1 梁惠王章句上 liáng huì wáng zhāng jù shàng

章番号 1 章通し番号 1

通し番号 1 章内番号 1 章通し番号 1 識別番号 1_1_1
本文
孟子梁の恵王に見(まみ)ゆ、
朱注
梁の恵王は魏侯(ぎこう)罃(おう)なり、大梁に都す、僣(せん)して王と称す、諡(おくりな)は恵と曰う、史記、恵王三十五年、卑礼厚幣し以て賢者を招く、而して孟軻梁に至る、

通し番号 2 章内番号 2 章通し番号 1 識別番号 1_1_2
本文
王曰く、叟(そう)千里を遠しとせず来る、亦将(まさ)に以て吾国を利すること有らんとするか、
朱注
叟(そう)は長老の称なり、王謂う所の利は、蓋し富国彊(きょう)兵の類なり、

通し番号 3 章内番号 3 章通し番号 1 識別番号 1_1_3
本文
孟子対(こた)えて曰く、王何ぞ必ず利を曰う、亦(ただ)仁義有るのみ、
朱注
仁は心の徳、愛の理なり、義は心の制、事の宜なり、此の二句、乃ち一章の大指なり、下文乃ち之を詳言す、後多く此に放(なら)う、

通し番号 4 章内番号 4 章通し番号 1 識別番号 1_1_4
本文
王曰く何を以て吾国を利せん、大夫曰く何を以て吾家を利せん、士庶人曰く何を以て吾身を利せん、上下交(こもごも)利を征(と)りて国危うし、万乗の国、其君を弑(しい)するは、必ず千乗の家なり、千乗の国、其君を弑(しい)するは、必ず百乗の家なり、万に千を取る、千に百を取る、多からずと爲さず、苟(もし)義を後にし利を先にすることを爲せば、奪わずんば饜(た)らず、
朱注
乗、去声、饜(えん)、於豔反、○此は、利を求めるの害を言う、以て上文何ぞ必ず利を曰うの意を明らかにするなり、征は、取なり、上、下に取り、下、上に取る、故に交(こもごも)征(と)ると曰う、国危うしは、将に弑奪の禍有らんとするを謂う、乗、車の数なり、万乗の国は、天子の畿内、地方千里、車万乗を出す、千乗の家は、天子の公卿、采地(さいち)方百里、車千乗を出すなり、千乗の国は諸侯の国なり、百乘の家は諸侯の大夫なり、弑(し)は下が上を殺すなり、饜(えん)は足なり、言えらく、臣の君に於(おけ)る、十分每に其一分を取る、亦已に多し、若し又義以て後と爲して、利以て先と爲せば、則ち其君を弑し尽(ことごと)く之を奪わずんば、其心未だ以て足ると爲すを肯ぜず、

通し番号 5 章内番号 5 章通し番号 1 識別番号 1_1_5
本文
未だ仁にして其親を遺(す)てる者有らざるなり、未だ義にして其君を後にする者有らざるなり、
朱注
此、仁義未だ嘗て利ならざるなしを言う、以て上文亦(ただ)仁義有るのみの意を明らかにするなり、遺、猶棄のごときなり、後、急ならざるなり、仁者必ず其親を愛し、義者必ず其君を急にするを言う、故に人君躬(みずか)ら仁義を行い利を求めるの心無ければ、則ち其下之に化し、自(おの)ずから己に親しみ戴(いただ)くなり、

通し番号 6 章内番号 6 章通し番号 1 識別番号 1_1_6
本文
王亦(ただ)仁義を曰うのみ、何ず必ず利を曰わん、
朱注
重ねて之を言う、以て上文両節の意を結ぶ、○此章言えらく、仁義は人心の固(もと)より有するに根づき、天理の公なり、利心は物我の相(あい)形するに生じ、人欲の私なり、天理に循(したが)えば、則ち利を求めずして自(おの)ずから利ならざる無し、人欲に徇(したが)えば、則ち利を求めて未だ得ずして害已に之に随(したが)う、謂う所の毫釐(ごうり)の差は、千里の繆(びゅう)なり、此は孟子の書、以て端を造(な)し始を託する所の深意なり、学ぶ者宜く精察し明弁すべき所なり、○太史公曰く、余孟子の書を読みて、梁恵王何を以て吾国を利せんとすと問うに至りて、未だ嘗て書を廃(お)き歎ぜずんばあらざるなり、曰く、嗟乎(ああ)、利は誠に乱の始めなり、夫子罕(まれ)に利を言い、常に其源を防ぐなり、故曰く、利に放(よ)りて行えば怨みを多くす、天子自(よ)り以て庶人に至る、利を好むの弊、何ぞ以て異ならんや、程子曰く、君子未だ嘗て利を欲せざるにあらず、但し専ら利以て心と爲せば、則ち害有り、惟仁義なれば則ち利を求めずして、未だ嘗て利ならざるなきなり、是の時に当たり、天下の人惟(ただ)利是れ求めて、復(また)仁義有るを知らず、故に孟子仁義を言いて利を言わず、以て本を拔き源を塞(ふさ)ぎ其弊を救う所なり、此聖賢の心なり、


章番号 2 章通し番号 2

通し番号 7 章内番号 1 章通し番号 2 識別番号 1_2_1
本文
孟子は梁の恵王に見(まみ)ゆ、王は沼の上(ほとり)に立つ、鴻(こう)鴈(がん)麋(び)鹿(ろく)を顧みて曰く、賢者亦此を楽しむか、
朱注
楽、音洛、篇内同じ、○沼、池なり、鴻(こう)は、鴈(がん)の大なるもの、麋(び)は、鹿の大なるものなり、

通し番号 8 章内番号 2 章通し番号 2 識別番号 1_2_2
本文
孟子対(こた)えて曰く、賢者にして後此を楽しむ、不賢者は此有りと雖も楽しまざるなり、
朱注
此は一章の大指なり、

通し番号 9 章内番号 3 章通し番号 2 識別番号 1_2_3
本文
詩に云う、霊台を経(はか)り始む、之を経(はか)り、之を営す、庶民之を攻(おさ)む、日ならずして之を成す、経(はか)り始むは亟(すみや)かにすること勿(な)けれど、庶民子として来る、王が霊囿(ゆう)に在(お)れば、麀(ゆう)鹿(ろく)の伏(ふ)す攸(ところ)、麀鹿(ゆうろく)は濯濯(たくたく)、白鳥は鶴鶴(かくかく)たり、王が霊沼に在(お)れば、於(ああ)牣(み)ちて魚躍(おど)る、文王民の力を以て台を爲(つく)り沼を爲りて、民之を歓楽す、其台を謂いて霊台と曰い、其沼を謂いて霊沼と曰う、其麋鹿(びろく)魚鼈(べつ)有るを楽しむ、古の人は民と偕(とも)に楽しむ、故に能く楽しむなり、
朱注
亟、音は棘、麀、音は憂、鶴、詩は翯なり、戸角反、於、音は烏、牣、音は刀、○此は、詩を引きて之を釈し、以て賢者にして後此を楽しむの意を明らかにす、詩は、大雅霊台の篇なり、経、量度なり、霊台、文王の台の名なり、営、謀り爲(つく)るなり、攻、治むなり、日ならずは、日を終えざるなり、亟、速なり、言えらく、文王戒めるに亟(すみやか)にすること勿きを以てするなり、子来、子来たりて父事に趨るが如きなり、霊囿、霊沼は、台下に囿(ゆう)有り、囿中に沼有るなり、麀(ゆう)、牝(めす)鹿なり、伏、其所に安じ、驚動せざるなり、濯濯、肥沢の貌なり、鶴鶴、潔白の貌なり、於、歎美の辞なり、牣(じん)、満なり、孟子言えらく、文王民の力を用いると雖も民反(かえっ)て之を歓(よろこ)び楽しむ、既に加えるに美名を以てし、又其有する所を楽しむ、蓋し文王能く其民を愛するに由(よ)る、故に民其楽しみを楽しみて、文王亦以て其楽しみを享(う)くるを得るなり、

通し番号 10 章内番号 4 章通し番号 2 識別番号 1_2_4
本文
湯誓に曰く、時(この)日害(いつ)喪びん、予(われ)女(なんじ)及(と)偕(とも)に亡びん、民之と偕(とも)に亡びんと欲す、台池鳥獸有ると雖も、豈に能く独り楽しまんや、
朱注
害、音は曷、喪、去声、女、音は汝、○此、書を引きて之を釈し、以て不賢者は此有りと雖も楽しまざる意を明らかにするなり、湯誓は、商書の篇名なり、時、是なり、日、夏の桀を指す、害、何なり、桀嘗て自(みずか)ら言えらく、吾天下を有(たも)つ、天の日を有つが如し、日亡べば吾乃ち亡ぶのみ、民其虐を怨む、故に其自ら言うことに因りて之を目(み)て曰く、此日何(いずれ)の時に亡ぶか、若し亡べば則ち我寧(むしろ)之と倶に亡びん、蓋し其亡を欲するの甚しきなり、孟子此を引き、以て君独り楽しみて其民を恤(やす)んぜざれば、則ち民之を怨みて其楽しみを保つこと能わざるを明らかにするなり、


章番号 3 章通し番号 3

通し番号 11 章内番号 1 章通し番号 3 識別番号 1_3_1
本文
梁の恵王曰く、寡人の国に於るや、心を尽くすのみ、河内凶なれば、則ち其民を河東に移し、其粟(ぞく)を河内に移す、河東凶なれば亦然り、鄰国の政を察するに、寡人の心を用いるが如きは無し、鄰国の民少なきを加えず、寡人の民多きを加えず、何ぞや、
朱注
寡人、諸侯の自称、寡徳の人を言うなり、河内、河東皆魏の地、凶、歳熟さざるなり、民を移し以て食に就(つ)け、粟を移し以て其老稚(ち)の移ること能わざる者に給す、

通し番号 12 章内番号 2 章通し番号 3 識別番号 1_3_2
本文
孟子対えて曰く、王戦いを好む、請う、戦いを以て喩(たと)えん、塡然(てんぜん)として之に鼓し、兵刃(へいじん)既に接す、甲を棄て兵を曳(ひ)きて走(にげ)る、或いは百歩にして後止(とど)まり、或いは五十歩にして後止まる、五十歩を以て百歩を笑えば、則ち何如(いかん)、曰く、不可なり、直(ただ)に百歩ならざるのみ、是れ亦走(にげ)るなり、曰く、王如(も)し此を知れば、則ち民の鄰国より多きを望むこと無かれ、
朱注
好、去声、塡、音は田、○塡(てん)、鼓の音なり、兵は鼓以て進み、金(かね)以て退く、直、猶但のごときなり、此を言い以て、鄰国其民を恤(やす)んぜず、恵王能く小恵を行う、然れども皆王道を行い以て其民を養うこと能わず、此を以て彼を笑うべからざるに譬(たと)えるなり、楊氏曰く、民を移し粟を移すは、荒政の廃せざる所なり、然れども先王の道を行う能わずして、徒(ただ)に是を以て心を尽すを爲す、則ち末なり、

通し番号 13 章内番号 3 章通し番号 3 識別番号 1_3_3
本文
農時に違(もと)らざれば、穀勝(あ)げて食うべからざるなり、数罟(さくこ)洿(お)池に入らざれば、魚鼈(ぎょべつ)勝げて食うべからざるなり、斧斤(ふきん)時以て山林に入る、材木勝げて用うべからざるなり、穀と魚鼈勝げて食すべからず、材木勝げて用うべからず、是れ民をして生を養い死に喪(も)して憾(うら)み無からしむなり、生を養い死に喪して憾み無し、王道の始なり、
朱注
勝、音は升、数、音は促、罟、音は古、洿、音は烏、○農時は、春に耕し夏に耘(くさぎ)り秋に収(と)るの時を謂う、凡そ興作有るに、此時に違(もと)らず、冬に至れば乃ち之を役するなり、勝(あ)げて食すべからずは、多きを言うなり、数、密なり、罟(こ)、網なり、洿(こ)、窊下(わか)の地、水聚(あつ)まる所なり、古は網罟必ず四寸の目を用う、魚尺に満たざれば、市(いち)に粥(う)ることを得ず、人は食することを得ず、山林川沢、民と之を共にす、而(しか)るに厲禁(れいきん)有り、草木零落し然る後に斧斤入る、此は皆治を爲すの初めなり、法制未だ備わざらずに、且(まさ)に天地自然の利に因りて、撙(そん)節愛養の事とするなり、然(しこう)して飮食宮室は以て生を養う所なり、祭祀棺槨は以て死を送る所なり、皆民急とする所にして無かるべからざるものなり、今皆以て之を資(と)ること有り、則ち人恨む所無し、王道は民心を得るを以て本と爲す、故に此を以て王道の始と爲す、

通し番号 14 章内番号 4 章通し番号 3 識別番号 1_3_4
本文
五畝(ほ)の宅、之に樹(う)えるに桑を以てす、五十は以て帛(きぬ)を衣るべし、雞(けい)豚(とん)狗(こう)彘(てい)の畜は、其時を失なうこと無ければ、七十の者以て肉を食すべし、百畝の田、其時を奪うこと勿(な)ければ、数口の家以て飢えること無かるべし、庠序(しょうじょ)の教えを謹んで、之に申(かさ)ねるに孝悌の義を以てすれば、頒白(はんぱく)の者道路に負戴(たい)せず、七十の者帛を衣(き)て肉を食し、黎(れい)民飢えず寒からず、然り而して王たらざる者、未だ之有らざるなり、
朱注
衣、去声、畜、許六反、数、去声、王、去声、凡そ天下を有つ者、人之を称して王と曰うは、則ち平声なり、其身天下に臨むに拠(よ)りて言い王と曰うは、則ち去声なり、後皆此に放(なら)う、○五畝の宅、一夫受ける所、二畝半田に在り、二畝半邑(ゆう)に在り、田の中木有るを得ず、五穀を妨げるを恐れる、故に牆下に桑を植えて以て蚕(さん)の事に供す、五十始めて衰う、帛(きぬ)に非ざれば煖(あたた)かからず、未だ五十ならざる者は衣(き)るを得ざるなり、畜、養なり、時は、子を孕(はら)むの時を謂う、孟春に犧牲は牝(めす)を用いること毋(なか)れの類の如きなり、七十は肉に非ざれば飽かず、未だ七十ならざる者食するを得ざるなり、百畝の田、亦(ただ)一夫受ける所なり、此に至れば則ち経界正しく、井地均(ひと)しく、田を受けざるの家無し、庠序、皆学の名なり、申、重なり、丁寧反覆の意なり、善く父母に事えるを孝と爲す、善く兄長に事えるを悌と爲す、頒、斑と同じ、老人の頭が白黒を半(なか)ばする者なり、負は、任(にな)うのが背に在る、戴は、任(にな)うのが首に在る、夫(それ)民衣食足らざれば、則ち礼義を治める暇なく、飽煖教え無ければ、則ち又禽獣に近し、故に既に富みて教えるに孝悌を以てすれば、則ち人は親を愛し長を敬するを知りて其労に代わり、之をして道路に負戴せしめず、帛を衣(き)、肉を食すは、但(ただ)七十を言う、重きを挙げ以て軽きを見るなり、黎、黒なり、黎民は、黒髮の人なり、猶秦に黔首(けんしゅ)と言うがごときなり、少壮の人、帛(きぬ)を衣、肉を食するを得ずと雖も、然れども亦飢寒に至らざるなり、此は法制品節の詳を尽し、財成輔相の道を極め、以て民を左右するを言う、是(こ)れ王道之成すなり、

通し番号 15 章内番号 5 章通し番号 3 識別番号 1_3_5
本文
狗彘(こうてい)人の食を食して検することを知らず、塗(みち)に餓莩(ひょう)有りて発することを知らず、人死ねば、則ち曰く、我に非ざるなり、歳なり、是れ何ぞ人を刺して之を殺して、我に非ざるなり、兵なりと曰うに異ならんや、王歳を罪とすること無ければ、斯(すなわ)ち天下の民至る、
朱注
莩、平表反、刺、七亦反、○検、制なり、莩、餓死の人なり、発、倉廩を発して以て賑貸(しんだい)するなり、歳、歳の豊凶を謂うなり、恵王民の産を制すること能わず、又狗彘(こうてい)をして以て人の食を食べるを得せしむ、則ち先王の制度、品節の意と異なる、民飢えて死ぬに至りて、猶(なお)発するを知らず、則ち其移す所、特(ただ)に民間の粟のみ、乃ち以て民多きを加えず、罪を歳凶に帰す、是れ刃(やいば)の人を殺すを知りて、刃を操(あやつ)る者の人を殺すを知らざるなり、歳を罪とせざれば、則ち必ず能く自ら反りて益(ますます)其政を脩め、天下の民至る、則ち但(ただ)鄰国より多きのみならず、○程子曰く、孟子の王道を論ずる、此(この)如きに過ぎずして、実と謂うべし、又曰く、孔子の時、周室微と雖も、天下猶(なお)周を尊ぶの義と爲すを知る、故に春秋周を尊ぶを以て本と爲す、孟子の時に至りて、七国雄を争う、天下復(また)周有るを知らずして、生民の塗炭已に極まる、是時に当たり、諸侯能く王道を行えば、則ち以て王たるべし、此は孟子が斉梁の君に勧める所以なり、蓋し王は、天下の義主なり、聖賢亦何の心哉(や)、天命の改と未改を視るのみ、


章番号 4 章通し番号 4

通し番号 16 章内番号 1 章通し番号 4 識別番号 1_4_1
本文
梁の恵王曰く、寡人願わくば安んじて教えを承(う)けん、
朱注
上章を承けて言えらく、願わくば意を安んじて以て教えを受けん、

通し番号 17 章内番号 2 章通し番号 4 識別番号 1_4_2
本文
孟子対えて曰く、人を殺すに梃(つえ)と刃(やいば)を以てするは、以て異なること有るか、曰く、以て異なること無きなり、
朱注
梃、徒頂反、○梃、杖なり、

通し番号 18 章内番号 3 章通し番号 4 識別番号 1_4_3
本文
刃(やいば)と政を以てするは、以て異なること有るか、曰く、以て異なること無きなり、
朱注
孟子又問い、王答えるなり、

通し番号 19 章内番号 4 章通し番号 4 識別番号 1_4_4
本文
曰く、庖(ほう)に肥肉有り、廏(きゅう)に肥馬有り、民に飢色有り、野に餓莩(ひょう)有り、此は獣を率いて人を食べるなり、
朱注
民に厚く斂(れん)し以て禽獣を養い、民をして飢え以て死なしむ、則ち獣を駆りて以て人を食べるに異なること無し、

通し番号 20 章内番号 5 章通し番号 4 識別番号 1_4_5
本文
獣相(あい)食べる、且(なお)人之を悪(い)む、民の父母と爲(な)りて政を行う、獣を率いて人を食べるを免れず、悪(いず)くにか其民の父母と爲ること在らんや、
朱注
悪之の悪、去声、悪在の悪、平声、○君は民の父母なり、悪在、猶何在と言うがごときなり、

通し番号 21 章内番号 6 章通し番号 4 識別番号 1_4_6
本文
仲尼曰く、始めて俑(よう)を作る者は其(それ)後(あと)無きか、其人に象(かたど)りて之を用いる爲なり、之を如何(いかん)ぞ其(そ)れ斯(こ)の民をして飢えて死なしむ、
朱注
俑、音は勇、爲、去声、○俑(よう)、葬に従う木の偶人なり、古の葬は草を束(つか)ね人と爲し以て従衛と爲す、之を芻霊(すうれい)と謂う、略(ほぼ)人の形に似るのみ、中古之に易(か)えるに俑(よう)を以てす、則ち面目機発有りて、太(はなは)だ人に似る、故に孔子其不仁を悪みて、其れ必ず後無きと言うなり、孟子言えらく、此(この)俑を作る者は但(ただ)人に象(かたど)るを用い以て葬(ほうむ)る、孔子猶(なお)之を悪む、況んや実に民をして飢えて死なしむをや、○李氏曰く、人君爲(た)る者は、固より未だ嘗て獣を率い人を食べるの心有らず、然れども一己の欲に徇(したが)いて、其民を恤(やす)んぜざれば、則ち其流れ必ず此に至る、故に民の父母と爲るを以て之に告ぐ、夫(それ)父母の子に於(お)ける、之が爲に利に就き害を避く、未だ嘗て頃刻(けいこく)にして懐を忘れず、何ぞ之を視ること犬馬に如(し)かざるに至らんや、


章番号 5 章通し番号 5

通し番号 22 章内番号 1 章通し番号 5 識別番号 1_5_1
本文
梁の恵王曰く、晋国は天下焉(これ)より強きは莫(な)し、叟(そう)の知る所なり、寡人の身に及んで、東、斉に敗られ、長子死す、西、地を秦に喪(うしな)うこと七百里、南、楚に辱(はずか)しめらる、寡人之を恥ず、願わくば死者の比(ため)に一たび之を洒(そそ)がん、之を如何(いかん)せば則ち可、
朱注
長、上声、喪、去声、比、必二反、洒は洗と同じ、○魏は本(もと)晋の大夫魏斯が、韓氏、趙氏と共に晋の地を分く、号して三晋と曰う、故に恵王猶(なお)自ら晋国と謂う、恵王三十年、斉魏を擊つ、其軍を破り、太子申を虜(とりこ)にす、十七年、秦、魏の少梁を取る、後魏又数(しばしば)地を秦に献ずる、又楚の将、昭陽と戦い敗れる、其七邑を亡(うし)なう、比、猶(なお)爲のごときなり、死者の爲に其恥を雪(そそ)がんと欲するを言うなり、

通し番号 23 章内番号 2 章通し番号 5 識別番号 1_5_2
本文
孟子対えて曰く、地、方百里にして以て王となるべし
朱注
百里、小国なり、然れども能く仁政を行えば、則ち天下の民之に帰す、

通し番号 24 章内番号 3 章通し番号 5 識別番号 1_5_3
本文
王如(も)し民に仁政を施し、刑罰を省(はぶ)き、税斂(れん)を薄(かる)くし、深く耕やし、易に耨(くさぎ)り、壮者暇日を以て其孝悌忠信を脩め、入れば以て其父兄に事(つか)え、出れば以て其長上に事えれば、梃(つえ)を制して以て秦楚の堅甲利兵を撻(う)たしむべし、
朱注
省、所梗反、斂、易、皆去声、耨(どう)、奴豆反、長、上声、○刑罰を省く、稅斂(れん)を薄くする、此二は仁政の大目なり、易、治なり、耨、耘なり、己を尽す之忠と謂う、実以てする之信と謂う、君仁政を行えば、則ち民力を農畝(のうほ)に尽すを得る、又暇日有りて以て礼義を脩む、是れ以て君を尊び上に親しみて、死を效(いた)すを楽しむなり、

通し番号 25 章内番号 4 章通し番号 5 識別番号 1_5_4
本文
彼は其民の時を奪い、耕し耨(くさぎ)り以て其父母を養うを得ざらしむ、父母凍餓し、兄弟妻子離散す、
朱注
養、去声、○彼、敵国を謂うなり、

通し番号 26 章内番号 5 章通し番号 5 識別番号 1_5_5
本文
彼其民を陥溺す、王往きて之を征すれば、夫(それ)誰か王に敵せん、
朱注
夫、音は扶、○陷、阱(あな)に陷れる、溺、水に溺(おぼ)れる、暴虐の意なり、征、正なり、彼は其民を暴虐するを以てす、而して吾の君を尊び上を親(あい)する民を率い、往きて其罪を正す、彼民方(まさ)に其上を怨みて、我に帰するを楽(ねが)わんとす、則ち誰か我と敵と爲らんや、

通し番号 27 章内番号 6 章通し番号 5 識別番号 1_5_6
本文
故に曰く、仁者は敵無し、王に請う疑うこと勿れ、
朱注
仁者は敵無し、蓋し古語なり、百里で王たるべしは、此を以てのみ、恐らくは王其迂闊(うかつ)を疑う、故に勉(つと)めて疑うこと勿からしむなり、○孔氏曰く、恵王の志、怨に報いるに在り、孟子の論、民を救うに在り、謂う所の惟(ただ)天吏則ち以て之を伐つべし、蓋し孟子の本意なり、


章番号 6 章通し番号 6

通し番号 28 章内番号 1 章通し番号 6 識別番号 1_6_1
本文
孟子梁の襄王に見(まみ)ゆ、
朱注
襄王、恵王の子、名赫(かく)、

通し番号 29 章内番号 2 章通し番号 6 識別番号 1_6_2
本文
出でて人に語りて曰く、之に望むに人君に似ず、之に就(つ)きて畏れる所を見ず、卒然として問いて曰く、天下悪(いずく)に定まらん、吾対(こた)えて曰く、一に定まらん、
朱注
語、去声、卒、七沒反、悪、平声、○語、告なり、人君に似ず、畏れる所を見ずは、其の威儀無きを言うなり、卒然、急遽(きゅうきょ)の貌なり、蓋(けだ)し容貌辞気、乃ち徳の符なり、其外此(かく)の如ければ、則ち其の中の存する所は知るべし、王問う、列国分かれて争う、天下当に何(いず)くの所に定らん、孟子対えるに、必ず一に合し、然る後定まるを以てするなり、

通し番号 30 章内番号 3 章通し番号 6 識別番号 1_6_3
本文
孰(たれ)か能く之を一にす、
朱注
王問うなり、

通し番号 31 章内番号 4 章通し番号 6 識別番号 1_6_4
本文
対えて曰く、人を殺すを嗜(たしな)まざる者、能く之を一にす、
朱注
嗜、甘なり、

通し番号 32 章内番号 5 章通し番号 6 識別番号 1_6_5
本文
孰(たれ)か能く之に与(くみ)せん、
朱注
王復(また)問うなり、与、猶帰のごときなり、

通し番号 33 章内番号 6 章通し番号 6 識別番号 1_6_6
本文
対えて曰く、天下与(くみ)せざる莫きなり、王夫(か)の苗を知るか、七八月の間(あいだ)旱すれば、則ち苗槁(かれ)る、天油然(ゆうぜん)として雲を作(おこ)し、沛然(はいぜん)として雨を下さば、則ち苗浡然(ぼつぜん)として之に興(おこ)る、其(そ)れ是(か)くの如ければ、孰か能く之を禦(とど)めん、今夫(それ)天下の人牧、未だ人を殺すを嗜まざる者有らざるなり、如(も)し人を殺すを嗜(たしな)まざる者有れば、則ち天下の民、皆領(くび)を引きて之を望まん、誠に是の如くなるや、民之に帰する、由(なお)水の下に就(つ)くがごとし、沛然(はいぜん)として、誰か能く之を禦(とど)めん、
朱注
夫、音は扶、浡、音は勃、由は当に猶に作るべし、古字は借りて用いる、後多く此に放(なら)う、○周の七八月、夏の五六月なり、油然、雲盛んの貌、沛然、雨盛んの貌、浡然、興起の貌、禦、禁止なり、人牧は、民を牧(おさ)める君を謂うなり、領、頸なり、蓋し生を好み死を悪(にく)むは、人心の同じき所なり、故に人君人を殺すを嗜まざれば、則ち天下悦(よろこ)びて之に帰す、○蘇氏曰く、孟子の言、苟(いやし)くも大と爲すに非ざるのみ、然れども其意を深く原(たず)ね、其実を詳しく究めざれば、未だ以て迂と爲さざる者有らず、予孟子以来を観るに、漢高祖より、光武に及び、唐太宗に及び、我が太祖皇帝に及ぶ、能く天下を一にするは四君なり、皆人を殺すを嗜まざるを以て之を致す、其余は人を殺すこと愈(いよいよ)多くして、天下愈(いよいよ)乱る、秦晋及び隋は、力にて能く之を合わす、而して殺すを好みて已(や)まず、故に或いは合わして復(また)分る、或いは遂に以て国を亡ぼす、孟子の言、豈に偶(たまたま)然るのみかな、


章番号 7 章通し番号 7

通し番号 34 章内番号 1 章通し番号 7 識別番号 1_7_1
本文
斉の宣王問いて曰く、斉桓、晋文の事、聞くことを得(う)べきか、
朱注
斉の宣王、姓、田氏、名、辟彊(へききょう)、諸侯王を僣称するなり、斉の桓公、晋の文公、皆諸侯に霸たる者なり、

通し番号 35 章内番号 2 章通し番号 7 識別番号 1_7_2
本文
孟子対えて曰く、仲尼の徒、桓文の事を道(い)う者無し、是を以て後世に伝うること無し、臣未だ之を聞かざるなり、以(や)む無くんば、則ち王か、
朱注
道、言なり、董子曰く、仲尼の門、五尺の童子五霸を称(い)うを羞(は)ず、其の詐力を先にし仁義を後にする爲(ため)なり、亦此の意なり、以、已、通用す、已む無きは、必ず之を言うを欲して止(や)めざるなり、王は、天下に王たるの道を謂う、

通し番号 36 章内番号 3 章通し番号 7 識別番号 1_7_3
本文
曰く、德何如(いかん)せば、則ち以て王たるべき、曰く、民を保(やす)んじて王たらば、之を能く禦(とど)むこと莫きなり、
朱注
保、愛護なり、

通し番号 37 章内番号 4 章通し番号 7 識別番号 1_7_4
本文
曰く、寡人の若き者、以て民を保(やす)んずべきか、曰く、可、曰く、何に由(よ)りて吾が可なることを知るや、曰く、臣之を胡齕(ここつ)に聞く、曰く、王堂上に坐す、牛を牽(ひ)きて堂下を過ぐる者有り、王之を見て曰く、牛何(いず)くに之(ゆ)く、対えて曰く、将に以て鐘に釁(ちぬ)らんとす、王曰く、之を舍(や)めろ、吾其の觳觫(こくそく)として、罪無くして死地に就くが若きを忍びず、対えて曰く、然らば則ち鐘に釁(ちぬ)るを廃せんか、曰く、何ぞ廃すべけんや、羊を以て之に易(か)えよ、識(し)らず、諸(これ)有りや、
朱注
齕、音は核、舍、上声、觳(こく)、音は斛、觫(そく)、音は速、与、平声、○胡齕、斉の臣なり、釁鐘、新たに鐘を鑄(い)りて成りて、牲を殺し血を取り以て其の釁隙(きんげき)に塗るなり、觳觫(こくそく)、恐懼の貌、孟子胡齕(ここつ)に聞く所の語を述べて王に問う、知らず、果たして此事有るや否や、

通し番号 38 章内番号 5 章通し番号 7 識別番号 1_7_5
本文
曰く、之有り、曰く、是の心以て王たるに足る、百姓皆王以て愛(おし)むと爲すなり、臣固より王の忍びざるを知るなり、
朱注
王牛の觳觫を見て、殺すを忍びず、即ち謂う所の惻隠の心、仁の端なり、拡(ひろ)めて之を充(み)たせば、則ち以て四海を保つべし、故に孟子指して之を言う、王此に察識して之を拡充するを欲するなり、愛、猶吝のごときなり、

通し番号 39 章内番号 6 章通し番号 7 識別番号 1_7_6
本文
王曰く、然(さ)ようか、誠に百姓なる者有り、斉国褊(へん)小と雖も、吾何ぞ一牛を愛(おし)まん、即ち其の觳觫(こくそく)として、罪無くして死地に就くが若きを忍びず、故に羊以て之に易えるなり、
朱注
言えらく、羊以て牛に易う、其迹(あと)吝(りん)に似る、実に百姓の譏(そし)る所の如きもの有り、然るに我の心は、是くの如からざるなり、

通し番号 40 章内番号 7 章通し番号 7 識別番号 1_7_7
本文
曰く、王、百姓が王以て愛(おし)むと爲すを異(あや)しむこと無かれ、小以て大に易(か)う、彼悪(いずく)んぞ之を知らんや、王若(も)し其の罪無くして死地に就くを隠(いた)まば、則ち牛羊何ぞ択ばん、王は笑いて曰く、是れ誠に何の心かな、我は其の財を愛(おし)みて、之に易えるに羊を以てするに非ざるなり、宜(むべ)なるかな、百姓の我が愛(おし)むと謂うこと、
朱注
悪、平声、○異、怪なり、隠、痛なり、択、猶分のごときなり、言えらく、牛羊皆罪無くして死す、何ぞ分別する所にして羊以て牛に易(か)える、孟子故(ことさら)此難を設(もう)け、王反求して其の本心を得るを欲す、王然ること能わず、故に卒に以て百姓の言に於(おい)て自ら解(さと)ること無きなり、

通し番号 41 章内番号 8 章通し番号 7 識別番号 1_7_8
本文
曰く、傷(そこな)うこと無し、是れ乃ち仁術なり、牛を見て未だ羊を見ざるなり、君子の禽獣に於けるや、其の生を見て、其の死を見るを忍びず、其声を聞きて、其の肉を食らうを忍びず、是を以て君子庖廚(ほうちゅう)を遠ざくなり、
朱注
遠、去声、○無傷、言えらく、百姓の言有りと雖も、害を爲さざるなり、術、法の巧みなるを謂う、蓋し牛を殺す既に忍びざる所、鐘に釁(ちぬ)る又廃すべからず、此に於いて以て之を処すること無ければ、則ち此の心発すと雖も、終に施すことを得ず、然れども牛を見れば、則ち此心已に発して遏(とめ)るべからず、未だ羊を見ざれば、則ち其の理未だ形せずして妨(さまた)げる所無し、故に羊以て牛に易えれば、則ち二は以て両(ふた)つながら全きを得て害無し、此れ以て仁を爲す所の術なり、声、将に死せんとして哀鳴するを謂うなり、蓋し人の禽獣に於けるや、生を同じくして類を異にす、故に之を用いるに礼を以てす、而して忍びざるの心、見聞の及ぶ所に於て施す、其の必ず庖廚を遠ざく所以は、亦た以て預(あらかじ)め是の心を養いて広む、仁を爲すの術なり、

通し番号 42 章内番号 9 章通し番号 7 識別番号 1_7_9
本文
王説(よろこ)びて曰く、詩に云う、他人心有り、予之を忖度(そんたく)す、夫子(ふうし)の謂(いい)なり、夫(それ)我乃ち之を行なう、反(かえり)みて之を求む、吾が心に得ず、夫子之を言う、我が心に於て戚戚有り、此の心の王に合う所以は何ぞや、
朱注
説、音は悦、忖、七本反、度、待洛反、夫我の夫、音は扶、○詩、小雅巧言の篇、戚戚、心が動くの貌、王孟子の言に因りて、前日の心復(また)萌(きざ)す、乃ち此の心外従(よ)り得ざるを知る、然れども猶(なお)未だ以て其の本に反りて之を推す所を知らざるなり、

通し番号 43 章内番号 10 章通し番号 7 識別番号 1_7_10
本文
曰く、王に復(もう)す者有りて曰く、吾が力以て百鈞(きん)を挙ぐるに足りて、以て一羽を挙ぐるに足らず、明、以て秋毫(しゅうごう)の末を察するに足りて、輿薪(よしん)を見ず、則ち王之を許すか、曰く、否(いな)、今恩以て禽獣に及ぶに足りて、功百姓に至らざるは、独(はた)何ぞや、然れば則ち一羽の挙がらざるは、力を用いざる爲なり、輿薪の見ざるは、明を用いざる爲なり、百姓の保(やす)んぜ見(ら)れざるは、恩を用いざる爲なり、故に王の王たらざるは、爲さざるなり、能わざるに非ざるなり、
朱注
与、平声、爲不の爲、去声、○復、白なり、鈞は、三十斤なり、百鈞、至りて重く挙げ難きなり、羽は、鳥の羽、一羽は、至りて軽く挙げ易きなり、秋毫の末は、毛は秋に至りて末(すえ)鋭小にして見難きなり、輿薪(よしん)、車以て薪を載(の)す、大にして見易(やす)きなり、許、猶可のごときなり、今恩以下、又孟子の言なり、蓋し天地の性、人を貴と爲す、故に人は人に与(くみ)する、又同類と爲して相(あ)い親しむ、是を以て惻隠の発するは、則ち民に於いて切、物に於いて緩なり、仁術を推広するは、則ち民に仁にするは易くて、物を愛するは難し、今王此の心能く物に及ぶ、則ち其の民を保んじて王たるは、能わざるに非ざるなり、但(ただ)自ら爲すを肯(がえん)ぜざるのみ、

通し番号 44 章内番号 11 章通し番号 7 識別番号 1_7_11
本文
曰く、爲さざると能わざるの形、何を以て異なる、曰く、太山を挾(さしはさ)み以て北海を超ゆ、人に語りて曰く、我能わず、是れ誠に能わざるなり、長者の爲に枝を折る、人に語りて曰く、我能わず、是れ爲さざるなり、能わざるに非ざるなり、故に王の王たらざるは、太山を挾(さしはさ)み以て北海を超ゆの類に非ざるなり、王の王たらざるは、是れ枝を折るの類なり、
朱注
語、去声、爲長の爲、去声、長、上声、折、之舌反、○形、状なり、挾、腋以て物を持つなり、超、躍(と)びて過ぎるなり、長者の爲に枝を折る、長者の命以て、草木の枝を折る、難からざるを言うなり、是の心固(もと)より有す、外に求めるを待たず、拡(ひろ)めて之を充(み)たすは、我に在るのみ、何ぞ難きこと之有らん、

通し番号 45 章内番号 12 章通し番号 7 識別番号 1_7_12
本文
吾が老を老とし、以て人の老に及ぼす、吾が幼を幼として、以て人の幼に及ぼす、天下掌(たなごごろ)に運(めぐ)らすべし、詩に云う、寡妻に刑となり、兄弟に至る、以て家邦(ほう)を御す、斯(こ)の心を挙げて諸(これ)を彼に加えるを言うのみ、故に恩を推せば以て四海を保(やす)んずるに足り、恩を推されば以て妻子を保んずること無し、古の人大いに人に過ぐる所以は他無し、善く其の爲す所を推すのみ、今恩以て禽獣に及ぶに足りて、功百姓に至らざるは、独(はた)何ぞや、
朱注
与、平声、○老、老以て之に事(つか)えるなり、吾老、我の父兄を謂う、人之老、人の父兄を謂う、幼、幼以て之を畜(やし)なうなり、吾が幼は、我の子弟を謂う、人の幼は、人の子弟を謂う、掌(たなごごろ)に運(めぐ)らすは、易を言うなり、詩、大雅思斉の篇なり、刑、法なり、寡妻、寡徳の妻、謙辞なり、御、治なり、恩を推す能わざれば、則ち衆叛(そむ)き親離る、故に以て妻子を保んずること無し、蓋し骨肉の親、本、同一の気、又但(ただ)に人の類を同じくするの若きに非ざるのみ、故に古人必ず親を親(あい)する由(よ)り之を推す、然る後民に仁にするに及ぶ、又(さら)に其余を推す、然る後物を愛するに及ぶ、皆近き由り以て遠きに及ぶ、易自(よ)り以て難に及ぶ、今王之に反す、則ち必ず故有り、故に復(また)本を推して再び之に問う、

通し番号 46 章内番号 13 章通し番号 7 識別番号 1_7_13
本文
権して然る後軽重を知る、度して然る後長短を知る、物皆然り、心甚しと爲す、王に請う之を度(はか)るを、
朱注
度之の度、待洛反、○権、称錘(すい)なり、度、丈尺なり、之を度(はか)るは、之を称量するを謂うなり、言えらく、物の軽重長短は、人の斉(わか)ち難き所にして、必ず権度以て之を度りて後見るべし、心が物に応ずるが若きは、則ち其の軽重長短之(これ)斉(わか)ち難く、本然の権度以て度らざるべからず、又(さら)に物より甚しきもの有り、今、王の恩禽獣に及びて、功百姓に至らず、是れ其の物を愛するの心重く且つ長くて、民を仁(いつくし)むの心軽く且つ短し、其の当然の序を失ないて、自ら知らざるなり、故に上文既に其の端を発し、此に於て王が之を度るを請うなり、

通し番号 47 章内番号 14 章通し番号 7 識別番号 1_7_14
本文
抑(そもそも)王甲兵を興(おこ)し、士臣を危うくし、怨みを諸侯に構(むす)ぶ、然る後心に快きか、
朱注
与、平声、○抑、発語の辞なり、士、戦士なり、構、結なり、孟子以(おも)うに、王の民を愛するの心、軽く且つ短き所以は、必ず其の是の三のものを以て快と爲すなり、然れども三事、実は人心の快とする所に非ざるなり、觳觫(こくそく)の牛を殺すより甚しきもの有り、故に指(しめ)して以て王に問う、其の此を以て之を度(はか)るを欲するなり、

通し番号 48 章内番号 15 章通し番号 7 識別番号 1_7_15
本文
王曰く、否、吾何ぞ是に快きか、将に以て吾が大いに欲する所を求めんとするなり、
朱注
此に快からざるは、心の正なり、而るに必ず此を爲すは、欲之を誘うなり、欲の誘う所は、独(ただ)是に在り、是を以て其の心尚(なお)他に明(あき)らかにして、独(ただ)此に暗し、此れ其の民を愛するの心軽く短(すくな)く、功百姓に至らざる所以なり、

通し番号 49 章内番号 16 章通し番号 7 識別番号 1_7_16
本文
曰く、王の大いに欲する所、聞くことを得べきか、王笑いて言わず、曰く、肥甘口に足らざる爲か、軽煖(だん)体に足らざるか、抑(ある)いは采(さい)色目に視るに足らざる爲か、声音耳に聴くに足らざるか、便嬖(べんぺい)前に使令するに足らざるか、王の諸臣皆以て之を供するに足る、王豈(あに)是が爲ならんや、曰く、否、吾是れが爲ならざるなり、曰く、然れば則ち王の大いに欲する所知るべし(已)、土地を辟(ひら)き、秦楚を朝せしめ、中国に莅(のぞ)み四夷を撫(ぶ)せんと欲するなり、若(かくのごと)く爲す所を以て、若(かくのごと)く欲する所を求めれば、猶木に縁(よ)りて魚を求めるごときなり、
朱注
与、平声、爲肥、抑爲、豈爲、不爲の爲、皆去声、便、令、皆平声、辟、闢と同じ、朝、音は潮、○便嬖(べんぺい)、近習嬖(へい)幸の人なり、已、語助の辞なり、辟、開広なり、朝、其の来朝を致すなり、秦、楚、皆大国、莅(り)、臨なり、若、此の如(ごと)きなり、爲す所は、兵を興し怨みを結ぶの事を指(さ)す、木に縁(よ)りて魚を求めるは、必ず得るべからざるを言う、

通し番号 50 章内番号 17 章通し番号 7 識別番号 1_7_17
本文
王曰く、是の若く其れ甚しきか、曰く、(殆)焉(これ)より甚しきこと有り、木に縁(よ)りて魚を求む、魚を得ずと雖も、後の災無し、若(かくのごと)く爲す所を以て、若(かくのごと)く欲する所を求めれば、心力を尽して之を爲し、後必ず災有り、曰く、聞くことを得べきか、曰く、鄒(すう)人と楚人戦えば、則ち王以て孰れか勝つと爲す、曰く、楚人勝つ、曰く、然らば則ち小固(もと)より以て大に敵(あた)るべからず、寡固より以て衆に敵(あた)るべからず、弱固より以て彊(きょう)に敵(あた)るべからず、海内の地、方千里なるもの九なり、斉集めると其一を有す、一以て八を服す、何ぞ以て鄒が楚に敵(あた)るに異ならんや、(蓋)亦(ただ)其の本に反る、
朱注
甚与、聞与の与、平声、○殆、蓋、皆発語の辞なり、鄒は、小国、楚は、大国なり、斉集めると其一を有するは、斉の地集め合わして、其方千里を言う、是れ天下の九分の一を有するなり、一以て八を服す、必ず勝つ能わず、謂う所の後の災なり、本に反るは、説下文に見ゆ、

通し番号 51 章内番号 18 章通し番号 7 識別番号 1_7_18
本文
今王政を発し仁を施す、天下の仕える者をして皆王の朝に立たんことを欲し、耕やす者をして皆王の野に耕やすことを欲し、商賈(こ)をして皆王の市に蔵(たくわ)えることを欲し、行旅をして皆王の塗(みち)に出でんことを欲し、天下の其の君を疾(にく)まんと欲する者をして皆王に赴(おもむ)き愬(うった)えんことを欲せしむ、其れ是くの若ければ、孰(たれ)か能く之を禦(とど)めん、
朱注
朝、音は潮、賈、音は古、愬、訴と同じ、○行きて貨(う)る、商と曰う、居りて貨(う)る、賈(こ)と曰う、政を発し仁を施すは、以て天下に王たるの本とする所なり、近き者悦(よろこ)び、遠き者来るは、則ち大小強弱は論ずる所に非ざるなり、蓋し力で欲する所を求めれば、則ち欲する所のもの反て得るべからず、能く其の本に反れば、則ち欲する所のもの求めずして至る、首章と意同じ、

通し番号 52 章内番号 19 章通し番号 7 識別番号 1_7_19
本文
王曰く、吾惛(くら)し、是に進むこと能わず、願わくば夫子(ふうし)吾が志を輔(たす)けよ、明らかに以て我に教えよ、我不敏と雖も、請う之を嘗試(こころ)みん、
朱注
惛、昏(こん)と同じ、

通し番号 53 章内番号 20 章通し番号 7 識別番号 1_7_20
本文
曰く、恒(つね)の産無くして恒(つね)の心有るは、惟(ただ)士能くすることを爲す、民の若きは、則ち恒(つね)の産無ければ、因りて恒(つね)の心無し、苟(もし)恒(つね)の心無ければ、放辟邪侈(ほうへきじゃし)、爲さざる無きのみ、罪に陥るに及びて、然る後従(よ)りて之を刑す、是れ民を罔(あみ)するなり、焉ぞ仁人位に在ること有りて、民を罔して爲すべけんや、
朱注
恆、胡登反、辟、僻と同じ、焉、於虔反、○恆、常なり、産、生業なり、恆産、常に生くべきの業なり、恆心、人常に有する所の善心なり、士嘗て学問し、義理を知る、故に常産無きと雖も、常心有り、民則ち然ること能わず、罔、猶羅網(らもう)のごとし、其の見ざるに欺きて之を取るなり、

通し番号 54 章内番号 21 章通し番号 7 識別番号 1_7_21
本文
是の故に明君は民の産を制し、必ず仰ぎて以て父母に事(つか)えるに足り、俯して以て妻子を畜(やしな)うに足り、楽歳身を終うるまで飽き、凶年死亡を免かれしむ、然る後駆りて善に之(ゆ)かしむ、故に民の之に従うや軽し、
朱注
畜、許六反、下同じ、○輕、猶易のごときなり、此れ民常の産有りて、常の心有るを言うなり、

通し番号 55 章内番号 22 章通し番号 7 識別番号 1_7_22
本文
今や民の産を制し、仰ぎて以て父母に事えるに足らず、俯して以て妻子を畜なうに足らず、楽歳身を終えるまで苦しみ、凶年死亡を免かれず、此惟(ただ)死を救いて贍(た)らざるを恐る、奚(なん)ぞ礼義を治める暇(いとま)あらん、
朱注
治、平声、凡そ治の字、物を理(おさ)めるの義と爲るものは、平声、巳(すで)に理(おさ)まるの義と爲るものは、去声なり、後皆此に放(なら)う、○贍、足なり、此謂う所の常の産無くして、常の心無きものなり、

通し番号 56 章内番号 23 章通し番号 7 識別番号 1_7_23
本文
王之を行なわんと欲せば、則ち盍(なん)ぞ其の本に反(かえ)らざる、
朱注
盍、何不なり、民をして常の産有らしむるは、又政を発し仁を施すの本なり、説下文に見ゆ、

通し番号 57 章内番号 24 章通し番号 7 識別番号 1_7_24
本文
五畝(ほ)の宅、之に樹(う)えるに桑を以てす、五十は以て帛(きぬ)を衣るべし、雞(けい)豚(とん)狗(こう)彘(てい)の畜、其時を失なうこと無ければ、七十の者以て肉を食すべし、百畝の田、其時を奪うこと勿ければ、八口の家以て飢えること無かるべし、庠序(しょうじょ)の敎を謹んで、之に申ねるに孝悌の義を以てすれば、頒白(はんぱく)の者道路に(12負戴せず、老なる者帛(きぬ)を衣(き)て肉を食し、黎(れい)民飢えず寒からず、然り而して王たらざる者、未だ之有らざるなり、
朱注
音、前章に見ゆ、○此は民の産を制するの法を言うなり、趙氏曰く、八口の家、上農夫に次(つ)ぐなり、此は王政の本、常の生の道なり、故に孟子斉梁の君の爲に各(おのおの)之を陳(の)べるなり、楊氏曰く、天下を爲(おさ)める者は斯の心を挙げ諸(これ)を彼に加えるのみ、然れども仁心仁聞有ると雖も、民其の沢を被(こうむ)らざるは、先王の道を行なわざる故なり、故に民の産を制するを以て之に告ぐ、○此章言えらく、人君当に霸功を黜(しりぞ)け、王道を行なうべし、而して王道の要は、其の忍びざるの心を推し、以て忍びざるの政を行なうに過ぎざるのみ、斉王此心無きに非ず、而るに功利の私に奪われ、拡充して以て仁政を行なうこと能わず、孟子反覆して曉(さと)し告げ、精切此の如きを以てすと雖も、蔽(へい)固より已(すで)に深し、終(つい)に悟る能わず、是れ歎ずべきなり、


2 梁惠王章句下 liáng huì wáng zhāng jù xià

章番号 1 章通し番号 8

通し番号 58 章内番号 1 章通し番号 8 識別番号 2_1_1
本文
荘暴、孟子に見(まみ)えて曰く、暴は王に見(まみ)ゆ、王は暴に語るに楽しみを好むを以てす、暴未だ以て対(こた)えること有らざるなり、曰く、楽しみを好む何如(いかん)、孟子曰く、王の楽しみを好むこと甚だしければ、則ち斉国其れ庶幾(ちか)からんか、
朱注
見於の見、音は現、下の見於も同じ、語、去声、下同じ、好、去声、篇内並(みな)同じ、○荘暴、斉の臣なり、庶幾、近の辞なり、治に近きを言う、

通し番号 59 章内番号 2 章通し番号 8 識別番号 2_1_2
本文
他日王に見(まみ)えて曰く、王嘗(かつ)て荘子に語るに楽しみを好むを以てす、諸(これ)有りや、王色を変じて曰く、寡人能く先王の楽しみを好むに非ざるなり、直(ただ)世俗の楽しみを好むのみ、
朱注
色を変ずるのは、其好みの正しからざるを慚(は)じるなり、

通し番号 60 章内番号 3 章通し番号 8 識別番号 2_1_3
本文
曰く、王の楽しみを好む甚だしければ、則ち斉其れ庶幾(ちか)からんか、今の楽しみは由(なお)古の楽しみのごときなり、
朱注
今の楽は、世俗の楽なり、古の楽は、先王の楽なり、

通し番号 61 章内番号 4 章通し番号 8 識別番号 2_1_4
本文
曰く、聞くことを得べきか、曰く、独り楽しみを楽しむと、人と楽しみを楽しむと、孰(いずれ)か楽しき、曰く、人と与(とも)にするに若(し)かず、曰、少きと楽しみを楽しむと、衆と楽しみを楽しむと、孰(いずれ)か楽しき、曰く、衆と与(とも)にするに若(し)かず、
朱注
聞与の与、平声、楽楽下の字、音は洛、孰楽、亦音は洛、○独り楽(がく)するは、人と与(とも)にするに若(し)かず、少と楽(がく)するは、衆と与(とも)にするに若かず、亦人の常の情なり、

通し番号 62 章内番号 5 章通し番号 8 識別番号 2_1_5
本文
臣請う王の爲に楽しみを言わん、
朱注
爲、去声、○此以下、皆孟子の言なり、

通し番号 63 章内番号 6 章通し番号 8 識別番号 2_1_6
本文
今王此に鼓楽せんに、百姓王の鐘(しょう)鼓(こ)の声、管(かん)籥(やく)の音を聞きて、挙(みな)疾首蹙頞(しゅくあつ)して、相い告げて曰く、吾王は鼓楽を好む、夫(それ)何ぞ我をして此の極に至らしめるや、父子相(あい)見ず、兄弟妻子離散す、今王此に田猟す、百姓王の車馬の音を聞き、羽旄(ぼう)の美を見て、挙(みな)疾首蹙頞(しゅくあつ)して、相い告げて曰く、吾王は田猟を好む、夫(それ)何ぞ我をして此の極に至らしめるや、父子相(あい)見ず、兄弟妻子離散す、此他無し、民と楽(たのし)みを同じくせざるなり、
朱注
蹙、子六反、頞、音は遏、夫、音は扶、同楽の楽、音は洛、○鐘鼓(かんやく)管籥(しょうこ)、皆楽器なり、挙、皆なり、疾首、頭痛なり、蹙、聚なり、頞、額なり、人憂戚すれば、則ち其額を蹙(あつ)める、極、窮なり、羽旄(ぼう)、旌(せい)の属なり、民と楽(たの)しみを同じくせざるは、独り其身を楽しみ其民を恤(あわれ)まず、之をして窮困せしめるを謂うなり、

通し番号 64 章内番号 7 章通し番号 8 識別番号 2_1_7
本文
今王此に鼓楽するに、百姓王の鐘鼓の声、管籥(かんやく)の音を聞きて、舉(みな)欣欣然(きんきんぜん)として喜色有りて、相告げて曰く、吾が王疾病無きに庶幾(ちか)きか、何を以て能く鼓楽する、今王此に田猟す、百姓王の車馬の音を聞き、羽旄(ぼう)の美を見て、挙(みな)欣欣然として喜色有り、相告げて曰く、吾が王疾病無きに庶幾(ちか)きか、何を以て能く田猟するや、此他無し、民と楽しみを同じくするなり、
朱注
病与の与、平声、同楽の楽、音は洛、○民と楽しみを同じくする者は、楽を好むの心を推し以て仁政を行ない、民をして各(おのおの)其所を得せしめるなり、

通し番号 65 章内番号 8 章通し番号 8 識別番号 2_1_8
本文
今王百姓と楽しみを同じくすれば、則ち王たり、
朱注
楽を好みて能く百姓と之を同じくす、則ち天下の民之に帰す、謂う所の斉其れ庶幾(ちか)きは此の如し、○范氏曰く、戦国の時、民窮し財尽る、人君独り南面の楽しみ以て自(みずか)ら其身を奉(たす)く、孟子民を救うに切なり、故に斉王の楽を好むに因りて、其善心を開き導き、深く其民と楽しみを同じくするを勧む、而して今の楽、猶古の楽のごとしと謂う、其実今の楽、古の楽、何ぞ同じべかんや、但(ただ)民と楽しみを同じくするの意、則ち古今の異無きのみ、若(もし)必ず礼楽以て天下を治めんと欲せば、当に孔子の言の如く、必ず韶舞(しょうぶ)を用い、必ず鄭声を放(はな)つべし、蓋し孔子の言は、邦を爲(おさ)めるの正道なり、孟子の言は、時を救うの急務なり、同じからざる所以なり、楊氏曰く、楽和以て主と爲す、人をして鐘鼓(しょうこ)管弦の音を聞き疾首蹙頞(しゅくあつ)せしめれば、則ち奏するに咸(かん)、英、韶(しょう)、濩(かく)を以てすると雖も、治に補すること無きなり、故に孟子斉王に告ぐるに此を以てす、姑(しばら)く其本を正すのみ、


章番号 2 章通し番号 9

通し番号 66 章内番号 1 章通し番号 9 識別番号 2_2_1
本文
斉の宣王問いて曰く、文王の囿(ゆう)方七十里、諸(これ)有りや、孟子対えて曰く、伝に之有り、
朱注
囿、音又、伝、直恋反、○囿は、鳥獣を蕃(はん)育するの所なり、古は四時の田(でん)、皆農隙(げき)に於て以て武事を講(なら)う、然れども稼穡(かしょく)場圃(ほ)の中を馳騖(ちぶ)することを欲せず、故に間曠(こう)の地を度(はか)りて以て囿と爲す、然れども文王七十里の囿、其亦(ただ)天下を三分し其二を有(たも)つの後なるか、伝、古書を謂う、

通し番号 67 章内番号 2 章通し番号 9 識別番号 2_2_2
本文
曰く、是くの若く其れ大か、曰く、民猶以て小と爲すなり、曰く、寡人の囿方四十里、民猶以て大と爲す、何ぞや、曰く、文王の囿方七十里、芻蕘(すうじょう)の者往(ゆ)き、雉(ち)兔(と)の者往く、民と之を同じくす、民以て小と爲す、亦宜(うべ)ならずや、
朱注
芻、音は初、蕘、音は饒、○芻、草なり、蕘、薪なり、

通し番号 68 章内番号 3 章通し番号 9 識別番号 2_2_3
本文
臣始めて境に至る、国の大禁を問う、然る後敢えて入る、臣聞く、郊関の内囿(ゆう)方四十里有り、其の麋(び)鹿(ろく)を殺す者は人を殺すの罪の如し、則ち是れ方四十里、阱(せい)を国の中に爲(つく)るなり、民以て大と爲す、亦宜(うべ)ならざるや、
朱注
阱、才性反、○礼は、国に入りて禁を問う、国外百里郊と爲す、郊外関有り、阱は、坎(かん)地以て獣を陥(おとしい)れるものなり、民を死に陥れるを言うなり、


章番号 3 章通し番号 10

通し番号 69 章内番号 1 章通し番号 10 識別番号 2_3_1
本文
斉の宣王問いて曰く、鄰国に交わる道有りや、孟子対えて曰く、有り、惟(ただ)仁者能く大以て小に事(つか)えるを爲す、是の故に湯は葛(かつ)に事え、文王は昆夷(こんい)に事える、惟(ただ)智者能く小以て大に事えるを爲す、故に大王は獯鬻(くんいく)に事え、句践は呉に事う、
朱注
獯、音は熏、鬻、音は育、句、音は鉤、○仁人の心、寬洪惻(そく)怛(たん)、大小強弱の私を較計すること無し、故に小国或いは不恭と雖も、吾以て之を字(いつくし)む所の心、自ずから已(や)むこと能わず、智者義理に明らかにして、時勢を識(し)る、故に大国に侵陵されると雖も、吾以て之に事える所の礼、尤(もっと)も敢えて廃せず、湯の事後篇に見ゆ、文王の事詩大雅に見ゆ、大王の事後章に見ゆ、謂う所の狄人は、卽ち獯鬻(くんいく)なり、句践、越王の名なり、事は国語、史記に見ゆ、

通し番号 70 章内番号 2 章通し番号 10 識別番号 2_3_2
本文
大以て小に事える者は、天を楽しむ者なり、小以て大に事える者は、天を畏れる者なり、天を楽しむ者は天下を保つ、天を畏れる者は其国を保つ、
朱注
楽、音は洛、○天は、理のみ、大が小を字(いつくし)み、小が大に事えるは、皆理の当然なり、自ずから然りて理に合う、故に天を楽しむと曰う、敢えて理に違(たが)わず、故に天を畏ると曰う、包含し徧(あま)ねく覆(おお)い、周徧せざる無し、天下を保つの気象なり、節を制し度(のり)を謹み、敢えて縦逸(しょういつ)せず、一国の規模を保つなり、

通し番号 71 章内番号 3 章通し番号 10 識別番号 2_3_3
本文
詩に云う、天の威を畏る、時(ここ)に之を保つ、
朱注
詩、周頌の我将の篇なり、時、是れなり、

通し番号 72 章内番号 4 章通し番号 10 識別番号 2_3_4
本文
王曰く、大なる哉(かな)言、寡人疾有り、寡人勇を好む、
朱注
言えらく、勇を好むを以てす、故に大に事えて小を恤(あわれ)むこと能わざるなり、

通し番号 73 章内番号 5 章通し番号 10 識別番号 2_3_5
本文
対えて曰く、王に請う小勇を好むこと無かれ、夫(それ)剣を撫(ぶ)し疾視して曰く、彼悪(いずくん)ぞ敢えて我に当たらんや、此は匹夫の勇、一人に敵(あた)るものなり、王に請う之を大にせよ、
朱注
夫撫の夫、音は扶、悪、平声、○疾視、目を怒らして視るなり、小勇は、血気が爲す所なり、大勇は、義理が発する所なり、

通し番号 74 章内番号 6 章通し番号 10 識別番号 2_3_6
本文
詩に云う、王赫(かく)として斯(ここ)に怒る、爰(ここ)において其旅を整え、以て徂(ゆ)く莒(きょ)を遏(とど)む、以て周の祜(さいわ)いを篤(あつ)くす、以て天下に対(こた)う、此は文王の勇なり、文王一たび怒りて、天下の民を安んず、
朱注
詩、大雅皇矣(こうい)篇、赫、赫然の怒りの貌なり、爰、於なり、旅、衆なり、遏、詩按に作る、止なり、徂、往なり、莒、詩旅に作る、徂旅は、密人阮を侵し共に徂(ゆ)くの衆を謂うなり、篤、厚なり、祜(こ)、福なり、對、答なり、以て天下仰望の心に答えるなり、此文王の大勇なり、

通し番号 75 章内番号 7 章通し番号 10 識別番号 2_3_7
本文
書に曰く、天、下民を降(おろ)す、之に君を作り、之に師を作る、惟(これ)其れ上帝を助けよと曰い、之を寵す、四方罪有り罪無し、惟(ただ)我に在り、天下曷(なん)ぞ敢えて厥(その)志を越ゆること有らんや、一人天下に衡行(こうこう)する、武王之を恥ず、此が武王の勇なり、而(すなわ)ち武王亦一たび怒りて天下の民を安んず、
朱注
衡、横と同じ、○書は、周書の大誓の篇なり、然れども引く所は今の書と文小し異なる、今且(しばら)く此に依(よ)り之を解す、之を四方に寵すは、之を四方に寵異するなり、罪有る者は我得て之を誅す、罪無き者は我得て之を安んず、我既に此に在れば、則ち天下何ぞ敢えて其心志を過越し乱を作(な)す者有らんや、衡行、乱を作(な)すを謂うなり、孟子書の意を釈す此の如くして、武王亦大勇なるを言うなり、

通し番号 76 章内番号 8 章通し番号 10 識別番号 2_3_8
本文
今王亦一たび怒りて、天下の民を安んずれば、民惟(ただ)王の勇を好まざるを恐れるなり、
朱注
王若し能く文武の爲すが如ければ、則ち天下の民、其一たび怒り以て暴乱を除きて、己を水火の中に拯(すく)うことを望む、惟(ただ)王の勇を好まざるを恐れるのみ、○此章言えらく、人君能く小忿(ふん)を懲(と)めれば、則ち能く小を恤(あわれ)み大に事えて、以て鄰國に交わる、能く大勇を養えば、則ち能く暴を除き民を救い、以て天下を安んず、張敬夫曰く、小勇は、血気の怒りなり、大勇は、理義の怒りなり、血気の怒り有るべからず、理義の怒り無かるべからず、此を知れば、則ち以て性情の正を見て、天理人欲の分を識るべし、


章番号 4 章通し番号 11

通し番号 77 章内番号 1 章通し番号 11 識別番号 2_4_1
本文
斉の宣王孟子を雪宮に見る、王曰く、賢者亦此楽しみ有るか、孟子対えて曰く、有り、人得ざれば、則ち其上を非(そし)る、
朱注
樂、音洛、下同じ、○雪宮、離宮の名なり、言えらく、人君能く民と楽しみを同じくすれば、則ち人皆此の楽しみ有り、然らざれば、則ち下の此の楽しみを得ざる者は、必ず其君上(くんじょう)を非(そし)るの心有り、人君当(まさ)に民と楽しみを同じくすべく、人をして得ざる者有らしめるべからず、但(ただ)に当に賢者と之を共(とも)にすべきのみに非ざるを明らかにするなり、

通し番号 78 章内番号 2 章通し番号 11 識別番号 2_4_2
本文
得ずして其上を非(そし)る者は、非なり、民の上と爲りて民と楽しみを同じくせざる者、亦非なり、
朱注
下は分に安んぜず、上は民を恤(やす)んぜず、皆理に非ざるなり、

通し番号 79 章内番号 3 章通し番号 11 識別番号 2_4_3
本文
民の楽しみを楽しむ者は、民亦其楽しみを楽しむ、民の憂いを憂う者は、民亦其憂いを憂う、楽しむに天下以てし、憂うに天下以てす、然(しか)り而(しこう)して王たらざる者は、未だ之有らざるなり、
朱注
民の楽しみを楽しみて、民其楽しみを楽しめば、則ち楽しむに天下以てす、民の憂いを憂いて、民其憂を憂えば、則ち憂うに天下以てす、

通し番号 80 章内番号 4 章通し番号 11 識別番号 2_4_4
本文
昔者(むかし)斉の景公晏子に問いて曰く、吾は転附(てんぷ)、朝儛(ちょうぶ)を観て、海に遵(そ)いて南(みなみ)し、琅邪(ろうや)に放(いた)らんと欲す、吾何を脩(おさ)めて以て先王の観に比すべき、
朱注
朝、音は潮、放、上声、○晏子は、斉の臣、名嬰(えい)なり、轉附(てんぷ)、朝儛(ちょうぶ)、皆山の名なり、遵、循なり、放、至なり、琅邪、斉の東南の境上の邑の名なり、観、遊なり、

通し番号 81 章内番号 5 章通し番号 11 識別番号 2_4_5
本文
晏子対えて曰く、善い哉(かな)問や、天子諸侯に適(ゆ)くを巡狩と曰う、巡狩は守る所を巡(めぐ)るなり、諸侯天子に朝するを述職と曰う、述職は職とする所を述べるなり、事に非ざるもの無きは、春は耕を省(み)て足らざるを補ない、秋は斂(れん)を省(み)て給(た)らざるを助く、夏諺(げん)曰く、吾王遊ばずんば、吾何を以て休(いこ)わん、吾王予(たのし)まざれば、吾何以て助からん、一遊一予、諸侯の度と爲る、
朱注
狩、舒救反、省、悉井反、○述、陳なり、省、視なり、斂、收穫なり、給、亦足なり、夏諺、夏の時の俗語なり、予、楽なり、守る所を巡るは、諸侯守る所の土也を巡行するなり、職とする所を述べるは、其受くる所の職を陳(の)べるなり、皆事無くて空行するは有ること無し、又春秋郊野に循行し、民の足らざる所を察(み)て、之を補助す、故に夏諺以て王者一遊一予、皆恩恵以て民に及ぶこと有りて、諸侯皆法に取ると爲す、敢えて事無く慢遊し、以て其民を病ましめざるなり、

通し番号 82 章内番号 6 章通し番号 11 識別番号 2_4_6
本文
今也(や)然らず、師行きて糧食す、飢えるは食らわず、労するは息(いこ)わず、睊睊(けんけん)として胥(みな)讒(そし)る、民乃ち慝(うら)みを作(な)す、命を方(す)て民を虐(しいた)げ、飮食流れるが若し、流連荒亡、諸侯の憂いと爲る、
朱注
睊、古縣反、○今、晏子の時を謂うなり、師、衆なり、二千五百人師と爲す、春秋伝曰く、君行きて師従う、糧、糗糒(きゅうび)の属を謂う、睊睊、側目の貌なり、胥、相なり、讒、謗なり、慝、怨悪なり、民其労に勝(たえ)ずして、謗怨(ぼうえん)を起こすを言うなり、方、逆なり、命、王命なり、流るが若しは、水の流れは窮極無きが如きなり、流連荒亡、解下文に見ゆ、諸侯は、附庸の国、県邑の長を謂う、

通し番号 83 章内番号 7 章通し番号 11 識別番号 2_4_7
本文
流に従い下り反(かえ)るを忘る、之を流と謂う、流に従い上り反(かえ)るを忘る、之を連と謂う、獣に従い厭(あ)くこと無し、之を荒と謂う、酒を楽しみ厭(あ)くこと無し、之を亡と謂う、
朱注
厭、平声、楽、音は洛、○此は上文の義を釈するなり、流れに従い下るは、舟を放ち水に随い下るを謂う、流れに従い上るは、舟を挽(ひ)き水に逆(さか)らい上るを謂う、獣に従うは、田猟なり、荒、廃なり、酒を楽しむは、飲酒を以て楽しみと爲すなり、亡は、猶失のごときなり、時を廃(す)て事を失なうを言うなり、

通し番号 84 章内番号 8 章通し番号 11 識別番号 2_4_8
本文
先王は流連の楽しみ、荒亡の行無し、
朱注
行、去声、

通し番号 85 章内番号 9 章通し番号 11 識別番号 2_4_9
本文
惟(ただ)君行う所なり、
朱注
先王の法、今の時の弊、二は惟(ただ)君行う所に在るのみを言う、

通し番号 86 章内番号 10 章通し番号 11 識別番号 2_4_10
本文
景公説(よろこ)ぶ、大いに国に戒(つ)ぐ、出でて郊に舍(お)る、是に於て始めて興発し不足を補なう、大師を召(め)して曰く、我の爲に君臣相(あい)説(よろこ)ぶの楽を作れ、蓋し徵(ち)招角招是れなり、其詩に曰く、君を畜(とど)むは何ぞ尤(とが)めん、君を畜(とど)むは、君を好むなり、
朱注
説、音悦、爲、去声、樂、字の如し、徵、陟里反、招、韶と同じ、畜、敕六反、○戒、命を告ぐるなり、出でて舍(お)るは、自ら責(もと)めて以て民を省(み)るなり、興発、倉廩(りん)を発するなり、大師、楽官なり、君臣、己と晏子なり、楽は五声有り、三に角と曰い、民と爲す、四に徵(ち)と曰い、事と爲す、招は、舜の楽なり、其詩は、徵招、角招の詩なり、尤、過なり、言えらく晏子能く其君の欲を畜止す、宜しく君の尤(とが)める所と爲るべし、然れども其心則ち何を過(とが)めるかな、孟子之を釈して以爲(おも)えらく、臣能く其君の欲を畜止するは、乃ち是れ其君を愛する者なり、○尹氏曰く、君は民と、貴賎同じからざると雖も、然れども其心未だ始めより異なること有らざるなり、孟子の言、深切と謂うべし、斉王推して之を用いること能わず、惜しいかな、


章番号 5 章通し番号 12

通し番号 87 章内番号 1 章通し番号 12 識別番号 2_5_1
本文
斉の宣王問いて曰く、人皆我に明堂を毀(こぼ)てと謂う、諸(これ)を毀たんや、已(や)めんや、
朱注
趙氏曰く、明堂は、太山の明堂なり、周の天子東に巡守し、諸侯を朝する処(ところ)なり、漢の時遺址(し)尙在り、人が之を毀(こぼ)たんと欲するは、蓋し天子復(また)巡守せず、諸侯又当に之に居らざらんとするを以てなり、王問う、当に之を毀(こぼ)たんとするか、且(まさに)止(や)めんとするか、

通し番号 88 章内番号 2 章通し番号 12 識別番号 2_5_2
本文
孟子対えて曰く、夫(それ)明堂は、王者の堂なり、王が王政を行なわんと欲せば、則ち之を毀(こぼ)つこと勿れ、
朱注
夫、音は扶、○明堂は、王者居る所、以て政令を出すの所なり、能く王政を行なえば、則ち亦以て王たるべし、何ず必ずしも毀たんや、

通し番号 89 章内番号 3 章通し番号 12 識別番号 2_5_3
本文
王曰く、王政聞くを得べきか、対えて曰く、昔者(むかし)文王の岐を治めるや、耕やす者は九一なり、仕える者は世禄なり、関市譏(しら)べて征せず、沢梁(りょう)禁無し、人を罪(ばっ)して孥(ど)までせず、老いて妻無し鰥(かん)と曰う、老いて夫無し寡と曰う、老いて子無し独と曰う、幼くして父無し孤と曰う、此四は、天下の窮民にして告ぐること無き者なり、文王政を発し仁を施す、必ず斯(この)四者を先にす、詩に云う、哿(か)なるかな富人、哀(かな)しいかな此煢(けい)独、
朱注
与、平声、孥、音は奴、鰥、姑頑反、哿、音は可、煢、音瓊、○岐、周の旧国なり、九一は、井田の制なり、方一里一井と爲す、其田九百畝、中は井の字に画す、界して九区と爲す、一区の中、田百畝と爲す、中百畝公田と爲す、外八百畝私田と爲す、八家各(おのおの)私田百畝を受け、同じく公田を養(おさ)める、是れ九分して其一を税とするなり、世禄は、先王の世、仕える者の子孫皆之を教える、之を教えて材を成せば、則ち之を官にす、如し用に足らざれば、亦(ただ)之をして其祿を失なわざらしむ、蓋し其先世嘗て民に功徳有り、故に之に報いること此の如し、忠厚きの至りなり、関は、道路の関を謂う、市は、都邑の市を謂う、譏、察なり、征、税なり、関市の吏、異服異言の人を察(み)て、商賈(こ)の税を征(と)らざるなり、沢、瀦(ちょ)水を謂う、梁、魚梁を謂う、民と利を同じくし、禁を設(もう)けざるなり、孥(ど)、妻子なり、悪を悪(にく)むは、其身に止まり、妻子に及ばざるなり、先王民を養うの政は、其妻子を導き、之をして其老を養い其幼を恤(やす)んぜしむ、不幸にして鰥(かん)寡孤独の人有り、父母妻子の養無ければ、則ち尤も宜しく憐恤(れんじゅつ)すべし、故に必ず以て先と爲すなり、詩、小雅正月の篇なり、哿、可なり、煢、困悴(すい)の貌なり、

通し番号 90 章内番号 4 章通し番号 12 識別番号 2_5_4
本文
王曰く、善(よ)い哉(かな)言や、曰、王如(も)し之を善(よ)しとすれば、則ち何爲(なんす)れぞ行わざる、王曰く、寡人疾有り、寡人貨を好む、対えて曰く、昔公劉貨を好む、詩に云う、乃ち積み乃ち倉にする、乃ち餱(こう)糧を裹(つつ)む、橐(たく)に囊(のう)に、戢(あつ)めて用(もっ)て光するを思う、弓矢斯(すなわ)ち張り、干戈(か)戚(せき)揚(よう)、爰(ここ)に方(はじめ)て啓行す、故に居る者積(し)倉有り、行く者裹(か)糧有るなり、然る後以て爰(ここ)に方(はじめ)て啓行すべし、王如し貨を好めば、百姓と之を同じくすれば、王に於て何か有らん、
朱注
餱(こう)、音は侯、橐(たく)、音は托、戢(しゅう)、詩は輯(しゅう)に作る、音は集、○王自ら以て貨を好むと爲す、故に民に取るに制無くて、此王政を行なうこと能わず、公劉、后稷(こうしょく)の曽孫(ひまご)なり、詩、大雅公劉の篇、積、露積(し)なり、餱、乾糧なり、底無きを橐(たく)と曰う、底有るを囊と曰う、皆以て餱(こう)糧を盛る所なり、戢、安集なり、其民人を安集し、以て其国家を光大するを思うを言うなり、戚、斧(ふ)なり、揚、鉞(えつ)なり、爰、於なり、啓行、往きて豳(ひん)に遷(うつ)るを言うなり、何か有らんは、難からざるを言うなり、孟子言えらく、公劉の民富み足ること此の如し、是れ公劉貨を好みて、能く己の心を推し以て民に及ぶなり、今王貨を好み、亦能く此の如ければ則ち其天下に王たるに於てや、何ぞ難きこと之有らんや、

通し番号 91 章内番号 5 章通し番号 12 識別番号 2_5_5
本文
王曰く、寡人疾有り、寡人色を好む、対えて曰く、昔大王色を好む、厥(その)妃を愛す、詩に云う、古公亶甫(たんぽ)、来たりて朝に馬を走らす、西水の滸(ほとり)に率(そ)い、岐下に至る、爰(ここ)に姜女及(と)、聿(つい)に来り胥(あい)宇(お)る、是時に当たり、内に怨女無く、外に曠(こう)夫無し、王如し色を好めば、百姓と之を同じくすれば、王に於て何か有らん、
朱注
大、音泰、○王又此を言うは、色を好めば則ち心志蠱(こ)惑、用度奢侈(し)、王政を行なうこと能わざるなり、大王、公劉の九世の孫なり、詩、大雅綿の篇なり、古公、大王の本号、後に乃ち追尊して大王と爲すなり、亶甫(たんぽ)、大王の名なり、来たりて朝に馬を走らすは、狄人の難を避くるなり、率、循なり、滸、水涯なり、岐下、岐山の下なり、姜女、大王の妃なり、胥、相なり、宇、居なり、曠(こう)、空なり、怨曠する者無し、是れ大王色を好みて、能く己の心を推し以て民に及ぶなり、○楊氏曰く、孟子が人君と言えば、皆以て其善心を拡充し、其非心を格(ただ)す所なり、事に就き事を論じるに止(とどま)らず、若し人臣なる者をして、事を論じ每(つね)に此如く爲らしめば、豈に其君を堯舜たらしめること能わざらんや、愚謂えらく、此篇首章自(よ)り此に至る、大意皆同じ、蓋し鐘鼓、苑囿、遊観の楽しみは、夫(その)勇を好み、貨を好み、色を好むの心とともに、皆天理の有る所にして、人の情の無きこと能わざる所のものなり、然れども天理人欲、行(みち)を同じくし情を異にす、理に循(したが)いて天下に於て公なることは、聖賢の以て其性を尽す所なり、欲に縦(ほしいまま)にして一己を私(り)するは、衆人の以て其天を滅ぼす所なり、二者の間、髮以てすること能わず、而るに其是非得失の帰、相去ること遠し、故に孟子時の君の問いに因りて、幾(き)微の際を剖析す、皆以て人欲を遏(た)ちて天理を存する所なり、其法疏に似て実は密なり、其事易に似て実は難なり、学ぶ者身以て之を体すれば、則ち以て其曲学阿世の言に非ざるを識りて、以て己に克(か)ち礼に復する所の端を知ること有り、


章番号 6 章通し番号 13

通し番号 92 章内番号 1 章通し番号 13 識別番号 2_6_1
本文
孟子斉の宣王に謂いて曰く、王の臣、其妻子を其友に託して、楚に之(ゆ)き遊ぶ者有り、其反るに比(およ)ぶや、則ち其妻子を凍餒(だい)す、則ち之を如何(いかん)、王曰く、之を棄つ、
朱注
比、必二反、○託、寄なり、比、及なり、棄、絶なり、

通し番号 93 章内番号 2 章通し番号 13 識別番号 2_6_2
本文
曰く、士師が士を治める能わず、則ち之を如何(いかん)、王曰く、之を已(や)む、
朱注
士師、獄官なり、其属に郷士、遂士の官有り、士師皆当に之を治むべし、已、罷(り)去なり、

通し番号 94 章内番号 3 章通し番号 13 識別番号 2_6_3
本文
曰く、四境の内治まらず、則ち之を如何、王左右を顧(かえりみ)て他を言う、
朱注
治、去声、○孟子将に此を問わんとす、而して先(まず)上二事を設(もう)け以て之を発す、此に及びて王答えること能わざるなり、其自責を憚(はばか)り、下問を恥ずこと此如し、与(もっ)て爲すこと有るに足らず、知るべし、○趙氏曰く、君臣上下各(おのおの)其任を勤め、其職に墮(おこた)ること無ければ、乃ち其身を安んずるを言う、


章番号 7 章通し番号 14

通し番号 95 章内番号 1 章通し番号 14 識別番号 2_7_1
本文
孟子齊の宣王に見(まみ)えて曰く、謂う所の故国は、喬(きょう)木有るの謂(いい)を謂うに非ざるなり、世臣有るの謂なり、王親臣無し、昔者(きのう)進める所、今日は其亡(に)ぐるを知らざるなり、
朱注
世臣は、累世の勲旧の臣にて、国と休戚を同じくする者なり、親臣は、君が親しみ信ずる所の臣にて、君と休戚を同じくする者なり、此は言えらく、喬木世臣は、皆故国が宜しく有るべき所なり、然れども故国と爲(な)る所以は、則ち此に在りて彼に在らざるなり、昨日進め用いる所の人、今日亡(に)げ去ること有りて知らざるは、則ち親臣無し、況んや世臣をや、

通し番号 96 章内番号 2 章通し番号 14 識別番号 2_7_2
本文
王曰く、吾何を以て其不才を識りて之を舍(す)つ、
朱注
舍、上声、○王の意以爲(おも)えらく、此亡げ去る者、皆不才の人なり、我初め知らずして之を誤り用いる、故に今其去るを以て意を爲さざるのみ、因りて問う、何を以て先に其不才を識りて之を舍(す)つや、

通し番号 97 章内番号 3 章通し番号 14 識別番号 2_7_3
本文
曰く、国君賢を進む、已むを得ざるが如くす、将に卑(いや)しきをして尊(とうと)きを踰(こ)え、疏(とお)きをして戚(ちか)きを踰えしめんとす、慎まざるべきか、
朱注
与、平声、○已むを得ざる如くするは、謹の至りを言うなり、蓋し尊(たか)きを尊(とうと)び親(ちか)きに親しむは、礼の常なり、然れども尊(たか)き者親(ちか)き者未だ必ずしも賢ならずこと或(あ)り、則ち必ず疏遠の賢を進めて之を用う、是れ卑(ひく)き者をして尊(たか)を踰え、疏(とお)き者をして戚(ちか)きを踰えしむ、礼の常に非ず、故に謹まざるべからざるなり、

通し番号 98 章内番号 4 章通し番号 14 識別番号 2_7_4
本文
左右皆賢と曰う、未だ可ならざるなり、諸大夫皆賢と曰う、未だ可ならざるなり、国人(こくじん)皆賢と曰う、然る後之を察す、賢を見て、然る後之を用いる、左右皆不可と曰う、聴くこと勿れ、諸大夫皆不可と曰う、聴くこと勿れ、国人皆不可と曰う、然る後之を察す、不可を見て、然る後之を去る、
朱注
去、上声、○左右の近臣は、其言固より未だ信ずべからず、諸大夫の言は、宜しく信ずべし、然れども猶其私に蔽われるを恐れるなり、国人に至れば、則ち其論公なり、然れども猶必ず之を察すは、蓋し人俗に同じて衆の悦ぶ所と爲る者有り、亦特(ひとり)立ちて俗の憎む所と爲る者有り、故に必ず自ら之を察して、親(みずか)ら其賢否の実を見る、然る後従(よ)りて之を用舍す、則ち賢者に於て之を知ること深く、之を任(もち)いること重し、而して不才なる者幸以て進むことを得ず、謂う所の賢を進めること已むを得ざるが如きは此の如し、

通し番号 99 章内番号 5 章通し番号 14 識別番号 2_7_5
本文
左右皆殺すべしと曰う、聴くこと勿れ、諸大夫皆殺すべしと曰う、聴くこと勿れ、国人皆殺すべしと曰う、然る後之を察す、殺すべきを見て、然る後之を殺す、故に曰く、国人之を殺すなり、
朱注
此は言えらく、独(ひと)り此を以て人才を進退するに非ず、刑を用いるに至るは、亦此道を以てす、蓋し謂う所の天命天討(とう)は、皆人君の得て私する所に非ざるなり、

通し番号 100 章内番号 6 章通し番号 14 識別番号 2_7_6
本文
此(かく)の如くして、然る後以て民の父母と爲るべし、
朱注
伝曰く、民の好む所之を好み、民の悪(にく)む所之を悪む、此を之民の父母と謂う、


章番号 8 章通し番号 15

通し番号 101 章内番号 1 章通し番号 15 識別番号 2_8_1
本文
斉の宣王問いて曰く、湯は桀を放ち、武王は紂を伐(う)つ、諸(これ)有りや、孟子対えて曰く、伝に之有り、
朱注
伝、直恋反、○放、置なり、書に曰く、成湯は桀を南巣に放つ、

通し番号 102 章内番号 2 章通し番号 15 識別番号 2_8_2
本文
曰く、臣が其君を弑(しい)す、可か、
朱注
桀紂は、天子なり、湯武は、諸侯なり、

通し番号 103 章内番号 3 章通し番号 15 識別番号 2_8_3
本文
曰く、仁を賊(そこな)う者之を賊と謂う、義を賊う者之を残と謂う、残賊の人之を一夫と謂う、一夫紂を誅するを聞く、未だ君を弑するを聞かざるなり、
朱注
賊、害なり、残、傷なり、仁を害する者は、凶暴淫虐、天理を滅絶す、故に之を賊と謂う、義を害する者は、顛倒(てんとう)錯乱、彝倫(いりん)を傷敗す、故に之を残と謂う、一夫は、衆叛(そむ)き親(しん)離れ、復(また)以て君と爲さざるを言うなり、書に曰く、独夫紂、蓋し四海之に帰せば、則ち天子と爲る、天下之に叛けば、則ち独夫と爲る、以て深く斉王を警(いまし)め、戒(いましめ)を後世に垂(た)れる所なり、○王勉曰く、斯(この)言や、惟(ただ)下に在る者湯武の仁有り、而して上に在る者桀紂の暴有れば則ち可なり、然らざれば、是れ未だ簒弑(さんし)の罪を免れざるなり、


章番号 9 章通し番号 16

通し番号 104 章内番号 1 章通し番号 16 識別番号 2_9_1
本文
孟子斉の宣王に見(まみ)えて曰く、巨室を爲(つく)る、則ち必ず工師をして大木を求めしむ、工師大木を得れば、則ち王喜び、以て能く其任に勝(た)えると爲すなり、匠人斲(けず)りて之を小さくすれば、則ち王怒り、以て其任に勝(た)えずと爲す、夫(それ)人幼にして之を学び、壮にして之を行なわんと欲す、王姑(しばら)く女(なんじ)の学ぶ所を舍(お)きて我に従えと曰わば、則ち何如(いかん)、
朱注
勝、平声、夫、音は扶、舍、上声、女、音は汝、下同じ、○巨室、大宮なり、工師、匠人の長、匠人、衆(おお)くの工人なり、姑、且(しょ)なり、賢人学ぶ所のもの大にして、王之を小にするを欲することを言うなり、

通し番号 105 章内番号 2 章通し番号 16 識別番号 2_9_2
本文
今此に璞(はく)玉有り、万鎰(いつ)と雖も、必ず玉人をして之を彫琢(ちょうたく)せしむ、国家を治めるに至り、則ち姑(しばら)く女(なんじ)の学ぶ所を舍(お)きて我に従えと曰わば、則ち何ぞ以て玉人に玉を彫琢するを教えるに異ならんや、
朱注
鎰、音は溢、○璞(はく)、玉の石中に在るもの、鎰(いつ)、二十両なり、玉人、玉工なり、敢えて自ら治めずして之を能くする者に付すは、之を愛するの甚しきなり、国家を治めれば、則ち私欲に徇(したが)いて賢に任ぜず、是れ国家を愛することが玉を愛するに如(し)かざるなり、○范氏曰く、古の賢者は、常に人君が其の学ぶ所を行なうこと能わざるを患(うれ)う、而るに世の庸君は、亦常に賢者が其の好む所に従うこと能わざるを患(うれ)う、是を以て君臣相(あい)遇(あ)う、古自(よ)り以て難と爲す、孔孟は終身にして遇(あ)わず、蓋し此を以てのみ、


章番号 10 章通し番号 17

通し番号 106 章内番号 1 章通し番号 17 識別番号 2_10_1
本文
齊人燕を伐(う)ち、之に勝つ、
朱注
史記を按ずるに、燕王噲(かい)は国を其の相(しょう)子之(し)に讓る、而して国大いに乱れる、斉因りて之を伐つ、燕の士卒戦わず、城門閉じず、遂(つい)に大いに燕に勝つ、

通し番号 107 章内番号 2 章通し番号 17 識別番号 2_10_2
本文
宣王問いて曰く、或いは寡人に取る勿れと謂い、或いは寡人に之を取れと謂う、万乗の国以て万乗の国を伐つ、五旬(じゅん)にして之を挙(あ)ぐ、人力此に至らず、取らざれば必ず天殃(おう)有り、之を取ること何如(いかん)、
朱注
乗、去声、下同じ、○燕を伐つを以て宣王の事と爲す、史記、諸書と同じからず、已に序説に見ゆ、

通し番号 108 章内番号 3 章通し番号 17 識別番号 2_10_3
本文
孟子対えて曰く、之を取りて燕の民悦(よろこ)べば、則ち之を取れ、古の人之を行なう者有り、武王是れなり、之を取りて燕の民悦ばざれば、則ち取ること勿れ、古の人之を行う者有り、文王是れなり、
朱注
商の紂の世、文王天下を三分し其二を有(たも)ち、以て殷に服事す、武王十三年に至り、乃ち紂を伐(う)ちて天下を有(たも)つ、張子曰く、此事は、間(あいだ)に髮を容(い)れず、一日の間(あいだ)、天命未だ絶えず、則ち是れ君臣なり、当日命絶えれば、則ち独夫と爲る、然れば命の絶えるや否やは、何を以て之を知る、人の情のみ、諸侯期せずして会(あ)う者八百、武王安(いずくん)ぞ得て之を止めんや、

通し番号 109 章内番号 4 章通し番号 17 識別番号 2_10_4
本文
万乗の国を以て万乗の国を伐つ、食(し)を簞(たん)し漿(こしょう)を壺(こ)し、以て王の師を迎う、豈(あ)に他有らんや、水火を避くるなり、如(も)し水益(ますます)深く、如(も)し火益(ますます)熱(あつ)ければ、亦運(めぐ)るのみ、
朱注
簞、音は丹、食、音は嗣、○簞、竹器、食、飯なり、運、転なり、斉若し更(さら)に暴虐を爲せば、則ち民将に転じて救いを他人に望まんとすを言う、○趙氏曰く、征伐の道、当に民心に順うべし、民心悦べば、則ち天意得る、


章番号 11 章通し番号 18

通し番号 110 章内番号 1 章通し番号 18 識別番号 2_11_1
本文
斉人燕を伐ち之を取る、諸侯将(まさ)に燕を救うことを謀らんとす、宣王曰く、諸侯寡人を伐つを謀る者多し、何を以て之を待たん、孟子対えて曰く、臣聞く七十里にして政を天下に爲す者、湯是れなり、未だ千里以て人を畏れる者を聞かざるなり、
朱注
千里にして人を畏るは、斉王を指すなり、

通し番号 111 章内番号 2 章通し番号 18 識別番号 2_11_2
本文
書に曰く、湯一(はじ)めて征す、葛自(よ)り始む、天下之を信ず、東面して征すれば西夷怨む、南面して征すれば北狄怨む、曰く、奚爲(なんす)れぞ我を後(のち)にする、民が之を望むこと、大旱(たいかん)の雲霓(げい)を望むが若(ごと)きなり、市に帰(ゆ)く者止(と)まらず、耕す者変(うご)かず、其君を誅して其民を弔(あわ)れむ、時雨の降(ふ)るが若(ごと)し、民大いに悦ぶ、書に曰く、我后(きみ)を徯(ま)つ、后(きみ)来たらば其蘇(よみがえ)らん、
朱注
霓、五稽反、徯、胡禮反、○両(ふたつ)書を引く、皆商書の仲虺之誥(ちゅうきしこう)の文なり、今の書の文と亦小し異なる、一征、初めて征するなり、天下之を信ずは、其志は民を救うに在り、暴を爲さざるを信じるなり、奚爲(なんす)れぞ我を後(のち)にするは、湯は何爲(なんす)れぞ先に来たりて我の国を征さざるを言うなり、霓(げい)、虹なり、雲合えば則ち雨、虹見えれば則止(や)む、変、動なり、徯(けい)、待なり、后、君なり、蘇、生を復するなり、他国の民、皆湯以て我君と爲す、而して其来たりて、己をして蘇息(そそく)することを得せしめるを待つなり、此は湯の七十里にして政を天下に爲す所以を言うなり、

通し番号 112 章内番号 3 章通し番号 18 識別番号 2_11_3
本文
今燕其民を虐(しいた)げる、王往きて之を征せば、民以爲(おも)えらく、将に己を水火の中に拯(すく)わんとするなり、食(し)を簞(たん)し漿(しょう)を壺(こ)し、以て王の師を迎う、若し其父兄を殺し、其子弟を係累し、其宗廟(びょう)を毀(こぼ)ち、其重器を遷(うつ)せば、之を如何(いかん)ぞ其可ならん、天下固より斉の彊(つよ)きを畏(おそ)るなり、今又(さら)に地を倍にして仁政を行なわざれば、是れ天下の兵を動かすなり、
朱注
累、力追反、○拯、救なり、係累、縶(ちょう)縛(ばく)なり、重器、宝器なり、畏、忌なり、地を倍にするは、燕を幷(あわ)して一倍の地を増すなり、斉の燕を取る、若し能く湯の葛を征するが如ければ、則ち燕人之を悦びて、齊は政を天下に爲すべし、今乃ち仁政を行わずして肆(ほしいまま)に残虐を爲せば、則ち以て燕民の望みを慰(やす)んじて、諸侯の心を服すること無し、是を以て千里を以て人を畏れることを免れざるなり、

通し番号 113 章内番号 4 章通し番号 18 識別番号 2_11_4
本文
王速(すみやか)に令を出し、其旄倪(ぼうげい)を反し、其重器を止(とど)め、燕の衆に謀り、君を置きて後之を去れば、則ち猶(なお)止(と)めるに及ぶべきなり、
朱注
旄は耄と同じ、倪、五稽反、○反、還なり、旄、老人なり、倪、小児なり、虜(りょ)略する所の老小を謂うなり、猶、尚なり、止めるに及ぶは、其未だ発せずして之を止むに及ぶなり、○范氏曰く、孟子斉梁の君に事(つか)え、道徳を論ずれば、則ち必ず堯舜を称(い)う、征伐を論ずれば、則ち必ず湯武を称(い)う、蓋し民を治めるに堯舜に法(のっと)らざれば、則ち是れ暴と爲る、師を行(な)すに湯武に法(のっと)らざれば、則ち是れ乱と爲る、豈(あに)吾君能わずと謂いて、学ぶ所を舍(す)てて以て之に徇(したが)うべけんや、


章番号 12 章通し番号 19

通し番号 114 章内番号 1 章通し番号 19 識別番号 2_12_1
本文
鄒、魯と鬨(たたか)う、穆(ぼく)公問いて曰く、吾有司死す者三十三人、而して民之に死すこと莫きなり、之を誅すれば、則ち勝(あ)げて誅すべからず、誅さざれば、則ち其長上の死を疾視して救わず、之を如何(いかん)せば則ち可ならん、
朱注
鬨、胡弄反、勝、平声、長、上声、下同じ、○鬨(こう)、鬭(たたか)う声なり、穆公、鄒の君なり、勝(あ)げて誅すべからずは、人衆(おお)く尽(ことごと)く誅すべからざるを言うなり、長上、有司を謂うなり、民其上を怨む、故に其死を疾視して救わざるなり、

通し番号 115 章内番号 2 章通し番号 19 識別番号 2_12_2
本文
孟子対えて曰く、凶年饑歳に、君の民は、老弱は溝壑(がく)に転ず、壮者は散じて四方に之(ゆ)く者、幾千人、而(しか)るに君の倉廩(りん)実(み)ち、府庫充(み)つ、有司以て告ぐること莫し、是れ上慢(おこた)りて下を残(そこな)うなり、曽子曰く、之を戒(いまし)めよ之を戒めよ、爾(なんじ)に出るものは、爾に反(かえ)るものなり、夫(それ)民今にして後之に反(かえ)すを得るなり、君尤(とが)むること無かれ、
朱注
幾、上声、夫、音は扶、○轉、飢餓し輾転して死ぬなり、充、満なり、上、君及び有司を謂うなり、尤、過なり、

通し番号 116 章内番号 3 章通し番号 19 識別番号 2_12_3
本文
君が仁政を行えば、斯(すなわ)ち民は其上に親しみ、其長に死せん、
朱注
君は仁ならずして富を求む、是を以て有司は斂(れん)を重くするを知りて、民を恤(やす)んずるを知らず、故に君が仁政を行えば、則ち有司は皆其民を愛して、民亦之を愛す、○范氏曰く、書に曰く、民惟(これ)邦(くに)の本、本固ければ邦寧(やすら)かなり、倉廩(りん)府庫有るは、以て民の爲にする所なり、豊年則ち之に斂し、凶年則ち之に散ず、其飢寒を恤(すく)い、其疾苦を救う、是を以て民は其上を親愛す、危難有れば則ち赴(おもむ)き之を救う、子弟の父兄を衛(まも)り、手足の頭目を捍(まも)るが如きなり、穆公己に反(かえ)ること能わず、猶(なお)罪を民に帰せんと欲す、豈誤らずや、


章番号 13 章通し番号 20

通し番号 117 章内番号 1 章通し番号 20 識別番号 2_13_1
本文
滕の文公問いて曰く、滕、小国なり、齊、楚を間(へだ)てるなり、斉に事(つか)えんか、楚に事えんか、
朱注
間、去声、○滕、国名、

通し番号 118 章内番号 2 章通し番号 20 識別番号 2_13_2
本文
孟子対えて曰く、是(この)謀吾能く及ぶ所に非ざるなり、已(や)むこと無ければ、則ち一有り、斯(この)池を鑿(うが)ち、斯城を築(きず)き、民と之を守る、死を效(いた)して民去らざれば、則ち是れ爲すべきなり、
朱注
無已、前篇に見ゆ、一、一説を謂うなり、效、猶致すがごときなり、国君は社稷(しょく)に死す、故に死を致して以て国を守る、民亦之が爲に死守して去らずに至るは、則ち以て深く其心を得ること有る者に非ざれば、能わざるなり、○此章言えらく、国を有(たも)つ者当に義を守りて民を愛すべし、僥倖(ぎょうこう)にして苟(かりそめ)に免れるべからず、


章番号 14 章通し番号 21

通し番号 119 章内番号 1 章通し番号 21 識別番号 2_14_1
本文
滕の文公問いて曰く、斉人將に薛(せつ)に築(きず)かんとす、吾甚だ恐る、之を如何(いかん)せば則ち可ならん、
朱注
薛、国名、滕に近し、斉其地を取りて之に城(きず)く、故に文公其己に偪(せま)るを以て恐れるなり、

通し番号 120 章内番号 2 章通し番号 21 識別番号 2_14_2
本文
孟子対えて曰く、昔者(むかし)大王邠(ひん)に居る、狄人(てきじん)之を侵す、去りて岐(き)山の下(もと)に之(ゆ)きて居る、択びて之を取るに非ず、已(や)むを得ざるなり、
朱注
邠、豳と同じ、○邠、地名、大王は岐下以て善と爲し、択び取りて之に居るに非ざるを言うなり、詳しくは下章に見ゆ、

通し番号 121 章内番号 3 章通し番号 21 識別番号 2_14_3
本文
苟(もし)善を爲せば、後世子孫必ず王者有らん、君子業を創(はじ)め統を垂(た)れ、継ぐべきを爲すなり、夫(かの)成功の若(ごと)きは、則ち天なり、君は彼を如何(いかん)せんや、善を爲すを彊(つと)めるのみ、
朱注
夫、音は扶、彊、上声、○創は、造、統は、緒なり、言えらく能く善を爲せば、則ち大王の如く、其地を失なうと雖も、其後世遂に天下を有(たも)つ、乃ち天理なり、然れば君子は基業を前に造(はじ)め、統緒を後に垂る、但(ただ)能く其正を失わずして、後世をして継続して行うべからしむのみ、夫(かの)成功の若(ごと)き、則ち豈必とすべけんや、彼、斉なり、君の力既に之を如何(いかん)ともすること無ければ、則ち但(ただ)善を爲すに彊(つと)め、其をして継ぐべからしめて命を天に俟(ま)つのみ、○此章言えらく、人君但(ただ)当に力を其の当に爲すべき所に竭(つく)すべし、幸を其の必とし難き所に徼(もと)むべからず、


章番号 15 章通し番号 22

通し番号 122 章内番号 1 章通し番号 22 識別番号 2_15_1
本文
滕(とう)の文公問いて曰く、滕は、小国なり、力を竭して以て大国に事う、則(しかる)に免るを得ず、之を如何(いかん)すれば則ち可ならん、孟子対えて曰く、昔者(むかし)大王邠(ひん)に居る、狄人之を侵す、之に事(つか)えるに皮幣を以てし、免るるを得ず、之に事えるに犬馬を以てし、免るるを得ず、之に事えるに珠玉を以てし、免るるを得ず、乃ち其耆(き)老を属(あつ)めて之に告げて曰く、狄人の欲する所は、吾が土地なり、吾之を聞くなり、君子は其の以て人を養う所のものを以て人を害さず、二三子(し)何ぞ君無きを患(うれ)えん、我将に之を去らんとす、邠(ひん)を去り、梁山を踰(こ)え、岐山の下(もと)に邑(ゆう)して居る、邠人曰く、仁人なり、失うべからざるなり、之に従う者市に帰(ゆ)くが如し、
朱注
属、音は燭、○皮、虎(こ)豹(ひょう)麋(び)鹿(ろく)の皮を謂うなり、幣、帛(はく)なり、属、会集なり、土地は本は物を生じ以て人を養う、今地を争いて人を殺す、是れ其人を養う所以の者を以て人を害するなり、邑、邑を作るなり、帰市、人衆(おお)く先を争うなり、

通し番号 123 章内番号 2 章通し番号 22 識別番号 2_15_2
本文
或(あるひと)曰く、世守(せいしゅ)なり、身の能く爲す所に非ざるなり、死を效(いた)して去ること勿れ、
朱注
又言えらく、或(あるひと)謂う、土地乃ち先人受くる所にして之を世守するもの、己能く専らにする所に非ず、但(ただ)当に死を致して之を守るべし、舍(す)て去るべからず、此は国君は社稷に死するの常法なり、伝に謂う所の国滅び君之に死すは正なり、正(まさ)に此を謂うなり、

通し番号 124 章内番号 3 章通し番号 22 識別番号 2_15_3
本文
君に請う斯(この)二のもので択べ、
朱注
能く大王の如ければ則ち之を避(さ)る、能わざれば則ち謹んで常法を守る、蓋し国を遷して以て存を図るは、権なり、正を守りて死を俟(ま)つは、義なり、己を審(はか)り力を量(はか)り、択びて之を処せば可なり、○楊氏曰く、孟子の文公に於(おけ)るや、始め之に告げるに死を效(いた)すを以てするのみ、礼の正なり、其甚だ恐れるに至り、則ち大王の事以て之に告げるは、已(や)むことを得るに非ざるなり、然れども大王の徳無くして去れば、則ち民或いは従わずして遂に亡に至る、則ち又死を效すの愈(まさ)ると爲(な)すに若(し)かず、故に又斯(この)二者に於て択ぶを請う、又曰く、孟子論ずる所、世俗自(よ)り之を観(み)れば、則ち謀無しと謂うべし、然れども理の爲すべきは、此如きに過ぎず、此を舍(す)てれば則ち必ず儀秦の爲(い)を爲す、凡そ事は可を求め、功は成るを求め、取ることは智謀の末に於てすることを必とし、天理の正に循(したが)わざるは、聖賢の道に非ざるなり、


章番号 16 章通し番号 23

通し番号 125 章内番号 1 章通し番号 23 識別番号 2_16_1
本文
魯の平公将に出んとす、嬖人(へいじん)臧倉(ぞうそう)なる者請いて曰く、他日君出ず、則ち必ず有司に之(ゆ)く所を命ず、今乗輿已(すで)に駕(が)す、有司未だ之(ゆ)く所を知らず、敢えて請う、公曰く、将に孟子に見(あ)わんとす、曰く、何ぞや、君が身を軽んじて以て匹夫(ひっぷ)に先だつを爲す所は、賢と以爲(おも)うか、礼義は賢者由(よ)り出ず、而(しか)るに孟子の後の喪(も)、前(さき)の喪を踰(こ)ゆ、君見(あ)うこと無かれ、公曰く、諾(だく)、
朱注
乗、去声、○乗輿、君の車なり、駕、馬を駕すなり、孟子前に父を喪(そう)し、後に母を喪す、踰、過なり、其母を厚くし父を薄くするを言うなり、諾、応(こた)える辞なり、

通し番号 126 章内番号 2 章通し番号 23 識別番号 2_16_2
本文
楽正子入りて見(まみ)えて曰く、君奚爲(なんす)れぞ孟軻に見(あわ)ざる、曰く、或(あるひと)寡人に告げて曰く、孟子の後の喪、前(さき)の喪に踰(こ)ゆ、是を以て往(ゆ)きて見(あ)わざるなり、曰く、何ぞや、君の謂う所の踰うは、前に士を以てし、後に大夫を以てするか、前に三鼎(てい)を以てし、後に五鼎を以てするか、曰く、否、棺槨(かんかく)衣衾(きん)の美を謂うなり、曰く、謂う所の踰ゆに非ざるなり、貧富同じからざるなり、
朱注
入見の見は、音は現、与は、平声、○樂正子、孟子の弟子なり、魯に仕う、三鼎は、士の祭礼なり、五鼎は、大夫の祭礼なり、

通し番号 127 章内番号 3 章通し番号 23 識別番号 2_16_3
本文
楽正子孟子に見えて曰く、克が君に告ぐ、君爲に来たり見(あ)わんとするなり、嬖人(へいじん)に臧倉(ぞうそう)なる者有り、君を沮(と)める、君は是を以て来るを果たさざるなり、曰く、行くは之を使(せし)めること或(あ)り、止まるは之を尼(と)めること或(あ)り、行止人の能くする所に非ざるなり、吾の魯侯に遇(あ)わざるは、天なり、臧氏の子、焉(いずくん)ぞ能く予(われ)をして遇(あ)わざらしめんや、
朱注
爲、去声、沮、慈呂反、尼、女乙反、焉、於虔反、○克は、楽正子の名なり、沮、尼、皆之を止むの意なり、言えらく、人の行く、必ず人が之を使(せし)むる者有り、其止まる、必ず人が之を尼(と)める者有り、然るに其の以て行く所、以て止まる所は、則ち固より天命有り、而して此は人能く使(せし)める所に非ず、亦此は人能く尼(と)める所に非ざるなり、然れば則ち我の遇(あ)わざる、豈臧倉の能く爲す所かな、○此章言えらく、聖賢の出処は、時運の盛衰に関(かか)わる、乃ち天命の爲す所、人力の及ぶべきに非ず、


3 公孫丑章句上 gōng sūn choǔ zhāng jù shàng

章番号 1 章通し番号 24

通し番号 128 章内番号 1 章通し番号 24 識別番号 3_1_1
本文
公孫丑問いて曰く、夫子(ふうし)斉で当路なれば、管仲晏子の功を、復(また)許(き)すべきか、
朱注
復、扶又反、○公孫丑、孟子の弟子、斉人なり、当路、要地に居るなり、管仲、斉の大夫、名夷吾、桓公に相として、諸侯に霸たり、許、猶期のごときなり、孟子未だ嘗て政を得ず、丑蓋し辞を設(もう)け以て問うなり、

通し番号 129 章内番号 2 章通し番号 24 識別番号 3_1_2
本文
孟子曰く、子は誠に斉人なり、管仲晏子を知るのみ、
朱注
斉人但(ただ)其国二子有るを知るのみ、復(また)聖賢の事有るを知らず、

通し番号 130 章内番号 3 章通し番号 24 識別番号 3_1_3
本文
或(あるひと)曽西に問いて曰く、吾子(ごし)は子路と孰(いずれ)か賢(まさ)る、曽西は蹵然(しゅくぜん)として曰く、吾先子の畏る所なり、曰く、然れば則ち吾子管仲と孰か賢る、曽西は艴然(ふつぜん)として悦(よろこ)ばずして曰く、爾(なんじ)何ぞ曽(すなわ)ち予(われ)を管仲に比する、管仲は君を得る、彼(か)の如く其れ専らなり、国政を行う、彼(か)の如く其れ久しきなり、功烈、彼如く其れ卑(ひく)きなり、爾何ぞ曽(すなわ)ち予を是に比する、
朱注
蹵(しゅく)、子六反、艴(ふつ)、音は拂、又は音は勃、曽、並(とも)に音は増、○孟子は曽西と或人との問答を引くこと此の如し、曽西、曽子の孫、蹵、不安の貌、先子、曽子なり、艴、怒色なり、曾の言、則なり、烈、猶光のごときなり、桓公独り管仲に任ずること四十余年、是れ専らにして且(かつ)久しきなり、管仲王道を知らずして霸術を行う、故に功烈は卑(ひく)しと言うなり、楊氏曰く、孔子は子路の才を言いて曰く、千乗の国、其賦(ふ)を治めしむべきなり、其をして施爲に見(あらわ)しめれば、是如きのみ、其諸侯を九合し、天下を一匡(きょう)するに、固より逮(およ)ばざる所有るなり、然れば則ち曽西子路を推尊すること此如くして、管仲に比するを羞(は)じるは何ぞや、之を御者に譬(たと)えば、子路則ち範して我馳驅(ちく)して獲(え)ざる者なり、管仲の功、詭遇にして禽(きん)を獲るのみ、曽西、仲尼の徒なり、故に管仲の事を道(い)わず、

通し番号 131 章内番号 4 章通し番号 24 識別番号 3_1_4
本文
曰く、管仲、曽西の爲さざる所なり、而るに子は我が爲に之を願うか、
朱注
子爲の爲、去声、○曰、孟子が言うなり、願、望なり、

通し番号 132 章内番号 5 章通し番号 24 識別番号 3_1_5
本文
曰く、管仲其君を以て霸とし、晏子其君を以て顕(あらわ)す、管仲、晏子猶爲(な)すに足らざる与(か)、
朱注
与、平声、顕、名を顕(あらわ)すなり、

通し番号 133 章内番号 6 章通し番号 24 識別番号 3_1_6
本文
曰く、斉以て王たること、由(なお)手を反(かえ)すがごときなり、
朱注
王、去声、由、猶通ず、○手を反すは、易を言うなり、

通し番号 134 章内番号 7 章通し番号 24 識別番号 3_1_7
本文
曰く、是の若ければ、則ち弟子の惑い滋(ますます)甚し、且(それ)文王の徳を以てして、百年にして後崩ず、猶未だ天下に洽(あまね)からず、武王、周公之を継ぐ、然る後大いに行わる、今王を言うこと易(やす)きが若き然(なり)、則ち文王は法とするに足らざるか、
朱注
易、去声、下同じ、与、平声、○滋、益なり、文王は九十七にして崩ず、百年と言うは、成数を挙ぐなり、文王天下を三分し、纔(わずか)に其二を有(たも)つ、武王商に克(か)ち、乃ち天下を有(たも)つ、周公は成王に相たりて、礼を制し楽を作る、然る後教化大いに行わる、

通し番号 135 章内番号 8 章通し番号 24 識別番号 3_1_8
本文
曰く、文王何ぞ可当(あた)るべけんや、湯由(よ)り武丁に至る、賢聖の君六七作(おこ)る、天下殷に帰すこと久し、久しければ則ち変じ難きなり、武丁諸侯を朝し天下を有(たも)つは、猶之を掌(たなごころ)に運(めぐ)らすがごときなり、紂の武丁を去ること未だ久しからざるなり、其の故家(こか)遺俗(いぞく)、流風善政、猶存するもの有り、又微子、微仲、王子比干、箕子(きし)、膠鬲(こうかく)有り、皆賢人なり、相(あい)与(とも)に之を輔相す、故に久しくして後之を失なうなり、尺地も其有に非ざる莫きなり、一民も其臣に非ざる莫きなり、然り而して文王猶(なお)方百里で起る、是を以て難きなり、
朱注
朝、音は潮、鬲、音は隔、又音は歴、輔相の相、去声、猶方の猶、由と通ず、○当、猶敵のごときなり、商は成湯自(よ)り武丁に至る、中間に太甲、太戊(ぼう)、祖乙(そいつ)、盤庚(ばんこう)皆賢聖の君なり、作、起なり、武丁自(よ)り紂に至る凡(みな)で九世、故家、旧臣の家なり、

通し番号 136 章内番号 9 章通し番号 24 識別番号 3_1_9
本文
斉人言えること有りて曰く、智慧有りと雖も、勢に乗るに如(し)かず、鎡基(じき)有りと雖も、時を待つに如かず、今の時則ち易(やす)きこと然るなり、
朱注
鎡、音は茲、○鎡基、田器なり、時、耕種の時を謂う、

通し番号 137 章内番号 10 章通し番号 24 識別番号 3_1_10
本文
夏后、殷、周の盛、地未だ千里を過(すぐ)るもの有らざるなり、而して斉は其地を有(たも)つ、雞鳴狗吠(ばい)相(あい)聞え、四境に達す、而して斉は其民を有つ、地改め辟(ひら)かず、民改め聚(あつ)めず、仁政を行いて王、之を能く禦(とど)めること莫きなり、
朱注
辟、闢と同じ、○此は其勢の易を言うなり、三代盛時、王畿(き)千里を過ぎず、今斉已に之を有つ、文王の百里と異なる、又雞犬の声相聞え、国都自(よ)り以て四境に至るは、民居稠(ちゅう)密するを言うなり、

通し番号 138 章内番号 11 章通し番号 24 識別番号 3_1_11
本文
且(また)王者の作(おこ)らざる、未だ此時より疏(なが)きもの有らざるなり、民の虐政に憔悴(しょうすい)すること、未だ此時より甚しきもの有らざるなり、飢なる者食を爲し易く、渴者飮を爲し易し、
朱注
此は其時の易を言うなり、文武自(よ)り此に至る七百余年、商の賢聖継(つづ)きて作(おこ)ると異なる、民虐政に苦しむこと之甚だし、紂の猶(なお)善政有ると異なる、飮食を爲し易きは、飢渴の甚きは、甘美を待たざるを言うなり、

通し番号 139 章内番号 12 章通し番号 24 識別番号 3_1_12
本文
孔子曰く、徳の流行、置郵して命を伝えるより速(すみや)かなり、
朱注
郵、音は尤、○置、駅なり、郵、馹(じつ)なり、以て命を伝える所なり、孟子が孔子の言を引くこと此の如し、

通し番号 140 章内番号 13 章通し番号 24 識別番号 3_1_13
本文
今の時に当(あた)り、万乗の国仁政を行えば、民の之を悦(よろこ)ぶこと、猶倒懸を解くがごときなり、故に事は古の人に半(なかば)して、功は必ず之に倍す、惟(ただ)此時然りと爲す、
朱注
乗、去声、○倒懸、困苦に喩(たと)えるなり、施す所の事、古人に半(なかば)にして、功は古人に倍す、時勢易きに由り徳行くこと速(すみやか)なり、


章番号 2 章通し番号 25

通し番号 141 章内番号 1 章通し番号 25 識別番号 3_2_1
本文
公孫丑問いて曰く、夫子に斉の卿相を加え、道を行うを得れば、此に由りて霸王と雖も異(あやし)まず、此如ければ、則ち心を動かすや否や、孟子曰く、否(いな)、我四十にして心を動かさず、
朱注
相、去声、○此は上章を承け、又(さら)に問を設(もう)く、孟子若(もし)位を得て道を行わば、則ち此に由りて霸王の業を成すと雖も、亦怪(あや)しむに足らず、任大きく責重きこと此如し、亦恐懼疑惑して其心を動かす所有るか、四十強仕、君子は道明らかにして徳立つの時なり、孔子四十にして惑わず、亦心を動かさざるの謂(いい)なり、

通し番号 142 章内番号 2 章通し番号 25 識別番号 3_2_2
本文
曰、是(かく)の若ければ、則ち夫子孟賁(ほん)に過ぎること遠し、曰く、是れ難からず、告子は我に先だちて心を動かさず、
朱注
賁、音は奔、○孟賁(ほん)は、勇士なり、告子は、名は不害なり、孟賁は血気の勇なり、丑蓋し之を借り以て孟子心を動かさずの難を賛(たた)える、孟子言えらく告子未だ道を知ると爲さず、乃(しかる)に能く我に先だちて心を動かさず、則ち此亦未だ難と爲(す)るに足らざるなり、

通し番号 143 章内番号 3 章通し番号 25 識別番号 3_2_3
本文
曰く、心を動かさざるは道有るか、曰く、有り、
朱注
程子曰く、心主有れば、則ち能く動かさざること能う、

通し番号 144 章内番号 4 章通し番号 25 識別番号 3_2_4
本文
北宮黝(ゆう)の勇を養(おさ)めるや、膚撓(たわ)まず、目逃(さ)けず、一豪以て人に挫(はず)かしめらるを思うこと、之を市朝に撻(むちう)つが若し、褐寬博(かつかんぱく)に受けず、亦万乗の君に受けず、万乗の君を刺すを視(み)ること、褐夫を刺すが若し、厳(おそ)れる諸侯無し、悪声至れば必ず之を反(かえ)す、
朱注
黝、伊糾反、撓、奴效反、朝、音は潮、乗、去声、○北宮は、姓、黝(ゆう)は、名なり、膚撓(たわ)むは、肌膚(きふ)刺され撓屈するなり、目逃(さ)くは、目を刺され睛を転じて逃避するなり、挫、猶辱のごときなり、褐、毛の布、寬博、寬大の衣、賎者の服なり、受けずは、其挫(はずかしめ)を受けざるなりなり、刺、殺なり、嚴、畏憚(いたん)なり、畏憚すべきの諸侯無きを言うなり、黝(ゆう)は蓋し刺客の流れ、必勝以て主と爲し、心を動かさざる者なり、

通し番号 145 章内番号 5 章通し番号 25 識別番号 3_2_5
本文
孟施舍の勇を養(おさ)める所や、曰く、勝たざるを視(み)ること猶勝つがごときなり、敵を量(はか)りて後進む、勝を慮(おもんばか)りて後会す、是れ三軍を畏れる者なり、舍豈能く必ず勝つことを爲さんや、能く懼ること無きのみ、
朱注
舍、去声、下同じ、○孟は、姓、施は、発語の声、舍は、名なり、会、合戦(かっせん)なり、舍自ら言えらく、其戦い勝たざると雖も、亦懼(おそ)れる所無し、若し敵を量り勝を慮りて後進み戰わば、則ち是れ勇無く三軍を畏る、舍は蓋し力戦の士、懼ること無きを以て主と爲して、心を動かさざる者なり、

通し番号 146 章内番号 6 章通し番号 25 識別番号 3_2_6
本文
孟施舍は曾子に似る、北宮黝(ゆう)は子夏に似る、夫(かの)二子の勇、未だ其(その)孰か賢(まさ)るを知らず、然り而して孟施舍、守るは約なり、
朱注
夫、音は扶、○黝(ゆう)は務めて人に敵し、舍は専ら己を守る、子夏篤(あつ)く聖人を信ず、曽子諸(これ)を己に反り求める、故に二子の曽子、子夏と、等倫に非ずと雖も、然れども其気象を論ずれば、則ち各(おのおの)似たる所有り、賢、猶勝のごときなり、約、要なり、言えらく二子の勇を論ずれば、則ち未だ誰が勝(まさ)るかを知らず、其守る所を論ずれば、則ち舍黝に比(くら)べ、其要を得ると爲すなり、

通し番号 147 章内番号 7 章通し番号 25 識別番号 3_2_7
本文
昔者(むかし)曾子子襄(じょう)に謂いて曰く、子勇を好むか、吾嘗(かつ)て大勇を夫子(ふうし)に聞く、自(みずから)反(かえり)みて縮(なお)からざれば、褐寬博と雖も、吾惴(おそ)れざらん焉(や)、自反(かえり)みて縮ければ、千万人と雖も、吾往(ゆ)く、
朱注
好、去声、惴、之瑞反、○此は曽子の勇を言うなり、子襄(じょう)、曽子の弟子なり、夫子、孔子なり、縮、直なり、檀弓曰く、古は冠は縮(たて)に縫う、今や衡(よこ)に縫う、又曰く、棺束は縮(たて)に二衡(よこ)に三、惴(ずい)は、之を恐懼するなり、往、往きて之に敵(むか)うなり、

通し番号 148 章内番号 8 章通し番号 25 識別番号 3_2_8
本文
孟施舍の気を守るは、又曽子の約を守るに如かざるなり、
朱注
言えらく、孟施舍曽子に似ると雖も、然れども其守る所は乃ち一身の気なり、又曽子の身に反り理に循(したが)い、守る所尤(もっと)も其要を得るに如かざるなり、孟子の不動心、其原(みなもと)蓋し此に出ず、下文之を詳(つまびら)かにす、

通し番号 149 章内番号 9 章通し番号 25 識別番号 3_2_9
本文
曰く、敢えて問う夫子の不動心と、告子の不動心、聞くことを得べきか、告子曰く、言に得ざれば、心に求めること勿れ、心に得ざれば、気に求めること勿れ、心に得ざれば、気に求めること勿れは可なり、言に得ざれば、心に求めること勿れは不可なり、夫(それ)志、気の帥(すい)なり、気、体の充なり、夫(それ)志は至れり、気次(つ)ぐ、故に曰く、其志を持(じ)して、其気を暴(みだ)すこと無かれ、
朱注
聞与の与、平声、夫志の夫、音は扶、○此一節、公孫丑が問う、孟子は告子の言を誦(い)い、又断ずるに己の意を以てして之に告げるなり、告子謂う、言に於て達さざる所有れば、則ち当に其言を舍(す)て置きて、必ずしも其理を心に反り求めず、心に安からざる所有れば、則ち当に力(つと)めて其心を制すべし、必ずしも更(さら)に其助を気に求めず、此が固く其心を守りて不動の速なる所以なり、孟子既(すで)に其言を誦(い)う、而して之を断じて曰く、彼が心に得ずして諸(これ)を気に求めること勿れと謂うは、本に急にして其末に緩、猶之可なり、言に得ずして諸を心に求めずと謂うは、則ち既に外に失ない、遂に其内に遺(うしな)う、其不可や必なり、然るに凡そ可と曰うは、亦(ただ)僅(わず)かに可にして未だ尽さざる所有るの辞のみ、若し其極を論ずれば、則ち志は固(もと)より心の之(ゆ)く所にして、気の将帥(すい)と爲る、然れども気亦人の以て身に充満する所にして、志の卒徒(そつと)と爲るものなり、故に志固より至極と爲して、気即ち之に次(つ)ぐ、人固より当に其志を敬守すべし、然れども亦其気を養(おさ)めるを致さざるべからず、蓋し其内外本末、交(こもごも)相(あい)培養す、此則ち孟子の心、未だ嘗(かつ)て其不動を必とせずして、自然と不動なる所以の大略なり、

通し番号 150 章内番号 10 章通し番号 25 識別番号 3_2_10
本文
既に、志至れり、気次ぐと曰い、又、其志を持して其気を暴(みだ)ること無かれと曰うは、何ぞや、曰く、志壹(いつ)なれば則ち気を動かし、気壹なれば則ち志を動かすなり、今夫(そ)れ蹶(つまず)く者趨(はし)る者は、是れ気なり、而して反(かえっ)て其心を動かす、
朱注
夫、音は扶、○公孫丑は孟子が志至れり気次ぐと言うを見る、故に問う、此の如ければ則ち専ら其志を持すれば可なり、又其気を暴(みだ)すこと無かれと言うは何ぞや、壹、専一なり、蹶(けつ)、顛躓(てんち)なり、趨(す)、走なり、孟子言えらく、志の向う所専一なれば、則ち気固(もと)より之に従う、然れども気の在る所専一なれば、則ち志亦反(かえっ)て之が爲に動く、如(も)し人顚躓(てんち)趨(すう)走すれば、則ち気専ら是に在りて反て其心を動かす、既に其志を持して、又必ず其気を暴(みだ)すこと無き所以なり、程子曰く、志が気を動かすは什に九、気が志を動かすは什に一、

通し番号 151 章内番号 11 章通し番号 25 識別番号 3_2_11
本文
敢えて問う、夫子悪(いずく)にか長ぜる、曰く、我言を知る、我善く吾が浩然の気を養う、
朱注
悪、平声、○公孫丑復(また)問う、孟子の不動心、以て告子に異なる所此の如きは、何の長ずる所有りて然ること能うか、而して孟子又詳に之に告げるに其故を以てするなり、言を知るは、心を尽し性を知り、凡そ天下の言に於て、以て其理を究極し其是非得失の以て然る所以を識ること有らざる無きなり、浩然、盛大流行の貌、気、即ち謂う所の体の充は、本(もと)自(おの)ずから浩然なり、養を失う故に餒(うえ)る、惟孟子善く之を養い以て其初に復するを爲すなり、蓋し惟(ただ)言を知れば、則ち以て夫(その)道義を明らかにすること有り、而して天下の事に於て疑う所無し、気を養えば、則ち以て夫の道義に配すること有り、而して天下の事に於て懼れる所無し、此れ其の大任に当たりて心を動かさざる所以なり、告子の学、此れと正に相反す、其の不動心、殆(ほとんど)亦冥然(めいぜん)として覚ること無く、悍(かん)然として顧(かえり)みざるのみ、

通し番号 152 章内番号 12 章通し番号 25 識別番号 3_2_12
本文
敢えて問う、何をか浩然の気と謂う、曰く、言い難きなり、
朱注
孟子先に言を知ると言う、而るに丑先に気を養うを問うは、上文方(まさ)に志気を論ずるを承(う)けて言うなり、言い難きは、蓋し其心独り得る所にして、形、声の験(しるし)無く、未だ言語以て形容し易(やす)からざるもの有り、故に程子曰く、此一言を観(み)て、則ち孟子の実に是の気を有するを知るべし、

通し番号 153 章内番号 13 章通し番号 25 識別番号 3_2_13
本文
其気爲(た)るや、至大至剛以て直、養いて害すること無ければ、則ち天地の間に塞(ふさ)がる、
朱注
至大は、初(もと)は限量無し、至剛は、屈撓(どう)すべからず、蓋し天地の正気にして、人得て以て生じるは、其体段本(もと)是の如きなり、惟(ただ)其自ら反みて縮(なお)ければ、則ち其養う所を得る、又作爲して以て之を害する所無ければ、則ち其本体虧(か)けずして充塞し間無し、程子曰、天人一なり、更(さら)に分別せず、浩然の気、乃ち吾気なり、養いて害すること無ければ、則ち天地に塞(み)ちる、一たび私意蔽(おお)う所と爲れば、則ち欿然(かんぜん)として餒(うえ)る、卻(しりぞ)き甚だ小さきなり、謝氏曰く、浩然の気は、須(すべから)ず心が其正を得る時に於て識取すべし、又曰く、浩然は是れ虧(き)欠の時無し、

通し番号 154 章内番号 14 章通し番号 25 識別番号 3_2_14
本文
其気と爲(た)るや、義と道に配す、是れ無ければ餒(うえ)るなり、
朱注
餒、奴罪反、○配は、合いて助け有るの意なり、義は、人心の裁制なり、道は、天理の自然なり、餒、飢乏して気が体に充(み)たざるなり、言えらく、人能く此気を成すを養えば、則ち其気は道義に合いて之が助を爲す、其之を行うことを勇決せしめ、疑憚(たん)する所無からしむ、若(もし)此気無ければ、則ち其一時爲す所未だ必ずしも道義に出でざることはなしと雖も、然れども其体充(み)たざる所有れば、則ち亦疑懼(く)を免れずして、以て爲す有るに足らず、

通し番号 155 章内番号 15 章通し番号 25 識別番号 3_2_15
本文
是れ義を集めて生ずる所のものなり、義は襲(おそ)いて之を取るに非ざるなり、行が心に慊(こころよ)からざること有れば、則ち餒(うえ)る、我故に曰く、告子未だ嘗て義を知らず、其(その)之を外にするを以てなり、
朱注
慊、口簟反、又口劫反、○集義、猶積善と言うがごとし、蓋し事事皆義に合うことを欲するなり、襲、掩取(えんしゅ)なり、斉侯は莒を襲うの襲の如し、言えらく、気以て道義に配すべしと雖も、其之を養(おさ)める始、乃ち事皆義に合い、自ら反(かえりみ)るに常に直なるに由る、是を以て愧怍(きさく)する所無し、而して此気自然に中に発生す、只一事を行い、偶(たまたま)義に合うに由りて、便(すなわ)ち外に掩襲して之を得べきに非ざるなり、慊(けん)、快なり、足なり、言えらく、行う所一(ひとつ)義に合わざる有りて、自(みずか)ら反(かえ)りみて直(なお)からざれば、則ち心に足らずして其体充(み)たざる所有り、然れば則ち義豈外に在らんや、告子は此理を知らず、乃ち曰く仁は内、義は外、而して復(また)義以て事を爲さず、則ち必ず集義以て浩然の気を生ずること能わず、上文の言に得ざれば、心に求めること勿れは、卽ち義を外にするの意なり、詳しくは告子上篇に見ゆ、

通し番号 156 章内番号 16 章通し番号 25 識別番号 3_2_16
本文
必ず事とすること有りて正(き)すること勿れ、心に忘るること勿れ、助長すること勿れ、宋人の若くすること無かれ(然)、宋人其苗の長(そだ)たざるを閔(うれ)いて、之を揠(ぬ)く者有り、芒芒(ぼうぼう)然として帰り、其人に謂いて曰く、今日病(つか)る、予苗の長(そだ)つを助く、其子趨(はし)りて往きて之を視る、苗則ち槁(かれ)る、天下の苗が長(そだ)つを助けざる者は寡(すくな)し、以て益無しと爲して之を舍(す)てる者は、苗を耘(くさぎ)らざる者なり、之が長(そだ)つを助ける者は、苗を揠(ぬ)く者なり、徒(ただ)益無きに非ずして、又之を害す、
朱注
長、上声、揠、烏八反、舍、上声、○必有事焉而勿正、趙氏、程子七字以て句と爲す、近世或いは下文の心字を幷(あわ)せて之を読むものは、亦通ず、必有事焉は、事とする所有るなり、有事於顓臾の有事の如し、正、預期なり、春秋伝曰く、戦いは勝を正(き)さず、是れなり、正心に作るが如き、義亦同じ、此は大学の謂う所の正心とは、語意自ずから同じからざるなり、此は言えらく、気を養うは、必ず義を集めるを以て事と爲して、其效を預期すること勿れ、其或いは未だ充たざれば、則ち但(ただ)当に其事とすること有る所を忘れること勿く、作爲し以て其長を助くるべからざるべし、乃ち義を集め気を養うの節度なり、閔、憂なり、揠、拔なり、芒芒、無知の貌、其人、家人なり、病、疲倦なり、之を舍(す)て耘(くさぎ)らざる者は、其事とすること有る所を忘る、揠(ぬ)きて之が長(そだ)つを助くる者は、之を正(き)して得ず、而して妄りに作爲有る者なり、然れども耘(くさぎ)らざれば則ち養を失なうのみ、揠(ぬ)けば則ち反て以て之を害す、是の二のもの無ければ、則ち気其養を得て害する所無し、告子が義を集めること能わずして、其心を強制せんと欲するが如きは、則ち必ず正助の病を免れること能わず、其謂う所の浩然なるものに於ては、蓋し惟(ただ)善く養わざることなく、又反(かえっ)て之を害す、

通し番号 157 章内番号 17 章通し番号 25 識別番号 3_2_17
本文
何をか言を知ると謂う、曰く、詖(ひ)辞は其蔽(おお)う所を知る、淫辞は其陥る所を知る、邪辞は其離れる所を知る、遁辞は其窮まる所を知る、其心に生じて、其政に害あり、其政に発して、其事に害あり、聖人復起これば、必ず吾が言に従わん、
朱注
詖、彼寄反、復、扶又反、○此は公孫丑復(また)問い、孟子之に答えるなり、詖、偏陂(び)なり、淫、放蕩なり、邪、邪僻(へき)なり、遁、逃避なり、四なるもの相因る、言の病(へい)なり、蔽、遮隔なり、陥、沈溺なり、離、叛去なり、窮、困屈なり、四者亦相因る、則ち心の失なり、人の言有るは、皆心に出ず、其心は正理に明らかにして蔽(おお)うこと無し、然る後其言平正通達にして病無し、苟(もし)然らずと爲すならば、則ち必ず是の四なるものの病有り、其言の病に即(つ)きて、其心の失を知る、又其政事に於て害あるは決然として易(おろそ)かにすべからざるを知ること此の如し、心が道に通じて天下の理に疑い無きに非ざれば、其孰か之を能(よ)くす、彼(かの)告子なる者、言に得ずして、之を心に求めることを肯(がえん)ぜず、義は外(そと)の説を爲すに至る、則ち自ずから四なるものの病を免れず、其何ぞ以て天下の言を知りて疑う所無からんや、○程子曰く、心が道に通ず、然る後是非を弁ずること能う、権衡(けんこう)を持ち以て軽重を較(くら)べるが如し、孟子謂う所の言を知る是れなり、又曰く、孟子言を知る、正(まさ)に、人堂上に在れば、方(まさに)堂下の人の曲直を弁ずること能うが如し、若(もし)猶(なお)未だ堂下の衆人の中に雑(まじ)るを免れざれば、則ち弁決すること能わず、

通し番号 158 章内番号 18 章通し番号 25 識別番号 3_2_18
本文
宰我、子貢は善(よ)く説辞を爲す、冉牛(ぜんぎゅう)、閔子(びんし)、顏淵は善(よ)く徳行を言う、孔子は之を兼ぬ、曰く、我辞命に於て則ち能わざるなり、然らば則ち夫子既に聖か、
朱注
行、去声、○此一節、林氏以て皆公孫丑の問と爲す、是なり、説辞、言語なり、徳行は、心に得て行事に見(あらわ)れるものなり、三子善く德行を言うは、身之を有(たも)つ、故に之を言えば親切にして味有るなり、公孫丑言えらく、数子各(おのおの)長ずる所有り、而して孔子之を兼ぬ、然れども猶(なお)自ら辞命に於て能わずと謂う、今孟子乃ち自ら我能(よ)く言を知り、又(さら)に善く気を養(おさ)むと謂う、則ち是れ言語德行を兼ねて之を有す、然らば則ち豈既に聖ならざるか、此夫子は、孟子を指すなり、○程子曰く、孔子自ら辞命に於て能わずと謂うは、学ぶ者をして本を務めしめんと欲するのみ、

通し番号 159 章内番号 19 章通し番号 25 識別番号 3_2_19
本文
曰く、悪(ああ)是れ何の言ぞや、昔者(むかし)子貢孔子に問いて曰く、夫子聖か、孔子曰く、聖は則ち吾能わず、我は学びて厭(いと)わず、教えて倦(う)まざるなり、子貢曰く、学びて厭(いと)わざるは、智なり、教えて倦(う)まざるは、仁なり、仁且(かつ)智、夫子既に聖たり、夫(それ)聖は、孔子居らず、是れ何の言ぞや、
朱注
悪、平声、夫聖の夫、音は扶、○悪、驚歎の辞なり、昔者以下、孟子敢えて丑の言に当らずして、孔子、子貢問答の辞を引きて以て之に告ぐるなり、此の夫子は、孔子を指すなり、学びて厭(いと)わざるは、智の自(おのずか)ら明なる所以なり、教えて倦(う)まざるは、仁の物に及ぶ所以なり、是れ何の言ぞやを再言するは、以て深く之を拒(こば)む、

通し番号 160 章内番号 20 章通し番号 25 識別番号 3_2_20
本文
昔者(むかし)竊(ひそか)に之を聞く、子夏、子游、子張は皆聖人の一体有り、冉牛、閔子、顏淵は則ち体を具(そな)えて微なり、敢えて安(お)る所を問う、
朱注
此一節、林氏亦以て皆公孫丑の問と爲す、是なり、一体、猶一肢のごときなり、体を具えて微は、其の全体を有するを謂う、但(ただ)未だ広大ならざるのみ、安、処なり、公孫丑復(また)問う、孟子既に敢えて孔子に比(なぞら)えず、則ち此数子に於て何れの所に処らんと欲するや、

通し番号 161 章内番号 21 章通し番号 25 識別番号 3_2_21
本文
曰く、姑(しばら)く是を舍(お)け、
朱注
舍、上声、○孟子且(しばら)く是を置けと言うは、数子至る所のものを以て自ら処(お)るとするを欲さざるなり、

通し番号 162 章内番号 22 章通し番号 25 識別番号 3_2_22
本文
曰く、伯夷、伊尹何如(いかん)、曰く、道を同じくせず、其君に非ざれば事えず、其民に非ざれば使わず、治まれば則ち進み、乱れば則ち退くは、伯夷なり、何(いず)れに事えるとして君に非ざらん、何(いず)れを使うとして民に非ざらん、治まる亦進み、乱れる亦進むは、伊尹なり、以て仕えるべければ則ち仕え、以て止(や)むべければ則ち止(や)む、以て久しくすべければ則ち久しく、以て速かるべければ則ち速しは、孔子なり、皆古の聖人なり、吾未だ行うこと有る能わず、乃ち願う所は則ち孔子を学ぶなり、
朱注
治、去声、○伯夷は、孤竹君の長子なり、兄弟国を遜(ゆず)り、紂を避け隠れて居る、文王の徳を聞きて之に帰す、武王紂を伐つに及び、去りて餓死す、伊尹は、有莘(しん)の処士、湯聘(まね)きて之を用う、之をして桀に就かしむ、桀用いること能わず、復(また)湯に帰る、是の如きもの五たび、乃ち湯に相として桀を伐つなり、三聖人の事、詳しくは此篇の末及び万章下篇に見ゆ、

通し番号 163 章内番号 23 章通し番号 25 識別番号 3_2_23
本文
伯夷、伊尹の孔子に於る、是の若く班(ひと)しきか、曰く、否、生民有る自(よ)り以来、未だ孔子有らざるなり、
朱注
班、斉等の貌、公孫丑問いて、孟子之に答えるに同じからざるを以てするなり、

通し番号 164 章内番号 24 章通し番号 25 識別番号 3_2_24
本文
曰く、然れば則ち同じきこと有るか、曰く、有り、百里の地を得て之に君たらば、皆能く以て諸侯を朝し天下を有(たも)たん、一の不義を行い、一の不辜(こ)を殺して、天下を得るは、皆爲さざるなり、是れ則ち同じ、
朱注
与、平声、朝、音は潮、○有、同じきこと有るを言うなり、百里以てして天下に王たるは、徳の盛なり、一の不義を行い、一の不辜を殺して、天下を得るは、爲さざる所有り、心の正なり、聖人の聖人爲る所以は、其本根の節目の大なるものは、惟(ただ)此に在り、此に於て同じからざれば、則ち亦以て聖人と爲すに足らず、

通し番号 165 章内番号 25 章通し番号 25 識別番号 3_2_25
本文
曰く、敢えて其の以て異なる所を問う、曰く、宰我、子貢、有若、智は以て聖人を知るに足る、汙にして其好む所に阿(おもね)るに至らず、
朱注
汙、音蛙、好、去声、○汙、下なり、三子智以て夫子の道を知るに足る、仮に汙下ならしむとも、必ず私の好む所に阿(おもね)りて之を空誉せず、其言の信ずべきを明らかにするなり、

通し番号 166 章内番号 26 章通し番号 25 識別番号 3_2_26
本文
宰我曰く、予を以て夫子を観るに、堯舜に賢(まさ)ること遠し、
朱注
程子曰く、聖を語れば則ち異ならず、事功は則ち異なること有り、夫子が堯舜に賢るは、事功を語るなり、蓋し堯舜天下を治む、夫子又其道を推し以て教えを万世に垂(た)る、堯舜の道、孔子を得るに非ざれば、則ち後世亦何に拠る所かな、

通し番号 167 章内番号 27 章通し番号 25 識別番号 3_2_27
本文
子貢曰く、其礼を見て其政を知る、其楽を聞きて其徳を知る、百世の後由(よ)り、百世の王を等(くら)ぶるに、之に能く違うこと莫(な)きなり、生民自(よ)り以来、未だ夫子有らざるなり、
朱注
言えらく大凡(たいはん)人の礼を見れば、則ち以て其政を知るべし、人の楽を聞けば、則ち以て其徳を知るべし、是を以て我百世の後従(よ)り、百世の王を差等するに、能く其情を遁(のが)るる者は有ること無し、而して其れ皆夫子の盛の若(ごと)きは莫きを見るなり、

通し番号 168 章内番号 28 章通し番号 25 識別番号 3_2_28
本文
有若曰く、豈惟(ただ)民のみならんや、麒麟(きりん)の走獣に於る、鳳凰(ほうおう)の飛鳥に於る、太山の丘垤(てつ)に於る、河海の行潦(りょう)に於る、類なり、聖人の民に於る、亦類なり、其類を出て、其萃(すい)を拔く、生民自(よ)り以来、未だ孔子より盛んなるは有らざるなり、
朱注
垤、大結反、潦、音は老、○麒麟は、毛蟲(ちゅう)の長なり、鳳凰は、羽蟲の長なり、垤、蟻封(ぎほう)なり、行潦、道の上の源無きの水なり、出、高く出るなり、拔、特起なり、萃、聚なり、言えらく、古自(よ)り聖人固より皆衆人に異なる、然れども未だ孔子の尤も盛んなる如きものは有らざるなり、○程子曰く、孟子の此章は、前聖未だ発さざる所を拡(ひろ)む、学ぶ者宜(よろし)く心を潜(ひそ)めて玩索すべき所なり、


章番号 3 章通し番号 26

通し番号 169 章内番号 1 章通し番号 26 識別番号 3_3_1
本文
孟子曰く、力を以て仁を仮(か)る者は霸なり、霸は必ず大国を有(たも)つ、徳以て仁を行う者は王なり、王は大を待たず、湯は七十里を以てし、文王は百里を以てす、
朱注
力、土地甲兵の力を謂う、仁を仮る者は、本是の心無くて、其事を借り、以て功を爲す者なり、霸は、斉桓、晋文の若き、是れなり、徳以て仁を行えば、則ち吾の心に得るもの自(よ)り之を推す、適(ゆ)きて仁に非ざる無きなり、

通し番号 170 章内番号 2 章通し番号 26 識別番号 3_3_2
本文
力以て人を服する者は、心服に非ざるなり、力贍(た)らざるなり、徳以て人を服する者は、中心悦(よろこ)びて誠に服するなり、七十子の孔子に服するが如きなり、詩に云う、西自(よ)り東自(よ)り、南自(よ)り北自(よ)り、思いて服さざる無し、此の謂(いい)なり、
朱注
贍(せん)、足なり、詩は、大雅文王有声の篇なり、王霸の心、誠僞同じからず、故に人以て之に応ずる所のもの、其同じからず亦此如し、○鄒氏曰く、力以て人を服する者は、人を服するに意有りて、人敢えて服さざるなし、徳以て人を服する者は、人を服することに意無く、人服さざる能わず、古従(よ)り以来、王霸を論じるもの多し、未だ此の章の深切にして著明なるが若きもの有らざるなり、


章番号 4 章通し番号 27

通し番号 171 章内番号 1 章通し番号 27 識別番号 3_4_1
本文
孟子曰く、仁ならば則ち栄なり、不仁ならば則ち辱なり、今辱を悪(にく)んで不仁に居る、是れ猶(なお)湿を悪(にく)んで下に居るがごときなり、
朱注
悪、去声、下同じ、○栄を好み辱を悪(にく)むは、人の常の情なり、然れども徒(ただ)之を悪んで、其の之を得るの道を去らざれば、免れること能わざるなり、

通し番号 172 章内番号 2 章通し番号 27 識別番号 3_4_2
本文
如(も)し之を悪まば、徳を貴(とうと)び士を尊(たっと)び、賢者位に在り、能者職に在るに如くは莫し、国家間暇なり、是時に及び其政刑を明らかにすれば、大国と雖も必ず之を畏る、
朱注
間、音は閑、○此其辱を悪むの情に因りて、之を進めるに仁を強(つと)めるの事を以てするなり、徳を貴(とうと)ぶは、猶徳を尙(たっと)ぶごときなり、士は、則ち其人を指して之を言う、賢は、徳有る者なり、之をして位に在らしめば、則ち以て君を正し俗を善(よ)くするに足る、能、才有る者なり、之をして職に在らしめば、則ち以て政を脩(おさ)め事を立てるに足る、国家間暇は、以て爲す有るべきの時なり、詳かに及の字を味わえば、則ち惟(ただ)日足らざるの意見るべし、

通し番号 173 章内番号 3 章通し番号 27 識別番号 3_4_3
本文
詩に云う、天の未だ陰雨せざるに迨(およ)び、彼桑土を徹(と)り、牖戸(ゆうこ)を綢繆(ちゅうびゅう)す、今此下の民、敢えて予を侮ること或(あ)らんや、孔子曰く、此詩を爲(つく)る者、其(そ)れ道を知る(乎)、能く其国家を治めれば、誰か敢えて之を侮どらん、
朱注
徹、直列反、土、音は杜、綢、音は稠、繆(ちゅう)、武彪反、○詩、豳風(ひんぷう)鴟鴞(しきょう)の篇、周公の作る所なり、迨(たい)、及なり、徹、取なり、桑土、桑根の皮なり、綢繆(ちゅうびゅう)、纏綿(てんめん)補葺(しゅう)なり、牖戶(ゆうこ)、巣の気を通じ出入する処(ところ)なり、予、鳥自ら謂うなり、言えらく、我の患に備えるの詳密なること此如し、今此下に在るの人、或いは敢えて予を侮どる者有らんか、周公は鳥の巣を爲(つく)る此(こ)の如きを以て、君の国を爲(おさ)めるに比(なぞら)う、亦当に患を思いて之を預防すべし、孔子読みて之を賛(たた)え、以て道を知ると爲すなり、

通し番号 174 章内番号 4 章通し番号 27 識別番号 3_4_4
本文
今国家間暇たり、是時に及び般楽(はんらく)怠敖(たいごう)すれば、是れ自ら禍を求めるなり、
朱注
般、音は盤、楽、音は洛、敖、音は傲、○言えらく、其欲に縦(ほしいまま)にして安を偸(ぬす)む、亦惟(これ)日足らざるなり、

通し番号 175 章内番号 5 章通し番号 27 識別番号 3_4_5
本文
禍福、己自(よ)り之を求めざるもの無し、
朱注
上文の意を結ぶ、

通し番号 176 章内番号 6 章通し番号 27 識別番号 3_4_6
本文
詩に云う、永(なが)く言(おも)い命に配(あ)う、自ら多福を求む、太甲に曰く、天の作(な)せる孼(わざわい)は猶(なお)違(さ)くべし、自ら作(な)せる孼(わざわい)は活(い)きるべからず、此の謂(いい)なり、
朱注
孼、魚列反、○詩、大雅文王の篇、永、長なり、言、猶念のごときなり、配、合なり、命、天命なり、此は福の己自(よ)り求めることを言う、太甲、商書の篇名なり、孼、禍なり、違、避なり、活、生なり、書は逭(かん)に作る、逭、猶緩のごときなり、此は禍の己自(よ)り求めることを言う、


章番号 5 章通し番号 28

通し番号 177 章内番号 1 章通し番号 28 識別番号 3_5_1
本文
孟子曰く、賢を尊(たっと)び能を使い、俊傑位に在れば、則ち天下の士皆悦(よろこ)び、其朝に立つこを願う、
朱注
朝、音潮、○俊傑は、才徳の衆に異なる者なり、

通し番号 178 章内番号 2 章通し番号 28 識別番号 3_5_2
本文
市は廛(てん)して征(せい)せず、法して廛せざれば、則ち天下の商皆悦(よろこ)びて其市に蔵(たくわ)えんことを願う、
朱注
廛、市宅なり、張子曰く、或いは其市地の廛に賦して、其貨に征せず、或いは之を治めるに市官の法を以てして、其廛に賦さず、蓋し末を逐(お)う者多ければ則ち廛し以て之を抑え、少なければ則ち必ずしも廛せざるなり、

通し番号 179 章内番号 3 章通し番号 28 識別番号 3_5_3
本文
関は譏(しら)べて征せさざれば、則ち天下の旅皆悦(よろこ)び、其路に出でんことを願う、
朱注
解前篇に見ゆ、

通し番号 180 章内番号 4 章通し番号 28 識別番号 3_5_4
本文
耕やす者助して税せざれば、則ち天下の農皆悦びて、其野に耕やすことを願う、
朱注
但(ただ)力を出し助以て公田を耕し、其私田を税さざるなり、

通し番号 181 章内番号 5 章通し番号 28 識別番号 3_5_5
本文
廛(てん)夫里の布無ければ、則ち天下の民皆悦(よろこ)び、之が氓(たみ)と爲るこをを願う、
朱注
氓、音は盲、○周礼(しゅらい)、宅に毛せざる者は、里布有り、民職事無き者は、夫家の征を出す、鄭氏謂う、宅桑麻を種えざる者は、之を罰し一里二十五家の布を出さしむ、民常の業無き者は、之を罰し一夫百畝の税、一家力役の征を出さしめるなり、今戦国の時、一切之を取る、市宅の民、已に其廛に賦す、又此夫里の布を出さ令(し)む、先王の法に非ざるなり、氓、民なり、

通し番号 182 章内番号 6 章通し番号 28 識別番号 3_5_6
本文
信(まこと)に能く此五なるものを行なえば、則ち鄰国の民、之を仰(あお)ぐこと父母の若し、其子弟を率い、其父母を攻めるは、生民ある自(よ)り以来、未だ能く済(な)す者有らざるなり、此の如ければ、則ち天下に敵無し、天下に敵無き者は、天吏なり、然り而して王たらざる者、未だ之有らざるなり、
朱注
呂氏曰く、天命を奉(う)け行う、之を天吏と謂う、廃興存亡、惟(ただ)天の命ずる所にして、敢えて従わざることなし、湯武の若き、是れなり、○此章言えらく能く王政を行えば、則ち寇戎(こうじゅう)父子と爲る、王政を行わざれば、則ち赤子仇讎(きゅうしゅう)と爲る、


章番号 6 章通し番号 29

通し番号 183 章内番号 1 章通し番号 29 識別番号 3_6_1
本文
孟子曰く、人皆人に忍びざるの心有り、
朱注
天地は物を生ずるを以て心と爲す、而して生ずる所の物は、因りて各(おのおの)夫(その)天地が物を生ずるの心を得て以て心と爲す、人皆人に忍びざるの心有る所以なり、

通し番号 184 章内番号 2 章通し番号 29 識別番号 3_6_2
本文
先王人に忍びざるの心有り、斯(すなわ)ち人に忍びざるの政有り、人に忍びざるの心を以て、人に忍びざるの政を行えば、天下を治むること之を掌(たなごころ)の上に運(めぐ)らすべし、
朱注
言えらく、衆人人に忍びざるの心有りと雖も、然れども物欲之を害し、存する者寡(すくな)し、故に察識し之を政事の間に推すこと能わず、惟(ただ)聖人全く此心を体し、感に随(したが)いて応ず、故に其行う所は、人に忍びざるの政に非ざる無きなり、

通し番号 185 章内番号 3 章通し番号 29 識別番号 3_6_3
本文
人皆人に忍びざるの心有りと謂う所以は、今人乍(たちま)ち孺子(じゅし)の将に井に入らんとするを見れば、皆怵惕(じゅつてき)惻(そく)隠(いん)の心有り、交(まじ)わりを孺子の父母に内(むす)ぶ所以に非ざるなり、誉を郷党、朋友に要(もと)める所以に非ざるなり、其声を悪(にく)んで然るに非ざるなり、
朱注
怵、音黜、内、読むに納と爲す、要、平声、悪、去声、下同じ、○乍(さ)、猶忽(こつ)のごときなり、怵惕、驚動の貌、惻は、傷(いた)むことの切なり、隱は、痛むことの深なり、此は即ち謂う所の人に忍びざるの心なり、内は、結、要は、求、声は、名なり、言えらく乍(たちま)ち之を見るの時、便(すなわ)ち此心有り、見るに随(したが)いて発す、此三なるものに由りて然るに非ざるなり、程子曰く、腔子に満つは是れ惻隱の心なり、謝氏曰く、人須(すべから)く是れ其真の心を識るべし、乍(たちま)ち孺子井に入るを見るの時に方(あた)り、其心怵惕(じゅつてき)す、乃ち真の心なり、思いて得るに非ず、勉めて中(な)るに非ず、天理の自然なり、交を内(むす)び、誉を要(もと)め、其声を悪(にく)みて然るは、即ち人欲の私なり、

通し番号 186 章内番号 4 章通し番号 29 識別番号 3_6_4
本文
是に由りて之を観れば、惻隠の心無きは、人に非ざるなり、羞(しゅう)悪(お)の心無きは、人に非ざるなり、辞讓の心無きは、人に非ざるなり、是非の心無きは、人に非ざるなり、
朱注
悪、去声、下同じ、○羞は、己の不善を恥じるなり、悪は、人の不善を憎むなり、辞は、解(と)きて己を去らしめるなり、譲は、推して以て人に与えるなり、是は、其善を知りて以て是と爲すなり、非は、其悪を知りて以て非と爲すなり、人の以て心と爲す所は、是四なるものを外(はず)れず、故に惻隠を論ずるに因りて悉(ことごと)く之を数う、言えらく、人若し此無ければ、則ち之を人と謂うことを得ず、以て其必ず有ることを明らかにする所なり、

通し番号 187 章内番号 5 章通し番号 29 識別番号 3_6_5
本文
惻隠の心は、仁の端なり、羞悪の心は、義の端なり、辞譲の心は、礼の端なり、是非の心は、智の端なり、
朱注
惻隠、羞悪、辞譲、是非は、情なり、仁、義、礼、智は、性なり、心は、性情を統(す)ぶるものなり、端は、緒なり、其情の発に因りて、性の本然得て見るべし、猶物が中に在りて、緒が外に見えること有るがごときなり、

通し番号 188 章内番号 6 章通し番号 29 識別番号 3_6_6
本文
人の是の四端有るや、猶其の四体有るがごときなり、是四端有りて自ら能わずと謂う者は、自ら賊(そこな)う者なり、其君能わずと謂う者は、其君を賊(そこな)う者なり、
朱注
四体は、四肢なり、人の必ず有する所のものなり、自ら能わざると謂う者は、物欲之を蔽(おお)うのみ、

通し番号 189 章内番号 7 章通し番号 29 識別番号 3_6_7
本文
凡そ我に四端有る者、皆拡めて之を充(み)たすことを知れば、火の始めて然(も)え、泉(せん)の始めて達するが若し、苟(もし)能く之を充(み)たせば、以て四海を保つに足る、苟(もし)之を充(み)たさざれば、以て父母に事えるに足らず、
朱注
拡、音は廓、○拡、推広の意、充、満なり、四端我に在り、随処(ずいしょ)に発見す、皆此に即(つ)き推し拡(ひろ)めて、其本然の量を充満することを知れば、則ち其日に新しく又新し、将に自ずから已(や)むこと能わざらんもの有らんとす、能く此に由りて之を遂充すれば、則ち四海遠しと雖も、亦吾度内にして、保ち難きもの無し、之を充(み)たすこと能わざれば、則ち事の至近と雖も能わず、○此章の論ずる所は、人の性情、心の体用は、本然全く具わりて、各(おのおの)条理有ること此の如し、学ぶ者此に於て、反求黙識して之を拡充すれば、則ち天の以て我に与える所のものは、以て尽(つく)さざること無かるべし、○程子曰く、人皆是心有り、惟(ただ)君子能く拡(ひろ)めて之を充すことを爲す、然る能わざる者は、皆自ら棄つるなり、然れども其充と不充は、亦(ただ)我に在るのみ、又曰く、四端に信を言わざるは、既に誠の心有りて四端と爲れば、則ち信は其中に在り、愚按ずるに、四端の信は、猶五行の土のごとし、位を定めること無く、名を成すこと無く、気を専らにすること無し、而して水、火、金、木、是を待たずして以て生ずるもの無し、故に土は、四行に於て在らざる無し、四時に於ては則ち王(さかん)に寄る、其理亦猶是のごときなり、


章番号 7 章通し番号 30

通し番号 190 章内番号 1 章通し番号 30 識別番号 3_7_1
本文
孟子曰く、矢人(しじん)は豈函人(かんじん)より不仁ならんや、矢人唯(ただ)人を傷つけざることを恐る、函人唯(ただ)人を傷つけることを恐る、巫(ふ)匠(しょう)亦然り、故に術慎まざるべからず、
朱注
函、音は含、○函、甲なり、惻隠の心人皆之有り、是れ矢人の心、本函人の仁に如かざるに非ざるなり、巫(ふ)者人の爲に祈祝す、人の生を利とす、匠(しょう)者棺槨を作爲す、人の死を利とす、

通し番号 191 章内番号 2 章通し番号 30 識別番号 3_7_2
本文
孔子曰く、里は仁を美と爲す、択んで仁に処(お)らざれば、焉(いずくん)ぞ智を得ん、夫(それ)仁は、天の尊爵なり、人の安宅なり、之を禦(とど)めること莫くて不仁は、是れ不智なり、
朱注
焉、於虔反、夫、音は扶、○里、仁厚きの俗有るは、猶(なお)以て美と爲すべし、人以て自ら処(お)る所を択んで仁に於てせざれば、安んぞ智と爲すを得ん、此は孔子の言なり、仁義礼智、皆天与える所の良貴なり、而して仁は天地物を生ずるの心なり、之を得る最も先とし、四なるものを兼ね統ぶ、所謂(いわゆる)元は善の長なり、故に尊爵と曰う、人に在れば則ち本心全体の徳と爲る、天理自然の安有り、人欲陷溺の危無し、人当(まさ)に常に其中に在り、須臾(しゅゆ)も離るべからざるものなるべきなり、故に安宅と曰う、此又孟子孔子の意を釈(と)く、以爲(おも)えらく、仁道の大なること此の如くして、自ら之を爲さざれば、豈不智の甚しきに非ざるか、

通し番号 192 章内番号 3 章通し番号 30 識別番号 3_7_3
本文
不仁不智、無礼無義は、人の役なり、人役にして役と爲るを恥ず、由(なお)弓人にして弓を爲(つく)るを恥じ、矢人にして矢を爲(つく)るを恥じるがごときなり、
朱注
由、猶と通ず、○不仁を以てす、故に不智なり、不智なり、故に礼義の在る所を知らず、

通し番号 193 章内番号 4 章通し番号 30 識別番号 3_7_4
本文
如(も)し之を恥ずれば、仁を爲すに如(し)くは莫し、
朱注
此は亦人の愧(き)恥の心に因りて、之を引きて仁に志(こころざ)さしめるなり、智礼義を言わざるは、仁は全体を該(つつ)む、能く仁を爲せば、則ち三なるもの其中に在り、

通し番号 194 章内番号 5 章通し番号 30 識別番号 3_7_5
本文
仁者は射の如し、射(い)る者は己を正して後に発す、発して中(あた)らず、己に勝つ者を怨(とが)めず、諸(これ)を己に反(かえ)り求めるのみ、
朱注
中、去声、○仁を爲すは、己に由る、而して人に由るかな、


章番号 8 章通し番号 31

通し番号 195 章内番号 1 章通し番号 31 識別番号 3_8_1
本文
孟子曰く、子路、人之に告ぐるに過(あやまち)有るを以てすれば則ち喜ぶ、
朱注
其の聞いて之を改めることを得るを喜ぶ、其自ら脩(おさ)めることに勇(いさ)むこと此如し、周子曰く、仲由(ちゅうゆう)過ちを聞くを喜び、令名窮まること無し、今人過(あやま)ち有りて、人の規(ただ)すことを喜ばず、疾を諱(い)みて、医を忌(い)むが如し、寧(すなわ)ち其身を滅ぼして悟ること無きなり、噫(ああ)、程子曰く、子路、人之に告ぐるに過ち有るを以てすれば則ち喜ぶ、亦百世の師と謂うべし、

通し番号 196 章内番号 2 章通し番号 31 識別番号 3_8_2
本文
禹は善言を聞けば則ち拝す、
朱注
書に曰く、禹は昌言に拝す、蓋し過有るを待たずして、能く己を屈し以て天下の善を受けるなり、

通し番号 197 章内番号 3 章通し番号 31 識別番号 3_8_3
本文
大舜焉(これ)より大なるもの有り、善は人と同じくす、己を舍(す)て人に従う、人に取り以て善を爲すを楽しむ、
朱注
舍、上声、楽、音は洛、○言えらく、舜の爲す所、又(さら)に禹と子路より大なるもの有り、善は人と同じくするは、天下の善を公にして私を爲さざるなり、己未だ善ならざれば、則ち繫吝(けいりん)する所無く、舍(す)てて以て人に従う、人に善有れば、則ち勉強を待たずして、之を己に取る、此が、善を人と同じくすの目なり、

通し番号 198 章内番号 4 章通し番号 31 識別番号 3_8_4
本文
耕稼(か)陶漁自(よ)り以て帝と爲るに至る、人に取るに非ざるもの無し、
朱注
舜之側微、歴山に耕し、河浜(かひん)に陶(とう)し、雷沢に漁す、

通し番号 199 章内番号 5 章通し番号 31 識別番号 3_8_5
本文
諸(これ)を人に取り以て善を爲すは、是れ人与(と)善を爲す者なり、故に君子は人と善を爲すより大なるものは莫し、
朱注
與、猶許のごときなり、助なり、彼の善を取りて之を我に爲す、則ち彼益(ますます)善を爲すことに勧(すす)む、是れ我其善を爲すを助くるなり、能く天下の人をして皆善を爲すに勧(すす)めしむ、君子の善は、孰(いずれ)か此より大なる、○此章言えらく、聖賢が善を楽しむの誠、初(はじ)めから彼此の間無し、故に其人に在るものは、以て己を裕(ゆたか)にすること有り、己に在るものは、以て人に及ぶこと有り、


章番号 9 章通し番号 32

通し番号 200 章内番号 1 章通し番号 32 識別番号 3_9_1
本文
孟子曰く、伯夷は其君に非ざれば事えず、其友に非ざれば友とせず、悪人の朝に立たず、悪人と言わず、悪人の朝に立ち、悪人と言えば、朝衣朝冠以て塗炭(とたん)に坐すが如し、悪を悪(にく)むの心思を推せば、郷人と立ち、其冠正しからざれば、望望然と之を去る、将に浼(けが)れんとするが若し、是故に諸侯其辞命を善(よ)くして至る者有りと雖も、受けざるなり、受けざるものは、是れ亦就(つ)くを屑(いさぎよ)しとせず(已)、
朱注
朝、音は潮、悪悪、上は去声、下は字の如し、浼、莫罪反、○塗、泥なり、郷人、郷里の常人なり、望望、去りて顧(かえり)みざるの貌なり、浼、汙なり、屑、趙氏曰く、潔なり、説文曰く、動作切切なり、就(つ)くを屑(いさぎよ)しとせざるは、以て之に就くを潔と爲して、是に切切ならざるを言うなり、已、語の助辞、

通し番号 201 章内番号 2 章通し番号 32 識別番号 3_9_2
本文
柳下恵は汙君を羞(は)じず、小官を卑(いや)しとせず、進んで賢を隠さず、必ず其道を以てす、遺佚(いいつ)されて怨みず、阨(やく)窮して憫(うれ)えず、故に曰く、爾(なんじ)は爾爲(た)り、我は我爲(た)り、我が側(かたわら)で袒裼(たんてき)裸裎(らてい)すると雖も、爾焉ぞ能く我を浼(けが)さんや、故に由由然として之と偕(とも)にして自ら失わず、援(ひ)きて之を止(とど)めて止まる、援(ひ)きて之を止(とど)めて止まるは、是れ亦去るを屑(いさぎよ)しとせず(已)、
朱注
佚、音は逸、袒(たん)、音は但、裼(てき)、音は錫、裸(ら)、魯果反、裎(てい)、音は程、焉能の焉、於虔反、○柳下恵、魯の大夫、展禽、柳下に居りて恵と諡(おくりな)するなり、賢を隠さずは、道を枉(ま)げざるなり、遺佚、放棄なり、阨、困なり、憫、憂なり、爾爲爾から焉能浼我哉に至るは、恵の言なり、袒裼(たんてき)は、臂(うで)を露(あらわ)にするなり、裸裎(らてい)は、身を露(あらわ)にするなり、由由、自得の貌、偕、並び処(お)るなり、自ら失わざるは、其正を失わざるなり、援(ひ)きて之を止めて止まるは、去るを欲して留まるべきを言うなり、

通し番号 202 章内番号 3 章通し番号 32 識別番号 3_9_3
本文
孟子曰く、伯夷は隘(あい)なり、柳下恵は不恭なり、隘と不恭は、君子は由らざるなり、
朱注
隘、狭窄(さく)なり、不恭、簡慢なり、夷、恵の行、固より皆至極の地に造(いた)る、然れども既に偏(かたよ)る所有れば、則ち弊無きこと能わず、故に由るべからざるなり、


4 公孫丑章句下 gōng sūn choǔ zhāng jù xià

章番号 1 章通し番号 33

通し番号 203 章内番号 1 章通し番号 33 識別番号 4_1_1
本文
孟子曰く、天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かず、
朱注
天の時は、時日、支干、孤虚、王相(おうしょう)の属を謂うなり、地の利は、険阻、城池の固きなり、人の和は、民心の和を得るなり、

通し番号 204 章内番号 2 章通し番号 33 識別番号 4_1_2
本文
三里の城、七里の郭(かく)、環(かこ)みて之を攻めて勝たず、夫(それ)環(かこ)みて之を攻めれば、必ず天の時を得ること有り、然り而して勝たざるのは、是れ天の時は地の利に如かざるなり、
朱注
夫、音は扶、○三里、七里は、城郭の小なるもの、郭は、外城、環は、囲なり、言えらく、四面攻め囲み、曠日(こうじつ)持久す、必ず天の時の善きものに値(あ)うこと有り、

通し番号 205 章内番号 3 章通し番号 33 識別番号 4_1_3
本文
城は高からざるに非ざるなり、池は深からざるに非ざるなり、兵革は堅利ならざるに非ざるなり、米粟(ぞく)は多からざるに非ざるなり、委(す)てて之を去る、是れ地の利は人の和に如かざるなり、
朱注
革、甲なり、粟、穀なり、委、棄なり、言えらく、民心を得ざれば、民爲(ため)に守らざるなり、

通し番号 206 章内番号 4 章通し番号 33 識別番号 4_1_4
本文
故に曰く、民を域(かぎ)るに封疆(ほうきょう)の界を以てせず、国を固めるに山谿(けい)の険を以てせず、天下を威(い)すに兵革の利を以てせず、道を得る者は助け多し、道を失なう者は助け寡(すくな)し、助け寡(すく)なきの至(いたり)は、親戚之に畔(そむ)く、助け多きの至(いたり)は、天下之に順(したが)う、
朱注
域、界限なり、

通し番号 207 章内番号 5 章通し番号 33 識別番号 4_1_5
本文
天下の順(したが)う所を以て、親戚の畔(そむ)く所を攻む、故に君子戦わざること有り、戦えば必ず勝つ、
朱注
言えらく、戦わず、則ち已(おわ)る、戦う、則ち必ず勝つ、○尹氏曰く、天下を得る者は、凡そ民心を得るを以てするのみを言う、


章番号 2 章通し番号 34

通し番号 208 章内番号 1 章通し番号 34 識別番号 4_2_1
本文
孟子将に王に朝せんとす、王が人をして来たらしめて曰く、寡人就(おもむ)きて見(あ)うが如きものなり、寒疾有り、以て風すべからず、朝に将に朝を視(み)んとす、識らず、寡人をして見(あ)うことを得せしむべきか、対えて曰く、不幸にして疾有り、朝(あした)に造(ゆ)くこと能わず、
朱注
章内の朝、並(みな)音は潮、惟(ただ)朝将の朝は、字の如し、造、七到反、下同じ、○王、斉王なり、孟子本将(まさ)に王に朝せんとす、王知らずして疾に託し以て孟子を召す、故に孟子亦疾以て辞すなり、

通し番号 209 章内番号 2 章通し番号 34 識別番号 4_2_2
本文
明日(みょうにち)出て東郭氏に弔す、公孫丑曰く、昔者(きのう)辞するに病を以てし、今日弔す、或者(あるいは)可ならざるか、曰く、昔者(きのう)は疾(や)む、今日愈(い)ゆ、之を如何(いかん)ぞ弔せざらんや、
朱注
東郭氏、斉の大夫の家なり、昔者、昨日なり、或者、疑辞なり、疾に辞して出て弔すは、孔子が孺悲(じゅひ)に見(あ)わず、瑟(しつ)を取りて歌うと同じ意なり、

通し番号 210 章内番号 3 章通し番号 34 識別番号 4_2_3
本文
王人をして疾を問い、医を来たらしむ、孟仲子対えて曰く、昔者(きのう)王命有り、采薪(さいしん)の憂(うれ)い有り、朝に造(ゆ)くこと能わず、今病小し愈(い)ゆ、趨(はし)り朝に造(ゆ)く、我能く至るや否やを識らず、数人をして路に要(ま)たしめて曰く、請う必ず帰ること無くて、朝に造(ゆ)け、
朱注
要、平声、○孟仲子、趙氏以て孟子の従昆(こん)弟と爲す、孟子に学ぶ者なり、采薪の憂い、病にて薪(たきぎ)を采(と)ること能わざるを言う、謙辞なり、仲子権辞以て対す、又人をして孟子を要(ま)たしめ、帰ること勿(な)く而朝に造(ゆ)かしむ、以て己の言を実にす、

通し番号 211 章内番号 4 章通し番号 34 識別番号 4_2_4
本文
已(や)むを得ずして景丑氏に之(ゆ)き宿す、景子曰く、内は則ち父子、外は則ち君臣、人の大倫なり、父子は恩を主とす、君臣は敬を主とす、丑は王の子を敬するを見るなり、未だ以て王を敬する所を見ざるなり、曰く、悪(ああ)、是れ何の言ぞや、斉人は仁義以て王と言う者無し、豈仁義以て美(よ)からずと爲さんや、其心に曰く、是何ぞ与(とも)に仁義を言うに足らんや(云爾)、則ち不敬是より大なること莫し、我堯舜の道に非ざれば、敢えて以て王の前に陳(の)べず、故に斉人は我が王を敬するに如(し)くは莫きなり、
朱注
悪、平声、下同じ、○景丑氏、斉の大夫の家なり、景子、景丑なり、悪、歎辞なり、景丑言う所は、敬の小なるものなり、孟子言う所は、敬の大なるものなり、

通し番号 212 章内番号 5 章通し番号 34 識別番号 4_2_5
本文
景子曰く、否、此の謂(いい)に非ざるなり、礼に曰く、父が召(め)せば諾(だく)すること無し、君が命じ召せば駕(が)するを俟(ま)たず、固より将に朝せんとするなり、王命を聞きて遂に果たさず、宜(ほとんど)夫(そ)の礼と相(あい)似ざるが若し(然)、
朱注
夫、音は扶、下同じ、○礼に曰く、父命じ呼べは、唯(い)して諾(だく)せず、又曰く、君命じ召せば、官に在りて屨(くつ)を俟たず、外に在りて車を俟たず、言えらく、孟子本より王に朝せんと欲す、而るに命を聞き中止す、此の礼の意と同じからざるに似るなり、

通し番号 213 章内番号 6 章通し番号 34 識別番号 4_2_6
本文
曰、豈是を謂わんや、曽子曰く、晋楚の富、及ぶべからざるなり、彼は其富を以てす、我は吾が仁を以てす、彼は其爵を以てす、我は吾が義を以てす、吾何ぞ慊(すく)ないかな、夫(それ)豈義ならずして曽子之を言わんや、是れ一道或(あ)るなり、天下は達尊三有り、爵は一なり、歯は一なり、徳は一なり、朝廷は爵に如くは莫し、郷党は歯に如くは莫し、世を輔(たす)け民に長たるは徳に如くは莫し、悪んぞ其一を有して、以て其二を慢(あなど)るを得んや、
朱注
与、平声、慊(けん)、口簟反、長、上声、○慊、恨なり、少なり、或いは嗛(けん)に作る、字書以て口が物を銜(ふく)むと爲すなり、然れば則ち慊は亦但(ただ)心が銜(ふく)む所有るの義と爲す、其の快と爲し、足と爲し、恨と爲し、少と爲すは、則ち其事に因りて銜(ふく)む所同じからざる有るのみ、孟子言えらく、我の意、景子の言う所の如きものに非ず、因りて曽子の言を引きて云う、夫(それ)此は豈是れ義ならずして曽子以て言を爲すを肯(がえ)んぜんや、是れ或いは別に一種の道理有るなり、達、通なり、蓋し天下に通じ之尊ぶ所は、此三なるもの有り、曽子の説(と)くこと、蓋し徳以て之を言うなり、今斉王但(ただ)爵有るのみ、安ぞ此を以て歯徳を慢(あなど)ることを得んや、

通し番号 214 章内番号 7 章通し番号 34 識別番号 4_2_7
本文
故に将に大いに爲す有るの君は、必ず召さざる所の臣有り、謀有らんと欲せば、則ち之に就(おもむ)く、其(そ)の徳を尊び道を楽しむ、是(この)如からざれば与(とも)に爲す有るに足らざるなり、
朱注
楽、音は洛、○大いに爲す有るの君は、大いに作爲有り、常の君に非ざるなり、程子曰く、古の人必ず人君敬を致し礼を尽すを待ち、而して後往く所以のものは、自ら尊大を爲すを欲するに非ざるなり、是が爲(ため)の故(ゆえ)なるのみ、

通し番号 215 章内番号 8 章通し番号 34 識別番号 4_2_8
本文
故に湯の伊尹(いいん)に於る、学び而して後之を臣とす、故に労せずして王たり、桓公の管仲に於る、学び而して後之を臣とす、故に労せずして霸たり、
朱注
先(まず)従い学ぶことを受け、之を師とするなり、後に以て臣と爲し、之に任ずるなり、

通し番号 216 章内番号 9 章通し番号 34 識別番号 4_2_9
本文
今、天下、地は醜(たぐい)し徳は斉(ひと)し、能く相(あい)尚(すぎ)ること莫し、他無し、其教える所を臣とするを好む、而るに其教えを受くる所を臣とするを好まず、
朱注
好、去声、○醜、類なり、尙、過なり、教える所は、己に聴き従い、役使すべき者を謂うなり、教えを受くる所は、己の従い学ぶ所の者を謂うなり、

通し番号 217 章内番号 10 章通し番号 34 識別番号 4_2_10
本文
湯の伊尹に於る、桓公の管仲に於るは、則ち敢えて召さず、管仲且(すら)猶(なお)召すべからず、而るに況んや管仲爲(た)らざる者をや、
朱注
管仲爲(た)らざるは、孟子自らの謂(いい)なり、范氏曰く、孟子の斉に於ける、賓師の位に処(お)る、仕え官職有る者に当るに非ず、故に其言此の如し、○此章は、賓師は趨走(すうそう)承順以て恭と爲さず、而して難を責(すす)め善を陳(の)ぶるを以て敬と爲すを見る、人君は崇高の富貴以て重しと爲さず、而して徳を貴(とうと)び士を尊(たっと)ぶを以て賢と爲す、則ち上下交わりて徳業成る、


章番号 3 章通し番号 35

通し番号 218 章内番号 1 章通し番号 35 識別番号 4_3_1
本文
陳臻(しん)問いて曰く前日斉に於て、王兼金一百を餽(おく)る、而るに受けず、宋に於て七十鎰(いつ)を餽(おく)る、而して受く、薛(せつ)に於て五十鎰を餽(おく)る、而して受く、前日の受けざる是ならば、則ち今日の受くるは非なり、今日の受くる是ならば、則ち前日の受けざるは非なり、夫子(ふうし)必ず一に此に居らん、
朱注
陳臻、孟子の弟子、兼金、好い金なり、其価常のものに兼倍す、一百、百鎰(いつ)なり、

通し番号 219 章内番号 2 章通し番号 35 識別番号 4_3_2
本文
孟子曰く、皆是なり、
朱注
皆義に適(あ)うなり、

通し番号 220 章内番号 3 章通し番号 35 識別番号 4_3_3
本文
宋に在るに当たりては、予将に遠く行くこと有らんとす、行く者必ず贐(じん)以てす、辞に曰く、贐を餽(おく)る、予何爲(なんすれ)ぞ受けざらん、
朱注
贐、徐刃反、○贐、行く者を送るの礼なり、

通し番号 221 章内番号 4 章通し番号 35 識別番号 4_3_4
本文
薛(せつ)に在るに当りては、予戒心有り、辞に曰く、戒を聞く、故に兵の爲に之を餽(おく)る、予何爲(なんすれ)ぞ受けざる、
朱注
爲兵の爲、去声、○時の人孟子を害せんと欲する者有り、孟子兵を設(お)き以て之に戒備す、薛君金以て孟子に餽り兵の備えと爲す、辞に曰く、子の戒心有るを聞くなり、

通し番号 222 章内番号 5 章通し番号 35 識別番号 4_3_5
本文
斉に於るが若きは、則ち未だ処すること有らざるなり、処すること無くて之に餽る、是れ之を貨するなり、焉ぞ君子にして貨以て取るべきこと有らんや、
朱注
焉、於虔反、○遠行戒心の事無し、是れ未だ処する所有らざるなり、取、猶致のごときなり、○尹氏曰く、君子の辞受取予、惟当に理に於てすべきのみを言う、


章番号 4 章通し番号 36

通し番号 223 章内番号 1 章通し番号 36 識別番号 4_4_1
本文
孟子は平陸に之(ゆ)き其大夫に謂いて曰く、子の戟(ほこ)を持つの士、一日にして三たび伍を失なえば、則ち之を去るや否や、曰く、三を待たず、
朱注
去、上声、○平陸、斉の下邑(ゆう)なり、大夫、邑の宰(さい)なり、戟(ほこ)、枝有る兵なり、士、戦士なり、伍、行列なり、之を去るは、之を殺すなり、

通し番号 224 章内番号 2 章通し番号 36 識別番号 4_4_2
本文
然らば則ち子(し)の伍を失なうこと亦多し、凶年饑歳に、子の民は、老羸(るい)は溝壑(がく)に転ず、壮者は散じて四方に之(ゆ)く者幾千人なり、曰く、此は距心の爲すを得る所に非ざるなり、
朱注
幾、上声、○子の伍を失なうは、其職を失なうを言う、猶士の伍を失なうがごときなり、距心、大夫の名なり、対えて言う、此は乃ち王の失政然らしむ、我専ら爲すを得る所に非ざるなり、

通し番号 225 章内番号 3 章通し番号 36 識別番号 4_4_3
本文
曰く、今人の牛羊を受けて之が爲に之を牧する者有り、則ち必ず之が爲に牧と芻(すう)を求む、牧と芻を求めて得ざれば、則ち諸(これ)を其人に反(かえ)すか、抑(ある)いは亦立ちて其死を視るか、曰く、此則ち距心の罪なり、
朱注
爲、去声、死与の与、平声、○之を牧す、之を養うなり、牧、牧地なり、芻、草なり、孟子言う、若(もし)自ら専らにすることを得ざれば、何ぞ其事を致して去らざる、

通し番号 226 章内番号 4 章通し番号 36 識別番号 4_4_4
本文
他日王に見(まみ)えて曰く、王の都を爲(おさ)める者、臣五人を知る、其罪を知る者、惟(ただ)孔距心なり、王の爲に之を誦(い)う、王曰く、此則ち寡人の罪なり、
朱注
見、音は現、爲王の爲、去声、○都を爲(おさ)むは、邑を治むなり、邑が先君の廟を有するを都と曰う、孔、大夫の姓なり、王の爲に其語を誦(い)う、以て王を諷曉(ふうぎょう)することを欲するなり、○陳氏曰く、孟子一たび言いて齊の君臣挙(みな)其罪を知る、固より以て邦を興すに足る、然り而して斉卒(つい)に善国と爲すを得ざるものは、豈説(よろこ)びて繹(きわ)めず、従いて改めざる故に非ざるや、


章番号 5 章通し番号 37

通し番号 227 章内番号 1 章通し番号 37 識別番号 4_5_1
本文
孟子蚔鼃(ちあ)に謂いて曰く、子の霊丘を辞して士師を請うは似るなり、其以て言うべき爲なり、今既に数月、未だ以て言うべからざるか、
朱注
蚔、音は遅、鼃、烏花反、爲、去声、与、平声、○蚔鼃(ちあ)、斉の大夫なり、霊丘、斉の下邑なり、似也は、爲す所理有るに近似するを言う、可以言は、士師王に近く、以て刑罰の中(あた)らざるものを諫むことを得るを謂う、

通し番号 228 章内番号 2 章通し番号 37 識別番号 4_5_2
本文
蚔は鼃王を諫めて用いられず、臣爲(た)るを致して去る、
朱注
致、猶還のごときなり、

通し番号 229 章内番号 3 章通し番号 37 識別番号 4_5_3
本文
斉人曰く、以て蚔鼃の爲にする所は則ち善し、以て自らの爲にする所は、則ち吾知らざるなり、
朱注
爲、去声、○孟子が道行なわれずして去ること能わざるを譏(そし)るなり、

通し番号 230 章内番号 4 章通し番号 37 識別番号 4_5_4
本文
公都子以て告ぐ、
朱注
公都子、孟子の弟子なり、

通し番号 231 章内番号 5 章通し番号 37 識別番号 4_5_5
本文
曰く、吾之を聞くなり、官守有る者は、其職を得ざれば則ち去る、言責有る者は、其言を得ざれば則去る、我官守無く、我言責無きなり、則ち吾が進退、豈綽綽然(しゃくしゃくぜん)として余裕有らざらんや、
朱注
官守、官以て守と爲す者、言責、言以て責と爲す者、綽綽、寬の貌、裕、寬の意なり、孟子賓師の位に居り、未だ嘗て祿を受けず、故に其進退の際、寬裕此如し、尹氏曰く、進退久速、理に当るのみ、


章番号 6 章通し番号 38

通し番号 232 章内番号 1 章通し番号 38 識別番号 4_6_1
本文
孟子斉で卿(けい)と爲り、出でて滕に弔す、王は蓋(こう)の大夫王驩(かん)をして輔行爲(た)らしむ、王驩朝暮に見(まみ)ゆ、斉滕の路を反(かえ)り、未だ嘗(かつ)て之と行事を言わざるなり、
朱注
蓋、古盍反、見、音は現、○蓋、斉の下邑なり、王驩、王の嬖(へい)臣なり、輔行、副使なり、反、往きて還(かえ)るなり、行事、使いの事なり、

通し番号 233 章内番号 2 章通し番号 38 識別番号 4_6_2
本文
公孫丑曰く、斉卿の位、小と爲さず、斉滕の路、近しと爲さず、之を反して未だ嘗て与(とも)に行事を言わざるは何ぞや、曰く、夫(それ)既に之を治めること或(あ)り、予(われ)何をか言わんや、
朱注
夫、音は扶、○王驩蓋し卿を摂(か)ね以て行く、故に斉卿と曰う、夫(それ)既に之を治めること或(あ)りは、有司已に之を治むるを言う、孟子の小人を待つ、悪(あ)しからずして厳(きび)しきこと此如し、


章番号 7 章通し番号 39

通し番号 234 章内番号 1 章通し番号 39 識別番号 4_7_1
本文
孟子斉自(よ)り魯に葬(ほうむ)る、斉に反(かえ)る、嬴(えい)に止(とど)まる、充虞(じゅうぐ)請いて曰く、前日虞の不肖を知らず、虞をして匠の事を敦(おさ)めしむ、厳なり、虞敢えて請わず、今願わくば竊(ひそ)かに請うこと有るなり、木以(はなは)だ美なるが若き然(なり)、
朱注
孟子斉に仕える、母を喪(うしな)う、魯に帰り葬(ほうむ)る、嬴(えい)、斉の南の邑、充虞、孟子の弟子、嘗て棺を作るの事を董治(とうち)する者なり、厳、急なり、木、棺の木なり、以、已に通ず、以美は、太(はなは)だ美なり、

通し番号 235 章内番号 2 章通し番号 39 識別番号 4_7_2
本文
曰く、古は棺槨に度無し、中古は棺七寸、槨(かく)之に称(かな)う、天子自(よ)り庶人に達す、直(ただ)に観美を爲すに非ざるなり、然る後人の心を尽す、
朱注
稱、去声、○度、厚薄の尺寸なり、中古、周公礼を制するの時なり、槨之に称(かな)うは、棺と相(あい)称(かな)うなり、其堅厚久遠を欲し、特(ただ)人の観視の美を爲すに非ざるのみ、

通し番号 236 章内番号 3 章通し番号 39 識別番号 4_7_3
本文
得ざれば、以て悦(よろこび)を爲すべからず、財無ければ、以て悦(よろこび)を爲すべからず、之を得て財有ると爲せば、古の人皆之を用う、吾何爲(なんすれ)ぞ独り然らざらん、
朱注
得ざるは、法制当に得べからざる所を謂う、之を得て財有りと爲すは、之を得て又(さら)に財有りと爲すを言うなり、或るひと曰く、爲当に而に作るべし、

通し番号 237 章内番号 4 章通し番号 39 識別番号 4_7_4
本文
且(また)化者の比(ため)、土をして膚に親(ちかづ)かしめること無し、人の心に於て独り恔(こころよ)きこと無からんや、
朱注
比、必二反、恔、音は效、○比、猶爲がごときなり、化者、死者なり、恔、快なり、言えらく、死者の爲に土をして其肌膚に親近せしめず、人の子の心に於て、豈快然恨(く)いる所無きにあらざらんや、

通し番号 238 章内番号 5 章通し番号 39 識別番号 4_7_5
本文
吾之を聞く、君子は天下以て其親に倹せず、
朱注
送終の礼、当に爲すことを得べき所にして自ら尽さざるは、是れ天下の爲に此物を愛惜して、吾が親に薄きなり、


章番号 8 章通し番号 40

通し番号 239 章内番号 1 章通し番号 40 識別番号 4_8_1
本文
沈同(しんどう)其私以て問いて曰く、燕伐(う)つべきか、孟子曰く、可なり、子噲(かい)は人に燕を与えることを得ず、子之(しし)は燕を子噲に受けることを得ず、此に仕有りて、子が之を悦び、王に告げずして、私に之に吾子の祿爵を与う、夫(その)士、亦王命無くて私に之を子に受ければ、則ち可か、何ぞ以て是に異ならん、
朱注
伐与の与、平声、下の伐与、殺与同じ、夫、音は扶、○沈同、斉の臣、私以て問う、王命に非ざるなり、子噲、子之、事前篇に見ゆ、諸侯の土地人民、之を天子に受け、之を先君に伝える、私に以て人に与えれば、則ち与える者受ける者皆罪有るなり、仕、官に爲るなり、士、即ち従い仕えるの人なり、

通し番号 240 章内番号 2 章通し番号 40 識別番号 4_8_2
本文
斉人燕を伐つ、或ひと問いて曰く、斉に勧め燕を伐つ、諸有りや、曰く、未(いま)だし、沈同問う、燕伐つべきか、吾之に応じて曰く、可、彼然而(しこう)して之を伐つなり、彼如(も)し孰(たれ)か以て之を伐つべしと曰わば、則ち将に之に応じて曰わんとす、天吏爲(た)らば則ち以て之を伐つべし、今人を殺す者有り、或ひと之を問いて曰く、人は殺すべきか、則ち将に之に応じて曰わんとす、可、彼如(も)し孰か以て之を殺すべしと曰わば、則ち將に之に応じて曰わんとす、士師爲(た)らば則ち以て之を殺すべし、今燕以て燕を伐つ、何爲(なんすれ)ぞ之を勧めんや、
朱注
天吏、解上篇に見ゆ、斉は無道、燕と異なること無く、燕以て燕を伐つが如きを言うなり、史記亦孟子斉に勧め燕を伐つと謂う、蓋し此説を伝聞することの誤なり、○楊氏曰く、燕固より伐つべし、故に孟子曰く、可、斉王をして能く其君を誅し、其民を弔(あわ)れましむれば、何の不可之有らん、乃(しかる)に其父兄を殺し、其子弟を虜にす、而して後燕人之に畔(そむ)く、乃ち是を以て咎を孟子の言に帰す、則ち誤なり、


章番号 9 章通し番号 41

通し番号 241 章内番号 1 章通し番号 41 識別番号 4_9_1
本文
燕人畔(そむ)く、王曰く、吾甚だ孟子に慙(は)ず、
朱注
斉が燕を破りて後二年、燕人共(とも)に太子平を立て王と爲す、

通し番号 242 章内番号 2 章通し番号 41 識別番号 4_9_2
本文
陳賈(か)曰く、王患(うれ)うること無かれ、王自ら以て周公と孰(いずれ)か仁且(か)つ智と爲す、王曰、悪(ああ)、是れ何の言ぞや、曰く、周公は管叔をして殷を監せしむ、管叔は殷以て畔(そむ)く、知りて之を使(せし)むれば、是れ不仁なり、知らずして之を使(せし)むれば、是れ不智なり、仁智、周公未だ之を尽さざるなり、而るに況んや王に於てをや、賈請う、見(まみ)えて之を解かん、
朱注
悪、監、皆平声、○陳賈、斉の大夫なり、管叔、名は鮮、武王の弟、周公の兄なり、武王は商に勝ち紂を殺す、紂の子武庚(こう)を立つ、而して管叔(かんしゅく)、弟の蔡叔(さいしゅく)、霍叔(かくしゅく)をして其国を監さしむ、武王崩ず、成王幼し、周公摂政す、管叔と武庚畔(そむ)く、周公討ちて之を誅す、

通し番号 243 章内番号 3 章通し番号 41 識別番号 4_9_3
本文
孟子に見(まみ)えて問いて曰く、周公何人ぞや、曰く、古の聖人なり、曰く、管叔をして殷を監さしむ、管叔殷以て畔(そむ)くなり、諸(これ)有りや、曰く、然り、曰く、周公其将に畔(そむ)かんするを知りて之を使(せ)しむるか、曰く、知らざるなり、然らば則ち聖人且(なお)過(あやまち)有るか、曰く、周公、弟なり、管叔、兄なり、周公の過、亦宜(むべ)ならず乎(や)、
朱注
与、平声、○言えらく、周公乃ち管叔の弟、管叔乃ち周公の兄なり、然れば則ち周公管叔の将に畔(そむ)かんとするを知らずして之を使(せし)む、其過(あやま)ち免れざる所有り、或ひと曰く、周公の管叔を処するは、舜の象(しょう)を処するが如(ごと)かざるは何ぞや、游氏曰く、象の悪已(すで)に著(あきら)かなり、而して其志富貴に過ぎざるのみ、故に舜是を以て之を全くするを得る、管叔の悪の若きは則ち未だ著(あきら)かならず、而して其志其才、皆象の比に非ざるなり、周公詎(あに)其兄の悪を逆(はか)り探(さぐ)りて之を棄つるを忍びんや、周公兄を愛す、宜(よろし)く尽さざるもの無かるべし、管叔の事、聖人の不幸なり、舜誠に信じて象を喜ぶ、周公誠に信じて管叔に任ず、此は天理人倫の至り、其心を用いるは一なり、

通し番号 244 章内番号 4 章通し番号 41 識別番号 4_9_4
本文
且(また)古の君子、過つ、則ち之を改む、今の君子、過つ、則ち之に順(したが)う、古の君子、其の過(あやま)つや、日月の食するが如し、民皆之を見る、其の更(あらた)めるに及ぶや、民皆之を仰ぐ、今の君子、豈徒(ただ)之に順わんや、又従(よ)りて之が辞を爲す、
朱注
更、平声、○順、猶遂のごときなり、更、改なり、辞、弁(べん)なり、之を更めれば則ち明を損すること無し、故に民之を仰ぐ、順いて之が辞を爲せば、則ち其過(あやま)ち愈(ますます)深し、賈(か)其君に勉(すす)めるに善に遷(うつ)り過を改めることを以てすること能わず、而して之に教えるに非を遂(すす)め過を文(かざ)るを以てすることを責むるなり、○林氏曰く、斉王孟子に 慙(は)ず、蓋し羞悪(しゅうお)の心、自ずから已(や)むこと能わざるもの有り、其臣をして能く是心に因りて将に之に順わんとすること有らしべば、則ち義勝(あ)げて用うべからず、而るに陳賈鄙夫たり、方且(まさ)に之が爲に曲げて弁説を爲さんとし、其善に遷(うつ)り過を改めるの心を沮(はば)み、其非を飾り諫を拒むの悪を長(すす)めんとす、故に孟子深く之を責む、然れども此書の事を記(しる)すは、散出して先後の次(ついで)無し、故に其説必ず参考す、而して後通ず、若(もし)第二篇十章、十一章を以て、前章の後、此章の前に置けば、則ち孟子の意、論説を待たずして自ずから明かなり、


章番号 10 章通し番号 42

通し番号 245 章内番号 1 章通し番号 42 識別番号 4_10_1
本文
孟子臣爲(た)るを致して帰る、
朱注
孟子斉に於て久し、而るに道行われず、故に去るなり、

通し番号 246 章内番号 2 章通し番号 42 識別番号 4_10_2
本文
王就(おもむ)きて孟子に見(あ)いて曰く、前日見(あ)うを願いて得(う)べからず、侍するを得て同朝(ちょう)甚だ喜ぶ、今又寡人を棄てて帰る、識(し)らず、以て此に継(つ)ぎて見(あ)うを得べきか、対えて曰く、敢えて請わざるのみ、固より願う所なり、
朱注
朝、音潮、

通し番号 247 章内番号 3 章通し番号 42 識別番号 4_10_3
本文
他日王時子に謂いて曰く、我中国に孟子に室を授け、弟子を養うに万鍾を以てし、諸大夫国人(こくじん)をして皆矜式(きょうしき)する所有らしめんと欲す、子盍(なん)ぞ我が爲に之を言わざる、
朱注
爲、去声、○時子、斉の臣なり、中国、国の中に当るなり、万鍾、穀禄の数なり、鍾、量の名、六斛(こく)四斗(と)を受く、矜、敬なり、式、法なり、盍、何不なり、

通し番号 248 章内番号 4 章通し番号 42 識別番号 4_10_4
本文
時子は陳子に因りて以て孟子に告ぐ、陳子は時子の言以て孟子に告ぐ、
朱注
陳子、即ち陳臻(しん)なり、

通し番号 249 章内番号 5 章通し番号 42 識別番号 4_10_5
本文
孟子曰く、然(さ)ようか、夫(かの)時子悪ぞ其の不可を知らん、如(も)し予をして富を欲せしめば、十万を辞して万を受く、是れ富を欲すと爲すか、
朱注
夫、音は扶、悪、平声、○孟子既に道行なわれざるを以て去る、則ち其の義以て復(また)留まるべからず、而るに時子知らず、則ち又顕(あきらか)に言い難きもの有り、故に但(ただ)言えらく、設(もし)我をして富を欲せしめば、則ち我前日卿爲り、嘗て十万の禄を辞し、今乃ち此万鍾の饋(おくりもの)を受く、是れ我富を欲すと雖も、亦此を爲さざるなり、

通し番号 250 章内番号 6 章通し番号 42 識別番号 4_10_6
本文
季孫曰く、異(あや)しい哉(かな)子叔疑(ししゅくぎ)、己をして政を爲さしむ、用いざれば則ち亦(ただ)已(や)む、又其子弟をして卿爲らしむ、人亦孰(たれ)か富貴を欲せざらん、而して独り富貴の中に於て、龍断(ろうだん)を私(わたくし)すること有り、
朱注
龍、音は壟、○此は孟子季孫の語を引くなり、季孫、子叔疑、何れの時の人か知らず、龍断(ろうだん)、岡壟(こうろう)の断ちて高きなり、義下文に見ゆ、蓋し子叔疑は嘗て用いられず、而るに其子弟をして卿爲らしむ、季孫は其既に此に得ず、而るに又彼に得ることを求めんと欲するを譏る、下文賎丈夫の龍断に登る者の爲す所の如きなり、孟子此を引き以て道既に行なわれず、復(また)其禄を受ければ、則ち以て此に異なること無きを明らかにす、

通し番号 251 章内番号 7 章通し番号 42 識別番号 4_10_7
本文
古の市を爲すや、其有る所を以て其無き所に易えるものなり、有司は之を治めるのみ、賎丈夫有り、必ず龍断を求めて之に登る、以て左右を望みて市利を罔(あみ)す、人皆以て賎と爲す、故に従(よ)りて之に征す、商に征すは、此賎丈夫自(よ)り始まる、
朱注
孟子が龍断を釈するの説は此如し、之を治むは、其争訟を治めるを謂う、左右を望むは、此を得て又彼を取るを欲するなり、罔、罔羅(もうら)して之を取るを謂うなり、従(よ)りて之に征すは、人其利を専らにするを悪む、故に就いて其税を征(と)るを謂う、後世此縁(よ)り遂に商人に征するなり、○程子曰く、斉王以て孟子を処する所のものは、未だ不可と爲さず、孟子亦国人の矜式と爲ることを肯んぜざるに非ず、但(ただ)し斉王実(まこと)に孟子を尊ばんと欲するに非ず、乃ち利以て之を誘わんと欲す、故に孟子拒みて受けず、


章番号 11 章通し番号 43

通し番号 252 章内番号 1 章通し番号 43 識別番号 4_11_1
本文
孟子斉を去り、昼に宿す、
朱注
晝、字の如し、或ひと曰く、当に畫に作るべし、音は獲、下同じ、○昼、斉の西南の近き邑なり、

通し番号 253 章内番号 2 章通し番号 43 識別番号 4_11_2
本文
王の爲に行(さ)るを留めんと欲する者有り、坐して言う、応ぜず、几(き)に隠(よ)りて臥す、
朱注
爲、去声、下同じ、隱、於靳反、○隱、憑(ひょう)なり、客坐して言う、孟子応ぜずして臥するなり、

通し番号 254 章内番号 3 章通し番号 43 識別番号 4_11_3
本文
客悦(よろこば)ずして曰く、弟子(ていし)斉宿して後敢えて言う、夫子臥して聴かず、請う復(また)敢て見(まみ)ゆること勿(な)し、曰く、坐せよ、我明らかに子(し)に語らん、昔者(むかし)魯の繆公(ぼくこう)子思の側(かたわら)に人無ければ、則ち子思を安ずること能わず、泄柳(せつりゅう)、申詳(しんしょう)は、繆公の側に人無ければ、則ち其身を安ずること能わず、
朱注
斉、側皆反、復、扶又反、語、去声、○斉宿、斉戒(さいかい)し宿を越(へ)るなり、繆公子思を尊礼し、常に人をして候伺(こうし)し、誠意を其側に道達せしむ、乃ち能く安じて之を留むるなり、泄柳(せつりゅう)は、魯の人、申詳(しんしょう)は、子張の子なり、繆公之を尊ぶは子思に如かず、然れども二子の義は苟容(こうよう)せず、賢者が其君の左右に在りて之を維持調護すること有るに非ざれば、則ち亦其身を安ずること能わず、

通し番号 255 章内番号 4 章通し番号 43 識別番号 4_11_4
本文
子長者(ちょうじゃ)の爲に慮(おもんばか)りて、子思に及ばず、子長者を絶つか、長者子を絶つか、
朱注
長、上声、○長者、孟子自ら称するなり、言えらく、斉王は子をして来たらしめず、而るに子自ら王の爲に我を留めんと欲す、是れ以て我が爲に謀る所のものは、繆公子思を留めるの事に及ばず、而して先に我を絶つなり、我の臥して応ぜざるは、豈(あに)先に子を絶つと爲さんや、


章番号 12 章通し番号 44

通し番号 256 章内番号 1 章通し番号 44 識別番号 4_12_1
本文
孟子斉を去る、尹士(いんし)人に語りて曰く、王の以て湯武と爲るべからざるを識らざれば、則ち是れ不明なり、其不可を識り、然(しこう)して且(なお)至れば、則ち是れ沢を干(もと)めるなり、千里にして王に見(まみ)え、遇(あ)わず、故に去る、三宿して後に昼を出ず、是何ぞ濡滞(じゅたい)なるや、士則ち茲(ここ)に悦(よろこ)ばず、
朱注
語、去声、○尹士、斉人なり、干、求なり、沢、恩沢なり、濡滞、遅留なり、

通し番号 257 章内番号 2 章通し番号 44 識別番号 4_12_2
本文
高子以て告ぐ、
朱注
高子、亦斉人、孟子の弟子なり、

通し番号 258 章内番号 3 章通し番号 44 識別番号 4_12_3
本文
曰く、夫(かの)尹士悪ぞ予を知らんや、千里にして王に見(まみ)ゆ、是れ予欲する所なり、遇(あ)わず、故に去る、豈予欲する所ならんや、予已(や)むを得ざるなり、
朱注
夫、音は扶、下同じ、悪、平声、○王に見(まみ)ゆは、以て道を行なわんと欲するなり、道行われず、故に已むを得ずして去る、本より此如きを欲するに非ざるなり、

通し番号 259 章内番号 4 章通し番号 44 識別番号 4_12_4
本文
予三宿して昼を出ず、予が心に於て猶以て速しと爲す、王庶幾(こいねがわ)くは之を改めよ、王如(も)し諸を改めば、則ち必ず予(われ)を反(かえ)さん、
朱注
改める所、必ず一事を指(さ)して言う、然れども今考えるべからず、

通し番号 260 章内番号 5 章通し番号 44 識別番号 4_12_5
本文
夫(それ)昼を出でて王予を追わざるなり、予然る後に浩然として帰る志(し)有り、予然りと雖も、豈王を舍(す)てんや、王由(なお)用(もっ)て善を爲すに足る、王如(も)し予を用いれば、則ち豈徒(ただ)斉の民安きのみならんや、天下の民挙(みな)安し、王庶幾(ねがわ)くは之を改めよ、予日に之を望む、
朱注
浩然、水の流れ止むべからざるが如きなり、楊氏曰く、斉王天資朴実、勇を好み、貨を好み、色を好み、世俗の楽を好むが如き、皆以て直に告げて孟子に隠さず、故に以て善を爲すに足る、若(もし)乃(そこ)で其心然らずとして謬(いつわ)り大言を爲し以て人を欺けば、是れ人終(つい)に与(とも)に堯舜の道に入るべからず、何の善之能く爲さん、

通し番号 261 章内番号 6 章通し番号 44 識別番号 4_12_6
本文
予豈是の小丈夫(じょうふ)の若く然(なら)んや、其君を諫(いさ)めて受けざれば、則ち怒り悻悻(こうこう)然として、其面に見(あら)われ、去れば則ち日の力を窮(つく)して後に宿さんや、
朱注
悻、形頂反、見、音は現、○悻悻、怒意なり、窮、尽なり、

通し番号 262 章内番号 7 章通し番号 44 識別番号 4_12_7
本文
尹士之を聞きて曰く、士誠に小人なり、
朱注
此章は聖賢道を行い時を済(すく)うの、汲汲(きゅうきゅう)の本心、君を愛し民を沢(うるお)すの、惓惓(けんけん)の余意を見ゆ、李氏曰く、此に於て君子憂う、則(しか)るに之を違(さ)るの情、而して蕢(あじか)を荷(にな)う者果と爲す所以を見るなり、


章番号 13 章通し番号 45

通し番号 263 章内番号 1 章通し番号 45 識別番号 4_13_1
本文
孟子斉を去る、充虞(じゅうぐ)、路に問いて曰く、夫子(ふうし)不予の色有るが若し(然)、前日虞諸を夫子に聞く、曰く、君子天を怨(うら)まず、人を尤(とが)めず、
朱注
路に問うは、路の中に於て問うなり、予、悦なり、尤(ゆう)、過なり、此二句実は孔子の言なり、蓋し孟子嘗て之を称(い)い以て人に教える(耳)、

通し番号 264 章内番号 2 章通し番号 45 識別番号 4_13_2
本文
曰く、彼一時(じ)、此一時(じ)なり、
朱注
彼、前日、此、今日、

通し番号 265 章内番号 3 章通し番号 45 識別番号 4_13_3
本文
五百年必ず王者興(おこ)ること有り、其間必ず世に名ある者有り、
朱注
堯舜自(よ)り湯に至り、湯自(よ)り文武に至る、皆五百余年にして聖人出ず、名世、其人の徳業聞(ぶん)望、一世に名あるべき者、之が輔佐を爲すを謂う、皐陶(こうよう)、稷(しょく)、契(せつ)、伊尹(いいん)、萊朱(らいしゅ)、太公望、散宜生(さんぎせい)の属の若きなり、

通し番号 266 章内番号 4 章通し番号 45 識別番号 4_13_4
本文
周由(よ)り而來(じらい)、七百有余歳なり、其数以てすれば則ち過ぐ、其時以て之を考えれば則ち可なり、
朱注
周、文武の間を謂う、数、五百年の期を謂う、時、乱極まり治を思い、以て爲す有るべきの日を謂う、是に於て一の爲す所有るを得ず、此は孟子が不予無きこと能わざる所以なり、

通し番号 267 章内番号 5 章通し番号 45 識別番号 4_13_5
本文
夫(それ)天未だ天下を平治するを欲せざるなり、如(も)し天下を平治するを欲せば、今の世に当り、我を舍(す)て其誰ぞや、吾何爲(なんすれ)ぞ不予せんや、
朱注
夫、音扶、舍、上声、○言えらく。此の時に当りて、我をして斉に遇わざらしむ、是れ天未だ天下を平治することを欲せざるなり、然れども天の意は未だ知るべからず、而して其具(そな)えるは又我に在り、我何爲(なんすれ)ぞ不予ならんや、然らば則ち孟子不予然たるもの有るが若きと雖も、実は未だ嘗て不予たることあらざるなり、蓋し聖賢の世を憂うの志、天を楽しむの誠、並行して悖(もと)らざるもの有ること、此に於て見ゆ、


章番号 14 章通し番号 46

通し番号 268 章内番号 1 章通し番号 46 識別番号 4_14_1
本文
孟子は斉を去り休に居る、公孫丑問いて曰く、仕えて禄を受けざるは、古の道か、
朱注
休、地名、

通し番号 269 章内番号 2 章通し番号 46 識別番号 4_14_2
本文
曰く、非なり、崇に於て吾王に見(まみ)えることを得る、退いて去る志(し)有り、変えることを欲せず、故に受けざるなり、
朱注
崇、亦地名、孟子始めて斉王に見(まみ)ゆ、必ず合わざる所有り、故に去る志有り、変、其去る志を変えることを謂う、

通し番号 270 章内番号 3 章通し番号 46 識別番号 4_14_3
本文
継(つ)いで師の命有り、以て請うべからず、斉に久しきは、我が志に非ざるなり、
朱注
師命、師旅の命なり、国既に兵を被(こうむ)る、去ることを請い難きなり、○孔氏曰く、仕えて禄を受けるは、礼なり、斉の禄を受けざるは、義なり、義の在る所は、礼は時有りて変る、公孫丑一端以て之を裁さんと欲す、亦誤たざるか、


5 滕文公章句上 téng wén gōng zhāng jù shàng

章番号 1 章通し番号 47

通し番号 271 章内番号 1 章通し番号 47 識別番号 5_1_1
本文
滕の文公世子爲(た)り、将に楚に之(ゆ)かんとす、宋を過ぎて孟子に見(あ)う、
朱注
世子、太子なり、

通し番号 272 章内番号 2 章通し番号 47 識別番号 5_1_2
本文
孟子性善を道(い)う、言えば必ず堯舜を称す、
朱注
道、言なり、性は、人が天に稟(う)け以て生きる所の理なり、渾然(こんぜん)として至善、未だ嘗て悪有らず、人は堯舜と初め少しも異なること無し、但(ただ)衆人私欲に汨(みだ)れて之を失う、堯舜則ち私欲の蔽(へい)無くて、能く其性を充(み)たす爾(のみ)、故に孟子と世子言えば、每(つね)に性善を道(い)いて、必ず堯舜を称(あ)げ以て之を実(あきら)かにする、其仁義、外に求めることに仮(よ)らずして、聖人学びて至るべきを知りて、力を用いることに於て懈(おこた)らざることを欲するなり、門人其辞を悉(ことごと)くは記すること能わず、而して其大旨を撮(と)ること此如し、程子曰く、性即ち理なり、天下の理、其自(よ)る所を原(たず)ねれば、未だ善ならざること有らず、喜怒哀楽未だ発せざれば、何ぞ嘗て善ならざる、発して節に中(あた)れば、即ち往きて善ならざる無し、発して節に中(あた)らず、然る後に不善を爲す、故に凡(およ)そ善悪を言えば、皆先に善にして後に悪なり、吉凶を言えば、皆先に吉にして後に凶なり、是非を言えば、皆先に是にして後に非なり、

通し番号 273 章内番号 3 章通し番号 47 識別番号 5_1_3
本文
世子楚自(よ)り反る、復(また)孟子に見(あ)う、孟子曰く、世子吾が言を疑うか、夫(それ)道は一而已(のみ)、
朱注
復、扶又反、夫、音は扶、○時人は性の本(もと)は善なることを知らずして、聖賢以て及ぶことを企(のぞ)むべからずと爲す、故に世子孟子の言に於て疑い無きこと能わずして、復(また)来たりて見(あ)うことを求む、蓋し別に卑近行い易きの説有ることを恐(うたが)うなり、孟子之を知る、故に但(ただ)之に告げること此如し、以て古今聖愚は本(もと)は同一の性にして、前言已に尽し、復(また)他説有ること無きを明らかにするなり、

通し番号 274 章内番号 4 章通し番号 47 識別番号 5_1_4
本文
成覵(けん)斉の景公に謂いて曰く、彼丈夫なり、我丈夫なり、吾何ぞ彼を畏れんや、顔淵曰く、舜何人ぞや、予何人ぞや、爲すこと有る者亦是若し、公明儀曰く、文王我が師なり、周公豈我を欺かんや、
朱注
覵、古莧反、○成鷳、人の姓名、彼、聖賢を謂うなり、爲すこと有る者亦是の若しは、人能く爲すこと有れば、則ち皆舜の如きなりと言う、公明は、姓、儀は、名、魯の賢人なり、文王我が師なりは、蓋し周公の言なり、公明儀亦文王以て必ず師とすべきと爲す、故に周公の言を誦(い)いて、其我を欺かざるを歎ずるなり、孟子既に世子に告ぐるに道二致無きを以てす、而して復(また)此三言を引き以て之を明かにす、世子篤(あつ)く信じ力(つと)めて行い、以て聖賢を師とし、当に復(また)他說を求むべからざるを欲するなり、

通し番号 275 章内番号 5 章通し番号 47 識別番号 5_1_5
本文
今滕長きを絶(た)ち短きを補わば、将に五十里にならんとするなり、猶以て善(よ)い国と爲すべし、書に曰く、若(もし)薬瞑眩(めんげん)せざれば、厥(その)疾瘳(い)えず、
朱注
瞑、莫甸反、眩、音は縣、○絶、猶截(せつ)のごときなり、書、商書の説命(えつめい)篇なり、瞑眩、憒乱(かいらん)なり、言えらく、滕国小と雖も、猶治を爲すに足る、但し卑近に安んじ、自ら克(か)つこと能わざれば、則ち以て悪を去りて善を爲すに足らざるを恐れるなり、○愚按(あん)ずるに、孟子の性善を言うは、始めて此に見ゆ、而して詳しくは告子の篇に具(そな)わる、然れども黙識して之を旁通(ぼうつう)すれば、則ち七篇の中、此理に非ざる無し、其以て前聖の未だ発せざるを拡(ひろ)げて、聖人の門に功有る所なり、程子の言は信(まこと)なり、


章番号 2 章通し番号 48

通し番号 276 章内番号 1 章通し番号 48 識別番号 5_2_1
本文
滕の定公薨(こう)ず、世子然友に謂いて曰く、昔者(むかし)孟子嘗て我と宋に於て言う、心に於て終(つい)に忘れず、今や不幸にして大故(たいこ)に至る、吾は子をして孟子に問わしめ、然る後に事を行わんと欲す、
朱注
定公、文公の父なり、然友、世子の傅(ふ)なり、大故、大喪なり、事、喪礼を謂う、

通し番号 277 章内番号 2 章通し番号 48 識別番号 5_2_2
本文
然友鄒に之(ゆ)き孟子に問う、孟子曰く、亦善(よ)からずや、親の喪は固より自(おの)ずから尽す所なり、曽子曰く、生くるに之に事(つか)えるに礼を以てし、死するに之を葬(ほう)むるに礼を以てし、之を祭るに礼を以てすれば、孝と謂うべし、諸侯の礼、吾未だ之を学ばざるなり、然りと雖も、吾嘗て之を聞く、三年の喪(も)、斉疏(しそ)の服、飦粥(せんじゅく)の食、天子自(よ)り庶人に達す、三代之を共(とも)にす、
朱注
斉、音は資、疏、所居反、飦、諸延反、○当時の諸侯、能く古の喪礼を行うこと莫し、而るに文公独り能く此を以て問と爲す、故に孟子之を善(よ)しとす、又言う、父母の喪、固より人子の心自(おの)ずから尽す所のものなり、蓋し悲哀の情、痛疾の意、外自(よ)り至るに非ず、宜(むべ)なるかな、文公此に於て自(おの)ずから已むこと能わざる所有るなり、但(ただ)引く所の曽子の言は、本(もと)は孔子樊遅(はんち)に告ぐるものなり、豈(それ)曽子嘗て之を誦(い)い、以て其門人に告ぐるか、三年の喪は、子生まれて三年、然る後父母の懐(ふところ)を免る、故に父母の喪、必ず三年を以てするなり、斉(し)、衣の下の縫(ほう)なり、緝(ぬ)わざるは斬衰(ざんさい)と曰う、之を緝(ぬ)うは斉衰(しさい)と曰う、疏、麤(そ)なり、麤(あら)い布なり、飦(せん)、糜(び)なり、喪礼は、三日にして始めて粥を食す、既に葬(ほうむ)れば、乃ち疏食(そし)す、此は古今貴賎通行の礼なり、

通し番号 278 章内番号 3 章通し番号 48 識別番号 5_2_3
本文
然友反命する、定むらく、三年の喪を爲さんと、父兄百官皆欲さずして、曰く、吾が宗国魯の先君は之を行うこと莫し、吾が先君亦之を行うこと莫きなり、子(し)の身に至りて之に反するは、不可なり、且(また)志に曰く、喪祭は先祖に従う、曰く、吾之を受くる所有るなり、
朱注
父兄、同姓の老臣なり、滕と魯は倶(とも)に文王の後にして、魯の祖周公は長爲(た)り、兄弟之を宗とす、故に滕は魯を謂いて宗国と爲すなり、然れども二国三年の喪を行わざると謂うものは、乃ち其後世の失なり、周公の法本より然るに非ざるなり、志、記なり、志の言を引きて其意を釈(と)く、以爲(おも)えらく、此如き所以は、蓋し上世以来、伝受する所有るが爲に、同じからざること或(あ)ると雖も、改むべからざるなり、然れども志の言う所は、本(もと)は先王の世、旧俗伝える所は、礼文小異なり、而るに以て通行すべきことを謂うのみ、後世礼を失するの甚だしきものを謂わざるなり、

通し番号 279 章内番号 4 章通し番号 48 識別番号 5_2_4
本文
然友に謂いて曰く、吾他日(たじつ)未だ嘗て学問せず、好んで馬を馳(は)せ剣を試(もち)う、今や父兄百官、我を足れりとせざるなり、其れ大事を尽すこと能わざるを恐る、子我の爲に孟子に問え、然友復(また)鄒に之(ゆ)き孟子に問う、孟子曰く、然(さ)ようか、以て他に求むべからざるものなり、孔子曰く、君薨(こう)ずれば、冢宰(ちょうさい)に聴(したがわ)しむ、粥を歠(すす)り、面(おもて)は深墨(しんぼく)、位に即(つ)きて哭す、百官有司、敢(あえ)て哀(かな)しまざること莫し、之に先んずるなり、上好む者有れば、下必ず焉(これ)より甚だしき者有り、君子の徳は風なり、小人の徳は草なり、草は之に風を尚(くわ)えれば必ず偃(ふ)す、是れ世子に在り、
朱注
好、爲、皆去声、復、扶又反、歠、川悦反、○我を足れりとせずは、我を以て其意(こころ)を満足せざるを謂うなり、然りは、其の我足れりとせざるの言を然りとす、他に求むべからざるは、当に之を己に責むべきを言う、冢宰、六卿(りくけい)の長なり、歠、飮なり、深墨、甚だ黒き色なり、即、就なり、尙、加なり、論語は上に作る、古字通ずるなり、偃、伏なり、孟子言えらく、但(ただ)世子自ら其哀を尽すに在るのみ、

通し番号 280 章内番号 5 章通し番号 48 識別番号 5_2_5
本文
然友反命す、世子曰く、然り、是れ誠に我に在り、五月廬(ろ)に居る、未だ命戒有らず、百官族人可として、謂いて知ると曰う、葬(ほうむ)るに至るに及び、四方より来り之を観る、顔色の戚、哭泣(こくきゅう)の哀、弔する者大いに悦(よろこ)ぶ、
朱注
諸侯五月にして葬(ほうむ)る、未だ葬れざれば、中門の外に於て倚廬(いろ)に居る、喪に居るは言わず、故に未だ命令教戒有らざるなり、可謂曰知、疑うらくは闕(けつ)誤有り、或(あるひと)曰く、皆世子の礼を知るを謂うなり、○林氏曰く、孟子の時、喪礼既に壊(こわ)れる、然れども三年の喪、惻隠(そくいん)の心、痛疾の意(こころ)、人心の固より有する所のものより出ず、初めより未だ嘗て亡びざるなり、惟(ただ)其流俗の弊に溺る、是を以て其良心を喪(うしな)いて、自ら知らざるのみ、文公は孟子に見(あ)い性善堯舜の説を聞き、則ち固より以て其良心を啓発すること有り、是を以て此に至りて哀痛の誠心発す、其父兄百官皆行うことを欲せざるに及べば、則ち亦躬(み)に反り自ら責む、其前行の以て信を取るに足らざるを悼(いた)む、而して敢えて其父兄百官の心を非(そし)ること有らず、其資質人に過ぐるもの有りと雖も、而して学問の力、亦誣(なみ)すべからざるなり、其断然として之を行うに及びて、遠近見聞して悦服せざること無し、則ち人心の同じく然りとする所のもの以て、我自(よ)り之を発す、而して彼の心悦び誠に服す、亦然るを期せずして然る所のもの有り、人性の善、豈信ぜざらんや、


章番号 3 章通し番号 49

通し番号 281 章内番号 1 章通し番号 49 識別番号 5_3_1
本文
滕の文公が国を爲(おさ)めるを問う、
朱注
文公は礼以て孟子を聘(へい)す、故に孟子滕に至りて、文公之を問う、

通し番号 282 章内番号 2 章通し番号 49 識別番号 5_3_2
本文
孟子曰、民の事は緩(ゆる)くすべからざるなり、詩に云う、昼は爾(なんじ)于(ゆ)きて茅(かやをか)る、宵(よる)は爾(なんじ)索(なわ)を綯(な)い、亟(すみや)かに其(そ)れ屋に乗れ、其(それ)始めて百穀を播(ま)け、
朱注
綯、音は陶、亟、紀力反、○民事、農の事を謂う、詩、豳風(ひんぷう)七月の篇、于、往きて取るなり、綯(とう)、絞(こう)なり、亟、急なり、乗、升なり、播、布なり、言えらく、農事至りて重く、人君以て緩(ゆる)きを爲して之を忽(ゆるが)せにすべからず、故に詩を引きて言う、屋を治めるの急なること此の如きものは、蓋し来春将に復(また)始めて百穀を播かんとして、此を爲す暇あらざるを以てなり、

通し番号 283 章内番号 3 章通し番号 49 識別番号 5_3_3
本文
民の道爲(た)るや、恒(つね)の産有る者は恒(つね)の心有り、恒(つね)の産無き者は恒(つね)の心無し、苟(もし)恒(つね)の心無ければ、放辟邪侈、爲さざる無きのみ、罪に陥いるに及び、然る後従(よ)りて之を刑す、是れ民を罔(あみ)するなり、、焉ぞ仁人位に在る有りて、民を罔すること爲すべけんや、
朱注
音義、並びに前篇に見ゆ、

通し番号 284 章内番号 4 章通し番号 49 識別番号 5_3_4
本文
是故に賢君必ず恭倹にして下に礼し、民に取るに制有り、
朱注
恭なれば則ち能く礼以て下に接す、倹なれば則ち能く民に取るに制を以てす、

通し番号 285 章内番号 5 章通し番号 49 識別番号 5_3_5
本文
陽虎曰く、富を爲せば仁ならず、仁を爲せば富ならず、
朱注
陽虎は、陽貨、魯の季氏の家臣なり、天理と人欲は、並立を容(い)れず、虎の此を言うは、仁を爲すが富に害あるを恐れるなり、孟子之を引くは、富を爲すが仁に害あるを恐れるなり、君子小人、每(つね)に相反するのみ、

通し番号 286 章内番号 6 章通し番号 49 識別番号 5_3_6
本文
夏后氏五十にして貢す、殷人(いんひと)七十にして助す、周人(しゅうひと)百畝にして徹す、其実皆什一なり、徹なるものは、徹なり、助なるものは、藉なり、
朱注
徹、敕列反、藉、子夜反、○此以下、乃ち民の常産を制し、其の之を取るの制とを言うなり、夏の時一夫(ぷ)田五十畝(ほ)を授(う)く、而して夫の每に其五畝の入を計り以て貢と爲す、商人(しょうひと)始めて井田の制を爲す、六百三十畝の地を以て、画して九区と爲す、区は七十畝、中は公田と爲す、其外八家各(おのおの)一区を授(う)く、但(ただ)其力を借り助以て公田を耕し、復(また)其私田を稅さざるなり、周の時一夫田百畝を授(う)く、郷遂(きょうすい)貢法を用う、十夫溝有り、都鄙(ひ)助法を用う、八家井を同じくし、耕せば則ち力を通じて作る、收めれば則ち畝(ほ)を計りて分く、故に之を徹と謂う、其実皆什一は、貢法固より十分の一以て常数と爲す、惟(ただ)助法乃ち是れ九一、而して商制考うべからず、周制則ち公田百畝、中二十畝以て廬舍(ろしゃ)と爲す、一夫耕す所の公田は、実計十畝なり、私田百畝を通じると、十一分に其一を取ると爲す、蓋し又(さら)に什一より軽し、竊(ひそ)かに商制を料(はか)るに亦当に此に似るべし、而して十四畝を以て廬舍(ろしゃ)と爲す、一夫実は公田七畝を耕す、是れ亦什一を過ぎざるなり、徹、通なり、均なり、藉、借なり、

通し番号 287 章内番号 7 章通し番号 49 識別番号 5_3_7
本文
龍子曰く、地を治めるは助より善きは莫し、貢より善からざるは莫し、貢は数歳の中を校(はか)り以て常と爲す、楽歳粒米狼戾(ろうれい)、多く之を取りて虐と爲さず、則(しかる)に寡(すくな)く之を取る、凶年其田を糞(つちか)うも足らず、則(しかる)に必ず盈(えい)を取る、民の父母と爲り、民をして盻盻然(けいけいぜん)として、將に終歳勤動し、以て其父母を養うことを得ざらしめんとす、又称貸して之を益(ま)す、老稚(ち)をして溝(こう)壑(がく)に転ぜしむ、悪(いずく)にか在る、其民の父母爲(た)ること、
朱注
楽、音は洛、盻、五禮反、目に従い兮に従う、或ひと音は普莧反とするは非なり、養、去声、悪、平声、○龍子、古の賢人、狼戾、猶狼藉(ろうぜき)のごときなり、多きを言うなり、糞、壅(よう)なり、盈、満なり、盻(けい)、恨視なり、勤動、労苦也、称、挙なり、貸、借なり、物を人より取り、息を出し以て之を償(つぐな)うなり、之を益(ま)すは、以て盈(えい)を取るの数に足すなり、稚、幼子なり、

通し番号 288 章内番号 8 章通し番号 49 識別番号 5_3_8
本文
夫世禄は、滕固より之を行う、
朱注
夫、音は扶、○孟子嘗て言う、文王岐を治める、耕す者は九一、仕える者は世禄、二なるものは王政の本なり、今、世禄滕已に之を行う、惟(ただ)助法未だ行われず、故に民に取るものは制無きのみ、蓋し世禄は、之に土田を授け、之をして其公田の入を食(は)ましむ、実に助法と相(あい)表裏を爲す、以て君子野人をして各(おのおの)定業有りて上下相安んぜしめる所のものなり、故に下文遂(よ)りて助法を言う、

通し番号 289 章内番号 9 章通し番号 49 識別番号 5_3_9
本文
詩に云う、我(わが)公田に雨(あめふ)り、遂(つい)に我(わが)私(わたくし)に及べ、惟(ただ)助のみ公田有りと爲す、此に由り之を観れば、周と雖も亦助なり、
朱注
雨、于付反、○詩、小雅大田の篇、雨、降雨なり、言えらく、願わくば、天公田に雨(あめふ)らせ、遂に私田に及べ、公を先にして私を後にするなり、当時助法尽(ことごと)く廃(すた)る、典籍存せず、惟此詩有り、周亦助を用いるを見るべし、故に之を引くなり、

通し番号 290 章内番号 10 章通し番号 49 識別番号 5_3_10
本文
庠(しょう)序学校を設(もう)け爲(つく)り以て之を教う、庠は、養なり、校は、教なり、序は、射なり、夏は校と曰い、殷は序と曰い、周は庠と曰う、学は則ち三代之を共(とも)にす、皆以て人倫を明かにする所なり、人倫上に明かにして、小民下に親む、
朱注
庠は老を養うを以て義と爲す、校は民に教えるを以て義と爲す、序は射を習うを以て義と爲す、皆郷学なり、学、国学なり、之を共(とも)にするは、異なる名無きなり、倫、序なり、父子親有り、君臣義有り、夫婦別有り、長幼序有り、朋友信有り、此は人の大倫なり、庠序学校、皆以て此を明らかにするのみ、

通し番号 291 章内番号 11 章通し番号 49 識別番号 5_3_11
本文
王者起こること有れば、必ず来りて法を取る、是れ王者の師と爲るなり、
朱注
滕国褊(へん)小なり、仁政を行うと雖も、未だ必ずしも王業を興すこと能わず、然れども王者の師と爲れば、則ち天下を有(たも)たずと雖も、其沢亦以て天下に及ぶに足る、聖賢の至公無我の心、此に於て見るべし、

通し番号 292 章内番号 12 章通し番号 49 識別番号 5_3_12
本文
詩に云う、周旧邦と雖も、其命惟(これ)新し、文王の謂(いい)なり、子力(つと)めて之を行えば、亦以て子の国を新しくす、
朱注
詩、大雅文王の篇、言えらく、周后稷以来、旧(ふる)き諸侯爲(た)りと雖も、其天命を受けて天下を有つは、則ち文王自(よ)り始まるなり、子、文公を指す、諸侯未だ年を踰(こ)えざるの称なり、

通し番号 293 章内番号 13 章通し番号 49 識別番号 5_3_13
本文
畢戦(ひつせん)をして井地を問わしむ、孟子曰く、子の君将に仁政を行わんとす、選択して子を使(せし)む、子必ず之を勉めよ、夫(それ)仁政は、必ず経界自(よ)り始まる、経界正しからざれば、井地均(ひと)しからず、穀禄平(たいら)かならず、是故に暴君汙吏必ず其経界を慢(おこた)る、経界既に正しければ、田を分ち禄を制すること坐して定むべきなり、
朱注
夫、音は扶、○畢戦、滕の臣、文公は孟子の言に因りて、畢戦をして井地を爲(おさ)めるの事を主(つかさど)らしめる、故に又(さら)に之をして来りて其詳を問わしむなり、井地、即ち井田なり、経界は、地を治め田を分ち、其溝塗(と)封植(ほうしょく)の界を経画するを謂うなり、此法脩(おさま)らざれば、則ち田定分無くて、豪強以て兼幷(けんぺい)することを得る、故に井地均(ひと)しからざること有り、賦定法無く、貪(どん)暴以て多取することを得る、故に穀禄平(たいら)かならざること有り、此仁政を行わんと欲する者の必ず此従(よ)り始める所以にして、暴君汙吏則ち必ず慢(おこた)りて之を廃せんと欲するなり、以て之を正すこと有れば、則ち田を分け禄を制すること、労せずして定むべし、

通し番号 294 章内番号 14 章通し番号 49 識別番号 5_3_14
本文
夫(それ)滕は壤(じょう)地褊小なり、将(ある)いは君子爲(た)り、将(ある)いは野人爲(た)り、君子無ければ野人を治めること莫し、野人無ければ君子を養うこと莫し、
朱注
夫、音は扶、養、去声、○言えらく、滕の地小と雖も、然れども其間(なか)亦必ず君子と爲りて仕える者有り、亦必ず野人と爲りて耕やす者有り、是を以て田を分ち禄を制するの法、偏廃すべからざるなり、

通し番号 295 章内番号 15 章通し番号 49 識別番号 5_3_15
本文
請う野は九一にして助す、国中(こくちゅう)什一にして自ら賦せしむ、
朱注
此は分田制禄の常法なり、以て野人を治め君子を養わしめる所なり、野は、郊外都鄙の地なり、九一にして助すは、公田と爲して助法を行うなり、国中は、郊門の内、郷遂の地なり、田は井にして授(さず)けず、但(ただ)溝洫(きょく)を爲(つく)り、什にして自ら其一を賦せしむ、蓋し貢法を用いるなり、周謂う所の徹法なるものは、蓋し此如し、此を以て之を推せば、当時惟(ただ)助法行わざるに非ず、其貢亦什一に止(とど)まらず、

通し番号 296 章内番号 16 章通し番号 49 識別番号 5_3_16
本文
卿(けい)以下必ず圭田(けいでん)有り、圭田は五十畝(ぽ)なり、
朱注
此は世禄の常制の外(ほか)、又圭田有り、以て君子を厚くする所なり、圭、潔なり、以て祭祀(さいし)に奉る所なり、世禄を言わざるは、滕已に之を行う、但(ただ)此未だ備わらざるのみ、

通し番号 297 章内番号 17 章通し番号 49 識別番号 5_3_17
本文
余夫は二十五畝、
朱注
程子曰く、一夫は上は父母、下は妻子、五口八口以て率(おおむね)と爲す、田百畝を受く、如(も)し弟有れば、是れ余夫なり、年十六、別に田二十五畝を受く、其の壯にして室有るを俟(ま)ち、然る後更に百畝の田を受く、愚按ずるに、此百畝は常制の外(ほか)なり、又(さら)に余夫の田有り、以て野人を厚くするなり、

通し番号 298 章内番号 18 章通し番号 49 識別番号 5_3_18
本文
死して徙(うつ)り郷を出ずること無し、郷の田は井を同じくすれば、出入相友(したが)い、守望相助け、疾病相扶持(ふじ)す、則ち百姓親睦す、
朱注
死、葬を謂うなり、徙、其居を徙(うつ)すを謂うなり、井を同じくするは、八家なり、友、猶伴のごときなり、守望、寇盜を防ぐなり、

通し番号 299 章内番号 19 章通し番号 49 識別番号 5_3_19
本文
方里にして井、井は九百畝、其中公田と爲す、八家皆百畝を私す、同じく公田を養う、公事畢(おわ)る、然る後敢て私事を治む、以て野人を別(わか)つ所なり、
朱注
養、去声、別、彼列反、○此は詳しく井田の形体の制を言う、乃ち周の助法なり、公田以て君子の禄と爲す、而して私田は野人の受くる所なり、公を先にし私を後にするは、以て君子野人の分を別つ所なり、君子を言わざるは、野人に拠(よ)りて言い、文を省くのみ、上は野及び国中(こくちゅう)の二法を言い、此は独り野を治めるに詳しいのは、国中(こくちゅう)の貢法、当時已に行われ、但(ただ)之を取ること什一に過ぎるのみなればなり、

通し番号 300 章内番号 20 章通し番号 49 識別番号 5_3_20
本文
此は其大略なり、夫(かの)之を潤沢するが若きは、則ち君と子にあり、
朱注
夫、音は扶、○井地の法、諸侯皆其籍を去る、此特(ただ)其大略のみ、潤沢は、時に因り宜(ぎ)を制し、人情に合い、土俗に宜(かな)い、而して先王の意を失わざらしむを謂うなり、○呂氏曰く、子張子慨然(がいぜん)として三代の治に意有り、人を治めるの先務を論ずれば、未だ始に経界以て急と爲さざることなし、法制を講求し、粲然(さんぜん)として備具す、之を要(もと)れば以て今に行うべし、如(も)し我を用いる者有れば、挙げて之を措(お)くのみ、嘗て曰く、仁政必ず経界自(よ)り始まる、貧富均(ひと)しからず、教養法無ければ、治を言わんと欲すと雖も、皆苟(かりそめ)なるのみ、世の行い難きを病む者は、未だ始めより亟(すみや)かに富人の田を奪うを以て辞を爲さざるなし、然れども茲(この)法之行えば、之を悦ぶ者衆(おお)し、苟(もし)之に処(お)り術有らば、期すること数年を以て、一人を刑せずして復(おわ)るべし、病む所のものは、特(ただ)上の未だ行わざるのみ、乃(しこうし)て言いて曰く、縦(たと)い之を天下に行うこと能わずとも、猶之を一郷に験すべし、学ぶ者と古の法を議するに方(あた)り、田一方を買い、画して数井と爲す、上公家(こうか)の賦役を失わず、退いては其私以て経界を正し、宅里を分け、斂(れん)法を立て、儲(ちょ)蓄を広め、学校を興し、礼俗を成し、菑(し)を救い患を卹(うれ)い、本を厚くし末を抑う、以て先王の遺法を推し、当今の行うべきを明かにするに足る、志有りて未だ就(な)らずして卒す、○愚按ずるに、喪礼経界の両章、孟子の学、其大なるものを識るを見る、是を以て礼法廃壊の後に当り、制度の節)文復(また)考うべからざると雖も、能く略に因り以て詳を致し、旧を推して新を爲し、既往の迹(あと)に屑屑(せつせつ)とせずして、能く先王の意に合う、真に命世亜聖の才と謂うべし、


章番号 4 章通し番号 50

通し番号 301 章内番号 1 章通し番号 50 識別番号 5_4_1
本文
神農の言を爲す者許行有り、楚自(よ)り滕に之(ゆ)く、門に踵(いた)りて文公に告げて曰く、遠方の人、君仁政を行うを聞く、願わくば一廛(てん)を受けて氓(たみ)と爲らん、文公之に處(ところ)を与う、其徒数十人、皆褐(かつ)を衣(き)、屨(くつ)を捆(う)ち席を織(お)り以て食と爲す、
朱注
衣、去声、捆、音は閫、○神農は、炎帝神農氏なり、始めて耒耜(らいし)を爲(つく)り、民に稼穡(かしょく)を教える者なり、其言を爲す者は、史遷謂う所の農家なるものの流れなり、許は、姓、行は、名なり、踵門は、足が門に至るなり、仁政は、上章言う所の井地の法なり、廛(てん)は、民の居る所なり、氓は、野人の称なり、褐は、毛の布、賎者の服なり、捆は、之を扣椓(こうたく)し其堅を欲するなり、以て食と爲すは、売りて以て食を供するなり、程子曰く、許行謂う所の神農の言は、乃ち後世上古の事を称述し、其義理を失うもののみ、猶陰陽医方が黄帝の説を称するがごときなり、

通し番号 302 章内番号 2 章通し番号 50 識別番号 5_4_2
本文
陳良の徒陳相(ちんしょう)、其弟辛と、耒耜(らいし)を負いて宋自(よ)り滕に之きて曰く、君聖人の政を行うと聞く、是れ亦聖人なり、願わくば聖人の氓(たみ)と爲らん、
朱注
陳良、楚の儒者なり、耜、以て土を起こす所なり、耒、其柄なり、

通し番号 303 章内番号 3 章通し番号 50 識別番号 5_4_3
本文
陳相許行に見(あ)い大いに悦(よろこ)ぶ、尽(ことごと)く其学を棄てて学ぶ、陳相孟子に見(あ)い、許行の言を道(い)いて曰く、滕君則ち誠に賢君なり、然りと雖も未だ道を聞かざるなり、賢者民と並(なら)び耕やして食す、饔飧(ようそん)して治む、今也(や)滕倉廩(りん)府庫有り、則ち是民を厲(やま)しめて以て自ら養うなり、悪ぞ賢を得ん、
朱注
饔、音は雍、飧、音は孫、悪、平声、○饔飧、食を熟(に)るなり、朝は饔(よう)と曰い、夕は飧(そん)と曰う、言えらく、当に自ら炊爨(すいそん)して以て食を爲(つく)りて、兼ねて民の事を治むべきなり、厲、病なり、許行の此言、蓋し陰に孟子の君子野人を分別するの法を壊(やぶ)らんと欲す、

通し番号 304 章内番号 4 章通し番号 50 識別番号 5_4_4
本文
孟子曰く、許子必ず粟(ぞく)を種(う)えて後食するか、曰く、然り、許子必ず布を織(お)りて後衣(き)るか、曰く、否、許子褐(かつ)を衣る、許子冠するか、曰く、冠す、曰く、奚(なに)を冠す、曰く、素を冠す、曰く、自ら之を織(お)るか、曰く、否、粟以て之に易う、曰く、許子奚爲(なんすれ)ぞ自ら織(お)らざる、曰く、耕に害あり、曰く、許子釜甑(ふしょう)以て爨(もや)し、鉄以て耕すか、曰く、然り、自ら之を爲(つく)るか、曰く、否、粟以て之に易う、
朱注
衣、去声、与、平声、○釜(ふ)、以て煮る所なり、甑(こしき)、以て炊する所なり、爨、火を然(もや)すなり、鉄、耜(し)の属なり、此語八たび反(かさ)ねる、皆孟子が問いて陳相が対(こた)えるなり、

通し番号 305 章内番号 5 章通し番号 50 識別番号 5_4_5
本文
粟以て械器に易えるは、陶冶(や)を厲(や)ましめると爲さず、陶冶亦其械器を以て粟に易えるは、豈農夫を厲(やま)しめると爲さんや、且(また)許子何ぞ陶冶を爲さざる、皆諸(これ)を其宮中に取りて之を用いることを舍(や)めて、何爲(なんすれ)ぞ紛紛然として百工と交易する、何ぞ許子は煩を憚(はばか)らざる、曰く、百工の事、固より耕し且(か)つ爲すべからざるなり、
朱注
舍、去声、○此孟子言いて陳相対えるなり、械器は、釜、甑(こしき)の属なり、陶は、甑(こしき)を爲(つく)る者なり、冶は、釜鉄を爲る者なり、舍、止なり、或いは上句に属(つづ)けて読み、舍は、陶冶を作(な)すの処(ところ)を謂うなり、

通し番号 306 章内番号 6 章通し番号 50 識別番号 5_4_6
本文
然らば則ち天下を治めること独(ひと)り耕し且(か)つ爲すべきか、大人の事有り、小人(しょうじん)の事有り、且(ま)た一人の身にして、百工の爲す所備わる、如(も)し必ず自ら爲して後之を用うれば、是れ天下を率(ひき)いて路するなり、故に曰く、或いは心を労し、或いは力を労す、心を労する者は人を治む、力を労する者は人に治めらる、人に治めらる者は人を食(やしな)う、人を治める者は人に食(やしなわ)れる、天下の通義なり、
朱注
与、平声、食、音は嗣、○此以下皆孟子の言なり、路、道路を奔走して、時に休息すること無きを謂うなり、治於人は、人に治め見(らる)なり、人を食(やしな)うは、賦税を出し以て公上に給するなり、食於人は、人に食(やしな)わ見(れ)るなり、此四句皆古語、而して孟子之を引くなり、君子は小人無ければ則ち飢える、小人は君子無ければ則乱る、此を以て相易(か)える、正に猶農夫陶冶が粟と械器を以て相易(か)えるがごときなり、乃ち以て相濟(たす)くる所にして、以て相病(やまし)む所に非ざるなり、天下を治める者、豈必ず耕し且(か)つ爲さんや、

通し番号 307 章内番号 7 章通し番号 50 識別番号 5_4_7
本文
堯の時に当り、天下猶(なお)未だ平かならず、洪水横流し、天下に氾濫す、草木暢茂(ちょうも)し、禽獣繁殖し、五穀登(みの)らず、禽獣人に偪(せま)る、獣蹄(てい)鳥跡(せき)の道、中国に交わる、堯独り之を憂う、舜を挙げて敷(ほどこ)し治めしむ、舜は益をして火を掌(つかさど)らしむ、益は山沢を烈(もや)し之を焚(や)く、禽獣逃れ匿(かく)る、禹九河(か)を疏(とお)す、済(せい)漯(とう)を瀹(とお)して、諸(これ)を海に注ぐ、汝(じょ)漢を決し、淮泗(わいし)を排して、之を江に注ぐ、然る後中国得て食すべきなり、是時に当るや、禹外に於て八年、三たび其門を過ぎて入らず、耕すことを欲すと雖も得るか、
朱注
瀹、音は薬、済、子礼反、漯、他合反、○天下猶(なお)未だ平かならずは、洪荒(こうこう)の世、生民の害多し、聖人迭(かわるがわる)興り、漸次除き治む、此に至り尚未だ尽(ことごと)くは平かならざるなり、洪、大なり、横流は、其道に由らずして散溢(いつ)妄行するなり、氾濫は、横流の貌なり、暢茂、長盛なり、繁殖、衆多なり、五穀、稲、黍(しょ)、稷(しょく)、麦、菽(しゅく)なり、登、成熟なり、道、路なり、獣蹄鳥跡中国に交わるは、禽獣多きを言うなり、敷、布なり、益、舜の臣の名なり、烈、熾(し)なり、禽獸逃れ匿(かく)る、然る後禹治水の功を施すことを得る、疏、通なり、分なり、九河、曰く徒駭(とがい)、曰く太史、曰く馬頰(ばきょう)、曰く覆釜(ふくふ)、曰く胡蘇(こそ)、曰く簡、曰潔、曰く鉤盤(こうばん)、曰く鬲津(かくしん)、瀹(やく)、亦疏通の意、済(せい)、漯(とう)、二水の名、決、排、皆其壅(よう)塞を去るなり、汝、漢、淮(わい)、泗(し)、亦皆水の名なり、禹貢及び今の水路に拠(よ)れば、惟(ただ)漢水江に入るのみ、汝泗則ち淮に入りて、淮自ら海に入る、此四水皆江に入ると謂うは、記する者の誤りなり、

通し番号 308 章内番号 8 章通し番号 50 識別番号 5_4_8
本文
后稷(こうしょく)民に稼穡(かしょく)を教え、五穀を樹芸す、五穀熟して民人育す、人は道有るなり、飽食、煖衣(だんい)、逸居(いっきょ)して教えること無ければ、則ち禽獣に近し、聖人之を憂うこと有り、契(せつ)をして司徒と爲らしめ、教えるに人倫を以てす、父子親有り、君臣義有り、夫婦別有り、長幼序有り、朋友信有り、放勳(ほうくん)曰く、之を労(ねぎら)う、之を来たす、之を匡(ただ)す、之を直(なお)くす、之を輔(たす)く、之を翼(たす)く、自ずから之を得せしむ、又従(よ)りて之を振徳す、聖人の民を憂うこと此如し、而して耕に暇(いとま)あるか、
朱注
契、音は薛、別、彼列反、長、放、皆上声、労、来、皆去声、○言えらく、水土平らかにして、然る後以て稼穡を教えることを得る、衣食足りて、然る後以て教化を施すことを得る、后稷、官名、棄が之に爲る、然れども民に教えると言えば、則ち亦並び耕すに非ず、樹、亦種なり、芸、殖なり、契、亦舜の臣の名なり、司徒、官名なり、人は道有るなりは、其皆秉彝(へいい)の性有るを言うなり、然れども教え無ければ、則ち亦(ただ)放逸怠惰にして之を失う、故に聖人官を設けて教えるに人倫を以てす、亦(ただ)其固より有するものに因りて之を道(みちび)くのみ、書に曰く、天は有典を敘(の)べ、我が五典を敕(ただ)す、五つ惇(あつ)くせよ、此の謂(いい)なり、放勳、本は史臣堯を賛(たた)えるの辞なり、孟子因りて以て堯の号と爲すなり、徳、猶恵のごときなり、堯は言う、労する者之を労(ねぎら)う、来る者之を来たす、邪なる者之を正す、枉(まが)る者之を直(なお)くする、輔(たす)けて以て之を立たす、翼(たす)けて以て之を行わす、自(おの)ずから其性を得せしむ、又従(よ)りて提撕(せい)警覚し以て恵を加え、其放逸怠惰にして之を失うこと或(あ)らしめず、蓋し契に命ずるの辞なり、

通し番号 309 章内番号 9 章通し番号 50 識別番号 5_4_9
本文
堯は舜を得ざるを以て己の憂いと爲す、舜は禹、皐陶(こうよう)を得ざるを以て己の憂いと爲す、夫(それ)百畝の易(おさま)らざるを以て己の憂いと爲す者は、農夫なり、
朱注
夫、音は扶、易、去声、○易、治なり、堯舜の民を憂えるは、事事にして之を憂えるに非ざるなり、先務を急にするのみ、以て民を憂う所は、其大なること此の如ければ、則ち惟(ただ)耕に暇(いとま)あらざるにあらずして、亦必ずしも耕やさざるなり、

通し番号 310 章内番号 10 章通し番号 50 識別番号 5_4_10
本文
人に分つに財を以てす、之を恵と謂う、人に教えるに善を以てす、之を忠と謂う、天下の爲に人を得るは、之を仁と謂う、是故に天下以て人に与えるは易く、天下の爲に人を得るは難し、
朱注
爲、易、並(みな)去声、○人に分つに財以てするは、小恵のみ、人に教えるに善以てするは、民を愛するの実有りと雖も、然れども其及ぶ所は亦限(かぎり)有りて久しくし難し、惟(ただ)堯の舜を得、舜の禹、皐陶を得るが若きは、乃ち謂う所の天下の爲に人を得るものにして、其恩恵広大、教化極まること無し、此其仁と爲す所以なり、

通し番号 311 章内番号 11 章通し番号 50 識別番号 5_4_11
本文
孔子曰く、大なるかな堯の君爲(た)る、惟(ただ)天大と爲す、惟(ただ)堯之に則(のっと)る、蕩蕩乎(とうとうこ)として民能く名づくること無し、君なるかな舜や、巍巍乎(ぎぎこ)として天下を有(たも)ちて与(あずか)らず、堯舜の天下を治める、豈其心を用いる所無からんや、亦(ただ)耕に用いざるのみ、
朱注
与、去声、○則、法なり、蕩蕩、広大の貌、君哉、君の道を尽すを言う、巍巍、高大の貌、与(あずか)らずは、猶相(あい)関さずと言うがごとし、其位以て楽しみと爲さざるを言うなり、

通し番号 312 章内番号 12 章通し番号 50 識別番号 5_4_12
本文
吾、夏用(もっ)て夷を変ずるものを聞く、未だ夷に変ぜられるものを聞かざるなり、陳良、楚の産なり、周公、仲尼の道を悦ぶ、北中国に学ぶ、北方の学者、未だ能く之に先んずること或(あ)らざるなり、彼謂う所の豪傑の士なり、子の兄弟之に事えること数十年、師死して遂に之に倍(そむ)く、
朱注
此以下陳相師に倍(そむ)きて許行を学ぶを責むるなり、夏は、諸夏礼義の教えなり、夷を変ずるは、蛮夷(ばんい)の人を変化するなり、夷に変ぜられるは、反(かえっ)て蛮夷の人に変化させられるなり、産、生なり、陳良楚に生まる、中国の南に在り、故に北遊して中国に学ぶなり、先、過なり、豪傑、才徳衆に出るの称なり、其の能く自ら流俗を拔くを言うなり、倍、背と同じ、陳良は夏用(もっ)て夷を変じ、陳相は夷に変ぜられるを言うなり、

通し番号 313 章内番号 13 章通し番号 50 識別番号 5_4_13
本文
昔者(むかし)孔子没す、三年の外(そと)、門人任(じん)を治め将に帰らんとす、入りて子貢に揖(ゆう)し、相嚮(むか)いて哭す、皆声を失ない、然る後帰る、子貢反る、室を場に築き、独り居ること三年、然る後帰る、他日子夏、子張、子游は、有若が聖人に似るを以て、孔子に事(つか)える所を以て之に事(つか)えんと欲す、曽子に彊(し)う、曽子曰く、不可、江漢以て之を濯(あら)い、秋陽以て之を暴(さら)す、皜皜乎(こうこうこ)として尚(くわ)うべからざるのみ、
朱注
任、平声、彊、上声、暴、蒲木反、皜、音は杲、○三年、古は師の爲に心喪三年、父を喪して服無きが若きなり、任、担(たん)なり、場、冢(つか)の上の壇(だん)場なり、有若が聖人に似るは、蓋し其言行気象之に似たるもの有り、檀弓(だんきゅう)記する所の、子游は有若の言は夫子(ふうし)に似ると謂うの類の如きは、是れなり、孔子に事(つか)える所は、以て夫子に事える所の礼なり、江漢水多し、之を濯(あら)い潔(きよ)きを言うなり、秋日は燥烈なり、之を暴(さら)し乾くを言うなり、皜皜、潔白の貌、尚、加なり、言えらく、夫子道徳明著、光輝潔白、有若の能く彷彿(ほうふつ)する所に非ざるなり、或るひと曰く、此三語は、孟子曽子を賛美するの辞なり、

通し番号 314 章内番号 14 章通し番号 50 識別番号 5_4_14
本文
今や南蛮鴃(げき)舌の人、先王の道に非ず、子子の師に倍(そむ)きて之に学ぶ、亦曽子に異なる、
朱注
鴃、亦鵙に作る、古役反、○鴃、博労なり、悪声の鳥なり、南蛮の声之に似る、許行を指すなり、

通し番号 315 章内番号 15 章通し番号 50 識別番号 5_4_15
本文
吾幽谷を出で喬木に遷(うつ)るものを聞く、未だ喬木を下りて幽谷に入るものを聞かざるなり、
朱注
小雅伐木の詩に云う、木を伐(き)る丁丁、鳥鳴く嚶嚶(おうおう)、幽谷自(よ)り出で、喬木に遷(うつ)る、

通し番号 316 章内番号 16 章通し番号 50 識別番号 5_4_16
本文
魯頌に曰く、戎狄(じゅうてき)是れ膺(う)ち、荊(けい)舒(じょ)是れ懲(こら)しめる、周公方且(まさ)に之を膺(う)たんとす、子是を之学ぶ、(亦)善く変ぜずと爲す、
朱注
魯頌、閟宮(ひきゅう)の篇なり、膺(よう)、擊なり、荊、楚の本号なり、舒、国名なり、楚に近きものなり、懲、艾(がい)なり、按ずるに、今此詩は僖(き)公の頌(しょう)と爲す、而るに孟子周公以て之を言う、亦断章取義なり、

通し番号 317 章内番号 17 章通し番号 50 識別番号 5_4_17
本文
許子の道に従えば、則ち市賈(か)貳(じ)ならず、国中僞無し、五尺の童をして市に適(ゆ)かしむと雖も、之を欺くこと或(あ)る莫し、布(ふ)帛(はく)長短同じならば、則ち賈相(あい)若(し)く、麻縷(まる)絲(し)絮(じょ)軽重同じならば、則ち賈(か)相(あい)若(し)く、五穀多寡同じならば、則ち賈相若く、屨(くつ)大小同じならば、則ち賈相若く、
朱注
賈、音は價、下同じ、○陳相又許子の道を言うこと此如し、蓋し神農始めて市井(しせい)を爲(つく)る、故に許行又神農に託して、是の説有るなり、五尺の童は、幼小無知を言うなり、許行市中粥(う)る所の物をして、皆精粗美悪を論ぜず、但(ただ)長短軽重多寡大小を以て価と爲さしめんと欲するなり、

通し番号 318 章内番号 18 章通し番号 50 識別番号 5_4_18
本文
曰く、夫(それ)物の斉(ひとし)からざるは、物の情なり、或いは相(あい)倍蓰(し)し、或いは相什伯(はく)し、或いは相千万す、子比して之を同じくす、是れ天下を乱るなり、巨屨(く)小屨賈を同じくすれば、人豈之を爲(つく)らんや、許子の道に従えば、相(あい)率(もち)いて僞を爲すものなり、悪ぞ能く国家を治めん、
朱注
夫、音は扶、蓰、音は師、又山綺反、比、必二反、悪、平声、○倍、一倍なり、蓰、五倍なり、什伯千万、皆倍数なり、比、次なり、孟子言えらく、物の斉(ひと)しからざるは、乃ち其(その)自然の理なり、其精粗有るは、猶其大小有るがごときなり、若(もし)大屨小屨価を同じくすれば、則ち人豈其大なるものを爲(つく)るを肯(がえん)んぜんや、今精粗を論ぜずして、之をして価を同じくせしめれば、是れ天下の人をして皆其精なるものを爲(つく)ることを肯んぜずして、競いて濫(らん)悪の物を爲(つく)り以て相欺かしめるのみ、


章番号 5 章通し番号 51

通し番号 319 章内番号 1 章通し番号 51 識別番号 5_5_1
本文
墨者夷之(いし)、徐辟(じょへき)に因りて孟子に見(あ)うことを求む、孟子曰く、吾固(もと)より見(あ)うことを願う、今吾尙(なお)病む、病愈(い)ゆれば、我且(まさ)に往きて見(あ)わんとす、夷子来らざれ、
朱注
辟、音は壁、又音は闢、○墨者、墨翟の道を治める者なり、夷は、姓、之は、名なり、徐辟(じょへき)は、孟子の弟子なり、孟子疾を称(い)う、疑うらくは亦辞に託し以て其意の誠否を観る、

通し番号 320 章内番号 2 章通し番号 51 識別番号 5_5_2
本文
他日又孟子に見(あ)うことを求む、孟子曰く、吾今則ち以て見(あ)うべし、直(ただ)さざれば則ち道見(あらわ)れず、我且(まさ)に之を直(ただ)さんとす、吾聞く、夷子墨者、墨の喪を治めるや、薄以て其道と爲すなり、夷子以て天下を易えんと思う、豈以て是(ぜ)に非ずと爲して貴ばざらんや、然り而して夷子其親を葬(ほうむ)ること厚し、則ち是れ賎しむ所を以て親に事えるなり、
朱注
不見の見、音は現、○又見(まみ)えることを求むれば、則ち其意已に誠なり、故に徐辟に因り以て之を質(ただ)すこと此の如し、直、言を尽し以て相(みちび)き正すなり、荘子曰く、墨子生きて歌わず、死して服無し、桐(とう)棺(かん)三寸にして槨(かく)無し、是れ墨の喪を治める、薄以て道と爲すなり、天下を易えるは、天下の風俗を移易するを謂うなり、夷子墨氏に学びて其教えに従わず、其心必ず安からざる所のもの有り、故に孟子因りて以て之を詰(と)う、

通し番号 321 章内番号 3 章通し番号 51 識別番号 5_5_3
本文
徐子以て夷子に告ぐ、夷子曰く、儒者の道は、古の人は赤子を保(やす)んずるが若し、此言何の謂(いい)ぞ、之(し)則ち以て愛は差等無しと爲す、施すこと親由(よ)り始まる、徐子以て孟子に告ぐ、孟子曰く、夫(かの)夷子信に人の其兄の子を親(あい)すること、其鄰(となり)の赤子を親(あい)する若く爲すと以爲(おも)うか、彼取ること有りて爾(しか)るなり、赤子匍匐(ほふく)し将に井に入らんとす、赤子の罪に非ざるなり、且(また)天の物を生ずるや、之をして本を一にせしむ、而るに夷子本を二にする故なり、
朱注
夫、音は扶、下同じ、匍、音は蒲、匐、蒲北反、○赤子を保んずるが若しは、周書康誥(こうこう)篇の文なり、此は儒者の言なり、夷子之を引く、蓋し儒を援(ひ)きて墨に入れ、以て孟子の己を非るを拒(ふせ)がんと欲す、又曰く、愛差等無く、施すこと親由(よ)り始まる、則ち墨を推して儒に附し、以て己が厚く其親を葬(ほうむ)る所以の意を釈(と)く、皆謂う所の遁辞なり、孟子言えらく、人の其の兄の子を愛するは、鄰の子と本より差等有り、書の譬(たとえ)を取るは、本(もと)小民無知にして法を犯すこと、赤子の無知にして井に入るが如きと爲すのみ、且(また)人物の生ずるは、必ず各(おのおの)父母に本づきて二無し、乃ち自然の理、天之をして然らしむる若きなり、故に其愛此由(よ)り立つ、而して推して以て人に及ぼす、自(おの)ずから差等有り、今夷子の言の如きは、則ち是れ其父母を視ること、本より路人に異なること無し、但(ただ)其之を施すの序、姑(しばら)く此自(よ)り始めるのみ、本を二にするに非ずして何ぞ、然れども其先後の間に於て、猶択ぶ所を知る、則又其本心の明、終(つい)に得て息(や)まざるもの有り、此は其卒(つい)に能く命を受けて自ずから其非を覚(さと)る所以なり、

通し番号 322 章内番号 4 章通し番号 51 識別番号 5_5_4
本文
(蓋)上世嘗て其親葬(ほうむ)らざる者有り、其の親死すれば、則ち挙げて之を壑(みぞ)に委(す)つ、他日之を過ぐ、狐狸(こり)之を食(くら)い、蠅(よう)蚋(ぜい)姑(こ)之を嘬(くら)う、其の顙(ひたい)泚(せい)すること有り、睨(げい)して視ず、夫泚や、人の爲に泚(せい)するに非ず、中心より面目に達す、(蓋)帰り虆梩(らり)を反(くつがえ)して之を掩(おお)う、之を掩(おお)うこと誠に是なら、則ち孝子仁人の其親を掩うこと、亦必ず道有り、
朱注
蚋(ぜい)、音は汭(ぜい)、嘬(さい)、楚怪反、泚(せい)、七礼反、睨(げい)、音は詣(けい)、爲、去声、虆(ら)、力追反、梩(り)、力知反、○夷子厚く其親を葬るに因りて此を言う、以て深く本を一にするの意を明かにす、上世、太古を謂うなり、委、棄なり、壑、山の水が趨(おもむ)く所なり、蚋(ぜい)、蚊の属、姑、語助の声、或ひと曰く、螻蛄(ろうこ)なり、嘬は、攢(あつま)り共に之を食(くら)うなり、顙(そう)、額なり、泚(せい)、泚(せい)然として汗出るの貌、睨、邪視なり、視、正視なり、視ざる能わず、而るに又正視するに忍びず、哀痛迫切、心を爲(おさ)める能わざるの甚しきなり、人の爲に泚(せい)するに非ずは、他人之を見る爲にして然るに非ざるを言うなり、謂う所の本を一にするものは、此に於て之を見ゆ、尤も親切と爲す、蓋し惟(ただ)至親故に此如し、他人に在れば、則ち忍びざるの心有りと雖も、其哀痛迫切、此若(ごと)きの甚だしきに至らず、反、覆なり、虆(ら)、土籠(ろう)なり、梩(り)、土轝(よ)なり、是に於て帰りて其親の尸(しかばね)を掩覆(えんふく)す、此は葬埋(そうまい)の礼由りて起こる所なり、此其親を掩(おお)うものは、若し当に然るべき所とすれば、則ち孝子仁人以て其親を掩(おお)う所のものは、必ず其道有り、而して薄以て貴と爲さず、

通し番号 323 章内番号 5 章通し番号 51 識別番号 5_5_5
本文
徐子以て夷子に告ぐ、夷子憮然(ぶぜん)として間を爲して曰く、之(し)に命(おし)えり、
朱注
憮、音は武、間、字の如し、○憮然、茫(ぼう)然自失の貌、間を爲すは、頃(けい)有るの間なり、命、猶教のごときなり、言えらく、孟子已に我に教えり、蓋し其本心の明に因り、以て其学ぶ所の蔽を攻(おさ)む、是を以て吾の言入り易くて、彼の惑い解き易きなり、


6 滕文公章句下 téng wén gōng zhāng jù xià

章番号 1 章通し番号 52

通し番号 324 章内番号 1 章通し番号 52 識別番号 6_1_1
本文
陳代(ちんだい)曰く、諸侯に見(まみ)えざるは、宜(ほとんど)小なるが若き然(なり)、今一たび之に見(まみ)えれば、大は則ち以て王たり、小は則ち以て霸たり、且(また)志に曰く、尺を枉(ま)げて尋(じん)を直(なお)くす、宜しく爲すべきが若きなり、
朱注
王、去声、○陳代、孟子の弟子なり、小、小節を謂うなり、枉、屈なり、直、伸なり、八尺を尋と曰う、尺を枉(ま)げて尋(じん)を直(なお)くすは、猶己を屈して一たび諸侯に見(まみ)えて、以て王霸を致すべきは、屈する所のものは小、伸びる所のものは大なるがごときなり、

通し番号 325 章内番号 2 章通し番号 52 識別番号 6_1_2
本文
孟子曰く、昔齊の景公田(かり)す、虞人(ぐじん)を招(まね)くに旌(せい)を以てす、至らず、將に之を殺さんとす、志士は溝壑(こうがく)に在るを忘れず、勇士は其元を喪(うしな)うを忘れず、孔子奚(なに)をか取る、其招に非ずして往かざるを取るなり、如(も)し其招を待たずして往けば、何ぞや、
朱注
喪、去声、○田、猟なり、虞人は、苑囿(えんゆう)を守る吏なり、大夫を招くに旌を以てす、虞人を招くに皮冠(ひかん)を以てす、元、首なり、志士固より窮す、常に死して棺槨無く、溝壑に棄てられて恨みざるを念(おも)う、勇士生を軽んず、常に戦闘して死し、其首を喪(うしな)いて顧ざることを念うなり、此二句、乃ち孔子虞人を歎美するの言なり、夫(そ)の虞人之を招くに其物を以てせざれば、尚(なお)死を守りて往(ゆ)かず、況んや君子豈(あに)其招を待たずして自ら往き之に見(まみ)えるべきか、此以上は之に告ぐるに、往き之に見(まみ)えるべからざるの意を以てするなり、

通し番号 326 章内番号 3 章通し番号 52 識別番号 6_1_3
本文
且(また)夫(それ)尺を枉(ま)げて尋を直(なお)くするは、利以て言うなり、如(も)し利以てすれば、則ち尋を枉(ま)げ尺を直(なお)くして利あらば、亦爲すべきか、
朱注
夫、音は扶、与、平声、○此以下、其称(い)う所の尺を枉げ尋を直(なお)くすの非を正す、夫(その)謂う所の小を枉(ま)げて伸(のば)す所のもの大なれば則ち之を爲すものは、其利を計るのみ、一たび利を計るの心有れば、則ち枉(ま)げること多く伸(のば)すこと少なしと雖も利有らば、亦将に之を爲さんか、甚だ其の不可を言うなり、

通し番号 327 章内番号 4 章通し番号 52 識別番号 6_1_4
本文
昔者(むかし)趙簡子は王良をして嬖奚(へいけい)と乗らしむ、終日にして一禽を獲(え)ず、嬖奚反命して曰く、天下の賎工なり、或ひと以て王良に告ぐ、良曰く、請う之を復(また)せん、彊(し)いて後可(き)く、一朝にして十禽を獲る、嬖奚(へいけい)反命して曰く、天下の良工なり、簡子曰く、我女(なんじ)と乗ることを掌(つかさ)どらしむ、王良に謂う、良可(き)かず、曰く、吾之が爲に範して我馳駆(ちく)すれば、終日にして一を獲ず、之が爲に詭遇(きぐう)すれば、一朝にして十を獲る、詩に云う、其馳を失わず、矢を舍(はな)ち破るが如し、我小人と乗ることに貫(な)れず、請う辞せん、
朱注
乗、去声、彊、上声、女、音は汝、爲、去声、舍、上声、○趙簡子、晋の大夫趙鞅(おう)なり、王良、御を善くする者なり、嬖奚(へいけい)、簡子の幸臣、之と乗るは、之が爲に御するなり、之を復(また)するは、再び乗るなり、彊(し)いて後可(き)くは、嬖奚(へいけい)肯(がえん)ぜず、之に彊(し)いて後肯(がえん)ずるなり、一朝、晨(しん)自(よ)り食の時に至るなり、掌、専ら主(つかさど)るなり、範、法度なり、詭遇、正しからずして禽と遇(あ)うなり、言えらく、奚(けい)射を善(よ)くせず、法以て馳駆(ちく)すれば則ち獲ず、法を廃し詭遇して後に中(あた)るなり、詩、小雅車攻の篇、言えらく、御者其の馳駆の法を失わず、而して射る者矢を発し皆中(あた)りて力あり、今嬖奚能わざるなり、貫、習なり、

通し番号 328 章内番号 5 章通し番号 52 識別番号 6_1_5
本文
御者且(すら)射る者と比するを羞(は)ず、比(おもね)て禽獣を得ること、丘陵の若きと雖も爲さざるなり、道を枉げて彼に従うが如きは、何ぞや、且(また)子過(あやま)てり、己を枉げる者は未だ能く人を直くすること有らざるなり、
朱注
比、必二反、○比、阿党なり、丘陵の若きは、多きを言うなり、○或ひと曰く、今の世に居れば、出処去就必ずしも一一節に中(あた)らず、其一一節に中ることを欲せば、則ち道行うことを得ず、楊氏曰く、何ぞ其れ自ら重くせざる、己を枉げ其れ能く人を直(なお)くするか、古の人寧(むしろ)道の行われずして、其の去就を軽くせず、是を以て孔孟春秋戦国の時に在ると雖も、進むに必ず正を以てす、以て終(つい)に行うことを得ずして死するに至るなり、其去就を恤(かえりみ)ずして以て道を行うべからしめば、孔孟当に先ず之を爲すべし、孔孟豈(あに)道の行われることを欲せざらんや、


章番号 2 章通し番号 53

通し番号 329 章内番号 1 章通し番号 53 識別番号 6_2_1
本文
景春曰く、公孫衍(えん)、張儀豈誠の大丈夫ならずや、一たび怒りて諸侯懼(おそ)る、安居して天下熄(や)む、
朱注
景春、人の姓名、公孫衍、張儀、皆魏人、怒れば則ち諸侯に説き相(あい)攻伐せしむ、故に諸侯懼(おそ)れるなり、

通し番号 330 章内番号 2 章通し番号 53 識別番号 6_2_2
本文
孟子曰く、是焉ぞ大丈夫と爲(た)るを得んや、子未だ礼を学ばざるか、丈夫の冠するや、父之を命ず、女子の嫁するや、母之に命ず、往きて之を門に送る、之を戒(いまし)めて曰く、往きて女(なんじ)の家に之(ゆ)き、必ず敬(うやま)い必ず戒(つつし)み、夫子に違うこと無かれ、順以て正と爲すものは、妾婦の道なり、
朱注
焉、於虔反、冠、去声、女家の女、音は汝、○首(あたま)に冠を加えるは冠と曰う、女の家、夫の家なり、婦人は夫の家に内(い)る、嫁以て帰と爲すなり、夫子、夫なり、女子人に従う、順以て正道と爲すなり、蓋し言えらく、二子阿諛(あゆ)苟容(こうよう)し、権勢を竊(ぬす)み取る、乃ち妾婦順従の道のみ、丈夫の事に非ざるなり、

通し番号 331 章内番号 3 章通し番号 53 識別番号 6_2_3
本文
天下の広居に居り、天下の正位に立ち、天下の大道を行う、志を得れば民と之に由る、志を得ざれば独り其道を行う、富貴淫(うご)かすこと能わず、貧賤移すこと能わず、威武屈すること能わず、此を之大丈夫と謂う、
朱注
広居、仁なり、正位、礼なり、大道、義なり、民と之に由るは、其得る所を人に於て推すなり、独り其道を行うは、其得る所を己に於て守るなり、淫、其心を蕩(うごか)すなり、移、其節を変えるなり、屈、其志を挫(くじ)くなり、○何叔(しゅく)京曰く、戦国の時、聖賢の道否(ふさが)る、天下復(また)其徳業の盛を見ず、但(ただ)姦巧の徒、志を得て横行し、気焔(きえん)畏るべきを見る、遂に以て大丈夫と爲す、知らず、君子由(よ)り之を観れば、是れ乃ち妾婦の道のみ、何ぞ道(い)うに足らんや、


章番号 3 章通し番号 54

通し番号 332 章内番号 1 章通し番号 54 識別番号 6_3_1
本文
周霄(しょう)問いて曰く、古の君子仕えるか、孟子曰く、仕える、伝に曰く、孔子三月君無ければ、則ち皇皇如たり、疆(きょう)を出ずれば必ず質(し)を載(の)す、公明儀曰く、古の人三月君無ければ則ち弔す、
朱注
伝、直恋反、質、贄(し)と同じ、下同じ、○周霄、魏人、君無しは、仕えて君に事(つか)えることを得ざるを謂うなり、皇皇、求めること有りて得ざるの意の如し、疆を出るは、位を失ないて国を去るを謂うなり、質、執(と)りて以て人に見(まみ)える所のものなり、士の如きは則ち雉(ち)を執るなり、疆を出ずれば之を載するは、将に以て適(ゆ)く所の国の君に見(まみ)え之に事えんとするなり、

通し番号 333 章内番号 2 章通し番号 54 識別番号 6_3_2
本文
三月君無ければ則ち弔す、以(はなは)だ急ならざるか、
朱注
周霄(しょう)問うなり、以、已に通ず、太なり、後章此に放(なら)う、

通し番号 334 章内番号 3 章通し番号 54 識別番号 6_3_3
本文
曰く、士の位を失うや、猶諸侯の国家を失うがごときなり、礼に曰く、諸侯耕助(こうじょ)し、以て粢盛(しせい)に供す、夫人蚕繅(さんそう)し、以て衣服を爲(つく)る、犧牲成らず、粢盛潔(きよ)からず、衣服備わざれば、敢て以て祭らず、惟(これ)士田無ければ、則ち亦祭らず、牲殺器皿(べい)衣服備らざれば、敢て以て祭らず、則ち敢て以て宴せず、亦弔するに足らざるか、
朱注
盛、音は成、繅、素刀反、皿、武永反、○礼に曰く、諸侯は百畝に藉を爲す、冕(べん)して靑紘(こう)し、躬(みずか)ら耒(らい)を秉(と)り以て耕し、庶人助けて以て畝(うね)を終える、収めて之を御廩(くら)に蔵す、以て宗廟の粢盛(しせい)に供す、世婦をして公桑(そう)蚕(さん)室に蚕(さん)せしむ、繭(まゆ)を奉じて以て君に示す、遂(つい)に夫人に献ず、夫人副褘(き)して之を受く、繅(く)りて三たび手を盆(ひた)す、遂に三宮の世婦に布(ほどこ)す、繅(く)りて以て黼黻(ふふつ)文章を爲(つく)らしむ、而して服し以て先王先公を祀(まつ)る、又曰く、士田有れば則ち祭る、田無ければ則ち薦(せん)す、黍(しょ)稷(しょく)は粢(し)と曰い、器に在るは盛と曰う、牲殺、牲必ず特に殺すなり、皿、以て器を覆(おお)う所のものなり、

通し番号 335 章内番号 4 章通し番号 54 識別番号 6_3_4
本文
疆(きょう)を出ずれば必ず質(し)を載(の)すは、何ぞや、
朱注
周霄問うなり、

通し番号 336 章内番号 5 章通し番号 54 識別番号 6_3_5
本文
曰く、士の仕えるや、猶農夫の耕すがごときなり、農夫豈疆を出る爲に其耒耜(らいし)を舍(す)てんや、
朱注
爲、去声、舍、上声、

通し番号 337 章内番号 6 章通し番号 54 識別番号 6_3_6
本文
曰く、晋国亦仕国なり、未だ嘗て仕えるこ此の如く其急なるを聞かず、仕えること此の如く其急なり、君子の仕え難きは、何ぞや、曰く、丈夫生まれて之が爲に室有るを願う、女子生まれて之が爲に家有るを願う、父母の心、人皆之有り、父母の命、媒妁の言を待たずして、穴隙(けつげき)を鑽(き)り相窺(うかが)う、牆(かき)を踰(こ)え相従う、則ち父母国人皆之を賎(いやし)む、古の人未だ嘗て仕えることを欲せずんばあらざるなり、又其道に由らざるを悪(にく)む、其道に由らずして往く者は、穴隙を鑽(き)ると之類なり、
朱注
爲、去声、妁、音は酌、隙、去逆反、惡、去声、○晋国、解首篇に見ゆ、仕国、君子游宦(かん)の国を謂う、霄の意は孟子諸侯を見ざるを以て仕え難きと爲す、故に先(ま)ず古の君子仕えるや否やを問う、然る後此を言う、以て之を風切するなり、男は女以て室と爲す、女は男以て家と爲す、妁、亦媒なり、言えらく、父母爲(た)る者、其男女の室家有るを願わざること非ず、而るに亦其道に由らざるを悪(にく)む、蓋し君子は身を潔(いさぎよ)くし以て倫を乱すことをせずと雖も、亦利に徇(したが)いて義を忘れることをせざるなり、


章番号 4 章通し番号 55

通し番号 338 章内番号 1 章通し番号 55 識別番号 6_4_1
本文
彭更(ほうこう)問いて曰く、後車数十乗、従者数百人、以て伝(うつ)りて諸侯に食す、以(はなは)だ泰(おご)らずや、孟子曰く、其道に非ざれば、則ち一簞(たん)の食(し)人に受くべからず、如(も)し其道ならば、則ち舜が堯の天下を受くるは、以て泰(おご)ると爲さず、子以て泰ると爲すか、
朱注
更、平声、乗、従、皆去声、伝、直恋反、簞、音は丹、食、音は嗣、○彭更、孟子の弟子なり、泰、侈(し)なり、

通し番号 339 章内番号 2 章通し番号 55 識別番号 6_4_2
本文
曰く、否、士事えること無くて食するは、不可なり、
朱注
言えらく、舜以て泰と爲さず、但(ただ)し今の士は功無くして人の食を食すは、則ち不可と謂うなり、

通し番号 340 章内番号 3 章通し番号 55 識別番号 6_4_3
本文
曰、子が功を通じ事を易え、羡(あま)りを以て不足を補わざれば、則ち農余粟(ぞく)有り、女余布有り、子が如(も)し之を通ずれば、則ち梓匠(ししょう)輪輿(りんよ)皆食を子に得る、此に人有り、入れば則ち孝、出ずれば則ち悌(てい)、先王の道を守り、以て後の学ぶ者を待つ、而るに食を子に得ざれば、子何ぞ梓匠輪輿を尊(たっと)びて、仁義を爲す者を軽んずるや、
朱注
羡、延面反、○功を通じ事を易うは、人の功を通じて其事を交易するを謂う、羡(せん)、余なり、余り有るは、貿易する所無くて、無用を積むを言うなり、梓人、匠人は、木工なり、輪人、輿人は、車工なり、

通し番号 341 章内番号 4 章通し番号 55 識別番号 6_4_4
本文
曰く、梓匠輪輿は、其志将に以て食を求めんとするなり、君子の道を爲すや、其志は亦将に以て食を求めんとするか、曰く、子何ぞ其志を以て爲すや、其(そ)の子(し)に功有れば、食(やしな)うべくして之を食(やしな)う、且(また)子志を食(やしな)うか、功を食(やしな)うか、曰く、志を食(やしな)う、
朱注
与、平声、可食而食、食志、食功の食、皆音は嗣、下同じ、○孟子言えらく、我自(よ)り言えば、固より食を求めず、彼自(よ)り言えば、凡そ功有る者ならば、則ち当に之を食(やしな)うべし、

通し番号 342 章内番号 5 章通し番号 55 識別番号 6_4_5
本文
曰く、人此に有り、瓦するに毀(やぶ)り墁(まん)するに画す、其志将に以て食を求めんとするなり、則ち子之を食(やしな)うか、曰く、否、曰く、然らば則ち子は志を食(やしな)うに非ざるなり、功を食(やしな)うなり、
朱注
墁、武安反、子食の食、亦音は嗣、○墁、牆壁の飾なり、瓦を毀(やぶ)り墁(まん)に画すは、功無くして害有るを言うなり、既に功に食(やしな)うと曰わば、則ち士以て事無くして食す者と爲すは、真に梓匠輪輿を尊びて、仁義を爲す者を軽んず、


章番号 5 章通し番号 56

通し番号 343 章内番号 1 章通し番号 56 識別番号 6_5_1
本文
万章問いて曰く、宋は小国なり、今将に王政を行わんとす、斉楚悪みて之を伐てば、則ち之を如何(いかん)、
朱注
悪、去声、○万章、孟子の弟子、宋王偃(えん)嘗て滕を滅し薛(せつ)を伐ち、斉、楚、魏の兵を敗り、天下に霸らんと欲す、疑うらくは即ち此時なり、

通し番号 344 章内番号 2 章通し番号 56 識別番号 6_5_2
本文
孟子曰く、湯は亳(はく)に居り、葛(かつ)と鄰爲(た)り、葛伯は放(ほしいまま)にして祀(まつ)らず、湯は人をして之に問わしめて曰く、何爲(なんす)れぞ祀らざる、曰く、以て犧牲に供する無きなり、湯之に牛羊を遺(おく)らしむ、葛伯之を食べる、又以て祀(まつ)らず、湯又人をして之に問わしめて曰く、何爲(なんす)れぞ祀らざる、曰く、以て粢盛(しせい)に供する無きなり、湯亳の衆をして往きて之が爲に耕やしめ、老弱をして食を饋(おく)らしむ、葛伯其民を率い、其酒食黍稲(しょとう)有る者を要(おびやか)し之を奪う、授(あた)えざる者は之を殺す、童子(どうし)有り、黍(しょ)肉以て餉(おく)る、殺して之を奪う、書に曰く、葛伯は餉(しょう)を仇(かたき)とする、此を之謂うなり、
朱注
遺、唯季反、盛、音は成、往爲の爲、去声、饋食、酒食の食、音は嗣、要、平声、餉、式亮反、○葛、国名、伯、爵なり、放(ほしいまま)にして祀(まつ)らずは、放縦無道、先祖を祀(まつ)らざるなり、亳衆、湯の民なり、其民、葛の民なり、授、与なり、餉、亦饋なり、書は、商書仲虺(ちゅうき)の誥(こう)なり、餉(しょう)を仇(かたき)とするは、餉(おく)る者と仇と爲るを言うなり、

通し番号 345 章内番号 3 章通し番号 56 識別番号 6_5_3
本文
其(その)是(この)童子を殺す爲にして之を征す、四海の内皆曰く、天下を富とするに非ざるなり、匹夫匹婦の爲に讎(あだ)に復(むく)いるなり、
朱注
爲、去声、○天下を富とするに非ざるは、湯の心、天下以て富と爲して、之を得んと欲するに非ざるを言うなり、

通し番号 346 章内番号 4 章通し番号 56 識別番号 6_5_4
本文
湯始めて征すること、葛自(よ)り載(はじ)む、十一征して天下に敵無し、東面して征すれば、西夷怨む、南面して征すれば、北狄(てき)怨む、曰く、奚爲(なんす)れぞ我を後にする、民の之を望むこと、大旱(たいかん)の雨を望むが若きなり、市に帰(ゆ)く者止(と)まらず、芸(くさぎ)る者変(うご)かず、其君を誅して其民を弔(あわ)れむ、時雨の降るが如し、民大いに悦ぶ、書に曰く、我が后(きみ)を徯(ま)つ、后(きみ)来たらば其罰無からん、
朱注
載、亦始なり、十一征は、征する所十一国なり、余は已に前篇に見ゆ、

通し番号 347 章内番号 5 章通し番号 56 識別番号 6_5_5
本文
臣と爲らざる攸(ところ)有り、東征し厥(その)士女を綏(やす)んず、厥(その)玄黄(げんこう)を匪(はこ)にし、我が周王に紹(つか)え休(よ)きを見る、惟(これ)大邑周に臣附す、其君子玄黄を匪(はこ)に実(み)たし、以て其君子を迎う、其小人食(し)を簞(たん)し漿(しょう)を壺(こ)して、以て其小人を迎う、民を水火の中に救い、其残(そこな)うものを取るのみ、
朱注
食、音は嗣、○按ずるに周書、武成篇、武王の言を載(の)す、孟子其文を約すること此の如し、然れども其辞特(はなは)だ今の書文と類せず、今姑(しば)らく此文に依り之を解す、臣と爲らざる所有りは、紂を助け悪を爲して、周の臣と爲らざる者を謂う、匪、篚(ひ)と同じ、玄黄、幣(へい)なり、紹、継なり、猶事と言うがごときなり、言えらく、其士女は篚以て玄黄の幣を盛り、武王を迎えて之に事えるなり、商人にして我周王と曰うは、猶商書謂う所の我后のごときなり、休、美なり、言えらく、武王能く天の休(よ)き命に順う、而して之に事える者皆休(よ)きを見るなり、臣附、帰服なり、孟子又其意を釈(と)きて、言えらく、商人周師の来るを聞き、各(おのおの)其類以て相(あい)迎えるは、武王能く民を水火の中に救い、其民を残(そこな)う者を取り、之を誅して、暴虐を爲さざるを以てするのみ、君子、位に在るの人を謂い、小人、細民を謂うなり、

通し番号 348 章内番号 6 章通し番号 56 識別番号 6_5_6
本文
太誓(たいせい)に曰く、我(わが)武惟(これ)揚(あが)り、之が疆(さかい)を侵す、則ち残を取り、殺伐し用(もっ)て張る、湯于(より)光有り、
朱注
太誓、周書なり、今の書の文は亦小(すこ)し異なる、言えらく、武王の威武奮揚し、彼(かの)紂の疆界を侵す、其残賊を取る、而して殺伐の功、因りて以て張大となる、湯の桀を伐つに比して又(さら)に光有り、此を引き以て上文其残を取るの義を証(あか)す、

通し番号 349 章内番号 7 章通し番号 56 識別番号 6_5_7
本文
王政を行わず(云爾)、苟(もし)王政を行わば、四海の内皆首(あたま)を挙げて之を望み、以て君と爲さんと欲す、斉、楚大と雖も、何ぞ畏れん、
朱注
宋実(つい)に王政を行うこと能わず、後に果たして斉の滅す所と爲る、王偃(えん)走(にげ)て死す、○尹氏曰く、国を爲(おさ)める者能く自ら治めて民心を得れば、則ち天下皆将に之に帰往せんとし、其征伐の早からざるを恨むなり、尚(また)何ぞ彊国之畏れるに足らんや、苟(もし)自ら治めずして、彊弱の勢以て之を言えば、是れ畏るべきのみ、


章番号 6 章通し番号 57

通し番号 350 章内番号 1 章通し番号 57 識別番号 6_6_1
本文
孟子は戴不勝(たいふしょう)に謂いて曰く、子は子の王の善を欲するか、我明かに子に告げん、此に楚の大夫有り、其子の斉語を欲するや、則ち斉人をして諸に傅(おし)えしむか、楚人をして諸に傅(おし)えしむか、曰く、斉人をして之に傅(おし)えしむ、曰く、一斉人之に傅(おし)う、衆(おお)くの楚人之に咻(かまび)すし、日に撻(むちう)ちて其斉を求めると雖も、得べからず、引きて之を荘嶽(がく)の間(あいだ)に置くこと数年、日に撻(むちう)ちて其楚を求めると雖も、亦得べからず、
朱注
与、平声、咻、音は休、○戴不勝、宋の臣なり、斉語、斉人の語なり、傅、教なり、咻、讙(かん)なり、斉、斉語なり、莊嶽、斉の街里の名なり、楚、楚語なり、此れ先ず譬(たとえ)を設け以て之を曉(さと)すなり、

通し番号 351 章内番号 2 章通し番号 57 識別番号 6_6_2
本文
子は薛居州(せつきょしゅう)を善士と謂うなり、之をして王の所に居らしむ、王の所に在る者、長幼卑尊、皆薛居州なるや、王誰と与(とも)に不善を爲さん、王の所に在る者、長幼卑尊、皆薛居州に非ざるや、王誰と与(とも)に善を爲さん、一の薛居州、独り宋王を如何(いかん)せん、
朱注
長、上声、○居州、亦宋の臣なり、言えらく、小人衆(おお)く君子独り、以て君を正すの功を成すこと無し、


章番号 7 章通し番号 58

通し番号 352 章内番号 1 章通し番号 58 識別番号 6_7_1
本文
公孫丑問いて曰く、諸侯に見(まみ)えざるは何の義ぞ、孟子曰く、古は臣爲(た)らざれば見(まみ)えず、
朱注
臣爲(た)らざるは、未だ其国に仕えざる者を謂うなり、此が諸侯に見(まみ)えざるの義なり、

通し番号 353 章内番号 2 章通し番号 58 識別番号 6_7_2
本文
段干木は垣を踰えて之を辟(さ)く、泄柳(せつりゅう)は門を閉じて内(い)れず、是れ皆已甚(はなは)だし、迫らば斯(すなわ)ち以て見(まみ)えるべし、
朱注
辟、去声、内、納と同じ、○段干木、魏の文侯の時人なり、泄柳、魯の繆(ぼく)公の時人なり、文侯、繆公此二人に見(あ)わんと欲す、而るに二人之に見(まみ)えるを肯(がえんぜ)ず、蓋し未だ臣爲(た)らざるなり、已甚、過ぎて甚だしきなり、迫、之に見(あ)うことを求めること切なるを謂うなり、

通し番号 354 章内番号 3 章通し番号 58 識別番号 6_7_3
本文
陽貨孔子に見(あ)わんと欲して、礼無きことを悪(にく)む、大夫士に賜(たま)うこと有り、其家に受くることを得ざれば、則ち往きて其門に拝す、陽貨孔子の亡(な)きを矙(うかが)いて孔子に蒸豚(むしぶた)を饋(おく)る、孔子亦其亡(な)きを矙(うかが)いて、往きて之を拝す、是時に当り、陽貨先なり、豈見(あ)わざるを得んや、
朱注
欲見の見、音は現、悪、去声、矙、音は勘、○此又(さら)に孔子の事を引きて、以て見(あ)うべきの節を明かにするなり、孔子に見(あ)わんと欲するは、孔子を召し来り己に見(あ)うことを欲するなり、礼無きを悪(にく)むは、人己以て礼無きと爲すを畏(おそ)るなり、其家に受くるは、使人に対し家に於て拝受するなり、其門、大夫の門なり、矙、窺(き)なり、陽貨は魯に於て大夫爲(た)り、孔子は士爲(た)り、故に此物を以て其在らざるに及(いた)りて之を饋(おく)り、其来り拝して之に見(あ)うことを欲するなり、先、先に来り礼を加えるを謂うなり、

通し番号 355 章内番号 4 章通し番号 58 識別番号 6_7_4
本文
曽子曰く、肩を脅(すぼ)め諂(へつら)い笑うは、夏畦(けい)于(より)病(つか)れる、子路曰く、未だ同じからずして言う、其色を観るに赧赧然(たんたんぜん)たり、由(ゆう)の知る所に非ざるなり、是に由りて之を観れば、則ち君子の養う所、知るべきのみ
朱注
脅、虚業反、赧、奴簡反、○脅肩は、体を竦(すく)める、諂笑、強いて笑う、皆小人側媚の態なり、病、労なり、夏畦、夏月畦を治めるの人なり、言えらく、此を爲す者は、其労夏畦の人に過ぎるなり、未だ同じからずして言うは、人と未だ合わずして強いて之と言うなり、赧赧、慙(は)じて面赤きの貌、由、子路の名、己の知る所に非ずと言うは、甚だ之を悪(にく)むの辞なり、孟子言えらく、此二言に由り之を観れば、則ち二子の養う所知るべし、必ず其礼の至るを俟(ま)たずして、輒(すなわ)ち往きて之に見(あ)うを肯(がえん)ぜざるなり、此章言えらく、聖人礼義の中正、之に過ぎるは迫切に於て傷(やぶ)れて洪(おお)いならず、及ばざるは汙賎に淪(しず)みて恥ずべし、


章番号 8 章通し番号 59

通し番号 356 章内番号 1 章通し番号 59 識別番号 6_8_1
本文
戴盈之(たいえいし)曰く、什一にして、関市の征を去るは、今茲(きんじ)未だ能わず、請う、之を軽くし、以て来年を待ち、然る後已(や)む、何如(いかん)、
朱注
去、上声、○盈之、亦宋の大夫なり、什一、井田の法なり、関市の征、商賈(こ)の税なり、已、止なり、

通し番号 357 章内番号 2 章通し番号 59 識別番号 6_8_2
本文
孟子曰く、今、人日に其鄰の雞(けい)を攘(ぬす)む者有り、或ひと之に告げて曰く、是れ君子の道に非ず、曰く、請う、之を損し、月に一雞を攘み、以て来年を待ち、然る後已(や)めん、
朱注
攘、如羊反、○攘、物自ら来りて之を取るなり、損、減なり、

通し番号 358 章内番号 3 章通し番号 59 識別番号 6_8_3
本文
如(も)し其義に非ざるを知れば、斯(すなわ)ち速(すみやか)に已(や)む、何ぞ来年を待たん、
朱注
義理の不可を知りて、速に改むこと能わざるは、月に一雞を攘(ぬす)むと何ぞ以て異なんや、


章番号 9 章通し番号 60

通し番号 359 章内番号 1 章通し番号 60 識別番号 6_9_1
本文
公都子曰く、外人皆夫子(ふうし)弁(べん)を好むと称(い)う、敢えて問う何ぞや、孟子曰く、予(われ)豈弁を好まんや、予已(や)むを得ざるなり、天下の生久し、一たびは治まり一たびは乱る、
朱注
好、去声、下同じ、治、去声、○生、生民を謂うなり、一治一乱は、気の化の盛衰、人の事の得失、反覆し相(あい)尋(つ)ぐ、理の常なり、

通し番号 360 章内番号 2 章通し番号 60 識別番号 6_9_2
本文
堯の時に当り、水逆行し、中国に氾濫す、蛇(だ)龍之に居る、民定まる所無し、下は巣を爲(つく)り、上は営窟(えいくつ)を爲(つく)る、書に曰く、洚水(こうすい)余(われ)を警(いまし)む、洚水は、洪水なり、
朱注
洚、音は降、又胡貢、胡工の二反、○水逆行するは、下流壅(よう)塞(そく)す、故に水倒(さかさま)に流れて旁(あまね)く溢(あふ)るなり、下、下(ひく)い地、上、高い地なり、営窟、穴処(けっしょ)なり、書、虞書の大禹謨(たいうぼ)なり、洚水、洚洞(こうとう)涯(がい)無きの水なり、警、戒なり、此一乱なり、

通し番号 361 章内番号 3 章通し番号 60 識別番号 6_9_3
本文
禹をして之を治めしむ、禹は地を掘りて之を海に注ぐ、蛇龍を駆りて之を菹(そ)に放つ、水地中に由(よ)り行く、江、淮(わい)、河(か)、漢是れなり、険阻既に遠ざかる、鳥獣の人を害するもの消える、然る後人平土を得て之に居る、
朱注
菹、側魚反、○地を掘るは、掘りて壅塞を去るなり、菹(そ)、沢が草を生ずるものなり、地中、両涯の間なり、険阻、水の氾濫を謂うなり、遠、去なり、消、除なり、此一治なり、

通し番号 362 章内番号 4 章通し番号 60 識別番号 6_9_4
本文
堯舜既に没す、聖人の道衰える、暴君代(かわるがわる)作(おこ)る、宮室を壊し以て汙池(おち)と爲す、民安息する所無し、田を棄て以て園囿(えんゆう)と爲す、民をして衣食を得ざらしむ、邪説暴行又作(おこ)る、園囿汙池沛沢多し、而して禽獸至る、紂の身に及び、天下又大いに乱る、
朱注
壊、音は怪、行、去声、下同じ、沛、蒲内反、○暴君は、夏の太康(たいこう)、孔甲(こうこう)、履癸(りき)、商の武乙(ぶいつ)の類を謂うなり、宮室、民居なり、沛、草木の生ずる所なり、沢、水の鍾(あつ)まる所なり、堯舜没する自(よ)り此に至る、治乱は一つに非ず、紂に及びて又一つの大乱なり、

通し番号 363 章内番号 5 章通し番号 60 識別番号 6_9_5
本文
周公武王を相(たす)け紂を誅(ちゅう)す、奄(えん)を伐つ、三年にして其君を討つ、飛廉(ひれん)を海隅に駆りて之を戮(りく)す、国を滅すもの五十、虎豹犀象を駆りて之を遠ざく、天下大いに悦ぶ、書に曰く、丕(おお)いに顯(あきら)かなるかな文王の謨(はかりごと)、丕(おお)いに承(う)くるかな武王の烈、我が後人を佑(たす)け啓(ひら)き、咸(みな)正を以てし欠くること無し、
朱注
相、去声、奄、平声、○奄、東方の国、紂を助け虐を爲すものなり、飛廉、紂の幸臣なり、五十国、皆紂の党(ともがら)、民を虐する者なり、書、周書君牙の篇、丕、大なり、顕、明なり、謨、謀なり、承、継なり、烈、光なり、佑、助なり、啓、開なり、欠、壊なり、此一治なり、

通し番号 364 章内番号 6 章通し番号 60 識別番号 6_9_6
本文
世衰え道微にして、邪說暴行有(また)作(おこ)る、臣其君を弑(しい)する者之有り、子其父を弑する者之有り、
朱注
有作の有、読みて又と爲す、古字通用す、○此は周室東遷の後にて、又一乱なり、

通し番号 365 章内番号 7 章通し番号 60 識別番号 6_9_7
本文
孔子懼れて春秋を作る、春秋は天子の事なり、是故に孔子曰く、我を知る者は其れ惟(ただ)春秋か、我を罪(つみ)する者は其れ惟春秋か、
朱注
胡氏曰く、仲尼春秋を作り以て王法を寓(あた)え、典を惇(あつ)くし、礼を庸(もち)い、徳を命(つ)げ、罪を討つ、其大要皆天子の事なり、孔子を知る者謂えらく、此書之作り、人欲を横流に於て遏(と)め、天理を既滅に於て存し、後世の爲に慮(おもんばか)ること至りて深遠なり、孔子を罪(とが)める者以て謂えらく、其位無くして二百四十二年南面の権に託し、乱臣賊子をして其欲を禁じて肆(ほしいまま)にすることを得ざらしめば、則ち戚(うれ)う、愚謂えらく、孔子春秋を作り以て乱賊を討てば、則ち治を致すの法万世に垂(た)る、是亦一治なり、

通し番号 366 章内番号 8 章通し番号 60 識別番号 6_9_8
本文
聖王作(おこ)らず、諸侯放恣(ほうし)、処士(しょし)横議す、楊朱、墨翟(ぼくてき)の言天下に盈(み)つ、天下の言、楊に帰せざれば則ち墨に帰す、楊氏は我が爲にす、是れ君無きなり、墨氏は兼愛す、是れ父無きなり、父無く君無し、是れ禽獣なり、公明儀曰く、庖に肥肉有り、廏(きゅう)に肥馬有り、民に飢色有り、野に餓莩(がひょう)有り、此は獣を率いて人を食べるなり、楊墨の道息(や)まず、孔子の道著(あきら)かならず、是れ邪説民を誣(あざむ)き、仁義を充塞するなり、仁義充塞すれば、則ち獣を率い人を食べる、人将に相食べんとす、
朱注
横、爲、皆去声、莩、皮表反、○楊朱但(ただ)身を愛することを知る、而るに復(また)身を致すの義有るを知らず、故に君無し、墨子愛に差等無し、而して其至親を視ること衆人に異なること無し、故に父無し、父無く君無ければ、則ち人道滅絶す、是れ亦(ただ)禽獸のみ、公明儀の言、義首篇に見ゆ、仁義を充塞するは、邪説徧満し、仁義に於て妨(さまた)げるを謂うなり、孟子儀の言を引き、以て楊墨の道行わるれば、則ち人皆父無く君無く、以て禽獣に陥りて、大乱将に起らんとするを明らかにす、是れ亦獸を率い人を食べて、人又相食べるなり、此れ又一乱なり、

通し番号 367 章内番号 9 章通し番号 60 識別番号 6_9_9
本文
吾此が爲に懼れ、先聖の道を閑(まも)り、楊墨を距(ふせ)ぎ、淫辞を放つ、邪説は作(おこ)ることを得ず、其心に作(お)これば、其事に害あり、其事に作(おこ)れば、其政に害あり、聖人復(また)起これば、吾言を易(か)えず、
朱注
爲、去声、復、扶又反、○閑、衛なり、放、駆りて之を遠ざけるなり、作、起なり、事、行う所なり、政、大体なり、孟子志を時に於て得ずと雖も、然れども楊墨の害、是自(よ)り滅息す、而して君臣父子の道、頼(さいわい)に以て墜(お)ちず、是れ亦一治なり、程子曰、楊墨の害、申韓於(より)甚し、仏氏の害、楊墨於(より)甚し、蓋し楊氏我が爲にするは義に疑わし、墨氏兼愛するは仁に疑わし、申韓則ち浅陋(ろう)にして見易し、故に孟子止(ただ)楊墨を闢(しりぞ)く、其世を惑わすの甚しき爲なり、仏氏の言は理に近し、又楊墨の比に非ず、害を爲す尤も甚しき所以なり、

通し番号 368 章内番号 10 章通し番号 60 識別番号 6_9_10
本文
昔者(むかし)禹洪水を抑(おさ)えて、天下平かなり、周公夷狄を兼(あわ)せ、猛獣を駆りて、百姓寧(やすら)かなり、孔子春秋を成(な)して、乱臣賊子懼る、
朱注
抑、止なり、兼、之を幷(あわ)するなり、総(す)べて上文を結ぶなり、

通し番号 369 章内番号 11 章通し番号 60 識別番号 6_9_11
本文
詩に云う、戎狄(じゅうてき)是れ膺(う)ち、荊(けい)舒(じょ)是れ懲(こら)す、則ち我に敢て承(あた)ること莫し、父無し、君無しは、是れ周公膺(う)つ所なり、
朱注
説上篇に見ゆ、承、当なり、

通し番号 370 章内番号 12 章通し番号 60 識別番号 6_9_12
本文
我亦人の心を正し、邪説を息(や)め、詖行(ひこう)を距(ふせ)ぎ、淫辞を放(はな)ち、以て三聖者を承(つ)がんと欲す、豈弁を好まんや、予已(や)むを得ざるなり、
朱注
行、好、皆去声、○詖、淫、解前篇に見ゆ、辞は、説の詳なり、承、継なり、三聖は、禹、周公、孔子なり、蓋し邪説横流し、人の心術を壊(こわ)すは、洪水猛獣の災い於(より)甚しく、夷狄簒弑(さんし)の禍(か)於(より)慘(そこな)う、故に孟子深く懼(おそ)れて力(つと)めて之を救う、再(ふたたび)豈弁を好まんや、予已(や)むを得ざるなりと言うは、以て深く意を致す所なり、然れども道を知るの君子に非ざれば、孰(たれ)か能く真に其の以て已むを得ざる所の故(ゆえ)を知らんや、

通し番号 371 章内番号 13 章通し番号 60 識別番号 6_9_13
本文
能く言いて楊墨を距(ふせ)ぐ者は、聖人の徒なり、
朱注
言えらく、苟(もし)能く此楊墨を距(ふせ)ぐの説を爲す者有れば、則ち其趨(おもむ)く所正し、未だ必ずしも道を知らずと雖も、是れ亦聖人の徒なり、孟子既に公都子の問に答う、而るに意未だ尽さざるもの有り、故に復(また)此を言う、蓋し邪説正を害す、人人得て之を攻むは、必ずしも聖賢たらず、春秋の法に、乱臣賊子、人人得て之を討つは、必ずしも士師たらざるが如きなり、聖人世を救い法を立てるの意、其切なること此如し、若(もし)此意以て之を推せば、則ち攻討すること能わずして、又唱(とな)えて必ずしも攻討せざるの説を爲す者は、其邪詖(ひ)の徒、乱賊の党爲(た)ること知るべし、○尹氏曰く、学ぶ者是非の原(みなもと)に於て、毫釐(ごうり)の差有れば、則ち害は生民に流れ、禍は後世に及ぶ、故に孟子邪説を弁ずること是の如く之厳(きび)し、而して自ら以て三聖の功を承(つ)ぐと爲すなり、是時に当り、方且(まさ)に弁を好むを以て之を目(み)んとす、是れ常人の心を以てして聖賢の心を度(はか)るなり、


章番号 10 章通し番号 61

通し番号 372 章内番号 1 章通し番号 61 識別番号 6_10_1
本文
匡章(きょうしょう)曰く、陳仲子は豈誠の廉士ならずや、於陵(おりょう)に居り、三日食せず、耳聞くこと無く、目見ること無きなり、井上に李(り)有り、螬(そう)実を食うもの半(なかば)に過ぐ、匍匐(ほふく)して往き将(と)りて之を食べる、三たび咽(の)みて、然る後耳聞くこと有り、目見ること有り、
朱注
於、音は烏、下の於陵も同じ、螬、音は曹、咽、音は宴、○匡章、陳仲子、皆斉人なり、廉は、分弁有りて、苟(いやしく)も取らざるなり、於陵、地名、螬(そう)、蠐螬(せいそう)の蟲(むし)なり、匍匐は、力無く行くこと能わざるを言うなり、咽、吞 なり、

通し番号 373 章内番号 2 章通し番号 61 識別番号 6_10_2
本文
孟子曰く、斉国の士に於て、吾必ず仲子以て巨擘(きょはく)と爲す、然りと雖も、仲子悪(いずく)んぞ能く廉ならん、仲子の操を充(み)たせば、則ち蚓(いん)にして後可なるものなり、
朱注
擘、薄厄反、悪、平声、蚓、音は引、○巨擘、大指なり、言えらく、斉人の中に仲子有るは、衆(おお)くの小指の中に大指有るが如きなり、充、推して之を満(み)たすなり、操、守る所なり、蚓、丘蚓(きゅういん)なり、言えらく、仲子未だ廉爲(た)るを得ざるなり、必ず若(もし)其の守る所の志を満たせば、則ち惟(ただ)丘蚓の世に求めること無くして、然る後以て廉と爲すべきのみ、

通し番号 374 章内番号 3 章通し番号 61 識別番号 6_10_3
本文
夫(それ)蚓は、上は槁壤(こうじょう)を食べ、下は黄泉(こうせん)を飮む、仲子居る所の室、伯夷の築(きず)く所か、抑(ある)いは亦盜跖(とうせき)の築く所か、食べる所の粟、伯夷の樹(う)える所か、抑(あるい)は亦盜跖の樹える所か、是れ未だ知るべからざるなり、
朱注
夫、音は扶、与、平声、○槁壤、乾土なり、黄泉(こうせん)、濁水なり、抑、発語の辞なり、言えらく、蚓は人に求めること無くて自ら足る、而るに仲子未だ室に居り粟を食べるを免れず、若(もし)従(よ)りて来る所或いは義に非ざること有れば、則ち是れ未だ蚓の廉に如(し)くこと能わざるなり、

通し番号 375 章内番号 4 章通し番号 61 識別番号 6_10_4
本文
曰、是れ何ぞ傷(そこな)わんや、彼は身(みずか)ら屨(くつ)を織(お)り、妻は纑(ろ)を辟(へき)して、以て之に易(か)えるなり、
朱注
辟、音は壁、纑、音は盧、○辟(へき)、績(せき)なり、纑(ろ)、練麻なり、

通し番号 376 章内番号 5 章通し番号 61 識別番号 6_10_5
本文
曰く、仲子斉の世家なり、兄戴(たい)、蓋(こう)の禄万鍾なり、兄の禄以て不義の禄と爲して食さざるなり、兄の室以て不義の室と爲して居らざるなり、兄を辟(さ)け母を離れ、於陵に処(お)る、他日帰れば、則ち其兄に生鵝(が)を饋(おく)る者有り、己(おのれ)頻顣(ひんしゅく)して曰く、悪ぞ是(この)鶃鶃(ぎつぎつ)なるものを用いることを爲さんや、他日其母是鵝を殺すなり、之に与えれば之を食す、其兄外自(よ)り至りて曰く、是れ鶃鶃(ぎつぎつ)の肉なり、出でて之を哇(は)く、
朱注
蓋(こう)、音閤、辟(へき)、音避、頻(ひん)、顰(ひん)と同じ、顣(しゅく)、蹙(しゅく)と同じ、子六反、悪、平声、鶃(ぎつ)、魚一反、哇、音蛙、○世家、世卿(せいけい)の家なり、兄の名は戴(たい)、采(さい)を蓋(こう)に於て食す、其入ること万鍾なり、帰、於陵自(よ)り帰るなり、己、仲子なり、鶃鶃(ぎつぎつ)、鵝(が)の声なり、頻顣(ひんしゅく)して言うは、其兄饋(おくりもの)を受くるを以て不義と爲すなり、哇(あ)、之を吐くなり、

通し番号 377 章内番号 6 章通し番号 61 識別番号 6_10_6
本文
母以てすれば則ち食せず、妻以てすれば則ち之を食す、兄の室以てすれば則ち居らず、於陵以てすれば則ち之に居る、是れ尚(なお)能く其類を充(み)たすと爲すか、仲子の若き者は、蚓にして後其操を充(み)たす者なり、
朱注
言えらく、仲子母の食、兄の室以て、不義と爲して、食せず、居らず、其操守此如し、妻易う所の粟(ぞく)、於陵で居る所の室に至りては、既に未だ必ずしも伯夷の爲(つく)る所にあらざれば、則ち亦不義の類のみ、今仲子此に於て則ち食さず居らず、彼に於て則ち之を食し之に居る、豈能く其操守の類を充満する者と爲すか、必ず其求めること無く自ら足ること丘蚓の如くす、然らば乃ち能く其志を満(み)たして廉を爲すを得ると爲すのみ、然らば豈人の爲すべき所ならんや、○范氏曰く、天の生ずる所、地の養う所、惟(ただ)人大と爲す、人の大と爲す所以のものは、其人倫有るを以てなり、仲子兄を避け母に離れ、親戚君臣の上下無し、是れ人倫無きなり、豈人倫無くて以て廉と爲すべきこと有らんや、


7 離婁章句上 lí lóu zhāng jù shàng

章番号 1 章通し番号 62

通し番号 378 章内番号 1 章通し番号 62 識別番号 7_1_1
本文
孟子曰く、離婁(りろう)の明、公輸子の巧、規矩(きく)以てせざれば、方員(えん)を成すこと能わず、師曠(しこう)の聡(そう)、六律以てせざれば、五音(ごいん)を正すこと能わず、堯舜の道は、仁政以てせざれば、天下を平治すること能わず
朱注
離婁、古の明目なる者なり、公輸子、名は班、魯の巧人なり、規、以て員(えん)を爲(つく)る所の器なり、矩、以て方を爲(つく)る所の器なり、師曠(しこう)、晋の楽師(がくし)なり、音を知る者なり、六律、竹を截(き)り筩(とう)を爲(つく)る、陰陽各(おのおの)六、以て五音の上下を節す、黄鍾(こうしょう)、太蔟(たいそう)、姑洗(こせん)、蕤賓(すいひん)、夷則(いそく)、無射(ぶえき)、陽と爲し、大呂(たいりょ)、夾鍾(きょうしょう)、仲呂(ちゅうりょ)、林鍾(りんしょう)、南呂(なんりょ)、応鍾(おうしょう)、陰と爲すなり、五音、宮(きゅう)、商(しょう)、角(かく)、徵(ち)、羽(う)なり、范氏曰く、此言えらく、天下を治めるは法度(はっと)無かるべからず、仁政は、天下を治めるの法度なり、

通し番号 379 章内番号 2 章通し番号 62 識別番号 7_1_2
本文
今仁心仁聞有り、而るに民其沢を被(こうむ)らず、後世に於て法とすべからざるは、先王の道を行わざるなり、
朱注
聞、去声、○仁心、人を愛するの心なり、仁聞は、人を愛するの声有りて、人に聞こえるなり、先王の道、仁政是れなり、范氏曰く、斉の宣王一牛の死を忍びず、羊以て之に易(か)う、仁心有りと謂うべし、梁の武帝終日に一たび蔬素(そそ)を食す、宗廟麪(めん)以て犧牲と爲す、死刑を断じて必ず之が爲に涕泣(ていきゅう)す、天下其慈仁を知る、仁聞有ると謂うべし、然り而して宣王の時、斉国治まらず、武帝の末、江南大いに乱る、其故何ぞや、仁心仁聞有りて先王の道を行わざる故なり、

通し番号 380 章内番号 3 章通し番号 62 識別番号 7_1_3
本文
故に曰く、徒善(とぜん)は以て政を爲すに足らず、徒法は以て自ずから行うこと能わず、
朱注
徒、猶空のごときなり、其心有りて、其政無し、是れ徒善と謂う、其政有りて、其心無し、是れ徒法と謂う、程子嘗て言えらく、政を爲すは須(すべから)く綱紀文章有ることを要すべし、権を謹み、量を審(つまび)らかにし、法を読み、価を平(ただ)す、皆闕(か)くべからず、而して又曰く、必ず関雎(かんしょ)、麟趾(りんし)の意有り、然る後以て周官の法度を行なうべし、正に此を謂うなり、

通し番号 381 章内番号 4 章通し番号 62 識別番号 7_1_4
本文
詩に云う、愆(あやま)らず忘れず、旧章に率(したが)い由(よ)る、先王の法に遵(したが)いて過(あやま)つ者は、未だ之有らざるなり、
朱注
詩、大雅仮楽の篇、愆、過なり、率、循なり、章、典法なり、行う所過差せず遺忘せざるは、其旧典を循用するを以ての故なり、

通し番号 382 章内番号 5 章通し番号 62 識別番号 7_1_5
本文
聖人既に目力を竭(つく)し、之に継(つ)ぐに規矩準縄(じょう)を以て、以て方員(えん)平直を爲(つく)れば、勝(あ)げて用うべからざるなり、既に耳力を竭(つく)し、之に継(つ)ぐに六律を以て、五音を正せば、勝(あ)げて用うべからざるなり、既に心思を竭(つく)し、之に継(つ)ぐに人に忍(しの)びざるの政を以てす、而して仁天下を覆(おお)う、
朱注
勝、平声、○準、以て平を爲(つく)る所なり、縄、以て直を爲(つく)る所なり、覆、被なり、此言えらく、古の聖人、既に耳目心思の力を竭(つく)す、然れども猶以て、未だ以て天下に徧(あまね)くし、後世に及ぶに足らずと爲す、故に法度を制爲(せいい)し、以て之に継続す、則ち其用窮まらず、而して仁の被(おお)う所のもの広し、

通し番号 383 章内番号 6 章通し番号 62 識別番号 7_1_6
本文
故に曰く、高きを爲(つく)るは必ず丘陵に因る、下(ひく)きを爲(つく)るは必ず川沢に因る、政を爲すに先王の道に因らざれば、智と謂うべけんや(乎)、
朱注
丘陵本より高し、川沢本より下(ひく)し、高下を爲(つく)る者之に因れば、則ち力を用いること少なくして功を成すこと多し、鄒氏曰く、章首自(よ)り此に至るは、仁心仁聞以て先王の道を行うことを論ず、

通し番号 384 章内番号 7 章通し番号 62 識別番号 7_1_7
本文
是を以て惟(ただ)仁者宜(よろ)しく高位に在るべし、不仁にして高位に在るは、是れ其悪を衆に播(ま)くなり、
朱注
仁者は、仁心仁聞有りて能く拡(ひろ)めて之を充(みた)し、以て先王の道を行なう者なり、惡を衆に播(ま)くは、患を下に貽(おく)るを謂うなり、

通し番号 385 章内番号 8 章通し番号 62 識別番号 7_1_8
本文
上は道揆(き)無きなり、下は法守無きなり、朝は道を信ぜず、工は度を信ぜず、君子は義を犯し、小人は刑を犯して、国の存する所は幸いなり、
朱注
朝、音は潮、○此は不仁にして高位に在るの禍を言うなり、道、義理なり、揆、度なり、法、制度なり、道揆は、義理以て事物を度量して其宜を制するを謂う、法守、法度以て自ら守るを謂う、工、官なり、度、即ち法なり、君子小人、位以てして言うなり、上は道揆無きに由る、故に下は法守無し、道揆無ければ、則ち朝は道を信ぜず、而して君子は義を犯す、法守無ければ、則ち工は度を信ぜず、而して小人は刑を犯す、此六なるもの有れば、其国必ず亡(ほろ)ぶ、其亡(ほろ)びざるものは僥倖(ぎょうこう)のみ、

通し番号 386 章内番号 9 章通し番号 62 識別番号 7_1_9
本文
故に曰く、城郭(じょうかく)完(まった)からず、兵甲多からざるは、国の災(わざわい)に非ざるなり、田野辟(ひら)けず、貨財聚(あつ)まらざるは、国の害に非ざるなり、上は礼が無く、下は学ぶことが無ければ、賊民興り、喪(ほろ)ぶこと日無し、
朱注
辟、闢と同じ、喪、去声、○上が礼を知らざれば、則ち以て民に教えること無し、下が学を知らざれば、則ち乱を爲すことに与(くみ)し易(やす)し、鄒氏曰く、是以惟仁者自(よ)り此に至る、以て其君を責むる所なり、

通し番号 387 章内番号 10 章通し番号 62 識別番号 7_1_10
本文
詩に曰う、天の方(まさ)に蹶(くつがえ)らんとす、然(しか)く泄泄(えいえい)とすること無かれ、
朱注
蹶、居衛反、泄、弋制反、○詩、大雅の板の篇、蹶(けつ)、顚覆(てんぷく)の意、泄泄(えいえい)、怠緩悦従の貌、言えらく、天は周室を顚覆せんと欲す、群臣泄泄(えいえい)然として、急ぎ之を救正せざるを得ること無かれ、

通し番号 388 章内番号 11 章通し番号 62 識別番号 7_1_11
本文
泄泄(えいえい)、猶沓沓(とうとう)のごときなり、
朱注
沓、徒合反、○沓沓(とうとう)、即ち泄泄(えいえい)の意なり、蓋し孟子の時人の語此如し、

通し番号 389 章内番号 12 章通し番号 62 識別番号 7_1_12
本文
君に事(つか)え義無し、進退礼無し、言えば則ち先王の道を非(そし)る者は、猶沓沓(とうとう)のごときなり、
朱注
非、詆毀(ていき)なり、

通し番号 390 章内番号 13 章通し番号 62 識別番号 7_1_13
本文
故に曰く、難を君に責めるは、之を恭と謂う、善を陳(の)べ邪を閉ずるは、之を敬と謂う、吾君能わずというは、之を賊と謂う、
朱注
范氏曰く、人臣が難事以て君を責(ただ)し、其君をして堯舜の君爲らしめるは、君を尊ぶことの大なり、善道を開陳し、以て君の邪心を禁閉し、惟(ただ)其君過ち有るの地に陥ること或(あ)るを恐れるは、君を敬することの至りなり、其君善道を行なうこと能わざると謂いて、以て告げざる者は、其君を賊(そこな)い害するの甚だしきなり、鄒氏曰く、詩云天之方蹶自(よ)り此に至るは、以て其臣を責むる所なり、○鄒氏曰く、此章言えらく、治を爲す者、当に仁心仁聞有りて以て先王の政を行うべくして君臣又当に各(おのおの)其責を任ずべきなり、


章番号 2 章通し番号 63

通し番号 391 章内番号 1 章通し番号 63 識別番号 7_2_1
本文
孟子曰く、規矩は、方員(えん)の至りなり、聖人は、人倫の至りなり、
朱注
至、極なり、人倫の説前篇に見ゆ、規矩以て方員爲(た)る所の理を尽すは、猶聖人以て人爲(た)る所の道を尽すがごとし、

通し番号 392 章内番号 2 章通し番号 63 識別番号 7_2_2
本文
君爲(た)るを欲せば君の道を尽す、臣爲(た)るを欲せば臣の道を尽す、二なるものは皆堯舜に法(のっと)るのみ、舜の以て堯に事(つか)える所を以て君に事(つか)えざるは、其君を敬せざる者なり、堯の以て民を治める所を以て民を治めざるは、其民を賊(そこな)う者なり、
朱注
堯舜に法(のっと)り以て君臣の道を尽すは、猶規矩を用いて以て方員(えん)の極を尽すがごとし、此孟子以て性善を道(い)い、而して堯舜を称する所なり、

通し番号 393 章内番号 3 章通し番号 63 識別番号 7_2_3
本文
孔子曰く、道は二、仁と不仁のみ、
朱注
堯舜に法(のっと)れば、則ち君臣の道を尽して仁なり、堯舜に法(のっと)らざれば、則ち君に慢(おこた)り民を賊(そこな)いて不仁なり、二端の外、更(さら)に他の道無し、此を出ずれば、則ち彼に入る、謹まざるべけんや、

通し番号 394 章内番号 4 章通し番号 63 識別番号 7_2_4
本文
其民を暴(そこな)うこと甚しければ、則ち身弑(しい)せられ国亡ぶ、甚しからざれば、則ち身危うく国削(けず)らる、之を名づけて幽(ゆう)厲(れい)と曰う、孝子慈孫と雖も、百世改めること能わざるなり、
朱注
幽は、暗、厲は、虐、皆悪(あし)き諡(おくりな)なり、苟(もし)其実を得れば、則ち孝子慈孫、其祖考を愛するの甚だしき者有りと雖も、亦公義を廢して之を改めることを得ず、不仁の禍必ず此に至り、懼(おそ)るべきの甚しきを言うなり、

通し番号 395 章内番号 5 章通し番号 63 識別番号 7_2_5
本文
詩に云う、殷鑒(かん)遠からず、夏后の世に在り、此を之謂うなり、
朱注
詩、大雅蕩の篇、言えらく、商の紂の当に鑒(かんがみ)るべき所のものは、近く夏の桀の世に在り、而して孟子之を引き、又後人幽厲以て鑒(かがみ)と爲すことを欲するなり、


章番号 3 章通し番号 64

通し番号 396 章内番号 1 章通し番号 64 識別番号 7_3_1
本文
孟子曰く、三代の天下を得るや、仁を以てす、其天下を失うや、不仁を以てす、
朱注
三代は、夏、商、周を謂うなり、禹、湯、文、武は、仁を以て之を得る、桀、紂、幽、厲は、不仁を以て之を失なう、

通し番号 397 章内番号 2 章通し番号 64 識別番号 7_3_2
本文
国の廃興存亡する所以のもの亦然り、
朱注
國は、諸侯の国を謂う、

通し番号 398 章内番号 3 章通し番号 64 識別番号 7_3_3
本文
天子不仁なれば、四海を保たず、諸侯不仁なれば、社稷を保たず、卿大夫不仁なれば、宗廟を保たず、士庶人不仁なれば、四体を保たず、
朱注
必ず死亡するを言う、

通し番号 399 章内番号 4 章通し番号 64 識別番号 7_3_4
本文
今死亡を悪(にく)みて不仁を楽しむ、是れ猶醉を悪(にく)みて酒を強いるがごとし、
朱注
悪、去声、楽、音は洛、強、上声、○此は上章の意を承けて、推して之を言うなり、


章番号 4 章通し番号 65

通し番号 400 章内番号 1 章通し番号 65 識別番号 7_4_1
本文
孟子曰く、人を愛して親(あい)さざれば、其仁に反(かえ)る、人を治めて治まらざれば、其智に反る、人を礼して答えざれば、其敬に反る、
朱注
治人の治、平声、不治の治、去声、○我が人を愛して人が我を親(あい)さざれば、則ち諸を己に反り求む、我の仁未だ至らざるを恐れるなり、智、敬此に放(なら)う、

通し番号 401 章内番号 2 章通し番号 65 識別番号 7_4_2
本文
行いて得ざるもの有れば、皆諸(これ)を己に反り求む、其身正しくして天下之に帰す、
朱注
得ざるは、其欲する所を得ざるを謂う、親まず、治まらず、答えざるが如き、是なり、諸を己に反り求むは、其仁に反り、其智に反り、其敬に反るを謂うなり、此如ければ、則ち其自ら治めること益(ますます)詳(つく)して、身正しからざる無し、天下之に帰すは、其效を極(きわ)めて言うなり、

通し番号 402 章内番号 3 章通し番号 65 識別番号 7_4_3
本文
詩に云う、永(なが)く言(おも)い命に配(あ)う、自ら多福を求む、
朱注
解前篇に見ゆ、○亦上章を承けて言う、


章番号 5 章通し番号 66

通し番号 403 章内番号 1 章通し番号 66 識別番号 7_5_1
本文
孟子曰く、人恆(つね)の言有り、皆曰う、天下国家、天下の本は国に在り、国の本は家に在り、家の本は身に在り、
朱注
恆、胡登反、○恆、常なり、常に之を言うと雖も、未だ必ずしも其言の序有るを知らざるなり、故に推して之を言う、而して又家以て身を本とするなり、此は亦上章を承けて之を言う、大学謂う所の天子自(よ)り庶人に至る、壹是(いつし)に皆身を脩めるを以て本と爲す、是(この)爲(ため)の故なり、


章番号 6 章通し番号 67

通し番号 404 章内番号 1 章通し番号 67 識別番号 7_6_1
本文
孟子曰く、政を爲すは難からず、罪を巨室に得ず、巨室の慕(むか)う所、一国之に慕(むか)う、一国の慕(むか)う所、天下之に慕(むか)う、故に沛然(はいぜん)として徳教四海に溢(あふ)る、
朱注
巨室は、世臣の大家なり、罪を得るは、身正しからずして怨怒を取るを謂うなり、麦丘の邑(ゆう)人斉の桓公に祝(いの)りて曰く、願わくば主君罪を羣臣百姓に得ること無かれ、意蓋し此如し、慕、向なり、心悦(よろこ)び誠に服するの謂(いい)なり、沛然は、盛大流行の貌、溢は、充満なり、蓋し巨室之心、力以て服し難し、而して国人素(もと)より信を取る所なり、今既に悦服す、則ち国人皆服して、吾徳教の施(ゆきわた)る所は、以て遠くして至らざること無かるべし、此亦上章を承けて言う、蓋し君子人心の服さざるを患えず、而して吾身の脩らざるを患う、吾身既に脩まれば、則ち人心の服し難き者先ず服す、而して一人の服さざること無し、○林氏曰く、戦国の世、諸侯徳を失ない、巨室権を擅(ほしいまま)にし、患を爲すこと甚だし、然れども或者(あるいは)其本を脩めずして、遽(にわか)に之に勝たんと欲せば、則ち未だ必ずしも勝つこと能わずして、適(まさ)に以て禍を取らんとす、故に孟子本を推して言う、惟(ただ)徳を脩めるを務め以て其心を服す、彼既に悦びて服せば、則ち吾の徳教留礙(ぎ)する所無く、以て天下に及ぶべし、裴度(はいど)謂う所の韓弘は疾を輿(よ)して賊を討つ、承宗(しょうそう)手を斂(おさ)めて地を削る、朝廷の力能く其死命を制するに非ず、特(ただ)処置宜を得るを以て、能く其心を服する故のみ、正に此類なり、


章番号 7 章通し番号 68

通し番号 405 章内番号 1 章通し番号 68 識別番号 7_7_1
本文
孟子曰く、天下道れば、小徳は大徳に役(えき)し、小賢は大賢に役する、天下道無ければ、小は大に役し、弱は強に役す、斯二なるものは天なり、天に順う者は存し、天に逆らう者は亡ぶ、
朱注
道有るの世は、人皆徳を脩む、而して位は必ず其徳の大小に称(かな)う、天下道無ければ、人徳を脩めず、則ち但(ただ)力以て相(あい)役すのみ、天は、理勢の当然なり、

通し番号 406 章内番号 2 章通し番号 68 識別番号 7_7_2
本文
斉景公曰く、既に令すること能わず、又命を受けざるは、是れ物を絶つなり、涕(なみだ)出て呉に女(めあわ)す、
朱注
女、去声、○此を引き以て小は大に役し、弱は強に役する事を言うなり、令は、令を出し以て人を使うなり、命を受けるは、命を人に聴くなり、物は、猶人のごときなり、女は、女以て人に与えるなり、呉は、蛮夷の国なり、景公与(とも)に昏を爲すことを羞(は)ず、而るに其強を畏る、故に涕泣して女以て之に与う、

通し番号 407 章内番号 3 章通し番号 68 識別番号 7_7_3
本文
今や小国は大国を師とす、而して命を受くるを恥ず、是れ猶弟子にして先師に命を受くるを恥ずるがごときなり、
朱注
言えらく、小国徳を脩めて以て自ら強くせず、其れ般楽(はんらく)怠敖(たいごう)し、皆大国の爲す所に效(なら)う者の若し、而るに独り其教命を受くることを恥ずるは、得(う)べからざるなり、

通し番号 408 章内番号 4 章通し番号 68 識別番号 7_7_4
本文
如し之を恥じれば、文王を師とするに若(し)くは莫し、文王を師とすれば、大国は五年、小国は七年にして、必ず政を天下に爲す、
朱注
此は其愧(き)恥の心に因りて、勉(すす)めるに徳を脩めるを以てするなり、文王の政は、布(つら)ねて方策に在り、挙げて之を行うは、謂う所の文王を師とするなり、五年七年、其乗る所の勢同じからざるを以て差と爲す、蓋し天下道無しと雖も、然れども徳を脩めるの至りは、則ち道我自(よ)り行わる、而して大国反て吾が役と爲る、程子曰く、五年七年は、聖人其時を度(はか)れば則ち可なり、然れども凡そ此類、学ぶ者皆当に其作爲如何を思うべければ、乃ち益有るのみ、

通し番号 409 章内番号 5 章通し番号 68 識別番号 7_7_5
本文
詩に云う、商の孫子、其麗(かず)億のみならず、上帝既に命ず、侯(これ)周に服す、侯(これ)周に服すは、天命常靡(な)し、殷士膚(ふ)で敏なるは、京に祼(かん)して将(たす)く、孔子曰く、仁には衆を爲すべからざるなり、夫(それ)国君仁を好めば、天下敵無し、
朱注
祼、音は灌、夫、音は扶、好、去声、○詩、大雅文王の篇、孟子此詩を引き孔子の言に及び、以て文王の事を言う、麗は、数なり、十万を億と曰う、侯は、維なり、商士は、商の孫子の臣なり、膚は、大なり、敏は、達なり、祼(かん)は、宗廟の祭に、鬱鬯(うつちょう)の酒以て地に灌(そそ)ぎて神を降すなり、將は、助なり、言えらく、商の孫子衆多なり、其数但(ただ)十万のみならず、上帝既に周に命じるに天下以てす、則ち凡そ此商の孫子、皆周に臣服す、以て然る所は、天命常ならず、有徳に帰する故を以てなり、是を以て商士の膚大にして敏達なる者は、皆祼(かん)献の礼を執(と)り、王の祭事を周の京師に助けるなり、孔子此詩を読むに因りて言う、仁有る者なれば則ち十万の衆有ると雖も、之に当(てき)すること能わず、故に国君仁を好めば、則ち必ず天下に敵無きなり、衆を爲すべからざるは、猶謂う所の兄と爲り難く弟と爲り難しのごとし(云爾)、

通し番号 410 章内番号 6 章通し番号 68 識別番号 7_7_6
本文
今や天下に敵無きを欲して、仁以てせず、是れ猶熱きを執(と)る、而るに以て濯(あら)わざるがごときなり、詩に云う、誰か能く熱きを執るに、逝(ここ)に以て濯(あら)わざる、
朱注
命を大国に受けるを恥ず、是れ天下に敵無きを欲するなり、乃(しか)るに大国を師として、文王を師とせず、是れ仁以てせざるなり、詩は、大雅桑柔の篇、逝は、語辞なり、言えらく、誰か能く熱き物を執り持つ、而るに水以て自ら其手を濯(あら)わざるや、○此章言えらく、自ら強くすること能わざれば、則ち天の命ずる所を聴く、徳を脩め仁を行えば、則ち天命我に在り、


章番号 8 章通し番号 69

通し番号 411 章内番号 1 章通し番号 69 識別番号 7_8_1
本文
孟子曰く、不仁者、与(とも)に言うべきや、其危(あや)うきに安んじて其菑(わざわ)いを利とす、其の以て亡ぶ所のものを楽しむ、不仁にして与(とも)言うべければ、則ち何ぞ国を亡ぼし家を敗ること之有らん、
朱注
菑(し)は、災と同じ、楽、音は洛、○其危に安んじ其菑を利とするは、其危菑(し)と爲るを知らずして、反(かえっ)て以て安利と爲すなり、以て亡ぶ所は、荒淫暴虐にして、以て亡を致す所の道を謂うなり、不仁の人、私欲固より蔽(おお)い、其本心を失う、故に其顚倒錯乱此如きに至る、忠言以て告ぐべからずして、卒(つい)に敗亡に至る所以なり、

通し番号 412 章内番号 2 章通し番号 69 識別番号 7_8_2
本文
孺子(じゅし)有り、歌いて曰く、滄浪(そうろう)の水清(す)めば(兮)、以て我纓(えい)を濯(あら)うべし、滄浪の水濁(にご)らば、以て我足を濯(あら)うべし、
朱注
浪は、音郎、○滄浪は、水の名、纓は、冠の系なり、

通し番号 413 章内番号 3 章通し番号 69 識別番号 7_8_3
本文
孔子曰く、小子之を聴け、清(す)めば斯(すなわ)ち纓(えい)を濯(あら)う、濁れば斯(すなわ)ち足を濯う、自ら之を取るなり、
朱注
水の清濁、以て自ら之を取ること有るを言うなり、聖人は声入りて心に通ず、至理に非ざる無し、此類見るべし、

通し番号 414 章内番号 4 章通し番号 69 識別番号 7_8_4
本文
夫(それ)人必ず自ら侮る、然る後人之を侮る、家必ず自ら毀(やぶ)る、而して後人之を毀(やぶ)る、国必ず自ら伐(う)つ、而して後人之を伐(う)つ、
朱注
夫、音扶、○謂う所の自ら之を取るものなり、

通し番号 415 章内番号 5 章通し番号 69 識別番号 7_8_5
本文
太甲に曰く、天の作(な)せる孼(わざわい)は猶(なお)違(さ)くべし、自ら作(な)せる孼(わざわい)は活(い)くべからず、此を之謂(い)うなり、
朱注
解前篇に見ゆ、○此章言えらく、心存すれば、則ち以て夫(その)得失の幾(き)を審(つまび)らかにすること有り、存さざれば、則ち以て存亡の著を弁(べん)ずること無し、禍福の来る、皆其自ら取る、


章番号 9 章通し番号 70

通し番号 416 章内番号 1 章通し番号 70 識別番号 7_9_1
本文
孟子曰く、桀紂の天下を失なうや、其民を失なうなり、其民を失うは、其心を失なうなり、天下を得るに道有り、其民を得れば、斯(すなわ)ち天下を得る、其民を得るに道有り、其心を得れば、斯ち民を得る、其心を得るに道有り、欲する所は之を与え之を聚(あつ)む、悪(にく)む所は施すこと勿(な)き爾(のみ)なり、
朱注
悪、去声、○民の欲する所は、爲に皆之を致すことが、聚斂(しゅうれん)するが如き然(なり)、民の悪む所は、則ち民に施すこと勿(な)し、鼂錯(ちょうそ)謂う所は、人情寿を欲さざる莫(な)し、三王之を生かして傷けず、人情富を欲さざる莫し、三王之を厚くして困(とぼ)しくせず、人情安を欲せざる莫し、三王之を扶(たす)けて危うくせず、人情逸(いつ)を欲せざる莫し、三王其力を節し尽さず、此類の謂(いい)なり、

通し番号 417 章内番号 2 章通し番号 70 識別番号 7_9_2
本文
民の仁に帰するや、猶水の下に就(つ)き、獣の壙(こう)を走るがごときなり、
朱注
走、音は奏、○壙、広野なり、言えらく、民の此に帰す所以は、其欲する所の此に在るを以てなり、

通し番号 418 章内番号 3 章通し番号 70 識別番号 7_9_3
本文
故に淵の爲に魚を敺(か)るものは、獺(かわうそ)なり、叢の爲に爵(すずめ)を敺るものは、鸇(はやぶさ)なり、湯武の爲に民を敺(か)るものは、桀と紂なり、
朱注
爲、去声、敺、駆と同じ、獺、音は闥、爵、雀と同じ、鸇、諸延反、○淵、深水なり、獺、魚を食べるものなり、叢、茂林なり、鸇、雀を食うものなり、言えらく、民の此を去る所以は、其欲する所は彼に在りて畏れる所は此に在るを以てなり、

通し番号 419 章内番号 4 章通し番号 70 識別番号 7_9_4
本文
今天下の君、仁を好む者有れば、則ち諸侯皆之が爲に敺(か)る、王たること無からんと欲すと雖も、得べからざるのみ、
朱注
好、爲、王、並(みな)去声、

通し番号 420 章内番号 5 章通し番号 70 識別番号 7_9_5
本文
今の王たるを欲する者は、猶七年の病に三年の艾(もぐさ)を求めるがごときなり、苟(もし)畜えざるを爲せば、終身得ず、苟(も)し仁に志さざれば、終身憂辱し、以て死亡に陥る、
朱注
王、去声、○艾、草の名、以て灸する所のものなり、乾くこと久しければ益(ますます)善(よ)し、夫(その)病已に深し、而して乾くこと久しきの艾(もぐさ)を求めんと欲す、固より卒(にわか)に辦(ととの)え難し、然れども今自(よ)り之を畜(たくわ)えば、則ち猶及ぶべきこと或(あ)り、然らざれば、則ち病は日に益(ますます)深く、死は日に益(ますます)迫る、而るに艾終(つい)に得べからず、

通し番号 421 章内番号 6 章通し番号 70 識別番号 7_9_6
本文
詩に云う、其何ぞ能く淑(よ)からん、載(すなわ)ち胥(あい)及(とも)に溺る、此を之謂うなり、
朱注
詩、大雅桑柔の篇、淑、善なり、載、則なり、胥、相なり、言えらく、今の爲す所、其何ぞ能く善からん、則ち相引き以て乱亡に陥るのみ、


章番号 10 章通し番号 71

通し番号 422 章内番号 1 章通し番号 71 識別番号 7_10_1
本文
孟子曰く、自ら暴(そこな)う者、与(とも)に言うこと有るべからざるなり、自ら棄てる者、与(とも)に爲すこと有るべからざるなり、言は礼義を非(そし)る、之を自ら暴(そこな)うと謂うなり、吾が身は仁に居り義に由ること能わず、之を自ら棄てると謂うなり、
朱注
暴、猶害のごときなり、非、猶毀のごときなり、自ら其身を害する者は、礼義の美と爲すを知らずして之を非毀(ひき)す、之と言うと雖も、必ず信を見ざるなり、自ら其身を棄てる者は、猶(なお)仁義の美と爲すを知る、但(ただ)し怠惰に溺る、自ら必ず行うこと能わずと謂う、之と爲すこと有れば、必ず勉めること能わざるなり、程子曰く、人苟(もし)善以て自ら治めれば、則ち移るべからざるもの無し、昏愚の至りと雖も、皆漸(しだい)に磨(みが)きて進むこと可なり、惟自ら暴(そこな)う者は之を拒み以て信ぜず、自ら棄てる者は之を絶ち以て爲さず、聖人与(とも)に居ると雖も、化して入ること能わざるなり、此は謂う所の下愚の移らざるなり、

通し番号 423 章内番号 2 章通し番号 71 識別番号 7_10_2
本文
仁は、人の安宅なり、義は、人の正路なり、
朱注
仁宅已に前篇に見ゆ、義は、宜なり、乃ち天理の当に行くべきにして、人欲の邪曲すること無し、故に正路と曰う、

通し番号 424 章内番号 3 章通し番号 71 識別番号 7_10_3
本文
安宅を曠(むな)しくして居らず、正路を舍(す)てて由らず、哀(かな)しいかな、
朱注
舍、上声、○曠、空なり、由、行なり、○此章言えらく、道は本(もと)固(もと)より有す、而るに人自ら之を絶つ、是れ哀(かな)しむべきなり、此聖賢の深い戒めなり、学ぶ者当に猛省すべき所なり、


章番号 11 章通し番号 72

通し番号 425 章内番号 1 章通し番号 72 識別番号 7_11_1
本文
孟子曰く、道は爾(ちか)きに在り、而るに諸を遠きに求む、事は易(やす)きに在り、而るに諸を難きに求む、人人其親を親(あい)し、其長を長(すす)む、而して天下平かなり、
朱注
爾、邇、古字通用す、易、去声、長、上声、○親長人に在りて甚だ邇(ちか)きと爲す、之を親(あい)し之を長(すす)むは、人に在りて甚だ易きと爲す、而るに道の初は是を外(はず)れざるなり、此を舍(す)てて他に求めれば、則ち遠く且(かつ)難し、而して反(かえっ)て之を失う、但(もっぱら)人人各(おのおの)其親を親(あい)し、各(おのおの)其長を長(すす)めれば、則ち天下自ずから平かなり、


章番号 12 章通し番号 73

通し番号 426 章内番号 1 章通し番号 73 識別番号 7_12_1
本文
孟子曰く、下位に居りて上に獲(え)られざれば、民得て治むべからざるなり、上に獲(え)られるに道有り、友に信ぜられざれば、上に獲られず、友に信ぜられるに道有り、親に事(つか)えて悦(よろこ)ばざれば、友に信ぜられず、親を悦(よろこ)すに道有り、身に反り誠ならざれば、親に悦(よろこ)ばれず、身に誠なるに道有り、善に明らかならざれば、其身に誠ならず、
朱注
上に獲らるは、其上の信任を得るなり、誠、実なり、身に反り誠ならざるは、諸を身に反り求めて、其以て善を爲す所の心、実ならざる有るなり、善に明かならずは、事に即(つ)き以て理を窮めること能わず、以て真に善の在る所を知ること無きなり、游氏曰く、其意を誠にすることを欲せば、先ず其知を致す、善に明かならざれば、身に誠ならず、学びて身を誠にするに至れば、則ち安(いず)くに往くとして其極を致さざらんや、内以てすれば則ち親に順、外以てすれば則ち友に信、上以てすれば則ち以て君を得るべし、下以てすれば則ち以て民を得るべし、

通し番号 427 章内番号 2 章通し番号 73 識別番号 7_12_2
本文
是故に誠は、天の道なり、誠を思うは、人の道なり、
朱注
誠は、理の我に在るもの、皆実にして僞無く、天道の本然なり、誠を思うは、此理の我に在るもの皆実にして僞無く、人道の当然であることを欲するなり、

通し番号 428 章内番号 3 章通し番号 73 識別番号 7_12_3
本文
至誠にして動かざるものは、未だ之有らざるなり、誠ならずして、未だ能く動くもの有らざるなり、
朱注
至、極なり、楊氏曰く、動は便(すなわ)ち是れ験(しるし)の処(ところ)なり、上に獲られる、友に信じられる、親に悦(よろこ)ばれるの類の若き是れなり、○此章は中庸の孔子の言を述べ、誠を思うを身を脩めるの本と爲し、而して善を明らかにするを又誠を思うの本と爲すを見る、乃ち子思が曽子に聞く所にして、孟子が子思に受くる所のものなり、亦大学と相表裏す、学ぶ者宜しく心を潜(ひそ)むべし、


章番号 13 章通し番号 74

通し番号 429 章内番号 1 章通し番号 74 識別番号 7_13_1
本文
孟子曰く、伯夷は紂を辟(さ)け、北海の浜(ほとり)に居る、文王作興すると聞き、曰く盍(なん)ぞ帰らざる(来)、吾聞く、西伯善く老を養う者と、太公紂を辟(さ)け、東海の浜(ほとり)に居る、文王作興すると聞き、曰く盍(なん)ぞ帰らざる、吾聞く、西伯善く老を養(おさ)める者と、
朱注
辟、去声、○作、興、皆起なり、盍、何不なり、西伯、即ち文王なり、紂命じ西方の諸侯の長と爲し、征伐を専らにすることを得る、故に西伯と称す、太公は、姜は姓、呂(りょ)は氏、名は尙なり、文王政を発する、必ず鰥(かん)寡孤独を先にし、庶人の老、皆凍餒(だい)すること無し、故に伯夷、太公来り其養に就く、仕えることを求めるに非ざるなり、

通し番号 430 章内番号 2 章通し番号 74 識別番号 7_13_2
本文
二老は、天下の大老なり、而して之に帰す、是れ天下の父之に帰するなり、天下の父之に帰す、其子焉(いず)くに往かん、
朱注
焉、於虔反、○二老は、伯夷、太公なり、大老、常人の老なる者に非ざるを言う、天下之父は、歯徳皆尊(たっと)く、衆父の如し(然)を言う、既に其心を得れば、則ち天下の心外(はな)れること能わず、蕭何(しょうか)謂う所の民を養い賢を致し、以て天下を図るものは、暗に此と合う、但(ただ)し其意則ち公私の弁有り、学ぶ者又以て察せざるべからざるなり、

通し番号 431 章内番号 3 章通し番号 74 識別番号 7_13_3
本文
諸侯文王の政を行うもの有れば、七年の内、必ず政を天下に爲す、
朱注
七年、小国以て言うなり、大国五年は、其中に在り、


章番号 14 章通し番号 75

通し番号 432 章内番号 1 章通し番号 75 識別番号 7_14_1
本文
孟子曰く、求や季氏の宰(さい)と爲る、能く其徳を改めること無し、而して粟(ぞく)を賦(ふ)すること他日に倍す、孔子曰く、求は我徒に非ざるなり、小子鼓を鳴らして之を攻めて可なり、
朱注
求、孔子の弟子冉(ぜん)求なり、季氏は魯の卿なり、宰は家臣なり、賦、猶取のごときなり、民の粟を取ること他日に倍するなり、小子、弟子なり、鼓を鳴らして之を攻むは、其罪を声(の)べ之を責めるなり、

通し番号 433 章内番号 2 章通し番号 75 識別番号 7_14_2
本文
此に由り之を観れば、君仁政を行わずして、之を富ますは、皆孔子に棄てられる者なり、況んや之が爲に戦を強(し)い、地を争い以て戦い、人を殺し野に盈(み)ち、城を争い以て戦い、人を殺し城に盈(み)つるに於てをや、此は謂う所の土地を率いて人肉を食べる、罪は死に容(い)らず、
朱注
爲、去声、○林氏曰く、其君を富ます者は、民の財を奪うのみ、而るに夫子(ふうし)猶之を悪(にく)む、況んや土地の爲(ため)の故にして人を殺し、其肝脳をして地に塗(まみ)れしめば、則ち是れ土地を率いて人の肉を食べる、其罪は大、死に至ると雖も、猶以て之を容(い)れるに足らざるなり、

通し番号 434 章内番号 3 章通し番号 75 識別番号 7_14_3
本文
故に善く戦う者は上刑に服す、諸侯を連(つら)ねる者之に次ぐ、草萊(そうらい)を辟(ひら)き、土地を任ずる者は之に次ぐ、
朱注
辟、闢と同じ、○善く戰うは、孫臏(びん)、呉起の徒の如し、諸侯を連結するは、蘇秦、張儀の類の如し、辟(へき)、開墾なり、土地を任ずるは、土を分け民に授け、耕稼の責を任ぜしむるを謂う、李悝(りかい)地力を尽し、商鞅(しょうおう)阡陌(せんばく)を開くの類の如きなり、


章番号 15 章通し番号 76

通し番号 435 章内番号 1 章通し番号 76 識別番号 7_15_1
本文
孟子曰く、人に存するものは、眸子(ぼうし)於(より)良きは莫し、眸子其悪を掩(おお)うこと能わず、胸中正しければ、則ち眸子瞭(あきら)かなり、胸中正しからざれば、則ち眸子眊(くら)し、
朱注
眸、音は牟、瞭、音は了、眊、音は耄、○良、善なり、眸子、目の瞳子(どうし)なり、瞭、明なり、眊(ぼう)は、蒙蒙(もうもう)、目明かならずの貌なり、蓋し人が物と接するの時、其神は目に在り、故に胸中正しければ則ち神精(きよ)く明かなり、正しからざれば則ち神散じて昏(くら)し、

通し番号 436 章内番号 2 章通し番号 76 識別番号 7_15_2
本文
其言を聴くや、其眸子(ぼうし)を観る、人焉(いずく)んぞ廋(かく)さんや、
朱注
焉、於虔反、廋、音は搜、○廋、匿なり、言は亦心の発する所なり、故に此に幷(あわ)せて以て観れば、則ち人の邪正匿(かく)すべからず、然れども言は猶僞以て爲すべし、眸子は則ち僞を容れざるもの有り、


章番号 16 章通し番号 77

通し番号 437 章内番号 1 章通し番号 77 識別番号 7_16_1
本文
孟子曰く、恭なる者人を侮らず、倹なる者人から奪わず、人を侮奪するの君、惟順(したが)わざるを恐る、悪(いずくん)ぞ恭倹を爲すを得ん、恭倹は豈(あに)声音笑貌以て爲すべけんや、
朱注
悪、平声、○惟順(したが)わざるを恐るは、人の己に順(したが)わざるを恐れるを言う、声音笑貌は、僞(いつわ)り外に爲すなり、


章番号 17 章通し番号 78

通し番号 438 章内番号 1 章通し番号 78 識別番号 7_17_1
本文
淳于髠(じゅんうこん)曰く、男女授受親(みずか)らせず、礼か、孟子曰く、礼なり、曰く、嫂(そう)溺れば則ち之を援(すく)うに手を以てするか、曰く、嫂(そう)溺れて援(すく)わざるは、是れ豺狼(さいろう)なり、男女授受親(みずか)らせずは、礼なり、嫂溺れ之を援(すく)うに手を以てするは、権なり、
朱注
与、平声、援、音は爰、○淳于は、姓、髠は、名、斉の弁士、授、与なり、受、取なり、古礼、男女親(みずか)ら授受せず、以て遠ざけ別(わか)つなり、援、之を救うなり、権、称(はかり)の錘(おもり)なり、物の軽重を称(はか)りて、往来し以て中(あた)るを取るものなり、権にして中(あた)るを得る、是れ乃ち礼なり、

通し番号 439 章内番号 2 章通し番号 78 識別番号 7_17_2
本文
曰く、今天下溺る、夫子(ふうし)の援(すく)わざる、何ぞや、
朱注
言えらく、今天下大いに乱る、民陥溺に遭う、亦当に権に従い以て之を援(すく)い、先王の正道を守るべからざるなり、

通し番号 440 章内番号 3 章通し番号 78 識別番号 7_17_3
本文
曰く、天下溺るれば、之を援(すく)うに道を以てす、嫂溺るれば、之を援うに手を以てす、子は手にて天下を援(すく)わんと欲するか、
朱注
言えらく、天下溺るれば、惟道以て之を救うべし、嫂溺れ手にて援(すく)うべきが若きに非ざるなり、今子天下を援(すく)わんと欲す、乃ち我をして道を枉(ま)げ合うを求めしめんと欲す、則ち先ず以て之を援(すく)う所の具(そな)えを失う、是れ我をして手以て天下を援わしめんと欲するか、○此章言えらく、己を直にして道を守るは、以て時を済(すく)う所なり、道を枉(ま)げ人に殉(したが)うは、徒(ただ)己を失なうことを爲す、


章番号 18 章通し番号 79

通し番号 441 章内番号 1 章通し番号 79 識別番号 7_18_1
本文
公孫丑曰く、君子の子を教えざるは、何ぞや、
朱注
親(みずか)ら教えざるなり、

通し番号 442 章内番号 2 章通し番号 79 識別番号 7_18_2
本文
孟子曰く、勢(いきおい)行われざるなり、教えは必ず正以てす、正以て行われず、之に継ぐに怒以てす、之に継ぐに怒以てすれば、則ち反(かえっ)て夷(そこな)う、夫子我に教えるに正以てす、夫子未だ正に出でざるなり、則ち是れ父子相夷(そこな)うなり、父子相(あい)夷えば、則ち悪(あ)し、
朱注
夷、傷なり、子に教えるは、本は其子を愛する爲なり、之に継ぐに怒を以てすれば、則ち反て其子を傷つける、父既に其子を傷つける、子の心又其父を責めて曰く、夫子我に教えるに正道を以てす、而るに夫子の身未だ必ずしも自ら正道を行わず、則ち是れ子又其父を傷つけるなり、

通し番号 443 章内番号 3 章通し番号 79 識別番号 7_18_3
本文
古は子を易(か)えて之を教える、
朱注
子を易えて教えるは、父子の恩を全くして、亦其教えを爲すを失わざる所以なり、

通し番号 444 章内番号 4 章通し番号 79 識別番号 7_18_4
本文
父子の間は善を責めず、善を責めれば則ち離る、離るれば則ち祥(よ)からざるは焉(これ)より大なるは莫(な)し、
朱注
善を責むるは、朋友の道なり、○王氏曰く、父に争子有り、何ぞや、謂う所の争は、善を責むるに非ざるなり、不義に当れば則ち之を争(いさ)めるのみ、父の子に於けるや如何、曰く、不義に当れば、則ち亦之に戒(つ)ぐるのみ、


章番号 19 章通し番号 80

通し番号 445 章内番号 1 章通し番号 80 識別番号 7_19_1
本文
孟子曰く、事える孰(いず)れか大と爲す、親に事える大と爲す、守る孰れか大と爲す、身を守る大と爲す、其身を失わずして、能く其親に事える者は、吾之を聞く、其身を失ないて、能く其親に事える者は、吾未だ之を聞かざるなり、
朱注
身を守るは、其身を持守し、不義に陥らざらしめるなり、一たび其身を失えば、則ち体を虧(そこな)い親を辱める、日に三牲(せい)の養(やしな)いを用いると雖も、亦以て孝と爲すに足らず、

通し番号 446 章内番号 2 章通し番号 80 識別番号 7_19_2
本文
孰れか事えると爲さざらん、親に事えるは、事えるの本なり、孰れか守ると爲さざらん、身を守るは、守るの本なり、
朱注
親に事え孝なれば、則ち忠は君に移るべし、順は長に移るべし、身正しければ、則ち家斉(ととの)い、国治まりて、天下平らかなり、

通し番号 447 章内番号 3 章通し番号 80 識別番号 7_19_3
本文
曽子が曽皙(せき)を養う、必ず酒肉有り、将に徹せんとし、必ず与える所を請う、余有るやを問えば、必ず有りと曰う、曽皙死す、曽元が曽子を養う、必ず酒肉有り、将に徹せんとし、与える所を請わず、余有るやを問えば、亡(な)しと曰う、将に以て復(また)進めんとするなり、此謂う所の口体を養う者なり、曽子の若きは、則ち志を養うと謂うべきなり、
朱注
養、去声、復、扶又反、○此は上文の親に事えるを承け、之を言う、曽皙、名は点、曽子の父なり、曽元、曽子の子なり、曽子其父を養うは、食の每に必ず酒肉有り、食畢(おわ)り将に徹去せんとす、必ず父に請いて曰く、此余りは誰に与えん、父此物尚(なお)余り有るや否やを問うこと或(あ)れば、必ず有りと曰う、恐らくは、親の意更(さら)に人に与えんと欲するなり、曽元与える所を請わず、有ると雖も無しと言う、其意将に以て復(また)親に進めんとし、其を人に与えることを欲せざるなり、此但(ただ)能く父母の口体を養うのみ、曽子則ち能く父母の志に承順して、之を傷つけることを忍びざるなり、

通し番号 448 章内番号 4 章通し番号 80 識別番号 7_19_4
本文
親に事えること曽子の若き者は、可なり、
朱注
言えらく、当に曽子の志を養う如くすべし、曽元の但(ただ)口体を養う如くすべからず、程子曰く、子の身能く爲す所のものは、皆当に爲すべき所にして、分に過ぐるの事無きなり、故に親に事えること曽子の若くして、至れると謂うべし、而るに孟子止(ただ)可と曰うなり、豈曽子の孝以て余有りと爲さんや、


章番号 20 章通し番号 81

通し番号 449 章内番号 1 章通し番号 81 識別番号 7_20_1
本文
孟子曰く、人は与(もっ)て適(せ)むるに足らざるなり、政は間(そし)るに足らざるなり、惟(ただ)大人能く君心の非を格(ただ)すことを爲す、君仁なれば仁ならざる莫し、君義なれば義ならざる莫し、君正なれば正ならざる莫(な)し、一たび君を正して国定まる、
朱注
適、音は謫、間、去声、○趙氏曰く、適、過なり、閒、非なり、格、正なり、徐氏曰く、格は、物が正を取る所なり、書に曰く、其非心を格(ただ)す、愚謂えらく、間の字の上亦当に与の字有るべし、言えらく、人君人を用いるの非、過讁(たく)するに足らず、政を行うの失、非間するに足らず、惟(ただ)大人の徳有れば、則ち能く其君の心の正しからざるを格(ただ)し、以て正に帰す、而して国治らざること無し、大人なる者は、大徳の人、己を正して物正しき者なり、○程子曰く、天下の治乱、人君の仁と不仁に繫(つな)がるのみ、心の非は、即ち政に於て害あり、之を外に発することを待たざるなり、昔者(むかし)孟子斉王に三見して事を言わず、門人之を疑う、孟子曰く、我先(ま)ず其邪心を攻(おさ)む、心既に正し、而して後天下の事従いて理(ただ)すべきなり、夫(それ)政事の失、人を用いるの非、知者能く之を更(あらた)め、直者能く之を諫(いさ)む、然れども非心存すれば、則ち事事に之を更(あらた)め、後に復(また)其事有り、将に其更に勝(た)えざらんとす、人人に之を去り、後に復(また)其人を用う、将に其去に勝えざらんとす、是を以て輔相の職は、必ず君心の非を格(ただ)すことに在り、然る後正しからざる所無し、而して君心の非を格(ただ)さんと欲する者は、大人の徳を有(たも)つに非ざれば、則ち亦之を能くすること莫(な)きなり、


章番号 21 章通し番号 82

通し番号 450 章内番号 1 章通し番号 82 識別番号 7_21_1
本文
孟子曰く、虞(はか)らざるの誉(ほまれ)有り、全(まった)きを求めるの毀(そし)り有り、
朱注
虞、度なり、呂氏曰く、行以て誉を致すに足らず、而るに偶(たまたま)誉を得る、是れ虞(はか)らざるの誉と謂う、毀(そし)りを免れることを求む、而るに反て毀を致す、是れ全(まった)きを求めるの毀(そし)りと謂う、毀誉の言、未だ必ずしも皆実ならざるを言う、己を脩めるは、是を以て遽(にわか)に憂喜を爲すべからず、人を観るは、是を以て軽く進退を爲すべからず、


章番号 22 章通し番号 83

通し番号 451 章内番号 1 章通し番号 83 識別番号 7_22_1
本文
孟子曰く、人の其言に易(おろそ)かなるは、責無きのみ、
朱注
易、去声、○人の其言を軽易(い)する所以は、其未だ失言の責に遭わざる故を以てするのみ、蓋し常人の情、前に懲(おそ)れる所無ければ、則ち後に警(そな)える所無し、以て君子の学は、必ず責有るを俟(ま)ちて、後敢えて其言を易(おろそ)かにせざるを爲すに非ざるなり、然れば此は豈(それ)亦爲(ため)にすること有りて之を言うか、


章番号 23 章通し番号 84

通し番号 452 章内番号 1 章通し番号 84 識別番号 7_23_1
本文
孟子曰く、人の患、好んで人の師と爲ることに在り、
朱注
好、去声、○王勉曰く、学問余有り、人己に資(と)る、已むを得ずして之に応ずるは可なり、若し人の師と爲ることを好めば、則ち自ら足りて復(また)進むこと有らず、此は人の大患なり、


章番号 24 章通し番号 85

通し番号 453 章内番号 1 章通し番号 85 識別番号 7_24_1
本文
楽正子(がくせいし)子敖(しごう)に従い斉に之(ゆ)く、
朱注
子敖、王驩(かん)の字なり、

通し番号 454 章内番号 2 章通し番号 85 識別番号 7_24_2
本文
楽正子孟子に見(まみ)ゆ、孟子曰く、子亦来り我に見(あ)うか、曰く、先生何爲(なんすれ)ぞ此言を出すや、曰く、子来る幾(いく)日ぞ、曰く、昔者(きのう)なり、曰く、昔者(きのう)ならば、則ち我此言を出すや、亦宜(うべ)ならざるか、曰く、舍館未だ定まらず、曰く、子之を聞くや、舍館定まり、然る後長者に見(まみ)ゆるを求めるか、
朱注
長、上声、○昔者、前日なり、館、客舍(かくしゃ)なり、王驩(かん)、孟子与(とも)に言わざる所の者なり、則ち其人知るべし、楽正子乃ち之に従い行く、其身を失うの罪大なり、又早く長者に見えず、則ち其罪又(さら)に甚だしきもの有り、故に孟子姑(しばら)く此を以て之を責む、

通し番号 455 章内番号 3 章通し番号 85 識別番号 7_24_3
本文
曰く、克(こく)罪有り、
朱注
陳氏曰く、楽正子固(もと)より罪無きこと能わず、然れども其責を受くるに勇なること此如し、善を好みて篤(あつ)く之を信ずるに非ざれば、其(そ)れ能く是の若きか、世強弁して非を飾り、諫を聞き愈(ますます)甚だしき者有り、又楽正子の罪人なり、


章番号 25 章通し番号 86

通し番号 456 章内番号 1 章通し番号 86 識別番号 7_25_1
本文
孟子楽正子に謂いて曰く、子の子敖(しごう)に従い来るは、徒(ただ)餔啜(ほせつ)するなり、我は、子が古の道を学びて、以て餔啜すると意(おも)わざるなり、
朱注
餔、博孤反、啜、昌悦反、○徒、但なり、餔、食なり、啜、飮なり、言えらく、其従う所を択ばざるは、但(ただ)食を求めるのみ、此乃ち其罪を正して切に之を責む、


章番号 26 章通し番号 87

通し番号 457 章内番号 1 章通し番号 87 識別番号 7_26_1
本文
孟子曰く、不孝に三有り、後無き大と爲す、
朱注
趙氏曰く、礼に於て不孝は三事有り、謂えらく、意に阿(おもね)り曲従し、親を不義に陥(おとしい)れるは、一なり、家貧しく親老い、禄仕を爲さざるは、二なり、娶(めと)らずして子無く、先祖の祀(まつり)を絶つは、三なり、三なるものの中で、後無きを大と爲す、

通し番号 458 章内番号 2 章通し番号 87 識別番号 7_26_2
本文
舜告げずして娶(めと)るは、後無き爲なり、君子以て猶告ぐるがごときと爲すなり、
朱注
爲無の爲、去声、○舜告ぐれば、則ち娶ることを得ず、而して後無きに終る、告ぐるは礼なり、告げざるは権なり、猶告は、告と同じを言うなり、蓋し権にして中(あた)るを得れば、則ち正から離れず、○范氏曰く、天下の道は、正有り権有り、正は万世の常、権は一時の用、常道は人皆守るべし、権は道を体する者に非ざれば、用いること能わざるなり、蓋し権は已むを得ざるものに出ずるなり、若(もし)父瞽瞍(こそう)に非ず、子大舜に非ずして、告げずして娶らんと欲せば、則ち天下の罪人なり、


章番号 27 章通し番号 88

通し番号 459 章内番号 1 章通し番号 88 識別番号 7_27_1
本文
孟子曰く、仁の実、親に事える是れなり、義の実、兄に従う是れなり、
朱注
仁は愛を主とす、而して愛は親に事えるより切なること莫(な)し、義は敬を主とす、而して敬は兄に従うより先にすること莫し、故(もと)より仁義の道は、其用至りて広し、而(しか)るに其実は親に事え兄に従うの間を越えず、蓋し良心の発するは、切近にして精実なることを最も爲す、有子は孝弟以て仁を爲すの本と爲す、其意亦猶此ごときなり、

通し番号 460 章内番号 2 章通し番号 88 識別番号 7_27_2
本文
智の実、斯(この)二なるものを知り、去らざる是れなり、礼の実、斯二なるものを節文する是れなり、楽(がく)の実、斯二なるものを楽しむ、楽しめば則ち生ず、生ずれば則ち悪ぞ已むべけんや、悪ぞ已むべくんば、則ち足の之を踏み、手の之に舞うを知らず、
朱注
楽斯、楽則の楽、音は洛、悪、平声、○斯二者は、親に事え、兄に従うを指して言う、知りて去らず、則ち之を見ること明かにして、之を守ること固し、節文、品節文章を謂う、楽しめば則ち生ずは、和順従容(しょうよう)として、勉強する所無きを謂う、親に事え兄に従うの意、油然(ゆうぜん)として自ずから生ず、草木の生ずる意有るが如きなり、既に生ずる意有れば、則ち其暢茂(ちょうも)條達(じょうたつ)し、自ずから遏(とめ)るべからざるもの有り、謂う所の悪ぞ已むべけんやなり、其又(さら)に盛なれば、則ち手舞い足踏みて自(みずか)ら知らざるに至る、○此章言えらく、親に事え兄に従うは、良心が真(まこと)で切なり、天下の道、皆此を原(みなもと)とす、然れば必ず之を知ること明かにして、之を守ること固くす、然る後之を節すること密(こま)かにして、之を楽しむこと深きなり、


章番号 28 章通し番号 89

通し番号 461 章内番号 1 章通し番号 89 識別番号 7_28_1
本文
孟子曰く、天下大いに悦びて将に己に帰さんとす、天下悦びて己に帰するを視ること、猶草芥のごときなり、惟(ただ)舜然りと爲す、親に得られざれば、以て人と爲るべからず、親に順ならざれば、以て子と爲るべからず、
朱注
言えらく、舜天下の己に帰するを視ること草芥(かい)の如くして、惟(ただ)其親を得て之に順なることを欲するなり、得は、曲(つぶさ)に承順を爲し、以て其心の悦ぶことを得るのみ、順なれば則ち以て之を道に於て諭(みちび)くこと有り、心は之と一にして、未だ始めより違うこと有らず、尤(もっと)も人の難とする所なり、人と爲るは、蓋し泛(ひろ)く之を言う、子と爲るは則ち愈(さら)に密(こま)かなり、

通し番号 462 章内番号 2 章通し番号 89 識別番号 7_28_2
本文
舜親に事えるの道を尽して、瞽瞍(こそう)予(よろこ)びを厎(いた)す、瞽瞍予(よろこび)を厎(いた)して、天下化す、瞽瞍予(よろこ)びを厎(いた)して、天下の父子爲(た)る者定まる、此を之大孝と謂う、
朱注
底、之爾反、○瞽瞍、舜の父の名、厎(し)、致なり、予、悦楽なり、瞽瞍至りて頑(がん)なり、嘗て舜を殺さんと欲す、是に至りて予(よろこび)を厎(いた)す、書謂う所の姦に格(いた)らず、亦允(しん)じ若(したが)う、是れなり、蓋し舜此に至りて以て親に順なること有り、是を以て天下の子爲(た)る者、天下事うべからざるの親無きを知る、顧(おも)うに、吾以て事える所の者未だ舜の若からざるのみと、是に於て勉めて孝を爲さざる莫(な)し、其親亦豫(よろこび)を厎(いた)すに至る、則ち天下の父爲る者、亦慈ならざる莫し、謂う所の化なり、子は孝、父は慈、各(おのおの)其所に止まる、而して其位に安らかにせざるの意無し、謂う所の定なり、法を天下に爲し、後世に伝うべし、一身一家の孝に止(とど)まるに非ざるのみ、此大孝と爲す所以なり、○李氏曰く、舜の能く瞽瞍をして豫(よろこび)を厎(いた)さしめる所以は、親に事えるの道を尽し、子爲(た)るの職を共(つつし)み、父母の非を見ざるのみ、昔、羅仲素此を語りて云く、只天下不是底(いた)るの父母無しと爲す、了翁(りょうおう)聞きて之を善(よ)しとして曰く、惟此如くして後、天下の父子爲(た)るもの定まる、彼(かの)臣其君を弑(しい)し、子其父を弑する者は、常に其是なるざる処有るを見ることに於て始まるのみ、


8 離婁章句下 lí lóu zhāng jù xià

章番号 1 章通し番号 90

通し番号 463 章内番号 1 章通し番号 90 識別番号 8_1_1
本文
孟子曰く、舜は諸馮(しょひょう)に生まれ、負夏に遷(うつ)り、鳴條に卒(おわ)る、東夷の人なり、
朱注
諸馮、負夏、鳴條、皆地名なり、東方夷服(いふく)の地に在り、

通し番号 464 章内番号 2 章通し番号 90 識別番号 8_1_2
本文
文王は岐周(きしゅう)に生まれ、畢郢(ひつえい)に卒(おわ)る、西夷の人なり、
朱注
岐周は、岐山の下(もと)の周の旧邑なり、畎夷(けんい)に近し、畢郢(ひつえい)は、豊鎬(ほうこう)に近し、今文王の墓有り、

通し番号 465 章内番号 3 章通し番号 90 識別番号 8_1_3
本文
地の相去るや、千有余里、世の相後(おく)るや、千有余歳、志を得て中国に行う、符節を合わせるが若し、
朱注
志を得て中国に行うは、舜は天子と爲り、文王は方伯と爲り、其道を天下に行うことを得るを謂うなり、符節は、玉以て之を爲(つく)り、文字を篆刻(てんこく)して中で之を分つ、彼此(ひし)各(おのおの)其半を藏す、故有れば、則ち左右相合わして以て信と爲すなり、符節を合わせるが若しは、其同じきを言うなり、

通し番号 466 章内番号 4 章通し番号 90 識別番号 8_1_4
本文
先聖後聖、其揆(き)一なり、
朱注
揆、度なり、其揆一は、之を度(はか)りて其道同じからざる無きを言うなり、○范氏曰く、聖人の生まるは、先後遠近の同じからざること有りと雖も、然れども其道則ち一なりを言う、


章番号 2 章通し番号 91

通し番号 467 章内番号 1 章通し番号 91 識別番号 8_2_1
本文
子産は鄭国の政を聴く、其乗輿(じょうよ)を以て人を溱(しん)洧(い)に済(わた)す、
朱注
乗、去声、溱、音は臻、洧、栄美反、○子産、鄭の大夫公孫僑(こうそんきょう)なり、溱洧(しんい)、二水の名なり、子産は人が徒(かち)にて此水を渉(わた)る者有るを見て、其乗る所の車を以て載せて之を渡す、

通し番号 468 章内番号 2 章通し番号 91 識別番号 8_2_2
本文
孟子曰く、恵にして政を爲すを知らず、
朱注
恵、私恩小利を謂う、政は、則ち公平正大の体、綱紀法度の施有り、

通し番号 469 章内番号 3 章通し番号 91 識別番号 8_2_3
本文
歳(とし)の十一月徒杠成る、十二月輿梁(よりょう)成る、民未だ渉(わた)るを病まざるなり、
朱注
杠、音は江、○杠、方橋なり、徒杠、徒行を通すべきものなり、梁(りょう)、亦橋なり、輿梁、車輿を通すべきものなり、周の十一月は、夏の九月なり、周の十二月は、夏の十月なり、夏令に曰く、十月梁を成す、蓋し農功已に畢(おわ)る、民力を用うべし、又時将に寒沍(ご)せんとす、水に橋梁有れば、則ち民徒渉(としょう)に患えず、亦王政の一事なり、

通し番号 470 章内番号 4 章通し番号 91 識別番号 8_2_4
本文
君子其政を平(おさ)む、行くに人を辟(ひら)くも可なり、焉ぞ人人にして之を済(わた)すことを得ん、
朱注
辟、闢と同じ、焉、於虔反、○辟、辟除(へきじょ)なり、周礼の閽人(こんじん)之が爲に辟(ひら)くの辟の如し、言えらく、能く其政を平(おさ)めれば、則ち出行の際、行人を辟除して、之をして己を避けしむ、亦過ぐると爲さず、況(いわ)んや国中の水、当に渉(わた)らんとする者衆(おお)く、豈能く悉(ことごと)く乗る輿(よ)を以て之を済(わた)さんや、

通し番号 471 章内番号 5 章通し番号 91 識別番号 8_2_5
本文
故に政を爲す者、人每(ごと)にして之を悦ばせば、日も亦足らず、
朱注
言えらく人每(ごと)に皆私恩を致し以て其意を悦せんと欲せば、則ち人多く日少し、亦用いるに足らず、諸葛武侯嘗て言く、世を治めるは大徳以てす、小恵以てせず、孟子の意を得る、


章番号 3 章通し番号 92

通し番号 472 章内番号 1 章通し番号 92 識別番号 8_3_1
本文
孟子斉の宣王に告げて曰く、君の臣を視ること手足の如ければ、則ち臣が君を視ること腹心の如し、君の臣を視ること犬馬の如ければ、則ち臣が君を視ること国人の如し、君の臣を視ること土芥(かい)の如ければ、則ち臣が君を視ること寇讎(こうしゅう)の如し、
朱注
孔氏曰く、宣王の臣下を遇するは、恩礼衰薄、昔者(むかし)進める所、今日は、其亡(に)ぐるを知らずに至る、則ち其羣臣に、邈然(ばくぜん)として敬無しと謂うべし、故に孟子之に告ぐるに此を以てす、手足腹心は、相(あい)待ち一体なり、恩義の至りなり、犬馬の如しは、則ち之を軽賎す、然れども猶豢養(けんよう)の恩有り、國人、猶路人と言うがごとし、怨み無く徳無きを言うなり、土芥、則ち之を践踏(せんとう)するのみ、之を斬艾(ざんがい)するのみ、其之を賎悪すること又(さら)に甚し、寇讎(こうしゅう)の報、亦宜(うべ)ならずや、

通し番号 473 章内番号 2 章通し番号 92 識別番号 8_3_2
本文
王曰く、礼には旧君の爲に服有り、何如(いか)なれば斯(すなわ)ち爲に服すべし、
朱注
爲、去声、下の爲之同じ、○儀礼(ぎらい)曰く、道以て君を去りて未だ絶たざる者は、斉衰(しさい)に服すること三月、王は孟子の言太甚(はなは)だしきを疑う、故に此礼以て問と爲す、

通し番号 474 章内番号 3 章通し番号 92 識別番号 8_3_3
本文
曰く、諫行われ言聴かれ、膏沢(こうたく)民に下る、故(ゆえ)有りて去る、則ち君は人をして之を導き疆(さかい)を出だしむ、又其往く所に先んず、去りて三年反らず、然る後其田里を收む、此を之三有礼と謂う、此如ければ、則ち之が爲に服す、
朱注
之を導き疆を出すは、剽掠(ひょうりゃく)を防ぐなり、其往く所に先んずるは、其賢を称道し、其之を収用するを欲するなり、三年にして後其田禄里居を収むは、此より前は猶(なお)其帰るを望むなり、

通し番号 475 章内番号 4 章通し番号 92 識別番号 8_3_4
本文
今や臣と爲り、諫(いさ)めれば則ち行われず、言えば則ち聴かれず、膏沢民に下らず、故有りて去れば則ち君之を搏執(はくしつ)す、又之を其往く所に於て極む、之を去るの日、遂に其田里を收む、此を之寇讎(こうしゅう)と謂う、寇讎何ぞ服すること之有らん、
朱注
極、窮なり、之を其往く所の国に於て窮(くる)しめるは、晋が欒盈(らんえい)を錮(はば)むが如きなり、○潘興嗣(はんこうし)曰く、孟子斉王に告ぐるの言、猶(なお)孔子定公に対(こた)えるの意のごときなり、而るに其言迹(あと)有り、孔子の渾然に若かざるなり、蓋し聖賢の別此如し、楊氏曰く、君臣義以て合うものなり、故に孟子は斉王の爲に深く報施の道を言う、君爲(た)る者をして礼以て其臣を遇せざるべからざるを知らしめるのみ、君子の自ら処(お)るが若きは、則ち豈其薄に処らんや、孟子曰く、王庶幾(ねがわく)ば之を改めよ、予日に之を望む、君子の言蓋し此如し、


章番号 4 章通し番号 93

通し番号 476 章内番号 1 章通し番号 93 識別番号 8_4_1
本文
孟子曰く、罪無くして士を殺さば、則ち大夫以て去ることは可なり、罪無くして民を戮(ころ)さば、則ち士以て徙(うつ)ることは可なり、
朱注
言えらく、君子当に幾(き)を見て作(な)すべし、禍已に迫れば、則ち去ること能わず、


章番号 5 章通し番号 94

通し番号 477 章内番号 1 章通し番号 94 識別番号 8_5_1
本文
孟子曰く、君が仁なれば仁ならざること莫し、君が義ならば義ならざること莫し、
朱注
張氏曰く、此章重出す、然れども上篇は主に人臣当に君を正すことを以て急と爲すべきを言う、此章は直に人君を戒む、義亦小異耳(なり)


章番号 6 章通し番号 95

通し番号 478 章内番号 1 章通し番号 95 識別番号 8_6_1
本文
孟子曰く、礼に非ざるの礼、義に非ざるの義、大人爲さず、
朱注
理を察すること精ならず、故に二なるものの蔽(へい)有り、大人は則ち事に随(したが)いて理に順(したが)う、時に因りて宜に処(お)る、豈是を爲さんや、


章番号 7 章通し番号 96

通し番号 479 章内番号 1 章通し番号 96 識別番号 8_7_1
本文
孟子曰く、中は不中を養う、才は不才を養う、故に人は賢父兄有るを楽しむなり、如し中は不中を棄て、才は不才を棄てれば、則ち賢不肖の相去ること、其間寸以てすること能わず、
朱注
楽、音は洛、○過不及無し之中と謂う、以て爲すこと有るに足る之才と謂う、養は涵育(かんいく)薰陶(くんとう)し、其自ずから化するを俟(ま)つを謂うなり、賢は中にして才なる者を謂うなり、賢父兄有るを楽しむは、其終に能く己を成すを楽しむなり、父兄爲る者、若し子弟の不賢以て、遂(つい)に遽(にわか)に之を絶ちて教えること能わざれば、則ち吾亦中を過ぎて不才なり、其相去るの間、能く幾何(いくばく)ぞ、


章番号 8 章通し番号 97

通し番号 480 章内番号 1 章通し番号 97 識別番号 8_8_1
本文
孟子曰く、人爲さざること有るなり、而して後以て爲すこと有るべし、
朱注
程子曰く、爲さざること有るは、択ぶ所を知るなり、惟(ただ)能く爲さざること有り、是を以て爲すこと有るべし、爲さざる所無き者は、安ぞ能く爲す所有らんや、


章番号 9 章通し番号 98

通し番号 481 章内番号 1 章通し番号 98 識別番号 8_9_1
本文
孟子曰く、人の不善を言えば、当に後の患えを如何(いかん)すべき、
朱注
此亦爲(ため)にすること有りて言う、


章番号 10 章通し番号 99

通し番号 482 章内番号 1 章通し番号 99 識別番号 8_10_1
本文
孟子曰く、仲尼(ちゅうじ)は已甚(はなは)だしきを爲さず、
朱注
已、猶太のごときなり、楊氏曰く、聖人爲す所、本分の外(ほか)、毫末を加えざるを言う、孟子真に孔子を知るに非ざれば、是を以て之を称すること能わず、


章番号 11 章通し番号 100

通し番号 483 章内番号 1 章通し番号 100 識別番号 8_11_1
本文
孟子曰く、大人なる者は、言は信を必(ひつ)とせず、行は果を必とせず、惟(ただ)義在る所のままにす、
朱注
行、去声、○必、猶期のごときなり、大人の言行は、信果を先に期せず、但義の在る所、則ち必ず之に従う、卒(つい)に亦未だ嘗て信果ならざるなきなり、○尹氏云えらく、義を主とすれば、則ち信果其中に在り、信果を主とすれば、則ち未だ必ずしも義に合わず、王勉曰く、若し義に合わずして信ならず果ならざれば、則ち妄人のみ、


章番号 12 章通し番号 101

通し番号 484 章内番号 1 章通し番号 101 識別番号 8_12_1
本文
孟子曰く、大人は、其赤子の心を失わざる者なり、
朱注
大人の心は、万変に通達す、赤子の心は、則ち純一、僞無きのみ、然れども大人の大人爲(た)る所以は、正に其物誘を爲さずして、以て其純一無僞の本然を全くすること有るを以てす、是を以て拡(ひろ)めて之を充たせば、則ち知らざる所無く、能わざる所無くて、其大を極めるなり、


章番号 13 章通し番号 102

通し番号 485 章内番号 1 章通し番号 102 識別番号 8_13_1
本文
孟子曰く、生を養うは以て大事に当たるに足らず、惟(ただ)死を送るは以て大事に当たるべし 、
朱注
養、去声、○生に事うは固より当に愛し敬すべし、然れども亦(ただ)人道の常のみ、死を送るに至りては、則ち人道の大変なり、孝子の親に事えるは、是を舍(す)て以て其力を用いること無し、故に尤も以て大事と爲す、而して必ず誠、必ず信にして、少しも後日の悔有らしめざるなり、


章番号 14 章通し番号 103

通し番号 486 章内番号 1 章通し番号 103 識別番号 8_14_1
本文
孟子曰く、君子深く之に造(いた)るに道を以てす、其自ずから之を得るを欲するなり、自ずから之を得れば、則ち之に居ること安し、之に居ること安ければ、則ち之に資(よ)ること深し、之に資(よ)ること深ければ、則ち之を左右に取り其原(みなもと)に逢(あ)う、故に君子其自(おのずか)ら之を得ることを欲するなり、
朱注
造、七到反、○造、詣(けい)なり、深く之に造(いた)るは、進みて已(や)まざるの意なり、道は、則ち其進爲の方なり、資、猶藉のごときなり、左右は、身の両旁、至りて近くして一処に非ざるを言うなり、逢、猶値のごときなり、原、本なり、水の来る処(ところ)なり、言えらく、君子深く造(いた)るを務め必ず其道以てするは、其持循する所有りて、以て夫(それ)黙識心通し、自然にして之を己に得ることを俟(ま)つを欲するなり、自ずから己に得れば、則ち以て之に処(お)る所は、安固にして搖(ゆ)れず、之に処ること安固なれば、則ち藉(よ)る所は深遠にして尽きること無し、藉(よ)る所のもの深ければ、則ち日用の間、之を取ること至りて近し、往く所にして其資(よ)る所の本に値(あ)わざること無きなり、○程子曰く、学は言わずして自ずから得るは、乃ち自得なり、安排布置有るものは、皆自得に非ざるなり、然れば必ず心を潜め慮を積み、其間に優游饜飫(えんよ)して、然る後以て得ること有るべし、若し急迫して之を求めれば、則ち是れ私己のみ、終に以て之を得るに足らざるなり、


章番号 15 章通し番号 104

通し番号 487 章内番号 1 章通し番号 104 識別番号 8_15_1
本文
孟子曰く、博く学びて詳しく之を説く、将に以て反り約を説かんとするなり、
朱注
言えらく、博(ひろ)く文を学びて、詳しく其理を説く所以は、以て多きを誇りて靡(び)に鬭(あ)うを欲するに非ざるなり、其融会貫通し、以て反りて至約の地に説き到ること有るを欲するのみ、蓋し上章の意を承けて言う、学其徒(ただ)博きを欲するに非ず、而るに亦以て徑(ただち)に約なるべからざるなり、


章番号 16 章通し番号 105

通し番号 488 章内番号 1 章通し番号 105 識別番号 8_16_1
本文
孟子曰く、善以て人を服する者は、未だ能く人を服する者有らざるなり、善以て人を養う、然る後能く天下を服す、天下心服せずして王たる者、未だ之有らざるなり、
朱注
王、去声、○人を服する者は、以て勝を人に取らんと欲す、人を養う者は、其(その)同じく善に帰することを欲す、蓋し心の公私は小し異なる、而るに人の嚮背(きょうはい)頓(にわか)に殊(こと)なる、学ぶ者は此に於て以て審(つまび)らかにせざるべからざるなり、


章番号 17 章通し番号 106

通し番号 489 章内番号 1 章通し番号 106 識別番号 8_17_1
本文
孟子曰く、言が実無きは不祥なり、不祥の実は、賢を蔽うもの之に当たる、
朱注
或ひと曰く、天下の言、実の不祥なるもの有ること無し、惟(ただ)賢を蔽うは不祥の実と爲す、或ひと曰く、言いて実無きは不祥なり、故に賢を蔽うは不祥の実と爲す、二説同じからず、未だ孰れか是なるを知らず、疑うらくは、或いは闕(けつ)文有り、


章番号 18 章通し番号 107

通し番号 490 章内番号 1 章通し番号 107 識別番号 8_18_1
本文
徐子曰く、仲尼亟(しばしば)水を称して曰く、水なるかな、水なるかな、何ぞ水に取るや、
朱注
亟、去吏反、○亟、数なり、水哉水哉、歎美の辞なり、

通し番号 491 章内番号 2 章通し番号 107 識別番号 8_18_2
本文
孟子曰く、原泉混混として、昼夜舍(いこ)わず、科(あな)を盈(みた)して後進み、四海に放(いた)る、本有る者是如し、是を之取るのみ、
朱注
舍、放、皆上声、○原泉、原(みなもと)有るの水なり、混混、湧出の貌、晝夜舍(いこ)わずは、常に出でて竭きざるを言うなり、盈、満なり、科、坎(かん)なり、其進むは漸以てするを言うなり、放、至なり、言えらく、水原本有れば、已まずして漸進し、以て海に至る、人実行すること有れば、則ち亦已まずして漸進し、以て極に至るが如きなり、

通し番号 492 章内番号 3 章通し番号 107 識別番号 8_18_3
本文
苟(もし)本無しと爲せば、七八月の間雨集まり、溝澮(こうかい)皆盈(み)つ、其涸(か)るるや、立ちて待つべきなり、故に声聞情に過ぐは、君子之を恥ず、
朱注
澮、古外反、涸、下各反、聞、去声、○集、聚なり、澮、田間の水の道なり、涸、乾なり、如し人実に行なうこと無くして暴(にわか)に虚誉を得れば、長久すること能わざるなり、声聞は、名誉なり、情、実なり、恥は、其実無くして将に継(つ)がざらんとするを恥じるなり、林氏曰く、徐子の人と爲りは、必ず等を躐(こ)え誉を干(もと)めるの病有り、故に孟子是を以て之に答う、鄒氏曰く、孔子の水を称すは、其旨は微なり、孟子独り此を取るは、徐子の急とする所のもの自(よ)り之を言うなり、孔子嘗て聞達以て子張に告ぐ、達は、本有るの謂(いい)なり、聞は、則ち本無きの謂なり、然れば則ち学ぶ者其れ以て本を務めざるべきか、


章番号 19 章通し番号 108

通し番号 493 章内番号 1 章通し番号 108 識別番号 8_19_1
本文
孟子曰く、人の禽獣に異なる所以のものは幾希(すくな)し、庶民之を去る、君子之を存す、
朱注
幾希、少なり、庶、衆なり、人、物の生じる、同じく天地の理を得て以て性と爲す、同じく天地の気を得て以て形と爲す、其同じからざるものは、独り人は其間に於て形気の正を得て、能く以て其性を全くすること有り、少異と爲すのみ、少異と曰うと雖も、然れども人、物の分かれる所以は、実に此に在り、衆人此を知らずして之を去る、則ち名は人と爲すと雖も、実は以て禽獣に異なること無し、君子此を知りて之を存す、是を以て戦兢(せんきょう)惕厲(てきれい)す、而して卒(つい)に能く以て其受くる所の正を全くすること有るなり、

通し番号 494 章内番号 2 章通し番号 108 識別番号 8_19_2
本文
舜は庶物に明らかなり、人倫に察(つまびら)かなり、仁と義に由り行う、仁と義を行うに非ざるなり、
朱注
物、事物なり、明なれば、則ち以て其理を識ること有るなり、人倫は、説前篇に見ゆ、察なれば、則ち以て其理の詳を尽すこと有るなり、物理固より度の外に非ず、而るに人倫尤も身に切なり、故に其之を知るは詳略の異有り、舜に在りては則ち皆生まれながらにして之を知るなり、仁と義に由り行い、仁と義を行うに非ざるは、則ち仁と義已に心に根づく、而して行う所皆此従(よ)り出ず、仁義以て美と爲し、而して後勉め強いて之を行うに非ず、謂う所の安んじて之を行うなり、此は則ち聖人の事、之を存するを待たずして、存せざる無し、○尹氏曰く、之を存する者は、君子なり、存する者は、聖人なり、君子存する所は、天理を存するなり、仁と義に由り行うは、存する者之を能くす、


章番号 20 章通し番号 109

通し番号 495 章内番号 1 章通し番号 109 識別番号 8_20_1
本文
孟子曰く、禹は旨(し)酒を悪(にく)みて、善言を好む、
朱注
惡、好、皆去声、○戦国策曰く、儀狄(ぎてき)酒を作る、禹飮みて之を甘(うま)しとす、曰く、後世必ず酒以て其国を亡ぼす者有り、遂に儀狄を疏んじて旨酒を絶つ、書に曰く、禹昌言に拝す、

通し番号 496 章内番号 2 章通し番号 109 識別番号 8_20_2
本文
湯は中を執(と)り、賢を立てるに方無し、
朱注
執、守りて失わざるを謂う、中は、過不及無きの名なり、方、猶類のごときなり、賢を立てるに方無しは、惟(ただ)賢なれば則ち之を位に立て、其類を問わざるなり、

通し番号 497 章内番号 3 章通し番号 109 識別番号 8_20_3
本文
文王民を視ること傷(いた)めるが如し、道を望み未だ之を見ざるが而(ごと)し、
朱注
而、読みて如と爲す、古字通用す、○民已に安し、而るに之を視ること猶傷有るが若し、道已に至る、而るに之を望むこと、猶未だ見ざるが若し、聖人の民を愛すること深くして、道を求むるの切なること此如し、自ら満足せず、終日乾乾の心なり、

通し番号 498 章内番号 4 章通し番号 109 識別番号 8_20_4
本文
武王邇(ちか)きに泄(な)れず、遠きを忘れず、
朱注
泄、狎(こう)なり、邇(ちか)きは、人の狎(な)れ易き所にして泄(な)れず、遠きは、人の忘れ易き所にして忘れず、徳 の盛、仁の至なり、

通し番号 499 章内番号 5 章通し番号 109 識別番号 8_20_5
本文
周公三王を兼ね、以て四事を施さんことを思う、其合わざるもの有れば、仰ぎて之を思う、夜以て日に継ぐ、幸いにして之を得れば、坐し以て旦(たん)を待つ、
朱注
三王は、禹、湯、文武なり、四事は、上の四条の事なり、時異なり勢殊(こと)なる、故に其事或いは合わざる所有り、思いて之を得れば、則ち其理初(もと)は異ならず、坐して以て旦を待つは、行うに急なり、○此は上章が舜を言うを承(う)け、因りて群聖を歴敘(れきじょ)し、以て之に継ぐ、而して各(おのおの)其一事を挙げ、以て其憂え勤め惕(おそ)れ厲(はげ)むの意を見(しめ)す、蓋し天理の以て常に存する所にして、人心の以て死せざる所なり、○程子曰く、孟子称(い)う所、各(おのおの)其一事に因りて言う、武王中を執り賢を立つること能わず、湯卻(かえっ)て邇(ちか)きに泄(な)れ遠きを忘れるを謂うに非ざるなり、人が各(おのおの)其盛を挙ぐと謂うは、亦非なり、聖人亦(ただ)盛ならざること無し、


章番号 21 章通し番号 110

通し番号 500 章内番号 1 章通し番号 110 識別番号 8_21_1
本文
孟子曰く、王者の跡熄(や)みて詩亡ぶ、詩亡(ほろ)び然る後春秋作(おこ)る、
朱注
王者の跡熄(や)むは、平王東遷して、政教号令、天下に及ばざるを謂うなり、詩亡ぶは、黍離(しょり)降りて国風と爲りて雅亡ぶを謂うなり、春秋、魯史記の名、孔子因りて之を筆削す、魯の隠公の元年に始まる、実(まさ)に平王の四十九年なり、

通し番号 501 章内番号 2 章通し番号 110 識別番号 8_21_2
本文
晉の乗、楚の檮杌(とうこつ)、魯の春秋、一なり、
朱注
乗、去声、檮、音は逃、杌、音は兀、○乗の義未だ詳(つまびら)かならず、趙氏以爲(おも)えらく田賦(でんぶ)乗馬の事に興(おこ)る、或ひと曰く、当時の行事を記載することに取りて之を名づくるなり、檮杌(とうこつ)は、悪獣の名、古は因りて以て凶人の号と爲す、悪を記(しる)し戒を垂(た)るの義を取るなり、春秋は、事を記(しる)すは必ず年を表(しる)し以て事を首(はじ)む、年に四時有り、故に錯挙(さくきょ)して以て記する所の名と爲すなり、古は列国皆史官有り、時事を記することを掌(つかさど)る、此三は皆其記する所の冊書の名なり、

通し番号 502 章内番号 3 章通し番号 110 識別番号 8_21_3
本文
其事則ち斉桓、晋文なり、其文則ち史なり、孔子曰く、其義則ち丘竊(ひそか)に之を取る、
朱注
春秋の時、五霸迭(かわるがわる)興(おこ)る、而して桓、文、盛と爲す、史、史官なり、竊(ひそか)に取るは、謙辞なり、公羊伝は其辞則ち丘に罪有るのみに作る、意亦此如し、蓋し之を断ずるは己に在るを言う、謂う所の筆するは則ち筆し、削るは則ち削り、游、夏、一辞を賛すること能わざるものものなり、尹氏曰く、言えらく、孔子春秋を作るは、亦史の文当時の事を載するを以てするなり、而るに其義則ち天下の邪正を定し、百王の大法と爲る、○此又上章羣聖を歴敘するを承(う)け、因りて孔子の事以て之に継ぐ、而して孔子の事、春秋より大なるは莫し、故に特に之を言う、


章番号 22 章通し番号 111

通し番号 503 章内番号 1 章通し番号 111 識別番号 8_22_1
本文
孟子曰く、君子の沢五世にして斬(た)つ、小人の沢五世にして斬(た)つ、
朱注
澤、猶流風余韻と言うがごときなり、父子相継(そうけい)するを一世と爲す、三十年亦一世と爲す、斬、絶なり、大約君子小人の沢、五世にして絶つなり、楊氏曰く、四世にして緦(し)す、服の窮(おわり)なり、五世にして袒免(たんぶん)す、同姓を殺(うす)くするなり、六世にして親属竭(つ)く、服窮(お)われば則ち遺沢寖(ようや)く微なり、故に五世にして斬つ、

通し番号 504 章内番号 2 章通し番号 111 識別番号 8_22_2
本文
予未だ孔子の徒と爲ることを得ざるなり、予私(ひそか)に諸を人に淑(よ)くするなり、
朱注
私、猶竊のごときなり、淑、善なり、李氏以て方言と爲す、是なり、人、子思の徒を謂うなり、孔子卒する自(よ)り孟子梁に游ぶの時に至る、方(まさ)に百四十余年にならんとして、孟子已に老いる、然れば則ち孟子の生まれるは、孔子を去ること未だ百年ならざるなり、故に孟子言えらく、予未だ親(みずか)ら業を孔子の門に於て受くることを得ずと雖も、然れども聖人の沢尚存す、猶能く其学を伝える者有り、故に我孔子の道を人に聞くことを得る、而して私竊(ひそか)に以て其身を善くす、蓋し孔子を推尊して自謙の辞なり、○此又上三章、舜禹を歴敘し、周孔に至るを承(う)けて、是以て之を終える、其辞謙と雖も、然れども其以て自ら任ずる所の重き、亦得て辞さざるもの有り、


章番号 23 章通し番号 112

通し番号 505 章内番号 1 章通し番号 112 識別番号 8_23_1
本文
孟子曰く、以て取ること可、以て取ること無しも可、取れば廉を傷(そこな)う、以て与えること可、以て与えること無しも可、与えれば恵を傷(そこな)う、以て死ぬこと可、以て死ぬこと無しも可、死ねば勇を傷(そこな)う、
朱注
先に可以と言うは、略に見て自ら許すの辞なり、後に可以無と言うは、深く察して自ら之を疑うの辞なり、取るに過ぎれば固より廉に於て害あり、然れど与えるに過ぎれば亦反て其恵を害す、死ぬに過ぎれば亦反て其勇を害す、蓋し過ぎること猶及ばざるがごとしの意なり、林氏曰く、公西華五秉(へい)の粟を受く、是れ廉を傷(そこな)うなり、冉子(ぜんし)之に与う、是れ恵を傷(そこな)うなり、子路の衛に於て死するは、是れ勇を傷うなり、


章番号 24 章通し番号 113

通し番号 506 章内番号 1 章通し番号 113 識別番号 8_24_1
本文
逢蒙(ほうもう)射を羿(げい)に学ぶ、羿の道を尽す、思えらく、天下惟(ただ)羿己に愈(まさ)ると爲す、是に於て羿を殺す、孟子曰く、是れ亦羿罪有り、公明儀曰く、宜(よろ)しく罪無きが若し、曰く、薄きかと云うのみ、悪ぞ罪無きを得ん、
朱注
逢、薄江反、悪、平声、○羿、有窮の后羿(こうげい)なり、逢蒙、羿の家衆なり、羿射を善くす、夏を簒(うば)いて自ら立つ、後に家衆の殺す所と爲る、愈(ゆ)、猶勝のごときなり、薄は、其罪差(やや)薄き言うのみ、

通し番号 507 章内番号 2 章通し番号 113 識別番号 8_24_2
本文
鄭人は子濯孺子(したくじゅし)をして衛を侵さしむ、衛は庾公之斯(ゆこうしし)をして之を追わしむ、子濯孺子曰く、今日我疾作(おこ)る、以て弓を執(と)るべからず、吾死せん夫(かな)、其僕に問いて曰く、我を追う者誰ぞや、其僕曰く、庾公之斯なり、曰く、吾生きん、其僕曰く、庾公之斯は衛の善く射る者なり、夫子曰く、吾生く、何の謂(いい)ぞや、曰く、庾公之斯は射を尹公之他(いんこうした)に学ぶ、尹公之他射を我に学ぶ、夫(その)尹公之他は端人なり、其友を取る必ず端なり、庾公之斯至る、曰、夫子何爲(なんすれ)ぞ弓を執らざる、曰、今日我疾作(おこ)る、以て弓を執るべからず、曰く、小人射を尹公之他に学ぶ、尹公之他射を夫子に学ぶ、我は夫子の道を以て反て夫子を害することを忍びず、然りと雖も、今日の事君の事なり、我敢て廃せず、矢を抽(ぬ)き輪(わ)に扣(たた)き、其金を去り、乗矢を発して後反る、
朱注
他、徒何反、矣夫、夫尹の夫、並びに音は扶、去、上声、乗、去声、○之、語助なり、僕、御なり、尹公他亦衛人なり、端、正なり、孺子は尹公が正しき人なるを以て、其友を取ること必ず正しきを知る、故に庾公必ず己を害さずと度(はか)る、小人、庾公が自称するなり、金、鏃(やじり)なり、輪に扣き鏃を出し、人を害さざらしめ、乃ち以て射るなり、乗矢、四矢なり、孟子言えらく、羿をして子濯孺子が尹公他を得て之に教えるが如くならしめば、則ち必ず逢蒙(ほうもう)の禍無し、然れども夷羿(いげい)は簒弑(さんし)の賊なり、蒙乃ち逆儔(ちゅう)なり、庾斯私恩を全くすると雖も、亦公義を廃す、其事皆論ずるに足るもの無し、孟子蓋し特(ただ)友を取るを以て言うのみ、


章番号 25 章通し番号 114

通し番号 508 章内番号 1 章通し番号 114 識別番号 8_25_1
本文
孟子曰く、西子不潔を蒙(こうむ)れば、則ち人皆鼻を掩(おお)いて之を過ぐ、
朱注
西子、美婦人なり、蒙、猶冒のごときなり、不潔、汙穢(おわい)の物なり、鼻を掩うは、其臭(におい)を悪(にく)むなり、

通し番号 509 章内番号 2 章通し番号 114 識別番号 8_25_2
本文
悪人有りと雖も、斉戒(さいかい)沐(もく)浴すれば、則ち以て上帝を祀(まつ)るべし、
朱注
斉、側皆反、○悪人、醜(みにく)い貌の者なり、○尹氏曰く、此章は人が善を喪(うしな)うを戒めて、人を勉めるに自ら新しくするを以てするなり、


章番号 26 章通し番号 115

通し番号 510 章内番号 1 章通し番号 115 識別番号 8_26_1
本文
孟子曰く、天下の性を言うや、則ち故のみ、故は利以て本と爲す、
朱注
性は、人、物が得て以て生くる所の理なり、故は、其已然の跡なり、謂う所の天下の故の若きものなり、利、猶順のごときなり、其自然の勢を語るなり、言えらく、事物の理、無形にして知り難きが若しと雖も、然れども其発見の已然、則ち必ず跡有りて見易(やす)し、故に天下の性を言う者、但(ただ)其故を言いて理自ずから明かなり、猶謂う所の善く天を言う者は、必ず人に験(しるし)有るがごときなり、然れども其謂う所の故は、又必ず其自然の勢に本づく、人の善、水の下るが如く、矯揉(きょうじゅう)造作して然る所のもの有るに非ざるなり、人の悪を爲し、水の山に在るが若きは、則ち自然の故に非ず、

通し番号 511 章内番号 2 章通し番号 115 識別番号 8_26_2
本文
智に於て悪(にく)む所のものは、其鑿(うが)つの爲なり、如し智が禹の水を行(や)るが若くなれば、則ち智に於て悪(にく)むこと無し、禹の水を行(や)るや、其事無き所に行(や)るなり、如し智亦其事無き所に行(や)れば、則ち智亦大なり、
朱注
悪、爲、皆去声、○天下の理、本皆順利なり、小智の人、務めて穿鑿(せんさく)を爲す、之を失う所以なり、禹の水を行(や)るは、則ち其自然の勢に因りて之を導く、未だ嘗て私智以て穿鑿して事とする所有らず、是を以て水其潤(じゅん)下の性を得て、害を爲さざるなり、

通し番号 512 章内番号 3 章通し番号 115 識別番号 8_26_3
本文
天は高きなり、星辰は遠きなり、苟(まこと)に其故を求めれば、千歳の日至、坐して致すべきなり、
朱注
天高しと雖も、星辰遠しと雖も、然るに其已然の跡を求めれば、則ち其運(めぐ)ること常有り、千歳の久しきと雖も、其日至の度、坐して得るべし、況んや事物の近きに於てをや、若し其故に因りて之を求めば、豈其理を得ざるもの有らんや、而るに何ぞ穿鑿(せんさく)を以て爲さんや、必ず日至を言うは、暦を造る者、上古の十一月甲子朔(さく)夜半冬至以て、暦元と爲せばなり、○程子曰く、此章専ら智の爲に発す、愚謂えらく、事物の理、自然に非ざる莫し、順にして之に循(したが)えば、則ち大智と爲る、若し小智を用いて鑿つに自私以てすれば、則ち性に於て害ありて反て不智と爲る、程子の言、深く此章の旨(し)を得ると謂うべし、


章番号 27 章通し番号 116

通し番号 513 章内番号 1 章通し番号 116 識別番号 8_27_1
本文
公行子、子の喪(も)有り、右師(ゆうし)往きて弔す、門に入る、進みて右師と言う者有り、右師の位に就きて右師と言う者有り、
朱注
公行子、斉の大夫、右師は王驩(おうかん)なり、

通し番号 514 章内番号 2 章通し番号 116 識別番号 8_27_2
本文
孟子右師と言わず、右師悦ばずして曰く、諸君子皆驩と言う、孟子独り驩と言わず、是驩に簡なり、
朱注
簡、略なり、

通し番号 515 章内番号 3 章通し番号 116 識別番号 8_27_3
本文
孟子之を聞きて曰く、礼は、朝廷位を歴(こ)えて相与(とも)に言わず、階を踰(こ)えて相揖(ゆう)せざるなり、我は礼を行わんと欲す、子敖(しごう)は我を以て簡と爲す、亦異ならずや、
朱注
朝、音は潮、○是時、斉の卿大夫は君命以て弔す、各(おのおの)位次有り、周礼、凡そ爵有る者の喪礼は、則ち職喪其禁令に涖(のぞ)み、其事を序すが若し、故に朝廷と云うなり、歴は、更(へ)て渉(はい)るなり、位、他人の位なり、右師未だ位に就かず、而るに進めて之と言えば、則ち右師己の位を歴(こ)える、右師已に位に就く、而るに就いて之と言えば、則ち己右師の位を歴(こ)える、孟子右師の位又階を同じくせず、孟子敢えて此礼を失せず、故に右師と言わざるなり、


章番号 28 章通し番号 117

通し番号 516 章内番号 1 章通し番号 117 識別番号 8_28_1
本文
孟子曰く、君子が人に異なる所以のものは、其心に存するを以てなり、君子は仁以て心に存し、礼以て心に存す、
朱注
仁礼以て心に存するは、是を以て心に存して忘れざるを言うなり、

通し番号 517 章内番号 2 章通し番号 117 識別番号 8_28_2
本文
仁者は人を愛す、礼有る者は人を敬う、
朱注
此は仁礼の施なり、

通し番号 518 章内番号 3 章通し番号 117 識別番号 8_28_3
本文
人を愛する者は人恒(つね)に之を愛す、人を敬う者は人恒(つね)に之を敬う、
朱注
恆、胡登反、○此は仁礼の験なり、

通し番号 519 章内番号 4 章通し番号 117 識別番号 8_28_4
本文
此に人有り、其我を待つに横逆以てすれば、則ち君子必ず自ら反(かえり)みるなり、我必ず不仁なり、必ず無礼なり、此物奚(なん)ぞ宜(よろし)く至るべけんや、
朱注
(1)横、去声、下同じ、○橫逆、強暴理に順わざるを謂うなり、物、事なり、

通し番号 520 章内番号 5 章通し番号 117 識別番号 8_28_5
本文
其自ら反(かえり)みて仁なり、自ら反て礼有り、其横逆由(なお)是のごときなり、君子必ず自ら反るなり、我必ず不忠なり、
朱注
由、猶と同じ、下此に放(なら)う、○忠は、己を尽すの謂(いい)なり、我必ず不忠は、以て人を愛敬する所のもの、其心を尽さざる所有るを恐れるなり、

通し番号 521 章内番号 6 章通し番号 117 識別番号 8_28_6
本文
自ら反みて忠なり、其横逆由(なお)是ごときなり、君子曰く、此亦(ただ)妄人なるのみ、此如ければ則ち禽獣と奚(なん)ぞ択ばん、禽獣に於て又何ぞ難ぜん、
朱注
難、去声、○奚擇、何異なり、又何ぞ難(はか)らんは、之と校(はか)るに足らざるを言うなり、

通し番号 522 章内番号 7 章通し番号 117 識別番号 8_28_7
本文
是故に君子は終身の憂い有り、一朝の患(うれ)い無きなり、(乃若)憂う所は則ち之有り、舜は人なり、我も亦人なり、舜は法を天下に爲し、後世に伝えるべし、我由(なお)未だ郷人爲(た)るを免れざるなり、是れ則ち憂うべきなり、之を憂えば如何(いかん)、舜の如くなるのみ、夫(かの)君子の若きは患う所は則ち亡(な)し、仁に非ざれば爲すこと無きなり、礼に非ざれば行うこと無きなり、如(も)し一朝の患い有れば、則ち君子患えず、
朱注
夫、音は扶、○郷人、郷里の常人なり、君子心に存して苟(かりそめ)にせず、故に後の憂い無し、


章番号 29 章通し番号 118

通し番号 523 章内番号 1 章通し番号 118 識別番号 8_29_1
本文
禹稷平世に当り、三たび其門を過ぎて入らず、孔子之を賢とす、
朱注
事前篇に見ゆ、

通し番号 524 章内番号 2 章通し番号 118 識別番号 8_29_2
本文
顔子乱世に当り、陋巷(ろうこう)に居り、一簞(たん)の食(し)、一瓢(ひょう)の飮、人其憂いに堪えず、顔子其楽しみを改めず、孔子之を賢とす、
朱注
食、音は嗣、樂、音は洛、

通し番号 525 章内番号 3 章通し番号 118 識別番号 8_29_3
本文
孟子曰く、禹稷、顔回道を同じくす、
朱注
聖賢の道、進めば則民を救い、退けば則ち己を脩む、其心一のみ、

通し番号 526 章内番号 4 章通し番号 118 識別番号 8_29_4
本文
禹は天下溺れる者有れば、由(なお)己之を溺らすがごとく思うなり、稷は天下飢える者有れば、由(なお)己之を飢やすがごとく思うなり、是を以て是(かく)の如く其急なり、
朱注
由、猶と同じ、禹、稷身(みずか)ら其職に任(あた)る、故に以て己の責と爲して之を救うに急なり、

通し番号 527 章内番号 5 章通し番号 118 識別番号 8_29_5
本文
禹稷、顔子地を易えれば則ち皆然り、
朱注
聖賢の心、偏倚(い)する所無し、感に随(したが)いて応ず、各(おのおの)其道を尽す、故に禹稷をして顔子の地に居らしめば、則ち亦能く顔子の楽しみを楽しみ、顔子をして禹稷の任に居らしめば、亦能く禹稷の憂いを憂うなり、

通し番号 528 章内番号 6 章通し番号 118 識別番号 8_29_6
本文
今同室の人鬭(たたか)う者有り、之を救(とめ)るに、被髮に冠を纓(えい)して之を救(とめ)ると雖も、可なり、
朱注
髮を束(たば)ねる暇なくて、纓を結び往きて救(とめ)る、急を言うなり、以て禹稷に喩(たと)える、

通し番号 529 章内番号 7 章通し番号 118 識別番号 8_29_7
本文
郷鄰に鬭(たたか)う者有り、被髮に冠を纓(えい)して往きて之を救(とめ)れば、則ち惑(まど)いなり、戸を閉ずと雖も可なり、
朱注
顔子に喩えるなり、○此章言えらく、聖賢の心同じからざる無し、事は則ち遭(あ)う所異なること或(あ)り、然れども之を処するは各(おのおの)其理に当る、是れ乃ち同じと爲す所以なり、尹氏曰く、其可に当る之時と謂う、前聖後聖、其心一なり、故に遇(あ)う所皆善を尽す、


章番号 30 章通し番号 119

通し番号 530 章内番号 1 章通し番号 119 識別番号 8_30_1
本文
公都子曰く、匡章、国を通じて皆不孝と称(い)う、夫子(ふうし)之と遊ぶ、又従いて之を礼貌す、敢えて問う何ぞや、
朱注
匡章、斉の人なり、通国、一国の人尽(ことごと)くなり、禮貌、之を敬するなり、

通し番号 531 章内番号 2 章通し番号 119 識別番号 8_30_2
本文
孟子曰く、世俗謂う所の不孝なるもの五あり、其四支を惰(おこた)り、父母の養を顧ず、一の不孝なり、博弈(ばくえき)し飮酒を好み、父母の養を顧ず、二の不孝なり、貨財を好み、妻子を私(あい)し、父母の養を顧ず、三の不孝なり、耳目の欲に従(ほしいまま)にして、以て父母の戮(りく)を爲す、四の不孝なり、勇を好み鬭(とう)很(こん)し、以って父母を危うくす、五の不孝なり、章子是に於て一有るか、
朱注
好、養、從、皆去声、很、胡懇反、○戮(りく)、羞辱(しゅうじょく)なり、很、忿戾(ふんれい)なり、

通し番号 532 章内番号 3 章通し番号 119 識別番号 8_30_3
本文
夫(かの)章子は、子父が善を責めて、相遇(あ)わざるなり、
朱注
夫、音は扶、○遇、合なり、相責むるに善を以てして相合わず、故に父逐(お)う所と爲るなり、

通し番号 533 章内番号 4 章通し番号 119 識別番号 8_30_4
本文
善を責むるは、朋友の道なり、父子が善を責むは、恩を賊(そこな)うの大なるものなり、
朱注
賊、害なり、朋友当に相責むるに善を以てすべし、父子が之を行えば、則ち天性の恩を害するなり、

通し番号 534 章内番号 5 章通し番号 119 識別番号 8_30_5
本文
夫(かの)章子、豈夫妻子母の属有ることを欲せざらんや、罪を父に得て、近づくを得ざるが爲なり、妻を出し子を屛(しりぞ)け、終身養われず、其心を設(もう)くるに、以て是(かく)の若からざるを爲せば、是れ則ち罪の大なるものなり、是れ則ち章子のみ、
朱注
夫章の夫、音は扶、爲、去声、屛、必井反、養、去声、○言えらく、章子は身に夫妻の配有り、子に子母の属有るを欲さざるに非ず、但(ただ)身父に近づくことを得ざるが爲なり、故に敢えて妻子の養を受けず、以て自ら責め罰す、其心以て此如からざるを爲せば、則ち其罪は益(ますます)大なり、○此章の旨、衆悪む所に於て必ず察す、以て聖賢の至公至仁の心を見るべし、楊氏曰く、章子の行、孟子之を取るに非ざるなり、特(ただ)其志を哀(あわ)れみて之と絶たざるのみ、


章番号 31 章通し番号 120

通し番号 535 章内番号 1 章通し番号 120 識別番号 8_31_1
本文
曽子は武城に居る、越の寇(こう)有り、或るひと曰く、寇(こう)至る、盍(なん)ぞ諸(これ)を去らざる、曰く、人を我が室に寓(やど)し、其薪木を毀傷すること無かれ、寇退けば則ち曰く、我が牆屋(しょうおく)を脩めよ、我に将に反らんとす、寇退き、曽子反る、左右曰く、先生を待つこと、此如く其忠且(か)つ敬なり、寇至れば則ち先に去る、以て民の望を爲す、寇退けば則ち反る、不可に殆(ちか)し、沈猶行(しんゆうこう)曰く、是れ汝の知る所に非ざるなり、昔沈猶に負芻の禍有り、先生に従う者七十人、未だ与(あずか)ること有らず、
朱注
(1)与、去声、○武城、魯の邑の名なり、盍、何不なり、左右、曽子の門人なり、忠敬は、武城の大夫曽子に事えること、忠誠恭敬なるを言うなり、民の望を爲すは、民をして望みて之に效(なら)わしめるを言う、沈猶行、弟子の姓名なり、言えらく、曽子嘗て沈猶氏に於て舍す、時に負芻(すう)なる者乱を作(な)すこと有り、来たりて沈猶氏を攻む、曽子其弟子を率い之を去る、其難に与(あずか)らず、師賓は臣と同じからざるを言う、

通し番号 536 章内番号 2 章通し番号 120 識別番号 8_31_2
本文
子思は衛に居る、斉の寇有り、或るひと曰く、寇至る、盍(なん)ぞ諸(これ)を去らざる、子思曰く、如し伋(きゅう)去らば、君誰と与(とも)に守る、
朱注
以て去らざる所の意此如きを言う、

通し番号 537 章内番号 3 章通し番号 120 識別番号 8_31_3
本文
孟子曰く、曽子、子思道を同じくす、曽子、師なり、父兄なり、子思、臣なり、微なり、曽子、子思地を易えれば則ち皆然り、
朱注
微、猶賎のごときなり、尹氏曰く、或いは害に遠ざかり、或いは難に死す、其事同じからざるは、処(お)る所の地同じからざるなり、君子の心、利害に繫(つな)がらず、惟(ただ)其是のみ、故に地を易えれば則ち皆能く之を爲す、○孔氏曰く、古の聖賢、言行同じからず、事業亦異なる、而るに其道未だ始めより同じからざることあらざるなり、学ぶ者此を知れば、則ち遇(あ)う所に因りて之に応ず、権衡の物を称(はか)る、低昂(こう)屢(しばしば)変る、而るに其同じきを爲すを害さざるが若きなり、


章番号 32 章通し番号 121

通し番号 538 章内番号 1 章通し番号 121 識別番号 8_32_1
本文
儲子(ちょし)曰く、王は人をして夫子(ふうし)を瞯(うかが)わしむ、果たして以て人に異なること有るか、孟子曰く、何を以てか人に異ならんや、堯舜人と同じきのみ、
朱注
瞯、古莧反、○儲子、斉人なり、瞯、竊(ひそか)に視るなり、聖人亦人のみ、豈(あに)人に異なること有らんや、


章番号 33 章通し番号 122

通し番号 539 章内番号 1 章通し番号 122 識別番号 8_33_1
本文
斉人一妻一妾にて室に処(お)る者有り、其良人(おっと)出ずれば、則ち必ず酒肉に饜(あ)きて後反る、其妻与(とも)に飮食する所の者を問えば、則ち尽く富貴なり、其妻其妾に告げて曰く、良人出ずれば、則ち必ず酒肉に饜(あ)きて後反る、其与(とも)に飮食する者を問えば、尽く富貴なり、而るに未だ嘗て顕者来ること有らず、吾将に良人の之く所を瞯(うかが)わんとするなり、蚤(つと)に起き、施(ななめ)に良人の之く所に従う、国中に徧(あまね)くして与(ともに)立談する者無し、卒(つい)に東郭(かく)の墦(はん)間に之き祭る者に之く、其余を乞う、足らざれば、又顧みて他に之く、此其饜(えん)足を爲すの道なり、其妻帰り、其妾に告げて曰く、良人は、仰ぎ望みて身を終える所なり、今此若し、其妾と其良人を訕(そし)りて、中庭に於て相泣く、而るに良人未だ之を知らざるなり、施施として外従(よ)り来り、其妻妾に驕る、
朱注
施、音は迤、又音は易、墦、音は燔、施施、字の如し、○章の首当に孟子曰の字有るべし、闕(けつ)文なり、良人、夫なり、饜(えん)、飽なり、顕者は、富貴の人なり、施、邪(ななめ)に施(もち)いて行く、良人をして知らせざらしむなり、墦、冢(ちょう)なり、顧、望なり、訕、怨詈(えんり)なり、施施、喜悦自得の貌、

通し番号 540 章内番号 2 章通し番号 122 識別番号 8_33_2
本文
君子由り之を観れば、則ち人の以て富貴利達を求める所のものは、其妻妾羞(は)じずして相泣かざるものは、幾希(すくな)し、
朱注
孟子言えらく、君子自(よ)りして今の富貴を求める者を観れば、皆此人の若きのみ、其妻妾をして之を見せしめば、羞じて泣かざる者少し、羞ずべきの甚だしきを言うなり、○趙氏曰く、今の富貴を求める者は、皆枉曲の道以て、昏夜に哀を乞い以て之を求めて、以て白日に人に驕る、斯人と何を以て異なるやと言う、


9 萬章章句上 wàn zhāng zhāng jù shàng

章番号 1 章通し番号 123

通し番号 541 章内番号 1 章通し番号 123 識別番号 9_1_1
本文
万章(ばんしょう)問いて曰く、舜が田に往き、旻天(びんてん)に号泣す、何爲(なんすれ)ぞ其号泣するや、孟子曰く、怨慕なり、
朱注
号、平声、○舜が田に往くは、歴山に耕やす時なり、仁が下を覆(おお)い閔(あわれ)む、之を旻天(びんてん)と謂う、旻天に号泣するは、天を呼びて泣くなり、事は虞書(ぐしょ)の大禹謨(たいうぼ)篇に見ゆ、怨慕は、己の其親を得ざるを怨みて思慕するなり、

通し番号 542 章内番号 2 章通し番号 123 識別番号 9_1_2
本文
万章曰く、父母之を愛すれば、喜びて忘れず、父母之を悪(にく)めば、労(うれ)えて怨みず、然らば則ち舜怨みたるか、曰く、長息は公明高に問いて曰く、舜田に往く、則ち吾既に命を聞くことを得る、旻天に父母に号泣するは、則ち吾知らざるなり、公明高曰く、是れ爾(なんじ)の知る所に非ざるなり、夫(それ)公明高は孝子の心以て、是(かく)の若く恝(かつ)ならずと爲す、我力を竭し田を耕す、子爲(た)るの職を共(つつし)む、父母の我を愛さざる、我に於て何ぞや、
朱注
悪、去声、夫、音は扶、恝、苦八反、共、平声、○長息は、公明高の弟子なり、公明高は、曾子の弟子なり、于父母は、亦書の辞なり、父母を呼びて泣くことを言うなり、恝、愁(うれ)い無きの貌、我に於て何ぞやは、自ら己何の罪有るかを知らざるを責めるのみ、父母を怨むに非ざるなり、楊氏曰く、孟子深く舜の心を知るに非ざれば、此言を爲すこと能わず、蓋し舜惟(ただ)父母に順ならざることを恐る、未だ嘗て自ら以て孝と爲さざるなり、若(もし)自ら以て孝と爲せば、則ち孝に非ず、

通し番号 543 章内番号 3 章通し番号 123 識別番号 9_1_3
本文
帝其子九男二女をして、百官牛羊倉廩(そうりん)を備え、以て舜に畎畝(けんぽ)の中に於て事(つか)えしむ、天下の士、之に就く者多し、帝将に天下を胥(み)て之に遷(うつ)さんとす、父母に順ならざる爲に、窮人の帰する所無きが如し、
朱注
爲、去声、○帝、堯なり、史記云えらく、二女之に妻(めあわ)せ、以て其内を観(み)、九男之に事え、以て其外を観(み)る、又言う、一年にして居る所聚と成り、二年にして邑(ゆう)と成り、三年にして都と成る、是れ天下の士之に就くなり、胥、相視るなり、遷之、移し以て之に与えるなり、窮人の帰する所無きが如しは、其怨慕迫切の甚しきを言うなり、

通し番号 544 章内番号 4 章通し番号 123 識別番号 9_1_4
本文
天下の士之に悦(したが)うは、人の欲する所なり、而るに以て憂いを解くに足らず、好色は、人の欲する所なり、帝の二女を妻として、以て憂いを解くに足らず、富は、人の欲する所なり、富は天下を有つ、而るに以て憂いを解くに足らず、貴は、人の欲する所なり、貴は天子と爲る、而るに以て憂いを解くに足らず、人之に悦(したがう)、好色富貴、以て憂いを解くに足るもの無し、惟(ただ)父母に順なれば、以て憂いを解くべし、
朱注
孟子舜の心を推すこと此如し、以て上文の意を解す、天下の欲を極め、以て憂いを解くに足らず、而して惟父母に順なれば、以て憂いを解くべし、孟子真に舜の心を知るかな、

通し番号 545 章内番号 5 章通し番号 123 識別番号 9_1_5
本文
人少(おさな)ければ、則ち父母を慕(おも)う、色を好むを知れば、則ち少艾(しょうがい)を慕(おも)う、妻子有れば、則ち妻子を慕(おも)う、仕えれば則ち君を慕(おも)う、君に得られざれば則ち熱中す、大孝は終身父母を慕(おも)う、五十にして慕(おも)う者、予は大舜に於て之を見る、
朱注
少、好、皆去声、○言えらく、常人の情、物に因り遷(うつ)ること有り、惟聖人能く其本心を失わざると爲すなり、艾(がい)、美好なり、楚の辞なり、戦国策謂う所の幼艾は、義此と同じ、得ざるは、失意なり、熱中は、躁急し心が熱するなり、五十を言うは、舜摂政の時年五十なり、五十にして慕(おも)えば、則ち其終身慕うこと知るべし、○此章言えらく、舜は衆人の欲する所を得るを以て己の楽しみと爲さず、而して親の心に順ならざるを以て己の憂いと爲す、聖人の性を尽すに非ざれば、其孰か之を能くす、


章番号 2 章通し番号 124

通し番号 546 章内番号 1 章通し番号 124 識別番号 9_2_1
本文
万章問いて曰く、詩云う、妻を娶(めと)るは之を如何(いかん)、必ず父母に告ぐ、信(まこと)に斯言ならば、宜しく舜の如く莫かるべし、舜の告げずして娶るは、何ぞや、孟子曰く、告げれば則ち娶ることを得ず、男女室に居る、人の大倫なり、如し告げれば、則ち人の大倫を廃し、以て父母を懟(うら)む、是を以て告げざるなり、
朱注
懟、直類反、○詩、斉の国風、南山の篇なり、信、誠なり、誠に此詩の言の如くなればなり、懟(つい)、讎怨(きゅうえん)なり、舜の父は頑(がん)、母は嚚(ぎん)、常に舜を害さんと欲す、告ぐれば則ち其娶ることを聴(ゆる)さず、是れ人の大倫を廃し、以て父母に讎怨(きゅうえん)されるなり、

通し番号 547 章内番号 2 章通し番号 124 識別番号 9_2_2
本文
万章曰く、舜の告げずして娶るは、則ち吾既に命を聞くことを得る、帝の舜に妻(めあわ)せて告げざるは、何ぞや、曰く、帝亦告ぐれば則ち妻(めあわ)すことを得ざるを知るなり、
朱注
妻、去声、○女以て人の妻と爲すを妻と曰う、程子曰く、堯が舜に妻(めあわ)せて告げざるは、君以て之を治めるのみ、今の官府が民の私を治めるもの亦多きが如し、

通し番号 548 章内番号 3 章通し番号 124 識別番号 9_2_3
本文
万章曰く、父母舜をして廩(くら)を完(おさ)めしむ、階(はしご)を捐(さ)り、瞽瞍(こそう)廩を焚(や)く、井を浚(さら)えしむ、出ず、従いて之を揜(おお)う、象(しょう)曰く、都君を蓋(おお)うことを謨(はか)るは咸(みな)我が績(いさお)なり、牛羊は父母、倉廩は父母、干戈(かんか)は朕(われ)、琴は朕、弤(てい)は朕、二嫂(そう)朕が棲(せい)を治めしむ、象は往きて舜の宮に入る、舜牀(ゆか)に在りて琴ひく、象曰く、鬱陶(うっとう)として君を思うのみ、忸怩(じくじ)たり、舜曰く、惟(これ)茲(この)臣庶(しんしょ)、汝其れ予(われ)が于(ため)に治めよ、識らず、舜は象の将に己を殺さんとするを知らざるか、曰く、奚(なん)ぞ知らざらん、象憂えば亦憂う、象喜べば亦喜ぶ、
朱注
弤、都礼反、忸、女六反、怩、音は尼、与、平声、○完、治なり、捐、去なり、階、梯なり、揜、蓋なり、史記を按ずるに曰く、舜をして上(あが)らせ廩(くら)を塗(ぬ)らしむ、瞽瞍下従(よ)り火を縱(はな)ち廩(くら)を焚(や)く、舜乃ち両(ふたつ)の笠以て自ら捍(まも)りて下り去り、死なざるを得る、後に又舜をして井を穿(うが)たしむ、舜は井を穿ち匿空(とくくう)を爲(つく)り旁(かたわら)より出す、舜既に入ること深し、瞽瞍は象と共に土を下し井を実(み)たす、舜は匿空の中従(よ)り出でて去る、即ち其事なり、象は、舜の異母弟なり、謨(ぼ)、謀なり、蓋、井を蓋(おお)うなり、舜居る所三年にして都を成す、故に之を都君と謂う、咸、皆なり、績、功なり、舜既に井に入る、象は舜已(すで)に出ずを知らず、舜を殺すを以て己の功と爲さんことを欲するなり、干、盾(たて)なり、戈(か)、戟(ほこ)なり、琴、舜弾(ひ)く所の五弦の琴なり、弤(てい)、琱(ちょう)弓なり、象は舜の牛羊倉廩以て父母に与えて、自ら此物を取らんと欲するなり、二嫂、堯の二女なり、棲、牀(しょう)なり、象己の妻と爲さしめんと欲するなり、象は舜の宮に往く、有る所を分け取らんと欲す、舜生きて床に在りて琴を弾(ひ)くを見る、蓋し既に出でて、即ち潜(ひそ)かに其宮に帰るなり、鬱陶は、思いの甚だしくして気伸びることを得ざるなり、象言えらく、己君を思うこと之甚だし、故に来たり見(あ)うのみ、忸怩(じくじ)は、慙(は)ずる色なり、臣庶は、其百官を謂うなり、象素(もと)より舜を憎み、其宮に至らず、故に舜其来るを見て喜ぶ、之をして其臣庶を治めしむるなり、孟子言えらく、舜は其将に己を殺さんとするを知らざるに非ず、但(ただ)其憂うを見れば則ち憂い、其喜ぶを見れば則ち喜ぶ、兄弟の情なり、自ら已むこと能わざる所有るのみ、万章言う所は、其有無知るべからず、然れども舜の心、則ち孟子以て之を知ること有り、他亦弁ずるに足らざるなり、程子曰く、象憂えば亦憂い、象喜べば亦喜ぶ、人情の天理なり、是に於て至れりと爲す、

通し番号 549 章内番号 4 章通し番号 124 識別番号 9_2_4
本文
曰く、然らば則ち舜僞(いつわ)りて喜ぶ者か、曰く、否、昔者(むかし)生魚を鄭の子産に饋(おく)ること有り、子産校人をして之を池に畜(やしな)わしむ、校人之を烹る、反命して曰く、始め之を舍(はな)てば圉圉焉(ぎょぎょえん)たり、少(しばらく)すれば則ち洋洋焉(ようようえん)たり、攸然(ゆうぜん)として逝(ゆ)く、子産曰く、其所を得たるかな、其所を得たるかな、校人出でて曰く、孰(たれ)か子産を智と謂う、予既に烹て之を食べる、曰く、其所を得たるかな、其所を得たるかな、故に君子は欺むくに其方を以てするは可なり、罔(くら)ますに其道に非ざるを以てし難し、彼は兄を愛するの道以て来る、故に誠に信じて之を喜ぶ、奚ぞ僞(いつわ)らん、
朱注
與、平声、校、音は效、又音は教、畜、許六反、○校人、池沼を主(つかさど)る小吏なり、圉圉は、困(くる)しみて未だ紓(やわら)がざるの貌、洋洋は、則ち稍(だんだん)縦(ほしいまま)にする、攸然にして逝くは、自得して遠く去るなり、方、亦道なり、罔(もう)、蒙蔽(もうへい)なり、欺むくに其方を以てするは、之を誑(あざむ)くに理の有る所を以てするを謂う、罔(くら)ますに其道に非ざるを以てするは、之を昧(くら)ますに理の無き所を以てするを謂う、象が兄を愛するの道以て来るは、謂う所の之を欺くに其方を以てするなり、舜は本(もと)より其僞を知らず、故に実に之を喜ぶ、何ぞ僞(いつわ)ること之有らん、○此章又言えらく、舜は人倫の変に遭(あ)う、而るに天理の常を失わざるなり、


章番号 3 章通し番号 125

通し番号 550 章内番号 1 章通し番号 125 識別番号 9_3_1
本文
万章問いて曰く、象は日に舜を殺すを以て事と爲す、立ちて天子と爲れば、則ち之を放つ、何ぞや、孟子曰く、之を封(ほう)ずるなり、或るひと放つと曰う、
朱注
放、猶置のごときなり、之を此に置き、去るを得ざらしむなり、万章は舜何ぞ之を誅さざると疑う、孟子言えらく、舜実は之を封(ほう)ず、而るに或者誤りて以て放(お)くと爲すなり、

通し番号 551 章内番号 2 章通し番号 125 識別番号 9_3_2
本文
万章曰く、舜共工を幽州に流し、驩兜(かんとう)を崇山(すうざん)に放ち、三苗を三危に殺し、鯀(こん)を羽山に殛(きょく)す、四罪(しざい)して天下咸(みな)服す、不仁を誅(ばっ)するなり、象至りて不仁なり、之を有庳に封ず、有庳の人奚(なん)の罪かある、仁人固より是の如きか、他人に在れば則ち之を誅(ばっ)す、弟に在れば則ち之を封ず、曰く、仁人の弟に於るや、怒りを蔵(たくわ)えず、怨みを宿さず、之を親愛するのみ、之に親しめば其貴を欲するなり、之を愛せば其富を欲するなり、之を有庳に封ずるは、之を富貴にするなり、身天子と爲り、弟匹夫(ひっぷ)爲(た)れば、之を親愛すると謂うべきか、
朱注
庳、音は鼻、○流、徙(し)なり、共工、官名なり、驩兜(かんとう)、人名なり、二人比周して、相与(とも)に党を爲す、三苗、国名なり、負固し服さず、殺、其君を殺すなり、殛、誅なり、鯀(こん)、禹の父の名なり、命に方(さか)らい族を圮(そこな)う、水を治め功無し、皆不仁の人なり、幽州、崇山、三危、羽山、有庳(ゆうひ)、皆地名なり、或るひと曰く、今の道州鼻亭は、即ち有庳の地なり、未だ是否を知らず、万章疑う、舜当に象を封ずべからず、彼(かの)有庳の民をして、罪無くして象の虐に遭わしめるは、仁人の心に非ざるなり、怒を蔵すは、其怒を蔵匿するを謂う、怨みを宿すは、其怨みを留蓄するを謂う、

通し番号 552 章内番号 3 章通し番号 125 識別番号 9_3_3
本文
敢えて問う、或るひと放つと曰うは、何の謂(いい)ぞや、曰く、象其国に於て爲すこと有るを得ず、天子吏をして其国を治め、其貢税を納(い)れしむ、故に之を放つと謂う、豈彼(かの)民を暴(そこな)うことを得んや、然りと雖も、常常にして之に見(あ)わんと欲す、故に源源として来り、貢に及ばず、政を以て有庳に接す、此を之謂うなり、
朱注
孟子言えらく、象封じて有庳の君と爲ると雖も、然れども其国を治めることを得ず、天子吏をして之に代り治め、其収(あつめ)る所の貢稅を象に納(おさ)めしむ、放に似ること有り、故に或る者以て放と爲すなり、蓋し象至りて不仁なり、之を処すること此如ければ、則ち既に吾親愛の心を失わずして、彼亦有庳の民を虐することを得ざるなり、源源、水の相継ぐが若きなり、来は、来り朝覲(ちょうきん)するを謂うなり、貢に及ばずは、政を以て有庳に接すは、諸侯朝貢の期に及ぶを待たずして、政事以て有庳の君に接見するを謂う、蓋し古書の辞、而して孟子引きて以て源源として来るの意を証(あか)す、其親愛の已むこと無きこと此如きを見るなり、○呉氏曰く、言えらく、聖人公義以て私恩を廃せず、亦私恩以て公義を害せず、舜の象に於る、仁の至り、義の尽くせるなり、


章番号 4 章通し番号 126

通し番号 553 章内番号 1 章通し番号 126 識別番号 9_4_1
本文
咸丘蒙(かんきゅうもう)問いて曰く、語に云う、盛徳の士、君得て臣とせず、父得て子とせず、舜南面して立つ、堯諸侯を帥(ひき)い、北面して之に朝す、瞽瞍(こそう)亦北面して之に朝す、舜瞽瞍を見る、其容蹙(しゅく)有り、孔子曰く、斯時に於てや、天下殆(あやう)いかな、岌岌乎(きゅうきゅうこ)たり、識(し)らず、此語誠に然るか、孟子曰く、否、此は君子の言に非ず、斉の東の野人の語なり、堯老いて舜摂するなり、堯典に曰く、二十有八載、放勲(ほうくん)乃ち徂落(そらく)す、百姓は考妣(こうひ)を喪するが如し、三年四海は八音を遏密(あつみつ)す、孔子曰く、天に二日(じつ)無く、民に二王無し、舜既に天子と爲り、又天下の諸侯を帥い、以て堯の三年の喪を爲せば、是れ二天子なり、
朱注
朝、音は潮、岌、魚及反、○咸丘蒙、孟子の弟子なり、語は、古語なり、蹙(しゅく)は、顰蹙(ひんしゅく)し自ら安からざるなり、岌岌(きゅうきゅう)は、安からざる貌なり、言えらく、人倫乖乱(かいらん)し、天下将に危うからんとするなり、斉東は、斉国の東の鄙(ひ)なり、孟子言えらく、堯但(ただ)老い事を治めず、而して舜天子の事を摂するのみ、堯在る時、舜未だ嘗て天子の位に即(つ)かず、堯何に由り北面して朝するか、又書及び孔子の言を引き以て之を明かにす、堯典は、虞書の篇名なり、今此文乃ち舜典に見ゆ、蓋し古書は二篇、或いは合わせ一と爲すのみ、言えらく、舜が位を摂すること二十八年にして堯死すなり、徂(そ)、升なり、落、降なり、人死すれば則ち魂(こん)は升(のぼ)りて魄(ばく)は降(くだ)る、故に古は死を謂いて徂落と爲す、遏、止なり、密、静なり、八音は、金、石、絲、竹、匏(ほう)、土、革、木なり、楽器の音なり、

通し番号 554 章内番号 2 章通し番号 126 識別番号 9_4_2
本文
咸丘蒙曰く、舜の堯を臣とせずは、則ち吾既に命を聞くことを得る、詩に云う、普天の下、王土に非ざる莫し、率土の浜、王の臣に非ざる莫し、而して舜既に天子と爲る、敢えて問う、瞽瞍の臣に非ざるは、如何(いかん)、曰く、是詩や、是の謂(いい)に非ざるなり、王の事に労して、父母を養うことを得ざるなり、曰く、此(これ)王の事に非ざるは莫し、我独り賢として労するなり、故に詩を説くは、文以て辞を害さず、辞以て志を害さず、意以て志を逆(むか)う、是れ之を得ると爲す、如(も)し辞のみを以てすれば、雲漢の詩に曰く、周の余(のち)の黎民(れいみん)、孑(けつ)遺(い)有ること靡(な)し、斯言を信ずれば、是れ周に遺民無きなり、
朱注
堯を臣とせずは、堯以て臣と爲し、北面して朝せしめざるなり、詩は、小雅北山の篇なり、普、徧なり、率、循なり、此詩今の毛氏序に云う、役使均(ひとし)からず、己王事に労して、其父母を養うことを得ず、其詩の下文亦云う、大夫均しからず、我事に従い独り賢、乃ち詩を作る者自ら言えらく、天下皆王の臣なり、何爲(なんすれ)ぞ独り我をして賢才以てして労苦せしめるか、天子其父を臣とすべきを謂うに非ざるなり、文、字なり、辞、語なり、逆、迎なり、雲漢、大雅の篇名なり、孑(けつ)、独り立つの貌、遺、脱なり、言えらく、詩を説くの法は、一字以て一句の義を害すべからず、一句以て辞を設くるの志を害すべからず、当に己の意以て作者の志を迎え取れば、乃ち之を得るべし、若(もし)但(ただ)其辞のみを以てすれば、則ち雲漢言う所の如きは、是れ周の民真に遺種無し、惟意以て之を逆(むか)えば、則ち詩を作る者の志を知る、憂旱に在りて、真に遺民無きに非ざるなり、

通し番号 555 章内番号 3 章通し番号 126 識別番号 9_4_3
本文
孝子の至りは、親を尊(たっと)ぶより大なるは莫し、親を尊ぶの至りは、天下以て養うより大なるは莫し、天子の父と爲るは、尊ぶの至りなり、天下以て養うは、養うの至りなり、詩に曰く、永く言(ここ)に孝を思う、孝を思えば維(これ)則とす、此を之謂うなり、
朱注
養、去声、○言えらく瞽瞍既に天子の父と爲れば、則ち当に天下の養を享(う)くべし、此が舜の親を尊び親を養うの至ると爲す所以なり、豈之をして北面して朝せしめるの理有らんや、詩、大雅下武の篇、言えらく、人能く長く言(ここ)に孝を思いて忘れざれば、則ち以て天下の法則と爲るべきなり、

通し番号 556 章内番号 4 章通し番号 126 識別番号 9_4_4
本文
書に曰く、載(こと)を祗(つつし)み瞽瞍(こそう)を見る、夔夔(きき)斉栗(せいりつ)、瞽瞍亦允(しん)じ若(したが)う、是れ父得て子とせずと爲すなり、
朱注
見、音は現、斉、側皆反、○書、大禹謨(たいうぼ)篇なり、祗(し)、敬なり、載(さい)、事なり、夔夔(きき)斉栗(せいりつ)、敬謹恐懼の貌なり、允、信なり、若、順なり、言えらく、舜は瞽瞍に敬(つつし)み事(つか)う、往きて之を見る、敬謹すること此如し、瞽瞍亦信じて之に順うなり、孟子此を引きて言えらく、瞽瞍不善以て其子に及ぼすこと能わずして、反(かえ)って其子に化せられるを見る、則ち是れ謂う所の父得て子とせざるものにして、咸丘蒙の説の如きに非ざるなり、


章番号 5 章通し番号 127

通し番号 557 章内番号 1 章通し番号 127 識別番号 9_5_1
本文
万章曰く、堯は天下以て舜に与う、諸有りや、孟子曰く、否、天子は天下以て人に与えること能わず、
朱注
天下は、天下の天下なり、一人の私有に非ざる故なり、

通し番号 558 章内番号 2 章通し番号 127 識別番号 9_5_2
本文
然らば則ち舜天下を有つや、孰か之を与う、曰く、天之を与う、
朱注
万章問いて孟子答えるなり、

通し番号 559 章内番号 3 章通し番号 127 識別番号 9_5_3
本文
天之を与えるは、諄諄然(じゅんじゅんぜん)として之を命(つ)げるか、
朱注
諄、之淳反、○万章問うなり、諄諄(じゅんじゅん)、詳しく語るの貌なり、

通し番号 560 章内番号 4 章通し番号 127 識別番号 9_5_4
本文
曰く、否、天言わず、行と事を以て之に示すのみ、
朱注
行、去声、下同じ、○之を身に行う、之を行と謂う、諸(これ)を天下に措(お)く、之を事と謂う、言えらく、但(ただ)舜の行事に因りて、示すに之に与えるの意を以てするのみ、

通し番号 561 章内番号 5 章通し番号 127 識別番号 9_5_5
本文
曰く、行と事を以て之を示すは之を如何(いかん)、曰く、天子能く人を天に薦(すす)む、天をして之に天下を与えしむること能わず、諸侯能く人を天子に薦(すす)む、天子をして之に諸侯を与えしむること能わず、大夫能く人を諸侯に薦(すす)む、諸侯をして之に大夫を与えしむること能わず、昔者(むかし)堯舜を天に薦む、而して天之を受く、之を民に暴(あらわ)して、民之を受く、故に曰く、天言わず、行と事を以て之に示すのみ、
朱注
暴、歩卜反、下同じ、○暴、顕なり、言えらく、下能く人を上に薦む、上をして必ず之を用いしむること能わず、舜は天、人受くる所と爲る、是れ舜の行と事に因りて、之に示すに之に与えるの意を以てするなり、

通し番号 562 章内番号 6 章通し番号 127 識別番号 9_5_6
本文
曰く、敢えて問う、之を天に薦めて天之を受く、之を民に暴(あら)わして民之を受くは、如何、曰く、之をして祭を主(つかさど)らしめて百神之を享(う)く、是れ天之を受く、之をして事を主(つかさど)らしめて事治まり、百姓之に安んず、是れ民之を受くるなり、天之に与え、人之に与う、故に曰く、天子は天下以て人に与えること能わず、
朱注
治、去声、

通し番号 563 章内番号 7 章通し番号 127 識別番号 9_5_7
本文
舜堯に相たること二十有八載、人の能く爲す所に非ざるなり、天なり、堯崩ず、三年の喪畢(おわ)る、舜は堯の子を南河の南に避く、天下の諸侯朝覲(きん)する者、堯の子に之かずして舜に之く、訟獄(しょうごく)する者、堯の子に之かずして舜に之く、謳歌(おうか)する者、堯の子を謳歌せずして舜を謳歌す、故に曰く、天なり、夫(それ)然る後に中国に之き、天子の位を践(ふ)む、而(しか)るに堯の宮に居り、堯の子に逼(せま)らば、是れ簒(うば)うなり、天が与えるに非ざるなり、
朱注
相、去声、朝、音は潮、夫、音は扶、○南河は冀州(きしゅう)の南に在り、其南即ち予州(よしゅう)なり、訟獄は、獄決さずして之を訟するを謂うなり、

通し番号 564 章内番号 8 章通し番号 127 識別番号 9_5_8
本文
太誓(たいせい)に曰く、天の視は我が民の視に自(したが)う、天の聴は我が民の聴に自(したが)う、此の謂(いい)なり、
朱注
自、従なり、天は形無し、其視聴は皆民の視聴に従う、民の舜に帰すること此如し、則ち天之に与えること知るべし、


章番号 6 章通し番号 128

通し番号 565 章内番号 1 章通し番号 128 識別番号 9_6_1
本文
万章問いて曰く、人言有り、禹に至りて徳衰う、賢に伝えずして子に伝う、諸有りや、孟子曰く、否、然らざるなり、天、賢に与えれば、則ち賢に与う、天、子に与えれば、則ち子に与う、昔者(むかし)舜が禹を天に薦むること、十有七年、舜崩ず、三年の喪畢(おわ)る、禹は舜の子を陽城に避く、天下の民之に従う、堯崩ずるの後、堯の子に従わずして舜に従うが若きなり、禹が益を天に薦(すす)むこと、七年、禹崩ず、三年の喪畢(おわ)る、益、禹の子を箕山(きざん)の陰に避く、朝覲(ちょうきん)訟獄(しょうごく)する者、益に之かずして啓に之く、曰く、吾君の子なり、謳歌する者、益を謳歌せずして啓を謳歌す、曰く、吾君の子なり、
朱注
朝、音は潮、○陽城、箕山(きざん)の陰は、皆嵩山(すうざん)の下、深き谷の中、蔵(かく)れるべき処なり、啓、禹の子なり、楊氏曰く、此語孟子必ず受くる所有り、然れども考うべからず、但(ただ)云う、天、賢に与えれば、則ち賢に与え、天、子に与えれば則ち子に与う、以て堯、舜、禹の心、皆一毫(ごう)の私意無きを見るべし、

通し番号 566 章内番号 2 章通し番号 128 識別番号 9_6_2
本文
丹朱之(は)不肖なり、舜の子亦不肖なり、舜の堯に相たる、禹の舜に相たるや、年を歴(へ)ること多し、沢を民に施すこと久し、啓は賢にして能く敬(つつし)み、禹の道を承継す、益の禹に相たるや、年を歴ること少し、沢を民に施すこと未だ久しからず、舜、禹、益、相去ること久遠なり、其子の賢不肖、皆天なり、人の能く爲す所に非ざるなり、之を爲すこと莫くして爲るものは、天なり、之を致すこと莫くして至るものは、命なり、
朱注
之相の相、去声、相去の相、字の如し、○堯舜の子皆不肖なり、而して舜禹の相爲(た)ること久し、此が堯舜の子天下を有(たも)たずして、舜禹天下を有つ所以なり、禹の子賢なり、而して益相たること久しからず、此が啓天下を有ちて、益天下を有たざる所以なり、然らば此皆人力の爲す所に非ずして自ずから爲り、人力の致す所に非ずして自ずから至るものなり、蓋し理以て之を言えば之を天と謂う、人自(よ)り之を言えば之を命と謂う、其実は則ち一のみ、

通し番号 567 章内番号 3 章通し番号 128 識別番号 9_6_3
本文
匹夫にして天下を有(たも)つ者は、徳必ず舜禹の若くして、又天子之を薦(すす)めること有り、故に仲尼天下を有(たも)たず、
朱注
孟子禹、益の事に因り、此下両条を歴挙(れききょ)し以て之を推し明らかにす、言えらく、仲尼の徳、舜禹に愧(は)ずること無しと雖も、天子之を薦めること無し、故に天下を有たず、

通し番号 568 章内番号 4 章通し番号 128 識別番号 9_6_4
本文
世を継(つ)ぎて天下を有つ、天の廃する所は、必ず桀紂の若き者なり、故に益、伊尹、周公天下を有たず、
朱注
世を継(つ)ぎて天下を有つは、其先世皆民に大きな功徳(くどく)有り、故に必ず大悪桀紂の如き有れば、則ち天乃(そこ)で之を廃す、啓及び太甲、成王の如きは、益、伊尹、周公の賢聖に及ばずと雖も、但(ただ)能く先業を嗣(つ)ぎ守れば、則ち天亦之を廃せず、故に益、伊尹、周公は、舜、禹の徳有ると雖も、亦天下を有(たも)たず、

通し番号 569 章内番号 5 章通し番号 128 識別番号 9_6_5
本文
伊尹は湯に相(しょう)として、以て天下に王とす、湯崩ず、太丁(たいてい)未だ立たず、外丙(がいへい)二年、仲壬(ちゅうじん)四年、太甲は湯の典刑を顚覆(てんぷく)す、伊尹之を桐に放つこと三年なり、太甲過を悔い、自ら怨み自ら艾(おさ)め、桐に於て仁に処(お)り義に遷(うつ)ること、三年、以て伊尹の己に訓(おし)えるを聴くなり、亳(はく)に復帰す、
朱注
相、王、皆去声、艾、音は乂、○此は上文を承け、伊尹天下を有たざるの事を言う、趙氏曰く、太丁は、湯の太子、未だ立たずして死す、外丙(がいへい)は立つこと二年、仲壬(ちゅうじん)は立つこと四年、皆太丁の弟なり、太甲は、太丁の子なり、程子曰く、古人は歳を謂いて年と爲す、湯崩ずる時、外丙二歳に方(あた)り、仲壬四歳に方(あた)る、惟太甲差(やや)長ず、故に之を立てるなり、二説未だ孰れが是なるかを知らず、顚覆、壊乱なり、典刑、常法なり、桐、湯の墓が在る所なり、艾(がい)、治なり、說文云えらく、草を芟(か)るなり、蓋し斬り絶ち自ずから新しの意、亳(はく)、商の都する所なり、

通し番号 570 章内番号 6 章通し番号 128 識別番号 9_6_6
本文
周公の天下を有さざるは、猶益の夏に於る、伊尹の殷に於るがごときなり、
朱注
此復(また)周公天下を有さざる所以の意を言う、

通し番号 571 章内番号 7 章通し番号 128 識別番号 9_6_7
本文
孔子曰く、唐虞(ぐ)禅(ゆず)り、夏后(かこう)殷周継ぐ、其義一なり、
朱注
禅、音は擅(せん)、○禅、授なり、或いは禅(ゆず)り或いは継ぐ、皆天命なり、聖人豈其間に私意有らんや、尹氏曰く、孔子曰く、唐虞禅(ゆず)り、夏后殷周継ぐ、其義一なり、孟子曰く、天が賢に与えれば則ち賢に与う、天が子に与えれば則ち子に与う、前聖の心を知る者は、孔子に如(し)くは無し、孔子を継ぐ者は、孟子のみ、


章番号 7 章通し番号 129

通し番号 572 章内番号 1 章通し番号 129 識別番号 9_7_1
本文
万章問いて曰く、人、言有り、伊尹は割烹(かっぽう)以て湯に要(もと)む、諸(これ)有りや、
朱注
要、平声、下同じ、○要、求なり、史記を按ずるに、伊尹道を行い以て君を致さんことを欲して由ること無し、乃ち有莘氏(ゆうしんし)の媵臣(ようしん)と爲る、鼎俎(ていそ)を負い滋味以て湯を説(よろこば)し、王道を致す、蓋し戦国の時、此説を爲す者有り、

通し番号 573 章内番号 2 章通し番号 129 識別番号 9_7_2
本文
孟子曰く、否、然らず、伊尹、有莘(しん)の野に耕やして、堯舜の道を楽しむ、其義に非ず、其道に非ざれば、之を禄するに天下以てすれども、顧みざるなり、繫馬(けいば)千駟(し)、視ざるなり、其義に非ず、其道に非ざれば、一介以て人に与えず、一介以て諸を人に取らず、
朱注
楽、音は洛、○莘、国の名、堯舜の道を楽しむは、其詩を誦し、其書を読みて、之を欣(きん)慕愛楽するなり、駟、四匹なり、介、草芥の芥と同じ、言えらく、其辞受取与、大無く細無く、一に道義以てして苟(かりそめ)にぜざるなり、

通し番号 574 章内番号 3 章通し番号 129 識別番号 9_7_3
本文
湯人をして幣(へい)以て之を聘(へい)せしむ、囂囂然(ごうごうぜん)として曰く、我何ぞ湯の聘幣以て爲さんや、我豈畎畝(けんぽ)の中に処(お)り、是に由り以て堯舜の道を楽しむことに若(し)かんや、
朱注
囂、五高反、又戸驕反、○囂囂、無欲自得の貌、

通し番号 575 章内番号 4 章通し番号 129 識別番号 9_7_4
本文
湯三たび往(ゆ)きて之を聘(へい)せしむ、既にして幡然(はんぜん)として改めて曰く、我畎畝の中に処(お)り、是に由りて以て堯舜の道を楽しむ与(より)、吾豈是君をして堯舜の君爲(た)らしめるに若かんや、吾豈是民をして堯舜の民爲らしめるに若かんや、吾豈吾身に於て親(みずか)ら之を見るに若かんや、
朱注
幡然、変動の貌、吾身に於て親(みずか)ら之を見るは、我の身に於て親(みずか)ら其道の行われることを見て、徒(ただ)之を誦し説き嚮(きょう)慕するのみならざるを言うなり、

通し番号 576 章内番号 5 章通し番号 129 識別番号 9_7_5
本文
天の此民を生ずるや、先知をして後知を覚(さと)らしめ、先覚をして後覚を覚(さと)らしめるなり、予は天の民の先覚なる者なり、予は将に斯道を以て斯民を覚(さと)さんとするなり、予之を覚すに非ずして誰ぞや、
朱注
此亦伊尹の言なり、知は、其事の当に然る所を識るを謂う、覚は、其理の然る所以を悟るを謂う、後知後覚を覚すは、寐(ねむ)る者を呼びて之をして寤(めざめ)させる如きなり、天、使と言うは、天理の当然、之を使(せし)めるが若きなり、程子曰く、予は天民の先覚は、我乃ち天此民を生ずる中で、民の道を尽(ことごと)く得て先覚する者を謂うなり、既に先覚の民と爲る、豈其未覚者を覚さざるべけんや、彼の覚に及ぶは、亦我有する所を分ち以て之に予(あた)えるに非ざるなり、皆彼自ずから此理有り、我但(ただ)能く之を覚するのみ、

通し番号 577 章内番号 6 章通し番号 129 識別番号 9_7_6
本文
思うに、天下の民、匹夫匹婦堯舜の沢を被(こうむ)らざる者有れば、己推して之を溝中に内(い)るるが若し、其自ら任ずるに天下の重きを以てすること此如し、故に湯に就きて之に説き、以て夏を伐ち民を救う、
朱注
推、吐回反、内、音納、説、音税、○書に曰く、昔先正保衡(ほこう)、我先王に作(おこ)して曰く、予厥(その)后(きみ)をして堯舜爲(た)ら俾(し)めること克(あた)わざれば、其心愧恥(きち)し、市に撻(むちう)たれるが若し、一夫獲(え)られざれば、則ち曰く時(これ)予の辜(つみ)なり、孟子の言、蓋し諸(これ)を此に取る、是時夏桀無道、其民を暴虐す、故に湯をして夏を伐(う)ち以て之を救わしめんと欲す、徐氏曰く、伊尹堯舜の道を楽しむ、堯舜は揖遜(ゆうそん)す、而(しか)るに伊尹湯に説くに夏を伐つを以てするは、時の同じからざるなり、義は則ち一なり、

通し番号 578 章内番号 7 章通し番号 129 識別番号 9_7_7
本文
吾未だ己を枉(ま)げて人を正す者を聞かざるなり、況んや己を辱(はずか)しめて以て天下を正す者をや、聖人の行同じからざるなり、或いは遠ざかり或いは近づく、或いは去り或いは去らず、其身を潔(きよ)くするに帰するのみ、
朱注
行、去声、○己を辱(はずか)しめるは己を枉(ま)げる於(より)甚だし、天下を正すは人を正す於(より)難し、若(もし)伊尹割烹以て湯に要(もと)めば、己を辱めること甚だし、何を以て天下を正すか、遠、隠遁を謂うなり、近、仕えて君に近づくを謂うなり、言えらく、聖人の行、必ずしも同じからずと雖も、然れども其要帰は、其身を潔くするに在るのみ、伊尹豈割烹以て湯に要(もと)めることを肯(がえん)ぜんや、

通し番号 579 章内番号 8 章通し番号 129 識別番号 9_7_8
本文
吾其堯舜の道以て湯に要(もと)めるを聞く、未だ割烹以てするを聞かざるなり、
朱注
林氏曰く、堯舜の道以て湯に要(もと)めるは、実は是を以て之に要(もと)めるに非ざるなり、道此に在り、而して湯の聘自ずから来るのみ、猶子貢が夫子(ふうし)の之を求めるは、人の之を求めるに異なると言うがごときなり、愚謂えらく、此語亦猶前章論ずる所の父得て之を子とせずの意のごとし、

通し番号 580 章内番号 9 章通し番号 129 識別番号 9_7_9
本文
伊訓に曰く、天誅造(はじ)めて攻めるは牧宮自(よ)りす、朕は亳(はく)自(よ)り載(はじ)む
朱注
伊訓、商書の篇名なり、孟子引きて以て夏を伐ち民を救うの事を証(あか)すなり、今の書は牧宮を鳴条に作る、造、載、皆始なり、伊尹言えらく、始めて桀の無道を攻めるは、我其事を亳(はく)に於て始めることに由るなり、


章番号 8 章通し番号 130

通し番号 581 章内番号 1 章通し番号 130 識別番号 9_8_1
本文
万章問いて曰く、或るひと謂う、孔子衛に於て癰疽(ようそ)を主とし、齊に於ては侍人(じじん)瘠環(せきかん)を主とす、諸(これ)有るか、孟子曰く、否、然らざるなり、事を好む者之を爲すなり、
朱注
癰、於容反、疽、七余反、好、去声、○主は、其家に舍し、之を以て主人と爲すを謂うなり、癰疽、瘍医(ようい)なり、侍人(じじん)は、奄人(えんじん)なり、瘠(せき)は、姓、環は、名なり、皆時君近づけ狎(な)れる所の人なり、事を好むは、言を造り事を生ずるを喜ぶの人を謂うなり、

通し番号 582 章内番号 2 章通し番号 130 識別番号 9_8_2
本文
衛に於て顔讎由(がんしゅうゆう)を主とす、彌子(びし)の妻は、子路の妻と、兄弟なり、彌子子路に謂いて曰く、孔子我を主とすれば、衛の卿得べきなり、子路以て告ぐ、孔子曰く、命有り、孔子進むに礼を以てす、退くに義を以てす、之を得る得ざるは、命有りと曰う、而るに癰疽(ようそ)と侍人瘠環(せきかん)を主とせば、是れ義無く命無きなり、
朱注
讎、字の如し、又音は犨、○顔讎由(がんしゅうゆう)は、衛の賢大夫なり、史記顔濁鄒(すう)に作る、彌子(びし)は、衛の霊公の幸臣彌子瑕(か)なり、徐氏曰く、礼は辞遜を主とす、故に進むに礼を以てす、義は制断を主とす、故に退くに義を以てす、進み難くて退き易きものなり、我に在るものは礼義有るのみ、之を得る得ざるは則ち命存すること有り、

通し番号 583 章内番号 3 章通し番号 130 識別番号 9_8_3
本文
孔子魯衛に於て悦(よろこ)ばれず、宋の桓司馬将に要(ま)ちて之を殺さんとするに遭う、微服して宋を過ぐ、是時孔子阨(やく)に当る、司城貞子、陳侯周の臣爲(た)るを主とす、
朱注
要、平声、○不悦は、其国に居ることを楽しまざるなり、桓司馬、宋の大夫向魋(しょうたい)なり、司城貞子、亦宋の大夫の賢者なり、陳侯、名は周、史記を按ずるに、孔子魯の司寇(しこう)と爲る、斉人女楽を饋(おく)り以て之を間(はな)す、孔子遂に行(さ)る、衛に適(ゆ)き月余、衛を去り宋に適(ゆ)く、司馬魋(たい)孔子を殺さんと欲す、孔子去りて陳に至る、司城貞子を主とす、孟子言えらく、孔子阨難に当ると雖も、然れども猶主とする所を択ぶ、況んや斉衛事無きの時に在りてをや、豈癰疽(ようそ)侍人(じじん)を主とするの事有らんや、

通し番号 584 章内番号 4 章通し番号 130 識別番号 9_8_4
本文
吾聞く、近臣を観るは、其主と爲る所を以てし、遠臣を観るは、其主とする所を以てす、若(もし)孔子癰疽(ようそ)と侍人(じじん)瘠環(せきかん)を主とせば、何を以て孔子と爲さん、
朱注
近臣は、朝に在るの臣なり、遠臣は、遠方より来り仕える者なり、君子小人は、各(おのおの)其類に従う、故に其主と爲る所と、其主とする所の者を観る、而して其人知るべし、


章番号 9 章通し番号 131

通し番号 585 章内番号 1 章通し番号 131 識別番号 9_9_1
本文
万章問いて曰く、或るひと曰く、百里奚(ひゃくりけい)自ら秦の牲を養う者に於て、五羊の皮に鬻(ひさ)ぎ、牛を食(やしな)い、以て秦の穆公に要(もと)む、信か、孟子曰く、否、然らず、事を好む者之を爲すなり、
朱注
食、音嗣、好、去声、下同じ、○百里奚(ひゃくりけい)は、虞(ぐ)の賢臣なり、人言えらく、其自ら秦の牲を養う者の家に売り、五羊の皮を得て、之が爲に牛を食(やしな)い、因りて以て秦の穆公に干(もと)めるなり、

通し番号 586 章内番号 2 章通し番号 131 識別番号 9_9_2
本文
百里奚は、虞の人なり、晉人垂棘(すいきょく)の璧(へき)、屈産の乗を以て、道を虞(ぐ)に仮(か)り以て虢(はく)を伐つ、宮之奇(きゅうしき)は諫(いさ)め、百里奚は諫めず、
朱注
屈、求勿反、乗、去声、○虞(ぐ)、虢(はく)、皆国の名なり、垂棘の璧は、垂棘の地出す所の璧なり、屈産の乗は、屈の地生ずる所の良馬なり、乗、四匹なり、晋は虢(はく)を伐つことを欲す、道は虞を経る、故に此物以て道を借る、其実虞を幷(あわ)せ取らんと欲す、宮之奇(きゅうしき)、亦虞の賢臣なり、虞公を諫め許すこと勿から令(し)む、虞公用いず、遂に晋の滅ぼす所と爲る、百里奚は其諫むべからざるを知る、故に諫めずして去り秦に之(ゆ)く、

通し番号 587 章内番号 3 章通し番号 131 識別番号 9_9_3
本文
虞公の諫むべからざるを知りて、去りて秦に之く、年已に七十なり、曽(かつ)て以て牛を食(やしな)い秦の穆公に干(もと)めるの汙と爲すを知らざれば、智と謂うべきか、諫むべからずして諫めず、不智と謂うべきか、虞公の将に亡びんとするを知りて、先に之を去る、不智と謂うべからざるなり、時に秦に挙げられ、穆公(ぼくこう)の与(とも)に行うこと有るべきを知りて之に相(しょう)たり、不智と謂うべきか、秦に相(しょう)として其君を天下に顕(あらわ)し、後世に伝うべし、不賢にして之を能くするか、自ら鬻(う)り以て其君を成すは、郷党の自ら好くする者爲さず、而るに賢者之を爲すと謂うか、
朱注
相、去声、○自好、自ら其身を愛するの人なり、孟子言えらく、百里奚の智此如し、必ず牛を食(やしな)い以て主に干(もと)めるの汙と爲すを知る、其賢又此如し、必ず自らを鬻(う)り以て其君を成すを肯(がえん)ぜざるなり、然れども此事孟子の時に当り、已に拠(よ)る所無し、孟子直(ただ)事理以て反覆し之を推し、其必ず然らざるを知るのみ、范氏曰く、古の聖賢未だ遇わざるの時、鄙賤の事、之を爲すを恥じず、百里奚人の爲に牛を養うが如きは、怪しむに足ること無きなり、惟(ただ)是れ人君敬を致し礼を尽さざれば、則ち得て見(あ)うべからず、豈先に自ら汙辱して以て其君に要(もと)めること有らんや、荘周曰く、百里奚は爵禄心に入らず、故に牛を飯(やしな)いて牛肥え、穆公をして其賎を忘れて之に政(まつりごと)を与えしむ、亦百里奚を知ると謂うべし、伊尹、百里奚の事、皆聖賢出処の大節なり、故に孟子弁(あきら)かにせざるを得ず、尹氏曰く、当時事を好む者の論、大率(たいそつ)此に類す、蓋し其不正の心を以て聖賢を度るなり、


10 萬章章句下 wàn zhāng zhāng jù xià

章番号 1 章通し番号 132

通し番号 588 章内番号 1 章通し番号 132 識別番号 10_1_1
本文
孟子曰く、伯夷は目悪色を視ず、耳悪声を聴かず、其君に非ざれば事(つか)えず、其民に非ざれば使わず、治まれば則ち進み、乱れば則ち退く、横政の出ずる所、横民の止(とど)まる所、居るに忍びざるなり、思うに、郷人と処(お)ること、朝衣朝冠以て塗炭に坐するが如きなり、紂の時に当り、北海の浜に居り、以て天下の清(おさ)まるを待つなり、故に伯夷の風を聞く者は、頑夫(がんぷ)は廉(れん)、懦夫(だふ)は志を立てること有り、
朱注
治、去声、下同じ、横、去声、朝、音は潮、○横、法度に循(したが)わざるを謂う、頑は、知り覚(さと)ること無し、廉は、分弁有り、懦、柔弱なり、余は並(みな)前篇に見ゆ、

通し番号 589 章内番号 2 章通し番号 132 識別番号 10_1_2
本文
伊尹曰く、何(いず)れに事えるとして君に非ざる、何(いず)れを使うとして民に非ざる、治まる亦進み、乱る亦進む、曰く、天の斯民を生ずるや、先知をして後知を覚(さと)らしめ、先覚をして後覚を覚(さと)らしむ、予(われ)は天民の先覚なる者なり、予将に此道以て此民を覚さんとするなり、思うに天下の民、匹夫匹婦、堯舜の沢を被(こうむ)るに与(あずか)らざる者有れば、己推して之を溝中に内(い)るるが若し、其自ら任ずるに天下の重きを以てするなり、
朱注
与、音は預、○何れに事(つか)えるとして君に非ざるは、事う所は則ち君なるを言う、何れを使うとして民に非ざるは、使う所則ち民なるを言う、事うべからざるの君無く、使うべからざるの民無きなり、余は前篇に見ゆ、

通し番号 590 章内番号 3 章通し番号 132 識別番号 10_1_3
本文
柳下恵は汙君を羞(は)じず、小官を辞せず、進んで賢を隠さず、必ず其道を以てす、遺佚(いいつ)されて怨みず、阨(やく)窮して憫(うれ)えず、郷人と処(お)るに、由由然として去ることを忍びざるなり、爾(なんじ)は爾(なんじ)爲(た)り、我は我爲(た)り、我側(かたわら)で袒裼(たんてき)裸裎(らてい)すると雖も、爾焉ぞ能く我を浼(けが)さんや、故に柳下恵の風を聞く者は、鄙夫(ひふ)は寬(ひろ)く、薄夫は敦(あつ)し、
朱注
鄙、狹陋(ろう)なり、敦、厚なり、余は前篇に見ゆ、

通し番号 591 章内番号 4 章通し番号 132 識別番号 10_1_4
本文
孔子の斉を去るは、淅を接(う)けて行(さ)る、魯を去るに曰く、遅遅として吾行(さ)るなり、父母の国を去るの道なり、以て速(すみや)かなるべくして速(すみや)か、以て久しかるべくして久し、以て処(お)るべくして処り、以て仕えるべくして仕えるは、孔子なり、
朱注
淅、先歴反、○接、猶承のごときなり、淅(せき)、米を漬(ひた)す水なり、米を漬(ひた)し将に炊(かし)がんとして、去らんと欲することが速し、故に手以て水を承(う)け米を取りて行き、炊(かし)ぐに及ばざるなり、此一端を挙げ、以て其久速仕止は各(おのおの)其可に当るを見(しめ)すなり、或るひと曰く、孔子魯を去るは、冕(べん)を税(ぬ)がずして行(さ)る、豈遅と爲すを得んや、楊氏曰く、孔子去るを欲するの意久し、苟(ただ)去ることを欲せず、故に遅遅として其れ行(さ)るなり、膰肉(はんにく)至らず、則ち微罪以て行(さ)るを得る、故に冕を税(ぬ)がずして行(さ)るは、速に非ざるなり、

通し番号 592 章内番号 5 章通し番号 132 識別番号 10_1_5
本文
孟子曰く、伯夷は、聖の清なる者なり、伊尹は、聖の任なる者なり、柳下恵は、聖の和なる者なり、孔子は、聖の時なる者なり、
朱注
張子曰く、雑(まじ)る所無き者は清の極なり、異なる所無き者は和の極なり、勉めて清なるは、聖人の清に非ず、勉めて和なるは、聖人の和に非ず、謂う所の聖は、勉めず思わずして至るものなり、孔氏曰く、任は、天下以て己の責と爲すなり、愚謂えらく、孔子の仕止久速は、各(おのおの)其の可に当る、蓋し三子の聖となる所以のものを兼ねて時に之を出す、三子の一徳以て名づくべきが如きに非ざるなり、或るひと疑う、伊尹の出処、孔子に合う、而るに聖の時と爲すを得ざるは、何ぞや、程子曰く、終(つい)に是れ任が底(およ)ぶ意思在ればなり、

通し番号 593 章内番号 6 章通し番号 132 識別番号 10_1_6
本文
孔子之集めて大成すと謂う、集めて大成するは、金が声(の)べて玉が之を振(おさ)むなり、金が声(の)ぶは、条理を始めるなり、玉が之を振(おさ)めるは、条理を終えるなり、条理を始めるは、智の事なり、条理を終えるは、聖の事なり、
朱注
此は孔子三聖の事を集めて、一の大聖の事を爲すを言う、猶楽を作(な)す者、衆音の小成を集めて、一の大成を爲すがごときなり、成は、楽の一の終りなり、書謂う所の簫韶(しょうしょう)は九成、是れなり、金、鐘の属、声、宣なり、罪を声(の)べ討を致すの声の如し、玉、磬(けい)なり、振、収なり、河海を振(おさ)めて洩(も)らさずの振の如し、始、之を始めるなり、終、之を終えるなり、条理は、猶脈絡(みゃくらく)と言うがごとし、衆音を指して言うなり、智は、知の及ぶ所、聖は、徳の就く所なり、蓋し楽は八音有り、金、石、絲(し)、竹、匏(ほう)、土、革、木なり、若(もし)独り一音を奏せば、則ち其一音自ら始終を爲して、一小成を爲す、猶三子の知る所一に偏(かたよ)りて、其就く所亦一に偏(かたよ)るがごときなり、八音の中で、金石重しと爲す、故に特に衆音の綱紀と爲す、又金始めに震(おこ)りて玉終りに詘然(くつぜん)なり、故に八音を並奏すれば、則ち其未だ作(おこ)らざるに於てして、先ず鎛鐘(はくしょう)を擊ち以て其声を宣(の)べ、其既に闋(や)むを俟(ま)ちて、後に特磬(とくけい)を擊ち以て其韻を收む、宣(の)べて以て之を始め、収(おさ)めて以て之を終わる、二つのものの間、脈絡通貫し、備わざる所無ければ、則ち衆(おお)くの小成を合わせて一大成を爲す、猶孔子の知は尽さざる無くて、徳は全(まった)からざる無きがごときなり、金が声(の)べ玉が振(おさ)め、条理を始め終える、疑うらくは、古の楽経の言なり、故に兒寬(げいかん)云う、惟天子が中和の極を建て、条貫を兼ね総(す)べ、金が声(の)べて玉が之を振(おさ)む、亦此意なり、

通し番号 594 章内番号 7 章通し番号 132 識別番号 10_1_7
本文
智は譬(たとえ)ば則ち巧なり、聖は譬えば則ち力なり、由(なお)百歩の外に於て射(い)るがごときなり、其(その)至るは爾(なんじ)の力なり、其中(あた)るは爾の力に非ざるなり、
朱注
中、去声、○此は復(また)射の巧力以て、智聖二字の義を発明す、孔子は巧力倶(とも)に全くして、聖智兼ね備え、三子は則ち力余り有りて巧足らざるを見る、是を以て一節聖に至ると雖も、智以て時に中(あた)に及ぶに足らざるなり、○此章言えらく、三子の行は、各(おのおの)其一偏を極む、孔子の道は、衆理に於て兼ね全し、偏なる所以は、其始に於て蔽(おお)わるに由る、是を以て終に於て欠ける、全き所以は、其知の至るに由る、是を以て行は尽きる、三子は猶春夏秋冬の各(おのおの)其時を一にするがごとし、孔子は則ち大和の元気が四時に流行するなり、


章番号 2 章通し番号 133

通し番号 595 章内番号 1 章通し番号 133 識別番号 10_2_1
本文
北宮錡(ほくきゅうき)問いて曰く、周室爵禄を班(つら)ねるや、之を如何、
朱注
錡、魚綺反、○北宮は、姓、錡(き)は、名、衛人なり、班、列なり、

通し番号 596 章内番号 2 章通し番号 133 識別番号 10_2_2
本文
孟子曰く、其詳は聞くことを得べからざるなり、諸侯其(その)己を害するを悪(にく)みて、皆其籍を去る、然り而して軻(か)は、嘗て其略を聞くなり、
朱注
悪、去声、去、上声、○当時の諸侯は兼幷(けんぺい)僣竊(せんせつ)す、故に周制が己の爲す所を妨害するを悪(にく)むなり、

通し番号 597 章内番号 3 章通し番号 133 識別番号 10_2_3
本文
天子一位、公一位、侯一位、伯一位、子男(しだん)同じく一位、凡(みな)で五等なり、君一位、卿(けい)一位、大夫(たいふ)一位、上士一位、中士一位、下士一位、凡(みな)で六等なり、
朱注
此は爵を班(つら)ぬるの制なり、五等は天下に通じ、六等は国中に施す、

通し番号 598 章内番号 4 章通し番号 133 識別番号 10_2_4
本文
天子の制は、地方千里、公侯は皆方百里、伯は七十里、子男(しだん)は五十里、凡(みな)で四等なり、五十里なること能わずは、天子に達せず、諸侯に附し、附庸(ふよう)と曰う、
朱注
此以下、禄の制を班(つら)ねるなり、不能は、猶不足のごときなり、小国の地、五十里に足らざるは、自ら天子に達すること能わず、大国に因り姓名以て通ず、之を附庸と謂う、春秋の邾儀父(ちゅぎほ)の類の若き、是れなり、

通し番号 599 章内番号 5 章通し番号 133 識別番号 10_2_5
本文
天子の卿(けい)、地を受くること侯に視(なぞら)う、大夫地を受くること伯に視(なぞら)う、元士(げんし)地を受くること子男に視(なぞら)う、
朱注
視、比なり、徐氏曰く、王畿(き)の内、亦都鄙を制し地を受くるなり、元士は、上士なり、

通し番号 600 章内番号 6 章通し番号 133 識別番号 10_2_6
本文
大国は地方百里、君は卿の禄を十にし、卿の禄は大夫を四にし、大夫は上士に倍し、上士は中士に倍し、中士は下士に倍し、下士は庶人の官に在る者と禄を同じくす、禄は以て其耕に代(か)うるに足るなり、
朱注
十は、之に十倍するなり、四は、之に四倍するなり、倍は、一倍を加えるなり、徐氏曰く、大国の君は田は三万二千畝(ほ)、其入(い)りは二千八百八十人を食(やしな)うべし、卿は田三千二百畝、二百八十八人を食(やしなう)べし、大夫は田八百畝、七十二人を食(やしな)うべし、上士は田四百畝、三十六人を食(やしな)うべし、中士は田二百畝、十八人を食(やしな)うべし、下士と庶人の官に在る者は田百畝、九人より五人に至るを食(やしな)うべし、庶人官に在るは、府史胥徒(しょと)なり、愚按ずるに、君以下の食する所の禄、皆助法の公田なり、農夫の力を藉(か)り以て耕して、其租を収む、士の田無きと、庶人官に在る者は、則ち但(ただ)禄を官に受く、田の入りの如きのみ、

通し番号 601 章内番号 7 章通し番号 133 識別番号 10_2_7
本文
次国は地方七十里、君は卿の禄を十にし、卿の禄は大夫を三にし、大夫は上士に倍し、上士は中士に倍し、中士は下士に倍し、下士は庶人の官に在る者と禄を同じくす、禄は以て其耕に代(か)うるに足るなり、
朱注
三は、之に三倍するを謂うなり、徐氏曰く、次国の君は田二万四千畝、二千百六十人を食(やしな)うべし、卿は田二千四百畝、二百十六人を食(やしな)うべし、

通し番号 602 章内番号 8 章通し番号 133 識別番号 10_2_8
本文
小国は地方五十里、君は卿の禄を十にし、卿の禄は大夫を二にし、大夫は上士に倍し、上士は中士に倍し、中士は下士に倍し、下士は庶人の官に在る者と禄を同じくす、禄以て其耕に代(か)うるに足るなり、
朱注
二、則ち倍なり、徐氏曰く、小国の君は田一万六千畝、千四百四十人を食(やしな)うべし、卿は田一千六百畝、百四十四人を食(やしな)うべし、

通し番号 603 章内番号 9 章通し番号 133 識別番号 10_2_9
本文
耕やす者の獲(え)る所は、一夫百畝なり、百畝之糞(つちか)えば、上農夫は九人を食(やしな)う、上の次は八人を食(やしな)う、中は七人を食(やしな)う、中の次は六人を食(やしな)う、下は五人を食(やしな)う、庶人官に在る者、其禄是を以て差と爲す、
朱注
食、音は嗣、○獲、得なり、一夫一婦、田百畝を佃(たがや)す、之に加えるに糞以てす、糞多くして力勤する者上農と爲す、其収(おさ)む所は九人を供(やしな)うべし、其次(ついで)は力を用いること斉(ひとし)からず、故に此五等有り、庶人官に在る者、其禄を受けるは同じからず、亦此五等有るなり、○愚按ずるに、此章の説、周礼(しゅらい)、王制と同じからず、蓋し考うべからず、之を闕(か)くこと可なり、程子曰く、孟子の時、先王を去ること未だ遠からず、載籍(さいせき)未だ秦火を経ず、然り而して爵禄を班(つら)ねるの制已に其詳を聞かず、今の礼書は、皆煨燼(わいじん)の余に於て掇拾(そうてつ)す、而して多くは漢儒一時の傅会(ふかい)に出ず、奈何(いかん)ぞ尽(ことごと)く信じて句にて之を解するを爲すを欲さんや、然れば則ち其事固(もと)より一一追(さかのぼ)り復すべからず、


章番号 3 章通し番号 134

通し番号 604 章内番号 1 章通し番号 134 識別番号 10_3_1
本文
万章問いて曰く、敢えて友を問う、孟子曰く、長を挾(さしはさ)まず、貴を挾(さしはさ)まず、兄弟を挾(さしはさ)まずして友とす、友なるは、其徳を友とするなり、以て挾(さしはさ)むこと有るべからざるなり、
朱注
挾は、兼有して之を恃(たの)むの称なり

通し番号 605 章内番号 2 章通し番号 134 識別番号 10_3_2
本文
孟献子(もうけんし)は、百乗の家なり、友五人有り、楽正裘(がくせいきゅう)、牧仲、其三人、則ち予之を忘る、献子の此五人者と友なるや、献子の家なるもの無きなり、此五人の者、亦献子の家有れば、則ち之と友ならず、
朱注
乗、去声、下同じ、○孟献子は、魯の賢大夫、仲孫蔑なり、張子曰く、献子は其勢を忘る、五人の者は人の勢を忘る、其勢を資(と)らずして其有を利とす、然る後能く人の勢を忘る、若(もし)五人の者献子の家有れば、則ち反て献子の賎(いや)しむ所と爲る、

通し番号 606 章内番号 3 章通し番号 134 識別番号 10_3_3
本文
惟(ただ)百乗の家のみ然りと爲すに非ざるなり、小国の君と雖も亦之有り、費恵公曰く、吾は子思に於て則ち之を師とす、吾は顔般(がんはん)に於ては則ち之を友とす、王順、長息は、則ち我に事(つか)える者なり、
朱注
費、音は秘、般、音は班、○恵公、費邑の君なり、師は、尊(たっと)ぶ所なり、友は、敬する所なり、我に事(つか)える者は、使う所なり、

通し番号 607 章内番号 4 章通し番号 134 識別番号 10_3_4
本文
惟小国の君のみ然りと爲すに非ざるなり、大国の君と雖も亦之有り、晋の平公の亥唐(がいとう)に於るや、入れと云えば則ち入り、坐れと云えば則ち坐り、食べろと云えば則ち食べる、疏食(そし)菜羹(さいこう)と雖も、未だ嘗て飽かずんばあらず、蓋し敢えて飽かずんばあらざるなり、然れども此に終わるのみ、与(とも)に天位を共(とも)にせざるなり、与(とも)に天職を治めざるなり、与(とも)に天禄を食さざるなり、士の賢を尊ぶものなり、王公の賢を尊ぶに非ざるなり、
朱注
疏食の食、音は嗣、平公、王公の下、諸本多く之の字無し、疑うらくは闕(けつ)文なり、○亥唐(がいとう)、晋の賢人なり、平公之に造(ゆ)く、唐が入れと言えば、公は乃ち入り、坐れと言えば乃ち坐り、食べろと言えば乃ち食べるなり、疏食(そし)は、糲飯(れいはん)なり、敢えて飽かずんばあらずは、賢者の命を敬するなり、范氏曰く、位を天位と曰い、職を天職と曰い、禄を天禄と曰うは、天が以て賢人を待ち、天が民を治めしめる所にして、人君専らにするを得る所のものに非ざるを言うなり、

通し番号 608 章内番号 5 章通し番号 134 識別番号 10_3_5
本文
舜尚(のぼ)り帝に見(まみ)ゆ、帝は甥(せい)を貳室(じしつ)に館す、亦舜を饗(きょう)す、迭(かわるがわる)賓主と爲る、是れ天子にして匹夫を友とするなり、
朱注
尙、上なり、舜は上(のぼ)りて帝堯に見(まみ)えるなり、館、舍なり、礼、妻の父を外舅(がいきゅう)と曰う、我を舅(きゅう)と謂う者は、吾之を甥(せい)と謂う、堯は女以て舜の妻とす、故に之を甥と謂う、貳室(じしつ)は、副宮なり、堯は舜を副宮に舍して、就(よ)りて其食を饗(きょう)す、

通し番号 609 章内番号 6 章通し番号 134 識別番号 10_3_6
本文
下を用(もっ)て上を敬す、之を貴を貴(とうと)ぶと謂う、上用(もっ)て下を敬す、之を賢を尊(たっと)ぶと謂う、貴を貴(とうと)び、賢を尊(たっと)ぶは、其義一なり、
朱注
貴を貴(とうと)び賢を尊(たっと)ぶは、皆事の宜なるものなり、然れども当時但(ただ)貴を貴(とうと)ぶを知りて、賢を尊(たっと)ぶを知らず、故に孟子曰く、其義一なり、○此言えらく、朋友は人倫の一にして、以て仁を輔(たす)くる所なり、故に天子以て匹夫を友として、詘(くつ)と爲さず、匹夫以て天子を友として、僣(せん)と爲さず、此が、堯舜、人倫の至りと爲して、孟子言えば必ず之を称する所以なり、


章番号 4 章通し番号 135

通し番号 610 章内番号 1 章通し番号 135 識別番号 10_4_1
本文
万章問いて曰く、敢えて問う、交際は何をか心とする、孟子曰く、恭なり、
朱注
際、接なり、交際は、人が礼儀幣帛(へいはく)以て相(あい)交わり接するを謂うなり、

通し番号 611 章内番号 2 章通し番号 135 識別番号 10_4_2
本文
曰く、之を卻(しりぞ)く、之を卻(しりぞ)くは、恭ならずと爲す、何ぞや、尊者之に賜う、其取る所のもの義か、不義かを曰い、而る後之を受く、是を以て恭ならずと爲す、故に卻(しりぞ)けざるなり、
朱注
卻、受けずして之を還(かえ)すなり、之を再言するは、未だ詳かならず、萬章疑う、交際の間に、卻ける所のもの有り、人便ち以て恭ならずと爲す、何ぞや、孟子言えらく、尊者が賜う、而るに心竊(ひそ)かに其以て此物を得る所のものを計り、未だ義に合うか否かを知らず、必ず其義に合い、然る後受くべし、然らざれば則ち之を卻(しりぞ)く、之を卻(しりぞ)くを恭ならずと爲す所以なり、

通し番号 612 章内番号 3 章通し番号 135 識別番号 10_4_3
本文
曰く、請う、辞以て之を卻(しりぞ)くこと無く、心以て之を卻け、其諸(これ)を民に取るの不義を曰うなり、而るに他辞以て受けること無し、不可か、曰く、其交わるに道以てし、其接するに礼以てすれば、斯(すなわ)ち孔子之を受く、
朱注
万章以爲(おも)えらく、彼既に之を得ること不義なり、則ち其餽(おくりもの)受けるべからず、但(ただ)言語以て間(そし)ること無くて之を卻(しりぞ)く、直(ただ)心以て其不義を度(はか)りて、他辞に託し以て之を卻(しりぞ)く、此如ければ可か否耶(か)、交わるに道以てするは、贐(じん)を餽(おく)り、戒を聞き、其飢餓を周(すく)うが如きの類なり、接するに礼を以てするは、辞命恭敬の節を謂う、孔子之を受くは、陽貨の烝豚を受くるの類の如きなり、

通し番号 613 章内番号 4 章通し番号 135 識別番号 10_4_4
本文
万章曰く、今人を国門の外に禦(とど)める者有り、其交わるに道以てし、其餽(おく)るに礼以てすれば、斯(すなわ)ち禦(とど)めるを受くべきか、曰く、不可、康誥(こうこう)に曰く、人を貨に殺し越(おと)し、閔(びん)として死を畏れず、凡そ民譈(うら)みざる罔(な)し、是れ教を待たずして誅する者なり、殷は夏に受け、周は殷に受く、辞さざる所なり、今に於て烈と爲す、之を如何ぞ其之を受けん、
朱注
与、平声、譈、書は憝に作る、徒対反、○禦、止なり、人を止(とど)めて之を殺し、且(また)其貨を奪うなり、国門の外は、人無きの処(ところ)なり、万章以爲(おも)えらく、苟(もし)其物の従(よ)りて来る所を問わずして、但(ただ)其交接の礼を観れば、則ち設(もし)人を禦(とど)める者有りて、其の禦めて得る貨を用い、礼以て我に餽(おく)れば、則ち之を受くべきか、康誥(こうこう)は、周書の篇名、越、顚越(てんえつ)なり、今の書、閔(びん)は愍(びん)に作り、凡民の二字無し、譈、怨なり、言えらく、人を殺して之を顚越(てんえつ)す、因りて其貨を取る、閔(びん)然として死を畏れるを知らず、凡そ民之を怨みざること無し、孟子言えらく、此乃ち教戒を待たずして当に即(ただち)に誅すべき者なり、如何にして之を受くべきか、殷受より爲烈に至る十四字、語意倫(たぐい)せず、李氏以て此は必ず断簡或いは闕文なるもの有りと爲す、之に近し、而るに愚意(おも)うに、其直(ただ)衍字(えんじ)を爲すのみ、然れども考うべからず、姑(しば)らく之を闕(か)きて可なり、

通し番号 614 章内番号 5 章通し番号 135 識別番号 10_4_5
本文
曰く、今の諸侯は、之を民に取るや、猶禦(とど)めるがごときなり、苟(もし)其礼際を善くすれば、斯(すなわ)ち君子之を受く、敢えて問う、何の説ぞや、曰く、子以爲(おも)えらく、王なる者作(おこ)ること有れば、将に今の諸侯を比(つら)ねて之を誅せんとするか、其之に教(めい)じて改めず、而る後之を誅するか、夫(それ)其有にあらずして之を取る者は盗なりと謂うは、類を充(み)たし義の尽るに至るなり、孔子の魯に仕えるや、魯人猟較すれば、孔子亦猟較す、猟較猶可なり、況んや其賜を受くることをや、
朱注
比、去声、夫、音は扶、較、音は角、○比、連なり、言えらく、今の諸侯の民に取るは、固より多くは義ならず、然れども王なる者起こること有れば、必ず連(つら)ね合わして尽(ことごと)く之を誅することをせず、必ず之に教(めい)じ改めずして後に之を誅す、則ち其人を禦(とど)めるの盗、教(めい)を待たずして誅するとは同じからず、夫(それ)人を国門の外に禦(とど)めると、其有に非ずして之を取るとは、二のもの固より皆不義の類なり、然れども必ず人を禦(とど)めるは、乃ち真の盗爲り、其(それ)、有に非ずして取るを盗と爲すと謂うは、乃ち其類を推し、義の至精至密の処(ところ)に至りて之を極言するのみ、便(すなわ)ち以て真の盗と爲すに非ざるなり、然らば則ち今の諸侯、其有に非ざるを取ると曰うと雖も、豈遽(にわか)に以て人を禦(とど)めるの盗に同じくすべきや、又て孔子の事を引き、以て世俗尚(とうと)ぶ所、猶従うべきこと或(あ)るを明かにす、況んや其賜を受くること、何爲(なんすれ)ぞ不可ならんや、猟較は、未詳なり、趙氏以爲(おも)えらく、田猟し相(あい)較(きそ)い、禽獣を奪うの祭なり、孔子違わざるは、以て俗に小(すこ)し同じる所なり、張氏以爲(おも)えらく猟して獲る所の多少を較(くら)べるなり、二説未だ孰(いず)れが是なるかを知らず

通し番号 615 章内番号 6 章通し番号 135 識別番号 10_4_6
本文
曰く、然らば則ち孔子の仕えるや、道を事とするに非ざるか、曰く、道を事とするなり、道を事として奚(なん)ぞ猟較するや、曰く、孔子先(ま)ず祭器を簿正し、四方の食以て簿正に供さず、曰く、奚ぞ去らざるや、曰く、之が兆(きざし)を爲すなり、兆以て行うに足る、而るに行われず、而して後去る、是を以て未だ嘗て三年を終わるまで淹(とど)まる所有らざるなり、
朱注
与、平声、○此は孔子の事に因りて、反覆して弁論するなり、道を事とするは、道を行なうを以て事と爲すなり、道を事とし奚ぞ猟較するやは、万章の問なり、先ず祭器を簿正するは、未だ詳(つまびら)かならず、徐氏曰く、先ず簿書以て其祭器を正し、定数有りて、四方継ぎ難きの物以て之を実(み)たさざらしむ、夫(その)器常数有りて、実(みた)すは常品有れば、則ち其本正し、彼(かの)猟較は、將に久しくして自ずから廃せんとす、未だ是否を知らざるなり、兆、猶卜(ぼく)の兆のごときなり、蓋し事の端なり、孔子去らざる所以は、亦小し道を行うの端を試(もち)い、以て人に示し、吾道の果(はた)して行うべきを知らしめんと欲するなり、若(もし)其端既に行うべくして、人之を遂行すること能わず、然る後已むを得ずして必ず之を去る、蓋し其去ること軽くせずと雖も、亦未だ嘗て決さざることなし、是を以て未だ嘗て三年を終えるまで一国に留まらざるなり、

通し番号 616 章内番号 7 章通し番号 135 識別番号 10_4_7
本文
孔子は見行可の仕有り、際可の仕有り、公養の仕有るなり、季桓子(きかんし)に於ては、見行可の仕なり、衛の霊公に於ては、際可の仕なり、衛の孝公に於ては、公養の仕なり、
朱注
見行可は、其道の行うべきを見るなり、際可は、接遇に礼を以てするなり、公養は、国君が賢を養うの礼なり、季恒子は、魯の卿季孫斯(きそんし)なり、衛の靈公は、衛の侯元なり、孝公は、春秋、史記皆之無し、疑うらくは出公輒(ちょう)なり、孔子魯に仕えることに因りて、其仕は此三なるもの有ることを言う、故に魯に於ては則ち兆以て行うに足る、而るに行われず、然る後去る、而して衛に於ての事は、則ち又其交際の問餽(もんき)を受けて、卻(しりぞ)けざるの一験なり、尹氏曰く、孟子の義を聞かざれば、則ち自好の者は於陵の仲子を爲すのみ、聖賢の辞受進退、惟(ただ)義、在る所なり、愚按ずるに、此章は文義多くは曉(あきら)かなるべからず、必ずしも強いて之が説を爲さず、


章番号 5 章通し番号 136

通し番号 617 章内番号 1 章通し番号 136 識別番号 10_5_1
本文
孟子曰く、仕えるは貧の爲に非ざるなり、而るに時有りて貧の爲乎(に)する、妻を娶(めと)るは養の爲にするに非ざるなり、而るに時有りて養の爲にする、
朱注
爲、養は、並(とも)に去声なり、下同じ、○仕えるは、本は、道を行なう爲なり、而るに亦家貧しく親老い、或いは道と時と違(もと)り、但(ただ)禄の爲に仕える者有り、妻を娶るは、本、継嗣(けいし)の爲なり、而るに亦親(みずか)ら井臼(せいきゅう)を操(と)ること能わずして、其餽養(きよう)を資(と)らんと欲することの爲なること有るが如し、

通し番号 618 章内番号 2 章通し番号 136 識別番号 10_5_2
本文
貧の爲なる者は、尊を辞し卑に居る、富を辞し貧に居る、
朱注
貧富は、禄の厚薄を謂う、蓋し仕が道の爲ならざるは、已に出処の正に非ず、故に其処(お)る所但(ただ)当に此の如くなるべし、

通し番号 619 章内番号 3 章通し番号 136 識別番号 10_5_3
本文
尊を辞し卑に居り、富を辞し貧に居るは、悪(いずく)にか宜(よろ)しき、抱関(ほうかん)撃柝(げきたく)なり、
朱注
悪、平声、柝、音は託、○柝は、行夜が擊つ所の木なり、蓋し貧の爲にする者は道を行うを主(つかさど)らずと雖も、亦以て苟(ただ)禄すべからず、故に惟(ただ)抱関(ほうかん)擊柝(げきたく)の吏は、位卑(ひく)く禄薄(すくな)し、其職称(かな)い易し、宜しく居るべき所と爲すなり、李氏曰く、道行われず、貧の爲にて仕える者は、此が其律令なり、若(もし)然ること能わざれば、則ち是れ位を貪(むさぼ)り禄を慕(むさぼ)るのみ、

通し番号 620 章内番号 4 章通し番号 136 識別番号 10_5_4
本文
孔子嘗て委吏(いり)と爲る、曰く、会計当たるのみ、嘗て乗田と爲る、曰く、牛羊茁(さつ)として壮長するのみ、
朱注
委、烏僞反、会、工外反、当、丁浪反、乗、去声、茁、阻刮反、長、上声、○此は孔子が貧の爲にして仕えるものなり、委吏は、委積(いし)を主(つかさど)るの吏なり、乗田は、苑囿(えんゆう)芻牧(すうぼく)を主(つかさど)るの吏なり、茁(さつ)、肥える貌、言えらく、孔子の大聖以てして、嘗て賎官と爲り、以て辱と爲さざるは、謂う所の貧の爲にして仕え、官卑(ひく)く禄薄(すくな)くして、職称(かな)い易きなり、

通し番号 621 章内番号 5 章通し番号 136 識別番号 10_5_5
本文
位卑(ひく)くして言高きは、罪なり、人の本朝に立ちて、道行われざるは、恥なり、
朱注
朝、音は潮、○位を出ずるを以て罪と爲せば、則ち道を行うの責無し、道を廃するを以て恥と爲せば、則ち禄を竊(ぬす)むの官に非ず、此が貧の爲にする者の必ず尊富を辞して、寧(むしろ)貧賎に処(お)る所以なり、○尹氏曰く、言えらく、貧の爲なる者は、以て尊に居るべからず、尊に居る者は、必ず以て道を行うことを欲す、


章番号 6 章通し番号 137

通し番号 622 章内番号 1 章通し番号 137 識別番号 10_6_1
本文
万章曰く、士の諸侯に託せざるは、何ぞや、孟子曰く、敢えてせざるなり、諸侯が国を失い、而して後諸侯に託するは、礼なり、士の諸侯に託すは、礼にあらざるなり、
朱注
託、寄なり、仕えずして其禄を食するを謂うなり、古は諸侯は他国に出奔(しゅっぽん)し、其廩餼(りんき)を食す、之を寄公と謂う、士は爵土無ければ、諸侯に比(なぞら)うことを得ず、仕えずして禄を食すれば、則ち礼に非ざるなり、

通し番号 623 章内番号 2 章通し番号 137 識別番号 10_6_2
本文
万章曰く、君が之に粟を餽(おく)れば、則ち之を受けるか、曰く、之を受ける、之を受けるは何の義なるか、曰く、君の氓(たみ)に於るや、固(もと)より之を周(すく)う、
朱注
周、救なり、其空乏(くうぼう)を視れば、則ち之を周(すく)い卹(うれ)うこと常数無きは、君が民を待つの礼なり、

通し番号 624 章内番号 3 章通し番号 137 識別番号 10_6_3
本文
曰く、之を周(すく)えば則ち受け、之に賜(たま)えば則ち受けず、何ぞや、曰く、敢えてせざるなり、曰く、敢えて問う、其敢えてせざるは何ぞや、曰く、抱関(ほうかん)撃柝(げきたく)の者、皆常職有りて以て上に食す、常職無くて上於(より)賜(たま)わる者は、以て不恭と爲すなり、
朱注
賜は、之に禄を予(あた)え常数有るを謂う、君が以て臣を待つ所の礼なり、

通し番号 625 章内番号 4 章通し番号 137 識別番号 10_6_4
本文
曰く、君之を餽(おく)れば、則ち之を受けるのは、識らず、常に継(つづ)けるべきか、曰く、繆(ぼく)公の子思に於るや、亟(しばしば)問い、亟(しばしば)鼎肉(ていにく)を餽(おく)る、子思は悦(よろこ)ばず、卒(おわり)に於て、使者を摽(さしまね)き諸(これ)を大門の外に出し、北面、稽首(けいしゅ)、再拝して受けず、曰く、今にして後、君が犬馬にて伋(きゅう)を畜(やしな)うを知る、蓋し是自(よ)り台餽(おく)ること無きなり、賢を悦び挙げること能わず、亦養うこと能わざるなり、賢を悦ぶと謂うべきか、
朱注
亟、去声、下同じ、摽、音は杓、使、去声、○亟、数なり、鼎肉は、熟(に)た肉なり、卒は、末(おわり)なり、摽(じょう)は、麾(き)なり、数(しばしば)君命以て来て餽る、当に之を拝受すべくして、賢を養うの礼に非ず、故に悦(よろこ)ばず、而して其末後に於て復(また)来て餽(おく)る時、使者を麾(さしまね)き出して拝(はい)して之を辞す、犬馬にて伋(きゅう)を畜(やしな)うは、人の礼以て己を待たざるを言うなり、台は、賎官で、使令を主(つかさど)る者なり、蓋し繆公(ぼくこう)愧(は)じ悟(さと)り、此自(よ)り復(また)台をして来り餽(おくりもの)を致さしめざるなり、挙、用なり、能く養う者は未だ必ずしも用いること能わざるなり、況んや又養うこと能わざるをや、

通し番号 626 章内番号 5 章通し番号 137 識別番号 10_6_5
本文
曰く、敢えて問う、国君が君子を養わんと欲すれば、如何(いか)なれば斯(すなわ)ち養うと謂うべし、曰く、君命以て之を将(おく)る、再拝、稽首して受ける、其後廩人(りんじん)粟を継(つづ)け、庖人(ほうじん)肉を継(つづ)け、君命以て之を将(おく)らず、子思以爲(おも)えらく、鼎肉は己をして僕僕爾(ぼくぼくじ)として亟(しばしば)拝せしめるなり、君子を養うの道に非ざるなり、
朱注
初めて君命以て来たり餽(おく)れば、則ち当に拝して受けるべし、其後有司が各(おのおの)其職以て無き所に継続する、君命以て来り餽(おく)らず、賢者をして亟(しばしば)拝するの労有らせしめざるなり、僕僕は、煩猥(はんわい)の貌、

通し番号 627 章内番号 6 章通し番号 137 識別番号 10_6_6
本文
堯の舜に於るや、其子九男は之に事(つか)えしめ、二女は焉(これ)に女(めあわ)せ、百官牛羊倉廩(りん)を備え、以て舜を畎畝(けんぽ)の中に養う、後に挙げて諸(これ)に上位を加う、故に曰く、王公が賢を尊ぶ者なり、
朱注
女は下の字は、去声、○能く養い能く挙げる、賢を悦ぶの至りなり、惟(ただ)堯舜は能く之を尽すと爲す、而して後世の当に法とすべき所なり、


章番号 7 章通し番号 138

通し番号 628 章内番号 1 章通し番号 138 識別番号 10_7_1
本文
万章曰く、敢えて問う、諸侯に見(まみ)えざるは、何の義ぞや、孟子曰く、国に在るを市井の臣と曰う、野に在るを草莽(そうもう)の臣と曰う、皆庶人を謂う、庶人は質(し)を伝(つた)え臣と爲らざれば、敢えて諸侯に見(まみ)えず、礼なり、
朱注
質、贄(し)と同じ、○伝、通なり、質なるものは、士は雉(きじ)を執(と)り、庶人は鶩(あひる)を執り、相見(まみ)え以て自らを通じるものなり、国内君の臣に非ざる莫し、但(ただ)し未だ仕えざる者は、贄を執り位に在るの臣と同じからず、故に敢えて見(まみ)えざるなり、

通し番号 629 章内番号 2 章通し番号 138 識別番号 10_7_2
本文
万章曰く、庶人は之を召し役すれば、則ち往きて役す、君之に見(あ)うことを欲して之を召せば、則ち往きて之に見(まみ)えざるは、何ぞや、曰く、往きて役すは、義なり、往きて見(まみ)えるは、義ならざるなり、
朱注
往きて役すは、庶人の職なり、往きて見(まみ)えざるは、士の礼なり、

通し番号 630 章内番号 3 章通し番号 138 識別番号 10_7_3
本文
且(また)君の之に見(あ)わんと欲するや、何の爲ぞや、曰く、其多聞の爲なり、其賢の爲なり、曰く、其多聞の爲なるや、則ち天子師を召さず、而るに況んや諸侯をや、其賢の爲なるや、則ち吾未だ賢に見(あ)うことを欲して之を召すを聞かざるなり、
朱注
爲は、並(みな)去声、

通し番号 631 章内番号 4 章通し番号 138 識別番号 10_7_4
本文
繆公(ぼくこう)は亟(しばしば)子思に見(あ)いて曰く、古は千乗の国以て士を友とす、何如(いかん)、子思悦ばずして曰く、古の人言有り、曰く之に事(つか)えると云うか、豈(あに)之を友とすると云うことを曰わんや、子思の悦びざるや、豈曰わざらんや、位以てすれば則ち子は君なり我は臣なり、何ぞ敢えて君と友たるや、徳以てすれば則ち子は我に事える者なり、奚(なん)ぞ以て我と友たるべし、千乗の君之と友たるを求めて、得るべからざるなり、而るに況んや召すべきか、
朱注
亟、乗、皆去声、召与の与、平声、○孟子は子思の言を引きて之を釈き、以て召すべからざるの意を明らかにす、

通し番号 632 章内番号 5 章通し番号 138 識別番号 10_7_5
本文
齊の景公田(かり)す、虞人(ぐじん)を招(まね)くに旌(せい)を以てし、至らず、将に之を殺さんとす、志士は溝壑(こうがく)に在るを忘れず、勇士は其元を喪(うしな)うを忘れず、孔子奚(なに)をか取る、其招に非ずして往かざるを取るなり、
朱注
喪、息浪反、○説前篇に見ゆ、

通し番号 633 章内番号 6 章通し番号 138 識別番号 10_7_6
本文
曰く、敢えて問う、虞人を招すは何を以てする、曰く、皮冠を以てす、庶人(しょじん)は旃(せん)を以てす、士は旂(き)を以てす、大夫は旌(せい)を以てす、
朱注
皮冠は、田猟の冠なり、事は春秋伝に見ゆ、然らば則ち皮冠は、虞人の事とすること有る所なり、故に是以て之を招く、庶人は、未だ仕えざるの臣なり、通帛(つうはく)を旃(せん)と曰う、士は、已に仕える者を謂う、交龍、旂(き)と爲す、羽を析(さ)きて旂(き)の干(さお)の首に注(つ)けるを旌(せい)と曰う、

通し番号 634 章内番号 7 章通し番号 138 識別番号 10_7_7
本文
大夫の招以て虞人(ぐじん)を招(まね)けば、虞人は死すとも敢えて往(ゆ)かず、士の招以て庶人を招けば、庶人豈敢えて往かんや、況んや不賢人の招以て賢人を招くに乎(おいて)をや、
朱注
見ることを欲して之を召すは、是れ不賢人の招なり、士の招以て庶人を招けば、則ち敢えて往かず、不賢人の招以て賢人を招けば、則ち往くべからず、

通し番号 635 章内番号 8 章通し番号 138 識別番号 10_7_8
本文
賢人に見(あ)わんと欲して其道以てせざるは、猶其入るを欲して之が門を閉じるがごときなり、夫(それ)義は路なり、礼は門なり、惟君子能く是(この)路に由り、是(この)門を出入するなり、詩に云う、周道は厎(し)の如し、其直は矢の如し、君子が履(ふ)む所なり、小人が視る所なり、
朱注
夫、音は扶、底、詩は砥に作る、之履反、○詩、小雅大東の篇、底は、砥と同じ、礪石(れいせき)なり、其平を言うなり、矢は、其直を言うなり、視、視て以て法と爲すなり、此を引き以て上文能く是路に由るの義を証す、

通し番号 636 章内番号 9 章通し番号 138 識別番号 10_7_9
本文
万章曰く、孔子は、君が命じ召せば、駕(が)を俟(ま)たずして行く、然れば則ち孔子は非か、曰く、孔子は仕えるに当たり官職有りて、其官以て之を召すなり、
朱注
与、平声、○孔子は仕えるに方(あた)りて職に任(あた)る、君は其官名以て之を召す、故に駕を俟(ま)たずして行く、徐氏曰く、孔子、孟子、地を易えれば則ち皆然り、○此章は、諸侯に見(まみ)えざるの義を言うこと、最も詳悉と爲す、更に陳代、公孫丑問う所のものを合わして之を観れば、其説乃ち尽す、


章番号 8 章通し番号 139

通し番号 637 章内番号 1 章通し番号 139 識別番号 10_8_1
本文
孟子万章に謂いて曰く、一郷の善士は、斯(すなわ)ち一郷の善士を友とす、一国の善士は、斯(すなわ)ち一国の善士を友とす、天下の善士は、斯(すなわ)ち天下の善士を友とす、
朱注
言えらく、己の善一郷を蓋(おお)う、然る後能く尽(ことごと)く一郷の善士を友とする、推して一国に至る、天下皆然り、其高下に随(したが)い、以て広狭を爲すなり、

通し番号 638 章内番号 2 章通し番号 139 識別番号 10_8_2
本文
天下の善士を友とするを以て未だ足らずと爲す、又尚(のぼ)りて古の人を論じ、其詩を頌(しょう)し、其書を読む、其人を知らずして可か、是を以て其世を論ずるなり、是れ尚友なり、
朱注
尙、上に同じ、進みて上(のぼ)るを言うなり、頌、誦(しょう)に通ず、其世を論ずるは、其当世行事の跡を論ずるなり、言えらく、既に其言を観る、而して以て其人爲(た)るの実を知らざるべからず、是を以て又其行を考えるなり、夫(それ)能く天下の善士を友とすれば、其友とする所は衆(おお)し、猶(なお)以て未だ足らずと爲す、又進みて古人に取る、是れ能く其(その)友を取るのの道を進む、而して一世の士爲(た)るに止まるに非ず、


章番号 9 章通し番号 140

通し番号 639 章内番号 1 章通し番号 140 識別番号 10_9_1
本文
斉の宣王卿を問う、孟子曰く、王何の卿を之問うや、王曰く、卿同じからざるか、曰く、同じからず、貴戚(きせき)の卿有り、異姓の卿有り、王曰く、貴戚の卿を請い問う、曰く、君大過有れば則ち諫む、之を反覆して聴かざれば、則ち位を易(か)える、
朱注
大過、以て其国を亡ぼすに足るものを謂う、位を易うは、君の位を易え、更(さら)に親戚の賢者を立てる、蓋し君と親を親(あい)するの恩とが有り、去るべきの義無し、宗廟以て重しと爲し、其亡(ほろ)ぶを坐して視(み)るに忍びず、故に已むを得ずして此に至るなり、

通し番号 640 章内番号 2 章通し番号 140 識別番号 10_9_2
本文
王勃然(ぼつぜん)として色を変ず、
朱注
勃然、色を変える貌、

通し番号 641 章内番号 3 章通し番号 140 識別番号 10_9_3
本文
曰く、王、異(あや)しむこと勿れ、王が臣に問う、臣は敢えて正以て対(こた)えずんばあらず、
朱注
孟子の言なり、

通し番号 642 章内番号 4 章通し番号 140 識別番号 10_9_4
本文
王、色定まる、然る後異姓の卿を請い問う、曰く、君が過ち有れば則ち諫(いさ)む、之を反覆して聴かざれば、則ち去る、
朱注
君臣は義が合う、合わざれば則ち去る、○此章言えらく、大臣(だいじん)の義は、親疏で同じからず、経を守り権を行う、各(おのおの)其分有り、貴戚の卿は、小過諫めざるに非ざるなり、但(ただ)し必ず大過にして聴かざれば、乃ち位を易うべし、異姓の卿は、大過諫めざるに非ざるなり、小過と雖も聴かざれば、已に去るべし、然れども三仁の貴戚は、之を紂に行うこと能わず、而るに霍光(かっこう)の異姓、乃ち能く之を昌邑(しょうゆう)に行う、此又委任権力の同じからず、以て一を執(と)り論ずべからざるなり、


11 告子章句上 gaò zǐ zhāng jù shàng

章番号 1 章通し番号 141

通し番号 643 章内番号 1 章通し番号 141 識別番号 11_1_1
本文
告子曰く、性は、猶杞柳(きりゅう)のごときなり、義は、猶桮棬(はいけん)のごときなり、人の性以て仁義と爲すは、猶杞柳以て桮棬と爲すがごとし、
朱注
桮、音は杯、棬、丘円反、○性は、人が生まれ稟(う)ける所の天理なり、杞柳(きりゅう)は、柜柳(きょりゅう)なり、桮棬(はいけん)は、木を屈(ま)げ爲(つく)る所なり、巵(し)、匜(い)の属の若し、告子言えらく、人の性は、本、仁義無し、必ず矯揉(きょうじゅう)を待ちて後成る、荀子の性悪の説の如きなり、

通し番号 644 章内番号 2 章通し番号 141 識別番号 11_1_2
本文
孟子曰く、子能く杞柳の性に順(したが)いて、以て桮棬(はいけん)を爲(つく)るか、将(ある)いは杞柳(きりゅう)を戕賊(しょうぞく)して、後に以て桮棬(はいけん)を爲(つく)るか、如(も)し将(まさ)に杞柳を戕賊して、以て桮棬を爲らんとすれば、則ち亦将に人を戕賊して、以て仁義を爲さんとするか、天下の人を率(ひき)いて、仁義に禍(わざわい)するものは、必ず子の言なるかな、
朱注
戕、音は牆、与、平声、夫、音は扶、○言うこと此如ければ、則ち天下の人、皆仁義以て性を害すると爲して、爲すことを肯(がえん)ぜず、是れ子の言に因り、仁義の禍を爲すなり、


章番号 2 章通し番号 142

通し番号 645 章内番号 1 章通し番号 142 識別番号 11_2_1
本文
告子曰く、性は猶湍水(たんすい)のごときなり、諸を東方に決すれば則ち東に流れ、諸を西方に決すれば則ち西に流る、人の性の善、不善に於て分かれること無きや、猶水の東西に於て分かれること無きがごときなり、
朱注
湍、他端反、○湍、波が流れ、瀠(けい)が回るの貌なり、告子、前説に因りて小し之を変える、揚子の善悪混ずの説に近し、

通し番号 646 章内番号 2 章通し番号 142 識別番号 11_2_2
本文
孟子曰く、水は信(まこと)に東西に於て分かれること無し、上下に於て分かれること無きか、人の性の善なるや、猶水の下に就(つ)くがごときなり、人は善ならざること有ること無し、水は下らざること有ること無し、
朱注
言えらく、水は誠に東西を分けず、然れども豈上下を分けざらんや、性は即ち天の理なり、未だ善ならざるもの有らざるなり、

通し番号 647 章内番号 3 章通し番号 142 識別番号 11_2_3
本文
今夫(それ)水は、搏(う)ちて之を躍(おど)らせば、顙(ひたい)を過ぎせしむべし、激して之を行(や)らば、山に在らしむべし、是れ豈水の性なるや、其勢則ち然るなり、人は不善を爲さしむべし、其性は亦猶是のごときなり、
朱注
夫、音は扶、搏、補各反、○搏(はく)、擊なり、躍、跳なり、顙、額なり、水の額を過ぎ山に在るは、皆下に就(つ)かざるなり、然れども其本性は未だ嘗て下に就かずんばあらず、但(ただ)博(う)つ激すがせしめる所にして其性に逆らうことを爲すのみ、○此章言えらく、性は本、善なり、故に之に順いて善ならざること無し、本は悪無し、故に之に反して後に悪を爲す、本は定体無くて、以て爲さざる所無かるべしに非ざるなり、


章番号 3 章通し番号 143

通し番号 648 章内番号 1 章通し番号 143 識別番号 11_3_1
本文
告子曰く、生を之性と謂う、
朱注
生は、人物の以て知覚運動する所のものを指して言う、告子が性を論ずるは、前後四章なり、語は同じからずと雖も、然れども其大指は此を外(はず)れず、近世仏氏謂う所の作用是れ性なるものと略(ほぼ)相似す、

通し番号 649 章内番号 2 章通し番号 143 識別番号 11_3_2
本文
孟子曰く、生を之性と謂うや、猶白を之白と謂うがごときか、曰く、然り、白羽の白や、猶白雪の白のごとし、白雪の白は、猶白玉の白のごときか、曰く、然り、
朱注
与、平声、下同じ、○白を之白と謂うは、猶凡そ物の白は、同じく之を白と謂い、更(さら)に差別無きを言うがごときなり、白羽以下は、孟子再び問いて、告子然りと曰えば、則ち是れ凡そ生有る者、同じく是れ一の性と謂う、

通し番号 650 章内番号 3 章通し番号 143 識別番号 11_3_3
本文
然らば則ち犬の性は、猶牛の性のごとく、牛の性は、猶人の性のごときか、
朱注
孟子又言う、若し果たして此如ければ、則ち犬牛と、人は皆知覚有り、皆能く運動す、其性皆以て異なること無し、是に於て告子自ら其説の非を知りて、対(こた)えること能わざるなり、○愚按ずるに、性は、人の天に得る所の理なり、生は、人の天に得る所の気なり、性は、形して上なるものなり、気は、形して下なるものなり、人、物は生ずれば、是性有らざる莫し、亦是気有らざる莫し、然れども気以て之を言えば、則ち知覚運動、人と物異ならざるが若きなり、理以て之を言えば、則ち仁義礼智の稟(ひん)、豈物の得て全くする所かな、此人の性は、善ならざる無く、万物の霊と爲る所以なり、告子は性の理と爲るを知らずして、謂う所の気なるものを以て之に当てる、是を以て杞柳(きりゅう)湍水(たんすい)の喩(たと)え、食色は善無く不善無しの説は、縦横に繆戾(びゅうれい)し、紛紜(ふんうん)と舛錯(せんさく)する、而して此章の誤りは、乃ち其本根なり、然る所以は、蓋し徒(ただ)知覚運動の蠢然(しゅんぜん)なるものは、人と物は同じきを知りて、仁義礼智の粋然(すいぜん)なるものは、人と物は異なるを知らざるなり、孟子は是を以て之を折(た)つ、其義精なり


章番号 4 章通し番号 144

通し番号 651 章内番号 1 章通し番号 144 識別番号 11_4_1
本文
告子曰く、食色、性なり、仁は、内なり、外に非ざるなり、義は、外なり、内に非ざるなり、
朱注
告子は人の知覚運動なるものを以て性と爲す、故に言えらく、人の食を甘(たの)しみ色を悦(よろこ)ぶは即ち其性なり、故に仁愛の心は内に生ず、而るに事物の宜(ぎ)は外に由る、学ぶ者は但(ただ)当に力を仁に用いて、必ずしも義に合うを求めざるべきなり、

通し番号 652 章内番号 2 章通し番号 144 識別番号 11_4_2
本文
孟子曰く、何を以て仁は内、義は外と謂うや、曰く、彼は長(としうえ)にて我は之を長(としうえ)とす、長(としうえ)は我に有るに非ざるなり、猶彼は白くして我は之を白しとするがごとし、其白は外に従(よ)るなり、故に之を外と謂うなり、
朱注
長、上声、下同じ、○我は之を長(としうえ)とすは、我は彼を以て長(としうえ)と爲すなり、我は之を白しとすは、我は彼以て白しと爲すなり、

通し番号 653 章内番号 3 章通し番号 144 識別番号 11_4_3
本文
曰く、(異於)馬の白を白しとするや、以て人の白を白しとするに異なること無きなり、識らず、馬の長(としうえ)を長(としうえ)とするや、以て人の長(としうえ)を長(としうえ)とするに異なること無きか、且(また)謂(おも)え、長(としうえ)の者が義か、之を長(としうえ)とするものが義か、
朱注
与、平声、下同じ、○張氏曰く、上の異於の二字、疑うらくは衍なり、李氏曰く、或いは闕文有り、愚按ずるに、馬を白しとし人を白しとするは、謂う所の彼は白くして我は之を白しとするなり、馬を長(としうえ)とし人を長(としうえ)とするは、謂う所の彼は長(としうえ)にして我は之を長(としふえ)とするなり、馬を白しとし人を白しとするは異ならず、而るに馬を長(としうえ)とし人を長(としうえ)とするは同じからず、是は乃ち謂う所の義なり、義は彼の長(としうえ)に在らずして、我が之を長(としうえ)とするの心に在る、則ち義の外に非ざるは明らかなり、

通し番号 654 章内番号 4 章通し番号 144 識別番号 11_4_4
本文
曰く、吾弟は則ち之を愛す、秦人の弟は則ち愛さざるなり、是れ我以て悦を爲すものなり、故に之を内と謂う、楚人の長(としうえ)を長(としうえ)とし、亦吾の長(としうえ)を長(としうえ)とする、是れ長(としうえ)以て悦を爲すものなり、故に之を外と謂うなり、
朱注
言えらく、愛は我に主(やど)る、故に仁は内に在り、敬は長(としうえ)に主(やど)る、故に義は外に在り、

通し番号 655 章内番号 5 章通し番号 144 識別番号 11_4_5
本文
曰く、秦人の炙(しゃ)を耆(たしな)むは、以て吾が炙を耆むに異なること無し、夫(それ)物も則ち亦然るもの有るなり、然らば則ち炙を耆(たしな)むは亦外に有るか、
朱注
耆、嗜と同じ、夫、音は扶、○之を長(としうえ)とする之を耆(たしな)むは、皆心より出るを言うなり、林氏曰く、告子は食色以て性と爲す、故に其明らかなる所のものに因りて之を通(のべ)る、○篇首自(よ)り此に至るの四章、告子の弁、屢(しばしば)屈す、而るに屢(しばしば)其説を変え以て勝ちを求む、卒に其能く自ら反して疑う所有るを聞かざるなり、此正(まさ)に其謂う所の言に得ざれば心に求めること勿れなるものにして、鹵莽(ろもう)に卒(おわ)りて其正を得ざる所以なり、


章番号 5 章通し番号 145

通し番号 656 章内番号 1 章通し番号 145 識別番号 11_5_1
本文
孟季子(もうきし)は公都子に問いて曰く、何を以て義は内と謂う、
朱注
孟季子は、疑うらくは、孟仲子の弟なり、蓋し孟子の言を聞きて未だ達せず、故に私に之を論(たず)ねる、

通し番号 657 章内番号 2 章通し番号 145 識別番号 11_5_2
本文
曰く、吾が敬を行う、故に之を内と謂うなり、
朱注
敬する所の人は外に在ると雖も、然れども其当に敬すべきを知りて、吾が心の敬を行い以て之を敬すは、則ち外に在らざるなり、

通し番号 658 章内番号 3 章通し番号 145 識別番号 11_5_3
本文
郷人が伯兄(はくけい)於(より)一歳長ずれば、則ち誰をか敬す、曰く、兄を敬す、酌めば則ち誰をか先にす、曰く、先に郷人に酌む、敬する所は此に在り、長ずる所は彼に在り、果たして外に在り、内に由るに非ざるなり、
朱注
長、上声、○伯、長なり、酌(しゃく)、酒を酌(く)むなり、此は皆季子が問い、公都子が答えて季子又言う、此如ければ則ち長(としうえ)を敬するの心は、果(はた)して中由(よ)り出でざるなり、

通し番号 659 章内番号 4 章通し番号 145 識別番号 11_5_4
本文
公都子答えること能わず、以て孟子に告ぐ、孟子曰く、叔父(しゅくふ)を敬するか、弟を敬するか、彼将に曰わんとす、叔父を敬す、曰く、弟が尸(し)爲(た)らば、則ち誰をか敬す、彼将に曰わん弟を敬すと、子曰へ、悪くにか在る其叔父を敬すること、彼将に曰わん、位に在る故なり、子亦曰え、位に在る故なり、庸(つね)の敬は兄に在り、斯須(ししゅ)の敬は郷人に在り、
朱注
惡、平声、○尸、祭祀に主として以て神に象(かたど)る所なり、子弟と雖も之を爲す、然れば之を敬するは当に祖考の如きなり、位に在るは、弟が尸の位に在るなり、郷人は賓客の位に在るなり、庸、常なり、斯須(ししゅ)は、暫時(ざんじ)なり、時に因り宜を制し、皆中由(よ)り出るを言うなり、

通し番号 660 章内番号 5 章通し番号 145 識別番号 11_5_5
本文
季子は之を聞きて曰く、叔父を敬すときは則ち敬し、弟を敬するときは則ち敬す、果たして外に在り、内に由るに非ざるなり、公都子曰く、冬日は則ち湯を飮み、夏日は則ち水を飮む、然らば則ち飮食亦外に在るなり、
朱注
此亦上章の炙を耆むの意なり、○范氏曰く、二章の問答は、大指略(ほぼ)同じ、皆反覆して譬喩(ひゆ)し、以て当世を曉(さと)し、仁義の内に在ることを明らかにせしめれば、則ち人の性は善にして、皆以て堯舜と爲るべきを知る、


章番号 6 章通し番号 146

通し番号 661 章内番号 1 章通し番号 146 識別番号 11_6_1
本文
公都子曰く、告子曰く、性は善無く不善無きなり、
朱注
此亦生之性と謂う、食色は性なりの意なり、近世の蘇氏、胡氏の説は、蓋し此如し、

通し番号 662 章内番号 2 章通し番号 146 識別番号 11_6_2
本文
或るひと曰く、性は以て善と爲るべし、以て不善と爲るべし、是故に文武興れば、則ち民善を好む、幽厲(ゆうれい)興れば、則ち民暴を好む、
朱注
好、去声、○此即ち湍水(たんすい)の説なり、

通し番号 663 章内番号 3 章通し番号 146 識別番号 11_6_3
本文
或るひと曰く、性善なること有り、性不善なること有り、是の故に堯を以て君と爲して象(しょう)有り、瞽瞍(こそう)以て父と爲して舜有り、紂以て兄の子と爲し、且(かつ)以て君と爲して、微子啓、王子比干有り、
朱注
韓子の性三品有りの説、蓋し此如し、此文を按ずるに、則ち微子、比干皆紂の叔父(しゅくふ)たり、而るに書は微子を称して商王の元子と爲す、疑うらくは、此は或いは誤字有り、

通し番号 664 章内番号 4 章通し番号 146 識別番号 11_6_4
本文
今、性善を曰う、然らば則ち彼皆非か、
朱注
与、平声、

通し番号 665 章内番号 5 章通し番号 146 識別番号 11_6_5
本文
孟子曰く、(乃若)其情は、則ち以て善を爲すべし、乃ち謂う所の善なり、
朱注
乃若は、発語の辞なり、情は、性の動なり、人の情は、本は但(ただ)以て善を爲すべくして以て悪を爲すべからず、則ち性の本は善なること知るべし、

通し番号 666 章内番号 6 章通し番号 146 識別番号 11_6_6
本文
夫(かの)不善を爲すが若きは、才の罪に非ざるなり、
朱注
夫、音は扶、○才、猶材質のごとく、人の能なり、人是(この)性有れば、則ち是(この)才有り、性既に善なれば則ち才亦善なり、人の不善を爲すは、乃ち物欲陥溺して然り、其才の罪に非ざるなり、

通し番号 667 章内番号 7 章通し番号 146 識別番号 11_6_7
本文
惻隠の心は、人皆之有り、羞悪(しゅうお)の心は、人皆之有り、恭敬の心は、人皆之有り、是非の心は、人皆之有り、惻隠の心は、仁なり、羞悪の心は、義なり、恭敬の心は、礼なり、是非の心は、智なり、仁義礼智は、外由(よ)り我を鑠(と)かすに非ざるなり、我固より之を有するなり、思わざるのみ、故に曰く、求めれば則ち之を得て、舍(す)てれば則ち之を失う、或いは相倍蓰(し)して算無きは、其才を尽すこと能わざるものなり、
朱注
鑠、式灼反、悪、去声、舍、上声、蓰、音は師、○恭は、敬が外に発(あらわ)れるものなり、敬は、恭が中に主(やど)るものなり、鑠(しゃく)は、火以て金(かね)を銷(と)かすの名にして、外自(よ)り以て内に至るなり、算、数なり、言えらく、四なるものの心は、人固より有する所なり、但(ただ)人自(みずか)ら思いて之を求めざるのみ、善悪相去ることの遠き所以は、思わず求めずして、拡充し以て其才を尽すこと能わざるに由るなり、前篇は是四のものを言いて、仁義礼智の端と爲す、而るに此は端を言わざるものは、彼は其拡(ひろ)げて之を充たすを欲す、此は直に用に因りて以て其本体を著(あきら)かにす、故に言は同じからざる有るのみ

通し番号 668 章内番号 8 章通し番号 146 識別番号 11_6_8
本文
詩に曰く、天は蒸民を生ず、物有れば則(のり)有り、民は夷(い)を秉(と)り、是(この)懿(い)徳を好む、孔子曰く、此詩を爲(つく)る者、其(それ)道を知る乎(かな)、故に物有れば必ず則有り、民は夷(い)を秉(と)るなり、故に是(この)懿德を好む、
朱注
好、去声、○詩、大雅烝民の篇、蒸、詩は烝に作る、衆なり、物、事なり、則、法なり、夷、詩は彝(い)に作る、常なり、懿(い)、美なり、物有れば必ず法有り、耳目有れば、則ち聡明の徳有り、父子有れば、則ち慈孝の心有るが如し、是れ民が(5)秉執(へいしゅう)する所の常性なり、故に人の情は、此懿(い)德を好まざる者無し、此を以て之を観れば、則ち人性の善見るべし、而して公都子問う所の三説は、皆弁ぜずして自ずから明かなり、○程子曰く、性は卽ち理なり、理は則ち堯舜から塗人(とじん)に至るまで一なり、才は気に稟(う)く、気に清濁有り、其清なるものを稟(う)ければ賢と爲る、其濁なるものを稟(う)ければ愚と爲る、学びて之を知れば、則ち気は清濁無し、皆善に至りて性の本に復すべし、湯武は之を身にす、是(こ)れなり、孔子言う所の下愚は移らずは、則ち自暴自棄の人なり、又曰く、性を論じ気を論ぜざるは、備わらず、気を論じ性を論ぜざるは、明かならず、之を二にすれば則ち是ならず、張子曰く、形して後に気質の性有り、善く之に反れば、則ち天地の性存す、故に気質の性は、君子性とせざるもの有り、愚按ずるに、程子此に才の字を説(かい)すは、孟子本文と小(すこ)し異なる、蓋し孟子専ら其性に於て発するものを指して之を言う、故に以爲(おも)えらく才は善ならざる無し、程子専ら其気に稟けるものを指して之を言う、則ち人の才は、固より昏(こん)明強弱の同じからざる有り、張子謂う所の気質の性は、是(こ)れなり、二説殊(こと)なると雖も、各(おのおお)当る所有り、然れども事理以て之を考えれば、程子密と爲す、蓋し気質稟ける所は、善ならざる有りと雖も、性の本善を害さず、性は本善と雖も、以て省察矯揉(きょうじゅう)の功無かるべからず、学ぶ者当に深く玩(あじわ)うべき所なり、


章番号 7 章通し番号 147

通し番号 669 章内番号 1 章通し番号 147 識別番号 11_7_1
本文
孟子曰く、富歳は、子弟頼ること多く、凶歳は、子弟暴(そこな)うこと多し、天の才を降すは爾(かくのごと)く殊(こと)なるに非ざるなり、其以て其心を陥溺する所のもの然るなり、
朱注
富歳、豊年なり、賴、藉なり、豊年は衣食饒(ゆた)かで足りる、故に頼り藉(よ)る所有りて善を爲す、凶年は衣食足らず、故に以て其心を陥溺すること有りて暴を爲す、

通し番号 670 章内番号 2 章通し番号 147 識別番号 11_7_2
本文
今夫(それ)麰麦(ぼうばく)、種を播(ま)きて之を耰(おお)う、其地同じく、之を樹えるの時も又同じければ、浡然(ぼつぜん)として生じ、日至の時に至り、皆熟す、同じからざる有りと雖も、則ち地に肥磽(こう)有りて、雨露の養、人事が斉(ひとし)からざるなり、
朱注
夫、音は扶、麰(ぼう)、音は牟、耰(ゆう)、音は憂、磽、苦交反、○麰、大麦なり、耰、種を覆(おお)うなり、日至の時は、当に成熟すべきの期を謂うなり、磽、瘠薄(せきはく)なり、

通し番号 671 章内番号 3 章通し番号 147 識別番号 11_7_3
本文
故に凡そ類を同じくするものは、挙(みな)相い似るなり、何ぞ独り人に至りて之を疑わん、聖人は我と類を同じくするものなり、
朱注
聖人亦人のみ、其性の善、同じからざる無きなり、

通し番号 672 章内番号 4 章通し番号 147 識別番号 11_7_4
本文
故に龍子曰く、足を知らずして屨(くつ)を爲(つく)り、我其蕢(あじか)を爲(つく)らざるを知るなり、屨の相似るは、天下の足同じければなり、
朱注
蕢、音は匱、○蕢、草の器なり、人の足の大小を知らずして之が屨(くつ)を爲(つく)る、未だ必ずしも適中せずと雖も、然れども必ず足の形に似る、蕢(あじか)を成すに至らざるなり、

通し番号 673 章内番号 5 章通し番号 147 識別番号 11_7_5
本文
口の味に於る、同じく耆(たしな)むもの有るなり、易牙は先に我が口の耆(たしな)む所を得る者なり、如(も)し口の味に於けるや、其性人と殊(こと)なること、犬馬の我と類を同じくせざる若からしめば、則ち天下何ぞ耆(たしな)むこと皆易牙の味に従わんや、味に至りては、天下易牙に期す、是れ天下の口相(あい)似たるなり、
朱注
耆は、嗜と同じ、下同じ、○易牙は、古の味を知る者なり、易牙が調(ととの)う所の味、則ち天下皆以て美と爲すを言うなり、

通し番号 674 章内番号 6 章通し番号 147 識別番号 11_7_6
本文
惟(これ)耳亦然り、声に至りては、天下師曠(こう)に期す、是れ天下の耳相似たるなり、
朱注
師曠、能く音を審(つまび)らかにする者なり、師曠和する所の音、則ち天下皆以て美と爲すを言うなり、

通し番号 675 章内番号 7 章通し番号 147 識別番号 11_7_7
本文
惟(これ)目亦然り、子都に至りて、天下其姣(こう)を知らざる莫きなり、子都の姣を知らざる者は、目無き者なり、
朱注
姣、古卯反、○子都、古の美人なり、姣(こう)、好なり、

通し番号 676 章内番号 8 章通し番号 147 識別番号 11_7_8
本文
故に曰く、口の味に於るや、同じく耆(たしな)むこと有り、耳の声に於るや、同じく聴くこと有り、目の色に於るや、同じく美とすること有り、心に至りては、独り同じく然りとする所無きか、心の同じく然りとする所のものは何ぞや、謂う、理なり、義なり、聖人先ず我心の同じく然りとする所を得るのみ、故に理義の我が心を悦ばすことは、猶芻豢(すうかん)の我が口を悦ばすがごとし、
朱注
然、猶可のごときなり、草食、芻と曰う、牛羊が是れなり、穀食、豢(けん)と曰う、犬豕(し)是れなり、程子曰く、物に在るを理と爲す、物を処すを義と爲す、体用の謂(いい)なり、孟子言えらく、人心理義を悦ばざる者無し、但(ただ)聖人則ち此を先知先覚するのみ、以て人に異なること有るに非ざるなり、程子又曰く、理義の我心を悦ばすこと、猶芻豢(すうかん)の我口を悦ばすがごとし、此語親切にして味有り、理義の心を悦ばすこと、真に猶芻豢の口を悦ばすがごときを実に体し察し得るを須(ま)ち、始めて得る、


章番号 8 章通し番号 148

通し番号 677 章内番号 1 章通し番号 148 識別番号 11_8_1
本文
孟子曰く、牛山の木嘗て美(うつく)しきなり、其大国に郊たることを以て、斧斤(ふきん)之を伐(き)る、以て美(うつく)しと爲すべけんや、是れ其日夜の息する所、雨露の潤(うるお)す所、萌蘖(ほうげつ)の生じること無きに非ず、牛羊又従(よ)りて之に牧す、是を以て彼(かの)若く濯濯(たくたく)なり、人其濯濯を見るや、以て未だ嘗て材有らずと爲す、此豈山の性ならんや、
朱注
蘖、五割反、○牛山、斉の東南の山なり、邑外之を郊と謂う、言えらく、牛山の木、此の前固より嘗て美なり、今大国の郊爲(た)り、之を伐(き)る者衆(おお)し、故に其美を失なうのみ、息、生長なり、日夜の息する所は、気の化は流行し未だ嘗て間断せざるを謂う、故に日夜の間、凡そ物皆生長する所有るなり、萌、芽なり、蘖、芽の旁出するものなり、濯濯(たくたく)、光潔の貌なり、材、材木なり、言えらく、山木伐(き)ると雖も、猶萌蘖(ほうげつ)有り、而るに牛羊又従(よ)りて之を害す、是を以て光潔に至りて草木無きなり、

通し番号 678 章内番号 2 章通し番号 148 識別番号 11_8_2
本文
人に存するものと雖も、豈仁義の心無からんや、其良心を放つ所以のものは、亦猶斧斤の木に於るがごときなり、旦旦(たんたん)にして之を伐(き)る、以て美しと爲すべきか、其日夜の息する所、平旦の気、其好悪人と相近きもの幾希(すくな)きは、則ち其旦昼の爲す所、之を梏(こく)し亡くすること有り、之を梏すること反覆すれば、則ち其夜気以て存するに足らず、夜気以て存するに足らざれば、則ち其禽獣と違うこと遠からず、人其禽獣を見るや、以て未だ嘗て才有らずと爲すは、是れ豈人の情ならんや、
朱注
好、悪、並(みな)去声、○良心は、本然の善心、則ち謂う所の仁義の心なり、平旦の気は、未だ物と接さざるの時の、清明の気を謂うなり、好悪人と相近しは、人心の同じく然りとする所を得るを言うなり、幾希は、多からざるなり、梏(こう)、械なり、反覆は、展転なり、言えらく、人の良心已に放失すると雖も、然れども其日夜の閒、亦必ず生長する所有り、故に平旦未だ物と接さずして、其気淸明の際に、良心猶必ず発見するもの有り、但し其発見は至微にして、旦昼爲す所の不善、又已(すで)にして随いて之を梏(こく)し亡くす、山木既に伐(き)り、猶萌蘖(ほうげつ)有りて、牛羊又之に牧するが如きなり、昼の爲す所、既に以て其夜の息する所を害すること有り、夜の息する所、又其昼の爲す所に勝つこと能わず、是を以て展転相(あい)害し、夜気の生じること、日に以て寖(しだい)に薄きに至り、以て其仁義の良心を存するに足らず、則ち平旦の気亦清くすること能わず、而して好悪する所遂に人と遠し、

通し番号 679 章内番号 3 章通し番号 148 識別番号 11_8_3
本文
故に苟(もし)其養を得れば、物、長(そだ)たざること無し、苟(もし)其養を失えば、物消えざること無し、
朱注
長、上声、○山木、人心、其理一なり、

通し番号 680 章内番号 4 章通し番号 148 識別番号 11_8_4
本文
孔子曰く、操(と)れば則ち存し、舍(す)てれば則ち亡(うしな)う、出入に時無し、其郷を知ること莫し、惟(これ)心の謂(いい)か、
朱注
舍、音は捨、与、平声、○孔子言えらく、心は之を操れば則ち此に在り、之を舍(す)てれば則ち失い去る、其出入は定時無く、亦定処無きこと此如し、孟子之を引き、以て、心の神明は測られず、得失は易く、保守は難く、頃刻其養を失うべからざるを明かにす、学ぶ者当に時にして其力を用いざること無く、神清く気定まり、常に平旦の時の如くならしむべければ、則ち心常に存し、適(ゆ)くとして仁義に非ざる無し、程子曰く、心豈出入すること有らんや、亦操舍を以てして言うのみ、之を操るの道は、敬以て内を直にするのみ、○愚之を師に聞く、曰く、人は理義の心未だ嘗て無きことあらず、惟(ただ)之を持守すれば、即ち在るのみ、若し旦昼の間に於て、梏(こく)し亡くすることに至らざれば、則ち夜気愈(ますます)清し、夜気淸ければ、則ち平旦未だ物と接さざるの時、湛然(たんぜん)として虛明の気象、自ずから見るべし、孟子此夜気の説を発するは、学ぶ者に於て極めて力有り、宜しく熟玩して深く之を省るべきなり、


章番号 9 章通し番号 149

通し番号 681 章内番号 1 章通し番号 149 識別番号 11_9_1
本文
孟子曰く、王の不智或(あや)しむこと無かれ、
朱注
或、惑と同じ、疑い怪しむなり、王、疑うらくは斉王を指す

通し番号 682 章内番号 2 章通し番号 149 識別番号 11_9_2
本文
天下生じ易き物有りと雖も、一日之を暴(あたた)め、十日之を寒(ひや)せば、未だ能く生ずるもの有らざるなり、吾見(まみ)えること亦(ただ)罕(まれ)なり、吾退きて之を寒(ひや)す者至る、吾萌(きざ)すこと有るを如何(いかん)せんや、
朱注
易、去声、暴、歩卜反、見、音は現、○暴、之を温(あたた)めるなり、我王に見(まみ)えるの時少し、猶一日之を暴(あたた)めるごときなり、我退けば則ち諂諛(てんゆ)雑(あつま)り進むの日多し、是れ十日之を寒(ひや)すなり、萌蘖(ほうげつ)の生ずること有ると雖も、我亦安(いずくん)ぞ能く之を如何(いかん)せん、

通し番号 683 章内番号 3 章通し番号 149 識別番号 11_9_3
本文
今夫(それ)弈(えき)の数(わざ)爲るや、小さき数(わざ)なり、心を専らにし志(し)を致さざれば、則ち得ざるなり、弈秋は、国を通じての弈を善くする者なり、弈秋をして二人に弈を誨(おし)えしむ、其一人心を専らにして志を致す、惟弈秋之聴くことを爲す、一人之を聴くと雖も、一心に以爲(おも)えらく鴻鵠(こうこく)有りて将に至らんとす、弓繳(きゅうしゃく)を援(ひ)きて之を射んことを思わば、之と倶(とも)に学ぶと雖も、之に若かず、是れ其智若かざる爲か、曰く、然るに非ざるなり、
朱注
夫、音は扶、繳、音は灼、射、食亦反、爲是の爲、去声、若与の与、平声、○弈、囲棋なり、数、技なり、致、極なり、弈秋は、弈を善くする者、名は秋なり、繳(しゃく)、縄以て矢に繫(つな)げて射るなり、○程子講官と爲り、上に言いて曰く、人主一日の間、賢士大夫に接するの時多く、宦官宮妾に親しむ時少なければ、則ち以て気質を涵養(かんよう)して、德性を薰陶(くんとう)すべし、時に用いること能わず、識者之を恨む、范氏曰く、人君の心は、惟(ただ)養う所に在り、君子之を養うに善以てすれば則ち智なり、小人之を養うに悪以てすれば則ち愚なり、然れども賢人疏(うとん)じ易く、小人親しみ易し、是を以て寡は衆に勝つこと能わず、正は邪に勝つこと能わず、古自(よ)り国家治まる日は常に少なく、乱れる日は常に多し、蓋し此を以てなり、


章番号 10 章通し番号 150

通し番号 684 章内番号 1 章通し番号 150 識別番号 11_10_1
本文
孟子曰く、魚、我欲する所なり、熊掌(ゆうしょう)、亦我欲する所なり、二なるもの兼ねるを得べからざれば、魚を舍(す)てて熊掌を取るものなり、生、亦我欲する所なり、義、亦我欲する所なり、二なるもの兼ねるを得べからざれば、生を舍(す)てて義を取るものなり、
朱注
舍、上声、○魚と熊掌皆美味なりて、熊掌尤も美(うま)きなり、

通し番号 685 章内番号 2 章通し番号 150 識別番号 11_10_2
本文
生亦我欲する所、欲する所、生於(より)甚だしきもの有り、故に苟(いやしく)も得るを爲さざるなり、死亦我悪(にく)む所、悪む所死於(より)甚だしきもの有り、故に患(うれ)い辟(さ)けざる所有るなり、
朱注
悪、辟、皆去声、下同じ、○生を舍(す)て義を取る所以の意を釈(と)く、得、生を得るなり、生を欲し死を悪むは、衆人の利害の常の情と雖も、欲悪は生死於(より)甚だしきもの有り、乃ち秉彝(へいい)の義理の良心なり、是を以て生を欲して苟も得るを爲さず、死悪みて避けざる所有るなり、

通し番号 686 章内番号 3 章通し番号 150 識別番号 11_10_3
本文
如(も)し人の欲する所、生より甚だしきもの莫からしめば、則ち凡そ以て生を得べきもの、何ぞ用いざらんや、人の悪む所、死より甚だしきもの莫からしめば、則ち凡そ以て患いを辟(さ)くべきもの、何ぞ爲さざらんや、
朱注
設(もし)人をして秉彝(へいい)の良心無く、但(ただ)利害の私情を有らしめば、則ち凡そ以て生を偸(ぬす)み死を免るべきもの、皆将に礼義を顧ずして之を爲さんとす、

通し番号 687 章内番号 4 章通し番号 150 識別番号 11_10_4
本文
是に由れば則ち生く、而るに用いざること有るなり、是に由れば則ち以て患いを辟(さ)くべし、而るに爲さざること有るなり、
朱注
其必ず秉彝(へいい)の良心有るに由る、是を以て其能く生を舍(す)て義を取ること此如し、

通し番号 688 章内番号 5 章通し番号 150 識別番号 11_10_5
本文
是故に欲する所、生より甚だしきもの有り、悪む所、死より甚だしきもの有り、独り賢者是心有るに非ざるなり、人皆之有り、賢者能く喪(うしな)うことなきのみ、
朱注
喪、去声、○羞悪の心、人皆之有り、但し衆人利欲に汨(みだ)れて之を忘る、惟賢者能く之を存して喪(うしな)わざるのみ、

通し番号 689 章内番号 6 章通し番号 150 識別番号 11_10_6
本文
一簞(たん)の食、一豆の羹(こう)、之を得れば則ち生く、得ざれば則ち死す、嘑爾(こじ)として之を与えれば、道を行く人受けず、蹴爾(しゅくじ)として之を与えれば、乞人(きつじん)屑(いさぎよ)しとせざるなり、
朱注
食、音は嗣、嘑、呼故反、蹴、子六反、○豆、木器なり、嘑(こ)、咄啐(とっさい)の貌、道を行く人は、路中の凡人なり、蹴、践踏(せんとう)なり、乞人、丐乞(かいきつ)の人なり、不屑、以て潔と爲さざるなり、言えらく、食を欲するの急と雖も、猶礼無きを悪み、寧(むしろ)死して食さざる者有り、是れ其羞悪の本心、欲悪生死より甚だしきもの有り、人皆之有るなり、

通し番号 690 章内番号 7 章通し番号 150 識別番号 11_10_7
本文
万鍾は則ち礼義を弁ぜすして之を受く、万鍾我に何をか加えん、宮室の美、妻妾の奉、識る所の窮乏の者我に得る爲か、
朱注
爲、去声、与、平声、○万鍾我に何をか加えんは、我身に増益する所無きを言うなり、識る所の窮乏の者我に得るは、知識する所の窮乏の者我の恵を感ずるを謂うなり、上は人皆羞悪の心有りと言い、此は、衆人之を喪(うしな)う所以は、此三なるものに由ることを言う、蓋し理義の心固より有りと曰うと雖も、物欲の蔽(へい)、亦人昏(まよ)い易き所なり、

通し番号 691 章内番号 8 章通し番号 150 識別番号 11_10_8
本文
郷(さき)に身死するが爲にして受けず、今宮室の美の爲に之を爲す、郷(さき)に身死するが爲にして受けず、今妻妾の奉の爲に之を爲す、郷(さき)に身死するが爲にして受けず、今識る所の窮乏の者我に得る爲に之を爲す、是れ亦以て已(や)むべからざるか、此を之其本心を失うと謂う、
朱注
郷爲、並去声、爲之の爲、並(みな)字の如し、○言えらく、三なるものは身外の物なり、其得失は生死に比して甚だ軽しと爲す、郷(さき)に身死するが爲にして猶嘑蹴(こしゅく)の食を受けるを肯(がえん)ぜず、今乃ち此三なるものの爲にして礼義無きの万鍾を受く、是れ豈以て止(や)めるべからざらんや、本心は、羞悪の心を謂う、○此章言えらく、羞悪の心は、人固より有する所なり、能く死生を危迫の際に決すること或(あ)り、而るに豊約を宴安(えんあん)の時に計るを免れず、是を以て君子頃刻に斯(これ)を省察せざるべからず、


章番号 11 章通し番号 151

通し番号 692 章内番号 1 章通し番号 151 識別番号 11_11_1
本文
孟子曰く、仁は、人の心なり、義は、人の路(みち)なり、
朱注
仁は心の徳なり、程子謂う所の心は穀種の如く、仁は則ち其生じるの性なり、是れなり、然れども但(ただ)之を仁と謂えば、則ち人其己に切になることを知らず、故に反りて之を名づけて人の心と曰う、則ち以て其此身万変に酬酢(しゅうさく)するの主爲(た)りて、須臾(しゅゆ)も失うべからざるを見るべし、義は事を行うの宜なり、之を人の路と謂えば、則ち以て其出入往來必ず由るの道と爲りて、須臾も舍(す)てるべからざるを見るべし、

通し番号 693 章内番号 2 章通し番号 151 識別番号 11_11_2
本文
其路を舍(す)てて由らず、其心を放ちて求めることを知らず、哀しいかな、
朱注
舍、上声、○哀哉の二字、最も宜しく詳しく味わうべし、人をして惕然(てきぜん)として深く省(かえりみ)る処(ところ)有らしむ、

通し番号 694 章内番号 3 章通し番号 151 識別番号 11_11_3
本文
人は雞犬の放(はな)れること有れば、則ち之を求めることを知る、心を放つこと有りて、求めることを知らず、
朱注
程子曰く、心至りて重し、雞犬至りて軽し、雞犬放(はな)れれば則ち之を求めることを知る、心放れれば則ち求めることを知らず、豈其の至りて軽きを愛(おし)みて其の至りて重きを忘れんや、思わざるのみ、愚謂えらく、上は仁義を兼(とも)に言いて、此下は専ら放心を求めるを論じるは、能く放心を求めれば、則ち仁に違(たが)わずして義其中に在る、

通し番号 695 章内番号 4 章通し番号 151 識別番号 11_11_4
本文
学問の道他無し、其放心を求めるのみ、
朱注
学問の事、固より一端に非ず、然れども其道は則ち其放心を求めるに在るのみ、蓋し能く是如ければ、則ち志気清明、義理昭著、而して以て上達すべし、然らざれば、則ち昏昧(こんまい)放逸(ほういつ)、学に従事すると曰うと雖も、終(つい)に発明する所有ること能わず、故に程子曰く、聖賢の千言万語、只是れ人已に放つの心を将(え)て、之を約し反(かえ)り復し身に入り来らしめ、自ら能く尋ねて向上し去り、下学して上達することを欲するなり、此乃ち孟子切要の言を開示し、程子又(さら)に之を発明し、曲(つぶさ)に其指を尽す、学ぶ者宜しく服膺(ふくよう)して失うことなかるべし、


章番号 12 章通し番号 152

通し番号 696 章内番号 1 章通し番号 152 識別番号 11_12_1
本文
孟子曰く、今無名の指、屈して信(の)びざる有り、疾痛し事を害するに非ざるなり、如(も)し能く之を信(の)ばす者有れば、則ち秦楚の路を遠しとせず、指の人に若かざる爲なり、
朱注
信、伸と同じ、爲、去声、○無名の指、手の第四指なり、

通し番号 697 章内番号 2 章通し番号 152 識別番号 11_12_2
本文
指人に若かざれば、則ち之を悪(にく)むを知る、心人に若かざれば、則ち悪むを知らず、此を之類を知らずと謂うなり、
朱注
惡、去声、○類を知らずは、其軽重の等を知らざるを言うなり、


章番号 13 章通し番号 153

通し番号 698 章内番号 1 章通し番号 153 識別番号 11_13_1
本文
孟子曰く、拱(きょう)把(は)の桐(どう)梓(し)、人苟(いやしく)も之を生かさんと欲すれば、皆以て之を養う所のものを知る、身に至りて、以て養う所のものを知らず、豈身を愛すること桐梓に若かざらんや、思わざること甚だしきなり、
朱注
拱、両手囲む所なり、把、一手握る所なり、桐、梓、二木の名なり、


章番号 14 章通し番号 154

通し番号 699 章内番号 1 章通し番号 154 識別番号 11_14_1
本文
孟子曰く、人の身に於るや、兼(おな)じく愛する所なり、兼(おな)じく愛する所なれば、則ち兼(おな)じく養う所なり、尺寸の膚も愛さざること無ければ、則ち尺寸の膚も養わざること無きなり、以て其善不善を考える所は、豈他に有らんや、己に於て之を取るのみ、
朱注
人一身に於て、固より当に兼(おな)じく養うべし、然れども其養う所の善否を考えんと欲するは、惟(ただ)之を身に反し、以て其軽重を審(つまび)らかにするに在るのみ、

通し番号 700 章内番号 2 章通し番号 154 識別番号 11_14_2
本文
体に貴賎有り、小大有り、小以て大を害すること無かれ、賎以て貴を害すること無かれ、其小を養う者は小人と爲る、其大を養う者は大人と爲る、
朱注
賎にして小なるものは、口腹なり、貴にして大なるものは、心志なり、

通し番号 701 章内番号 3 章通し番号 154 識別番号 11_14_3
本文
今場師有り、其梧(ご)檟(か)を舍(す)て、其樲棘(じきょく)を養わば、則ち賎場師と爲す、
朱注
舍、上声、檟、音は賈、樲、音は貳、○場師、場圃(ほ)を治める者なり、梧、桐(きり)なり、檟、梓(あずさなり、皆美材なり、樲棘(じきょく)は、小棗(しょうそう)なり、美材に非ざるなり、

通し番号 702 章内番号 4 章通し番号 154 識別番号 11_14_4
本文
其一指を養いて其肩背を失う、而して知らざるなり、則ち狼疾の人と爲すなり、
朱注
狼は善く顧る、疾(や)めば則ち能わず、故に以て肩背を失うの喩(たと)えと爲す、

通し番号 703 章内番号 5 章通し番号 154 識別番号 11_14_5
本文
飮食の人、則ち人之を賎(いや)しむ、其小を養い以て大を失う爲なり、
朱注
爲、去声、○飮食の人は、専ら口腹を養う者なり、

通し番号 704 章内番号 6 章通し番号 154 識別番号 11_14_6
本文
飮食の人、失うこと有ること無ければ、則ち口腹豈適(ただ)に尺寸の膚の爲ならんや、
朱注
此言えらく、若(もし)専ら口腹を養いて、能く其大体を失わざらしめば、則ち口腹の養は、軀命(くめい)に関(かか)わる所にして、但(ただ)尺寸の膚の爲のみならず、但し小を養うの人、其大を失わざる者無し、故に口腹当に養うべき所と雖も、終に小以て大を害し、賎は貴を害すべからざるなり、


章番号 15 章通し番号 155

通し番号 705 章内番号 1 章通し番号 155 識別番号 11_15_1
本文
公都子問いて曰く、鈞(ひと)しく是れ人なり、或いは大人と爲り、或いは小人と爲る、何ぞや、孟子曰く、其大体に従えば大人と爲る、其小体に従えば小人と爲る、
朱注
鈞、同なり、従、随なり、大体、心なり、小体、耳目の類なり、

通し番号 706 章内番号 2 章通し番号 155 識別番号 11_15_2
本文
曰く、鈞(ひと)しく是れ人なり、或いは其大体に従い、或いは其小体に従う、何ぞや、曰く、耳目の官は思わずして、物に蔽(おお)われる、物が物に交われば、則ち之を引くのみ、心の官は則ち思う、思えば則ち之を得る、思わざれば則ち得ざるなり、此は天の我に与える所のものにして、先に其大なるものに乎(おい)て立てば、則ち其小なるもの奪うこと能わざるなり、此は大人と爲るのみ、
朱注
官の言爲(た)るは、司(つかさど)るなり、耳は聴を司る、目は視を司る、各(おのおの)職(つとめ)とする所有り、而るに思うこと能わず、是を以て外物に蔽(おお)われる、既に思うこと能わずして、外物に蔽(おお)われば、則ち亦一物のみ、又(さら)に外物以て此物に於て交われば、其之を引きて去ること難からず、心は則ち能く思いて、思うこと以て職と爲す、凡そ事物の来るに、心其職を得れば、則ち其理を得て、物蔽うこと能わず、其職を失えば、則ち其理を得ずして、物来たりて之を蔽う、此三なるものは、皆天の以て我に与える所のものなり、而して心大と爲す、若し能く以て之を立てること有れば、則ち事思わざる無し、而して耳目の欲之を奪うこと能わず、此が大人と爲る所以なり、然れども此天の此、旧本多く比に作りて、趙注亦比方以て之を釈す、今本既に多く此に作りて、注亦此に作る、乃ち未だ孰れが是なるか詳らかならず、但し比の字に作るは、義に於て短と爲す、故に且(しばら)く今本に従いて云う、○范浚(はんしゅん)の心箴(しん)曰く、茫茫(ぼうぼう)たる堪輿(たんよ)、俯仰して垠(ぎん)無し、人其間に於て、眇然(びょうぜん)として身有り、是身の微、大倉の稊米(ていまい)、参じて三才と爲す、曰く惟(ただ)心のみ、往古来今、孰(いず)れか此心無し、心が形の役と爲れば、乃ち獣なり乃ち禽なり、惟(ただ)口耳目、手足の動静、間に投じ隙(げき)に抵(いた)り、厥(その)心の病と爲る、一心の微、衆欲之を攻む、其与(くみ)し存する者は、嗚呼(ああ)幾希(すくな)し、君子誠を存し、克(よ)く念(おも)い克(よ)く敬す、天君泰然たり、百体令に従う、


章番号 16 章通し番号 156

通し番号 707 章内番号 1 章通し番号 156 識別番号 11_16_1
本文
孟子曰く、天爵なるもの有り、人爵なるもの有り、仁義忠信、善を楽しみ倦(う)まざるは、此天爵なり、公卿大夫は、此人爵なり、
朱注
樂、音は洛、○天爵は、徳義なり、尊(たっと)ぶべき自然の貴なり、

通し番号 708 章内番号 2 章通し番号 156 識別番号 11_16_2
本文
古の人は、其天爵を脩めて、人爵之に従う、
朱注
其天爵を脩めるは、以て吾が分の当に然るべき所のものを爲すのみ、人爵之に従うは、蓋し之を求めるを待たずして自ずから至るなり、

通し番号 709 章内番号 3 章通し番号 156 識別番号 11_16_3
本文
今の人、其天爵を脩め、以て人爵を要(もと)む、既に人爵を得て、其天爵を棄てるは、則ち惑の甚だしき者なり、終に亦必ず亡(うしな)うのみ、
朱注
要、音は邀、○要、求なり、天爵を脩め以て人爵を要(もと)むは、其心固より已に惑(まど)う、人爵を得て天爵を棄てるは、則ち其惑い又(さら)に甚だし、終に必ず其得る所の人爵を幷(あわ)せて之を亡(うしな)うなり、


章番号 17 章通し番号 157

通し番号 710 章内番号 1 章通し番号 157 識別番号 11_17_1
本文
孟子曰く、貴を欲するは、人の同じ心なり、人人己に貴(とうと)きもの有り、思わざるのみ、
朱注
己に貴きものは、天爵を謂うなり、

通し番号 711 章内番号 2 章通し番号 157 識別番号 11_17_2
本文
人が貴(とうと)くする所のものは、良貴に非ざるなり、趙孟の貴くする所は、趙孟能く之を賎(いや)しくす、
朱注
人が貴くする所は、人爵位以て己に加えて後に貴きを謂うなり、良は、本然の善なり、趙孟、晋の卿なり、能く爵禄以て人に与えて之を貴ならしめば、則ち亦能く之を奪いて之をして賎ならしむ、良貴の若きは、則ち人安ぞ得て之を賎とせんや、

通し番号 712 章内番号 3 章通し番号 157 識別番号 11_17_3
本文
詩に云う、既に酔うに酒を以てし、既に飽(あ)くに徳を以てす、仁義に飽くを言うなり、人の膏(こう)粱(りょう)の味を願わざる所以なり、令聞広誉身に施す、人の文繡(ぶんしゅう)を願わざる所以なり、
朱注
聞、去声、○詩、大雅既酔の篇、飽、充足なり、願、欲なり、膏、肥肉なり、粱、美穀なり、令、善なり、聞、亦誉なり、文繡、衣の美しきものなり、仁義充足而聞誉彰著なり、皆謂う所の良貴なり、○尹氏曰く、我に在るもの重ければ、則ち外物軽きを言う、


章番号 18 章通し番号 158

通し番号 713 章内番号 1 章通し番号 158 識別番号 11_18_1
本文
孟子曰く、仁の不仁に勝つや、猶水が火に勝つがごとし、今の仁を爲す者は、猶一杯の水を以て、一車の薪(しん)の火を救(とめ)るがごときなり、熄(や)まざれば、則ち之を水は火に勝たずと謂う、此は又不仁に与(くみす)るの甚だしきものなり、
朱注
與、猶助のごときなり、仁が能く不仁に勝つは、必然の理なり、但し之を爲し力(つと)めざれば、則ち以て不仁に勝つこと無し、而るに人遂に以爲(おも)えらく真に勝つこと能わずと、是れ我の爲す所が、以て深く不仁を助けるもの有るなり、

通し番号 714 章内番号 2 章通し番号 158 識別番号 11_18_2
本文
亦終(つい)に必ず亡(うしな)うのみ、
朱注
言えらく、此人の心、亦且(まさ)に自(おの)ずから仁を爲すに於て怠らんとす、終に必ず其爲す所を幷(あわ)せて之を亡なう、○趙氏曰く、仁を爲して至らず、而るに諸(これ)を己に反(かえりみ)ざるを言うなり、


章番号 19 章通し番号 159

通し番号 715 章内番号 1 章通し番号 159 識別番号 11_19_1
本文
孟子曰く、五穀は、種の美なるものなり、苟(もし)熟さずと爲せば、荑稗(ていはい)に如かず、夫(それ)仁亦之を熟するに在るのみ、
朱注
荑、音は蹄、稗、蒲賣反、夫、音は扶、○荑稗、草の穀に似るものなり、其実亦食すべし、然れども五穀の美に如(し)くこと能わざるなり、但し五穀熟さざれば、則ち反て荑稗(ていはい)の熟するに如かず、猶仁を爲して熟さざれば、則ち反て他道を爲すの成有るに如かず、是を以て仁を爲すは必ず熟するに乎(おい)て貴し、而して徒らに其種の美を恃(たの)むべからず、又仁の熟し難きを以てして、他道を爲すの成有るを甘しとすべからざるなり、○尹氏曰く、日に新しくして已まざれば則ち熟す、


章番号 20 章通し番号 160

通し番号 716 章内番号 1 章通し番号 160 識別番号 11_20_1
本文
孟子曰く、羿(げい)の人に射を教えるは、必ず彀(こう)に志す、学ぶ者亦必ず彀に志す、
朱注
彀、古候反、○羿、射を善くする者なり、志、猶期のごときなり、彀、弓満つるなり、満たして後に発す、射の法なり、学、射を学ぶを謂う、

通し番号 717 章内番号 2 章通し番号 160 識別番号 11_20_2
本文
大匠(たいしょう)人に誨(おし)えるに、必ず規矩(きく)を以てす、学者亦必ず規矩を以てす、
朱注
大匠、工師なり、規矩、匠の法なり、○此章言えらく、事必ず法有り、然る後成るべし、師是を舍(す)てれば則ち以て教えること無し、弟子是を舍てれば則ち以て学ぶこと無し、曲芸且(なお)然り、況んや聖人の道をや、


12 告子章句下 gaò zǐ zhāng jù xià

章番号 1 章通し番号 161

通し番号 718 章内番号 1 章通し番号 161 識別番号 12_1_1
本文
任(じん)人屋廬子(おくろし)に問うこと有りて曰く、礼と食孰れが重し、曰く、礼重し、
朱注
任、平声、○任、国名、屋廬子、名は連、孟子の弟子なり、

通し番号 719 章内番号 2 章通し番号 161 識別番号 12_1_2
本文
色と礼と孰れが重し、
朱注
任人復(また)問うなり、

通し番号 720 章内番号 3 章通し番号 161 識別番号 12_1_3
本文
曰く、礼重し、曰く、礼以て食すれば、則ち飢えて死す、礼以て食さざれば、則ち食を得る、必ず礼以てするか、親迎(しんげい)すれば、則ち妻を得ず、親迎せざれば、則ち妻を得る、必ず親迎するか、
朱注
迎、去声、

通し番号 721 章内番号 4 章通し番号 161 識別番号 12_1_4
本文
屋廬子対(こた)えること能わず、明日(みょうにち)鄒(すう)に之(ゆ)き以て孟子に告ぐ、孟子曰く、是に答えるに於(おい)て何か有らん、
朱注
於、字の如し、○何か有らんは、難しからざるなり、

通し番号 722 章内番号 5 章通し番号 161 識別番号 12_1_5
本文
其本を揣(はか)らずして其末を斉(ひと)しくせば、方寸の木、岑樓(しんろう)より、高からしむべし
朱注
揣、初委反、○本、下を謂う、末、上を謂う、方寸の木は至りて卑(ひく)し、食色に喩える、岑樓(しんろう)は、樓の高く鋭く山に似るものなり、至りて高し、礼に喩える、若(も)し其下の平(ひと)しきを取らずして、寸木を岑樓の上に升(のぼ)せば、則ち寸木反て高く、岑樓反て卑(ひく)し、

通し番号 723 章内番号 6 章通し番号 161 識別番号 12_1_6
本文
金(かね)が羽より重きは、豈一鉤(こう)の金と一輿(よ)の羽の謂(いい)を謂わんや、
朱注
鉤、帯鉤(たいこう)なり、金は本重くして帯鉤は小さし、故に軽し、礼は食色より軽きもの有るに喩える、羽は本軽くして一輿は多し、故に重し、食色礼より重きもの有るに喩える、

通し番号 724 章内番号 7 章通し番号 161 識別番号 12_1_7
本文
食の重きものを取りて、礼の軽きものと之を比せば、奚ぞ翅(ただ)に食重きのみならんや、色の重きものを取りて、礼の軽きものと之を比せば、奚ぞ翅(ただ)に色重きのみならんや、
朱注
翅、啻と同じ、古字通用す、施智反、○礼食、親迎、礼の軽きものなり、飢えて死し以て其性を滅ぼし、妻を得ずして人倫を廃するは、食色の重きものなり、奚翅は、猶何ぞ但(ただ)にと言うがごとし、其相去り懸絶(けんぜつ)すること、但(ただ)に軽重の差のみに有らずを言う、

通し番号 725 章内番号 8 章通し番号 161 識別番号 12_1_8
本文
往きて之に応(こた)えて曰え、兄の臂(うで)を紾(ねじ)りて之が食を奪えば、則ち食を得る、紾(ねじ)らざれば、則ち食を得ず、則ち将に之を紾(ねじ)らんとするか、東家の牆(かき)を踰(こ)えて其処子を摟(ひ)けば、則ち妻を得る、摟(ひ)かざれば、則ち妻を得ず、則ち将に之を摟(ひ)かんとするか、
朱注
紾、音は軫、摟、音は婁、○紾(てん)、戾(れい)なり、摟(ろう)、牽(けん)なり、処子、処女なり、此二は、礼と食色皆其重きものにして、之を以て相較(くら)べれば、則ち礼尤(もっと)も重しと爲すなり、此章言えらく、義理事物、其軽重固より大分(たいぶん)有り、然れども其中に於て、又各(おのおの)自ずから軽重の別有り、聖賢此に於て、錯綜(さくそう)し斟酌(しんしゃく)し、毫髮(ごうはつ)差(たが)わず、固より尺を枉(ま)げて尋(じん)を直(なお)くするを肯(がえん)ぜず、亦未だ嘗て柱(ちゅう)に膠(にかわ)して瑟(しつ)を調(しら)べず、以て之を断ずる所は、一に理の当然に於て視るのみ、


章番号 2 章通し番号 162

通し番号 726 章内番号 1 章通し番号 162 識別番号 12_2_1
本文
曹交問いて曰く、人皆以て堯舜と爲るべし、諸有りや、孟子曰く、然り、
朱注
趙氏曰く、曹交は、曹君の弟なり、人は皆以て堯舜と爲るべしは、疑うらくは古語なり、或いは孟子嘗て言う所なり、

通し番号 727 章内番号 2 章通し番号 162 識別番号 12_2_2
本文
交聞く、文王十尺、湯九尺、今、交九尺四寸以て長し、粟(ぞく)を食するのみ、如何(いかん)すれば則ち可か、
朱注
曹交問うなり、粟を食するのみは、他の材能無きを言うなり、

通し番号 728 章内番号 3 章通し番号 162 識別番号 12_2_3
本文
曰く、奚(なん)ぞ是に有らん、亦(ただ)之を爲すのみ、人此に有り、力、一匹雛(ぼくすう)に勝(た)えること能わざれば、則ち力無き人と爲す、今、百鈞(きん)を挙げると曰わば、則ち力有る人と爲す、然らば則ち烏獲(うかく)の任を挙げれば、是亦烏獲爲(た)るのみ、夫人豈勝(た)えざる以て患いと爲さんや、爲さざるのみ、
朱注
勝、平声、○匹(ひつ)の字、本鴄(ひつ)に作る、鴨(おう)なり、省(はぶ)くことに従(よ)り匹と作す、礼記の説は、匹(ぼく)は鶩(ぼく)と爲す、是れなり、烏獲(うかく)、古の力有る人なり、能く千鈞を挙げ移す、

通し番号 729 章内番号 4 章通し番号 162 識別番号 12_2_4
本文
徐行して長者に後る、之を弟と謂う、疾行して長者に先んず、之を不弟と謂う、夫(それ)徐行は、豈人の能わざる所かな、爲さざる所なり、堯舜の道は、孝弟のみ、
朱注
後、去声、長、上声、先、去声、夫、音は扶、○陳氏曰く、孝弟は、人の良知良能にして、自然の性なり、堯舜人倫の至りなり、亦(ただ)是(この)性に率(したが)うのみ、豈能く毫末を是に加えんや、楊氏曰く、堯舜の道大なり、而るに以て之を爲す所は、乃ち夫(その)行止疾徐の間に在り、甚だ高くして行い難きの事有るに非ざるなり、百姓蓋し日に用いて知らざるのみ、

通し番号 730 章内番号 5 章通し番号 162 識別番号 12_2_5
本文
子堯の服を服し、堯の言を誦(い)い、堯の行を行えば、是れ堯のみ、子桀の服を服とし、桀の言を誦(い)い、桀の行を行えば、是れ桀のみ、
朱注
之行の二つの行は、並(みな)去声、○善を爲し悪を爲すは、皆我に在るのみと言う、曹交の問を詳らかにするに、浅陋麤(そ)率、必ず其進み見(まみ)えるの時、礼貌衣冠言動の間、多く理に循(したが)わず、故に孟子之に告ぐ、此両節の如く云う、

通し番号 731 章内番号 6 章通し番号 162 識別番号 12_2_6
本文
曰く、交は鄒(すう)君に見(まみ)えることを得ば、以て館を仮るべし、願わくば留まりて業を門に受けん、
朱注
見、音現、○館を仮りて後業を受く、又其道を求めるの篤からざるを見るべし、

通し番号 732 章内番号 7 章通し番号 162 識別番号 12_2_7
本文
曰く、夫(それ)道は、大路の若き然(なり)、豈知り難きかな、人、求めざるを病(や)むのみ、子帰りて之を求めれば、余師有り、
朱注
夫、音は扶、○言えらく、道は知り難からず、若(もし)帰りて之を親に事(つか)え長を敬するの閒に求めれば、則ち性分の内、万理皆備わり、隨処に発見す、師とすべからざる無し、必ずしも此に留まりて業を受けざるなり、○曹交は長に事えるの礼既に至らず、道を求めるの心又篤(あつ)からず、故に孟子之に教えるに孝弟以てして、其業を受けるを容(い)れず、蓋し孔子の余力ありて文を学ぶの意にして、亦(ただ)之に教誨(かい)するを屑(いさぎよ)しとせざるなり、


章番号 3 章通し番号 163

通し番号 733 章内番号 1 章通し番号 163 識別番号 12_3_1
本文
公孫丑問いて曰く、高子曰く、小弁は、小人の詩なり、孟子曰く、何を以て之を言う、曰く、怨む、
朱注
弁、音は盤、○高子、斉人なり、小弁、小雅の篇名、周の幽王申后を娶(めと)り、太子宜臼(ぎきゅう)を生む、又褒姒(ほうじ)を得て、伯服を生む、而して申后を黜(しりぞ)け、宜臼を廃す、是に於て宜臼の傅(ふ)、爲に此詩を作り、以て其哀痛迫切の情を敘(の)べるなり、

通し番号 734 章内番号 2 章通し番号 163 識別番号 12_3_2
本文
曰く、固なるかな、高叟(そう)の詩を爲(おさ)めるや、人此に有り、越人弓を関(ひ)きて之を射る、則ち己談(かた)り笑いて之を道(い)わん、他無し、之に疏(とお)きなり、其兄弓を関(ひ)きて之を射る、則己涕(なみだ)を垂(た)らし、泣いて之を道(い)わん、他無し、之と戚なり、小弁の怨は、親(おや)を親(あい)するなり、親を親(あい)すは、仁なり、固なる夫(かな)、高叟の詩を爲(おさ)めるや、
朱注
關、彎と同じ、射、食亦反、夫、音は扶、○固、執滞(しったい)して通ぜざるを謂うなり、爲、猶治のごときなり、越、蛮夷の国名、道、語なり、親を親(あい)するの心は、仁の発なり、

通し番号 735 章内番号 3 章通し番号 163 識別番号 12_3_3
本文
曰く、凱風(がいふう)何を以て怨みざる、
朱注
凱風、邶風(はいふう)の篇名、衛に七子の母有り、其室に安んずること能わず、七子此を作り以て自ら責めるなり、

通し番号 736 章内番号 4 章通し番号 163 識別番号 12_3_4
本文
曰く、凱風は、親(おや)の過ち小なるものなり、小弁は、親の過ち大なるものなり、親の過ち大にして怨みざるは、是れ愈(ますます)疏(うと)きなり、親の過ち小にして怨むは、是れ磯(き)すべからざるなり、愈(ますます)疏きは、不孝なり、磯すべからざるは、亦不孝なり、
朱注
磯、音は機、○磯、水が石に激するなり、磯すべからざるは、微にして之に激して遽(にわ)かに怒るを言うなり、

通し番号 737 章内番号 5 章通し番号 163 識別番号 12_3_5
本文
孔子曰く、舜は其至孝なり、五十にして慕(おも)う、
朱注
言えらく、舜猶怨慕する、小弁の怨みは、不孝と爲さざるなり、○趙氏曰く、之を膝下に生み、一体にして分かる、喘息呼吸し、気は親に通ず、親に当たりて疏ければ、怨慕して天を号(よ)ぶ、是を以て小弁の怨は、未だ愆(あやまち)と爲すに足らざるなり、


章番号 4 章通し番号 164

通し番号 738 章内番号 1 章通し番号 164 識別番号 12_4_1
本文
宋牼(そうこう)将に楚に之かんとす、孟子は石丘に於て遇(あ)う、
朱注
牼、口莖反、○宋は、姓、牼は、名、石丘は、地名なり、

通し番号 739 章内番号 2 章通し番号 164 識別番号 12_4_2
本文
曰く、先生将に何(いずく)に之(ゆ)かんとす、
朱注
趙氏曰く、学士の年長なる者なり、故に之を先生と謂う、

通し番号 740 章内番号 3 章通し番号 164 識別番号 12_4_3
本文
曰く、吾秦楚兵を構(かま)うと聞く、我将に楚王に見(まみ)え、説(と)いて之を罷(や)めんとす、楚王悦(よろこ)ばざれば、我將に秦王に見え、説きて之を罷めんとす、二王我将に遇(あ)う所有らんとす、
朱注
説、音は税、○時に宋牼(そうこう)方(まさ)に楚王に見えんと欲す、其悦ばざるを恐る、則ち将に秦王に見えんとするなり、遇、合なり、荘子書を按ずるに、宋鈃(そうけい)なる者有り、攻を禁(と)め兵を寝(や)め、世の戦いを救(とめ)る、上に説き下に教う、強く聒(かまびす)しくし舍(や)めず、疏に云う、斉の宣王の時の人なり、事以て之を考えるに、疑うらくは即ち此人なり、

通し番号 741 章内番号 4 章通し番号 164 識別番号 12_4_4
本文
曰く、軻や請う、其詳を問うこと無し、願わくば其指を聞かん、之に説くに将に何如(いかん)せんとす、曰く、我将に其利ならざるを言わんとするなり、曰く、先生の志は則ち大なり、先生の号は則ち不可なり、
朱注
徐氏曰く、能く戦国擾攘(じょうじょう)の中に於て、兵を罷(や)め民を息(いこ)うを以て説と爲すは、其志大と謂うべし、然れども利以て名と爲すは、則ち不可なり、

通し番号 742 章内番号 5 章通し番号 164 識別番号 12_4_5
本文
先生利以て秦楚の王に説けば、秦楚の王利に悦んで、以て三軍の師を罷(や)む、是れ三軍の士罷(や)めるを楽しみて利を悦ぶなり、人臣爲(た)る者、利を懐(おも)い以て其君に事える、人の子爲(た)る者、利を懐(おも)い以て其父に事える、人の弟爲(た)る者、利を懐(おも)い以て其兄に事える、是れ君臣父子兄弟、終(つい)に仁義を去り、利を懐(おも)い以て相接す、然り而して亡びざる者、未だ之有らざるなり、
朱注
樂、音は洛、下同じ、

通し番号 743 章内番号 6 章通し番号 164 識別番号 12_4_6
本文
先生仁義以て秦楚の王に説けば、秦楚の王仁義に悦びて、三軍の師を罷める、是れ三軍の士罷めるを楽しみて仁義を悦ぶなり、人臣爲(た)る者、仁義を懐(おも)い以て其君に事える、人の子爲(た)る者、仁義を懐(おも)い以て其父に事える、人の弟爲る者、仁義を懐(おも)い以て其兄に事える、是れ君臣父子兄弟、利を去り仁義を懐(おも)い以て相接するなり、然り而して王たらざる者、未だ之有らざるなり、何ぞ必ず利を曰わん、
朱注
王、去声、○此章言えらく、兵を休(や)め民を息(いこ)う、事を爲すは則ち一なり、然れども其心は義利の殊(こと)なること有り、而して其效は興亡の異なること有り、学ぶ者当に深く察して明らかに之を弁ずるべき所なり、


章番号 5 章通し番号 165

通し番号 744 章内番号 1 章通し番号 165 識別番号 12_5_1
本文
孟子鄒に居る、季任(きじん)任の処守(しょしゅ)爲(た)り、幣以て交わる、之を受けて報ぜず、平陸に処(お)る、儲子(ちょし)相爲(た)り、幣以て交わる、之を受けて報ぜず、
朱注
任、平声、相、去声、下同じ、○趙氏曰く、季任(きじん)は、任(じん)の君の弟なり、任君鄰国に於て朝会す、季任之が爲に其国を居守するなり、儲子、斉の相なり、報ぜざるは、来り見(あ)えば則ち当に之に報ずべし、但(ただ)幣以て交われば、則ち必ずしも報ぜざるなり、

通し番号 745 章内番号 2 章通し番号 165 識別番号 12_5_2
本文
他日鄒由(よ)り任に之(ゆ)く、季子に見(あ)う、平陸由(よ)り斉に之く、儲子(きし)に見(あ)わず、屋廬子(おくろし)喜んで曰く、連、間を得る、
朱注
屋廬子は孟子の此を処するは、必ず義理有るを知る、故に其間隙(かんげき)を得て之を問うを喜ぶ、

通し番号 746 章内番号 3 章通し番号 165 識別番号 12_5_3
本文
問いて曰く、夫子(ふうし)任(じん)に之き季子に見(あ)う、斉に之き儲子(ちょし)に見(あ)わず、其相爲(た)る爲(ため)か、
朱注
爲其の爲、去声、下同じ、与、平声、○言えらく、儲子但(ただ)斉の相爲(た)り、季子君位を摂(と)り守るに若かず、故に之を軽んずるか、

通し番号 747 章内番号 4 章通し番号 165 識別番号 12_5_4
本文
曰く、非なり、書に曰く、享(きょう)は儀(ぎ)を多くす、儀が物に及ばざるは享さずと曰う、惟(これ)志(こころ)を享に役(もち)いず、
朱注
書、周書洛誥(らくこう)の篇なり、享、上に奉ずるなり、儀、礼なり、物、幣なり、役、用なり、言えらく、享すと雖も、礼の意其幣に及ばざれば、則ち是れ享ならず、其志を享に用いざるの故を以てなり、

通し番号 748 章内番号 5 章通し番号 165 識別番号 12_5_5
本文
其享(きょう)を成さざる爲(ため)なり、
朱注
孟子書の意を釈す此如し、

通し番号 749 章内番号 6 章通し番号 165 識別番号 12_5_6
本文
屋廬子悦ぶ、或るひと之に問う、屋廬子曰く、季子は鄒に之くことを得ず、儲子は平陸に之くことを得る、
朱注
徐氏曰く、季子は君の爲に居(お)り守る、他国に往き以て孟子に見(あ)うことを得ず、則ち幣以て交わり、礼の意已に備わる、儲子は斉の相爲(た)り、以て斉の境内(きょうない)に至るべくして来り見(あ)わず、則ち幣以て交わると雖も、礼の意其物に及ばざるなり、


章番号 6 章通し番号 166

通し番号 750 章内番号 1 章通し番号 166 識別番号 12_6_1
本文
淳于髠(じゅんうこん)曰く、名実を先にする者は、人の爲(ため)にするなり、名実を後にする者は、自らの爲(ため)にするなり、夫子三卿の中に在り、名実未だ上下に加(くわ)わらずして之を去る、仁者固より此如きか、
朱注
先、後、爲、皆去声、○名、声誉なり、身、事功なり、言えらく、名実以て先と爲して之を爲す者は、是れ民を救うに志有る者なり、名実以て後と爲して爲さざる者は、是れ独り其身を善くするを欲する者なり、名実未だ上下に加(くわ)わらずは、上未だ其君を正すこと能わず、下は未だ其民を済(すく)うこと能わざるを言うなり、

通し番号 751 章内番号 2 章通し番号 166 識別番号 12_6_2
本文
孟子曰く、下位に居り、賢以て不肖に事えざる者は、伯夷なり、五たび湯に就き、五たび桀に就く者は、伊尹なり、汙君を悪まず、小官を辞せざる者は、柳下恵なり、三子(し)は道を同じくせず、其趨(すう)一なり、一は何ぞや、曰く、仁なり、君子亦(ただ)仁のみ、何ぞ必ず同じからん、
朱注
悪、趨、並(みな)去声、○仁は、私心無くて天理に合うの謂(いい)なり、楊氏曰く、伊尹の湯に就くや、三聘(へい)の勤以てするなり、其桀に就くや、湯之を進むなり、湯豈桀を伐つの意有るかな、其伊尹を進め以て之に事えるや、其過ちを悔い善に遷(うつ)るを欲するのみ、伊尹既に湯に就けば、則ち湯の心以て心と爲す、其終りに及ぶや、人之に帰し、天之に命ず、已むを得ずして之を伐つのみ、若(もし)湯初めて伊尹を求めるに、即ち桀を伐つの心有りて、伊尹遂に之を相(たす)け以て桀を伐てば、是れ天下を取るを以て心と爲すなり、天下を取るを以て心と爲せば、豈聖人の心かな、

通し番号 752 章内番号 3 章通し番号 166 識別番号 12_6_3
本文
曰く、魯の繆公(ぼくこう)の時、公儀子が政を爲す、子柳、子思臣爲(た)り、魯の削らるるや滋(ますます)甚だし、是若きか、賢者の国に益無きや、
朱注
公儀子、名休、魯の相と爲る、子柳、泄柳(せつりゅう)なり、削、地侵奪される(見)なり、髠は孟子去らずと雖も、亦未だ必ずしも能く爲すこと有らざるを譏(そし)るなり、

通し番号 753 章内番号 4 章通し番号 166 識別番号 12_6_4
本文
曰く、虞(ぐ)は百里奚(ひゃくりけい)を用いずして亡ぶ、秦の穆公は之を用いて霸たり、賢を用いざれば則ち亡ぶ、削らるることを何ぞ得べきか、
朱注
与、平声、○百里奚、事前篇に見ゆ、

通し番号 754 章内番号 5 章通し番号 166 識別番号 12_6_5
本文
曰く、昔者(むかし)王豹(おうひょう)淇(き)に処(お)る、而して河西善く謳(うた)う、綿駒(めんく)高唐に処(お)る、而して斉右善く歌う、華周、杞梁(きりょう)の妻善く其夫を哭(こく)す、而して国俗を変える、諸を内に有すれば、必ず諸を外に形(あらわ)す、其事を爲して其功無き者は、髠未だ嘗て之を睹(み)ざるなり、是(この)故に賢者無きなり、有れば則ち髠必ず之を識る、
朱注
華、去声、○王豹、衛の人にして、善く謳(うた)う、淇(き)は、水の名なり、綿駒(めんく)、斉の人にして、善く歌う、高唐は、斉の西の邑なり、華周、杞梁、二人皆斉の臣なり、莒(きょ)に於て戦死す、其妻之を哭し哀(かな)しむ、国俗之に化し皆善く哭す、髠此を以て孟子斉に仕え功無く、未だ賢と爲すに足らざるを譏(そし)るなり、

通し番号 755 章内番号 6 章通し番号 166 識別番号 12_6_6
本文
曰く、孔子魯の司寇(しこう)と爲る、用いられず、従いて祭る、燔肉(はんにく)至らず、冕(べん)を税(ぬ)がずして行(さ)る、知らざる者は以て肉の爲(ため)と爲すなり、其知る者は以て礼無き爲(ため)と爲すなり、乃(そこ)で孔子は則ち微罪以て行(さ)ることを欲す、苟(いやしく)も去るを爲すを欲せず、君子の爲す所は、衆人固より識らざるなり、
朱注
税、音は脱、爲肉、爲無の爲、並(みな)去声、○史記を按ずるに、孔子魯の司寇と爲る、相の事を摂(と)り行う、斉人聞きて懼る、是に於て女楽以て魯君に遺(おく)る、季桓子は魯君と往き之を観る、政事を怠る、子路曰く、夫子(ふうし)以て行(さ)るべし、孔子曰く、魯今且(まさ)に郊せんとす、如(も)し膰(はん)を大夫に致せば、則ち吾猶以て止まるべし、桓子卒(つい)に斉の女楽を受ける、郊し又膰俎(はんそ)を大夫に致さず、孔子遂(つい)に行(さ)る、孟子言えらく、以て肉の爲(ため)と爲す者は、固より道(い)うに足らず、以て礼無き爲(ため)と爲すは、則ち亦未だ深く孔子を知る者と爲さず、蓋し聖人は父母の国に於て、其君相の失を顕(あらわ)すを欲せず、又故無くて苟も去るを爲すを欲せず、故に女楽を以て去らずして、膰肉を以て行(さ)る、其幾を見て明決して、意を用い忠厚し、固より衆人の能く識る所に非ざるなり、然らば則ち孟子の爲す所は、豈髠の能く識る所かな、○尹氏曰く、淳于髠未だ嘗て仁を知らず、亦未だ嘗て賢を識らざるなり、宜(うべ)なるかな、其言是若し、


章番号 7 章通し番号 167

通し番号 756 章内番号 1 章通し番号 167 識別番号 12_7_1
本文
孟子曰く、五霸は、三王の罪人なり、今の諸侯は、五霸の罪人なり、今の大夫は、今の諸侯の罪人なり、
朱注
趙氏曰く、五霸は、斉の桓、晋の文、秦の穆(ぼく)、宋の襄(じょう)、楚の荘なり、三王は、夏の禹、商の湯、周の文武なり、丁氏曰、夏の昆吾(こんご)、商の大彭(たいほう)、豕韋(しい)、周の斉の桓、晋の文、之を五霸と謂う、

通し番号 757 章内番号 2 章通し番号 167 識別番号 12_7_2
本文
天子が諸侯に適くを巡狩(じゅんしゅ)と曰う、諸侯が天子に朝するを述職(じゅつしょく)と曰う、春は耕を省(み)て足らざるを補う、秋は斂(れん)を省(み)て給(た)らざるを助く、其疆に入り、土地辟(ひら)け、田野治まり、老を養い賢を尊び、俊傑位に在れば、則ち慶有り、慶するに地を以てする、其疆に入り、土地荒蕪(こうぶ)、老を遺(す)て賢を失い、掊克(ほうこく)位に在れば、則ち讓(せめ)有り、一たび朝さざれば、則ち其爵を貶(おと)し、再び朝さざれば、則ち其地を削る、三たび朝さざれば、則ち六師之を移す、是故に天子は討(とう)して伐(ばつ)せず、諸侯は伐して討せず、五霸は、諸侯を摟(ひ)き以て諸侯を伐つものなり、故に曰く、五霸は、三王の罪人なり、
朱注
朝、音は潮、辟、闢(へき)と同じ、治、去声、○慶、賞なり、其地を益(ま)し以て之を賞するなり、掊克(ほうこく)は、聚斂(しゅうれん)なり、讓、責なり、之を移すは、其人を誅して之を変置するなり、討は、命を出し以て其罪を討(せ)め、方伯連帥をして、諸侯を帥(ひき)い以て之を伐たしめるなり、伐は、天子の命を奉(う)け、其罪を声(ふれ)て之を伐つなり、摟、牽(けん)なり、五霸は諸侯を牽(ひ)き以て諸侯を伐つ、天子の命を用いざるなり、入其疆自(よ)り則有讓に至るは、巡狩の事を言う、一不朝自(よ)り六師移之に至るは、述職の事を言う、

通し番号 758 章内番号 3 章通し番号 167 識別番号 12_7_3
本文
五霸は、桓公盛と爲す、葵丘の(ききゅう)の会、諸侯は牲を束(しば)り、書を載(の)せて血を歃(すす)らず、初命に曰く、不孝を誅(せ)めよ、樹子を易えること無かれ、妾以て妻と爲すこと無かれ、再命に曰く、賢を尊び才を育(はぐく)み、以て有徳を彰(あきら)かにせよ、三命に曰く、老を敬(うやま)い幼を慈(いつくし)め、賓旅を忘れること無かれ、四命に曰く、士は官を世(よよ)にすること無かれ、官の事摂(か)ねること無かれ、士を取るは必ず得よ、専(もっぱ)ら大夫を殺すこと無かれ、五命に曰く、防(つつみ)を曲げること無かれ、糴(てき)するを遏(と)めること無かれ、封(ほう)有りて告げざること無かれ、曰く、凡そ我同盟の人は、既に盟(ちか)うの後、言(ここ)に好(よしみ)に帰す、今の諸侯は、皆此五禁を犯す、故に曰く、今の諸侯は、五霸の罪人なり、
朱注
歃、所洽反、糴、音は狄、好、去声、○春秋伝を按ずるに、僖公(きこう)九年、葵丘(ききゅう)の会、牲を陳(お)きて殺さず、書を読み牲の上に加う、壹(もっぱ)ら天子の禁を明かにす、樹、立なり、已に世子を立てれば、擅(ほしいまま)に易えることを得ず、初命の三事は、以て身を脩め家を正す所の要なり、賓、賓客なり、旅、行旅なり、皆当に以て之を待つこと有るべし、忽(ゆるが)せにし忘るべからざるなり、士は禄を世(よよ)にして官を世(よよ)にせず、其未だ必ずしも賢ならざるを恐れるなり、官の事摂(か)ねること無かれは、当に広く賢才を求め以て之に充(あ)つべく、以て人を闕(のぞ)き事を廢すべからざるなり、士を取るは必ず得よは、必ず其人を得るなり、専(もっぱ)ら大夫を殺すこと無かれは、罪有れば則ち命を天子に請いて、後に之を殺すなり、防(つつみ)を曲げること無かれは、曲げて隄防を爲(つく)り、泉を壅(ふさ)ぎ水を激し、以て小利を専らにし、鄰国を病ましめることを得ざるなり、糴(てき)するを遏(と)めること無かれは、鄰国凶荒(きょうこう)、糴(てき)を閉(と)ざすことを得ざるなり、封(ほう)有りて告げざること無かれは、専ら国邑を封じて天子に告げざるを得ざるなり、

通し番号 759 章内番号 4 章通し番号 167 識別番号 12_7_4
本文
君の悪を長(そだ)てるは其罪小なり、君の悪を逢(むか)えるは其罪大なり、今の大夫は、皆君の悪を逢(むか)える、故に曰く、今の大夫は、今の諸侯の罪人なり、
朱注
長、上声、○君過ち有りて諫めること能わず、又(さら)に之に順(したが)う者は、君の悪を長(そだ)てるなり、君の過ち未だ萌(きざ)さず、而るに意を先にし之を導く者は、君の悪を逢(むか)えるなり、○林氏曰く、邵子(しょうし)言有り、春秋を治(ただ)す者は、先ず五霸の功罪を治(ただ)さざれば、則ち事統理無く聖人の心を得ず、春秋の間、功有るは未だ五霸より大なること有らず、過ち有るは亦未だ五霸より大なるもの有らず、故に五霸は、功の首、罪の魁(かい)なり、孟子の此章の義、其(それ)此若きなるか、然れども五霸は罪を三王に得て、今の諸侯は罪を五霸に得るは、皆異なる世に出ず、故に以て其罪を逃れることを得る、今の大夫に至りては、罪を今の諸侯に得るに宜(あた)れば、則ち時を同じくす、而るに諸侯惟(ただ)之を罪とすること莫きに非ざるなり、乃ち反て以て良臣と爲して之を厚く礼す、以て罪と爲さずして反て以て功と爲す、何(なん)と其謬(びゅう)なるかな、


章番号 8 章通し番号 168

通し番号 760 章内番号 1 章通し番号 168 識別番号 12_8_1
本文
魯、慎子をして將軍爲(た)らしめんと欲す、
朱注
慎子、魯の臣なり、

通し番号 761 章内番号 2 章通し番号 168 識別番号 12_8_2
本文
孟子曰く、民を教えずして之を用いる、之を民に殃(わざわ)いすと謂う、民に殃する者は、堯舜の世に於て容(い)れられず、
朱注
民に教えるは、之に礼義を教え、入りては父兄に事え、出でては長上に事えるを知らしめるなり、之を用いるは、之をして戦わしめるなり、

通し番号 762 章内番号 3 章通し番号 168 識別番号 12_8_3
本文
一たび戦い斉に勝ち、遂に南陽を有(たも)つ、然れども且(なお)不可なり、
朱注
是時魯蓋し愼子をして斉を伐ち、南陽を取らしめんと欲するなり、故に孟子言えらく、就使(たと)い慎子善く戦い功有ること此如しとも、且(また)猶不可なり、

通し番号 763 章内番号 4 章通し番号 168 識別番号 12_8_4
本文
慎子勃然(ぼつぜん)として悦(よろこ)ばずして曰く、此則ち滑釐(かつり)の識らざる所なり、
朱注
滑、音は骨、○滑釐(かつり)、慎子の名なり、

通し番号 764 章内番号 5 章通し番号 168 識別番号 12_8_5
本文
曰く、吾明かに子に告げん、天子の地方千里なり、千里ならざれば、以て諸侯を待つに足らず、諸侯の地方百里、百里ならざれば、以て宗廟の典籍を守るに足らず、
朱注
諸侯を待つは、其朝覲(ちょうきん)聘問(へいもん)の礼を謂う、宗廟の典籍は、祭祀、会同の常制なり、

通し番号 765 章内番号 6 章通し番号 168 識別番号 12_8_6
本文
周公の魯に封ぜられるは、方百里爲(た)るなり、地足らざるに非ず、而るに百里に倹す、太公の斉に封ぜられるや、亦方百里爲(た)るなり、地足らざるに非ざるなり、而るに百里に倹す、
朱注
二公天下に大勲労有り、而るに其封国百里に過ぎず、倹は、止めて過ぎざるの意なり、

通し番号 766 章内番号 7 章通し番号 168 識別番号 12_8_7
本文
今魯方百里なるもの五、子以爲(おも)えらく、王者作(おこ)ること有れば、則ち魯損(へ)る所在るか、益(ま)す所在るか、
朱注
魯の地は大なり、皆小国を幷呑(へいどん)して之を得る、王者作(おこ)ること有れば、則ち必ず損(へ)らす所在り、

通し番号 767 章内番号 8 章通し番号 168 識別番号 12_8_8
本文
徒(ただ)諸を彼に取り以て此に与えるは、然(すなわ)ち且(なお)仁者爲さず、況んや人を殺し以て之を求めるに於てをや、
朱注
徒、空なり、人を殺さずして之を取るを言うなり、

通し番号 768 章内番号 9 章通し番号 168 識別番号 12_8_9
本文
君子の君に事えるや、務めて其君を引き、以て道に当たり、仁に志さしむのみ、
朱注
道に当たるは、事が理に合うを謂う、仁に志すは、心が仁に在るを謂う、


章番号 9 章通し番号 169

通し番号 769 章内番号 1 章通し番号 169 識別番号 12_9_1
本文
孟子曰く、今の君に事える者曰く、我能く君の爲に土地を辟(ひら)き、府庫を充(みた)す、今の謂う所の良臣は、古の謂う所の民の賊なり、君が道に郷(むか)わず、仁に志さずして、之を富ますを求む、是れ桀を富ますなり、
朱注
爲、去声、辟、闢(へき)と同じ、郷、向と同じ、下皆同じ、○辟、開墾なり、

通し番号 770 章内番号 2 章通し番号 169 識別番号 12_9_2
本文
我能く君の爲に与国を約し、戦えば必ず克(か)つ、今謂う所の良臣なり、古謂う所の民の賊なり、君道に郷(むか)わず、仁に志さずして、之が爲に強いて戦うをことを求めれば、是れ桀を輔(たす)けるなり、
朱注
約、要結なり、与国は、和好し相(あい)与(くみ)するの国なり、

通し番号 771 章内番号 3 章通し番号 169 識別番号 12_9_3
本文
今の道に由り、今の俗を変えること無ければ、之に天下を与えると雖も、一朝も居ること能わざるなり、
朱注
必ず争奪して危亡に至るを言うなり、


章番号 10 章通し番号 170

通し番号 772 章内番号 1 章通し番号 170 識別番号 12_10_1
本文
白圭曰く、吾二十にして一を取らんと欲す、何如(いかん)、
朱注
白圭、名丹、周の人なり、税法を更(あらた)め、二十分にして其一分を取らんと欲す、林氏曰く、史記を按ずるに、白圭能く飮食を薄(すくな)くし、嗜欲を忍び、童僕と苦楽を同じくし、時変を観るを楽(この)み、人棄てれば我取り、人取れば我与える、此を以て居(たくわ)え積み富を致す、其此論を爲すは、蓋し其術以て之を国家に施さんと欲するなり、

通し番号 773 章内番号 2 章通し番号 170 識別番号 12_10_2
本文
孟子曰く、子の道は、貉(はく)の道なり、
朱注
貉、音は陌、○貉、北方の夷狄の国名なり、

通し番号 774 章内番号 3 章通し番号 170 識別番号 12_10_3
本文
万室の国、一人陶(とう)す、則ち可か、曰く、不可、器(うつわ)用に足らざるなり、
朱注
孟子喩(たと)えを設け以て圭に詰(と)い、圭亦其不可を知るなり、

通し番号 775 章内番号 4 章通し番号 170 識別番号 12_10_4
本文
曰く、夫(それ)貉は、五穀生ぜず、惟黍(きび)之に生ず、城郭宮室、宗廟祭祀の礼無し、諸侯の幣帛(へいはく)饔飧(ようそん)無し、百官(6有司無し、故に二十に一を取りて足るなり、
朱注
夫、音は扶、○北方は地寒し、五穀を生ぜず、黍は早く熟(みの)る、故に之に生ず、饔飧(ようそん)は、飮食以て客に饋(おく)るの礼なり、

通し番号 776 章内番号 5 章通し番号 170 識別番号 12_10_5
本文
今中国に居り、人倫を去(す)て、君子無ければ、之如何(いかん)ぞ其可ならん、
朱注
君臣祭祀交際の礼無ければ、是れ人倫を去(す)てる、百官有司無ければ、是れ君子無し、

通し番号 777 章内番号 6 章通し番号 170 識別番号 12_10_6
本文
陶以て寡なければ、且(なお)以て国を爲(おさ)むべからず、況んや君子無きをや、
朱注
其辞に因り以て之を折(た)つ、

通し番号 778 章内番号 7 章通し番号 170 識別番号 12_10_7
本文
之を堯舜の道より軽くせんと欲する者は、大貉(はく)、小貉なり、之を堯舜の道より重くせんと欲する者は、大桀、小桀なり、
朱注
什一にして税すは、堯舜の道なり、多ければ則ち桀、寡(すく)なければ則ち貉なり、今之を軽重せんと欲せば、則ち是れ小貉、小桀のみ、


章番号 11 章通し番号 171

通し番号 779 章内番号 1 章通し番号 171 識別番号 12_11_1
本文
白圭曰く、丹の水を治めるや禹に愈(まさ)る、
朱注
趙氏曰く、当時の諸侯小水有り、白圭之が爲に隄(てい)を築き、壅(ふさ)ぎて之を他国に注ぐ、

通し番号 780 章内番号 2 章通し番号 171 識別番号 12_11_2
本文
孟子曰く、子過(あやま)てり、禹の水を治めるは、水の道なり、
朱注
水の性に順(したが)うなり、

通し番号 781 章内番号 3 章通し番号 171 識別番号 12_11_3
本文
是故に禹は四海以て壑(がく)と爲す、今吾子(ごし)鄰国以て壑と爲す、
朱注
壑、水を受ける処(ところ)なり、

通し番号 782 章内番号 4 章通し番号 171 識別番号 12_11_4
本文
水が逆行する、之を洚水(こうずい)と謂う、洚水は、洪水なり、仁人の悪む所なり、吾子過てり、
朱注
悪、去声、○水が逆行するは、下流が壅塞す、故に水逆流する、今乃ち水を壅ぎ以て人を害せば、則ち洪水の災と異なること無し、


章番号 12 章通し番号 172

通し番号 783 章内番号 1 章通し番号 172 識別番号 12_12_1
本文
孟子曰く、君子は亮(りょう)ならず、執を悪(にく)む、
朱注
悪、平声、○亮、信なり、諒(りょう)と同じ、悪(いずくに)か執(と)らんは、凡そ事は苟且(こうしょ)にて、執持する所無きを言うなり、


章番号 13 章通し番号 173

通し番号 784 章内番号 1 章通し番号 173 識別番号 12_13_1
本文
魯は楽正子(がくせいし)をして政を爲さしめんと欲す、孟子曰く、吾之を聞き、喜びて寐(ねむ)らず、
朱注
其道の行うことを得るを喜ぶ、

通し番号 785 章内番号 2 章通し番号 173 識別番号 12_13_2
本文
公孫丑曰く、楽正子強か、曰く、否、知慮有るか、曰く、否、聞識多きか、曰く、否、
朱注
知、去声、○此三は、皆当世の尚(たっと)ぶ所にして、楽正子の短とする所なり、故に丑疑いて之を歴問す、

通し番号 786 章内番号 3 章通し番号 173 識別番号 12_13_3
本文
然らば則ち奚爲(なんす)れぞ喜びて寐(ねむ)らず、
朱注
丑問うなり、

通し番号 787 章内番号 4 章通し番号 173 識別番号 12_13_4
本文
曰く、其人と爲りや善を好む、
朱注
好、去声、下同じ、

通し番号 788 章内番号 5 章通し番号 173 識別番号 12_13_5
本文
善を好めば足るか、
朱注
丑問うなり、

通し番号 789 章内番号 6 章通し番号 173 識別番号 12_13_6
本文
曰く、善を好めば天下に優たり、而して況んや魯国をや、
朱注
優、余裕有るなり、天下を治むと雖も、尚(なお)余力有るを言うなり、

通し番号 790 章内番号 7 章通し番号 173 識別番号 12_13_7
本文
夫(それ)苟(もし)善を好めば、則ち四海の内、皆将に千里を軽しとして来たり、之に告げるに善を以てす、
朱注
夫、音は扶、下同じ、○軽、易なり、千里以て難と爲さずを言うなり、

通し番号 791 章内番号 8 章通し番号 173 識別番号 12_13_8
本文
夫(それ)苟(もし)善を好まざれば、則ち人将に曰わんとす、訑訑(いい)として、予は既已(すで)に之を知る、訑訑(いい)の声音顔色は、人を千里の外に距(と)める、士千里の外に止(と)まれば、則ち讒諂(ざんてん)面諛(めんゆ)の人至る、讒諂(ざんてん)面諛(めんゆ)の人と居れば、国治まることを欲して、得べきか、
朱注
訑、音は移、治、去声、○訑訑(いい)は、自ら其智に足り、善言を嗜(たしな)まざるの貌なり、君子小人、迭(たがい)に消長を爲す、直諒(りょう)多聞の士遠ざかれば、則ち讒諂(ざんてん)面諛(めんゆ)の人至る、理の勢然るなり、○此章言えらく、政を爲すは、一己の長を用いるに在らずして、以て天下の善を来すこと有るを貴ぶ、


章番号 14 章通し番号 174

通し番号 792 章内番号 1 章通し番号 174 識別番号 12_14_1
本文
陳子曰く、古の君子、何如(いかん)せば則ち仕う、孟子曰く、就(つ)く所三、去る所三、
朱注
其目下に在り、

通し番号 793 章内番号 2 章通し番号 174 識別番号 12_14_2
本文
之を迎えるに敬を致し以て礼有り、将に其言を行わんとすると言うならば、則ち之に就く、礼貌未だ衰えずとも、言行われざるや、則ち之を去る、
朱注
謂う所の見行可の仕なり、孔子の季桓子に於るが若きは是れなり、女楽を受けて朝さざれば、則ち之を去る、

通し番号 794 章内番号 3 章通し番号 174 識別番号 12_14_3
本文
其次は、未だ其言行わずと雖も、之を迎えるに敬を致し以て礼有れば、則ち之に就く、礼貌衰えば、則ち之を去る、
朱注
謂う所の際可の仕なり、孔子衛の霊公に於るが若きは是れなり、故に公と囿(ゆう)に遊び、公仰いで蜚鴈(ひがん)を視て、後に之を去る、

通し番号 795 章内番号 4 章通し番号 174 識別番号 12_14_4
本文
其下、朝食せず、夕食せず、飢餓で門戸を出ること能わず、君之を聞きて曰く、吾大なるものは其道を行うこと能わず、又其言に従うこと能わざるなり、我が土地に飢餓せしむるは、吾之を恥ず、之を周(すく)えば、亦受けるべきなり、死を免れるのみ、
朱注
謂う所の公養の仕なり、君の民に於るは、固より之を周(すく)うの義有り、況んや此又過ちを悔いるの言有れば、以て受くべき所なり、然れども未だ飢餓にして門戸を出ること能わざるに至らざれば、則ち猶受けざるなり、其死を免れるのみと曰うは、則ち其受ける所亦節有り、


章番号 15 章通し番号 175

通し番号 796 章内番号 1 章通し番号 175 識別番号 12_15_1
本文
孟子曰く、舜は畎畝(けんぽ)の中に発(おこ)り、傅説(ふえつ)は版築の閒に挙げられ、膠鬲(こうかく)は魚塩の中に挙げられ、管夷吾は士に挙げられ、孫叔敖(そんしゅくごう)は海に挙げられ、百里奚(ひゃくりけい)は市に挙げられる、
朱注
説、音は悦、○舜は歴山に耕やす、三十にして登庸なり、説(えつ)は傅巖(ふがん)に築(つ)く、武丁之を挙げる、膠鬲(こうかく)は乱に遭(あ)い、魚塩を鬻販(いくはん)す、文王之を挙げる、管仲は士官に囚(とら)えられる、桓公挙げて以て相国とす、孫叔敖は海浜に隠れて処(お)る、楚の荘王之を挙げ令尹(れいいん)と爲す、百里奚の事、前篇に見ゆ、

通し番号 797 章内番号 2 章通し番号 175 識別番号 12_15_2
本文
故に天将に大任を是人に降さんとするや、必ず先ず其心志を苦しめ、其筋骨を労し、其体膚を餓やし、其身を空乏し、行えば其爲す所を拂乱(ふつらん)す、以て心を動かし性を忍び、其能わざる所を曽益(ぞうえき)する所なり、
朱注
曽、増と同じ、○大任を降すは、之をして大事を任ぜしめるなり、舜以下の若きは是れなり、空、窮なり、乏、絶なり、拂、戾なり、之をして爲す所は遂げず、多く背戾(はいれい)せしめるを言うなり、心を動かし性を忍ぶは、其心を竦動(きょくどう)し、其性を堅忍するを謂うなり、然らば謂う所の性は、亦気稟(きひん)食色を指して言うのみ、程子曰、熟を要する若きや、須く這(この)裏(うち)従(よ)り過(いた)るべし、

通し番号 798 章内番号 3 章通し番号 175 識別番号 12_15_3
本文
人は恒(よ)く、過ちて然る後能く改む、心に困(くる)しみ、慮に衡(よこたわ)り、而して後作(おこ)る、色に徵し、声に発して、而して後喩(さと)る、
朱注
衡、横と同じ、○恒、常なり、猶大率言うがごときなり、横、順ならざるなり、作、奮起なり、徵、験なり、喩、曉なり、此又言えらく、中人の性、常に必ず過ち有りて然る後能く改む、蓋し平日に謹むこと能わず、故に必ず事勢窮蹙(きゅうしゅく)し、以て心に困(くる)しみ、慮に横たわるに至る、然る後能く奮発して興起する、幾微を燭(て)らすこと能わず、故に必ず事理暴著して、以て人の色に験(きざ)し、人の声に発するに至る、然る後能く警悟して通曉(つうぎょう)するなり、

通し番号 799 章内番号 4 章通し番号 175 識別番号 12_15_4
本文
入れば則ち法家拂士(ひつし)無く、出ずれば則ち敵国外患無きものは、国恒(よ)く亡ぶ、
朱注
拂、弼と同じ、○此は国亦然るを言うなり、法家は、法度(はっと)の世臣なり、拂士、輔弼(ほひつ)の賢士なり、

通し番号 800 章内番号 5 章通し番号 175 識別番号 12_15_5
本文
然る後知る、生ずは憂患に於てなり、死すは安楽に於てなり、
朱注
楽、音は洛、○上文以て之を観れば、則ち人の生きて全きは、憂患に出でて、死し亡ぶは、安楽に由るを知る、○尹氏曰く、困窮拂鬱(ふつうつ)、能く人の志を堅くして、人の仁を熟す、安楽以て之を失う者多しを言う、


章番号 16 章通し番号 176

通し番号 801 章内番号 1 章通し番号 176 識別番号 12_16_1
本文
孟子曰く、教え亦多術なり、予之を教誨するを屑(いさぎよ)しとせざるは、是れ亦之を教誨(きょうかい)するのみ、
朱注
多術、一端に非ずを言う、屑、潔なり、其人以て潔と爲さずして之を拒絶するは、謂う所の之に教誨するを屑(いさぎよ)しとせざるなり、其人若(もし)能く此を感ずれば、退き自ら脩め省(かえりみ)る、則ち是れ亦我之を教誨するなり、○尹氏曰く、或いは抑え或いは揚げ、或いは与え或いは与えず、各(おのおの)其材に因りて之を篤(あつ)くす、教えに非ざる無きを言うなり、


13 盡心章句上 jìn xīn zhāng jù shàng

章番号 1 章通し番号 177

通し番号 802 章内番号 1 章通し番号 177 識別番号 13_1_1
本文
孟子曰く、其心を尽す者は、其性を知るなり、其性を知れば、則ち天を知る、
朱注
心は、人の神明、以て衆理を具えて万事に応ずる所のものなり、性は則ち心の具える所の理なり、而して天又理の従(よ)りて以て出る所のものなり、人是心有れば、全(まった)き体に非ざる莫し、然れども理を窮めざれば、則ち蔽う所有り、而して以て此心の量を尽すこと無し、故に能く其心の全き体を極めて、尽さざる無き者は、必ず其能く夫(その)理を窮めて、知らざる無き者なり、すでに其理を知れば、則ち其従(よ)りて出ずる所は、亦是を外(はず)れず、大学の序以て之を言えば、性を知るは則ち物格(いた)るの謂(いい)なり、心を尽すは則ち知至るの謂なり、

通し番号 803 章内番号 2 章通し番号 177 識別番号 13_1_2
本文
其心を存し、其性を養うは、以て天に事える所なり、
朱注
存は、操(と)りて舍(す)てざるを謂う、養は、順にして害さざるを謂う、事は、則ち奉承して違(たが)わざるなり、

通し番号 804 章内番号 3 章通し番号 177 識別番号 13_1_3
本文
殀寿(ようじゅ)貳(に)とせず、身を脩め以て之を俟(ま)つ、以て命を立てる所なり、
朱注
殀寿(ようじゅ)、命の短長なり、貳(じ)、疑なり、貳(うたが)わずは、天を知るの至りなり、身を脩め以て死を俟(ま)てば、則ち天に事え以て身を終るなり、命を立てるは、其天の賦す所を全くし、人爲(じんい)以て之を害さざるを謂う、○程子曰く、心、性、天は、一の理なり、理に自(よ)りて言えば、之を天と謂う、稟受(ひんじゅ)に自(よ)りて言えば、之を性と謂う、諸を人に存することに自(よ)りて言えば、之を心と謂う、張子曰く、太虚由(よ)り、天の名有り、気化由り、道の名有り、虚と気を合わして、性の名有り、性と知覚を合わして、心の名有り、愚謂えらく、心を尽し性を知りて天を知るは、以て其理に造(いた)る所なり、心を存し性を養い以て天に事えるは、以て其事を履(ふ)む所なり、其理を知らざれば、固より其事を履むこと能わず、然れども徒(ただ)其理に造(いた)りて其事を履(ふ)まざれば、則ち亦以て諸を己に有すること無し、天を知りて殀壽以て其心を貳(うたが)わざるは、智の尽すなり、天に事えて能く身を脩め以て死を俟(ま)つ、仁の至りなり、智尽さざる有れば、固より以て仁を爲す所を知らず、然れども智にして不仁なれば、則ち亦将に流蕩(りゅうとう)し法ならずして以て智と爲すに足らず、


章番号 2 章通し番号 178

通し番号 805 章内番号 1 章通し番号 178 識別番号 13_2_1
本文
孟子曰く、命に非ざる莫きなり、順(したが)い其正を受ける、
朱注
人、物の生じる、吉凶禍福、皆天の命ずる所なり、然れば惟(ただ)之を致すこと莫くて至るものは、乃ち正命と爲す、故に君子身を脩め以て之を俟(ま)つ、以て順い此を受ける所なり、

通し番号 806 章内番号 2 章通し番号 178 識別番号 13_2_2
本文
是の故に命を知る者は、巌牆(がんしょう)の下に立たず、
朱注
命、正命を謂う、巌牆、牆の将に覆(くつがえ)らんとするものなり、正命を知れば、則ち危地に処(お)り以て覆圧の禍(わざわい)を取らず、

通し番号 807 章内番号 3 章通し番号 178 識別番号 13_2_3
本文
其道を尽して死ぬは、正命なり、
朱注
其道を尽せば、則ち値(あ)う所の吉凶は、皆之を致すこと莫くて至るものなり、

通し番号 808 章内番号 4 章通し番号 178 識別番号 13_2_4
本文
桎梏(しっこく)して死するは、正命に非ざるなり、
朱注
桎梏は、以て罪人を拘(とら)える所のものなり、言えらく、罪を犯して死するは、巌牆の下に立つ者と同じ、皆人が取る所なり、天が爲す所に非ざるなり、○此章と上章は、蓋し一時の言なり、以て其末句未だ尽さざるの意を発する所なり、


章番号 3 章通し番号 179

通し番号 809 章内番号 1 章通し番号 179 識別番号 13_3_1
本文
孟子曰く、求めれば則ち之を得る、舍(す)てれば則ち之を失う、是れ求めて得るに益有るなり、求めることが我に在るものなり、
朱注
舍、上声、○我に在るものは、仁義礼智を謂う、凡そ性の有する所のものなり、

通し番号 810 章内番号 2 章通し番号 179 識別番号 13_3_2
本文
之を求めるに道有り、之を得るに命有り、是れ求めて得るに益無きなり、求めることが外に在るものなり、
朱注
道有りは、妄(みだ)りに求むべからざるを言う、命有りは、則ち必ずしも得るべからず、外に在るものは、富貴利達を謂う、凡そ外物は皆是れなり、○趙氏曰く、仁を爲すは己に由る、富貴は天に在り、如(も)し求むべからざれば、吾の好む所に従うを言う、


章番号 4 章通し番号 180

通し番号 811 章内番号 1 章通し番号 180 識別番号 13_4_1
本文
孟子曰く、万物皆我に備わる、
朱注
此は理の本然を言うなり、大は則ち君臣父子、小は則ち事物の細微、其当然の理、一として性分の内に具(そな)わらざるは無きなり、

通し番号 812 章内番号 2 章通し番号 180 識別番号 13_4_2
本文
身に反(かえ)りて誠、楽(たの)しみ焉(これ)より大なるは莫し、
朱注
楽、音は洛、○誠、実なり、言えらく、諸を身に反(かえ)りて、備わる所の理、皆悪臭を悪(にく)み、好色を好むの実の如し、然らば則ち其之を行えば、勉強を待たずして利ならざる無し、其楽しみ爲(た)るは、孰(いず)れか是より大ならん、

通し番号 813 章内番号 3 章通し番号 180 識別番号 13_4_3
本文
恕を強(つと)めて行う、仁を求めるは焉(これ)より近きは莫し、
朱注
強、上声、○強、勉強なり、恕、己を推し以て人に及ぶなり、身に反(かえ)りて誠ならば、則ち仁なり、其未だ誠ならざる有れば、則ち是れ猶私意の隔有りて、理未だ純ならざるなり、故に当に凡その事勉強し、己を推し人に及ぼすべし、心は公に理は得るに庶幾(ちか)くして、仁は遠からざるなり、○此章言えらく、万物の理、吾身に具(そな)わる、之を体して実ならば、則ち道我に在りて、楽しみ余り有り、之を行うに恕以てすれば、則ち私容(い)らずして、仁得るべし、


章番号 5 章通し番号 181

通し番号 814 章内番号 1 章通し番号 181 識別番号 13_5_1
本文
孟子曰く、之を行いて著(あきら)かならず、習いて察(つまびら)かならず、終身之に由りて、其道を知らざる者衆(おお)きなり、
朱注
著は、知の明なり、察は、識の精なり、言えらく、之を行うに方(あた)りて、其当に然るべき所を明かにすること能わず、既に習う、而るに猶其以て然る所を識らず、以て終身之に由り、其道を知らざる者多き所なり、


章番号 6 章通し番号 182

通し番号 815 章内番号 1 章通し番号 182 識別番号 13_6_1
本文
孟子曰く、人以て恥無かるべからず、恥ずること無きを之恥ずれば、恥無し、
朱注
趙氏曰く、人能く己の恥ずる所無きを恥ずれば、是れ能く行を改め善に従うの人なり、終身復(また)恥辱の累有ること無し、


章番号 7 章通し番号 183

通し番号 816 章内番号 1 章通し番号 183 識別番号 13_7_1
本文
孟子曰く、恥の人に於るや大なり、
朱注
恥は、吾固より有する所の羞悪の心なり、之を存すれば則ち聖賢に進む、之を失えば則ち禽獣に入る、故に繫(つな)がる所甚だ大と爲す、

通し番号 817 章内番号 2 章通し番号 183 識別番号 13_7_2
本文
機変の巧を爲す者は、恥を用いる所無し、
朱注
機械変詐の巧を爲す者、爲す所の事、皆人深く恥ずる所にして、彼方且(まさ)に自ら以て計を得ると爲さんとす、故に其愧恥(きち)の心を用いる所無きなり、

通し番号 818 章内番号 3 章通し番号 183 識別番号 13_7_3
本文
恥じざるが人に若かざれば、何ぞ人に若くこと有らん、
朱注
但(ただ)恥ずること無しの一事が、人に如かざれば、則ち事事人に如かず、或るひと曰く、其人に如かざるを恥じざれば、則ち何ぞ能く人に如くの事有らん、其義亦通ず、○或るひと問く、人不能を恥じるの心有れば如何、程子曰く、其不能を恥じて之を爲せば、可なり、其不能を恥じて之を掩蔵(えんぞう)すれば、不可なり、


章番号 8 章通し番号 184

通し番号 819 章内番号 1 章通し番号 184 識別番号 13_8_1
本文
孟子曰く、古の賢王は善を好みて勢を忘る、古の賢士何ぞ独り然らざらん、其道を楽しみて人の勢を忘る、故に王公は敬を致し礼を尽さざれば、則ち亟(しばしば)之に見(あ)うことを得ず、見(あ)うこと且(すら)猶(なお)亟(しばしば)することを得ず、而して況んや得て之を臣とすることをや、
朱注
好、去声、楽、音洛、亟、去吏反、○言えらく、君は当に己を屈して以て賢に下り、士は道を枉(ま)げて利を求めざるべし、二なるものの勢相反するが若し、而るに実は則ち相成る、蓋し亦各(おのおの)其道を尽すのみ、


章番号 9 章通し番号 185

通し番号 820 章内番号 1 章通し番号 185 識別番号 13_9_1
本文
孟子、宋句践に謂いて曰く、子、遊を好む乎(かな)、吾子に遊を語らん、
朱注
句、音は鉤、好、語、皆去声、○宋は、姓、句践は、名、遊は、遊説なり、

通し番号 821 章内番号 2 章通し番号 185 識別番号 13_9_2
本文
人之を知る、亦(ただ)囂囂(ごうごう)たり、人知らず、亦(ただ)囂囂たり、
朱注
趙氏曰く、囂囂(ごうごう)は、自得無欲の貌なり、

通し番号 822 章内番号 3 章通し番号 185 識別番号 13_9_3
本文
曰く、何如(いか)なれば斯(すなわ)ち以て囂囂(ごうごう)たるべし、曰く、徳を尊(たっと)び義を楽しめば、則ち以て囂囂たるべし、
朱注
楽、音は洛、○徳、得る所の善を謂う、之を尊べば、則ち以て自らに重んずること有りて、人爵の栄えを慕わず、義は、守る所の正を謂う、之を楽しめば、則ち以て自ずから安んずること有りて、外物の誘に徇(したが)わず、

通し番号 823 章内番号 4 章通し番号 185 識別番号 13_9_4
本文
故に士は窮して義を失わず、達して道を離れず、
朱注
離、力智反、○言えらく、貧賤以てして移らず、富貴以てして淫(みだ)れず、此、徳を尊(たっと)び義を楽しみ、行事の実に見(あらわ)れるなり、

通し番号 824 章内番号 5 章通し番号 185 識別番号 13_9_5
本文
窮して義を失わず、故に士は己を得る、達して道を離れず、故に民は望みを失わず、
朱注
己を得るは、己を失わざるを言うなり、民は望みを失わずは、人素(もと)より其道を興し治を致すを望みて、今果たして望む所の如しを言うなり、

通し番号 825 章内番号 6 章通し番号 185 識別番号 13_9_6
本文
古の人は、志を得れば、沢民に加わる、志を得ざれば、身を脩め世に見(あらわ)る、窮すれば則ち独り其身を善くす、達すれば則ち天下を兼(おな)じく善くす、
朱注
見、音は現、○見、名実の顯著なるを謂うなり、此又士は己を得、民は望みを失わずの実を言う、○此章言えらく、内重くして外軽ければ、則ち往くとして善ならざる無し、


章番号 10 章通し番号 186

通し番号 826 章内番号 1 章通し番号 186 識別番号 13_10_1
本文
孟子曰く、文王を待ちて後興る者は、凡民なり、夫(かの)豪傑の士の若きは、文王無しと雖も猶興る、
朱注
夫、音は扶、○興は、感動奮発の意なり、凡民、庸常の人なり、豪傑、人に過ぐるの才智有る者なり、蓋し降衷(こうちゅう)秉彝(へいい)、人同じく得る所なり、惟上智の資、物欲の蔽無し、能く教えを待つこと無くて、自ら能く感発し以て爲す有るを爲すなり、


章番号 11 章通し番号 187

通し番号 827 章内番号 1 章通し番号 187 識別番号 13_11_1
本文
孟子曰く、之に附すに韓魏の家を以てす、如(も)し其自ら視ること欿然(かんぜん)たらば、則ち人に過ぐること遠し、
朱注
欿、音は坎、○附、益なり、韓魏、晋の卿、富の家なり、欿然(かんぜん)、自満せざるの意なり、尹氏曰く、人に過ぐるの識有れば、則ち富貴以て事と爲さずを言う、


章番号 12 章通し番号 188

通し番号 828 章内番号 1 章通し番号 188 識別番号 13_12_1
本文
孟子曰く、佚道以て民を使えば、労すと雖も怨みず、生道以て民を殺せば、死すと雖も殺す者を怨まず、
朱注
程子曰く、佚道以て民を使うは、本之を佚するを欲するを謂うなり、穀を播(ま)き屋に乗るの類是なり、生道以て民を殺すは、本之を生かすを欲するを謂うなり、害を除き悪を去るの類是れなり、蓋し已むを得ずして其当に爲すべき所を爲せば、則ち民の欲に咈(たが)うと雖も、民怨みず、其然らざるものは是に反す、


章番号 13 章通し番号 189

通し番号 829 章内番号 1 章通し番号 189 識別番号 13_13_1
本文
孟子曰く、霸者の民は、驩虞如(かんぐじょ)なり、王者の民は、皞皞如(こうこうじょ)なり、
朱注
皞、胡老反、○驩虞(かんぐ)、歓娯と同じ、皞皞(こうこう)、広大自得の貌、程子曰く、驩虞、造爲して然る所有り、豈能く久しからんや、田を耕やし井を鑿(うが)つ、帝力何か我に有らん、天の自然の如きは、乃ち王者の政なり、楊氏曰く、以て人の驩虞を致す所は、必ず道に違い誉を干(もと)めるの事有り、王者の若(ごとき)は則ち天の如し、亦人をして喜ばしめず、亦人をして怒らしめず、

通し番号 830 章内番号 2 章通し番号 189 識別番号 13_13_2
本文
之を殺して怨みず、之を利して庸とせず、民日に善に遷(うつ)りて之を爲すものを知らず、
朱注
此は謂う所の皞皞如(こうこうじょ)なり、庸、功なり、豊氏曰く、民の悪む所に因りて之を去る、心は之を殺すに有るに非ざるなり、何ぞ怨むこと之有らん、民の利とする所に因りて之を利す、心は之を利すに有るに非ざるなり、何ぞ庸とすること之有らん、其性の自然を輔(たす)け、自ずから之を得せしめる、故に民日に善に遷りて誰の爲す所か知らざるなり、

通し番号 831 章内番号 3 章通し番号 189 識別番号 13_13_3
本文
夫(それ)君子は過ぎる所の者化し、存する所のもの神なり、上下天地と流れを同じくす、豈之を小補すと曰わんや、
朱注
夫、音は扶、○君子、聖人の通称なり、過ぎる所の者化すは、身経歴する所の処(ところ)は、即ち人化さざること無し、舜の歴山に耕やして、田者(でんしゃ)畔(あぜ)を遜(ゆず)り、河浜(かひん)に陶して、器苦窳(くゆ)ならざるが如きなり、存する所のもの神は、心存し主(つかさど)る所の処(ところ)は便(すなわ)ち神妙不測なり、孔子の立てれば斯(すなわ)ち立ち、道(みちび)けば斯(すなわ)ち行(したが)い、綏(やす)んずれば斯(すなわ)ち来り、動かせば斯(すなわ)ち和すが如く、其然る所以を知ること莫くて然るなり、是れ其徳業の盛なり、乃ち天地の化と同じく運(めぐ)り並(なら)び行く、一世を挙げて之を甄陶(せんとう)す、霸者但(ただ)小小として其罅漏(かろう)を補ない塞ぐ如きのみに非ず、此則ち王道の大と爲す所以にして、学ぶ者当に心を尽すべき所なり、


章番号 14 章通し番号 190

通し番号 832 章内番号 1 章通し番号 190 識別番号 13_14_1
本文
孟子曰く、仁言は、仁声の人に入るの深きに如かざるなり、
朱注
程子曰く、仁言は、仁厚の言以て民に加えるを謂う、仁聲は、仁聞を謂う、仁の実有りて、衆称道する所のものと爲るを謂うなり、此尤も仁徳の昭著を見(しめ)す、故に其人を感ぜしむは尤も深きなり、

通し番号 833 章内番号 2 章通し番号 190 識別番号 13_14_2
本文
善政は、善教の民を得るに如かざるなり、
朱注
政、法度禁令を謂う、以て其外を制する所なり、敎は、道徳斉礼を謂う、以て其心を格(ただ)す所なり、

通し番号 834 章内番号 3 章通し番号 190 識別番号 13_14_3
本文
善政は民之を畏る、善教は民之を愛す、善政は民の財を得る、善教は民の心を得る、
朱注
民の財を得るものは、百姓足りて君足らざる無きなり、民の心を得るものは、其親を遺(す)てず、其君を後にせざるなり、


章番号 15 章通し番号 191

通し番号 835 章内番号 1 章通し番号 191 識別番号 13_15_1
本文
孟子曰く、人の学ばずして能くする所のものは、其良能なり、慮らずして知る所のものは、其良知なり、
朱注
良は、本然の善なり、程子曰く、良知良能は、皆由る所無し、乃ち天に出で、人に繫(つな)がらず、

通し番号 836 章内番号 2 章通し番号 191 識別番号 13_15_2
本文
孩提(がいてい)の童、其親を愛することを知らざる無きなり、其長ずるに及ぶや、其兄を敬することを知らざる無きなり、
朱注
長、上声、下同じ、○孩提、二三歳の閒、孩笑を知り、提抱すべき者なり、親を愛し長を敬するは、謂う所の良知良能なるものなり、

通し番号 837 章内番号 3 章通し番号 191 識別番号 13_15_3
本文
親を親(あい)するは、仁なり、長を敬するは、義なり、他無し、之を天下に達するなり、
朱注
言えらく、親を親(あい)し長を敬すは、一人の私と雖も、然れども之を天下に達し、同じからざるもの無きは、以て仁義と爲す所なり、


章番号 16 章通し番号 192

通し番号 838 章内番号 1 章通し番号 192 識別番号 13_16_1
本文
孟子曰く、舜が深山の中に居り、木石と居り、鹿豕(ろくし)と遊ぶ、其以て深山の野人と異なる所のものは幾希(すくな)し、其一善言を聞き、一善行を見るに及び、江河を決するが若し、沛然として之を能く禦(とど)めること莫きなり、
朱注
行、去声、○深山に居るは、歴山に耕す時を謂うなり、蓋し聖人の心、至虚至明、渾然の中、万理畢(ことごと)く具(そな)わる、一たび感触有れば、則ち其応甚だ速くて、通ぜざる所無し、孟子が道に造(いた)ることの深きに非ざれば、形容すること此に至ること能わざるなり、


章番号 17 章通し番号 193

通し番号 839 章内番号 1 章通し番号 193 識別番号 13_17_1
本文
孟子曰く、其爲さざる所を爲すこと無し、其欲さざる所を欲すること無し、此如きのみ、
朱注
李氏曰く、爲さず欲さざる所有るは、人皆是心有るなり、私意一たび萌すに至りて、礼義以て之を制すること能わず、則ち爲さざる所を爲し、欲さざる所を欲する者多し、能く是の心に反(かえ)れば、則ち謂う所の其羞悪の心を拡充するものにして、義勝(あ)げて用うべからず、故に曰う此如きのみ、


章番号 18 章通し番号 194

通し番号 840 章内番号 1 章通し番号 194 識別番号 13_18_1
本文
孟子曰く、人の德慧術知有る者、恒(つね)にに疢疾(ちんしつ)に存す、
朱注
知、去声、疢、丑刃反、○德慧は、德の慧なり、術知は、術の知なり、疢疾、猶災患のごときなり、言えらく、人必ず疢疾有れば、則ち能く心を動かし性を忍び、其能わざる所を増益するなり、

通し番号 841 章内番号 2 章通し番号 194 識別番号 13_18_2
本文
独り孤臣孼子(げっし)は、其心を操(と)るや危(はや)く、其患を慮るや深し、故に達す、
朱注
孤臣、遠臣なり、孼子(げっし)、庶子なり、皆君親に得られずして、常に疢疾(ちんしつ)に有る者なり、達は、事理に達するを謂い、即ち謂う所の徳慧術知なり、


章番号 19 章通し番号 195

通し番号 842 章内番号 1 章通し番号 195 識別番号 13_19_1
本文
孟子曰く、君に事(つか)える人なる者有り、是君に事えれば則ち容悦を爲す者なり、
朱注
阿徇(じゅん)以て容を爲し、逢迎(ほうげい)以て悦を爲す、此鄙夫(ひふ)の事、妾婦の道なり、

通し番号 843 章内番号 2 章通し番号 195 識別番号 13_19_2
本文
社稷を安んずる臣なる者有り、社稷を安んずるを以て悦と爲す者なり、
朱注
言えらく、大臣の社稷を安んずるを計るは、小人の其君を悦(よろこ)ばすを務めるが如し、此に眷眷(けんけん)として忘れざるなり、

通し番号 844 章内番号 3 章通し番号 195 識別番号 13_19_3
本文
天民なる者有り、達して天下に行うべくして、後に之を行う者なり、
朱注
民は、位無しの称なり、其天理を全くし尽すを以てす、乃ち天の民なり、故に之を天民と謂う、必ず其道天下に行うべし、然る後之を行う、然らざれば、則ち寧(むしろ)世を没するまで知られずして悔いず、其道を小さく用い以て人に徇(したが)うを肯(がえん)ぜざるなり、張子曰く、必ず功が斯民を覆(おお)う、然る後出る、伊呂の徒の如し、

通し番号 845 章内番号 4 章通し番号 195 識別番号 13_19_4
本文
大人なる者有り、己を正して物正しき者なり、
朱注
大人、徳盛にして上下之に化す、謂う所の見龍田に在り、天下文明なるものなり、○此章言えらく、人品同じからず、略(ほぼ)四等有り、容悦の佞(ねい)臣は言うに足らず、社稷を安んずるは則ち忠なり、然れども猶一国の士なり、天民は則ち一国の士に非ず、然れども猶意有るなり、意無く必無く、惟(ただ)其在る所にして物化さざる無し、惟聖なる者之を能くす、


章番号 20 章通し番号 196

通し番号 846 章内番号 1 章通し番号 196 識別番号 13_20_1
本文
孟子曰く、君子に三楽有り、而して天下に王たるは与(あずか)り存せず、
朱注
楽、音は洛、王、与、皆去声、下並(みな)同じ、

通し番号 847 章内番号 2 章通し番号 196 識別番号 13_20_2
本文
父母倶(とも)に存し、兄弟故無し、一楽なり、
朱注
此人深く願う所にして、必ずしも得べからざるものなり、今既に之を得れば、其楽しみ知るべし、

通し番号 848 章内番号 3 章通し番号 196 識別番号 13_20_3
本文
仰いで天に愧(は)じず、俯して人に怍(は)じず、二楽なり、
朱注
程子曰く、人能く己を克(な)せば、則ち仰いで愧(は)じず、俯して怍(は)じず、心広く体胖(やす)らかなり、其楽しみ知るべし、息(や)むこと有れば則ち餒(うえ)る、

通し番号 849 章内番号 4 章通し番号 196 識別番号 13_20_4
本文
天下の英才を得て之を教育する、三楽なり、
朱注
尽(ことごと)く一世の明睿(えい)の才を得て、己に楽しむ以所のものは、教えて之を養(そだ)てれば、則ち斯(この)道の伝、之を得るもの衆(おお)し、而して天下後世、将に其沢を被(こう)むらざる無からんとす、聖人の心、願い欲っする所は、此より大なるは莫し、今既に之を得れば、其楽しみ何如(いかん)と爲すや、

通し番号 850 章内番号 5 章通し番号 196 識別番号 13_20_5
本文
君子三楽有り、而るに天下に王たるは与(あずか)り存せず、
朱注
林氏曰く、此三楽は、一は天に係(かか)る、一は人に係る、其以て自ら致すべきものは、惟不愧(き)不怍(さく)のみ、学ぶ者勉めざるべきかな、


章番号 21 章通し番号 197

通し番号 851 章内番号 1 章通し番号 197 識別番号 13_21_1
本文
孟子曰く、広き土(ち)衆(おお)き民、君子之を欲す、楽しむ所は存らず、
朱注
楽、音は洛、下同じ、○地闢(ひら)け民聚(あつ)まれば、沢遠く施(ひろ)がるべし、故に君子之を欲す、然れども未だ以て楽しみと爲すに足らざるなり、

通し番号 852 章内番号 2 章通し番号 197 識別番号 13_21_2
本文
天下に中(ちゅう)して立ち、四海の民を定む、君子之を楽しむ、性とする所は存せず、
朱注
其道大いに行われれば、一夫其沢を被らざる無し、故に君子之を楽しむ、然れども其天に得る所のものは、則ち是れに在らざるなり、

通し番号 853 章内番号 3 章通し番号 197 識別番号 13_21_3
本文
君子が性とする所は、大いに行われると雖も加わらず、窮居すると雖も損(へ)らず、分定まる故なり、
朱注
分、去声、○分は、天に得る所の全体なり、故に窮達以て異なること有らず、

通し番号 854 章内番号 4 章通し番号 197 識別番号 13_21_4
本文
君子が性とする所は、仁義礼智が、心に根ざす、其色を生ずるや、睟然(すいぜん)として面(おもて)に見(あらわ)れ、背に盎(あふ)れ、四体に施(ゆきわた)る、四体言わずして喩(さと)る、
朱注
睟、音は粹、見、音は現、盎、烏浪反、○上は性とする所の分は、欲する所楽しむ所と同じからざるを言う、此は乃ち其蘊(うん)を言うなり、仁義礼智、性の四徳なり、根、本なり、生、発見なり、睟然(すいぜん)、清和潤沢の貌、盎(おう)、豊厚盈溢(えいいつ)の意なり、四体に施(ゆきわた)るは、動作の威儀の間に見(あら)われるを謂うなり、喩、曉なり、四体言わずして喩(さと)るは、四体吾が言を待たずして、自ら能く吾が意を曉(さと)るを言うなり、蓋し気稟(きりん)は清明なり、物欲の累無ければ、則ち性の四徳心に根づき本とす、其積の盛、則ち発して外に著見するは、言を待たずして順ならざる無きなり、程子曰く、面に睟(すい)、背に盎(あふ)る、皆積盛が然るを致す、四体言わずして喩るは、惟徳有る者之を能くす、○此章言えらく、君子固より其道の大いに行われることを欲す、然れども其天に得る所のものは、則ち是を以てして加損する所有らざるなり、


章番号 22 章通し番号 198

通し番号 855 章内番号 1 章通し番号 198 識別番号 13_22_1
本文
孟子曰く、伯夷紂を辟(さ)け、北海の浜(ほとり)に居る、文王作興すると聞きて曰く、曰く盍(なん)ぞ帰らざる(来)、吾聞く、西伯善く老を養う者と、大公紂を辟(さ)け、東海の浜(ほとり)に居る、文王作興すると聞き、曰く盍(なん)ぞ帰らざる、吾聞く、西伯善く老を養う者と、天下善く老を養うこと有れば、則ち仁人以て己の帰と爲す、
朱注
辟、去声、下同じ、大、他蓋反、○己歸は、己の帰する所を謂う、余は前篇に見ゆ、

通し番号 856 章内番号 2 章通し番号 198 識別番号 13_22_2
本文
五畝(ほ)の宅、牆(かき)の下に樹(う)えるに桑を以てす、匹婦之を蚕(さん)すれば、則ち老なる者以て帛(きぬ)を衣るに足る、五母雞(けい)、二母彘(てい)、其時を失うこと無ければ、老なる者以て肉を失うこと無きに足る、百畝の田、匹夫之を耕せば、八口の家以て飢えること無かるべし、
朱注
衣、去声、○此は文王の政なり、一家が母雞五、母彘(てい)二を養うなり、余は前篇に見ゆ、

通し番号 857 章内番号 3 章通し番号 198 識別番号 13_22_3
本文
謂う所の西伯善く老を養うは、其田里を制し、之に樹畜を教え、其妻子を導き、其老を養わしむ、五十は帛(きぬ)に非ざれば煖(あたたま)らず、七十は肉に非ざれば飽かず、煖(あたたま)らず飽かず、之を凍餒(とうだい)と謂う、文王の民は、凍餒の老いる者無し、此を之謂うなり、
朱注
田、百畝の田を謂う、里、五畝の宅を謂う、樹、耕桑を謂う、畜、雞彘(けいてい)を謂うなり、趙氏曰く、善く老を養うは、之を教え導き以て其老を養わべからしむのみ、家に賜いて人之を益(ま)すに非ざるなり、


章番号 23 章通し番号 199

通し番号 858 章内番号 1 章通し番号 199 識別番号 13_23_1
本文
孟子曰く、其田疇(ちゅう)を易(おさ)め、其税斂(れん)を薄(かる)くす、民富ましむべきなり、
朱注
易、斂、皆去声、易、治なり、疇、耕治の田なり、

通し番号 859 章内番号 2 章通し番号 199 識別番号 13_23_2
本文
之を食するに時を以てし、之を用いるに礼を以てすれば、財勝(あ)げて用うべからざるなり、
朱注
勝、音は升、○民に節倹を教えれば、則ち財用足る、

通し番号 860 章内番号 3 章通し番号 199 識別番号 13_23_3
本文
民水火あるに非ざれば生活せず、昏暮(こんぼ)に人の門戸を叩(たた)き、水火を求む、与ざる者無し、至りて足る、聖人天下を治める、菽粟(しゅくぞく)をして水火の如く有らしむ、菽粟水火の如ければ、民焉ぞ不仁なる者有らんや、
朱注
焉、於虔反、○水火は、民の急とする所なり、宜(よろ)しく其(それ)之を愛(おし)むべくして、反て愛(おし)まざるは、多き故なり、尹氏曰く、礼義は富足るに生じ、民は常の産無ければ、則ち常の心無しを言う、


章番号 24 章通し番号 200

通し番号 861 章内番号 1 章通し番号 200 識別番号 13_24_1
本文
孟子曰く、孔子東山に登りて魯を小とす、太山に登りて天下を小とす、故に海を観る者は水と爲し難し、聖人の門に遊ぶ者は言と爲し難し、
朱注
此は聖人の道大なるを言うなり、東山、蓋し魯の城東の高山なり、太山は則ち又(さら)に高し、此言えらく、処(お)る所益(ますます)高ければ、則ち其下を視ると益(ますます)小さし、見る所既に大なれば、則ち其小なるものは観るに足らざるなり、水と爲し難し、言と爲し難しは、猶仁には衆を爲すべからざるの意のごときなり、

通し番号 862 章内番号 2 章通し番号 200 識別番号 13_24_2
本文
水を観るに術有り、必ず其瀾(らん)を観る、日月明有り、容光必ず照らす、
朱注
此は道の本有るを言うなり、瀾、水の湍急(たんきゅう)する処(ところ)なり、明は、光の体なり、光は、明の用なり、水の瀾を観れば、則ち其源の本有るを知る、日月は光を容(い)れるの隙に於て照らさざる無きを観れば、則ち其明の本有るを知る、

通し番号 863 章内番号 3 章通し番号 200 識別番号 13_24_3
本文
流水の物爲(た)るや、科(あな)を盈(み)たさざれば行かず、君子の道を志すや、章を成さざれば達せず、
朱注
学は当に漸以てすれば、乃ち能く至るを言うなり、章を成すは、積む所のもの厚くして、文章外に見(あらわ)れるなり、達は、此に足りて彼に通じるなり、○此章言えらく、聖人の道大にして本有り、之を学ぶ者は必ず其漸以てすれば、乃ち能く至るなり、


章番号 25 章通し番号 201

通し番号 864 章内番号 1 章通し番号 201 識別番号 13_25_1
本文
孟子曰く、雞鳴(けいめい)にして起き、孳孳(しし)として善を爲す者は、舜の徒なり、
朱注
孳孳(しし)、勤勉の意なり、未だ聖人に至らずと雖も、亦是れ聖人の徒なるを言うなり、

通し番号 865 章内番号 2 章通し番号 201 識別番号 13_25_2
本文
雞鳴にして起き、孳孳(しし)として利を爲す者は、蹠(せき)の徒なり、
朱注
蹠は、盗蹠なり、

通し番号 866 章内番号 3 章通し番号 201 識別番号 13_25_3
本文
舜と蹠の分を知らんと欲せば、他無し、利と善の間なり、
朱注
程子曰く、間と言うは、相去ること遠からざるを謂う、争(けっ)する所毫末(ごうまつ)のみ、善と利は、公私のみ、纔(わずか)に善を出れば、便ち利以て言うなり、○楊氏曰く、舜、蹠の相去ること遠し、而るに其分は乃ち利善の間に在るのみ、是れ豈以て謹まざるべけんや、然れども之を講(きわ)めて熟さず、之を見て明らかならざれば、未だ利以て義と爲さざる者有らず、又学ぶ者当に深く察すべき所なり、或るひと問う、雞鳴にして起き、若(も)し未だ物と接さざれば、如何(いかん)してか善を爲さん、程子曰く、只敬を主とすれば、便ち是れ善を爲す、


章番号 26 章通し番号 202

通し番号 867 章内番号 1 章通し番号 202 識別番号 13_26_1
本文
孟子曰く、楊子は我が爲に取る、一毛を拔いて天下を利するは、爲さざるなり、
朱注
爲我の爲、去声、○楊子、名朱、取は、僅(わず)かに足るの意、我が爲に取るは、僅(わず)かに我が爲にして足るのみ、人の爲にするに及ばざるなり、列子其言を称して曰く、伯成子高は一毫以て物を利せず、是れなり、

通し番号 868 章内番号 2 章通し番号 202 識別番号 13_26_2
本文
墨子兼愛す、頂を摩(ま)し踵(かかと)に放(いた)り天下を利すは、之を爲す、
朱注
放、上声、○墨子、名翟、兼愛は、愛さざる所無きなり、頂を摩すは、其頂を摩突するなり、放、至なり、

通し番号 869 章内番号 3 章通し番号 202 識別番号 13_26_3
本文
子莫(しばく)は中を執(と)る、中を執るは之に近しと爲す、中を執り権無ければ、猶一を執るがごときなり、
朱注
子莫、魯の賢人なり、楊墨の中を失うを知るなり、故に二者の閒を度(はか)りて、其中を執(と)る、近、道に近きなり、権、称錘(すい)なり、以て物の軽重を称(はか)りて中を取る所なり、中を執りて権無ければ、則ち一定の中に膠(にかわ)して変を知らず、是れ亦一を執るのみ、程子曰く、中の字最も識(し)り難し、須(すべから)く是れ黙識心通すべし、且(しばら)く試みに一庁を言えば、則ち中央を中と爲す、一家は、則ち庁は中に非ずして堂を中と爲す、一国は、則ち堂は中に非ずして国の中を中と爲す、此類を推せば見るべし、又曰く、中は執(しゅう)するべからざるなり、識り得れば則ち事事物物皆自然の中有り、安排を待たず、安排し著(あらわ)れれば則ち中ならず、

通し番号 870 章内番号 4 章通し番号 202 識別番号 13_26_4
本文
一を執るを悪(にく)む所は、其道を賊(そこな)う爲なり、一を挙げて百を廃するなり、
朱注
悪、爲、皆去声、○賊、害なり、我の爲にするは仁を害す、兼愛は義を害す、中を執るは時中に於て害あり、皆一を挙げて百を廃するものなり、○此章言えらく、道の貴(とうと)ぶ所は中なり、中の貴(とうと)ぶ所は権なり、楊氏曰く、禹稷三たび其門を過ぎて入らず、苟(もし)其可に当たらざれば、則ち墨子と異なること無し、顔子陋巷(ろうこう)に在り、其楽しみを改めず、苟(もし)其可に当たらざれば、則ち楊氏と異なること無し、子莫(しばく)爲我(いが)兼愛の中を執りて権無し、郷鄰に鬭(たたか)うこと有りて、戸を閉じるを知らず、同室に鬭うこと有りて、之を救(とめ)るを知らず、是れ亦猶(なお)一を執るのみ、故に孟子以て道を賊(そこな)うと爲す、禹、稷、顔回、地を易えれば則ち皆然り、其権有るを以てなり、然らざれば、則ち是れ亦楊墨のみ、


章番号 27 章通し番号 203

通し番号 871 章内番号 1 章通し番号 203 識別番号 13_27_1
本文
孟子曰く、飢える者食を甘(うま)しとす、渴する者飮を甘(うま)しとす、是れ未だ飮食の正を得ざるなり、飢渴之を害するなり、豈(あに)惟口腹のみ飢渴の害有らんや、人心亦皆害有り、
朱注
口腹は飢渴の害する所と爲る、故に飮食に於て択(えら)ぶに暇(いとま)あらずして、其正味を失う、人心は貧賎の害する所と爲る、故に富貴に於て択(えら)ぶに暇(いとま)あらずして、其正理を失う、

通し番号 872 章内番号 2 章通し番号 203 識別番号 13_27_2
本文
人能く飢渴の害以て心の害と爲すこと無ければ、則ち人に及ばざるを憂いと爲さず、
朱注
人能く貧賎の故を以て其心を動かさざれば、則ち人に過ぎること遠し、


章番号 28 章通し番号 204

通し番号 873 章内番号 1 章通し番号 204 識別番号 13_28_1
本文
孟子曰く、柳下恵は三公以て其介を易(か)えず、
朱注
介、分弁の意有り、柳下恵は進みて賢を隠さず、必ず其道を以てす、遺佚(いいつ)されて怨みず、阨(やく)窮して憫(うれ)えず、道に直(あた)りて人に事う、三たび黜(しりぞ)けられるに至る、是れ其介なり、○此章言えらく、柳下恵は和して流れず、孔子が夷斉は旧悪を念(おも)わずと論ずると、意正に相類す、皆聖賢は顕を微にし幽を闡(あきら)かにするの意なり、


章番号 29 章通し番号 205

通し番号 874 章内番号 1 章通し番号 205 識別番号 13_29_1
本文
孟子曰く、爲す有る者は辟(たと)えば井を掘るが若し、井を掘ること九軔(じん)、而るに泉(せん)に及ばざれば、猶井を棄てると爲すがごときなり、
朱注
辟、読むに譬と作(な)す、軔、音は刃、仞(じん)と同じ、○八尺を仞(じん)と曰う、言えらく、井を鑿(うが)ち深しと雖も、然れども未だ泉に及ばすして止(や)めれば、猶自ら其井を棄てると爲すがごときなり、○呂侍講曰く、仁は堯に如かず、孝は舜に如かず、学は孔子に如かず、終(つい)に未だ聖人の域に入らず、終(つい)に未だ天道に至らず、未だ半塗(と)にして廃し、自ら前功を棄てると爲すを免れざるなり、


章番号 30 章通し番号 206

通し番号 875 章内番号 1 章通し番号 206 識別番号 13_30_1
本文
孟子曰く、堯舜は之を性とするなり、湯武は之を身とするなり、五霸は之を仮るなり、
朱注
堯舜は天性渾全たり、脩習に仮(よ)らず、湯武は身を脩め道を体し、以て其性に復す、五霸は則ち仁義の名を仮借して、以て其貪欲の私を済(な)すを求めるのみ、

通し番号 876 章内番号 2 章通し番号 206 識別番号 13_30_2
本文
久しく仮りて帰(かえ)さず、悪ぞ其有に非ざるを知らんや、
朱注
悪、平声、○帰、還なり、有、実有なり、言えらく、其名を竊(ぬす)み以て身を終える、而して自ら其真有に非ざるを知らず、或るひと曰く、蓋し世人其僞を覚(さと)る者莫きを歎ず、亦通ず、旧説は、久しく仮りて帰(かえ)さざれば、即ち真有と爲す、則ち誤る、○尹氏曰く、之を性とするものは、道と一なり、之を身にするものは、之を履(ふ)むなり、其功を成すに及べば則ち一なり、五霸は則ち之を仮るのみ、是を以て功烈彼(かの)如く其れ卑(ひく)きなり、


章番号 31 章通し番号 207

通し番号 877 章内番号 1 章通し番号 207 識別番号 13_31_1
本文
公孫丑曰く、伊尹曰く、予不順に狎(な)れず、太甲を桐に放つ、民大いに悦ぶ、太甲賢にして又之を反す、民大いに悦ぶ、
朱注
予不順に狎(な)れずは、太甲(たいこう)篇の文なり、狎、見るに習(な)れるなり、不順は、太甲が爲す所、義理に順ならざるを言うなり、余は前篇に見ゆ、

通し番号 878 章内番号 2 章通し番号 207 識別番号 13_31_2
本文
賢者の人臣爲るや、其君賢ならざれば、則ち固より放つべきか、
朱注
与、平声、

通し番号 879 章内番号 3 章通し番号 207 識別番号 13_31_3
本文
孟子曰く、伊尹の志有れば、則ち可、伊尹の志無ければ、則ち簒(さん)なり、
朱注
伊尹の志は、公なること天下以て心とす、而して一毫(ごう)の私なるもの無きなり、


章番号 32 章通し番号 208

通し番号 880 章内番号 1 章通し番号 208 識別番号 13_32_1
本文
公孫丑曰く、詩に曰う、素餐(そさん)せず、君子の耕さずして食すは、何ぞや、孟子曰く、君子が是国に居るや、其君之を用いれば、則ち安富尊栄なり、其子弟之に従えば、則ち孝弟忠信なり、素餐せず、孰(いず)れか是より大ならん、
朱注
餐、七丹反、○詩、魏の国風の伐檀(だん)の篇なり、素、空なり、功無くして禄を食(は)む、之を素餐(そさん)と謂う、此は陳相(ちんしょう)、彭更に告げるの意と同じ、


章番号 33 章通し番号 209

通し番号 881 章内番号 1 章通し番号 209 識別番号 13_33_1
本文
王子墊(てん)問いて曰く、士は何をか事とする、
朱注
墊、丁念反、○墊、斉王の子なり、上は則ち公卿大夫、下は則ち農工商賈(こ)、皆事とする所有り、而るに士は其間に居り、独り事とする所無し、故に王子之を問うなり、

通し番号 882 章内番号 2 章通し番号 209 識別番号 13_33_2
本文
孟子曰く、志を尚(たか)くす、
朱注
尚、高尚なり、志は、心の之(ゆ)く所なり、士既に未だ公卿大夫の道を行うことを得ず、又農工商賈の業を爲すに当たらざれば、則ち其志を高尙にするのみ、

通し番号 883 章内番号 3 章通し番号 209 識別番号 13_33_3
本文
曰く、何をか志を尚(たか)くすると謂う、曰く、仁義のみ、一無罪を殺すは、仁に非ざるなり、其有に非ずして之を取るは、義に非ざるなり、居悪(いずく)にか在る、仁是れなり、路悪(いずく)にか在る、義是れなり、仁に居り義に由る、大人の事備わる、
朱注
悪、平声、○仁に非ず義に非ずの事、小と雖も爲さず、而して居る所由る所、仁義に在らざる無し、此は士が以て其志を尙くする所なり、大人は、公卿大夫を謂う、言えらく、士未だ大人の位を得ずと雖も、其志此如ければ、則ち大人の事、体用已に全し、小人の事の若きは、則ち固より当に爲すべき所に非ざるなり、


章番号 34 章通し番号 210

通し番号 884 章内番号 1 章通し番号 210 識別番号 13_34_1
本文
孟子曰く、仲子は不義にして之に斉国を与えて受けず、人皆之を信ず、是れ簞食(たんし)豆羹(とうこう)を舍(す)てるの義なり、人は親戚君臣上下亡き焉(より)大なるは莫(な)し、其小なるものを以て其大なるのものを信ず、奚ぞ可ならんや、
朱注
舍、音は捨、食、音は嗣、○仲子、陳仲子なり、言えらく、仲子設若(もし)義に非ずして之に斉国を与えれば、必ず受けるを肯(がえん)ぜず、斉人皆其賢を信ず、然れども此但(ただ)小廉(れん)のみ、其兄を辟(さ)け母を離れ、君の禄を食さず、人道の大倫無し、罪焉(これ)より大なるは莫(な)し、豈小廉以て其大節を信じて、遂に以て賢と爲すべきかな、


章番号 35 章通し番号 211

通し番号 885 章内番号 1 章通し番号 211 識別番号 13_35_1
本文
桃応問いて曰く、舜天子爲(た)り、皐陶(こうよう)士爲(た)り、瞽瞍(こそう)人を殺せば、則ち之を如何(いかん)、
朱注
桃応、孟子の弟子なり、其意以爲(おも)えらく、舜父を愛すと雖も、私以て公を害すべからず、皐陶(こうよう)法を執(と)ると雖も、以て天子の父を刑すべからず、故に此問を設け、以て聖賢心を用いるの極とする所を観る、以て真に此事有りと爲すに非ざるなり、

通し番号 886 章内番号 2 章通し番号 211 識別番号 13_35_2
本文
孟子曰く、之を執(とら)えるのみ、
朱注
言えらく、皐陶の心、法有るを知るのみ、天子の父有るを知らざるなり、

通し番号 887 章内番号 3 章通し番号 211 識別番号 13_35_3
本文
然らば則ち舜禁ぜざるか、
朱注
与、平声、○桃応問うなり、

通し番号 888 章内番号 4 章通し番号 211 識別番号 13_35_4
本文
曰く、夫(それ)舜悪ぞ得て之を禁ぜん、夫(それ)之を受ける所有るなり、
朱注
夫、音は扶、悪、平声、○言えらく、皐陶(こうよう)の法、伝受する所有り、敢えて私する所に非ず、天子の命と雖も、亦得て之を廃さざるなり、

通し番号 889 章内番号 5 章通し番号 211 識別番号 13_35_5
本文
然らば則ち舜之を如何(いかん)、
朱注
桃応問うなり、

通し番号 890 章内番号 6 章通し番号 211 識別番号 13_35_6
本文
曰く、舜は天下を棄てるを視ること、猶敝(へい)蹝(し)を棄てるがごときなり、竊(ひそ)かに負いて逃れ、海の浜(ほとり)に遵(そ)いて処(お)り、終身訢(きん)然と、楽しみて天下を忘る、
朱注
蹝、音は徙、訢、欣と同じ、楽、音は洛、○蹝、草履なり、遵、循なり、言えらく、舜の心、父有るを知るのみ、天下を有(たも)つを知らざるなり、孟子嘗て言う、舜天下を視ること猶草芥のごとくして、惟父母に順なれば、以て憂いを解くべし、此意と互いに相発す、○此章言えらく、士爲(た)る者、但法有るを知りて、天子の父の尊(たっと)しと爲すを知らず、子爲(た)る者、但父有るを知りて、天下の大と爲すを知らず、蓋し其以て心と爲す所のものは、天理の極、人倫の至に非ざる莫し、学ぶ者此を察して得ること有れば、則ち較計論量を待たずして、天下処し難きの事無し、


章番号 36 章通し番号 212

通し番号 891 章内番号 1 章通し番号 212 識別番号 13_36_1
本文
孟子范(はん)自(よ)り斉に之(ゆ)く、斉王の子を望み見て、喟然(きぜん)として歎じて曰く、居は気を移し、養は体を移す、大なるかな居乎(や)、夫(それ)尽(ことごと)く人の子に非ざるか、
朱注
夫、音は扶、与、平声、○范、斉の邑なり、居、処(お)る所の位を謂う、養、奉養なり、言えらく、人の居処、繫(つなが)る所甚だ大なり、王子亦人の子のみ、特(ただ)居る所同じからざるを以てす、故に養う所同じからずして、其気体異なること有るなり、

通し番号 892 章内番号 2 章通し番号 212 識別番号 13_36_2
本文
孟子曰く、
朱注
張、鄒皆云う、羡文(せんぶん)なり、

通し番号 893 章内番号 3 章通し番号 212 識別番号 13_36_3
本文
王子は宮室車馬衣服、多く人と同じ、而るに王子彼(かの)若きは、其居之をして然らしむるなり、況んや天下の広居に居る者をや、
朱注
広居、前篇に見ゆ、尹氏曰く、睟然(すいぜん)として面に見(あら)われ、背に盎(あふ)る、天下の広居に居る者然るなり、

通し番号 894 章内番号 4 章通し番号 212 識別番号 13_36_4
本文
魯君宋に之く、垤沢(てつたく)の門に於て呼ぶ、守る者曰く、此は吾君に非ざるなり、何ぞ其声の我君に似るや、此は他無し、居相似たるなり、
朱注
呼、去声、○垤澤、宋の城門の名なり、孟子又(さら)に此事を引き証と爲す、


章番号 37 章通し番号 213

通し番号 895 章内番号 1 章通し番号 213 識別番号 13_37_1
本文
孟子曰く、食(やしな)いて愛せざるは、豕(ぶた)として之に交わるなり、愛して敬せざるは、獣として之を畜(やしな)うなり、
朱注
食、音は嗣、畜、許六反、○交、接なり、畜、養なり、獣、犬馬の属を謂う、

通し番号 896 章内番号 2 章通し番号 213 識別番号 13_37_2
本文
恭敬は、幣の未だ將(ささ)げざるものなり、
朱注
将、猶奉のごときなり、詩に曰う、筐(かご)を承(ささ)げて是れ將(ささ)ぐ、程子曰く、恭敬は威儀幣帛に因りて後発見すると雖も、然れども幣の未だ將(ささ)げざる時、已に此恭敬の心有り、幣帛に因りて後有るに非ざるなり、

通し番号 897 章内番号 3 章通し番号 213 識別番号 13_37_3
本文
恭敬にして実無ければ、君子虛にして拘(とど)めるべからず、
朱注
此は、当時の諸侯の賢を待つものは、特(ただ)幣帛以て恭敬と爲して、其実無きを言うなり、拘、留なり、


章番号 38 章通し番号 214

通し番号 898 章内番号 1 章通し番号 214 識別番号 13_38_1
本文
孟子曰く、形色は、天性なり、惟聖人にして、然る後以て形を践(ふ)むべし、
朱注
人の形有り色有るは、各(おのおの)自然の理有らざる無し、謂う所の天性なり、践は、言を践(ふ)むの践の如し、蓋し衆人是(この)形有りて、其理を尽すこと能わず、故に以て其形を践(ふ)むこと無し、惟聖人是(この)形有りて、又能く其理を尽す、然る後以て其形を践(ふ)みて歉(すくな)きこと無かるべきなり、○程子曰く、此言えらく、聖人尽(ことごと)く人の道を得て、能く其形を充(みた)すなり、蓋し人天地の正気を得て生ず、万物と同じからず、既に人と爲れば、須く尽(ことごと)く人の理を得るべし、然る後其名に称(かな)う、衆人之を有して知らず、賢人之を践(ふ)みて未だ尽さず、能く其形を充(みた)すは、惟聖人なり、楊氏曰く、天烝民(じょうみん)を生ず、物有れば則有り、物は、形色なり、則は、性なり、各(おのおの)其則を尽せば、則ち以て形を践(ふ)むべし、


章番号 39 章通し番号 215

通し番号 899 章内番号 1 章通し番号 215 識別番号 13_39_1
本文
斉の宣王は喪を短くせんと欲す、公孫丑曰く、朞(き)の喪を爲すは、猶已(や)むに愈(まさ)るか、
朱注
已、猶止のごときなり、

通し番号 900 章内番号 2 章通し番号 215 識別番号 13_39_2
本文
孟子曰く、是れ猶或るひと其兄の臂(うで)を紾(ねじ)るに、子之に姑(しばら)く徐徐にせよと謂うがごとし(云爾)、亦(ただ)之に孝弟を教えるのみ、
朱注
紾、之忍反、○紾(てん)、戾(れい)なり、之に教える孝弟の道以てすれば、則ち彼当に自ずから兄の戾(ねじ)るべからず、喪の短くすべからざるを知るべし、孔子曰く、子生まれ三年、然る後父母の懐(ふところ)を免る、予(よ)や三年の愛其父母に有らんか、謂う所の之に教えるに孝弟以てするもの此如し、蓋し之に示すに至情の已む能わざるものを以てし、之に強いるに非ざるなり、

通し番号 901 章内番号 3 章通し番号 215 識別番号 13_39_3
本文
王子其母死す者有り、其傅(ふ)之が爲に数月の喪を請う、公孫丑曰く、此若きもの、何如(いかん)、
朱注
爲、去声、○陳氏曰く、王子生む所の母死す、嫡母に厭(せま)られて敢えて喪を終えず、其傅(ふ)爲に王に請い、数月の喪を行うことを得せしめんと欲するなり、時に又適(まさ)に此事有り、丑問う、此如きものは、是非何如(いかん)、儀礼(ぎらい)を按ずるに、公子其母の爲に練(れん)冠、麻衣(まい)、縓縁(せんこう)す、既に葬(ほうむ)れば之を除く、疑うらくは当時此礼已に廃(すた)れる、或いは既に葬むりて未だ即(ただち)に除くを忍びざるなり、故に之を請うなり、

通し番号 902 章内番号 4 章通し番号 215 識別番号 13_39_4
本文
曰く、是れ之を終えるを欲して、得(う)べからざるなり、一日を加うと雖も已(や)むに愈(まさ)る、夫(かの)之を禁ずる莫(な)くて爲さざる者を謂うなり、
朱注
夫、音は扶、○言えらく、王子喪を終えるを欲して得(う)べからず、其傅(ふ)爲に請う、止(ただ)に一日を加うを得ると雖も、猶加えざるに勝(まさ)る、我前に譏(そし)る所は、乃ち夫(かの)之を禁ずる莫くて自ら爲さざる者を謂うのみ、○此章言えらく、三年の通喪は、天経地義、私意が短長する所有るを容れず、之に至情を示せば、則ち不肖なる者以て企(のぞ)みて之に及ぶこと有り、


章番号 40 章通し番号 216

通し番号 903 章内番号 1 章通し番号 216 識別番号 13_40_1
本文
孟子曰く、君子の以て教える所のもの五なり、
朱注
下文の五は、蓋し人品の高下、相去る遠近先後の同じからざる或(あ)るに因る、

通し番号 904 章内番号 2 章通し番号 216 識別番号 13_40_2
本文
時雨之を化すが如きもの有り、
朱注
時雨、時に及(いた)るの雨なり、草木の生じるに、播種(はんしゅ)封植(ほうしょく)し、人力已に至りて、未だ自(おのず)と化すること能わず、少なき所のものは、雨露の滋(うるおい)のみ、此時に及(いた)りて之に雨すれば、則ち其化速し、人に教えるの妙、亦猶是のごときなり、孔子の顔曽に於る若(ごと)きは是のみ、

通し番号 905 章内番号 3 章通し番号 216 識別番号 13_40_3
本文
徳を成すもの有り、財を達するもの有り、
朱注
財、材と同じ、此各(おのおの)其長ずる所に因りて之を教えるものなり、徳を成すは、孔子の冉(ぜん)閔(びん)に於るが如し、財を達するは、孔子の由(ゆう)賜(し)に於るが如し、

通し番号 906 章内番号 4 章通し番号 216 識別番号 13_40_4
本文
問うに答えるもの有り、
朱注
問う所に就きて之に答う、孔孟の樊遅、万章に於るが若きなり、

通し番号 907 章内番号 5 章通し番号 216 識別番号 13_40_5
本文
私(ひそ)かに淑(よ)くし艾(おさ)める者有り、
朱注
艾、音は乂、○私、竊(せつ)なり、淑、善なり、艾、治なり、人或いは門に及(いた)り業を受けること能わず、但(ただ)君子の道を人に聞き、竊(ひそ)かに以て其身を善くし治む、是れ亦君子の教誨(きょうかい)の及ぶ所なり、孔孟の陳亢(ちんこう)、夷之(いし)に於るが若き是なり、孟子亦曰く、予未だ孔子の徒爲(た)るを得ざるなり、予私(ひそか)に諸を人に淑(よ)くするなり、

通し番号 908 章内番号 6 章通し番号 216 識別番号 13_40_6
本文
此五なるものは、君子の以て教える所なり、
朱注
聖賢教えを施すは、各(おのおの)其材に因る、小は以て小を成し、大は以て大を成す、人を棄てること無きなり、


章番号 41 章通し番号 217

通し番号 909 章内番号 1 章通し番号 217 識別番号 13_41_1
本文
公孫丑曰く、道は則ち高し、美(うるわ)し、宜(ほとんど)天に登るが若き然(なり)、及ぶべからざるに似るなり、何ぞ彼をして幾(ちか)づき及ぶべきを爲して、日に孳孳(しし)せざらしめざるや、
朱注
幾、音機、

通し番号 910 章内番号 2 章通し番号 217 識別番号 13_41_2
本文
孟子曰く、大匠は拙工の爲に縄墨(じょうぼく)を改め廃せず、羿(げい)は拙射の爲に其彀率(こうりつ)を変ぜず、
朱注
爲、去声、彀、古候反、率、音は律、○彀率(こうりつ)、弓を彎(ひ)くの限なり、言えらく、人に教えるは、皆易(か)うべからざるの法有り、自ら貶(おと)し以て学ぶ者の能わざるに徇(したが)うを容れざるなり、

通し番号 911 章内番号 3 章通し番号 217 識別番号 13_41_3
本文
君子は引きて発さず、躍如(やくじょ)なり、道に中(あた)りて立つ、能なる者之に従う、
朱注
引、弓を引くなり、発、矢を発するなり、躍如(やくじょ)、踊躍(ようやく)して出るが如きなり、上文の彀率に因りて言う、君子人に教えるは、但(ただ)之を学ぶの法を以て授け、之を得るの妙を以て告げず、射る者の弓を引きて矢を発さざるが如し、然れども其告げざる所のものは、已に踊躍(ようやく)して前に見(あらわ)れるが如し、中は、過不及無しの謂(いい)なり、中道にして立つは、其難に非ず易に非ずを言う、能なる者之に従うは、学ぶ者当に自ら勉むべしを言うなり、○此章言えらく、道定体有り、教え成法有り、卑(ひく)きは抗(あ)ぐべからず、高きは貶(おと)すべからず、語りて顕(あらわ)すこと能わず、黙して蔵(かく)すこと能わず、


章番号 42 章通し番号 218

通し番号 912 章内番号 1 章通し番号 218 識別番号 13_42_1
本文
孟子曰く、天下道有れば、道以て身に殉(したが)わしむ、天下道無ければ、身以て道に殉わしむ、
朱注
殉、殉葬(じゅんそう)の殉の如し、死以て物に随(したが)うの名なり、身出ずれば則ち道必ず行うに在り、道屈すれば則ち身必ず退くに在り、死以て相従いて離れざるなり、

通し番号 913 章内番号 2 章通し番号 218 識別番号 13_42_2
本文
未だ道以て人に殉(したが)わしめるものを聞かざるなり、
朱注
道以て人に従うは、妾婦の道なり、


章番号 43 章通し番号 219

通し番号 914 章内番号 1 章通し番号 219 識別番号 13_43_1
本文
公都子曰く、滕更(とうこう)の門に在るや、礼とする所在るが若し、而るに答えず、何ぞや、
朱注
更、平声、○趙氏曰く、滕更、滕君の弟なり、来り学ぶ者なり、

通し番号 915 章内番号 2 章通し番号 219 識別番号 13_43_2
本文
孟子曰く、貴を挾(さしはさ)みて問う、賢を挾(さしはさ)みて問う、長を挾(さしはさ)みて問う、勲労有るを挾(さしはさ)みて問う、故を挾(さしはさ)みて問う、皆答えざる所なり、滕更は二有り、
朱注
長、上声、○趙氏曰く、二は、貴を挾む、賢を挾むを謂うなり、尹氏曰く、挾む所有れば、則ち道を受けるの心専らならず、答えざる所以なり、此言えらく、君子人に誨(おし)え倦(う)まずと雖も、又夫意の誠ならざるものを悪む、


章番号 44 章通し番号 220

通し番号 916 章内番号 1 章通し番号 220 識別番号 13_44_1
本文
孟子曰く、已(や)むべからずに於て已むは、已まざる所無し、厚き所のものに於て薄きは、薄からざる所無きなり、
朱注
已、止なり、止(や)むべからずは、爲さざるを得ざる所のものを謂うなり、厚き所は、当に厚くすべき所のものなり、此は及ばざるものの弊を言う、

通し番号 917 章内番号 2 章通し番号 220 識別番号 13_44_2
本文
其進むこと鋭(はや)きは、其退くこと速(はや)し、
朱注
進むことが鋭(はや)き者は、心を用いること太(はなは)だ過ぐ、其気衰え易し、故に退くこと速し、○三者の弊、理勢の必然なり、過不及が同じからずと雖も、然れども卒(つい)に同じく廃弛に帰す、


章番号 45 章通し番号 221

通し番号 918 章内番号 1 章通し番号 221 識別番号 13_45_1
本文
孟子曰く、君子の物に於るや、之を愛して仁ならず、民に於るや、之を仁(いつくし)みて親(した)しまず、親(しん)に親しみて民を仁(いつくし)む、民を仁(いつくし)みて物を愛す、
朱注
物、禽獣草木を謂う、愛、之を取るに時有り、之を用いるに節有るを謂う、○程子曰く、仁は、己を推して人に及ぼす、吾老を老として以て人の老に及すが如し、民に於ては則ち可なり、物に於ては則ち不可なり、統(す)べて之を言えば則ち皆仁なり、分けて之を言えば則ち序有り、楊氏曰く、其分同じからず、故に施す所差等無きこと能わず、謂う所の理一にして分かれ殊(こと)なるものなり、尹氏曰く、何を以て是の差等有るや、本を一にするの故なり、僞(いつわり)無きなり、


章番号 46 章通し番号 222

通し番号 919 章内番号 1 章通し番号 222 識別番号 13_46_1
本文
孟子曰く、知者は知らざる無きなり、当に務むべし之急と爲す、仁者愛さざる無きなり、急に賢に親しむ之務めと爲す、堯舜の知にして物に徧(あまね)からず、先務を急とするなり、堯舜の仁にして人を愛すること徧(あまね)からず、親賢を急とするなり、
朱注
知者の知、並(みな)去声、○知者は固より知らざる無し、然れども常に当に務むべき所のもの以て急と爲せば、則ち事治まらざる無くて、其知爲(た)るや大なり、仁者固より愛さざる無し、然れども常に親賢を急とすれば、則ち恩洽(あまね)からざる無くて、其仁爲(た)るや博(ひろ)し、

通し番号 920 章内番号 2 章通し番号 222 識別番号 13_46_2
本文
三年の喪を能(よ)くせずして、緦(し)、小功之察す、放飯流歠(せつ)して、歯決無きを問う、是を之務めを知らずと謂う、
朱注
飯、扶晩反、歠、昌悦反、○三年の喪は、服の重きものなり、緦麻(しま)は三か月、小功は五か月、服の軽きものなり、察、詳を致すなり、放飯は、大飯なり、流歠(せつ)は、長歠なり、不敬の大なるものなり、齒決は、乾肉を齧(か)み断(き)る、不敬の小なるものなり、問、講求の意なり、○此章言えらく、君子の道に於るは、其全体を識れば、則ち心狭からず、先後する所を知れば、則ち事序有り、豊氏曰く、智は先務を急にせざれば、徧(あまね)く人の知る所を知り、徧(あまね)く人の能くする所を能くすると雖も、徒(いたずら)に精神を弊して、天下の治に益無し、仁は親賢を急にせざれば、民を仁(いつくし)み物を愛するの心有りと雖も、小人位に在りて、下に達するに由ること無し、聡明は日に上に於て蔽(おお)わる、而して悪政日に下に加わる、此が孟子謂う所の務めを知らざるなり、


14 盡心章句下 jìn xīn zhāng jù xià

章番号 1 章通し番号 223

通し番号 921 章内番号 1 章通し番号 223 識別番号 14_1_1
本文
孟子曰く、不仁なるかな、梁の恵王や、仁者は其愛する所以て、其愛さざる所に及ぼす、不仁者は其愛さざる所を以て、其愛する所に及ぼす、
朱注
親(しん)を親(あい)して民を仁(いつくし)む、民を仁(いつくし)みて物を愛す、謂う所の其愛する所以て、其愛さざる所に及ぼすなり、

通し番号 922 章内番号 2 章通し番号 223 識別番号 14_1_2
本文
公孫丑曰く、何の謂(いい)ぞや、梁の恵王は土地の故を以て、其民を糜爛(びらん)して之を戦わす、大敗す、将に之に復(むく)わんとす、勝つ能わざるを恐る、故に其愛する所の子弟を駆り以て之に殉(したが)わしむ、是を之其愛さざる所を以て、其愛する所に及ぼすと謂うなり、
朱注
梁恵王以下は、孟子が答える辞なり、其民を糜爛(びらん)するは、之をして戦闘せしめ、其血肉を糜爛するなり、之を復(かさね)るは、復(また)戦うなり、子弟、太子申を謂うなり、土地の故を以て其民に及ぼす、民の故を以て其子に及ぼす、皆其愛さざる所を以て其愛する所に及ぼすなり、○此は前篇の末三章の意を承け、仁人の恩、内自(よ)り外に及び、不仁の禍、疏由(よ)り親に逮(およ)ぶを言う、


章番号 2 章通し番号 224

通し番号 923 章内番号 1 章通し番号 224 識別番号 14_2_1
本文
孟子曰く、春秋義戦無なし、彼が此より善きは、則ち之有り、
朱注
春秋は諸侯戦伐の事を書く每に、必ず譏貶(きへん)を加え、以て其擅興(せんこう)の罪を著(あきら)かにす、以て義に合うと爲して之を許すもの有ること無し、但し中に就き彼が此より善きものは則ち之有り、召陵の師の類の如きは是れなり、

通し番号 924 章内番号 2 章通し番号 224 識別番号 14_2_2
本文
征は上が下を伐つなり、敵(たぐい)する国は相征さざるなり、
朱注
征、以て人を正す所なり、諸侯罪有れば、則ち天子討ちて之を正す、此が春秋義戦無き所以なり、


章番号 3 章通し番号 225

通し番号 925 章内番号 1 章通し番号 225 識別番号 14_3_1
本文
孟子曰く、尽く書を信ずるは、則ち書無きに如かず、
朱注
程子曰く、事を載(の)すの辞は、重く称(い)いて其実に過ぐるもの有るを容(い)る、学ぶ者当に其義を識るべきのみ、苟(もし)辞に執すれば、則ち時に義に害有ること或(あ)り、書無きの愈(まさ)るに如かざるなり、

通し番号 926 章内番号 2 章通し番号 225 識別番号 14_3_2
本文
吾武成に於て、二三策を取るのみ、
朱注
武成は、周書の篇名なり、武王紂を伐つ、帰りて事を記するの書なり、策、竹簡なり、其二三策の言を取るは、其余は尽くは信ずるべからざるなり、程子曰く、其天を奉(う)け暴を伐つの意、政に反り仁を施すの法を取るのみ、

通し番号 927 章内番号 3 章通し番号 225 識別番号 14_3_3
本文
仁人は天下に敵無し、至仁以て至不仁を伐つ、而るに何ぞ其血の杵(きね)を流さんや、
朱注
杵、舂杵(しょうしょ)なり、或いは鹵(ろ)に作る、楯なり、武成言えらく、武王紂を伐つ、紂の前徒戈(ほこ)を倒(さかさま)にし、後を攻め以て北(に)ぐ、血が杵を流し漂(ただよ)わす、孟子言えらく此は則ち其信ずべからざるものなり、然れども書の本意は、乃ち商人自ら相殺すを謂う、武王之を殺すを謂うに非ざるなり、孟子の是言を設くるは、後世が惑い、且(まさ)に不仁の心を長(すす)めんとするを懼れるのみ、


章番号 4 章通し番号 226

通し番号 928 章内番号 1 章通し番号 226 識別番号 14_4_1
本文
孟子曰く、人有りて曰く、我善く陳を爲す、我善く戦いを爲す、大罪なり、
朱注
陳、去声、○行伍を制するを陳と曰う、兵を交えるを戦いと曰う、

通し番号 929 章内番号 2 章通し番号 226 識別番号 14_4_2
本文
国君が仁を好めば、天下に敵無し、
朱注
好、去声、

通し番号 930 章内番号 3 章通し番号 226 識別番号 14_4_3
本文
南面して征すれば北狄怨む、東面して征すれば西夷怨む、曰く、奚爲(なんすれ)ぞ我を後にす、
朱注
此は湯の事を引き以て之を明かにす、解は前篇に見ゆ、

通し番号 931 章内番号 4 章通し番号 226 識別番号 14_4_4
本文
武王の殷を伐つや、革車三百両、虎賁(こほん)三千人、
朱注
兩、去声、賁、音は奔、○又武王の事以て之を明かにするなり、兩、車の数、一車の両輪なり、千、書は序するに百に作る、

通し番号 932 章内番号 5 章通し番号 226 識別番号 14_4_5
本文
王曰く、畏れること無かれ、爾(なんじ)を寧(やす)んずるなり、百姓に敵するに非ざるなり、崩(くず)るが若く角(ひたい)を厥(たお)し稽首す、
朱注
書の太誓の文は此と小し異なる、孟子の意当に云うべし、王は商人(しょうひと)に謂いて曰く、我を畏れること無きなり、我来り紂を伐つ、本は汝を安寧する爲にて、商の百姓に敵するに非ざるなり、是に於て商人稽首し地に至る、角の崩るが如きなり、

通し番号 933 章内番号 6 章通し番号 226 識別番号 14_4_6
本文
征の言爲(た)るは、正なり、各(おのおの)己を正さんと欲するなり、焉ぞ戦いを用いん、
朱注
焉、於虔反、○民は暴君の虐(しいた)げる所と爲る、皆仁者来り己の国を正すを欲するなり、


章番号 5 章通し番号 227

通し番号 934 章内番号 1 章通し番号 227 識別番号 14_5_1
本文
孟子曰く、梓匠(ししょう)輪輿(りんよ)、能く人に規矩を与える、人をして巧ならしめること能わず、
朱注
尹氏曰く、規矩は、法度告ぐべきものなり、巧は則ち其人に在り、大匠と雖も、亦之を如何(いかん)ともする末(な)きのみ、蓋し下学は言以て伝えるべし、上達は必ず心に由りて悟る、荘周論ずる所の輪を斲(けず)るの意、蓋し此如し、


章番号 6 章通し番号 228

通し番号 935 章内番号 1 章通し番号 228 識別番号 14_6_1
本文
孟子曰く、舜の糗(ほしいい)を飯(た)べ草を茹(た)べるや、将に身を終えんとするが若し、其天子と爲るに及ぶや、袗衣(しんい)を被(き)、琴を鼓(ひ)き、二女果(はべ)る、固より之を有するが若し、
朱注
飯、上声、糗、去久反、茹、音は汝、袗、之忍反、果、説文婐に作る、烏果反、○飯、食なり、糗(きゅう)、乾糒(かんび)なり、茹、亦食なり、袗、画衣なり、二女、堯の二女也、果、女侍(はべ)るなり、言えらく、聖人の心は、貧賎以てして外に慕(むか)うこと有らず、富貴以てして中に動くこと有らず、遇に隨(したが)いて安らかなり、己に預かること無し、性とする所は分定まる故なり、


章番号 7 章通し番号 229

通し番号 936 章内番号 1 章通し番号 229 識別番号 14_7_1
本文
孟子曰く、吾今にして後、人の親(しん)を殺すの重きを知るなり、人の父を殺せば、人亦其父を殺す、人の兄を殺せば、人亦其兄を殺す、然らば則ち自ら之を殺すに非ざるや、一間のみ、
朱注
間、去声、○吾今にして後知ると言うは、必ず爲す所有りて感じ発するなり、一間は、我往き彼来るは、一人を間にするのみ、其実は自ら其親(しん)を害すると異なること無きなり、范氏曰く、此を知れば則ち人の親(しん)を愛し敬し、人亦其親(しん)を愛し敬す、


章番号 8 章通し番号 230

通し番号 937 章内番号 1 章通し番号 230 識別番号 14_8_1
本文
孟子曰く、古の関を爲(つく)るや、将に以て暴を禦(ふせ)がんとす、
朱注
非常を譏(しら)べ察(み)る、

通し番号 938 章内番号 2 章通し番号 230 識別番号 14_8_2
本文
今の関を爲(つく)るや、将に以て暴を爲さんとす、
朱注
出入に征税す、○范氏曰く、古の耕やす者は什一、後世大半の税を收めること或(あ)り、此は賦斂(ふれん)以て暴を爲すなり、文王の囿(ゆう)、民と之を同じくす、斉の宣王の囿は、阱(せい)を国の中に爲(つく)る、此は園囿以て暴を爲すなり、後世暴を爲すは、関に止(とどま)らず、若(もし)孟子をして諸侯に用いられることあらしめば、必ず文王の政を行い、凡そ此の類は、皆日を終えずして改めるなり、


章番号 9 章通し番号 231

通し番号 939 章内番号 1 章通し番号 231 識別番号 14_9_1
本文
孟子曰く、身道を行わざれば、妻子に於ても行われず、人を使うに道以てせざれば、妻子に於ても行うこと能わず、
朱注
身道を行わずは、行なうこと以て之を言う、行わずは、道が行われざるなり、人を使うに道以てせざるは、事以て之を言う、行うこと能わざるは、行わざらしむなり、


章番号 10 章通し番号 232

通し番号 940 章内番号 1 章通し番号 232 識別番号 14_10_1
本文
孟子曰く、利に周(いた)る者は、凶年殺すこと能わず、徳に周(いた)る者は、邪世乱すこと能わず、
朱注
周、足なり、積が厚ければ、則ち用いて余り有るを言う、


章番号 11 章通し番号 233

通し番号 941 章内番号 1 章通し番号 233 識別番号 14_11_1
本文
孟子曰く、名を好むの人は、能く千乗の国を讓る、苟(もし)其人に非ざれば、簞食(たんし)豆羹(とうこう)色に見(あらわ)る、
朱注
好、乗、食、皆去声、見、音は現、○名を好むの人は、情を矯(いつわ)り誉れを干(もと)む、是を以て能く千乗の国を譲る、然れども若(もし)本(もと)能く富貴を軽んずるの人に非ざれば、則ち得失の小なるものに於て、反て其真情の発見するを覚(さと)らず、蓋し人を観るは其勉める所に於てせずして、其忽(ゆるがせ)にする所に於てす、然る後以て其安んずる所の実を見るべきなり、


章番号 12 章通し番号 234

通し番号 942 章内番号 1 章通し番号 234 識別番号 14_12_1
本文
孟子曰く、仁賢を信じざれば、則ち国空虚なり、
朱注
空虚、人無きが若く然(なる)を言う、

通し番号 943 章内番号 2 章通し番号 234 識別番号 14_12_2
本文
礼義無ければ、則ち上下乱る、
朱注
礼義は、以て上下を弁(わ)け、民の志(こころ)を定める所なり、

通し番号 944 章内番号 3 章通し番号 234 識別番号 14_12_3
本文
政事無ければ、則ち財用足らず、
朱注
之を生むに道無く、之を取るに度(のり)無く、之を用いるに節無なき故なり、○尹氏曰く、三なるものは仁賢以て本と爲す、仁賢無ければ、則ち礼義政事、之を処するに皆其道以てせず、


章番号 13 章通し番号 235

通し番号 945 章内番号 1 章通し番号 235 識別番号 14_13_1
本文
孟子曰く、不仁にして国を得る者、之有り、不仁にして天下を得るは、未だ之有らざるなり、
朱注
言えらく、不仁の人、其私智を騁(は)せ、以て千乗の国を盗むべし、而るに以て丘民の心を得るべからず、鄒氏曰く、秦自(よ)り以来、不仁にして天下を得る者有り、然れども皆一再の伝にて之を失う、猶得ざるがごときなり、謂う所の天下を得るは、必ず三代に如(ゆ)く、而して後可なり、


章番号 14 章通し番号 236

通し番号 946 章内番号 1 章通し番号 236 識別番号 14_14_1
本文
孟子曰く、民は貴(たっと)しと爲す、社稷は之に次ぐ、君は軽しと爲す、
朱注
社は、土の神なり、稷は、穀の神なり、国を建てれば則ち壇壝(だんい)を立て以て之を祀(まつ)る、蓋し国は民以て本と爲す、社稷亦民の爲にして立つ、而して君の尊(たっと)きは、又二者の存亡に係(しば)られる、故に其軽重此如し、

通し番号 947 章内番号 2 章通し番号 236 識別番号 14_14_2
本文
是故に丘民に得る、而して天子と爲る、天子に得て諸侯と爲る、諸侯に得て大夫と爲る、
朱注
丘民は、田野の民なり、至りて微賎なり、然れども其心を得れば、則ち天下之に帰す、天子至りて尊貴なり、而るに其心を得る者は、諸侯と爲るに過ぎざるのみ、是れ民重しと爲すなり、

通し番号 948 章内番号 3 章通し番号 236 識別番号 14_14_3
本文
諸侯が社稷を危うくすれば、則ち変えて置く、
朱注
諸侯が無道、将に社稷をして人の滅ぼす所と爲らしめんとすれば、則ち当に賢君に更(か)えて立つべし、是(こ)れ君は社稷より軽きなり、

通し番号 949 章内番号 4 章通し番号 236 識別番号 14_14_4
本文
犧牲既に成る、粢盛(しせい)既に潔(きよ)し、祭祀は時を以てす、然り而して旱乾(かんかん)水溢(すいいつ)すれば、則ち社稷を変えて置く、
朱注
盛、音は成、○祭祀礼を失わず、而るに土穀の神は民の爲に災を禦(ふせ)ぎ患を捍(ふせ)ぐこと能わざれば、則ち其壇壝(だんい)を毀(こぼ)ちて之を更(か)えて置く、亦(ただ)年順成ならざれば、八蜡(はっさ)通ぜずの意なり、是れ社稷は君より重しと雖も、民より軽きなり、


章番号 15 章通し番号 237

通し番号 950 章内番号 1 章通し番号 237 識別番号 14_15_1
本文
孟子曰く、聖人は、百世の師なり、伯夷、柳下恵是れなり、故に伯夷の風を聞く者は、頑夫(がんぷ)は廉、懦夫(だふ)は志を立つること有り、柳下恵の風を聞く者は、薄夫は敦(あつ)く、鄙夫(ひふ)は寬(ひろ)し、百世の上に奮い、百世の下、聞く者興起せざる莫きなり、聖人に非ずして能く是の若きか、而るに況んや之に親炙(しんしゃ)する者に於てをや、
朱注
興起、感動奮発なり、親炙は、親しく近くして之を熏炙(くんしゃ)するなり、余は前篇に見ゆ、


章番号 16 章通し番号 238

通し番号 951 章内番号 1 章通し番号 238 識別番号 14_16_1
本文
孟子曰く、仁なるは、人なり、合わせて之を言えば、道なり、
朱注
仁は、人の以て人と爲る所の理なり、然れば仁は、理なり、人は、物なり、仁の理以て、人の身に合わせて之を言えば、乃ち謂う所の道なるものなり、○程子曰く、中庸謂う所の性に率(したが)う之道と謂う、是れなり、或るひと曰く、外国本は、人也の下に、義なるは宜(ぎ)なり、礼なるは履なり、智なるは知なり、信なるは実なりの、凡そ二十字有り、今按ずるに、此如ければ、則ち理極めて分明なり、然れども未だ其是否を詳かにせざるなり、


章番号 17 章通し番号 239

通し番号 952 章内番号 1 章通し番号 239 識別番号 14_17_1
本文
孟子曰く、孔子が魯を去るに曰く、遅遅として吾行くなり、父母の国を去るの道なり、斉を去るに、淅を接(う)けて行く、他国を去るの道なり、
朱注
重出、


章番号 18 章通し番号 240

通し番号 953 章内番号 1 章通し番号 240 識別番号 14_18_1
本文
孟子曰く、君子が陳蔡の間に於て戹(くる)しむは、上下の交無きなり、
朱注
君子は、孔子なり、戹(やく)は、厄(やく)と同じ、君臣皆悪む、与(くみ)し交わる所無きなり、


章番号 19 章通し番号 241

通し番号 954 章内番号 1 章通し番号 241 識別番号 14_19_1
本文
貉稽曰く、稽大いに口に理ならず、
朱注
貉、音は陌、○趙氏曰く、貉は姓、稽は名、衆口の訕(そし)る所と爲る、理、頼なり、今按ずるに、漢書の無俚、方言亦頼に訓(よ)む、

通し番号 955 章内番号 2 章通し番号 241 識別番号 14_19_2
本文
孟子曰く、傷むこと無かれ、士は茲(この)多口に憎まれる、
朱注
趙氏曰く、士爲(た)る者は、益(ますます)多く衆口の訕(そし)る所と爲る、此を按ずるに、則ち憎は当に土に従うべし、今本皆心に従う、蓋し伝写の誤りなり、

通し番号 956 章内番号 3 章通し番号 241 識別番号 14_19_3
本文
詩に云う、憂う心が悄悄(しょうしょう)、羣小に慍(いか)られる、孔子なり、肆(つい)に厥(その)慍(いか)りを殄(た)たず、亦厥(その)問を隕(お)とさず、文王なり、
朱注
詩は、邶風(はいふう)の柏舟、及び大雅の緜(めん)の篇なり、悄悄(しょうしょう)、憂う貌、慍、怒なり、本は衛の仁人、羣小に怒られるを言う、孟子以爲(おも)えらく、孔子の事、以て之に当てるべしと、肆、発語の辞なり、隕、墜なり、問、声問なり、本は太王昆夷に事えるを言う、其慍怒を殄絶(てんぜつ)すること能わずと雖も、亦自ずから其声問の美を墜(お)とさず、孟子以爲(おも)えらく、文王の事、以て之に当てるべしと、○尹氏曰く、人自ら処る如何(いかん)を顧み、其我に在るものを尽すのみを言う、


章番号 20 章通し番号 242

通し番号 957 章内番号 1 章通し番号 242 識別番号 14_20_1
本文
孟子曰く、賢者は其昭昭以て、人をして昭昭せしむ、今は其昏昏以て、人をして昭昭せしむ、
朱注
昭昭、明なり、昏昏、闇(あん)なり、尹氏曰く、大学の道は、自ら明徳を昭(あきら)かにして、天下国家に施すことに在り、其順(したが)わざる者有ること寡し、


章番号 21 章通し番号 243

通し番号 958 章内番号 1 章通し番号 243 識別番号 14_21_1
本文
孟子は高子に謂いて曰く、山径の蹊(けい)、間(しばら)く介然として之を用いて路を成す、間(しばら)く用いざるを爲せば、則ち茅(ちがや)之を塞(ふさ)ぐ、今茅子の心を塞ぐ、
朱注
介、音は戛(かつ)なり、○径、小路なり、蹊、人の行く処(ところ)なり、介然、倏然(しゅくぜん)の頃(けい)なり、用、由なり、路、大路なり、爲閒、少頃なり、茅(ちがや)塞(ふさ)ぐは、茅(ちがや)の草生じて之を塞ぐなり、理義の心、少しも閒断すること有るべからざるを言うなり、


章番号 22 章通し番号 244

通し番号 959 章内番号 1 章通し番号 244 識別番号 14_22_1
本文
高子曰く、禹の声、文王の声に尚(まさ)る、
朱注
尚、尚(たっと)ぶを加えるなり、豊氏曰く、禹の楽、文王の楽に過(まさ)るを言う、

通し番号 960 章内番号 2 章通し番号 244 識別番号 14_22_2
本文
孟子曰く、何を以て之を言う、曰く、追(たい)の蠡(むしば)むを以てなり、
朱注
追、音は堆(つい)、蠡、音は禮、○豊氏曰く、追、鐘の紐(ひも)なり、周礼謂う所の旋蟲(せんちゅう)是れなり、蠡(れい)は、木を齧(か)む蟲(むし)なり、言えらく、禹の時の鐘の在るものは、鐘の紐蟲齧(か)みて絶えんと欲すが如し、蓋し之を用いる者多し、而るに文王の鐘然らず、是を以て禹の楽、文王の楽に過(まさ)るを知るなり、

通し番号 961 章内番号 3 章通し番号 244 識別番号 14_22_3
本文
曰く、是奚ぞ足らんや、城門の軌は、両馬の力か、
朱注
与、平声、○豊氏曰く、奚ぞ足るは、此は何ぞ以て之を知るに足るやと言う、軌、車の轍(わだち)の跡なり、兩馬は、一車駕する所なり、城中の涂(みち)九軌を容(い)れる、車散じて行くべし、故に其轍の跡浅し、城門は惟(ただ)一車を容(い)れる、車皆之に由る、故に其轍(わだち)の跡深し、蓋し日久しく車多くて致す所なり、一車両馬の力、能く之をして然らしむるに非ざるなり、言えらく、禹は文王の前に在ること千余年なり、故に鐘久しくて紐(ひも)絶つ、文王の鐘は、則ち未だ久しからずして紐全し、此を以てして優劣を議するべからざるなり、○此章の文義本(もと)曉(あきら)かなるべからず、旧説相承くること此如し、而して豊氏差(やや)明白、故に今之を存(すす)む、亦未だ其是否を知らざるなり、


章番号 23 章通し番号 245

通し番号 962 章内番号 1 章通し番号 245 識別番号 14_23_1
本文
斉饑える、陳臻(ちんしん)曰く、国人皆以(おも)えらく、夫子(ふうし)将に復(また)爲に棠(とう)を発せんとす、殆ど復(ふたた)びすべからず、
朱注
復、扶又反、○先の時斉国嘗て饑える、孟子王に勧め棠(とう)邑の倉を発し、以て貧窮を振(すく)う、此に至り又饑える、陳臻(ちんしん)問う、斉人は孟子が復(また)王に勧め棠を発するを望むを言う、而して又自ら其不可を恐れるを言うなり、

通し番号 963 章内番号 2 章通し番号 245 識別番号 14_23_2
本文
孟子曰く、是れ馮婦(ひょうふ)を爲すなり、晋人馮婦なる者有り、善く虎を搏(とら)う、卒に善士と爲る、則ち野に之(ゆ)く、衆虎を逐う有り、虎嵎(ぐう)に負(よ)り、之に敢えて攖(ふ)れること莫し、馮婦を望見して、趨(はし)りて之を迎う、馮婦臂(うで)を攘(まく)り下車す、衆皆之を悦ぶ、其士爲る者之を笑う、
朱注
手で執えるを搏と曰う、卒に善士と爲るは、後に能く行を改め善を爲すなり、之、適なり、負、依なり、山曲がるを嵎と曰う、攖、触なり、之を笑うは、其止まるを知らざるを笑うなり、疑うらくは此時斉王は已に孟子を用いること能わず、而して孟子亦将に去らんとす、故に其言此如し、


章番号 24 章通し番号 246

通し番号 964 章内番号 1 章通し番号 246 識別番号 14_24_1
本文
孟子曰く、口の味に於る、目の色に於る、耳の声に於る、鼻の臭(におい)に於る、四肢の安佚に於るは、性なり、命有り、君子は性と謂わざるなり、
朱注
程子曰く、五者の欲は、性なり、然れども分有り、能く皆其願いの如(ごと)からざるは、則ち是(こ)れ命なり、我性の有する所、而(しか)るに求めて必ず之を得ると謂うべからざるなり、愚按ずるに、皆其願の如くすること能わず、貧賎の爲に止(とどま)らず、蓋し富貴の極と雖も、亦品節限制有れば、則ち是亦命有るなり、

通し番号 965 章内番号 2 章通し番号 246 識別番号 14_24_2
本文
仁の父子に於る、義の君臣に於る、礼の賓主に於る、智の賢者に於る、聖人の天道に於るは、命なり、性有り、君子は命と謂わざるなり、
朱注
程子曰く、仁義礼智天道、人に在れば則ち命に於て賦(う)くるものなり、稟(う)ける所は厚薄淸濁有り、然り而して性善にして学びて尽すべし、故に之を命と謂わざるなり、張子曰く、晏嬰は智なり、而るに仲尼を知らず、是(こ)れ命に非ざるか、愚按ずるに、稟(う)くる所のもの厚くして清ければ、則ち其仁の父子に於るや至れり、義の君臣に於るや尽し、礼の賓主に於るや恭しく、智の賢否に於るや哲(さと)く、聖人の天道に於るや、吻合(ふんごう)せざる無くて、純亦已まず、薄にして濁なれば、則ち是に反す、是皆謂う所の命なり、或るひと曰く、者、当に否に作るべし、人は衍字なり、更に之を詳かにす、○愚之を師に聞く、曰く、此二条は、皆性の有する所にして、天に命ぜられるものなり、然れども世の人は、前の五のものを以て性と爲す、得ざる有ると雖も、必ず之を求めることを欲す、後の五のものを以て命と爲す、一たび至らざること有れば、則ち復(また)力を致さず、故に孟子各(おのおの)其重き処(ところ)に就きて之を言い、以て此を伸ばして彼を抑えるなり、張子謂う所の養は則ち命を天に付す、道は則ち成を己に責(もと)む、其言約にして尽きる、


章番号 25 章通し番号 247

通し番号 966 章内番号 1 章通し番号 247 識別番号 14_25_1
本文
浩生不害問いて曰く、楽正子何人ぞや、孟子曰く、善人なり、信人なり、
朱注
趙氏曰く、浩生は、姓、不害は、名、斉人なり、

通し番号 967 章内番号 2 章通し番号 247 識別番号 14_25_2
本文
何をか善と謂う、何をか信と謂う、
朱注
不害問うなり、

通し番号 968 章内番号 3 章通し番号 247 識別番号 14_25_3
本文
曰く、欲すべし之善と謂う、
朱注
天下の理、其善なるもの必ず欲すべし、其悪なるもの必ず悪むべし、其人と爲りや、欲すべくして悪むべからず、則ち善人と謂うべし、

通し番号 969 章内番号 4 章通し番号 247 識別番号 14_25_4
本文
諸(これ)を己に有(たも)つ之信と謂う、
朱注
凡そ善と謂う所、皆実にして之を有(たも)つ、悪臭を悪むが如く、好色を好むが如し、是則ち信人と謂うべし、○張子曰く、仁を志し悪むこと無し之善と謂う、善を身に誠にする之信と謂う、

通し番号 970 章内番号 5 章通し番号 247 識別番号 14_25_5
本文
充実する之美と謂う、
朱注
其善を力行し、充満に至りて実を積めば、則ち美其中に在りて、外に待つこと無し、

通し番号 971 章内番号 6 章通し番号 247 識別番号 14_25_6
本文
充実して光輝有り之大と謂う、
朱注
和順し中に積みて英華外に発す、美は其中に在りて、四支に暢(み)ち、事業に発す、則ち徳業至りて盛んにして加うべからず、

通し番号 972 章内番号 7 章通し番号 247 識別番号 14_25_7
本文
大にして之を化す之聖と謂う、
朱注
大にして能く化し、其大なるものをして泯然(びんぜん)復(また)見るべきの跡無からしめば、則ち思わず勉めず、従容(しょうよう)として道に中(あた)り、人力の能く爲す所に非ず、張子曰く、大は爲すべきなり、化は爲すべからざるなり、之を熟するに在るのみ、

通し番号 973 章内番号 8 章通し番号 247 識別番号 14_25_8
本文
聖にして之を知るべからず之神と謂う、
朱注
程子曰く、聖知るべからずは、聖の至妙、人測ること能わざる所を謂う、聖人の上に、又(さら)に一等の神人有るに非ざるなり、

通し番号 974 章内番号 9 章通し番号 247 識別番号 14_25_9
本文
楽正子、二の中、四の下なり、
朱注
蓋し善信の間に在り、其子敖(しごう)に従うを観れば、則ち其諸を己に有つは未だ実ならざる或(あ)るなり、張子曰く、顔淵、楽正子皆仁を好むを知る、楽正子は仁に志し悪(い)むこと無し、而るに学に於て致さず、但(ただ)善人信人となる所以のみ、顔子学を好み倦(う)まず、仁と智を合い、聖人を具体す、独(ただ)未だ聖人の止に至らざるのみ、○程子曰く、士の難とする所は、諸を己に有(たも)つことに在るのみ、能く諸を己に有てば、則ち之に居るは安らか、之に資(と)るは深し、而して美且(かつ)大にして、以て馴致(じゅんち)すべし、徒に欲すべきの善を知りて、存るが若(ごと)く亡(な)きが若きのみなれば、則ち能く俗に変えられるを受けざる者鮮し、尹氏曰く、欲すべし之善自(よ)り、聖にして知るべからず之神に至るは、上下一理なり、拡充して神に至れば、則ち得て名づくべからず、


章番号 26 章通し番号 248

通し番号 975 章内番号 1 章通し番号 248 識別番号 14_26_1
本文
孟子曰く、墨を逃(のが)れば必ず楊に帰す、楊を逃れば必ず儒に帰す、帰すれば斯(すなわ)ち之を受くるのみ、
朱注
墨氏は外を務めて情ならず、楊氏は太(はなは)だ簡にして実に近し、故に其正に反るの漸、大略此如し、帰すれば斯(すなわ)ち之を受くは、其陥溺の久しきを憫(あわ)れみて、其悔悟の新を取るなり、

通し番号 976 章内番号 2 章通し番号 248 識別番号 14_26_2
本文
今の楊墨と弁ずる者は、放豚(とん)を追うが如し、既に其苙(おり)に入る、又(さら)に従(よ)りて之を招(つな)ぐ、
朱注
放豚は、放逸の豕(し)豚なり、苙、闌(らん)なり、招、罥(けん)なり、其足を羈(つな)ぐなり、彼既に来り帰して、又(さら)に其既往を追い咎めるの失を言うなり、○此章は、聖賢の異端に於る、之を距(ふせ)ぐこと甚だ厳しくて、其来り帰するに於て、之を待つこと甚だ恕(じょ)なるを見る、之を距(ふせ)ぐこと厳し、故に人彼(かの)説の邪爲(た)ることを知る、之を待つに恕、故に人此道の反るべきを知る、仁の至り、義の尽すなり、


章番号 27 章通し番号 249

通し番号 977 章内番号 1 章通し番号 249 識別番号 14_27_1
本文
孟子曰く、布(ふ)縷(る)の征、粟米の征、力役の征有り、君子其一を用い、其二を緩(ゆる)くす、其二を用いて民殍(ひょう)有り、其三を用いて父子離る、
朱注
征賦の法、歳に常数有り、然れば布縷(ふる)は之を夏に取り、粟米は之を秋に取り、力役は之を冬に取る、当に各(おのおの)其時以てすべし、若(もし)幷(あわ)せて之を取れば、則ち民力堪えざる所有り、今両税三限の法、亦此意なり、尹氏曰く、民は邦の本爲(た)り、之に取りて度なければ、則ち其国危うしを言う、


章番号 28 章通し番号 250

通し番号 978 章内番号 1 章通し番号 250 識別番号 14_28_1
本文
孟子曰く、諸侯の宝三、土地、人民、政事なり、珠玉を宝とする者は、殃(わざわい)必ず身に及ぶ、
朱注
尹氏曰く、言えらく、其宝を得るを宝とする者は安し、其宝を失うを宝とする者は危し、


章番号 29 章通し番号 251

通し番号 979 章内番号 1 章通し番号 251 識別番号 14_29_1
本文
盆成括(ぼんせいかつ)斉に仕う、孟子曰く、死なん盆成括、盆成括殺さ見(る)、門人問いて曰く、夫子何を以て其将に殺されんとするを知るか、曰く、其人と爲りや小し才有り、未だ君子の大道を聞かざるなり、則ち以て其軀(み)を殺すに足るのみ、
朱注
盆成、姓、括、名なり、才を恃(たの)み妄作する、以て禍を取る所なり、徐氏曰く、君子其常を道(い)うのみ、括死の道有り、設(もし)幸いにして免るを獲せしむるとも、孟子の言猶信なり、


章番号 30 章通し番号 252

通し番号 980 章内番号 1 章通し番号 252 識別番号 14_30_1
本文
孟子滕に之き、上宮に館す、業屨(く)牖上(ゆうじょう)に有り、館人之を求め得ず、
朱注
館、舍なり、上宮、別宮の名なり、業屨(ぎょうく)は、之を織(お)り次業有りて未だ成らざるものなり、蓋し館人作る所、之を牖上(ゆうじょう)に置きて之を失うなり、

通し番号 981 章内番号 2 章通し番号 252 識別番号 14_30_2
本文
或るひと之を問いて曰く、是の若きか従者の廋(かく)すや、曰く、子是れ屨(くつ)を竊(ぬす)む爲に来ると以(おも)えるか、曰く、殆(ほとん)ど非なり、夫子(ふうし)の科を設けるや、往く者追わず、来る者距(こば)まず、苟(もし)是心以て至れば、斯(すなわ)ち之を受けるのみ、
朱注
従、爲、並(みな)去声、与、平声、夫子、字の如し、旧読みて扶余と爲すは非なり、○或るひと之を問うは、孟子に問うなり、廋、匿なり、言えらく、子の従者、乃ち人の物を匿(かく)すこと此如きか、孟子之に答える、而して或る人自ら其失を悟る、因りて言う、此従者固より屨(くつ)を竊(ぬす)む爲に来らず、但(ただ)し夫子は科条を設置し以て学ぶ者を待つ、苟(もし)道に向うの心を以て来れば、則ち之を受けるのみ、夫子と雖も亦其往を保(うけあ)うこと能わざるなり、門人其言聖賢の指に合うこと有るを取る、故に之を記す、


章番号 31 章通し番号 253

通し番号 982 章内番号 1 章通し番号 253 識別番号 14_31_1
本文
孟子曰く、人皆忍びざる所有り、之を其忍ぶ所に達するは、仁なり、人皆爲さざる所有り、之を其爲す所に達するは、義なり、
朱注
惻隠羞悪の心、人皆之有り、故に忍ばず爲さざる所有らざる莫し、此は仁義の端なり、然れども気質の偏、物欲の蔽以て、則ち他事に於て或いは能わざるもの有り、但(ただ)し能くする所を推し、之を能わざる所に達せば、則ち仁義に非ざる無し、

通し番号 983 章内番号 2 章通し番号 253 識別番号 14_31_2
本文
人能く人を害するを欲すること無しの心を充(み)たせば、仁勝(あ)げて用うべからざるなり、人能く穿踰(せんゆ)無しの心を充たせば、義勝げて用うべからざるなり、
朱注
勝、平声、○充、満なり、穿、穴を穿(うが)つ、踰、牆(かき)を踰(こ)える、皆盗を爲すの事なり、能く忍ばざる所を推し、以て忍ぶ所に達せば、則ち能く其人を害するを欲すること無しの心を満たして、仁ならざる無し、能く其爲さざる所を推し、以て爲す所に達せば、則ち能く其穿踰無しの心を満たして、義ならざる無し、

通し番号 984 章内番号 3 章通し番号 253 識別番号 14_31_3
本文
人能く爾汝(じじょ)を受けること無しの実を充たせば、往く所として義と爲さざる無きなり、
朱注
此は上文の穿踰無しの心を充たすの意を申(かさ)ねて説くなり、蓋し爾汝(じじょ)は、人が軽賎する所の称なり、人或いは貪昧(たんまい)隠忍して之を甘受する所のもの有りと雖も、然れども其中心必ず慚忿(ざんふん)して之を受けるを肯(がえん)ぜずの実有り、人能く此に即(つき)て之を推し、其充満し虧欠(きけつ)する所無からしめば、則ち適(ゆ)くとして義に非ざる無し、

通し番号 985 章内番号 4 章通し番号 253 識別番号 14_31_4
本文
士未だ以て言うべからずして言う、是れ言以て之を餂(と)るなり、以て言うべくして言わず、是れ言わざる以て之を餂(と)るなり、是れ皆穿踰の類なり、
朱注
餂、音は忝、○餂(てん)は、之を探り取るなり、今人舌以て物を取るを餂と曰う、即ち此意なり、便佞隠黙は、皆人に探取する意有り、是れ亦穿踰の類なり、然れども其事隠微にして、人忽(ゆるがせ)にし易き所なり、故に特に挙げ以て例を見(しめ)す、必ず穿踰無しの心を推し、以て此に達して悉(ことごと)く之を去り、然る後能く其穿踰無しの心を充すと爲すを明らかにするなり、


章番号 32 章通し番号 254

通し番号 986 章内番号 1 章通し番号 254 識別番号 14_32_1
本文
孟子曰く、言近くして指遠きは、善言なり、守り約にして施(ゆきわた)ること博(ひろ)きは、善道なり、君子の言や、帯を下らずして道存す、
朱注
施、去声、○古人の視、帯より下らざるは、則ち帯の上は、乃ち目の前で常に見え、至近の処(ところ)なり、目前の近き事を挙げて、至理存す、以て言近くして指遠きと爲す所なり、

通し番号 987 章内番号 2 章通し番号 254 識別番号 14_32_2
本文
君子の守り、其身を脩めて天下平かなり、
朱注
此は謂う所の守り約にして施(ゆきわた)ること博(ひろ)きなり、

通し番号 988 章内番号 3 章通し番号 254 識別番号 14_32_3
本文
人其田を舍(す)てて人の田を芸(くさぎ)るを病とす、人に求める所のもの重くして、以て自ら任ずる所のもの軽し、
朱注
舍、音は捨、○此は守り約ならずして、博く施すを務めるの病を言う、


章番号 33 章通し番号 255

通し番号 989 章内番号 1 章通し番号 255 識別番号 14_33_1
本文
孟子曰く、堯舜は、性なるものなり、湯武は、之に反るなり、
朱注
性なるものは、全きを天に得る、汙壊(おかい)する所無し、脩爲を仮らずして、聖の至りなり、之に反る者は、脩爲し以て其性に復し、聖人に至るなり、程子曰く、之を性にす之に反る、古は未だ此語有らず、蓋し孟子自(よ)り之を発す、呂氏曰く、意無くして安んじ行うは、性なるものなり、意有りて行を利して、無意に至るは、性に復するものなり、堯舜は其性を失わず、湯武は善く其性に反る、其功を成すに及べば則ち一なり、

通し番号 990 章内番号 2 章通し番号 255 識別番号 14_33_2
本文
動容周旋して礼に中(あた)る者は、盛德の至りなり、死を哭して哀(かな)しむは、生きる者の爲に非ざるなり、徳を経(つね)とし回(よこし)まならざるは、以て禄を干(もと)めるに非ざるなり、言語必ず信なるは、以て行を正しくするに非ざるなり、
朱注
中、爲、行、並(みな)去声、○細微曲折、礼に中(あた)らざる無し、乃ち其盛徳の至りなり、自然にして中(あた)りて、意が中(あた)るに有るに非ざるなり、経、常なり、回、曲なり、三なるもの亦(ただ)皆自然にして然る、意有りて之を爲すに非ざるなり、皆聖人の事、之を性とするの徳なり、

通し番号 991 章内番号 3 章通し番号 255 識別番号 14_33_3
本文
君子は法を行い、以て命を俟(ま)つのみ、
朱注
法は、天理の当然なるものなり、君子之を行いて、吉凶禍福計らざる所有り、蓋し未だ自然に至らずと雖も、已に爲す所有りて爲すに非ず、此は之に反(かえ)るの事なり、董子謂う所の其義を正し、其利を謀らず、其道を明かにし、其功を計らず、正に此意なり、○程子曰く、動容周旋礼に中るは、盛徳の至り、法を行い以て命を俟つは、朝に道を聞き夕に死すは可の意なり、呂氏曰く、法は此に由り立ち、命は此に由り出るは、聖人なり、法を行い以て命を俟(ま)つは、君子なり、聖人は之を性とし、君子は以て其性に復する所なり、


章番号 34 章通し番号 256

通し番号 992 章内番号 1 章通し番号 256 識別番号 14_34_1
本文
孟子曰く、大人に説くは、則ち之を藐(ちい)さくする、其巍巍(ぎぎ)然を視ることが勿(な)し、
朱注
説、音は税、藐、音は眇、○趙氏曰く、大人は、当時の尊貴の者なり、藐(びょう)は、之を軽んずるなり、巍巍は、富貴が高く顕(あきら)かな貌なり、藐(ばく)焉(えん)として之を畏れざれば、則ち志意舒展、言語尽すを得るなり、

通し番号 993 章内番号 2 章通し番号 256 識別番号 14_34_2
本文
堂の高さが数仞(じん)、榱(たるき)の題が数尺は、我は志を得るとも爲さざるなり、食が前に方丈、侍妾が数百人は、我は志を得るとも爲さざるなり、般楽(はんらく)飲酒し、駆騁(くてい)田猟し、後車が千乗は、我は志を得るも爲さざるなり、彼に在るもの、皆我爲さざる所なり、我に在るもの、皆古の制なり、吾何ぞ彼を畏れんや、
朱注
榱、楚危反、般、音は盤、楽、音は洛、乗、去声、○榱(すい)、桷(かく)なり、題、頭なり、食前に方丈は、饌食(せんしょく)前に列(つら)ねるは、方一丈なり、此皆其謂う所の巍巍然たるものなり、我は志を得ると雖も、爲さざる所有りて、守る所は皆古の聖賢の法なり、則ち彼の巍巍たるもの、何ぞ道(い)うに足らんや、○楊氏曰く、孟子の此章、己の長以て、人の短と方(くら)ぶ、猶此等の気象有り、孔子に在りては則ち此無し、


章番号 35 章通し番号 257

通し番号 994 章内番号 1 章通し番号 257 識別番号 14_35_1
本文
孟子曰く、心を養うは寡欲より善きは莫し、其人と爲りや寡欲なれば、存せざるもの有りと雖も、寡(すくな)し、其人と爲りや多欲なれば、存するもの有りと雖も、寡し、
朱注
欲は、口鼻耳目四支の欲の如し、人の無きこと能わざる所と雖も、然れども多くして節さざれば、未だ其本心を失わざる者有らず、学ぶ者当に深く戒むべき所なり、程子曰く、欲とする所は必ずしも沈溺せず、只向う所有れば便(すなわ)ち是れ欲なり、


章番号 36 章通し番号 258

通し番号 995 章内番号 1 章通し番号 258 識別番号 14_36_1
本文
曽皙(そうせき)は羊棗(ようそう)を嗜(たしな)む、而して曽子は羊棗を食べるを忍びず、
朱注
羊棗(そう)は、実(み)小さく黒くして円(まる)し、又之を羊矢棗と謂う、曽子は父が之を嗜むを以て、父歿(ぼっ)するの後、食べれば必ず親を思(かなし)む、故に食べるを忍びざるなり、

通し番号 996 章内番号 2 章通し番号 258 識別番号 14_36_2
本文
公孫丑問いて曰く、膾(かい)炙(しゃ)と羊棗と孰か美(うま)し、孟子曰く、膾炙かな、公孫丑曰く、然らば則ち曽子何爲(なんすれ)ぞ膾炙を食べて羊棗を食べざる、曰く、膾炙は同じくする所なり、羊棗は独りする所なり、名を諱(い)みて姓を諱(い)まず、姓は同じくする所なり、名は独りする所なり、l
朱注
肉聶(ひ)きて之を切る膾(なます)と爲す、炙、炙(や)いた肉なり、


章番号 37 章通し番号 259

通し番号 997 章内番号 1 章通し番号 259 識別番号 14_37_1
本文
万章問いて曰く、孔子陳に在りて曰く、盍(なん)ぞ帰らざる(来)、吾党の士は狂簡にして、進みて取り、其初を忘れず、孔子陳に在りて、何ぞ魯の狂士を思う、
朱注
盍、何不なり、狂簡は、志大にして事に略を謂う、進みて取るは、高遠を求め望むを謂い、其初めを忘れずは、其旧を改めること能わざるを謂うなり、此語は論語と小し異なる、

通し番号 998 章内番号 2 章通し番号 259 識別番号 14_37_2
本文
孟子曰く、孔子中道を得て之に与(くみ)せざれば、必ずや狂獧(乎)、狂なる者は進みて取り、獧なる者は爲さざる所有るなり、孔子豈中道を欲さざらんや、必ずしも得べからず、故に其次を思うなり、
朱注
獧、音は絹、○不得中道より、有所不爲に至るは、論語に拠(よ)ると亦孔子の言なり、然らば則ち孔子の字の下に、当に曰の字有るべし、論語は道は行に作り、獧は狷に作る、爲さざる所有る者は、恥を知り自ら好(よ)くし、不善を爲さざるの人なり、孔子豈不欲中道以下は、孟子の言なり、

通し番号 999 章内番号 3 章通し番号 259 識別番号 14_37_3
本文
敢えて問う、何如なれば斯(すなわ)ち狂と謂うべし、
朱注
万章問う、

通し番号 1000 章内番号 4 章通し番号 259 識別番号 14_37_4
本文
曰く、琴張、曽皙、牧皮の如き者、孔子の謂う所の狂なり、
朱注
琴張、名牢、字子張、子桑戶死す、琴張は其喪に臨みて歌う、事は荘子に見える、未だ必ずしも尽くは然らずと雖も、要(かなめ)は必ず近似するもの有り、曽皙は前篇に見ゆ、季武子死す、曽皙其門に倚りて歌う、事檀弓(だんぐう)に見える、又志は三子者の撰(せん)に異なると言う、事論語に見ゆ、牧皮、未詳、

通し番号 1001 章内番号 5 章通し番号 259 識別番号 14_37_5
本文
何を以て之を狂と謂うや、
朱注
万章問う、

通し番号 1002 章内番号 6 章通し番号 259 識別番号 14_37_6
本文
曰く、其志嘐嘐然(こうこうぜん)として曰く、古の人、古の人、其行を夷考して、掩(おお)わざるものなり、
朱注
嘐、火交反、行、去声、○嘐嘐(こうこう)は、志が大、言が大なり、古の人を重ねて言うは、其動けば輒(すなわ)ち之を称(い)い、一たび称うのみならずを見(しめ)すなり、夷、平なり、掩、覆なり、平らかに其行を考えれば、則ち其言を覆(おお)うこと能わずを言うなり、程子曰く、曽皙志を言いて、夫子之に与(くみ)す、蓋し聖人の志と同じ、便ち是れ堯舜の気象なり、特(ただ)行掩(おお)わざる有るのみ、此が謂う所の狂なり、

通し番号 1003 章内番号 7 章通し番号 259 識別番号 14_37_7
本文
狂なる者又得べからず、不潔を屑(いさぎよ)しとせざるの士を得て之に与することを欲す、是れ獧(けん)なり、是れ又其次なり、
朱注
此は上文引く所に因り、遂に獧(けん)なる者を得るを思う所以の意を解す、狂、志有る者なり、獧、守有る者るなり、志有る者は能く道に進む、守有る者は其身を失わず、屑、潔なり、

通し番号 1004 章内番号 8 章通し番号 259 識別番号 14_37_8
本文
孔子曰く、我門を過ぎて我室に入らず、我憾(うら)みざる者は、其惟郷原(乎)、郷原は、徳の賊なり、曰く、何如(いかん)すれば斯(すなわ)ち之を郷原と謂うべし、
朱注
郷原は、識有る者に非ず、原は、愿と同じ、荀子は原愨(かく)の字、皆読みて愿(げん)と作す、謹愿の人を謂うなり、故に郷里謂う所の愿人、之を郷原と謂う、孔子以(おも)えらく、其徳に似て徳に非ず、故に以て徳の賊と爲す、門を過ぎ入らずして之を恨みず、其親しく就(つ)くを見ざるを以て幸いと爲す、深く悪(い)みて之を痛く絶つなり、万章又孔子の言を引きて問うなり、

通し番号 1005 章内番号 9 章通し番号 259 識別番号 14_37_9
本文
曰く、何を以て是れ嘐嘐(こうこう)たるや、言は行を顧みず、行は言を顧みず、則ち曰く、古の人、古の人、行何爲(なんすれ)ぞ踽踽(くく)涼涼(りょうりょう)たる、斯(この)世に生まれるや、斯世を爲すなり、善しとせらるれば斯(すなわ)ち可なり、閹然(えんぜん)として世に媚びる者は、是れ郷原なり、
朱注
行、去声、踽、其禹反、閹、音は奄、○踽踽(くく)、独行進まざるの貌、涼涼(りょうりょう)、薄(うす)きなり、人に親厚せられるを見ざるなり、郷原は狂なる者を譏り曰く、何を用て此如く嘐嘐然たる、行其言を掩(おお)わず、而して徒らに事の每に必ず古人を称(ほめ)る邪(か)、又狷(けん)なる者を譏り曰く、何ぞ必ず此如く踽踽(くく)涼涼(りょうりょう)たる、親厚する所無しかな、人既に此世に生まれれば、則ち但(ただ)当に此世の人と爲るべし、当世の人をして皆以て善と爲さしめば、則ち可なり、此が郷原の志なり、閹、奄(えん)人の奄の如し、閉蔵の意なり、媚は、人に悦(よろこ)ばれることを求めるなり、孟子言えらく、此深く自ら閉蔵し、以て世に親媚されるを求める、是れ郷原の行なり、

通し番号 1006 章内番号 10 章通し番号 259 識別番号 14_37_10
本文
万章曰く、一郷皆原人と称(い)う、往く所として原人と爲さざる無し、孔子以て徳の賊と爲す、何ぞや、
朱注
原、亦謹厚の称なり、而るに孔子以て徳の賊と爲す、故に万章之を疑う、

通し番号 1007 章内番号 11 章通し番号 259 識別番号 14_37_11
本文
曰く、之を非(そし)るに挙げること無きなり、之を刺(せめ)るに刺(せめ)ること無きなり、流俗に同じ、汙世に合う、之に居り忠信に似る、之を行い廉潔に似る、衆皆之を悦ぶ、自ら以て是と爲して、与(とも)に堯舜の道に入るべからず、故に曰く、徳の賊なり、
朱注
呂侍講曰く、此等の人は、之を非らんと欲すれば則ち挙げるべきこと無く、之を刺(そし)らんと欲すれば則ち刺(そし)るべきこと無しを言うなり、流俗は、風俗頹靡(たいび)、水の下り流れるが如く、衆然らざる莫きなり、汙、濁なり、忠信に非ずして忠信に似る、廉潔に非ずして廉潔に似る、

通し番号 1008 章内番号 12 章通し番号 259 識別番号 14_37_12
本文
孔子曰く、似て非なるものを悪(い)む、莠(ゆう)を悪むは、其の苗を乱すを恐れるなり、佞を悪むは、其義を乱すを恐れるなり、利口を悪むは、其信を乱すを恐れるなり、鄭声を悪むは、其楽を乱すを恐れるなり、紫を悪むは、其朱を乱すを恐れるなり、郷原を悪むは、其徳を乱すを恐れるなり、
朱注
悪、去声、莠、音は有、○孟子又(さら)に孔子の言を引き以て之を明かにす、莠、苗に似るの草なり、佞、才智の称なり、其言は義に似て義に非ざるなり、利口、多言にして実ならざる者なり、鄭声、淫楽なり、楽、正楽なり、紫、間色、朱、正色なり、郷原は狂ならず獧ならず、人皆以て善と爲す、中道に似ること有りて実は非なり、故に其徳を乱すを恐れる、

通し番号 1009 章内番号 13 章通し番号 259 識別番号 14_37_13
本文
君子は経に反るのみ、経正しければ、則ち庶民興る、庶民興れば、斯(すなわ)ち邪慝(とく)無し、
朱注
反、復なり、経、常なり、万世不易の常道なり、興、善に興起するなり、邪慝、郷原の属の如きは是れなり、世衰え道微(かす)かなり、大経正しからず、故に人人異説を爲し以て其私を済(な)すことを得る、而して邪慝幷(あつま)り起り、勝(あ)げて正すべからず、君子此に於て、亦(ただ)其常道に復するのみ、常道既に復すれば、則ち民善に興る、而して是非明白、回互する所無し、邪慝有ると雖も、以て之を惑わすに足らず、○尹氏曰く、君子夫(その)狂獧を取るは、蓋し狂なる者は志大にして、与(とも)に道に進むべく、獧なる者爲さざる所有りて、与(とも)に爲すこと有るべきを以てなり、郷原を悪みて、之を痛く絶たんと欲す所のものは、其是に似て非、人を惑わすの深きが爲なり、之を絶つの術は他無し、亦(ただ)曰う、経に反るのみ、


章番号 38 章通し番号 260

通し番号 1010 章内番号 1 章通し番号 260 識別番号 14_38_1
本文
孟子曰く、堯舜由り湯に至る、五百有余歳なり、禹、皐陶(こうよう)の若きは、則ち見て之を知る、湯の若きは、則ち聞きて之を知る、
朱注
趙氏曰く、五百歳にして聖人出ず、天道の常なり、然れども亦遅速有り、正(まさ)に五百年なること能わず、故に有余を言うなり、尹氏曰く、知は、其道を知るを謂うなり、

通し番号 1011 章内番号 2 章通し番号 260 識別番号 14_38_2
本文
湯由(よ)り文王に至る、五百有余歳なり、伊尹、萊朱(らいしゅ)の若きは、則ち見て之を知る、文王の若きは、則ち聞きて之を知る、
朱注
趙氏曰く、萊朱(らいしゅ)は、湯の賢臣なり、或るひと曰く、即ち仲虺(ちゅうき)なり、湯の左相と爲る、

通し番号 1012 章内番号 3 章通し番号 260 識別番号 14_38_3
本文
文王由り孔子に至る、五百有余歳、太公望、散宜生(さんぎせい)の若きは、則ち見て之を知る、孔子の若きは、則ち聞きて之を知る、
朱注
散、素亶反、○散は氏、宜生は名、文王の賢臣なり、子貢曰く、文武の道、未だ地に墜(お)ちずして、人に在り、賢者は其大なるものを識る、不賢者は其小なるものを識る、文武の道有らざる莫し、夫子(ふうし)焉(いずく)にか学ばざらん、此は謂う所の聞きて之を知るなり、

通し番号 1013 章内番号 4 章通し番号 260 識別番号 14_38_4
本文
孔子由(よ)り而来(じらい)今に至る、百有余歳なり、聖人の世を去ること、此若く其(それ)未だ遠からざるなり、聖人の居に近きこと、此若く其甚だしきなり、然り而して有ること無ければ(乎)(爾)、則ち亦有ること無し(乎)(爾)、
朱注
林氏曰く、孟子言えらく、孔子は今の時に至るまで未だ遠からず、鄒、魯相去ること又近し、然り而して已に見て之を知る者有ること無ければ、則ち五百余歳の後、又豈復(また)聞きて之を知る者有らんや、愚按ずるに、此言、敢えて自ら已に其伝を得て、後世遂に其伝を失うを憂うと謂わざる若きと雖も、然れども乃ち以て自ら其辞するを得ざるもの有るを見(しめ)し、又以て夫(その)天理民彝(い)、泯滅(びんめつ)すべからずを見(しめ)す所なり、百世の下、必ず将に神に会い心に之を得る者有らんとするのみ、故に篇の終りに於て、羣聖の統を歴序して、之を終えるを此を以てす、以て其伝の在ること有るを明らかにし、又(さら)に以て後聖を無窮に俟(ま)つ所なり、其指深きかな、○有宋の元豊八年、河南(かなん)の程顥(ていこう)伯淳卒す、潞公(ろこう)文彦博(ぶんげんはく)は其墓に題して明道先生と曰う、而して其弟頤(い)正叔は之に序して曰く、周公歿(ぼっ)し、聖人の道行われず、孟軻死し、聖人の学伝わらず、道行われざれば、百世善治無し、学伝わらざれば、千載真儒無し、善治無ければ、士猶以て夫(その)善治の道を明かにし、以て諸を人に淑(よ)くし、以て諸を後に伝えることを得る、真儒無ければ、則ち天下貿貿焉(ぼうぼうえん)として、之(ゆ)く所を知ること莫し、人欲肆(ほしいまま)にして天理滅ぶ、先生千四百年の後に生まれ、不伝の学を遺経に於て得る、斯(この)文を興起するを以て己の任と爲す、異端を弁(ただ)し、邪說を闢(しりぞ)け、聖人の道をして、渙然(かんぜん)と復(また)世に明かならしむ、蓋し孟子自(よ)りの後、一人のみ、然れども学ぶ者道に於て向う所を知らざれば、則ち孰(たれ)か斯人の功爲(た)ることを知らんや、至る所を知らざれば、則ち孰か斯名の情に称(かな)うを知らんや、