を謂うなり、大人上に在り、故に大上と曰う、大人上に在れば、無為の事に居り、不言の教えを行い、万物作(おこ)りて始めるを為さず、故に下は之有ることを知るのみ、
通し番号 78 章内番号 2 識別番号 17_2
本文
1其次親而譽之、
其次は親しみて之を誉める、
王弼注
1不能以無為居事、2不言為教、3立善行施、4使下得親而譽之也、
無為を以て事に居り、不言にして教を為すこと能わずして、善を立て施(ほどこ)しを行い、下をして親しみ之を誉(ほ)めるを得せしむ、
通し番号 79 章内番号 3 識別番号 17_3
本文
1其次畏之、
其次は之を畏る、
王弼注
1不能復以恩仁令物、2而賴威權也、
復(また)恩仁以て物を令すること能わずして、威権に頼るなり、
通し番号 80 章内番号 4 識別番号 17_4
本文
1其次侮之、
其次は之を侮る、
王弼注
1不能法以正齊民、2而以智治國、3下知避之、4其令不從、5故曰侮之也、
法は以て斉民を正すこと能わずして、智以て国を治む、下は之を避けるを知り、其令従わず、故に之を侮ると曰うなり、
通し番号 81 章内番号 5 識別番号 17_5
本文
1信不足焉、2有不信焉、
信足らざれば、不信有り、
王弼注
1言從上也、2夫御體失性則疾病生、3輔物失真則疵釁作、4信不足焉、5則有不信、6此自然之道也、7已處不足、8非智之所齊也、
上に従うを言うなり、夫れ体を御するに、性を失えば、則ち疾病生ず、物を輔(たす)けるに、真を失えば、則ち疵釁(しきん)作(おこ)る、信足らず、則ち不信有り、此は自然の道なり、已に足らざる処(ところ)は、智の斉(ととの)う所に非ざるなり、
通し番号 82 章内番号 6 識別番号 17_6
本文
1悠兮其貴言、2功成事遂、3百姓皆謂我自然、
悠(ゆう)として其れ言を貴ぶ、功成り事遂(と)ぐ、百姓(ひゃくせい)皆我は自ずから然りと謂う、
王弼注
1自然、2其端兆不可得而見也、3其意趣不可得而覩也、4無物可以易其言、5言必有應、6故曰、7悠兮其貴言也、8居無為之事、9行不言之教、10不以形立物、11故功成事遂、12而百姓不知其所以然也、
自然は、其端兆得て見るべからざるなり、其意趣得て覩(み)るべからざるなり、物は以て其言を易(やす)くすべきこと無し、言は必ず応有り、故に悠(ゆう)として其れ言を貴ぶと曰うなり、無為の事に居り、不言の教えを行い、形以て物を立てず、故に功成り事遂げて、百姓其の然る所以を知らざるなり、
第十八章
通し番号 83 章内番号 1 識別番号 18_1
本文
1大道廢、2有仁義、
大道廃(すた)れて、仁義有り、
王弼注
1失無為之事、2更以於慧立善道、3進物也、
無為の事を失う、更に以て慧に於て善道を立て、物を進めるなり、
通し番号 84 章内番号 2 識別番号 18_2
本文
1智慧出、2有大偽、
智慧出でて、大偽有り、
王弼注
1行術用明、2以察姦偽、3趣睹形見、4物知避之、5故智慧出則大偽生也、
術を行い明を用い、以て姦偽を察すれば、趣(おもむ)き形見を睹(み)て、物は之を避くるを知る、故に智慧出ずれば則ち大偽生ずるなり、
通し番号 85 章内番号 3 識別番号 18_3
本文
1六親不和、2有孝慈、3國家昏亂、4有忠臣、
六親(りくしん)和せずして、孝慈有り、国家昏乱(こんらん)して、忠臣有り、
王弼注
1甚美之名生於大惡、2所謂美惡同門、3六親、4父子兄弟夫婦也、5若六親自和、6國家自治、7則孝慈忠臣不知其所在矣、8魚相忘於江湖之道、9則相濡之德生也、
甚だ美の名は大悪に生ず、謂う所の美悪同門なり、六親は、父子兄弟夫婦なり、若し六親自(おの)ずと和し、国家自ずと治まれば、則ち孝慈忠臣其在る所を知らず、魚江湖の道を相(あい)忘れれば、則ち相(あい)之を濡(うるお)すの徳生ずるなり、
第十九章
通し番号 86 章内番号 1 識別番号 19_1
本文
1絕聖棄智、2民利百倍、3絕仁棄義、4民復孝慈、5絕巧棄利、6盜賊無有、7此三者以為文不足、8故令有所屬、9見素抱樸、10少私寡欲、
聖を絶ち智を棄てれば、民利百倍す、仁を絶ち義を棄てれば、民孝慈に復す、巧を絶ち利を棄てれば、盜賊有ること無し、此三は以て文を為し、足らず、故に属(つづ)く所有らしむ、素を見て樸を抱き、私を少くし欲を寡(すくな)くす、
王弼注
1聖智、2才之善也、3仁義、4人之善也、5巧利、6用之善也、7而直云絕、8文甚不足、9不令之有所屬、10無以見其指、11故曰、12此三者以為文而未足、13故令人有所屬、14屬之於素樸寡欲、
聖智は、才の善なり、仁義は、人の善なり、巧利は、用の善なり、而るに直(ただ)絶と云えば、文甚だ足らず、之に属(つづ)く所有らしめざれば、以て其指を見ること無し、故に此三は以て文を為して未だ足らずと曰う、故に人をして属(つづ)く所有らしむ、之に素樸寡欲を属(つづ)ける、
第二十章
通し番号 87 章内番号 1 識別番号 20_1
本文
1絕學無憂、2唯之與阿、3相去幾何、4善之與惡、5相去若何、6人之所畏、7不可不畏、
学を絶てば憂い無し、唯(い)の阿(あ)と、相去る幾何(いくばく)ぞ、善の悪と、相去る若何(いかん)、人の畏れる所、畏れざるべからず、
王弼注
1下篇、2為學者日益、3為道者日損、4然則學求益所能、5而進其智者也、6若將無欲而足、7何求於益、8不知而中、9何求於進、10夫鷙雀有匹、11鳩鴿有仇、12寒鄉之民、13必知旃裘、14自然已足、15益之則憂、16故續鳧之足、17何異截鶴之脛、18畏譽而進、19何異畏刑、20唯阿美惡、21相去若何、22故人之所畏、23吾亦畏焉、24未敢恃之以為用也、
下篇、学を為す者は日に益(ま)す、道を為す者は日に損(へ)らす、然らば則ち学は能くする所を益(ま)すを求め、其智を進めるものなり、若し将(はた)無欲にして足れば、何ぞ益すことを求めん、知らずして中(あた)れば、何ぞ進むことを求めん、夫れ鷙(し)雀匹(ひつ)有り、鳩(きゅう)鴿(こう)仇(きゅう)有り、寒鄉の民は、必ず旃裘(せんきゅう)を知る、自然にして已に足る、之を益(ま)せば則ち憂う、故に鳧(かも)の足を続(つな)ぐは、何ぞ鶴の脛(すね)を截(き)るに異ならん、誉を畏れて進むは、何ぞ刑を畏れるに異ならん、唯阿美悪、相去ること若何(いかん)、故(もと)より人の畏る所、吾亦畏る、未だ敢て之を恃みて以て用と為さざるなり、
通し番号 88 章内番号 2 識別番号 20_2
本文
1荒兮其未央哉、
荒として(兮)其れ未だ央(つ)きざるかな、
王弼注
1歎與俗相返之遠也、
俗と相返(はん)するの遠きを歎ずるなり、
通し番号 89 章内番号 3 識別番号 20_3
本文
1眾人熙熙、2如享太牢、3如春登臺、
衆人は熙熙(きき)として、太牢(たいろう)を享(う)けるが如し、春台に登るが如し、
王弼注
1眾人迷於美進、2惑於榮利、3欲進心競、4故熙熙如享太牢、5如春登臺也、
衆人は美に迷い進み、栄に惑い利(むさぼ)る、欲は進み心は競う、故に熙熙(きき)として太牢を享(う)けるが如く、春台に登るが如きなり、
通し番号 90 章内番号 4 識別番号 20_4
本文
1我獨泊兮其未兆、2如嬰兒之未孩、
我独り泊(はく)として其未だ兆(きざ)さず、嬰児(えいじ)の未だ孩(がい)さざるが如し、
王弼注
1言我廓然、2無形之可名、3無兆之可舉、4如嬰兒之未能孩也、
言えらく、我廓然(かくぜん)として、形の名づくべきこと無し、兆の挙ぐべきこと無し、嬰児の未だ能く孩せざるが如きなり、
通し番号 91 章内番号 5 識別番号 20_5
本文
1儽儽兮、2若無所歸、
儽儽(るいるい)(兮)として、帰する所無きが若し、
王弼注
1若無所宅、
宅(お)る所無きが若し、
通し番号 92 章内番号 6 識別番号 20_6
本文
1眾人皆有餘、2而我獨若遺、
衆人皆余有り、我独り遺(うしな)うが若し、
王弼注
1眾人無不有懷有志、2盈溢胸心、3故曰、4皆有餘也、5我獨廓然、6無為無欲、7若遺失之也、
衆人は懐(おも)うこと有り、志すこと有りて胸心に盈溢(えいいつ)せざること無し、故に皆余有ると曰うなり、我独り廓然として、為すこと無く、欲すること無し、之を遺失するが若きなり、
通し番号 93 章内番号 7 識別番号 20_7
本文
1我愚人之心也哉、
我は愚人の心なるかな、
王弼注
1絕愚之人、2心無所別析、3意無所好惡、4猶然其情不可睹、5我頹然若此也、
絶愚の人は、心別析する所無し、意は好悪する所無し、猶然(ゆうぜん)として其情睹(み)るべからず、我頹然(たいぜん)として此の若きなり、
通し番号 94 章内番号 8 識別番号 20_8
本文
1沌沌兮、
沌沌(とんとん)(兮)たり、
王弼注
1無所別析、2不可為名、
別析する所無し、名を為すべからず、
通し番号 95 章内番号 9 識別番号 20_9
本文
1俗人昭昭、
俗人は昭昭たり、
王弼注
1耀其光也、
其光を耀(かがや)かすなり、
通し番号 96 章内番号 10 識別番号 20_10
本文
1我獨若昏、2俗人察察、
我独り昏(こん)の若し、俗人は察察たり、
王弼注
1分別別析也、
分別別析なり、
通し番号 97 章内番号 11 識別番号 20_11
本文
1我獨悶悶、2澹兮其若海、
我独り悶悶(もんもん)たり、澹(たん)として其れ海の若し、
王弼注
1情不可睹、
情は睹(み)るべからず、
通し番号 98 章内番号 12 識別番号 20_12
本文
1飂兮若無止、
飂(りゅう)(兮)として止(とど)まること無きが若し、
王弼注
1無所繫縶、
繫縶(けいちゅう)する所無し、
通し番号 99 章内番号 13 識別番号 20_13
本文
1眾人皆有以、
衆人皆以(もち)いること有り、
王弼注
1以、2用也、3皆欲有所施用也、
以、用なり、皆施用する所有るを欲するなり、
通し番号 100 章内番号 14 識別番号 20_14
本文
1而我獨頑似鄙、
我独り頑にして鄙に似る、
王弼注
1無所欲為、2悶悶昏昏、3若無所識、4故曰、5頑且鄙也、
欲為する所無し、悶悶昏昏にして、識(し)る所無きが若し、故に頑且つ鄙と曰うなり、
通し番号 101 章内番号 15 識別番号 20_15
本文
1我獨異於人、2而貴食母、
我独り人に異なりて、食母を貴ぶ、
王弼注
1食母、2生之本也、3人者皆棄生民之本、4貴末飾之華、5故曰、6我獨欲異於人、
食母は、生の本なり、人は皆生民の本を棄て、末飾の華を貴ぶ、故に我独り人に異ならんと欲すと曰う、
第二十一章
通し番号 102 章内番号 1 識別番号 21_1
本文
1孔德之容、2惟道是從、
孔徳の容、惟(ただ)道是れ従う、
王弼注
1孔、2空也、3惟以空為德、4然後乃能動作從道、
孔、空(くう)なり、惟(ただ)空以て徳と為す、然る後乃ち能く動作し道に従う、
通し番号 103 章内番号 2 識別番号 21_2
本文
1道之為物、2惟恍惟惚、
道の物為る、惟(こ)れ恍(こう)惟(こ)れ惚(こつ)、
王弼注
1恍惚、2無形不繫之歎、
恍惚は、無形不繫(けい)を之歎ずるなり、
通し番号 104 章内番号 3 識別番号 21_3
本文
1惚兮恍兮、2其中有象、3恍兮惚兮、4其中有物、
惚たり恍たり、其中象有り、恍たり惚たり、其中物有り、
王弼注
1以無形始物、2不繫成物、3萬物以始以成、4而不知其所以然、5故曰、6恍兮惚兮、7其中有象也、
無形以て物を始め、繫(つな)がらずして物を成す、万物以て始まり以て成る、而るに其然る所以を知らず、故に恍たり惚たり、其中象有りと曰うなり、
通し番号 105 章内番号 4 識別番号 21_4
本文
1窈兮冥兮、2其中有精、
窈(よう)たり冥(めい)たり、其中精有り、
王弼注
1窈、2冥、3深遠之歎、4深遠不可得而見、5然而萬物由之、6其可得見以定其真、7故曰、8窈兮冥兮、9其中有精也、
窈、冥は、深遠之歎ずるなり、深遠は得て見るべからず、然り而して万物之に由る、其の見て以て其真を定むことを得べし、故に窈(よう)たり冥(めい)たり、其中に精有りと曰うなり、
通し番号 106 章内番号 5 識別番号 21_5
本文
1其精甚真、2其中有信、
其精甚だ真、其中信有り、
王弼注
1信、2信驗也、3物反窈冥、4則真精之極得、5萬物之性定、6故曰、7其精甚真、8其中有信也、
信は、信験なり、物窈冥に反れば、則ち真精の極得られ、万物の性定まる、故に其精甚だ真、其中信有りと曰うなり、
通し番号 107 章内番号 6 識別番号 21_6
本文
1自今及古、2其名不去、
今自(よ)り古に及ぶ、其名去らず、
王弼注
1至真之極、2不可得名、3無名則是其名也、4自古及今、5無不由此而成、6故曰、7自古及今、8其名不去也、
至真の極、得て名づくるべからず、無名は則ち是れ其名なり、古自(よ)り今に及ぶ、此に由りて成らざる無し、故に古自(よ)り今に及ぶ、其名去らずと曰うなり、
通し番号 108 章内番号 7 識別番号 21_7
本文
1以閱眾甫、
以て衆甫(しゅうほ)を閱(す)ぶ、
王弼注
1眾甫、2物之始也、3以無名說萬物始也、
衆甫(ほ)は、物の始めなり、無名を以て万物の始めを説くなり、
通し番号 109 章内番号 8 識別番号 21_8
本文
1吾何以知眾甫之狀哉、2以此、
吾何を以て衆甫の状を知る哉(や)、此を以てなり、
王弼注
1此上之所云也、2言吾何以知萬物之始於無哉、3以此知之也、
此は上の云う所なり、言えらく、吾何を以て万物の無に始まるを知る哉(や)、此を以て之を知るなり、
第二十二章
通し番号 110 章内番号 1 識別番号 22_1
本文
1曲則全、
曲がるは則ち全(まった)し、
王弼注
1不自見其明則全也、
自ら其明を見せざれば則ち全(まった)きなり、
通し番号 111 章内番号 2 識別番号 22_2
本文
1枉則直、
枉(ま)げれば則ち直し、
王弼注
1不自是則其是彰也、
自ら是(ぜ)とせざれば則ち其の是(ぜ)は彰(あきら)かなり、
通し番号 112 章内番号 3 識別番号 22_3
本文
1窪則盈、
窪(くぼ)めば則ち盈(み)つ、
王弼注
1不自伐則其功有也、
自(みずか)ら伐(ほこ)らざれば則ち其功有るなり、
通し番号 113 章内番号 4 識別番号 22_4
本文
1弊則新、
弊(やぶ)れば則ち新し、
王弼注
1不自矜則其德長也、
自(みずか)ら矜(ほこ)らざれば則ち其徳長(すす)むなり、
通し番号 114 章内番号 5 識別番号 22_5
本文
1少則得、2多則惑、
少なければ則ち得る、多ければ則ち惑う、
王弼注
1自然之道亦猶樹也、2轉多轉遠其根、3轉少轉得其本、4多則遠其真、5故曰惑也、6少則得其本、7故曰得也、
自然の道は亦猶樹のごときなり、転(うた)た多ければ転(うた)た其根に遠ざかる、転(うた)た少なければ、転(うた)た其本を得る、多ければ則ち其真に遠ざかる、故に惑と曰うなり、少なければ則ち其本を得る、故に得ると曰うなり、
通し番号 115 章内番号 6 識別番号 22_6
本文
1是以聖人抱一為天下式、
是を以て聖人は一を抱き天下の式と為る、
王弼注
1一、2少之極也、3式、4猶則之也、
一は、少の極なり、式は、猶之に則(のっと)るがごときなり、
通し番号 116 章内番号 7 識別番号 22_7
本文
1不自見故明、2不自是故彰、3不自伐故有功、4不自矜故長、5夫唯不爭、6故天下莫能與之爭、7古之所謂曲則全者、8豈虛言哉、9誠全而歸之、
自(みずか)ら見(あら)わさず、故に明なり、自(みずか)ら是とせず、故に彰(あらわ)る、自ら伐(と)らず、故に功有り、自ら矜(ほこ)らず、故に長(すす)む、夫れ唯(ただ)争わず、故に天下能く之と争うこと莫し、古の謂う所の曲がれば則ち全きは、豈虚言ならんや、誠に全くして之に帰す、
王弼注
第二十三章
通し番号 117 章内番号 1 識別番号 23_1
本文
1希言自然、
言を希(すく)なくし、自(おの)ずから然る、
王弼注
1聽之不聞名曰希、2下章言、3道之出言、4淡兮其無味也、5視之不足見、6聽之不足聞、7然則無味不足聽之言、8乃是自然之至言也、
之を聴きて聞こえず、名づけて希と曰う、下章に言う、道の言を出すや、淡として其味無きなり、之を視て見るに足らず、之を聴きて聞くに足らず、然らば則ち無味にして聴くに足らずの言、乃ち是れ自然の至言なり、
通し番号 118 章内番号 2 識別番号 23_2
本文
1故飄風不終朝、2驟雨不終日、3孰為此者、4天地、5天地尚不能久、6而況於人乎、
故(もと)より飄風(ひょうふう)朝を終えず、驟雨(しゅうう)日を終えず、孰(だれ)か此を為す者か、天地なり、天地尚(なお)久しきこと能わず、而るに況んや人においてをや、
王弼注
1言暴疾美興不長也、
言えらく、暴疾の美が興るは長からざるなり、
通し番号 119 章内番号 3 識別番号 23_3
本文
1故從事於道者、2道者同於道、
故に道に従事するは、道は道に同じくす、
王弼注
1從事、2謂舉動從事於道者也、3道以無形無為成濟萬物、4故從事於道者、5以無為為君、6不言為教、7綿綿若存而物得其真、8與道同體、9故曰同於道、
従事は、挙動が道に従事する者を謂うなり、道は無形無為を以て万物を成済す、故に道に従事する者は、無為以て君と為し、不言を教えと為す、綿綿と存するが若くして物は其真を得る、道と体を同じくす、故に道を同じくすと曰う、
通し番号 120 章内番号 4 識別番号 23_4
本文
1德者同於德、
徳は徳に同じくす、
王弼注
1得、2少也、3少則得、4故曰得也、5行得則與得同體、6故曰、7同於得也、
得は、少なり、少なければ則ち得る、故に得と曰うなり、得を行えば則ち得と体を同じくす、故に得に同じくすと曰うなり、
通し番号 121 章内番号 5 識別番号 23_5
本文
1失者同於失、
失は失に同じくす、
王弼注
1失、2累多也、3累多則失、4故曰失也、5行失則與失同體、6故曰、7同於失也、
失は、累多きなり、累多ければ則ち失う、故に曰く失なり、失を行えば則ち失と体を同じくす、故に「失を同じくす」と曰うなり、
通し番号 122 章内番号 6 識別番号 23_6
本文
1同於道者、2道亦樂得之、3同於德者、4德亦樂得之、5同於失者、6失亦樂得之、
道に同じくするは、道亦之を得るを楽しむ、徳に同じくするは、徳亦之を得るを楽しむ、失に同じくするは、失亦之を得るを楽しむ、
王弼注
1言隨行其所、2故同而應之、
言えらく、其所に随(したが)い行う、故に同じくして之に応ず、
通し番号 123 章内番号 7 識別番号 23_7
本文
1信不足焉、2有不信焉、
信足らざれば、不信有り、
王弼注
1忠信不足於下焉、2有不信也、
忠信下に足らざれば、不信有るなり、
第二十四章
通し番号 124 章内番号 1 識別番号 24_1
本文
1企者不立、
企(つまだ)つ者は立たず、
王弼注
1物尚進則失安、2故曰、3企者不立、
物進むことを尚(たっと)べば、則ち安を失う、故に企(つまだ)つ者は立たずと曰う、
通し番号 125 章内番号 2 識別番号 24_2
本文
1跨者不行、2自見者不明、3自是者不彰、4自伐者無功、5自矜者不長、6其在道也、7曰餘食贅行、
跨(また)ぐ者は行かず、自(みずか)ら見(あら)わす者は明ならず、自(みずか)ら是とする者は彰(あらわ)れず、自ら伐(と)る者は功無し、自ら矜(ほこ)る者は長(すす)まず、其道に在るや、余食贅(ぜい)行と曰う、
王弼注
1其唯於道而論之、2若郤至之行、3盛饌之餘也、4本雖美、5更可薉也、6本雖有功而自伐之、7故更為肬贅者也、
其唯道に於て之を論ずれば、郤至(げきし)の行、盛饌(せいせん)の余の若きなり、本美と雖も、更(あらたま)り薉(けが)すべきなり、本功有りと雖も自(みずか)ら之を伐(ほこ)る、故に更(あらたま)り肬贅(ゆうぜい)なるものと為すなり、
通し番号 126 章内番号 3 識別番号 24_3
本文
1物或惡之、2故有道者不處、
物之を悪(にく)むこと或(あ)り、故に有道者は処(お)らず、
王弼注
第二十五章
通し番号 127 章内番号 1 識別番号 25_1
本文
1有物混成、2先天地生、
物有りて混成たり、天地に先だちて生ず、
王弼注
1混然不可得而知、2而萬物由之以成、3故曰混成也、4不知其誰之子、5故先天地生、
混然として得て知るべからず、而るに万物之に由りて以て成る、故に混成と曰うなり、其れ誰の子たるを知らず、故に天地に先だちて生ず、
通し番号 128 章内番号 2 識別番号 25_2
本文
1寂兮寥兮、2獨立不改、
寂(せき)たり寥(りょう)たり、独(ひと)り立ちて改(か)わらず、
王弼注
1寂寥、2無形體也、3無物之匹、4故曰獨立也、5返化終始、6不失其常、7故曰不改也、
寂寥(せきりょう)は、形無き体(てい)なり、物の匹(たぐい)無し、故に独(ひと)り立つと曰うなり、返り、化し、終り、始りて、其常を失わず、故に改(か)わらずと曰うなり、
通し番号 129 章内番号 3 識別番号 25_3
本文
1周行而不殆、2可以為天下母、
周行して殆(あや)うからず、以て天下の母と為るべし、
王弼注
1周行無所不至而免殆、2能生全大形也、3故可以為天下母也、
周行して至らざる所無くて殆(あや)うきを免る、能く生じて大形を全くするなり、故に以て天下の母と為るべきなり、
通し番号 130 章内番号 4 識別番号 25_4
本文
1吾不知其名、
吾其名を知らず、
王弼注
1名以定形、2混成無形、3不可得而定、4故曰不知其名也、
名は以て形を定む、混成して形無し、得て定むべからず、故に其名を知らずと曰うなり、
通し番号 131 章内番号 5 識別番号 25_5
本文
1字之曰道、
之に字(あざな)して道と曰う、
王弼注
1夫名以定形、2字以稱可言、3道取於無物而不由也、4是混成之中、5可言之稱最大也、
夫れ名は以て形を定む、字(あざな)は称以て言うべし、道は物にして由らざる無きに取るなり、是れ混成の中、言うべきの称の最大なり、
通し番号 132 章内番号 6 識別番号 25_6
本文
1強為之名、2曰大、
強いて之が名を為して、大と曰う、
王弼注
1吾所以字之曰道者、2取其可言之稱最大也、3責其字定之所由、4則繫於大、5大有繫、6則必有分、7有分則失其極矣、8故曰、9強為之名曰大、
吾以て之を字(あざな)して道と曰う所は、其言うべきの称の最大を取るなり、其字(あざな)定めるの由る所を責(もと)めれば、則ち大に繫(つな)がる、大に繫がること有れば、則ち必ず分有り、分有れば則ち其極を失う、故に曰く、強いて之が名を為して大と曰う、
通し番号 133 章内番号 7 識別番号 25_7
本文
1大曰逝、
大は曰(ここ)に逝(ゆ)く、
王弼注
1逝、2行也、3不守一大體而已、4周行無所不至、5故曰逝也、
逝、行なり、一の大体を守るのみならず、周行して至らざる所無し、故に逝(せい)と曰うなり、
通し番号 134 章内番号 8 識別番号 25_8
本文
1逝曰遠、2遠曰反、
逝く曰(ここ)に遠し、遠し曰(ここ)に反(かえ)る、
王弼注
1遠、2極也、3周無所不窮極、4不偏於一逝、5故曰遠也、6不隨於所適、7其體獨立、8故曰反也、
遠は、極なり、周(あまね)く、窮極せざる所無く、一に偏(かたよ)らずに逝く、故に遠と曰うなり、適(ゆ)く所に随(したが)わず、其体は独り立つ、故に反ると曰うなり、
通し番号 135 章内番号 9 識別番号 25_9
本文
1故道大、2天大、3地大、4王亦大、
故に道は大、天は大、地は大、王は亦大なり、
王弼注
1天地之性、2人為貴、3而王是人之主也、4雖不職大亦復為大與三匹、5故曰、6王亦大也、
天地の性は、人を貴(たっと)しと為す、王は是れ人の主なり、大を職(はたら)きとせずと雖も亦復(ま)た大と為し三と匹(ひつ)なり、故に王亦大と曰うなり、
通し番号 136 章内番号 10 識別番号 25_10
本文
1域中有四大、
域(くに)の中に四大有り、
王弼注
1四大、2道、3天、4地、5王也、6凡物有稱有名則非其極也、7言道則有所由、8有所由然後謂之為道、9然則是道、10稱中之大也、11不若無稱之大也、12無稱不可得而名曰域也、13道天地王皆在乎無稱之內、14故曰、15域中有四大者也、
四大は、道、天、地、王なり、凡そ物は称有り、名有れば則ち其極に非ざるなり、道と言えば則ち由る所有り、由(よ)る所有りて然る後之を道と為すと謂う、然らば則ち是道は、称中の大なり、無称の大に若(し)かざるなり、無称は得るべからず、而して名づけて域と曰うなり、道天地王は皆無称の內に在り、故に域中に四大なるもの有りと曰うなり、
通し番号 137 章内番号 11 識別番号 25_11
本文
1而王居其一焉、
王は其一に居る、
王弼注
1處人主之大也、
人主の大に処(お)るなり、
通し番号 138 章内番号 12 識別番号 25_12
本文
1人法地地、2法天天、3法道道、4法自然、
人は地に法(のっと)り地たり、天に法(のっと)り天たり、道に法(のっと)り道たり、自(おの)ずと然るに法(のっと)る、
王弼注
1法、2謂法則也、3人不違地、4乃得全安、5法地也、6地不違天、7乃得全載、8法天也、9天不違道、10乃得全覆、11法道也、12道不違自然、13乃得其性、14法自然者、15在方而法方、16在圓而法圓、17於自然無所違、18自然者、19無稱之言、20窮極之辭也、21用智不及無知、22而形魄不及精象、23精象不及無形、24有儀不及無儀、25故轉相法也、26道順自然、27天故資焉、28天法於道、29地故則焉、30地法於天、31人故象焉、32所以為主、33其一之者主也、
法は、法則を謂うなり、人は地に違わざれば、乃ち安を全くすることを得る、地に法(のっと)るなり、地は天に違わざれば、乃ち載を全くすることを得る、天に法(のっと)るなり、天は道に違わざれば、乃ち覆を全くすることを得る、道に法るなり、道は自然に違わざれば、乃ち其性を得る、自然に法るは、方に在りては方に法り、円に在りては円に法る、自然に於て違う所無し、自然は、無称の言、窮極の辞なり、智を用いるは知無きに及ばす、形魄(はく)は精象に及ばず、精象は無形に及ばず、儀有るは儀無きに及ばず、故に転(うつ)りて相法るなり、道は自然に順(したが)う、天故(もと)より焉(これ)に資(と)り、天は道に法る、地は故(もと)より焉(これ)に則り、地は天に法る、人は故(もと)より焉(これ)に象(のっと)る、主為(た)る所以は、其之を一(おな)じくする者は主なり、
第二十六章
通し番号 139 章内番号 1 識別番号 26_1
本文
1重為輕根、2靜為躁君、
重きは軽きの根と為る、静かなるは躁(さわが)しきの君と為る、
王弼注
1凡物輕不能載重、2小不能鎮大、3不行者使行、4不動者制動、5是以重必為輕根、6靜必為躁君也、
凡そ物軽ければ重きを載(の)すること能わず、小は大を鎮(おさ)えること能わず、行(おこな)わざるは行うを使い、動かざるは動くを制す、是を以て重きは必ず軽きの根と為り、静かなるは必ず躁(さわが)しきの君と為るなり、
通し番号 140 章内番号 2 識別番号 26_2
本文
1是以聖人終日行不離輜重、
是を以て聖人は終日、行うこと輜重(しちょう)を離れず、
王弼注
1以重為本、2故不離、
重以て本と為す、故に離れず、
通し番号 141 章内番号 3 識別番号 26_3
本文
1雖有榮觀、2燕處超然、
栄観有りと雖も、燕処(えんしょ)して超然たり、
王弼注
1不以經心也、
以て心に経(へ)ざるなり、
通し番号 142 章内番号 4 識別番号 26_4
本文
1奈何萬乘之主、2而以身輕天下、3輕則失本、4躁則失君、
奈何(いかん)ぞ万乗の主にして身以て天下に軽くせんや、軽ければ則ち本を失う、躁(さわが)しければ則ち君を失う、
王弼注
1輕不鎮重也、2失本為喪身也、3失君為失君位也、
軽きは重きを鎮(おさ)えざるなり、本を失うは身を喪(うしな)うを為すなり、君を失うは君の位を失うを為すなり、
第二十七章
通し番号 143 章内番号 1 識別番号 27_1
本文
1善行無轍迹、
善行は轍迹(てっせき)無し、
王弼注
1順自然而行、2不造不始、3故物得至而無轍迹也、
自然に順(したが)いて行う、造(な)さず始めず、故に物は至るを得て轍迹無きなり、
通し番号 144 章内番号 2 識別番号 27_2
本文
1善言無瑕讁、
善言は瑕讁(かたく)無し、
王弼注
1順物之性、2不別不析、3故無瑕讁可得其門也、
物の性に順(したが)い、別(わ)けず析(さ)かず、故に瑕讁(かたく)が其門を得べきもの無きなり、
通し番号 145 章内番号 3 識別番号 27_3
本文
1善數不用籌策、
善数は籌策(ちゅうさく)を用いず、
王弼注
1因物之數不假形也、
物の数に因り形を仮(か)らざるなり、
通し番号 146 章内番号 4 識別番号 27_4
本文
1善閉無關楗而不可開、2善結無繩約而不可解、
善閉は関楗(かんけん)無くして開くべからず、善結は縄約(じょうやく)無くして解くべからず、
王弼注
1因物自然、2不設不施、3故不用關楗繩約而不可開解也、4此五者皆言不造不施、5因物之性、6不以形制物也、
物に因り自(おの)ずから然り、設けず施さず、故に関楗縄約を用いずして開け解くべからざるなり、此五は皆造(な)さず施さず、物の性に因り、形以て物を制さざるを言うなり、
通し番号 147 章内番号 5 識別番号 27_5
本文
1是以聖人常善救人、2故無棄人、
是を以て聖人は常に善にして人を救う、故に人を棄てること無し、
王弼注
1聖人不立形名以檢於物、2不造進向以殊棄不肖、3輔萬物之自然而不為始、4故曰無棄人也、5不尚賢能、6則民不爭、7不貴難得之貨、8則民不為盜、9不見可欲、10則民心不亂、11常使民心無欲無惑、12則無棄人矣、
聖人は形名を立て以て物を検せず、進向を造(な)し以て不肖を殊(ころ)し棄てず、万物の自然を輔(たす)けて始めるを為さず、故に人を棄てること棄しと曰うなり、賢能を尚(たっと)ばざれば、則ち民は争わず、得難きの貨を貴(たっと)ばざれば、則ち民は盗を為さず、欲すべきを見(しめ)さざれば、則ち民の心は乱れず、常に民心をして欲無く惑(まど)うこと無からしめれば、則ち人を棄てること無し、
通し番号 148 章内番号 6 識別番号 27_6
本文
1常善救物、2故無棄物、3是謂襲明、4故善人者、5不善人之師、
常に善にして物を救う、故に物を棄てること無し、是れ襲明(しゅうめい)と謂う、故(もと)より善人は、不善人の師なり、
王弼注
1舉善以師不善、2故謂之師矣、
善を挙げ以て不善に師たり、故に之を師と謂う、
通し番号 149 章内番号 7 識別番号 27_7
本文
1不善人者、2善人之資、
不善人は、善人の資なり、
王弼注
1資、2取也、3善人以善齊不善、4以善棄不善、5故不善人善人之所取也、
資、取なり、善人は善以て不善を斉(ととの)え、善以て不善を棄(のぞ)くなり、故に不善人は善人の取る所なり、
通し番号 150 章内番号 8 識別番号 27_8
本文
1不貴其師、2不愛其資、3雖智大迷、
其師を貴ばず、其資を愛(おし)まざれば、智と雖も大いに迷う、
王弼注
1雖有其智、2自任其智、3不因物、4於其道必失、5故曰、6雖智大迷、
其智有りと雖も、自(みずか)ら其智に任じ、物に因らざれば、其道に於て必ず失う、故に智と雖も大いに迷うと曰う、
通し番号 151 章内番号 9 識別番号 27_9
本文
1是謂要妙、
是れ要妙と謂う、
王弼注
第二十八章
通し番号 152 章内番号 1 識別番号 28_1
本文
1知其雄、2守其雌、3為天下谿、4為天下谿、5常德不離、6復歸於嬰兒、
其雄を知り、其雌(し)を守れば、天下の谿(たに)と為る、天下の谿と為れば、常に徳にして離れず、嬰児に復し帰すればなり、
王弼注
1雄、2先之屬、3雌、4後之屬也、5知為天下之先也、6必後也、7是以聖人後其身而身先也、8谿不求物而物自歸之、9嬰兒不用智而合自然之智、
雄は、先の属、雌(し)は、後の属なり、天下の先と為るを知るや、必ず後(おく)れるなり、是を以て聖人は其身を後にしにて身先んずるなり、谿(たに)は物を求めずして物自(おの)ずから之に帰す、嬰児は智を用いずして自然の智に合う、
通し番号 153 章内番号 2 識別番号 28_2
本文
1知其白、2守其黑、3為天下式、
其白を知り、其黒を守れば、天下の式と為る、
王弼注
1式、2模則也、
式は、模則なり、
通し番号 154 章内番号 3 識別番号 28_3
本文
1為天下式、2常德不忒、
天下の式と為れば、常に徳は忒(たが)わず、
王弼注
1忒、2差也、
忒(とく)、差なり、
通し番号 155 章内番号 4 識別番号 28_4
本文
1復歸於無極、
極まること無きに復し帰すればなり、
王弼注
1不可窮也、
窮むべからざるなり、
通し番号 156 章内番号 5 識別番号 28_5
本文
1知其榮、2守其辱、3為天下谷、4為天下谷、5常德乃足、6復歸於樸、
其栄を知り、其辱を守れば、天下の谷と為る、天下の谷と為れば、常に徳にして乃ち足る、樸に復し帰すればなり、
王弼注
1此三者、2言常反、3終後乃德全其所處也、4下章云、5反者道之動也、6功不可取、7常處其母也、
此三は、常に反(かえ)るを言う、終(つい)に後に乃ち徳は其処(お)る所に全きなり、下章に云う、反(かえ)るは道の動なり、功は取るべからず、常に其母に処(お)るなり、
通し番号 157 章内番号 6 識別番号 28_6
本文
1樸散則為器、2聖人用之、3則為官長、
樸散すれば則ち器と為る、聖人之を用いれば、則ち官の長と為る、
王弼注
1樸、2真也、3真散則百行出、4殊類生、5若器也、6聖人因其分散、7故為之立官長、8以善為師、9不善為資、10移風易俗、11復使歸於一也、
樸、真なり、真散ずれば則ち百行出で、殊類生ず、器の若(ごと)きなり、聖人は其分散に因る、故に之が為に官長を立つ、善以て師と為し、不善は資と為す、風を移し俗を易(か)え、復(ま)た一に帰らしめるなり、
通し番号 158 章内番号 7 識別番号 28_7
本文
1故大制不割、
故に大制は割(さ)かず、
王弼注
1大制者、2以天下之心為心、3故無割也、
大制は、天下の心以て心と為す、故に割(さ)くこと無きなり、
第二十九章
通し番号 159 章内番号 1 識別番号 29_1
本文
1將欲取天下而為之、2吾見其不得已、3天下神器、
将に天下を取らんと欲して之を為すは、吾其得ざるを見るのみ、天下は神器なり、
王弼注
1神、2無形無方也、3器、4合成也、5無形以合、6故謂之神器也、
神は、形無く方(つね)無きなり、器は、合いて成るなり、形無くして以て合う、故に之を神器と謂うなり、
通し番号 160 章内番号 2 識別番号 29_2
本文
1不可為也、2為者敗之、3執者失之、
為すべからざるなり、為す者之を敗る、執(と)る者之を失う、
王弼注
1萬物以自然為性、2故可因而不可為也、3可通而不可執也、4物有常性、5而造為之、6故必敗也、7物有往來、8而執之、9故必失矣、
万物は自(おの)ずから然るを以て性と為す、故に因るべくして為すべからざるなり、通ずべくして執(と)るべからざるなり、物は常の性有り、而(しか)るに之を造為す、故に必ず敗るなり、物は往来すること有り、而るに之を執(と)る、故に必ず失う、
通し番号 161 章内番号 3 識別番号 29_3
本文
1故物或行或隨、2或歔或吹、3或強或羸、4或挫或隳、5是以聖人去甚、6去奢、7去泰、
故(もと)より物は或いは行い随(したが)うこと或(あ)り、或いは歔(は)いて吹くこと或(あ)り、或いは強(つと)めて羸(くる)しむこと或(あ)り、或いは挫(くじ)きて隳(やぶ)ること或(あ)り、是を以て聖人は甚(じん)を去り、奢(しゃ)を去り、泰(たい)を去る、
王弼注
1凡此諸或、2言物事逆順反覆、3不施為執割也、4聖人達自然之至、5暢萬物之情、6故因而不為、7順而不施、8除其所以迷、9去其所以惑、10故心不亂而物性自得之也、
凡そ此の諸(もろもろ)の或は、物事は逆順反覆して、施為執割せざるを言うなり、聖人は自然の至に達し、万物の情に暢(とお)る、故に因りて為さず、順(したが)いて施さず、其の以て迷う所を除き、其の以て惑う所を去る、故に心乱れずして物の性自(おの)ずから之を得るなり、
第三十章
通し番号 162 章内番号 1 識別番号 30_1
本文
1以道佐人主者、2不以兵強天下、
道以て人主を佐(たす)くる者は、兵以て天下に強くせず、
王弼注
1以道佐人主、2尚不可以兵強於天下、3況人主躬於道者乎、
道以て人主を佐(たす)くるは、尚(なお)兵以て天下に強くすべからず、況んや人主道を躬(みずか)らする者においてをや、
通し番号 163 章内番号 2 識別番号 30_2
本文
1其事好還、
其事還(めぐ)るを好むなり、
王弼注
1為始者務欲立功生事、2而有道者務欲還反無為、3故云、4其事好還也、
始めるを為す者は務めて功を立て事を生じるを欲す、道を有する者は務めて無為に還反することを欲す、故に其事還(かえ)るを好むと云うなり、
通し番号 164 章内番号 3 識別番号 30_3
本文
1師之所處、2荊棘生焉、3大軍之後、4必有凶年、
師の処(お)る所、荊棘(けいきょく)生ず、大軍の後、必ず凶年有り、
王弼注
1言師凶害之物也、2無有所濟、3必有所傷、4賊害人民、5殘荒田畝、6故曰荊棘生焉、
言えらく、師は凶害の物なり、済(すく)う所有ること無し、必ず傷つける所有り、人民を賊害(ぞくがい)し、田畝(ぽ)を残(そこな)い荒す、故に荊棘生ずと曰う、
通し番号 165 章内番号 4 識別番号 30_4
本文
1善者果而已、2不以取強、
善なる者は果のみ、以て強を取らず、
王弼注
1果、2猶濟也、3言善用師者、4趣以濟難而已矣、5不以兵力取強於天下也、
果、猶済のごときなり、言えらく、善く師を用いる者は、趣(おもむ)き以て難を済(すく)うのみ、兵力以て強きを天下に取らざるなり、
通し番号 166 章内番号 5 識別番号 30_5
本文
1果而勿矜、2果而勿伐、3果而勿驕、
果にして矜(ほこ)ること勿(な)し、果にして伐(と)ること勿し、果にして驕ること勿し、
王弼注
1吾不以師道為尚、2不得已而用、3何矜驕之有也、
吾は師道以て尚(たっと)ぶと為さず、已(や)むを得ずして用いる、何ぞ矜(ほこ)り驕ること之有らん、
通し番号 167 章内番号 6 識別番号 30_6
本文
1果而不得已、2果而勿強、
果にして已(や)むを得ず、果にして強きこと勿(な)かれ、
王弼注
1言用兵雖趣功、2果濟難、3然時故不得已、4當復用者但當以除暴亂、5不遂用果以為強也、
言えらく、兵を用いるは、功に趣(おもむ)くと雖も、難を果済し、然(しこう)して時に故(もと)より已(や)むを得ず、復(ま)た用いるに当たるは、但(ただ)当に以て暴乱を除くべし、果を用いるを遂(つく)さざれば、以て強を為すなり、
通し番号 168 章内番号 7 識別番号 30_7
本文
1物壯則老、2是謂不道、3不道早已、
物は壮(さかん)ならば則ち老(おとろ)えばなり、是れ不道と謂う、不道は早く已(や)む、
王弼注
1壯、2武力暴興、3喻以兵強於天下者也、4飄風不終朝、5驟雨不終日、6故暴興必不道早已也、
壮は、武力暴(にわか)に興る、兵以て天下に強き者に喻(たと)えるなり、飄風(ひょうふう)朝を終えず、驟雨(しゅうう)日を終えず、故に暴(にわか)に興るは必ず不道にて早く已(や)むなり、
第三十一章
通し番号 169 章内番号 1 識別番号 31_1
本文
1夫佳兵者、2不祥之器、3物或惡之、4故有道者不處、5君子居則貴左、6用兵則貴右、7兵者不祥之器、8非君子之器、9不得已而用之、10恬淡為上、11勝而不美、12而美之者、13是樂殺人、14夫樂殺人者、15則不可以得志於天下矣、16吉事尚左、17凶事尚右、18偏將軍居左、19上將軍居右、20言以喪禮處之、21殺人之眾、22以哀悲泣之、23戰勝、24以喪禮處之、
夫れ佳(よ)き兵は、不祥(ふしょう)の器なり、物之を悪(にく)むこと或(あ)り、故に有道者は処(お)らず、君子は居れば、則ち左を貴ぶ、兵を用いれば、則ち右を貴ぶ、兵は不祥の器なり、君子の器に非ず、已(や)むを得ずして之を用い、恬淡を上と為す、勝ちて美(ほ)めず、之を美(ほ)むる者は、是れ人を殺すを楽しむ、夫れ人を殺すを楽しむ者は、則ち以て志を天下に得るべからず、吉事は左を尚(たっと)ぶ、凶事は右を尚(たっと)ぶ、偏将軍は左に居る、上将軍は右に居る、喪礼以て之に処(お)るを言う、人を殺すことが衆(おお)ければ、哀悲以て之に泣く、戦い勝ちて、喪礼以て之に処(お)る、
王弼注
第三十二章
通し番号 170 章内番号 1 識別番号 32_1
本文
1道常無名、2樸雖小、3天下莫能臣也、4侯王若能守之、5萬物將自賓、
道は常に名無し、樸は小と雖も、天下能く臣とすること莫きなり、侯王若し能く之を守れば、万物は将に自(みずか)ら賓(ひん)せんとす、
王弼注
1道無形不繫、2常不可名、3以無名為常、4故曰道常無名也、5樸之為物、6以無為心也、7亦無名、8故將得道莫若守樸、9夫智者可以能臣也、10勇者可以武使也、11巧者可以事役也、12力者可以重任也、13樸之為物、14隤然不偏、15近於無有、16故曰、17莫能臣也、18抱樸無為、19不以物累其真、20不以欲害其神、21則物自賓而道自得也、
道は形無く繫(つな)がれず、常に名づくべからず、名無きを以て常と為す、故に道は常に名無しと曰うなり、樸の物為(た)るは、無以て心と為すなり、亦名無し、故に将に道を得んとするは樸を守るに若(し)くは莫し、夫れ智者は能以て臣とすべきなり、勇者は武以て使うべきなり、巧者は事以て役(つか)うべきなり、力者は重きを以て任(もち)いるべきなり、樸の物為るは、隤然(たいぜん)として偏(かたよ)らず、有ること無きに近し、故に、能く臣とすること莫しと曰うなり、樸を抱き為すこと無し、物以て其真を累せず、欲以て其神を害せず、則ち物自(おの)ずから賓して道自(おの)ずから得るなり、
通し番号 171 章内番号 2 識別番号 32_2
本文
1天地相合、2以降甘露、3民莫之令而自均、
天地相合い、以て甘露を降(お)ろす、民は之に令すること莫くて自ずから均(ととの)う、
王弼注
1言天地相合、2則甘露不求而自降、3我守其真性無為、4則民不令而自均也、
言えらく、天地相合えば、則ち甘露は求めずして自ずから降りる、我が其真性を守り為すこと無ければ、則ち民は令せずして自ずから均(ととの)うなり、
通し番号 172 章内番号 3 識別番号 32_3
本文
1始制有名、2名亦既有、3夫亦將知止、4知止所以不殆、
始めて制して名有り、名亦(ただ)既に有れば、夫れ亦(ただ)将に止(とど)まるを知らんとす、止(とど)まるを知れば以て殆(あうやう)からざる所なり、
王弼注
1始制、2謂樸散始為官長之時也、3始制官長、4不可不立名分以定尊卑、5故始制有名也、6過此以往將爭錐刀之末、7故曰、8名亦既有、9夫亦將知止也、10遂任名以號物、11則失治之母、12故知止所以不殆也、
始めて制するは、樸散じ始めて官の長を為(つく)るの時を謂うなり、始めて官長を制すれば、名分を立て以て尊卑を定めざるべからず、故に始めて制すれば名有るなり、此を過ぎて以往は将に錐刀(すいとう)の末を争わんとす、故に名亦(ただ)既に有れば、夫れ亦(ただ)将に止(とど)まるを知らんとすと曰うなり、遂(つい)に名を任(もち)いて以て物を号(よ)べば、則ち治の母を失う、故に止(とど)まるを知れば以て殆(あやう)からざる所なり、
通し番号 173 章内番号 4 識別番号 32_4
本文
1譬道之在天下、2猶川谷之於江海、
道の天下に在るを譬(たと)えれば、猶川谷(せんこく)の江海に於るがごとし、
王弼注
1川谷之以求江與海、2非江海召之、3不召不求而自歸者、4世行道於天下者、5不令而自均、6不求而自得、7故曰、8猶川谷之與江海也、
川谷が以て江と海を求めるは、江海之を召すに非ず、召さず求めずして自(おの)ずから帰するものなり、世の道を天下に行う者は、令さずして自ずから均(ととの)い、求めずして自ずから得る、故に猶川谷の江海とのごときと曰うなり、
第三十三章
通し番号 174 章内番号 1 識別番号 33_1
本文
1知人者智、2自知者明、
人を知る者は智なり、自(みずか)ら知る者は明なり、
王弼注
1知人者、2智而已矣、3未若自知者超智之上也、
人を知る者は、智のみ、未だ自(みずか)ら知る者智の上に超えるに若(し)かざるなり、
通し番号 175 章内番号 2 識別番号 33_2
本文
1勝人者有力、2自勝者強、
人に勝つ者は力有り、自(みずか)ら勝つ者は強し、
王弼注
1勝人者、2有力而已矣、3未若自勝者無物以損其力、4用其智於人、5未若用其智於己也、6用其力於人、7未若用其力於己也、8明用於己、9則物無避焉、10力用於己、11則物無改焉、
人に勝つ者は、力有るのみ、未だ自(みずか)ら勝つ者物以て其力を損なうこと無きに若かず、其智を人に用いるは、未だ其智を己に用いるに若かざるなり、其力を人に用いるは、未だ其力を己に用いるに若かざるなり、明は己に用いれば、則ち物は避(のが)れること無し、力は己に用いれば、則ち物は改めること無し、
通し番号 176 章内番号 3 識別番号 33_3
本文
1知足者富、
足るを知る者は富む、
王弼注
1知足自不失、2故富也、
足るを知ると自(おの)ずと失わず、故に富むなり、
通し番号 177 章内番号 4 識別番号 33_4
本文
1強行者有志、
強(つと)めて行う者志有り、
王弼注
1勤能行之、2其志必獲、3故曰強行者有志矣、
勤(つと)めて能く之を行う、其志を必ず獲(え)る、故に曰く強(つと)めて行う者志有り、
通し番号 178 章内番号 5 識別番号 33_5
本文
1不失其所者久、
其所を失わざる者は久し、
王弼注
1以明自察、2量力而行、3不失其所、4必獲久長矣、
明以て自ら察し、力を量(はか)りて行えば、其所を失わず、必ず久しく長きを獲(え)る、
通し番号 179 章内番号 6 識別番号 33_6
本文
1死而不亡者壽、
死して亡(ほろ)びざる者は寿なり、
王弼注
1雖死而以為生之道不亡、2乃得全其壽、3身沒而道猶存、4況身存而道不卒乎、
死すと雖も、生を為すの道は亡(ほろび)ざるを以て、乃ち其寿を全くするを得る、身没して道猶存す、況んや身存して道卒(おわ)らざるをや、
第三十四章
通し番号 180 章内番号 1 識別番号 34_1
本文
1大道汎兮、2其可左右、
大道は汎(はん)(兮)として、其れ左右すべし、
王弼注
1言道氾濫、2無所不適、3可左右上下周旋、4而用則無所不至也、
言えらく、道は氾濫して、適(ゆ)かざる所無し、左右すべしは、上下周旋し、而して用いれば、則ち至らざる所無きなり、
通し番号 181 章内番号 2 識別番号 34_2
本文
1萬物恃之而生而不辭、2功成不名有、3衣養萬物而不為主、4常無欲、5可名於小、
万物は之を恃(たの)みて生じて辞せず、功成り名有らず、万物を衣養して主と為らず、常に欲無し、(於)小と名づくべし、
王弼注
1萬物皆由道而生、2既生而不知所由、3故天下常無欲之時、4萬物各得所、5若道無施於物、6故名於小矣、
万物皆道に由りて生ず、既に生じて由る所を知らず、故に天下常に無欲の時、万物各(おのおの)所を得る、道は物に施すこと無きが若し、故に小と名づく、
通し番号 182 章内番号 3 識別番号 34_3
本文
1萬物歸焉而不為主、2可名為大、
万物帰して主と為らず、名づけて大と為すべし、
王弼注
1萬物皆歸之以生、2而力使不知其所由、3此不為小、4故復可名於大矣、
万物皆之に帰して以て生く、而るに力(つと)めて其由る所を知らしめず、此は小と為さず、故に復た大と名づくべし、
通し番号 183 章内番号 4 識別番号 34_4
本文
1以其終不自為大、2故能成其大、
其終(つい)に自ら大と為さざるを以てす、故に能く其大を成す、
王弼注
1為大於其細、2圖難於其易、
其細に於て大を為す、其易に於て難を図る、
第三十五章
通し番号 184 章内番号 1 識別番号 35_1
本文
1執大象、2天下往、
大象を執(と)りて、天下に往(ゆ)く、
王弼注
1大象、2天象之母也、3不寒不溫不涼、4故能包統萬物、5無所犯傷、6主若執之、7則天下往也、
大象は、天象の母なり、寒ならず、溫ならず、涼ならず、故に能く万物を包み統(す)ぶ、犯し傷つける所無し、主若(も)し之を執(と)れば、則ち天下往(ゆ)くなり、
通し番号 185 章内番号 2 識別番号 35_2
本文
1往而不害、2安平大、
往きて害せず、安平大なり、
王弼注
1無形無識、2不徧不彰、3故萬物得往而不害妨也、
形無く識(し)ること無し、徧(かたよ)らず彰(あきら)かならず、故に万物往くを得て害妨せざるなり、
通し番号 186 章内番号 3 識別番号 35_3
本文
1樂與餌、2過客止、3道之出口、4淡乎其無味、5視之不足見、6聽之不足聞、7用之不可旣、
楽と餌(じ)は、過客(かかく)止(とど)まる、道の口を出ずるや、淡乎(たんこ)として其れ味無し、之を視て見るに足らず、之を聴きて聞くに足らず、之を用いて既(つ)きるべからず、
王弼注
1言道之深大、2人聞道之言乃更不如樂與餌應時感悅人心也、3樂與餌則能令過客止、4而道之出言、5淡然無味、6視之不足見則不足以悅其目、7聽之不足聞則不足以娛其耳、8若無所中然乃用之不可窮極也、
言えらく、道は深大なり、人は道の言を聞く、乃(しか)るに更(また)楽と餌が時に応じて人の心を感悦するに如かざるなり、楽と餌は則ち能く過客を止(とど)めしむ、而るに道の言を出すは、淡然として味無し、之を視て見るに足らざれば則ち以て其目を悦(よろこ)ばすに足らず、之を聴きて聞くに足らざれば則ち以て其耳を娛(たのし)ますに足らず、中(あた)る所無きが若(ごと)し(然)、乃(しか)るに之を用いれば窮極すべからざるなり、
第三十六章
通し番号 187 章内番号 1 識別番号 36_1
本文
1將欲歙之、2必固張之、3將欲弱之、4必固強之、5將欲廢之、6必固興之、7將欲奪之、8必固與之、9是謂微明、
将に之を歙(ちぢ)めんと欲すれば、必ず固(もと)より之を張る、将に之を弱めんと欲すれば、必ず固(もと)より之を強くす、将に之を廃せんと欲すれば、必ず固(もと)より之を興す、将に之を奪わんと欲すれば、必ず固(もと)より之に与える、是れ微明と謂う、
王弼注
1將欲除強梁、2去暴亂、3當以此四者、4因物之性、5令其自戮、6不假刑為大、7以除將物也、8故曰微明也、9足其張、10令之足而又求其張、11則眾所歙也、12與其張之不足而改其求張者、13愈益而已、14反危、
将に強梁(きょうりょう)を除き、暴乱を去らんと欲すれば、当に此四なるものを以てすべし、物の性に因り、其れをして自ら戮(りく)せしむ、刑を仮(か)らざるを大と為し、以て物を除き将(たす)けるなり、故に微明と曰うなり、其張るを足し、之をして足らしめ又(さら)に其張るを求めしめれば、則ち衆が歙(ちぢ)める所なり、其張るの足らずして改めて其張るを求める者与(より)は、愈(ますます)益(ま)すのみ、反て危し、
通し番号 188 章内番号 2 識別番号 36_2
本文
1柔弱勝剛強、2魚不可脫於淵、3國之利器不可以示人、
柔弱は剛強に勝つ、魚は淵を脱するべからず、国の利器以て人に示すべからず、
王弼注
1利器、2利國之器也、3唯因物之性、4不假刑以理物、5器不可覩、6而物各得其所、7則國之利器也、8示人者、9任刑也、10刑以利國、11則失矣、12魚脫於淵則必見失矣、13利國器而立刑以示人、14亦必失也、
利器は、国を利するの器なり、唯物の性に因りて、刑を仮(か)りて以て物を理(おさ)めず、器覩(み)るべからずして、物各(おのおの)其所を得れば、則ち国の利器なり、人に示すは、刑に任ずるなり、刑は以て国を利すれば、則ち失う、魚淵を脱すれば則ち必ず失を見る、国を利するの器にして刑を立て以て人に示せば、亦必ず失うなり、
第三十七章
通し番号 189 章内番号 1 識別番号 37_1
本文
1道常無為、
道は常に為すこと無くて
王弼注
1順自然也、
自(おの)ずから然ることに順(したが)うなり、
通し番号 190 章内番号 2 識別番号 37_2
本文
1而無不為、
為さざる無し、
王弼注
1萬物無不由為以治以成也、
万物由りて為し以て治まり以て成さざる無きなり、
通し番号 191 章内番号 3 識別番号 37_3
本文
1侯王若能守之、2萬物將自化、3化而欲作、4吾將鎮之以無名之樸、
侯王若し能く之を守れば、万物将に自ずから化さんとす、化す、而るに作(な)さんと欲す、吾将に之を鎮(しず)めるに無名の樸を以てす、
王弼注
1化而欲作、2作欲成也、3吾將鎮之無名之樸、4不為主也、
化して作(な)さんと欲すは、作(な)して成るを欲するなり、吾将に之を無名の樸に鎮めんとするは、主と為らざるなり、
通し番号 192 章内番号 4 識別番号 37_4
本文
1無名之樸、2夫亦將無欲、
無名の樸は、夫れ亦将に欲無からんとす、
王弼注
1無欲競也、
競うことを欲すること無きなり、
通し番号 193 章内番号 5 識別番号 37_5
本文
1不欲以靜、2天下將自定、
欲せずして以て静ならば、天下将に自ずから定らんとす、
王弼注
第三十八章
通し番号 194 章内番号 1 識別番号 38_1
本文
1上德不德、2是以有德、3下德不失德、4是以無德、5上德無為而無以為、6下德為之而有以為、7上仁為之而無以為、8上義為之而有以為、9上禮為之而莫之應、10則攘臂而扔之、11故失道而後德、12失德而後仁、13失仁而後義、14失義而後禮、15夫禮者、16忠信之薄、17而亂之首、18前識者、19道之華、20而愚之始、21是以大丈夫處其厚、22不居其薄、23處其實、24不居其華、25故去彼取此、
上徳は徳ならず、是を以て徳有り、下徳は徳を失わず、是を以て徳無し、上徳は為すこと無く、以て為(ため)にすること無し、下徳は之を為して以て為(ため)にすること有り、上仁は之を為して以て為(ため)にすること無し、上義は之を為して以て為(ため)にすること有り、上礼は之を為して之に応ずること莫ければ、則ち臂(うで)を攘(まく)りて之に扔(つ)く、故に道を失いて後に徳なり、徳を失いて後に仁なり、仁を失いて後に義なり、義を失いて後に礼なり、夫れ礼は、忠信の薄きにして、乱の首(はじめ)なり、前(すす)んで識るは、道の華にして、愚の始めなり、是を以て大丈夫は其厚きに処(お)り、其薄きに居らず、其実に処(お)り、其華に居らず、故に彼を去り此を取る、
王弼注
1德者、2得也、3常得而無喪、4利而無害、5故以德為名焉、6何以得德、7由乎道也、8何以盡德、9以無為用、10以無為用則莫不載也、11故物無焉、12則無物不經、13有焉、14則不足以免其生、15是以天地雖廣、16以無為心、17聖王雖大、18以虛為主、19故曰、20以復而視、21則天地之心見、22至日而思之、23則先王之至覩也、24故滅其私而無其身、25則四海莫不瞻、26遠近莫不至、27殊其己而有其心、28則一體不能自全、29肌骨不能相容、30是以上德之人、31唯道是用、32不德其德、33無執無用、34故能有德而無不為、35不求而得、36不為而成、37故雖有德而無德名也、38下德求而得之、39為而成之、40則立善以治物、41故德名有焉、42求而得之必有失焉、43為而成之必有敗焉、44善名生則有不善應焉、45故下德為之而有以為也、46無以為者、47無所偏為也、48凡不能無為而為之者、49皆下德也、50仁義禮節是也、51將明德之上下、52輒舉下德以對上德、53至於無以為極、54下德下之量、55上仁是也、56足及於無以為而猶為之焉、57為之而無以為、58故有為為之患矣、59本在無為、60母在無名、61棄本捨母而適其子、62功雖大焉、63必有不濟、64名雖美焉、65偽亦必生、66不能不為而成、67不興而治、68則乃為之、69故有弘普博施仁愛之者、70而愛之無所偏私、71故上仁為之而無以為也、72愛不能兼、73則有抑抗正真而義理之者、74忿枉祐直、75助彼攻此、76物事而有以心為矣、77故上義為之而有以為也、78直不能篤則有游飾修文禮敬之者、79尚好修敬、80校責往來、81則不對之閒、82忿怒生焉、83故上禮為之而莫之應、84則攘臂而扔之、85夫大之極也、86其唯道乎、87自此已往、88豈足尊哉、89故雖德盛業大、90富而有萬物、91猶各得其德、92而未能自周也、93故天不能為載、94地不能為覆、95人不能為瞻、96萬物雖貴、97以無為用、98不能捨無以為體也、99不能捨無以為體、100則失其為大矣、101所謂失道而後德也、102以無為用、103德其母、104故能己不勞焉而物無不理、105下此已往、106則失用之母、107不能無為而貴博施、108不能博施而貴正直、109不能正直而貴飾敬、110所謂失德而後仁、111失仁而後義、112失義而後禮也、113夫禮也、114所始首於忠信不篤、115通簡不陽、116責備於表、117機微爭制、118夫仁義發於內、119為之猶偽、120況務外飾而可久乎、121故夫禮者、122忠信之薄而亂之首也、123前識者、124前人而識也、125即下德之倫也、126竭其聰明以為前識、127役其智力以營庶事、128雖德其情、129姦巧彌密、130雖豐其譽、131愈喪篤實、132勞而事昏、133務而治薉、134雖竭聖智而民愈害、135舍己任物、136則無為而泰、137守夫素樸、138則不順典制、139聽彼所獲、140棄此所守、141識道之華而愚之首、142故茍得其為功之母、143則萬物作焉而不辭也、144萬事存焉而不勞也、145用不以形、146御不以名、147故仁義可顯、148禮敬可彰也、149夫載之以大道、150鎮之以無名、151則物無所尚、152志無所營、153各任其眞、154事用其誠、155則仁德厚焉、156行義正焉、157禮敬清焉、158棄其所載、159舍其所生、160用其成形、161役其聰明、162仁則偽焉、163義其競焉、164禮其爭焉、165故仁德之厚、166非用仁之所能也、167行義之正、168非用義之所成也、169禮敬之清、170非用禮之所濟也、171載之以道、172統之以母、173故顯之而無所尚、174彰之而無所競、175用夫無名、176故名以篤焉、177用夫無形、178故形以成焉、179守母以存其子、180崇本以舉其末、181則形名俱有而邪不生、182大美配天而華不作、183故母不可遠、184本不可失、185仁義、186母之所生、187非可以為母、188形器、189匠之所成、190非可以為匠也、191捨其母而用其子、192棄其本而適其末、193名則有所分、194形則有所止、195雖極其大、196必有不周、197雖盛其美、198必有憂患、199功在為之、200豈足處也、
徳は、得なり、常に得て喪(うしな)うこと無し、利して害すること無し、故に徳以て名と為す、何を以て徳を得る、道に由るなり、何を以て徳を尽す、無以て用と為す、無以て用と為せば則ち載せざる莫きなり、故に物は無ならば、則ち物が経(へ)ざる無し、有ならば、則ち以て其生を免かるるに足らず、是を以て天地は広しと雖も、無以て心と為す、聖王は大と雖も、虚以て主と為す、故に曰く、復以てして視れば、則ち天地の心見ゆ、至日にして之を思えば、則ち先王は覩(み)るを至すなり、故に其私を滅して其身を無にすれば、則ち四海瞻(み)ざること莫く、遠近至らざること莫し、其己を殊(こと)にして其心を有すれば、則ち一つの体自ずから全くすること能わず、肌(き)骨相容(い)れること能わず、是を以て上徳の人は、唯道是れ用う、其徳を徳とせず、執(と)ること無く用うること無し、故に能く徳有りて為さざること無く、求めずして得、為さずして成る、故に徳ありと雖も徳の名無きなり、下徳は求めて之を得、為して之を成す、則ち善を立て以て物を治む、故に徳の名有り、求めて之を得れば必ず失うこと有り、為して之を成せば必ず敗ること有り、善名生ずれば則ち不善応じること有り、故に下徳は之を為して以て為(ため)にすること有るなり、以て為(ため)にすること無きは、偏(かたよ)り為す所無きなり、凡そ為すこと無きこと能わずして之を為すは、皆下徳なり、仁義礼節は是れなり、将に徳の上下を明らかにせんとす、輒(すなわ)ち下徳を挙げ以て上徳に対す、以て為(ため)にすること無きに至りて極まる、下徳は下の量にて、上仁は是れなり、以て為(ため)にすること無きに於ては及ぶに足る、而るに猶之を為す、之を為して以て為(ため)にすること無し、故に為すことを為すの患(うれ)い有り、本は無為に在り、母は無名に在り、本を棄て母を捨てて其子に適(ゆ)く、功は大と雖も、必ず済(な)さざること有り、名は美と雖も、偽亦必ず生ず、為さずして成り、興(おこ)さずして治まること能わざれば、則ち乃(ここ)で之を為す、故に弘(ひろ)く普(あまね)く博(ひろ)く施す仁にて之を愛する者有れば、之を愛して偏私する所無し、故に上仁は之を為して以て為(ため)にすること無し、愛を兼(おな)じくすること能わざれば、則ち抑(おさ)え抗(あ)げ正真にして義にて之を理(おさ)むる者有り、枉(まが)るに忿(いか)り直(なお)きを祐(たす)く、彼を助け此を攻むに、物は事として心以て為すこと有り、故に上義は之を為して以て為(ため)にすること有るなり、直(なお)きことが篤(あつ)きこと能わざれば則ち飾に游び文を修め、礼して之を敬する者有り、好みを尚(たっと)び敬を修む、往来を校責する、則ち対(こた)えざるの間(ところ)、忿怒(ふんど)生ず、故に上礼は之を為して之に応ずること莫ければ、則ち臂(うで)を攘(まく)り之に扔(つ)く、夫れ大の極なるや、其れ唯道なる乎(かな)、此自(よ)り已往(いおう)、豈尊(たっと)ぶに足らんや、故に徳盛んして業は大にして、富みて万物を有すと雖も、猶各(おのおの)其徳を得て、未だ自ら周(あまね)きこと能わざるなり、故に天は載するを為すこと能わず、地は覆(おお)うを為すこと能わず、人は瞻(み)るを為すこと能わず、万物貴(たっと)きと雖も、無以て用と為す、無を捨て以て体と為すこと能わざるなり、能わずして、無を捨て以て体と為せば、則ち其大と為るを失う、謂う所の道を失いて後徳なり、無以て用と為せば、其母を徳とす、故に能く己労せずして物理(おさ)まらざること無し、此を下りて已往は、則ち用の母を失う、為すこと無きこと能ずして博く施すことを貴(たっと)ぶ、博く施すこと能わずして正しく直きを貴ぶ、正しく直(なお)きこと能ずして飾敬を貴ぶ、謂う所の徳を失いて後に仁、仁を失いて後に義、義を失いて後に礼なり、夫れ礼なるや、始まる所は忠信篤(あつ)からず、通簡陽(あら)われざるを首(はじめ)とす、備わるを表に責め、機微に制を争う、夫れ仁義は內に発す、之を為せば猶偽なり、況んや外飾に務めて久しかるべけんや、故に夫(か)の礼は、忠信の薄きにして乱の首(はじめ)なり、前識は、人に前(すす)みて識るなり、即ち下徳の倫(たぐい)なり、其聡明を竭(つく)し以て前識を為す、其智力を役(つか)い以て庶事を営む、其情を徳とすると雖も、姦巧は弥(ますます)密なり、其誉れを豊かにすると雖も、愈(ますます)篤実を喪(うしな)う、労して事昏(くら)く、務めて治薉(あれ)る、聖智を竭(つく)すと雖も民愈(ますます)害あり、己を舎(す)て物に任ずれば、則ち為すこと無くて泰(やすら)かなり、夫(か)の素樸を守れば、則ち典制が彼の獲(え)る所を聴き、此の守る所を棄てるに、順(したが)わず、識は道の華にして愚の首(はじめ)なり、故に茍(もし)其功を為すの母を得れば、則ち万物作(おこ)りて辞せざるなり、万事存して労せざるなり、用いるに形以てせず、御するに名以てせず、故に仁義顕(あらわ)るべく、礼敬彰(あらわ)るべきなり、夫れ之を載するに大道以てし、之を鎮(しず)めるに無名以てすれば、則ち物尚(たっと)ぶ所無く、志営む所無し、各(おのおの)其真に任せ、其誠を用いるを事とすれば、則ち仁徳は厚く、行義は正しく、礼敬は清し、其載する所を棄て、其生じる所を舎(す)て、其成形を用い、其聡明を役(つか)えば、仁は則ち偽り、義は其れ競い、礼は其れ争う、故に仁徳の厚きは、仁の能くする所を用いるに非ざるなり、行義の正しきは、義の成す所を用いるに非ざるなり、礼敬の清きは、礼の済(な)す所を用いるに非ざるなり、之を載するに道を以てし、之を統(す)ぶるに母を以てす、故に之を顕(あらわ)して尚(たっと)ぶ所無く、之を彰(あらわ)して競う所無し、夫の無名を用う、故に名以て篤(あつ)し、夫の無形を用う、故に形以て成る、母を守り以て其子を存し、本を崇(たっと)び以て其末を挙げれば、則ち形名俱(とも)に有して邪は生ぜず、大美天に配して華作(おこ)らず、故に母は遠ざかるべからず、本は失うべからず、仁義は、母の生む所にして、以て母と為すべきに非ず、形器は、匠(しょう)の成す所にして、以て匠と為すべきに非ざるなり、其母を捨てて其子を用う、其本を棄てて其末に適(ゆ)く、名づくれば則ち分かるる所有り、形すれば則ち止まる所有り、其大を極むと雖も、必ず周(あまね)からざる有り、其美を盛んにすると雖も、必ず憂患有り、功が之を為すに在れば、豈処(お)るに足らんや
第三十九章
通し番号 195 章内番号 1 識別番号 39_1
本文
1昔之得一者、
昔の一を得るは、
王弼注
1昔、2始也、3一、4數之始而物之極也、5各是一物之生、6所以為主也、7物皆各得此一以成、8既成而舍以居成、9居成則失其母、10故皆裂發歇竭滅蹶也、
昔、始なり、一、数の始めにして物の極なり、各(おのおの)是れ一が物を之生じ、以て主と為る所なり、物は各(おのおの)此一を得て以て成る、既に成りて以て成に居るを舎(す)つ、成に居れば則ち其母を失う、故皆裂け発(も)れ歇(や)み竭(か)れ滅び蹶(つまず)くなり、
通し番号 196 章内番号 2 識別番号 39_2
本文
1天得一以清、2地得一以寧、3神得一以靈、4谷得一以盈、5萬物得一以生、6侯王得一以為天下貞、7其致之、
天は一を得て以て清なり、地は一を得て以て寧(ねい)なり、神は一を得て以て霊なり、谷は一を得て以て盈(えい)なり、万物は一を得て以て生なり、侯王は一を得て以て天下の貞(てい)と為る、其れ之を致す、
王弼注
1各以其一致此清、2寧、3靈、4盈、5生、6貞、
各(おのおの)其一以て此の清、寧、霊、盈、生、貞を致す、
通し番号 197 章内番号 3 識別番号 39_3
本文
1天無以清將恐裂、
天以て清なること無ければ将に恐らくは裂けん、
王弼注
1用一以致清耳、2非用清以清也、3守一則清不失、4用清則恐裂也、5故為功之母、6不可舍也、7是以皆無用其功、8恐喪其本也、
一を用い以て清を致すのみ、清を用い以て清なるに非ざるなり、一を守れば則ち清失わず、清を用うれば則ち恐らくは裂けるなり、故に功を為すの母は、舎(す)てるべからざるなり、是を以て皆其功を用いること無きは、其本を喪(うしな)うことを恐れるなり、
通し番号 198 章内番号 4 識別番号 39_4
本文
1地無以寧將恐發、2神無以靈將恐歇、3谷無以盈將恐竭、4萬物無以生將恐滅、5侯王無以貴高將恐蹶、6故貴以賤為本、7高以下為基、8是以侯王自稱孤寡不穀、9此非以賤為本耶、10非乎、11故致數譽無譽、12不欲琭琭如玉、13珞珞如石、
地は以て寧なること無ければ将に恐らくは発(も)れん、神は以て霊なること無ければ将に恐らくは歇(や)まん、谷は以て盈なること無ければ将に恐らくは竭(か)れん、万物は以て生じること無ければ将に恐らくは滅びん、侯王は以て貴高なること無ければ将に恐らくは蹶(つまず)かん、故(もと)より貴は賎以て本と為す、高は下以て基(もと)と為す、是を以て侯王自ら孤﹑寡﹑不穀と称す、此れ賎以て本と為すに非ざる耶(か)、非か、故に数(しばしば)の誉れを致せば誉れ無し、琭琭(ろくろく)として玉の如きをを欲さず、珞珞(らくらく)として石の如し、
王弼注
1清不能為清、2盈不能為盈、3皆有其母以存其形、4故清不足貴、5盈不足多、6貴在其母、7而母無貴形、8貴乃以賤為本、9高乃以下為基、10故致數譽乃無譽也、11玉石琭琭珞珞、12體盡於形、13故不欲也、
清は清を為すこと能わず、盈は盈を為すこと能わず、皆其母を有(たも)ち以て其形を存す、故に清は貴とするに足らず、盈は多しとするに足らず、貴は其母に在り、而るに母は貴の形無し、貴は乃ち賎以て本と為す、高は乃ち下以て基(もと)と為す、故に數(しばしば)の誉れを致せば乃ち誉れ無きなり、玉石の琭琭(ろくろく)珞珞(らくらく)は、体は形に尽きる、故に欲さざるなり、
第四十章
通し番号 199 章内番号 1 識別番号 40_1
本文
1反者道之動、
反は道の動なり、
王弼注
1高以下為基、2貴以賤為本、3有以無為用、4此其反也、5動皆知其所無、6則物通矣、7故曰、8反者道之動也、
高は下以て基(もと)と為す、貴は賎以て本と為す、有は無以て用と為す、此が其反なり、動は皆其無とする所を知れば、則ち物は通ず、故に、反は道の動と曰うなり、
通し番号 200 章内番号 2 識別番号 40_2
本文
1弱者道之用、
弱は道の用なり、
王弼注
1柔弱同通、2不可窮極、
柔弱は同じく通ず、窮極すべからず、
通し番号 201 章内番号 3 識別番号 40_3
本文
1天下萬物生於有、2有生於無、
天下の万物は有に生ず、有は無に生ず、
王弼注
1天下之物皆以有為生、2有之所始、3以無為本、4將欲全有、5必反於無也、
天下の物は皆有以て生ずるを為す、有の始まる所は、無以て本と為す、将に有を全くせんと欲すれば、必ず無に反(かえ)るなり、
第四十一章
通し番号 202 章内番号 1 識別番号 41_1
本文
1上士聞道、2勤而行之、
上士は道を聞けば、勤(つと)めて之を行う、
王弼注
1有志也、
志有るなり、
通し番号 203 章内番号 2 識別番号 41_2
本文
1中士聞道、2若存若亡、3下士聞道、4大笑之、5不笑、6不足以為道、7故建言有之、
中士は道を聞けば、存(あ)るが若(ごと)く亡(な)きが若し、下士は道を聞けば、大いに之を笑う、笑わざれば、以て道と為すに足らず、故に建言之有り、
王弼注
1建、2猶立也、
建、猶立のごときなり、
通し番号 204 章内番号 3 識別番号 41_3
本文
1明道若昧、
明道は昧(くら)きが若し、
王弼注
1光而不耀、
光りて耀(かがや)かず、
通し番号 205 章内番号 4 識別番号 41_4
本文
1進道若退、
進む道は退くが若し、
王弼注
1後其身而身先、2外其身而身存、
其身を後にして身先んず、其身を外にして身存す、
通し番号 206 章内番号 5 識別番号 41_5
本文
1夷道若纇、
夷(たいら)かな道は纇(もと)るが若し、
王弼注
1纇、2㘨也、3大夷之道、4因物之性、5不執平以割物、6其平不見、7乃更反若纇㘨也、
纇(らい)、㘨(かい)なり、大夷の道は、物の性に因る、平を執(と)り以て物を割(さ)かず、其平は見(あらわ)れず、乃ち更に反て纇㘨(るいかい)の若きなり、
通し番号 207 章内番号 6 識別番号 41_6
本文
1上德若谷、
上徳は谷の若し、
王弼注
1不德其德、2無所懷也、
其徳を徳とせず、懐(いだ)く所無きなり、
通し番号 208 章内番号 7 識別番号 41_7
本文
1太白若辱、
太(はなは)だ白きは辱(けが)るるが若し、
王弼注
1知其白、2守其黑、3太白然後乃得、
其白を知り、其黒を守る、太(はなは)だ白きは然る後乃ち得る、
通し番号 209 章内番号 8 識別番号 41_8
本文
1廣德若不足、
広き徳は足らざるが若し、
王弼注
1廣德不盈、2廓然無形、3不可滿也、
広き徳は盈(み)たず、廓然(かくぜん)として形無し、満たすべからざるなり、
通し番号 210 章内番号 9 識別番号 41_9
本文
1建德若偷、
徳を建てるは偷(かりそめ)なるが若し、
王弼注
1偷、2匹也、3建德者、4因物自然、5不立不施、6故若偷匹、
偷(とう)、匹(ひつ)なり、徳を建てるは、物に因り自(おの)ずと然り、立てず施さず、故に偷匹の若し、
通し番号 211 章内番号 10 識別番号 41_10
本文
1質真若渝、
質真は渝(かわ)るが若し、
王弼注
1質真者、2不矜其真、3故渝、
質真は、其真を矜(ほこ)らず、故に渝(かわ)る、
通し番号 212 章内番号 11 識別番号 41_11
本文
1大方無隅、
大方隅(かど)無し、
王弼注
1方而不割、2故無隅也、
方にして割(さ)かず、故に隅(かど)無きなり、
通し番号 213 章内番号 12 識別番号 41_12
本文
1大器晚成、
大器は晚成す、
王弼注
1大器成天下不持全別、2故必晚成也、
大器が天下を成すは、全(すべ)て別れるのを持(たす)けず、故に必ず晚(おそ)く成るなり、
通し番号 214 章内番号 13 識別番号 41_13
本文
1大音希聲、
大きな音は希声なり、
王弼注
1聽之不聞名曰希、2不可得聞之音也、3有聲則有分、4有分則不宮而商矣、5分則不能統眾、6故有聲者非大音也、
之を聴きて聞こえず名づけて希と曰う、得て聞くべからざるの音なり、声有れば則ち分有り、分有れば則ち宮ならずして商なり、分かるれば則ち衆を統(す)ぶること能わず、故に声有るは大音に非ざるなり、
通し番号 215 章内番号 14 識別番号 41_14
本文
1大象無形、
大きな象(かたち)は形無し、
王弼注
1有形則有分、2有分者不溫則炎、3不炎則寒、4故象而形者、5非大象、
形有れば則ち分有り、分有るは温ならざれば則ち炎なり、炎ならざれば則ち寒なり、故に象にして形あるは、大象に非ず、
通し番号 216 章内番号 15 識別番号 41_15
本文
1道隱無名、2夫唯道、3善貸且成、
道は隠れて名無し、夫れ唯道、善く貸(ほどこ)し且つ成す、
王弼注
1凡此諸善、2皆是道之所成也、3在象則為大象、4而大象無形、5在音則為大音、6而大音希聲、7物以之成而不見其成形、8故隱而無名也、9貸之非唯供其乏而已、10一貸之則足以永終其德、11故曰善貸也、12成之不加機匠之裁、13無物而不濟其形、14故曰善成、
凡そ此諸(もろもろ)の善は、皆是れ道の成す所なり、象に在れば則ち大象と為りて、大象は形無し、音に在りては則ち大音と為りて、大音は声希(すくな)し、物は之を以て成りて其成形を見(あら)わさず、故に隠れて名無きなり、之を貸(ほどこ)すは唯其乏に供するのみに非ず、一たび之を貸(ほどこ)せば則ち以て永く其徳を終(な)すに足る、故に善く貸(ほどこ)すと曰うなり、之を成すことは機匠の裁を加えず、物にして其形を済(な)さざる無し、故に善く成すと曰う、
第四十二章
通し番号 217 章内番号 1 識別番号 42_1
本文
1道生一、2一生二、3二生三、4三生萬物、5萬物負陰而抱陽、6沖氣以為和、7人之所惡、8唯孤寡不穀、9而王公以為稱、10故物或損之而益、11或益之而損、
道は一を生ず、一は二を生ず、二は三を生ず、三は万物を生ず、万物は陰を負いて陽を抱く、沖気以て和を為す、人の悪(にく)む所は、唯(ただ)孤﹑寡﹑不穀なり、而るに王公以て称と為す、故に物之を損(へ)らして益(ま)すこと或(あ)り、之を益(ま)して損(へ)らすこと或(あ)り、
王弼注
1萬物萬形、2其歸一也、3何由致一、4由於無也、5由無乃一、6一可謂無、7已謂之一、8豈得無言乎、9有言有一、10非二如何、11有一有二、12遂生乎三、13從無之有、14數盡乎斯、15過此以往、16非道之流、17故萬物之生、18吾知其主、19雖有萬形、20沖氣一焉、21百姓有心、22異國殊風、23而得一者、24王侯主焉、25以一為主、26一何可舍、27愈多愈遠、28損則近之、29損之至盡、30乃得其極、31既謂之一、32猶乃至三、33況本不一而道可近乎、34損之而益、35豈虛言也、
万物万形は、其帰は一なり、何に由りて一に致る、無に由るなり、無に由りて乃ち一なり、一は無と謂うべし、已に之を一と謂えば、豈言無きことを得んや、言有りて一有り、二に非ずして如何、一有りて二有り、遂に(乎)三を生ず、無従(よ)り有に之く、数は斯に尽く、此を過ぎて以往は、道の流れに非ず、故に万物が生ずるには、吾其主を知る、万の形有ると雖も、沖気は一なり、百姓は心有り、異国は風を殊(こと)にす、而るに一を得る者は、王侯の主たり、一以て主と為る、一は何ぞ舎(す)つべき、愈(ますます)多ければ愈(ますます)遠し、損(へ)らせば則ち之に近づく、之を損(へ)らして尽くるに至れば、乃ち其極を得る、既に之を一と謂えば、猶乃ち三に至る、況んや本が一ならずして道近づくべけんや、之を損(へ)らして益(ま)す、豈虚言ならんや、
通し番号 218 章内番号 2 識別番号 42_2
本文
1人之所教、2我亦教之、
人の教うる所、我亦之を教う、
王弼注
1我之非強使人從之也、2而用夫自然、3舉其至理、4順之必吉、5違之必凶、6故人相教、7違之自取其凶也、8亦如我之教人、9勿違之也、
我は強いて人をして之に従わしめるに非ざるなり、夫の自ずから然ることを用い、其至理を挙ぐ、之に順(したが)えば必ず吉なり、之に違えば必ず凶なり、故(もと)より人相教うるに、之に違えば自ら其凶を取るなり、(亦)如(まさ)に我が人に教えんとす、之に違うこと勿(な)きなり、
通し番号 219 章内番号 3 識別番号 42_3
本文
1強梁者不得其死、2吾將以為教父、
強梁なる者は其死を得ず、吾将に以て教父と為らんとす、
王弼注
1強梁則必不得其死、2人相教為強梁、3則必如我之教人不當為強梁也、4舉其強梁不得其死以教邪、5若云順吾教之必吉也、6故得其違教之徒、7適可以為教父也、
強梁は則ち必ず其死を得ず、人相教えるに強梁を為す、則(しか)るに必ず我の人に教えるが如く当に強梁を為すべからざるべきなり、其強梁を挙げれば其死を得ずして以て教えるか、若(かくのごと)く云わん、吾が之を教えるに順(したが)えば必ず吉なり、故に其教に違うの徒を得れば、適(まさ)に以て教父と為るべきなり、
第四十三章
通し番号 220 章内番号 1 識別番号 43_1
本文
1天下之至柔、2馳騁天下之至堅、
天下の至柔は、天下の至堅に馳騁(ちてい)す、
王弼注
1氣無所不入、2水無所不出於經、
気は入らざる所無し、水は経に出でざる所無し、
通し番号 221 章内番号 2 識別番号 43_2
本文
1無有入無閒、2吾是以知無為之有益、
有ること無きは間(すき)無きに入る、吾是を以て為すこと無きの益有るを知る、
王弼注
1虛無柔弱、2無所不通、3無有不可窮、4至柔不可折、5以此推之、6故知無為之有益也、
虛無柔弱は、通ぜざる所無し、無有は窮むべからず、至柔は折るべからず、此を以て之を推す、故に無為の益有るを知るなり、
通し番号 222 章内番号 3 識別番号 43_3
本文
1不言之教、2無為之益、3天下希及之、
不言の教え、無為の益は、天下之に及ぶこと希(まれ)なり、
王弼注
第四十四章
通し番号 223 章内番号 1 識別番号 44_1
本文
1名與身孰親、
名と身と孰(いず)れか親(ちか)し、
王弼注
1尚名好高、2其身必疏、
名を尚(たっと)び高きを好めば、其身必ず疏(とお)し、
通し番号 224 章内番号 2 識別番号 44_2
本文
1身與貨孰多、
身と貨と孰(いず)れか多(まさ)る、
王弼注
1貪貨無厭、2其身必少、
貨を貪(むさぼ)りて厭(あ)くこと無ければ、其身必ず少し、
通し番号 225 章内番号 3 識別番号 44_3
本文
1得與亡孰病、
得ると亡(うしな)うと孰か病(や)む、
王弼注
1得多利而亡其身、2何者為病也、
多利を得て其身を亡(うしな)う、何者(いずれ)を病と為す、
通し番号 226 章内番号 4 識別番号 44_4
本文
1是故甚愛必大費、2多藏必厚亡、
是故に甚だ愛すれば必ず大いに費(つい)やす、多く蔵せば必ず厚く亡(うしな)う、
王弼注
1甚愛不與物通、2多藏不與物散、3求之者多、4攻之者眾、5為物所病、6故大費厚亡也、
甚だ愛(おし)めば物と通ぜず、多く蔵せば物と散ぜず、之を求める者多く、之を攻むる者衆(おお)く、物は病(や)む所と為る、故に大いに費(つい)やし厚く亡(うしな)うなり、
通し番号 227 章内番号 5 識別番号 44_5
本文
1知足不辱、2知止不殆、3可以長久、
足るを知れば辱(はずか)しめられず、止(とど)まるを知れば殆(あや)うからず、以て長久なるべし、
王弼注
第四十五章
通し番号 228 章内番号 1 識別番号 45_1
本文
1大成若缺、2其用不弊、
大成は欠(か)けるが若し、其用弊(やぶ)れず、
王弼注
1隨物而成、2不為一象、3故若缺也、
物に随(したが)いて成り、一象を為さず、故に欠(か)けるが若きなり、
通し番号 229 章内番号 2 識別番号 45_2
本文
1大盈若沖、2其用不窮、
大盈(えい)は沖(ちゅう)なるが若し、其用は窮(きわ)まらず、
王弼注
1大盈充足、2隨物而與、3無所愛矜、4故若沖也、
大盈(えい)は充足なり、物に随(したが)いて与(くみ)す、愛し矜(ほこ)る所無し、故に沖(ちゅう)の若し、
通し番号 230 章内番号 3 識別番号 45_3
本文
1大直若屈、
大直は屈(まが)るが若し、
王弼注
1隨物而直、2直下在一、3故若屈也、
物に随(したが)いて直(なお)し、直の下(もと)は一に在り、故に屈(まが)るが若きなり、
通し番号 231 章内番号 4 識別番号 45_4
本文
1大巧若拙、
大巧は拙(つたな)きが若し、
王弼注
1大巧、2因自然以成器、3不造為異端、4故若拙也、
大巧は、自然に因りて以て器を成す、異なる端を造り為さず、故に拙(つたな)きが若きなり、
通し番号 232 章内番号 5 識別番号 45_5
本文
1大辯若訥、
大弁は訥なるが若し
王弼注
1大辯因物而言、2己無所造、3故若訥也、
大弁は物に因りて言う、己が造る所無し、故に訥なるが若きなり、
通し番号 233 章内番号 6 識別番号 45_6
本文
1躁勝寒、2靜勝熱、3清靜為天下正、
躁は寒に勝つ、静は熱に勝つ、清静は天下の正為(た)り、
王弼注
1躁罷然後勝寒、2靜無為以勝熱、3以此推之、4則清靜為天下正也、5靜則全物之真、6躁則犯物之性、7故惟清靜乃得如上諸大也、
躁罷(や)み然る後寒に勝つ、静は無為にして以て熱に勝つ、此を以て之を推せば、則ち清静は天下の正為(た)るなり、静なれば則ち物の真を全くす、躁なれば則ち物の性を犯す、故に惟(ただ)清静なれば乃ち上の如き諸(もろもろ)の大を得るなり、
第四十六章
通し番号 234 章内番号 1 識別番号 46_1
本文
1天下有道、2卻走馬以糞、
天下に道有れば、走馬を卻(しりぞ)け以て糞(つちか)う、
王弼注
1天下有道、2知足知止、3無求於外、4各修其內而已、5故卻走馬以治田糞也、
天下道有れば、足るを知り止(とど)まるを知る、外に求めること無し、各(おのおの)其內を修めるのみ、故に走馬を卻(しりぞ)け以て田を治め糞(つちか)うなり、
通し番号 235 章内番号 2 識別番号 46_2
本文
1天下無道、2戎馬生於郊、
天下に道無ければ、戎馬(じゅうば)郊(ちか)くに生ず、
王弼注
1貪欲無厭、2不修其內、3各求於外、4故戎馬生於郊也、
貪欲は厭(あ)くこと無し、其內を修めず、各(おのおの)外に求む、故に戎馬(じゅうば)郊に生じるなり、
通し番号 236 章内番号 3 識別番号 46_3
本文
1禍莫大於不知足、2咎莫大於欲得、3故知足之足、4常足矣、
禍(わざわい)は足るを知らざるより大なるは莫し、咎(つみ)は得るを欲するより大なるは莫し、故に足るを知るの足るは、常に足る、
王弼注
第四十七章
通し番号 237 章内番号 1 識別番号 47_1
本文
1不出戶、2知天下、3不窺牖、4見天道、
戸を出ずして、天下を知る、牖(まど)を窺(うかが)わずして、天道を見る、
王弼注
1事有宗、2而物有主、3途雖殊而同歸也、4慮雖百而其致一也、5道有大常、6理有大致、7執古之道、8可以御今、9雖處於今、10可以知古始、11故不出戶窺牖而可知也、
事は宗有りて、物は主有り、途(みち)は殊(こと)なると雖も帰を同じくするなり、慮は百と雖も其致は一なり、道に大常有り、理に大致有り、古の道を執(と)りて、以て今を御すべし、今に処(お)ると雖も、以て古始を知るべし、故に戸を出で牖(まど)を窺(うかが)わずして知るべきなり、
通し番号 238 章内番号 2 識別番号 47_2
本文
1其出彌遠、2其知彌少、
其出ること弥(ますます)遠ければ、其知ること弥(ますます)少し、
王弼注
1無在於一而求之於眾也、2道視之不可見、3聽之不可聞、4搏之不可得、5如其知之、6不須出戶、7若其不知、8出愈遠愈迷也、
一に在りて之を衆(おお)きに求めること無きなり、道は之を視て見るべからず、之を聴きて聞くべからず、之を搏(と)りて得るべからず、如(も)し其れ之を知れば、戸を出るを須(ま)たず、若(も)し其れ知らざれば、出ること愈(ますます)遠くして愈(ますます)迷うなり、
通し番号 239 章内番号 3 識別番号 47_3
本文
1是以聖人不行而知、2不見而名、
是を以て聖人は行かずして知る、見ずして名づく、
王弼注
1得物之致、2故雖不行而慮可知也、3識物之宗、4故雖不見、5而是非之理可得而名也、
物の致を得る、故に行かずと雖も慮知るべきなり、物の宗を識(し)る、故に見ずと雖も、是非の理は得て名づくべきなり、
通し番号 240 章内番号 4 識別番号 47_4
本文
1不為而成、
為さずして成る、
王弼注
1明物之性、2因之而已、3故雖不為而使之成矣、
物の性を明らかにして、之に因るのみ、故に為さずと雖も之をして成らしめる、
第四十八章
通し番号 241 章内番号 1 識別番号 48_1
本文
1為學日益、
学を為すは、日に益(ま)す、
王弼注
1務欲進其所能、2益其所習、
務めて其能(よ)くする所を進め、其習う所を益(ま)さんと欲す、
通し番号 242 章内番号 2 識別番号 48_2
本文
1為道日損、
道を為すは日に損(へ)らす、
王弼注
1務欲反虛無也、
務めて虛無に反(かえ)るを欲するなり、
通し番号 243 章内番号 3 識別番号 48_3
本文
1損之又損、2以至於無為、3無為而無不為、
之を損(へ)らして又(さら)に損(へ)らす、以て為すこと無きに至る、為すこと無くて為さざる無し、
王弼注
1有為則有所失、2故無為乃無所不為也、
為すこと有れば則ち失う所有り、故に為すこと無ければ乃ち為さざる所無きなり、
通し番号 244 章内番号 4 識別番号 48_4
本文
1取天下常以無事、
天下を取るは常に事無きを以てす、
王弼注
1動常因也、
動くは常に因るなり、
通し番号 245 章内番号 5 識別番号 48_5
本文
1及其有事、
其事有るに及びては、
王弼注
1自己造也、
己自(よ)り造(な)すなり、
通し番号 246 章内番号 6 識別番号 48_6
本文
1不足以取天下、
以て天下を取るに足らず、
王弼注
1失統本也、
本を統(す)ぶるを失うなり、
第四十九章
通し番号 247 章内番号 1 識別番号 49_1
本文
1聖人無常心、2以百姓心為心、
聖人は常の心無し、百姓の心以て心と為す、
王弼注
1動常因也、
動くは常に因るなり、
通し番号 248 章内番号 2 識別番号 49_2
本文
1善者、2吾善之、3不善者、4吾亦善之、
善なる者、吾之を善とす、不善なる者、吾亦之を善とす、
王弼注
1各因其用則善不失也、
各(おのおの)其用に因れば則ち善を失わざるなり、
通し番号 249 章内番号 3 識別番号 49_3
本文
1德善、
徳は善なればなり、
王弼注
1無棄人也、
人を棄てること無きなり、
通し番号 250 章内番号 4 識別番号 49_4
本文
1信者、2吾信之、3不信者、4吾亦信之、5德信、6聖人在天下、7歙歙為天下渾其心、8百姓皆注其耳目、
信なる者、吾之を信とす、信ならざる者、吾亦之を信とす、徳は信なればなり、聖人が天下に在れば、歙歙(きゅうきゅう)として天下の為に其心を渾(こん)にす、百姓は皆其耳目を注ぐ、
王弼注
1各用聰明、
各(おのおの)聡明を用う、
通し番号 251 章内番号 5 識別番号 49_5
本文
1聖人皆孩之、
聖人は皆之を孩(がい)にす、
王弼注
1皆使和而無欲、2如嬰兒也、3夫天地設位、4聖人成能、5人謀鬼謀、6百姓與能者、7能者與之、8資者取之、9能大則大、10資貴則貴、11物有其宗、12事有其主、13如此則可冕旒充目而不懼於欺、14黈纊塞耳而無戚於慢、15又何為勞一身之聰明、16以察百姓之情哉、17夫以明察物、18物亦競以其明應之、19以不信察物、20物亦競以其不信應之、21夫天下之心、22不必同、23其所應不敢異則莫肯用其情矣、24甚矣害之大也、25莫大於用其明矣、26夫在智則人與之訟、27在力則人與之爭、28智不出於人而立乎訟地、29則窮矣、30力不出於人而立乎爭地、31則危矣、32未有能使人無用其智力乎己者也、33如此則己以一敵人、34而人以千萬敵己也、35若乃多其法網、36煩其刑罰、37塞其徑路、38攻其幽宅、39則萬物失其自然、40百姓喪其手足、41鳥亂於上、42魚亂於下、43是以聖人之於天下、44歙歙焉、45心無所主也、46為天下渾心焉、47意無所適莫也、48無所察焉、49百姓何避、50無所求焉、51百姓何應、52無避無應、53則莫不用其情矣、54人無為舍其所能而為其所不能、55舍其所長而為其所短、56如此、57則言者言其所知、58行者行其所能、59百姓各皆注其耳目焉、60吾皆孩之而已、
皆和して欲無く、嬰児の如くならしめるなり、夫れ天地位を設け、聖人能を成す、人謀り鬼謀り、百姓(ひゃくせい)能に与(あずか)るは、能なる者は之に与(あずか)り、資なるは之に取る、能大なれば則ち大とす、資貴(たっと)ければ則ち貴とす、物に其宗有り、事に其主有り、此如ければ則ち冕(べん)旒(りゅう)目を充(おお)いて欺くを懼(おそ)れず、黈纊(とうこう)耳を塞(ふさ)ぎて慢(おこた)るを戚(うれ)うこと無かるべし、又何為(なんすれ)ぞ一身の聡明を労して、以て百姓の情を察せんや、夫れ明以て物を察すれば、物亦競いて其明以て之に応ず、不信以て物を察すれば、物亦競いて其不信以て之に応ず、夫れ天下の心は、必ずしも同じからず、其応じる所は敢えて異ならざれば則ち肯(あ)えて其情を用いること莫し、甚だしい矣(かな)害の大なるや、其明を用いるより大なるは莫し、夫れ智に在れば則ち人之と訟す、力に在れば則ち人之と争う、智が人より出ずして訟地に立てば、則ち窮す、力が人より出ずして争地に立てば、則ち危うし、未だ能く人をして其智力を己に用いること無からしむ者有らざるなり、此如ければ則ち己は一以て人に敵(あた)る、而して人は千万以て己に敵(あた)るなり、若し乃ち其法網を多くし、其刑罰を煩(わずらわ)しくし、其径路を塞(ふさ)ぎ、其幽宅を攻めれば、則ち万物其自然を失い、百姓は其手足を喪(うしな)い、鳥は上に乱れ、魚は下に乱る、是を以て聖人の天下に於るは、歙歙焉(きゅうきゅうえん)として、心は主とする所無きなり、天下の為に心を渾にす、意は適莫(てきばく)する所無きなり、察する所無ければ、百姓何をか避けん、求める所無ければ、百姓何をか応ぜん、避くること無く応じること無ければ、則ち其情を用いざる莫し、人は其能くする所を舎(す)てて其能わざる所を為し、其長とする所を舎(す)てて其短とする所を為すを為すこと無し、此如ければ、則ち言は其知る所を言う、行は其能くする所を行う、百姓は各(おのおの)皆其耳目を注(そそ)ぐも、吾皆之を孩(がい)にするのみ、
第五十章
通し番号 252 章内番号 1 識別番号 50_1
本文
1出生入死、
生を出て死に入る、
王弼注
1出生地、2入死地、
生の地を出て、死の地に入る、
通し番号 253 章内番号 2 識別番号 50_2
本文
1生之徒、2十有三、3死之徒、4十有三、5人之生、6動之死地、7亦十有三、8夫何故、9以其生生之厚、10蓋聞善攝生者、11陸行不遇兕虎、12入軍不被甲兵、13兕無所投其角、14虎無所措其爪、15兵無所容其刃、16夫何故、17以其無死地、
生の徒は、十に三有り、死の徒は、十に三有り、人の生くるに、動きて死地に之(ゆ)く、亦十に三有り、夫れ何の故ぞ、其生を生(やしな)うの厚きを以てなり、蓋し聞く、善く生を摂する者は、陸行して兕虎(じこ)に遇(あ)わず、軍に入りて甲兵を被(こうむ)らず、兕は(じ)其角(つの)を投ずる所無し、虎は其爪を措(お)く所無し、兵は其刃(やいば)を容(い)れる所無し、夫れ何の故ぞ、其死地無きを以てなり、
王弼注
1十有三、2猶云十分有三分、3取其生道、4全生之極、5十分有三耳、6取死之道、7全死之極、8亦十分有三耳、9而民生生之厚、10更之無生之地焉、11善攝生者無以生為生、12故無死地也、13器之害者、14莫甚乎戈兵、15獸之害者、16莫甚乎兕虎、17而令兵戈無所容其鋒刃、18虎兕無所措其爪角、19斯誠不以欲累其身者也、20何死地之有乎、21夫蚖蟺以淵為淺、22而鑿穴其中、23鷹鸇以山為卑、24而增巢其上、25矰繳不能及、26網罟不能到、27可謂處於無死地矣、28然而卒以甘餌、29乃入於無生之地、30豈非生生之厚乎、31故物苟不以求離其本、32不以欲渝其真、33雖入軍而不害、34陸行而不可犯也、35赤子之可則而貴信矣、
十に三有りは、猶十分に三分有りと云うがごときなり、其生道を取り、生の極を全(まった)くするは、十分に三有るのみ、死の道を取り、死の極を全くするは、亦十分に三有るのみ、民が生を生(やしな)うの厚きは、更(か)わりて生無きの地に之(ゆ)く、善く生を摂する者は生以て生と為すこと無し、故に死地無きなり、器の害は、戈兵(かへい)より甚だしきは莫し、獣の害は、兕虎(じこ)より甚だしきは莫し、而るに兵戈(か)をして其鋒刃(ほうじん)容(い)れる所無く、虎兕(こじ)をして其爪角(そうかく)を措(お)く所無からしむ、斯れ誠に欲以て其身を累さざる者なり、何ぞ死地之有らん、夫れ蚖(げん)蟺(せん)淵以て浅と為し、穴を其中に鑿(うが)つ、鷹鸇(ようせん)山以て卑(ひく)しと為して、巣を其上に増(くわ)える、矰繳(そうしゃく)及ぶこと能わず、網罟(もうこ)到ること能わず、死地無きに処(お)ると謂うべし、然り而して卒(つい)に甘餌以て、乃ち生無きの地に入る、豈生を生(やしなう)の厚きに非ざるや、故に物は苟(もし)求めることを以て其本を離れず、欲を以て其真を渝(か)えざれば、軍に入ると雖も害せられず、陸行して犯すべからざるなり、赤子は則(のっと)り貴ぶべしは信なり、
第五十一章
通し番号 256 章内番号 3 識別番号 51_3
本文
1道之尊、2德之貴、3夫莫之命而常自然、
道の尊く、徳の貴きは、夫れ之に命ずること莫くて常に自ずから然るなり、
王弼注
1命並作爵、
命は並(みな)爵に作る、
通し番号 257 章内番号 4 識別番号 51_4
本文
1故道生之、2德畜之、3長之育之、4亭之毒之、5養之覆之、
故に道之を生じ、徳之を畜(やしな)う、之を長(ま)し之を育て、之を亭(ととの)へ之を毒(あつ)くし、之を養(まも)り之を覆(おお)う、
王弼注
1謂成其實、2各得其庇蔭、3不傷其體矣、
其実を成し、各(おのおの)其庇蔭(ひいん)を得て、其体を傷つけざるを謂う、
通し番号 258 章内番号 5 識別番号 51_5
本文
1生而不有、2為而不恃、
生じて有(たも)たず、為して恃(たの)まず、
王弼注
1為而不有、
為して有(たも)たず、
通し番号 259 章内番号 6 識別番号 51_6
本文
1長而不宰、2是謂玄德、
長じて宰(さい)せず、是れ玄徳と謂う、
王弼注
1有德而不知其主也、2出乎幽冥、3是以謂之玄德也、
徳有りて其主を知らざるなり、幽冥より出る、是を以て之を玄徳と謂うなり、
通し番号 254 章内番号 1 識別番号 51_1
本文
1道生之、2德畜之、3物形之、4勢成之、
道之を生ず、徳之を畜(やしな)う、物之を形づくる、勢之を成す、
王弼注
1物生而後畜、2畜而後形、3形而後成、4何由而生、5道也、6何得而畜、7德也、8何由而形、9物也、10何使而成、11勢也、12唯因也、13故能無物而不形、14唯勢也、15故能無物而不成、16凡物之所以生、17功之所以成、18皆有所由、19有所由焉、20則莫不由乎道也、21故推而極之、22亦至道也、23隨其所因、24故各有稱焉、
物が生じて後に畜(やしな)う、畜(やしな)いて後に形づくる、形づくりて後に成る、何に由りて生ず、道なり、何を得て畜(やしな)う、徳なり、何に由(よ)りて形づくる、物なり、何を使いて成る、勢なり、唯因るなり、故に能く物にして形づくらざること無し、唯勢なり、故に能く物にして成らざること無し、凡そ物が以て生ずる所、功が以て成る所は、皆由る所有り、由る所有れば、則ち道に由らざること莫きなり、故に推して之を極めれば、亦(ただ)道に至るなり、其因る所に随(したが)う、故に各(おのおの)称(かな)うこと有り、
通し番号 255 章内番号 2 識別番号 51_2
本文
1是以萬物莫不尊道而貴德、
是を以て万物は道を尊(たっと)び徳を貴(たっと)ばざることなし、
王弼注
1道者、2物之所由也、3德者、4物之所得也、5由之乃得、6故曰不得不失尊之、7則害、8不得不貴也、
道は、物の由る所なり、徳は、物の得る所なり、之に由れば乃ち得る、故に曰く、之を尊(たっと)ぶことを失わざるを得ざれば、則ち害なり、貴(たっと)ばざるを得ざるなり、
第五十二章
通し番号 260 章内番号 1 識別番号 52_1
本文
1天下有始、2以為天下母、
天下に始め有り、以て天下の母と為す、
王弼注
1善始之則善養畜之矣、2故天下有始則可以為天下母矣、
善く之を始めれば則ち善く之を養畜す、故に天下に始め有れば則ち以て天下の母と為すべし、
通し番号 261 章内番号 2 識別番号 52_2
本文
1既知其母、2復知其子、3既知其子、4復守其母、5沒身不殆、
既に其母を知り、復(ま)た其子を知る、既に其子を知り、復(ま)た其母を守る、身没するまで殆(あや)うからず、
王弼注
1母、2本也、3子、4末也、5得本以知末、6不舍本以逐末也、
母は、本(もと)なり、子は、末なり、本を得て以て末を知る、本を舎(す)て以て末を逐(お)わざるなり、
通し番号 262 章内番号 3 識別番号 52_3
本文
1塞其兌、2閉其門、
其兌(あな)を塞(ふさ)ぎ、其門を閉ずれば、
王弼注
1兌、2事欲之所由生、3門、4事欲之所由從也、
兌(あな)は、欲の由りて生じる所を事とし、門は、欲の由りて從う所を事とするなり、
通し番号 263 章内番号 4 識別番号 52_4
本文
1終身不勤、
終身勤ならず、
王弼注
1無事永逸、2故終身不勤也、
事無く永(なが)く逸(たの)しむ、故に終身勤ならざるなり、
通し番号 264 章内番号 5 識別番号 52_5
本文
1開其兌、2濟其事、3終身不救、
其兌(あな)を開き、其事を濟(な)せば、終身救われず、
王弼注
1不閉其原而濟其事、2故雖終身不救、
其原(みなもと)を閉ざさずして其事を濟(な)す、故に身を終うと雖も救われず、
通し番号 265 章内番号 6 識別番号 52_6
本文
1見小曰明、2守柔曰強、
小を見るを明と曰う、柔を守るを強と曰う、
王弼注
1為治之功不在大、2見大不明、3見小乃明、4守強不強、5守柔乃強也、
治を為すの功は大に在らず、大を見るは明ならず、小を見るは乃ち明なり、強を守るは強ならず、柔を守るは乃ち強なり、
通し番号 266 章内番号 7 識別番号 52_7
本文
1用其光、
其光を用いて、
王弼注
1顯道以去民迷、
道を顕(あらわ)して以て民の迷いを去る、
通し番号 267 章内番号 8 識別番号 52_8
本文
1復歸其明、
其明に復帰すれば、
王弼注
1不明察也、
明察せざるなり、
通し番号 268 章内番号 9 識別番号 52_9
本文
1無遺身殃、2是謂習常、
身の殃(わざわい)を遺(のこ)すこと無し、是れ習常と謂う、
王弼注
1道之常也、
道の常なり、
第五十三章
通し番号 269 章内番号 1 識別番号 53_1
本文
1使我介然有知、2行於大道、3唯施是畏、
我をして介然(かいぜん)として知有らしめば、大道を行くに、唯(ただ)施(し)是れ畏る、
王弼注
1言若使我可介然有知、2行大道於天下、3唯施為之是畏也、
言えらく、若し我をして介然として知有りて大道を天下に行うべからしめれば、唯(ただ)之を施為する、是れ畏るなり、
通し番号 270 章内番号 2 識別番号 53_2
本文
1大道甚夷、2而民好徑、
大道は甚だ夷(たいら)かなり、而るに民は径を好む、
王弼注
1言大道蕩然正平、2而民猶尚舍之而不由、3好從邪徑、4況復施為以塞大道之中乎、5故曰、6大道甚夷、7而民好徑、
言えらく、大道は蕩然(とうぜん)として正平なり、而るに民猶尚(なお)之を舎(す)てて由らず、邪径を好み従う、況んや復た施為して以て大道の中を塞(ふさ)ぐをや、故に曰く、大道は甚だ夷(たいら)かなり、而るに民は径を好む、
通し番号 271 章内番号 3 識別番号 53_3
本文
1朝甚除、
朝は甚だ除(きよ)む、
王弼注
1朝、2宮室也、3除、4潔好也、
朝は、宮室なり、除は、潔好なり、
通し番号 272 章内番号 4 識別番号 53_4
本文
1田甚蕪、2倉甚虛、
田は甚だ蕪(あ)れ、倉は甚だ虚(むな)し、
王弼注
1朝甚除、2則田甚蕪、3倉甚虛、4設一而眾害生也、
朝は甚だ除(きよ)し、則(しかる)に田は甚だ蕪(あ)れ、倉は甚だ虚(むな)し、一を設けて衆害生ずるなり、
通し番号 273 章内番号 5 識別番号 53_5
本文
1服文綵、2帶利劍、3厭飲食、4財貨有餘、5是謂盜夸、6非道也哉、
文綵(さい)を服し、利剣を帯(お)び、飲食に厭(あ)く、財貨余り有り、是れ盜夸(こ)と謂う、道に非ざるかな、
王弼注
1凡物不以其道得之則皆邪也、2邪則盜也、3夸而不以其道得之、4竊位也、5故舉非道以明非道則皆盜夸也、
凡そ物は其道以て之を得ざれば則ち皆邪なり、邪は則ち盗なり、夸(おご)りて其道以て之を得ざるは、位を竊(ぬす)むなり、故に非道を挙げ以て非道は則ち皆盗夸(こ)なるを明らかにするなり、
第五十四章
通し番号 274 章内番号 1 識別番号 54_1
本文
1善建者不拔、
善く建てたるは拔けず、
王弼注
1固其根而後營其末、2故不拔也、
其根を固くして後に其末を営む、故に拔けざるなり、
通し番号 275 章内番号 2 識別番号 54_2
本文
1善抱者不脫、
善く抱くは脱せず、
王弼注
1不貪於多、2齊其所能、3故不脫也、
多きを貪(むさぼ)らず、其能くする所を斉(ととの)う、故に脱せざるなり、
通し番号 276 章内番号 3 識別番号 54_3
本文
1子孫以祭祀不輟、
子孫は以て祭祀(さいし)して輟(や)まず、
王弼注
1子孫傳此道以祭祀則不輟也、
子孫此道を伝え以て祭祀(さいし)すれば則ち輟(や)まざるなり、
通し番号 277 章内番号 4 識別番号 54_4
本文
1修之於身、2其德乃真、3修之於家、4其德乃餘、
之を身に於て修めれば、其徳乃ち真なり、之を家に於て修めれば、其徳乃ち余りあり、
王弼注
1以身及人也、2修之身則真、3修之家則有餘、4修之不廢、5所施轉大、
身を以て人に及ぼすなり、之を身に修めれば則ち真なり、之を家に修めれば則ち余り有り、之を修めて廃さざれば、施す所転(うた)た大なり、
通し番号 278 章内番号 5 識別番号 54_5
本文
1修之於鄉、2其德乃長、3修之於國、4其德乃豐、5修之於天下、6其德乃普、7故以身觀身、8以家觀家、9以鄉觀鄉、10以國觀國、
之を鄉に於て修めれば、其徳は乃ち長し、之を国に於て修めれば、其徳は乃ち豊かなり、之を天下に於て修めれば、其徳は乃ち普(あまね)し、故に身以て身を観る、家以て家を観る、鄉以て鄉を観る、国以て国を観る、
王弼注
1彼皆然也、
彼皆然るなり、
通し番号 279 章内番号 6 識別番号 54_6
本文
1以天下觀天下、
天下以て天下を観る、
王弼注
1以天下百姓心觀天下之道也、2天下之道、3逆順吉凶、4亦皆如人之道也、
天下の百姓の心を以て天下の道を観るなり、天下の道は、逆順吉凶、亦皆人の道の如きなり、
通し番号 280 章内番号 7 識別番号 54_7
本文
1吾何以知天下然哉、2以此、
吾は何を以て天下の然るを知るや、此を以てなり、
王弼注
1此上之所云也、2言吾何以得知天下乎、3察己以知之、4不求於外也、5所謂不出戶以知天下者也、
此は上の云う所なり、言えらく、吾何を以て天下を知ることを得るか、己を察し以て之を知り、外に求めざるなり、謂う所の戸を出ずして以て天下を知るものなり、
第五十五章
通し番号 281 章内番号 1 識別番号 55_1
本文
1含德之厚、2比於赤子、3蜂蠆虺蛇不螫、4猛獸不據、5攫鳥不搏、
含徳の厚きは、赤子に比(なぞら)う、蜂(ほう)蠆(たい)虺蛇(きだ)螫(さ)さず、猛獣拠(つか)まず、攫鳥(かくちょう)搏(う)たず、
王弼注
1赤子無求無欲、2不犯眾物、3故毒蟲之物無犯之人也、4含德之厚者、5不犯於物、6故無物以損其全也、
赤子は求めること無く欲すること無し、衆物を犯さず、故に毒蟲の物は之(この)人を犯すこと無きなり、含徳の厚きは、物に犯されず、故に物が以て其全きを損(そこ)なうことは無きなり、
通し番号 282 章内番号 2 識別番号 55_2
本文
1骨弱筋柔而握固、
骨弱く筋柔かにして握(にぎ)ること固し、
王弼注
1以柔弱之故、2故握能周固、
柔弱の故を以てす、故に握ること能く周(あまね)く固し、
通し番号 283 章内番号 3 識別番号 55_3
本文
1未知牝牡之合而全作、
未だ牝牡(ひんぼ)の合を知らずして全く作(な)す、
王弼注
1作、2長也、3無物以損其身、4故能全長也、5言含德之厚者、6無物可以損其德、7渝其真、8柔弱不爭而不摧折者、9皆若此也、
作は、長なり、物は以て其身を損なうこと無し、故に能く全く長(そだ)つなり、言えらく、含徳の厚き者は、物は以て其徳を損い、其真を渝(かえ)るべきこと無し、柔弱にして争わずして摧折(さいせつ)せざるは、皆此若きなり、
通し番号 284 章内番号 4 識別番号 55_4
本文
1精之至也、2終日號而不嗄、
精の至りなり、終日號(な)いて嗄(か)れず、
王弼注
1無爭欲之心、2故終日出聲而不嗄也、
争欲の心無し、故に終日声を出して嗄(か)れざるなり、
通し番号 285 章内番号 5 識別番号 55_5
本文
1和之至也、2知和曰常、
和の至りなり、和を知るを常と曰う、
王弼注
1物以和為常、2故知和則得常也、
物は和以て常と為す、故に和を知れば則ち常を得るなり、
通し番号 286 章内番号 6 識別番号 55_6
本文
1知常曰明、
常を知るを明と曰う、
王弼注
1不皦不昧、2不溫不涼、3此常也無形、4不可得而見、5曰明也、
皦(あきら)かならずして昧(くら)からず、温(あたた)かからずして涼(すずし)からず、此の常や、形無し、得て見るべからず、明と曰うなり、
通し番号 287 章内番号 7 識別番号 55_7
本文
1益生曰祥、
生を益(ま)すを祥(しょう)と曰う、
王弼注
1生不可益、2益之則夭也、
生は益(ま)すべからず、之を益せば則ち夭(よう)す、
通し番号 288 章内番号 8 識別番号 55_8
本文
1心使氣曰強、
心が気を使うを強と曰う、
王弼注
1心宜無有、2使氣則強、
心は宜しく有ること無かるべし、気を使えば則ち強なり、
通し番号 289 章内番号 9 識別番号 55_9
本文
1物壯則老、2謂之不道、3不道早已、
物は壮(さかん)なれば、則ち老(おとろ)う、之を不道と謂う、不道は早く已(や)む、
王弼注
第五十六章
通し番号 290 章内番号 1 識別番号 56_1
本文
1知者不言、
知るは言わざることなり
王弼注
1因自然也、
自ずから然るに因るなり、
通し番号 291 章内番号 2 識別番号 56_2
本文
1言者不知、
言うは知ることならず、
王弼注
1造事端也、
事の端を造るなり、
通し番号 292 章内番号 3 識別番号 56_3
本文
1塞其兌、2閉其門、3挫其銳、
其兌(あな)を塞(ふさ)ぎ、其門を閉じ、其鋭を挫(くじ)く、
王弼注
1含守質也、
質を含(いだ)き守るなり、
通し番号 293 章内番号 4 識別番号 56_4
本文
1解其分、
其分を解く、
王弼注
1除爭原也、
争いの原(みなもと)を除くなり、
通し番号 294 章内番号 5 識別番号 56_5
本文
1和其光、
其光を和す、
王弼注
1無所特顯則物無所偏爭也、
特に顕(あら)わす所無ければ則ち物は偏(かたよ)り争う所無きなり、
通し番号 295 章内番号 6 識別番号 56_6
本文
1同其塵、
其塵を同じくす、
王弼注
1無所特賤則物無所偏恥也、
特に賎(いや)しむ所無ければ則ち物は偏(かたよ)り恥じる所無し、
通し番号 296 章内番号 7 識別番号 56_7
本文
1是謂玄同、2故不可得而親、3不可得而疏、
是を玄同と謂う、故に得て親しむべからず、得て疏(うとん)ずるべからず、
王弼注
1可得而親、2則可得而疏也、
得て親しむべければ、則ち得て疏んずるべきなり、
通し番号 297 章内番号 8 識別番号 56_8
本文
1不可得而利、2不可得而害、
得て利するべからず、得て害するべからず、
王弼注
1可得而利、2則可得而害也、
得て利するべければ、則ち得て害するべきなり、
通し番号 298 章内番号 9 識別番号 56_9
本文
1不可得而貴、2不可得而賤、
得て貴(たっと)ぶべからず、得て賎(いや)しむべからず、
王弼注
1可得而貴、2則可得而賤也、
得て貴ぶべければ、則ち得て賎(いや)しむべきなり、
通し番号 299 章内番号 10 識別番号 56_10
本文
1故為天下貴、
故に天下の貴と為る、
王弼注
1無物可以加之也、
物の以て之に加うるべきこと無きなり、
第五十七章
通し番号 300 章内番号 1 識別番号 57_1
本文
1以正治國、2以奇用兵、3以無事取天下、
正以て国を治めれば、奇以て兵を用う、無事以てすれば天下を取る、
王弼注
1以道治國則國平、2以正治國則奇正起也、3以無事則能取天下也、4上章云、5其取天下者、6常以無事、7及其有事、8又不足以取天下也、9故以正治國則不足以取天下、10而以奇用兵也、11夫以道治國、12崇本以息末、13以正治國、14立辟以攻末、15本不立而末淺、16民無所及、17故必至於奇用兵也、
道以て国を治めれば則ち国は平らかなり、正以て国を治めれば則ち奇正起こるなり、無事以てすれば則ち能く天下を取るなり、上章に云う、其の天下を取るは、常に事無きを以てす、其事有るに及びては、又以て天下を取るに足らざるなり、故に正以て国を治めれば則ち以て天下を取るに足らずして、奇以て兵を用いるなり、夫れ道以て国を治めれば、本を崇(たっと)びて以て末を息(や)む、正以て国を治めれば、辟(のり)を立て以て末を攻(おさ)む、本立たずして末浅し、民に及ぶ所無し、故に必ず奇に於て兵を用いるに至るなり、
通し番号 301 章内番号 2 識別番号 57_2
本文
1吾何以知其然哉、2以此、3天下多忌諱、4而民彌貧、5民多利器、6國家滋昏、
吾何を以て其然るを知るや、此を以てなり、天下に忌諱(きき)多くして、民彌(いよいよ)貧し、民に利器多くして、国家滋(ますます)昏(みだ)る、
王弼注
1利器、2凡所以利己之器也、3民強則國家弱、
利器は、凡そ以て己を利する所の器なり、民強ければ則ち国家は弱し
、
通し番号 302 章内番号 3 識別番号 57_3
本文
1人多伎巧、2奇物滋起、
人に伎巧多くして、奇物滋(ますます)起こる、
王弼注
1民多智慧則巧偽生、2巧偽生則邪事起、
民に智慧多ければ則ち巧偽生ず、巧偽生ずれば則ち邪事起る、
通し番号 303 章内番号 4 識別番号 57_4
本文
1法令滋彰、2盜賊多有、
法令滋(ますます)彰(あきら)かにして、盗賊多く有り、
王弼注
1立正欲以息邪、2而奇兵用多、3忌諱欲以恥貧、4而民彌貧、5利器欲以強國者也、6而國愈昏多、7皆舍本以治末、8故以致此也、
正を立て以て邪を息(や)めんと欲す、而るに奇の兵用多し、忌諱(きき)は以て貧を恥じるを欲す、而るに民弥(いよいよ)貧し、利器は以て国を強くするを欲するものなり、而るに国は愈(いよいよ)昏(みだ)れること多し、皆本を舎(す)て以て末を治む、故に以て此を致すなり、
通し番号 304 章内番号 5 識別番号 57_5
本文
1故聖人云、2我無為而民自化、3我好靜而民自正、4我無事而民自富、5我無欲而民自樸、
故に聖人は云う、我は為すこと無くて民は自ずから化す、我は静を好みて民は自ずから正し、我は事とすること無くて民は自ずから富む、我は欲すること無くて民は自ずから樸(ぼく)なり、
王弼注
1上之所欲、2民從之速也、3我之所欲、4唯無欲而民亦無欲自樸也、5此四者、6崇本以息末也、
上の欲する所、民は之に従うこと速きなり、我の欲する所、唯無欲にして民亦無欲にして自ずから樸なり、此四は、本を崇(たっと)び以て末を息(や)むるなり、
第五十八章
通し番号 305 章内番号 1 識別番号 58_1
本文
1其政悶悶、2其民淳淳、
其政が悶悶(もんもん)たれば、其民は淳淳(じゅんじゅん)たり、
王弼注
1言善治政者、2無形無名、3無事無正可舉、4悶悶然、5卒至於大治、6故曰、7其政悶悶也、8其民無所爭競、9寬大淳淳、10故曰、11其民淳淳也、
言えらく、善治の政は、形無く、名無く、事無く、正の挙ぐべきこと無し、悶悶然(もんもんぜん)として、卒(つい)に大治に至る、故に其政は悶悶と曰うなり、其民は争競する所無く、寬大淳淳たり、故に其民は淳淳と曰うなり、
通し番号 306 章内番号 2 識別番号 58_2
本文
1其政察察、2其民缺缺、
其政が察察たれば、其民は欠欠たり、
王弼注
1立刑名、2明賞罰、3以檢姦偽、4故曰察察也、5殊類分析、6民懷爭競、7故曰、8其民缺缺也、
刑名を立て、賞罰を明らかにし、以て姦偽を検す、故に察察と曰うなり、類を殊(こと)にし分析すれば、民は争い競うことを懐(おも)う、故に其民は欠欠と曰うなり、
通し番号 307 章内番号 3 識別番号 58_3
本文
1禍兮福之所倚、2福兮禍之所伏、3孰知其極、4其無正、
禍(兮)は福の倚(よ)る所なり、福(兮)は禍の伏する所なり、孰(たれ)か其極を知らん、其れ正無し、
王弼注
1言誰知善治之極乎、2唯無可正舉、3無可形名、4悶悶然而天下大化、5是其極也、
言えらく、誰か善治の極を知るか、唯(ただ)正しく挙げるべきこと無く、形名すべきこと無し、悶悶然として天下大いに化す、是れ其極なり、
通し番号 308 章内番号 4 識別番号 58_4
本文
1正復為奇、
正は復(ま)た奇と為る、
王弼注
1以正治國、2則便復以奇用兵矣、3故曰、4正復為奇、
正以て国を治めれば、則ち便(すぐ)に復(また)奇以て兵を用う、故に正は復(ま)た奇と為ると曰う、
通し番号 309 章内番号 5 識別番号 58_5
本文
1善復為妖、
善は復(ま)た妖(よう)と為る、
王弼注
1立善以和萬物、2則便復有妖之患也、
善を立て以て万物を和すれば、則ち便(すぐ)に復た妖の患有るなり、
通し番号 310 章内番号 6 識別番号 58_6
本文
1人之迷、2其日固久、
人の迷うは、其日固(もと)より久し、
王弼注
1言人之迷惑失道、2固久矣、3不可便正善治以責、
言えらく、人が迷い惑(まど)い道を失うことは、固より久し、便(すなわ)ち正(まさ)に善治は以て責(もと)むべからず、
通し番号 311 章内番号 7 識別番号 58_7
本文
1是以聖人方而不割、
是を以て聖人は方にして割(さ)かず、
王弼注
1以方導物、2舍去其邪、3不以方割物、4所謂大方無隅、
方以て物を導き、其邪を舎(す)て去り、方以て物を割(さ)かず、謂う所の大方は隅無しなり、
通し番号 312 章内番号 8 識別番号 58_8
本文
1廉而不劌、
廉にして劌(そこな)わず、
王弼注
1廉、2清廉也、3劌、4傷也、5以清廉清民、6令去其邪、7令去其汙、8不以清廉劌傷於物也、
廉は、清廉なり、劌(けい)は、傷なり、清廉以て民を清くし、其邪を去らしめ、其汙(お)を去らしむ、清廉以て物を劌(けい)傷せざるなり、
通し番号 313 章内番号 9 識別番号 58_9
本文
1直而不肆、
直にして肆(し)ならず、
王弼注
1以直導物、2令去其僻、3而不以直激沸於物也、4所謂大直若屈也、
直以て物を導き、其僻(かたよ)りを去らしめ、直以て物に激沸せざるなり、謂う所の大直は屈(まが)るが若きなり、
通し番号 314 章内番号 10 識別番号 58_10
本文
1光而不燿、
光ありて燿(かがや)かず、
王弼注
1以光鑑其所以迷、2不以光照求其隱慝也、3所謂明道若昧也、4此皆崇本以息末、5不攻而使復之也、
光以て其以て迷う所を鑑(うつ)し、光以て其隠慝するを照らし求めざるなり、謂う所の明道は昧(くら)きが若きなり、此は皆本を崇(たっと)び以て末を息(や)む、攻めずして之を復せしめるなり、
第五十九章
通し番号 315 章内番号 1 識別番号 59_1
本文
1治人事天、2莫若嗇、
人を治め天に事(つか)えるは、嗇(しょく)に若(し)くは莫し、
王弼注
1莫如、2猶莫過也、3嗇、4農夫、5農人之治田、6務去其殊類、7歸於齊一也、8全其自然、9不急其荒病、10除其所以荒病、11上承天命、12下綏百姓、13莫過於此、
如(し)くは莫しは、猶過ぐること莫きがごときなり、嗇(しょく)は、農夫なり、農人の田を治むるは、務めて其殊類をを去り、斉一に帰するなり、其自然を全くして、其荒病に急がず、其荒病する所以を除く、上は天命を承け、下は百姓を綏(やす)んず、此に過ぐることは莫し、
通し番号 316 章内番号 2 識別番号 59_2
本文
1夫唯嗇、2是謂早服、
夫れ唯嗇、是れ早く服すと謂う、
王弼注
1早服常也、
早く常に服するなり、
通し番号 317 章内番号 3 識別番号 59_3
本文
1早服謂之重積德、
早く服する、之を徳を重積すると謂う、
王弼注
1唯重積德不欲銳速、2然後乃能使早服其常、3故曰早服謂之重積德者也、
唯徳を重積し鋭速を欲せず、然る後乃(すなわ)ち能く早く其常に服せしむ、故に早く服する之を徳を重積するものと曰うなり、
通し番号 318 章内番号 4 識別番号 59_4
本文
1重積德則無不克、2無不克則莫知其極、
徳を重積すれば則ち克(よ)くせざる無し、克(よ)くせざる無ければ則ち其極を知ること莫し、
王弼注
1道無窮也、
道は窮(きわま)ること無きなり、
通し番号 319 章内番号 5 識別番号 59_5
本文
1莫知其極、2可以有國、
其極を知ること莫ければ、以て国を有(たも)つべし、
王弼注
1以有窮而莅國、2非能有國也、
窮まること有るを以てして国に莅(のぞ)めば、能く国を有つこと非ざるなり、
通し番号 320 章内番号 6 識別番号 59_6
本文
1有國之母、2可以長久、
国の母を有てば、以て長く久しかるべし、
王弼注
1國之所以安謂之母、2重積德是唯圖其根、3然後營末、4乃得其終也、
国の以て安んずる所は之を母と謂う、徳を重積する是れ唯其根を図る、然る後末を営む、乃ち其終を得るなり、
通し番号 321 章内番号 7 識別番号 59_7
本文
1是謂深根固柢、2長生久視之道、
是れ根を深くし柢(こん)を固くすと謂う、長生久視の道なり、
王弼注
第六十章
通し番号 322 章内番号 1 識別番号 60_1
本文
1治大國、2若烹小鮮、
大国を治めるは、小鮮(せん)を烹(に)るが若し、
王弼注
1不擾也、2躁則多害、3靜則全真、4故其國彌大、5而其主彌靜、6然後乃能廣得眾心矣、
擾(じょう)ならざるなり、躁なれば則ち害多し、静なれば則ち真を全くす、故に其国弥(ますます)大にして、其主弥(ますます)静なり、然る後乃ち能く広く衆の心を得る、
通し番号 323 章内番号 2 識別番号 60_2
本文
1以道莅天下、2其鬼不神、
道以て天下に莅(のぞ)めば、其鬼は神ならず、
王弼注
1治大國則若烹小鮮、2以道蒞天下則其鬼不神也、
大国を治めるは則ち小鮮を烹るが若し、道以て天下に蒞(のぞ)めば則ち其鬼は神ならざるなり、
通し番号 324 章内番号 3 識別番号 60_3
本文
1非其鬼不神、2其神不傷人、
其鬼は神ならずでは非ず、其神が人を傷つけず、
王弼注
1神不害自然也、2物守自然則神無所加、3神無所加則不知神之為神也、
神は自然を害さざるなり、物が自然を守れば、則ち神は加える所無し、神が加える所無ければ、則ち神の神為るを知らざるなり、
通し番号 325 章内番号 4 識別番号 60_4
本文
1非其神不傷人、2聖人亦不傷人、
其神が人を傷つけずでは非ず、聖人が(亦)人を傷つけず、
王弼注
1道洽則神不傷人、2神不傷人則不知神之為神、3道洽則聖人亦不傷人、4聖人不傷人則不知聖人之為聖也、5猶云非獨不知神之為神、6亦不知聖之為聖也、7夫恃威網以使物者、8治之衰也、9使不知神聖之為神聖、10道之極也、
道が洽(あまね)ければ則ち神は人を傷つけず、神が人を傷つけざれば則ち神の神為るを知らず、道が洽(あまね)ければ則ち聖人は亦人を傷つけず、聖人が人を傷つけざれば則ち聖人の聖為るを知らざるなり、猶独り神の神為るを知らずに非ず、亦聖の聖為るを知らずと云うがごときなり、夫れ威網を恃(たの)み以て物を使うは、治の衰なり、神聖の神聖為るを知らざらしむは、道の極なり、
通し番号 326 章内番号 5 識別番号 60_5
本文
1夫兩不相傷、2故德交歸焉、
夫れ両(ふた)つは相傷つけず、故に徳は交(こもごも)帰する
王弼注
1神不傷人、2聖人亦不傷人、3聖人不傷人、4神亦不傷人、5故曰、6兩不相傷也、7神聖合道、8交歸之也、
神は人を傷つけず、聖人は亦人を傷つけず、聖人は人を傷つけず、神は亦人を傷つけず、故に両(ふた)つは相傷つけずと曰うなり、神聖は道に合い、交(こもごも)之に帰するなり、
第六十一章
通し番号 327 章内番号 1 識別番号 61_1
本文
1大國者下流、
大国は下流なり、
王弼注
1江海居大而處下、2則百川流之、3大國居大而處下、4則天下流之、5故曰、6大國下流也、
江海は大に居りて下に処(お)れば、則ち百川之に流れる、大国は大に居りて下に処(お)れば、則ち天下之に流れる、故に大国は下流なりと曰うなり、
通し番号 328 章内番号 2 識別番号 61_2
本文
1天下之交、
天下の交なり、
王弼注
1天下所歸會也、
天下の帰し会する所なり、
通し番号 329 章内番号 3 識別番号 61_3
本文
1天下之牝、
天下の牝(ひん)なり、
王弼注
1靜而不求、2物自歸之也、
静にして求めず、物自ずから之に帰するなり、
通し番号 330 章内番号 4 識別番号 61_4
本文
1牝常以靜勝牡、2以靜為下、
牝(ひん)は常に静以て牡(ぼ)を勝(あ)ぐ、静以て下るを為す、
王弼注
1以其靜、2故能為下也、3牝、4雌也、5雄躁動貪欲、6雌常以靜、7故能勝雄也、8以其靜復能為下、9故物歸之也、
其静を以てす、故に能く下と為るなり、牝は、雌なり、雄は躁動貪欲なり、雌は常に静以てす、故に能く雄を勝(あ)ぐなり、其静以て復し能く下と為る、故に物は之に帰するなり、
通し番号 331 章内番号 5 識別番号 61_5
本文
1故大國以下小國、
故に大国は以て小国に下れば、
王弼注
1大國以下、2猶云以大國下小國、
大国は以て下るは、猶大国以て小国に下ると云うがごとし、
通し番号 332 章内番号 6 識別番号 61_6
本文
1則取小國、
則ち小国を取る、
王弼注
1小國則附之、
小国は則ち之に附す、
通し番号 333 章内番号 7 識別番号 61_7
本文
1小國以下大國、2則取大國、
小国は以て大国に下れば、則ち大国を取る、
王弼注
1大國納之也、
大国之を納(い)れるなり、
通し番号 334 章内番号 8 識別番号 61_8
本文
1故或下以取、2或下而取、
故に或いは下りて以て取り、或いは下りて取る、
王弼注
1言唯修卑下、2然後乃各得其所、
言えらく、唯(ただ)卑下を修む、然る後乃ち各(おのおの)其所を得る、
通し番号 335 章内番号 9 識別番号 61_9
本文
1大國不過欲兼畜人、2小國不過欲入事人、3夫兩者各得其所欲、4大者宜為下、
大国は兼ねて人を畜(やしな)うことを欲するに過ぎず、小国は入りて人に事(つか)えることを欲するに過ぎず、夫(か)の両者各(おのおの)其欲する所を得るは、大なる者宜しく下と為るべし、
王弼注
1小國修下自全而已、2不能令天下歸之、3大國修下則天下歸之、4故曰、5各得其所欲、6則大者宜為下也、
小国は下ることを修めれば、自ら全くするのみ、天下をして之に帰せしむること能わず、大国は下ることを修めれば則ち天下之に帰す、故に各(おのおの)其欲する所を得るは、則ち大なる者は宜しく下となるべしと曰うなり、
第六十二章
通し番号 336 章内番号 1 識別番号 62_1
本文
1道者萬物之奧、
道は万物の奥なり、
王弼注
1奧、2猶曖也、3可得庇蔭之辭、
奧は、猶曖(あい)のごときなり、庇蔭(ひいん)を得べきの辞なり、
通し番号 337 章内番号 2 識別番号 62_2
本文
1善人之寶、
善き人の宝なり
王弼注
1寶以為用也、
宝は以て用を為すなり、
通し番号 338 章内番号 3 識別番号 62_3
本文
1不善人之所保、
不善人の保つ所なり、
王弼注
1保以全也、
保は以て全(まった)くするなり、
通し番号 339 章内番号 4 識別番号 62_4
本文
1美言可以市、2尊行可以加人、
美として言えば以て市(う)るべし、尊(たっと)びて行えば以て人に加えるべし、
王弼注
1言道無所不先、2物無有貴於此也、3雖有珍寶璧馬、4無以匹之、5美言之則可以奪眾貨之賈、6故曰、7美言可以市也、8尊行之則千里之外應之、9故曰、10可以加於人也、
言えらく、道は先とせざる所無く、物は此より貴(たっと)きは有ること無きなり、珍宝璧(へき)馬有ると雖も、以て之に匹(たぐい)すること無し、美として之を言えば則ち以て衆貨の賈(か)を奪うべし、故に美として言えば以て市(う)るべしと曰うなり、尊(たっと)びて之を行えば則ち千里の外に之に応ず、故に以て人に加えるべしと曰うなり、
通し番号 340 章内番号 5 識別番号 62_5
本文
1人之不善、2何棄之有、
人の不善は、何ぞ棄つること之有らん、
王弼注
1不善當保道以免放、
不善は当に道を保ち以て放(ほしいまま)なることを免れるべし、
通し番号 341 章内番号 6 識別番号 62_6
本文
1故立天子、2置三公、
故に天子を立て、三公を置くに、
王弼注
1言以尊行道也、
尊(たっと)きを以て道を行うを言うなり、
通し番号 342 章内番号 7 識別番号 62_7
本文
1雖有拱璧以先駟馬、2不如坐進此道、
拱(きょう)璧(へき)以て駟馬(しば)に先だつこと有ると雖も、坐して此道を進めるに如かず、
王弼注
1此道、2上之所云也、3言、4故立天子、5置三公、6尊其位、7重其人、8所以為道也、9物無有貴於此者、10故雖有拱抱寶璧以先駟馬而進之、11不如坐而進此道也、
此道は、上の云う所なり、故に天子を立て、三公を置くと言うは、其位を尊び、其人を重んじ、以て道を為す所なり、物は此より貴きものは有ること無し、故に拱抱の宝璧以て駟馬に先んじて之を進むこと有ると雖も、坐して此道を進めるに如かざるなり、
通し番号 343 章内番号 8 識別番号 62_8
本文
1古之所以貴此道者何、2不曰、3以求得、4有罪以免耶、5故為天下貴、
古の此道を貴ぶ所以は何ぞ、以て求むれば得て、罪有りて以て免れると曰わざる耶(や)、故に天下の貴と為る、
王弼注
1以求則得求、2以免則得免、3無所而不施、4故為天下貴也、
以て求むれば則ち求むるを得る、以て免かるれば則ち免かるるを得る、所として施さざるは無し、故に天下の貴と為るなり、
第六十三章
通し番号 344 章内番号 1 識別番号 63_1
本文
1為無為、2事無事、3味無味、
為すこと無きを為し、事無きを事とし、味無きを味とする、
王弼注
1以無為為居、2以不言為教、3以恬淡為味、4治之極也、
無為を以て居と為し、不言以て教えと為し、恬淡以て味と為す、治の極なり、
通し番号 345 章内番号 2 識別番号 63_2
本文
1大小多少、2報怨以德、
小を大とし少を多とす、怨みに報うるに徳を以てす、
王弼注
1小怨則不足以報、2大怨則天下之所欲誅、3順天下之所同者、4德也、
小怨は則ち以て報うるに足らず、大怨は則ち天下の誅するを欲する所にして、天下の同じき所に順(したが)うは、徳なり、
通し番号 346 章内番号 3 識別番号 63_3
本文
1圖難於其易、2為大於其細、3天下難事必作於易、4天下大事必作於細、5是以聖人終不為大、6故能成其大、7夫輕諾必寡信、8多易必多難、9是以聖人猶難之、
難を其易に図る、大を其細に為す、天下の難事は必ず易に作(おこ)る、天下の大事は必ず細に作(おこ)る、是を以て聖人は終(つい)に大を為さず、故に能く其大を成す、夫れ軽諾は必ず信寡(すくな)し、多易は必ず多難なり、是を以て聖人猶之を難(かた)しとす、
王弼注
1以聖人之才猶尚難於細易、2況非聖人之才而欲忽於此乎、3故曰、4猶難之也、
聖人の才を以てして猶尚(なお)細易に於ては難し、況んや聖人の才に非ずして此に於て忽(ゆるが)せにするを欲するをや、故に猶之を難しとすると曰うなり、
通し番号 347 章内番号 4 識別番号 63_4
本文
1故終無難矣、
故に終に難無し、
王弼注
第六十四章
通し番号 348 章内番号 1 識別番号 64_1
本文
1其安易持、2其未兆易謀、
其安きは持し易し、其未だ兆(きざ)さざるは謀り易し、
王弼注
1以其安不忘危、2持之不忘亡、3謀之無功之勢、4故曰易也、
其安を以て危を忘れず、之を持し亡(うしな)うを忘れず、之を功無きの勢に謀る、故に易と曰うなり、
通し番号 349 章内番号 2 識別番号 64_2
本文
1其脆易泮、2其微易散、
其脆(もろ)きは泮(と)け易し、其微は散り易し、
王弼注
1雖失無入有、2以其微脆之故、3未足以興大功、4故易也、5此四者、6皆說慎終也、7不可以無之故而不持、8不可以微之故而弗散也、9無而弗持、10則生有焉、11微而不散、12則生大焉、13故慮終之患、14如始之禍、15則無敗事、
無を失い有に入ると雖も、其微脆(ぜい)の故を以て、未だ以て大功を興すに足らず、故に易なり、此四は、皆終を慎しむを説くなり、無の故を以て持さざることあるべからず、微の故を以て散らさざることあるべからざるなり、無にして持さざれば、則ち有を生ず、微にして散らさざれば、則ち大を生ず、故に終の患を慮(おもんばか)ること、始の禍の如ければ、則ち事を敗ること無し、
通し番号 350 章内番号 3 識別番号 64_3
本文
1為之於未有、
之を未だ有らざるに於て為す、
王弼注
1謂其安未兆也、
其の安にして未だ兆(きざ)さざるを謂うなり、
通し番号 351 章内番号 4 識別番号 64_4
本文
1治之於未亂、
之を未だ乱れざるに於て治む、
王弼注
1謂微脆也、
微脆(ぜい)を謂うなり、
通し番号 352 章内番号 5 識別番号 64_5
本文
1合抱之木、2生於毫末、3九層之臺、4起於累土、5千里之行、6始於足下、7為者敗之、8執者失之、
合抱の木は、毫末に生ず、九層の台は、土を累(かさ)ねるに起こる、千里の行は、足下に始まる、為す者は之を敗る、執(と)る者は之を失う、
王弼注
1當以慎終除微、2慎微除亂、3而以施為治之、4形名執之、5反生事原、6巧辟滋作、7故敗失也、
当に以て終を慎み微を除き、微を慎み乱を除くべし、而るに施為以て之を治め、形名之を執れば、反って事の原(みなもと)を生ず、巧辟(へき)滋(ますます)作(おこ)る、故に敗失するなり、
通し番号 353 章内番号 6 識別番号 64_6
本文
1是以聖人無為故無敗、2無執故無失、3民之從事、4常於幾成而敗之、
是を以て聖人は為すこと無し、故に敗るること無し、執(と)ること無し、故に失うこと無し、民の事に従うは、常に成るに幾(ちか)づきて之を敗る、
王弼注
1不慎終也、
終を慎まざるなり、
通し番号 354 章内番号 7 識別番号 64_7
本文
1慎終如始、2則無敗事、3是以聖人欲不欲、4不貴難得之貨、
終を慎むこと始の如ければ、則ち事を敗ること無し、是を以て聖人は欲さざるを欲し、得難きの貨を貴ばず、
王弼注
1好欲雖微、2爭尚為之興、3難得之貨雖細、4貪盜為之起也、
好欲は微と雖も、争いは尚(なお)之が為に興る、得難きの貨は細と雖も、貪(たん)盜は之が為に起こるなり、
通し番号 355 章内番号 8 識別番号 64_8
本文
1學不學、2復眾人之所過、
学ばざるを学び、衆人の過ぎる所に復す、
王弼注
1不學而能者、2自然也、3喻於不學者、4過也、5故學不學、6以復眾人之所過、
学ばずして能くするは、自ずから然ることなり、学ばざるに喻(さと)すは、過(あやま)ちなり、故に学ばざるを学び、以て衆人の過(あやま)つ所を復する、
通し番号 356 章内番号 9 識別番号 64_9
本文
1以輔萬物之自然、2而不敢為、
以て万物の自然を輔(たす)けて、敢えて為さず、
王弼注
第六十五章
通し番号 357 章内番号 1 識別番号 65_1
本文
1古之善為道者、2非以明民、3將以愚之、
古の善く道を為す者は、以て民を明かにするに非ず、将に以て之を愚にせんとす、
王弼注
1明、2謂多見巧詐、3蔽其樸也、4愚謂無知守真、5順自然也、
明は、多見巧詐にて、其樸を蔽(おお)うを謂うなり、愚は知ること無く真を守り自然に順うを謂うなり、
通し番号 358 章内番号 2 識別番号 65_2
本文
1民之難治、2以其智多、
民の治め難きは、其智多きを以てなり、
王弼注
1多智巧詐、2故難治也、
多智は巧みに詐(いつわ)る、故に治め難きなり、
通し番号 359 章内番号 3 識別番号 65_3
本文
1故以智治國、2國之賊、
故に智以て国を治むは、国の賊なり
王弼注
1智、2猶治也、3以智而治國、4所以謂之賊者、5故謂之智也、6民之難治、7以其多智也、8當務塞兌閉門、9令無知無欲、10而以智術動民、11邪心既動、12復以巧術防民之偽、13民知其術、14防隨而避之、15思惟密巧、16奸偽益滋、17故曰、18以智治國、19國之賊也、
智、猶治のごときなり、智以てして国を治む、之を賊と謂う所以は、故(もと)より之を智と謂えばなり、民の治め難きは、其多智を以てなり、当に務めて兌(あな)を塞ぎ門を閉じ、無知無欲ならしむべし、而るに智術以て民を動かせば、邪心既に動く、復た巧術以て民の偽を防げば、民は其術を知り、防随(したが)いて之を避く、思惟(い)密にして巧み、奸偽益(ますます)滋(おお)し、故に智以て国を治むるは、国の賊と曰うなり、
通し番号 360 章内番号 4 識別番号 65_4
本文
1不以智治國、2國之福、3知此兩者亦稽式、4常知稽式、5是謂玄德、6玄德深矣、7遠矣、
智以て国を治めざるは、国の福なり、此両者を知るは(亦)稽式(けいしき)なり、常に稽式を知る、是れ玄徳と謂う、玄徳は深し、遠し、
王弼注
1稽、2同也、3古今之所同則而不可廢、4能知稽式、5是謂玄德、6玄德深矣、7遠矣、
稽は、同なり、古今の同じく則(のっと)りて廃すべからざる所なり、能く稽式を知る、是れ玄徳と謂う、玄徳は深し、遠し、
通し番号 361 章内番号 5 識別番号 65_5
本文
1與物反矣、
物と反る、
王弼注
1反其真也、
其真に反(かえ)るなり、
通し番号 362 章内番号 6 識別番号 65_6
本文
1然後乃至大順、
然る後乃ち大順に至る、
王弼注
第六十六章
通し番号 363 章内番号 1 識別番号 66_1
本文
1江海所以能為百谷王者、2以其善下之、3故能為百谷王、4是以欲上民、5必以言下之、6欲先民、7必以身後之、8是以聖人處上而民不重、9處前而民不害、10是以天下樂推而不厭、11以其不爭、12故天下莫能與之爭、
江海の能く百谷の王と為る所以は、其善く之に下るを以てなり、故に能く百谷の王と為る、是を以て民に上たらんと欲せば、必ず言以て之に下る、民の先たらんと欲せば、必ず身以て之に後(おく)る、是を以て聖人が上に処(お)りて民は重しとせず、前に処(お)りて民は害とせず、是を以て天下推すを楽しみて厭(いと)わず、其不争を以てす、故に天下能く之と争うこと莫し、
王弼注
第六十七章
通し番号 364 章内番号 1 識別番号 67_1
本文
1天下皆謂我道大、2似不肖、3夫唯大、4故似不肖、5若肖、6久矣其細也夫、
天下皆、我道は大にして、不肖に似ると謂う、夫唯大なり、故に不肖に似る、若し肖なれば、久しい矣(かな)其れ細なる夫(かな)、
王弼注
1久矣其細、2猶曰其細久矣、3肖則失其所以為大矣、4故曰、5若肖、6久矣其細也夫、
久しいかな、其細は、猶其細は久しいかなと曰うがごとし、肖なれば則ち其の大為(た)る所以を失う、故に若し肖なれば、久しい矣(かな)其れ細なる夫(かな)と曰う、
通し番号 365 章内番号 2 識別番号 67_2
本文
1我有三寶、2持而保之、3一曰慈、4二曰儉、5三曰不敢為天下先、6慈故能勇、
我に三宝有り、持して之を保つ、一に曰く慈、二に曰く倹、三に曰く敢えて天下の先と為らず、慈なり、故に能く勇なり、
王弼注
1夫慈、2以陳則勝、3以守則固、4故能勇也、
夫れ慈は、以て陳すれば則ち勝ち、以て守れば則ち固し、故に能く勇なり、
通し番号 366 章内番号 3 識別番号 67_3
本文
1儉故能廣、
倹なり、故に能く広し、
王弼注
1節儉愛費、2天下不匱、3故能廣也、
節倹し費を愛(おし)めば、天下匱(とぼ)しからず、故に能く広きなり、
通し番号 367 章内番号 4 識別番号 67_4
本文
1不敢為天下先、2故能成器長、
敢えて天下の先と為らず、故に能く器の長と成る、
王弼注
1唯後外其身、2為物所歸、3然後乃能立成器、4為天下利、5為物之長也、
唯(ただ)其身を後(あと)にし外(そと)にすれば、物の帰する所と為る、然る後乃ち能く成器を立て、天下の利を為し、物の長と為すなり、
通し番号 368 章内番号 5 識別番号 67_5
本文
1今舍慈且勇、
今慈を舎(す)て且(まさ)に勇ならんとす、
王弼注
1且、2猶取也、
且(しょ)は、猶取のごときなり、
通し番号 369 章内番号 6 識別番号 67_6
本文
1舍儉且廣、2舍後且先、3死矣、4夫慈以戰則勝、
倹を舎(す)て且(まさ)に広ならんとす、後を舍(す)て且に先にならんとす、死なん、夫れ慈は以て戦えば則ち勝つ、
王弼注
1相慜而不避於難、2故勝也、
慜(さと)しを相(み)て難を避けず、故に勝つなり、
通し番号 370 章内番号 7 識別番号 67_7
本文
1以守則固、2天將救之、3以慈衛之、
以て守れば則ち固し、天将に之を救わんとす、慈以て之を衛(まも)ればなり、
王弼注
第六十八章
通し番号 371 章内番号 1 識別番号 68_1
本文
1善為士者不武、
善く士為(た)る者は武ならず、
王弼注
1士、2卒之帥也、3武、4尚先陵人也、
士は、卒の帥(すい)なり、武は、先を尚(たっと)び人を陵(しの)ぐなり、
通し番号 372 章内番号 2 識別番号 68_2
本文
1善戰者不怒、
善く戦う者は怒らず、
王弼注
1後而不先、2應而不唱、3故不在怒、
後にして先ならず、応じて唱(とな)えず、故に怒りに在らず、
通し番号 373 章内番号 3 識別番号 68_3
本文
1善勝敵者不與、
善く敵に勝つは与(くみせ)ず、
王弼注
1不與爭也、
与、争わざるなり、
通し番号 374 章内番号 4 識別番号 68_4
本文
1善用人者為之下、2是謂不爭之德、3是謂用人之力、
善く人を用いる者は之が下と為る、是れ不争の徳と謂う、是れ人の力を用いると謂う、
王弼注
1用人而不為之下、2則力不為用也、
人を用いて之が下と為らざれば、則ち力は用を為さざるなり、
通し番号 375 章内番号 5 識別番号 68_5
本文
1是謂配天古之極、
是れ天に配すと謂う、古の極なり、
王弼注
第六十九章
通し番号 376 章内番号 1 識別番号 69_1
本文
1用兵有言、2吾不敢為主而為客、3不敢進寸而退尺、4是謂行無行、
兵を用いるに言有り、吾敢えて主と為らずして客と為る、敢えて寸を進まずして尺を退く、是れ、行くこと無きに行くと謂う、
王弼注
1彼遂不止、
彼は遂に止(とど)まらず、
通し番号 377 章内番号 2 識別番号 69_2
本文
1攘無臂、2扔無敵、
臂(うで)無きを攘(はら)う、敵無しに扔(つ)く、
王弼注
1行、2謂行陳也、3言以謙退哀慈、4不敢為物先、5用戰猶行無行、6攘無臂、7執無兵、8扔無敵也、9言無有與之抗也、
行は、行陳(じん)を謂うなり、言えらく、謙、退、哀、慈以て、敢えて物の先と為らず、戦を用いるは猶行くこと無きに行き、臂(うで)無きを攘(はら)い、兵無きに執り、敵無しに扔(つ)くがごときなり、之と抗すること有ること無きを言うなり、
通し番号 378 章内番号 3 識別番号 69_3
本文
1執無兵、2禍莫大於輕敵、3輕敵幾喪吾寶、
兵無きを執(と)る、と謂う、禍は敵を軽くみるより大なるは莫し、敵を軽くみれば、幾(ほとん)ど吾が宝を喪(うしな)う、
王弼注
1言吾哀慈謙退、2非欲以取強、3無敵於天下也、4不得已而卒至於無敵、5斯乃吾之所以為大禍也、6寶、7三寶也、8故曰、9幾亡吾寶、
言えらく、吾が哀、慈、謙、退は、以て強を取り、天下に敵無きを欲するに非ざるなり、已(や)むを得ずして卒(つい)に敵無しに至る、斯(これ)は乃ち吾の以て大禍と為す所なり、宝は、三宝なり、故に幾(ほとん)ど吾が宝を亡(うしな)うと曰う
通し番号 379 章内番号 4 識別番号 69_4
本文
1故抗兵相加、2哀者勝矣、
故に兵を抗(あ)げ相加う、哀(かな)しむ者勝つ、
王弼注
1抗、2舉也、3加、4當也、5哀者、6必相惜而不趣利避害、7故必勝、
抗は、挙なり、加、当なり、哀は、必ず相惜しみて利に趣(おもむ)き害を避けることをせず、故に必ず勝つ、
第七十章
通し番号 380 章内番号 1 識別番号 70_1
本文
1吾言甚易知、2甚易行、3天下莫能知、4莫能行、
吾言甚だ知り易し、甚だ行い易し、天下能く知ること莫し、能く行うこと莫し、
王弼注
1可不出戶窺牖而知、2故曰、3甚易知也、4無為而成、5故曰甚易行也、6惑於躁欲、7故曰、8莫之能知也、9迷於榮利、10故曰、11莫之能行也、
戸を出で牖(まど)を窺(うかが)わずにして知るべし、故に甚だ知り易しと曰うなり、為すこと無くして成る、故に甚だ行い易しと曰うなり、躁欲に惑う、故に之を能く知ること莫しと曰うなり、栄利に迷う、故に之を能く行うこと莫しと曰うなり、
通し番号 381 章内番号 2 識別番号 70_2
本文
1言有宗、2事有君、
言に宗有り、事に君有り、
王弼注
1宗、2萬物之宗也、3君、4萬物之主也、
宗は、万物の宗なり、君は、万物の主なり、
通し番号 382 章内番号 3 識別番号 70_3
本文
1夫唯無知、2是以不我知、
夫れ唯知ること無し、是を以て我を知らず、
王弼注
1以其言有宗、2事有君之故、3故有知之人不得不知之也、
其言に宗有り、事に君有りの故を以て、故(もと)より知有るの人は之を知らざるを得ざるなり、
通し番号 383 章内番号 4 識別番号 70_4
本文
1知我者希、2則我者貴、
我を知る者希(まれ)なれば、則ち我は貴(たっと)し、
王弼注
1唯深故知者希也、2知我益希、3我亦無匹、4故曰、5知我者希、6則我者貴也、
唯(ただ)深し故に知る者希(まれ)なり、我を知ること益(ますます)希なれば、我は亦匹(ひつ)無し、故に我を知る者希なれば、則ち我は貴しと曰うなり、
通し番号 384 章内番号 5 識別番号 70_5
本文
1是以聖人被褐懷玉、
是を以て聖人は褐(かつ)を被(き)て玉を懐(いだ)く、
王弼注
1被褐者、2同其塵、3懷玉者、4寶其真也、5聖人之所以難知、6以其同塵而不殊、7懷玉而不渝、8故難知而為貴也、
褐(かつ)を被(き)るは、其塵を同じくし、玉を懐(いだ)くは、其真を宝とするなり、聖人の知り難き所以は、其塵を同じくして殊(こと)ならず、玉を懐(いだ)きて渝(かわ)らざるを以てなり、故に知り難くして貴(たっと)きと為すなり、
第七十一章
通し番号 385 章内番号 1 識別番号 71_1
本文
1知不知上、2不知知病、
知りて知らずとするは上なり、知らずして知るとするは病(へい)なり、
王弼注
1不知知之不足任則病也、
知の任ずるに足らざるを知らざれば則ち病なり、
通し番号 386 章内番号 2 識別番号 71_2
本文
1夫唯病病、2是以不病、3聖人不病、4以其病病、5是以不病、
夫れ唯(ただ)病を病とす、是を以て病ならず、聖人が病ならざるは、其の病を病とするを以てなり、是を以て病ならず、
王弼注
第七十二章
通し番号 387 章内番号 1 識別番号 72_1
本文
1民不畏威、2則大威至、3無狎其所居、4無厭其所生、
民威を畏れざれば、則ち大威至る、其居る所を狎(せば)めること無く、其生くる所を厭(あっ)すること無し、
王弼注
1清靜無為謂之居、2謙後不盈謂之生、3離其清淨、4行其躁欲、5棄其謙後、6任其威權、7則物擾而民僻、8威不能復制民、9民不能堪其威、10則上下大潰矣、11天誅將至、12故曰、13民不畏威、14則大威至、15無狎其所居、16無厭其所生、17言威力不可任也、
清静にして為すこと無し、之を居と謂う、謙後にして盈(み)たず、之を生と謂う、其清浄を離れ、其躁欲を行い、其謙後を棄て、其威権に任ずれば、則ち物は擾(みだ)れて民は僻(よこしま)なり、威は民を復し制すること能わず、民は其威に堪(た)えること能わず、則ち上下大いに潰(つい)える、天誅将に至らんとす、故に曰く、民威を畏れざれば、則ち大威至る、其居る所を狎(せば)めること無し、其生くる所を厭(あっ)すること無しは、威力は任ずべからざるを言うなり、
通し番号 388 章内番号 2 識別番号 72_2
本文
1夫唯不厭、
夫れ唯厭(あっ)さず、
王弼注
1不自厭也、
自ら厭(あっ)さざるなり、
通し番号 389 章内番号 3 識別番号 72_3
本文
1是以不厭、
是を以て厭(あっ)されず、
王弼注
1不自厭、2是以天下莫之厭、
自ら厭(あっ)さず、是を以て天下之を厭(あっ)すること莫し、
通し番号 390 章内番号 4 識別番号 72_4
本文
1是以聖人自知不自見、
是を以て聖人は自ら知りて自ら見(あら)わさず、
王弼注
1不自見其所知、2以耀光行威也、
自ら其知る所を見(あら)わし、以て光を耀(かがや)かし威を行わざるなり、
通し番号 391 章内番号 5 識別番号 72_5
本文
1自愛不自貴、
自ら愛(おし)み自ら貴しとせず、
王弼注
1自貴則物狎厭居生、
自ら貴(たっと)くすれば則ち物は居生を狎(せば)め厭(あっ)す、
通し番号 392 章内番号 6 識別番号 72_6
本文
1故去彼取此、
故に彼を去り此を取る、
王弼注
第七十三章
通し番号 393 章内番号 1 識別番号 73_1
本文
1勇於敢則殺、
敢えてするに勇なれば則ち殺す、
王弼注
1必不得其死也、
必ず其死を得ざるなり、
通し番号 394 章内番号 2 識別番号 73_2
本文
1勇於不敢則活、
敢えてせざるに勇なれば則ち活(い)かす、
王弼注
1必齊命也、
必ず命を斉(ととの)うなり、
通し番号 395 章内番号 3 識別番号 73_3
本文
1此兩者、2或利或害、
此両者は、或いは利なり、或いは害なり
王弼注
1俱勇而所施者異、2利害不同、3故曰、4或利或害也、
俱(とも)に勇にして施す所は異なる、利害は同じからず、故に或いは利なり、或いは害なりと曰うなり、
通し番号 396 章内番号 4 識別番号 73_4
本文
1天之所惡、2孰知其故、3是以聖人猶難之、
天の悪(にく)む所、孰(たれ)か其故(ゆえ)を知らん、是を以て聖人猶之を難しとす、
王弼注
1孰、2誰也、3言誰能知天之所惡意故邪、4其唯聖人、5夫聖人之明、6猶難於勇敢、7況無聖人之明而欲行之也、8故曰、9猶難之也、
孰(じゅく)は、誰(すい)なり、言えらく、誰か能く天の悪む所の意故を知らんや、其れ唯聖人なり、夫れ聖人の明にして、猶敢えてするに勇なるを難しとす、況んや聖人の明無くして之を行わんと欲するをや、故に猶之を難しとすと曰うなり、
通し番号 397 章内番号 5 識別番号 73_5
本文
1天之道、2不爭而善勝、
天の道は、争わずして善く勝つ、
王弼注
1天唯不爭、2故天下莫能與之爭、
天は唯争わず、故に天下能く之と争うこと莫し、
通し番号 398 章内番号 6 識別番号 73_6
本文
1不言而善應、
言わずして善く応ず、
王弼注
1順則吉、2逆則凶、3不言而善應也、
順(したが)えば則ち吉なり、逆(さか)らえば則ち凶なり、言わずして善く応ずるなり、
通し番号 399 章内番号 7 識別番号 73_7
本文
1不召而自來、
召(まね)かずして自ずから来る、
王弼注
1處下則物自歸、
下に処(お)れば則ち物は自ずから帰する、
通し番号 400 章内番号 8 識別番号 73_8
本文
1繟然而善謀、
繟然(せんぜん)として善く謀る、
王弼注
1垂象而見吉凶、2先事而設誠、3安而不忘危、4未召而謀之、5故曰、6繟然而善謀也、
象を垂(た)れて吉凶を見る、事に先んじて誠を設(もう)く、安にして危を忘れず、未だ召(まね)かずして之を謀る、故に繟然(せんぜん)として善く謀ると曰うなり、
通し番号 401 章内番号 9 識別番号 73_9
本文
1天網恢恢、2疏而不失、
天網恢恢(かいかい)、疏にして失わず、
王弼注
第七十四章
通し番号 402 章内番号 1 識別番号 74_1
本文
1民不畏死、2奈何以死懼之、3若使民常畏死、4而為奇者、5吾得執而殺之、6孰敢、
民死を畏れざれば、奈何(いかん)ぞ死以て之を懼(おど)す、若し民をして常に死を畏(おそ)れしめば、奇を為す者は、吾が執(とら)えて之を殺すことを得る、孰か敢えてせん、
王弼注
1詭異亂群謂之奇也、
詭異(きい)にして群を乱す、之を奇と謂うなり、
通し番号 403 章内番号 2 識別番号 74_2
本文
1常有司殺者殺、2夫代司殺者殺、3是謂代大匠斲、4夫代大匠斲者、5希有不傷其手矣、
常に殺を司(つかさど)る者有りて殺す、夫れ殺を司(つかさど)る者に代りて殺す、是れ大匠(たいしょう)に代りて斲(けず)ると謂う、夫れ大匠に代り斲(けず)る者は、其手を傷つけざる有ること希(まれ)なり、
王弼注
1為逆順者之所惡忿也、2不仁者人之所疾也、3故曰、4常有司殺也、
逆を為すは、順なる者の悪(にく)み忿(いか)る所なり、不仁者は人の疾(にく)む所なり、故に常に殺を司(つかさど)ること有りと曰うなり、
第七十五章
通し番号 404 章内番号 1 識別番号 75_1
本文
1民之饑、2以其上食稅之多、3是以饑、4民之難治、5以其上之有為、6是以難治、7民之輕死、8以其求生之厚、9是以輕死、10夫唯無以生為者、11是賢於貴生、
民の饑(う)えるは、其上の税を食べるの多きを以てなり、是を以て饑える、民の治め難きは、其上の為すこと有るを以てなり、是を以て治め難し、民の死を軽んじるは、其生を求めるの厚きを以てなり、是を以て死を軽んず、夫れ唯生以て為すこと無き者は、是れ生を貴(たっと)ぶより賢(まさ)る、
王弼注
1言民之所以僻、2治之所以亂、3皆由上不由其下也、4民從上也、
言えらく、民の以て僻(よこしま)なる所、治の以て乱れる所は、皆上に由(よ)り其下に由らざるなり、民は上に従うなり、
第七十六章
通し番号 405 章内番号 1 識別番号 76_1
本文
1人之生也柔弱、2其死也堅強、3萬物草木之生也柔脆、4其死也枯槁、5故堅強者死之徒、6柔弱者生之徒、7是以兵強則不勝、
人の生まれるや柔弱なり、其死するや堅強なり、万物草木の生じるや柔脆(ぜい)なり、其死するや枯槁(ここう)なり、故に堅強なる者は死の徒、柔弱なる者は生の徒なり、是を以て兵強ければ則ち勝たず、
王弼注
1強兵以暴於天下者、2物之所惡也、3故必不得勝、
兵を強くして以て天下を暴(そこな)うは、物の悪(にく)む所なり、故に必ず勝つことを得ず、
通し番号 406 章内番号 2 識別番号 76_2
本文
1木強則共、
木強ければ則ち共す、
王弼注
1物所加也、
物が加える所なり、
通し番号 407 章内番号 3 識別番号 76_3
本文
1強大處下、
強大は下に処(お)る、
王弼注
1木之本也、
木の本なり、
通し番号 408 章内番号 4 識別番号 76_4
本文
1柔弱處上、
柔弱は上に処(お)る、
王弼注
1枝條是也、
枝條(しじょう)是れなり、
第七十七章
通し番号 409 章内番号 1 識別番号 77_1
本文
1天之道、2其猶張弓與、3高者抑之、4下者舉之、5有餘者損之、6不足者補之、7天之道、8損有餘而補不足、9人之道則不然、
天の道は、其れ猶弓を張るがごときか、高きものは之を抑え、下(ひき)きものは之を挙ぐ、余り有るものは之を損し、足らざるものは之を補う、天の道は、余り有るを損して足らざるを補う、人の道は則ち然らず、
王弼注
1與天地合德、2乃能包之、3如天之道、4如人之量、5則各有其身、6不得相均、7如惟無身無私乎、8自然然後乃能與天地合德、
天地と徳を合せば、乃ち能く之を包み、天の道の如し、人の量の如きは、則ち各(おのおの)其身を有(たも)ち、相均(ひと)しくするを得ず、惟身無く私無きに如(し)く乎(や)、自ずから然るなり、然る後に乃ち能く天地と徳を合す、
通し番号 410 章内番号 2 識別番号 77_2
本文
1損不足以奉有餘、2孰能有餘以奉天下、3唯有道者、4是以聖人為而不恃、5功成而不處、6其不欲見賢、
足らざるを損(へ)らし以て余り有るに奉(たてまつ)る、孰か能く余り有りて以て天下に奉(たてまつ)る、唯道を有(たも)つ者のみ、是を以て聖人は為して恃(たの)まず、功成りて処(お)らず、其賢を見(あら)わすことを欲せず、
王弼注
1言唯能處盈而全虛、2損有以補無、3和光同塵、4蕩而均者、5唯其道也、6是以聖人不欲示其賢以均天下、
言えらく、唯能く盈(えい)に処(お)りて虚を全くし、有を損(へ)らして以て無を補い、光を和して塵を同じくし、蕩(とう)として均(ひと)しきは、唯其れ道なり、是を以て聖人は其賢を示すを欲さずして以て天下を均(ひと)しくす、
第七十八章
通し番号 411 章内番号 1 識別番号 78_1
本文
1天下莫柔弱於水、2而攻堅強者莫之能勝、3以其無以易之、
天下に水より柔弱なるは莫し、堅強を攻むるは之に能く勝(まさ)ること莫し、其の以て之を易(か)えること無きを以てなり、
王弼注
1以、2用也、3其謂水也、4言用水之柔弱無物可以易之也、
以は、用なり、其は水を謂うなり、言えらく水の柔弱を用いるは、物は以て之に易わるべきこと無きなり、
通し番号 412 章内番号 2 識別番号 78_2
本文
1弱之勝強、2柔之勝剛、3天下莫不知莫能行、4是以聖人云、5受國之垢、6是謂社稷主、7受國不祥、8是為天下王、9正言若反、
弱の強に勝ち、柔の剛に勝つは、天下知らざる莫くして能く行うこと莫し、是を以て聖人云う、国の垢(あか)を受く、是れ社稷(しょく)の主と謂う、国の不祥を受く、是れ天下の王と為す、正言は反するが若し、
王弼注
第七十九章
通し番号 413 章内番号 1 識別番号 79_1
本文
1和大怨、2必有餘怨、
大怨を和するも、必ず余怨有り、
王弼注
1不明理其契、2以致大怨、3已至而德和之、4其傷不復、5故有餘怨也、
其契を明らかに理(おさ)めず、以て大怨を致す、已に至りて徳之を和しても、其傷は復さず、故に余怨有るなり、
通し番号 414 章内番号 2 識別番号 79_2
本文
1安可以為善、2是以聖人執左契、
安んぞ以て善と為すべし、是を以て聖人は左契を執(と)りて、
王弼注
1左契防怨之所由生也、
左契は怨の由りて生じる所を防ぐなり、
通し番号 415 章内番号 3 識別番号 79_3
本文
1而不責於人、2有德司契、
人を責めず、徳有るは契を司(つかさど)る、
王弼注
1有德之人念思其契、2不令怨生而後責於人也、
徳有るの人は其契を念思する、怨みを生ぜしめて後に人を責めざるなり、
通し番号 416 章内番号 4 識別番号 79_4
本文
1無德司徹、
徳無きは徹(は)ぐを司(つかさど)る、
王弼注
1徹、2司人之過也、
徹は、人の過(あやまち)を司(つかさど)るなり、
通し番号 417 章内番号 5 識別番号 79_5
本文
1天道無親、2常與善人、
天道は親(あい)無きも、常に善人に与(くみ)す、
王弼注
第八十章
通し番号 418 章内番号 1 識別番号 80_1
本文
1小國寡民、
小国寡民、
王弼注
1國既小、2民又寡、3尚可使反古、4況國大民眾乎、5故舉小國而言也、
国既に小さく、民又寡(すくな)し、尚(なお)古に反(かえ)らしむべし、況んや国大にして民衆(おお)きをや、故に小国を挙げて言うなり、
通し番号 419 章内番号 2 識別番号 80_2
本文
1使有什伯之器而不用、
什伯(じゅうはく)の器有りて用いざらしむ、
王弼注
1言使民雖有什伯之器而無所用、2何患不足也、
言えらく、民をして什伯(じゅうはく)の器有ると雖も用いる所無からしめば、何ぞ足らざるを患(うれ)えん、
通し番号 420 章内番号 3 識別番号 80_3
本文
1使民重死而不遠徙、
民をして死を重んじて遠くへ徙(うつ)らざらしむ、
王弼注
1使民不用、2惟身是寶、3不貪貨賂、4故各安其居、5重死而不遠徙也、
民をして用いざらしめば、惟身是れ宝として、貨賂(ろ)を貪らず、故に各(おのおの)其居に安んじ、死を重んじて遠くへ徙(うつ)らざるなり、
通し番号 421 章内番号 4 識別番号 80_4
本文
1雖有舟輿、2無所乘之、3雖有甲兵、4無所陳之、5使人復結繩而用之、6甘其食、7美其服、8安其居、9樂其俗、10鄰國相望、11雞犬之聲相聞、12民至老死、13不相往來、
舟(しゅう)輿(よ)有ると雖も、之に乗る所無し、甲兵有ると雖も、之を陳する所無し、人をして復(また)縄を結びて之を用い、其食を甘(うま)しとし、其服を美(よ)しとし、其居に安んじ、其俗を楽しましむ、鄰国相望み、雞犬の声相聞きて、民は老死に至るまで、相往来せず、
王弼注
1無所欲求、
欲求する所無し、
第八十一章
通し番号 422 章内番号 1 識別番号 81_1
本文
1信言不美、
信言は美ならず、
王弼注
1實在質也、
実は質に在るなり、
通し番号 423 章内番号 2 識別番号 81_2
本文
1美言不信、
美言は信ならず、
王弼注
1本在樸也、
本は樸に在るなり、
通し番号 424 章内番号 3 識別番号 81_3
本文
1善者不辯、2辯者不善、3知者不博、
善なるは弁ずるにあらず、弁ずるは善にあらず、知るは博(ひろ)きにあらず、
王弼注
1極在一也、
極は一に在るなり、
通し番号 425 章内番号 4 識別番号 81_4
本文
1博者不知、2聖人不積、
博(ひろ)きは知ることにあらず、聖人は積まず、
王弼注
1無私自有、2唯善是與、3任物而已、
私無く自ずから有す、唯善是れ与(くみ)す、物に任ずるのみ、
通し番号 426 章内番号 5 識別番号 81_5
本文
1既以為人己愈有、
既(つく)して以て人の為にし己愈(いよいよ)有(たも)つ、
王弼注
1物所尊也、
物が尊(たっと)ぶ所なり、
通し番号 427 章内番号 6 識別番号 81_6
本文
1既以與人己愈多、
既(つく)して以て人に与え、己愈(いよいよ)多し、
王弼注
1物所歸也、
物が帰する所なり、
通し番号 428 章内番号 7 識別番号 81_7
本文
1天之道、2利而不害、
天の道は、利して害さず、
王弼注
1動常生成之也、
動きて常に之を生成するなり、
通し番号 429 章内番号 8 識別番号 81_8
本文
1聖人之道、2為而不爭、
聖人の道は、為して争わず、
王弼注
1順天之利不相傷也、
天の利に順(したが)い相傷つけざるなり、